米長期金利、ドル円相場、ともに乱高下続く可能性
- MRA外国為替レポート
2023年9月4日号
◆先週の市場総括
先週は米国の経済指標、とくに雇用関連指標の強弱に連れて米長期金利が上下。それに応じてドル円相場も上下動。
米10年債利回りは火曜日に4.25%近辺に上昇したが週後半は4.0%台に低下する場面も多かったが結局は4.1%台後半で引け。
ドル円相場は146円台半ばで始まり一時147円台半ばに上昇したが、週末の弱い米雇用統計を受け急落して一時144円台半ばへ。ただその後の強い指標を受けた米長期金利上昇で146円台前半に戻して引けた。
米国の雇用関連指標は軒並み弱め。JOLT求人数、ADP雇用報告、雇用統計、ともに労働市場の需給緩和を示した。ただISM製造業景気指数や製造業PMIは強め。中国のPMIも予想より強く不安感が後退した。
日経平均は週初に大幅高のあとも続伸が続き5営業日続伸。週末は1ヵ月ぶりの高値、32,700円台を回復して引けた。
月曜日の東京市場では日経平均は大幅反発。前週末の米国株が上昇。パウエル議長の発言を経て注目イベントへの警戒感が緩和。短期筋の買い戻しで先物主導、値がさ株主導で上昇した。
中国で強まる反日機運からインバウンド関連には売り。引けは前週末比+545円高の32,169円。為替市場はアジア時間から欧米市場にかけて終始動意薄。ドル円相場は146円40銭~60銭で横ばい上下動。
米国市場ではダラス連銀製造業活動指数(8月)が▲17.2と前月▲20.0から改善したことで一時70銭台に上昇したが、その後、米長期金利が低下したことで146円40銭台に押し戻されて引け。
ユーロ円相場は158円ちょうどで始まり20銭~40銭でもみ合い。欧米市場では20銭~50銭で上下し引けは158円50銭。ユーロドル相場は1.08ちょうど近辺で始まり夕刻に1.0820に小幅高。その後は1.08ちょうど~1.0820で上下し引けは1.0820。
米長期金利は上昇一服。前週末のパウエル議長発言では、金融引き締め継続姿勢も政策判断には踏み込まず、追加利上げへの過度な警戒が和らいだ。
10年債は4.202%へ、2年債は5.052%へ低下。米国株はイベント通過、長期金利上昇一服を好感して上昇。
NYダウは前週末比+213ドル高の34,559ドル。ナスダックは+114ドル高の13,705ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。米国株高を受けて朝方は+200円ほど上昇した。イベント通過で引き続き短期筋の買い戻しが続いた。ただ買い一巡後は利益確定売りで伸び悩み。週末の雇用統計を控え手控え感が強かった。引けは前日比+56円高の32,226円。
ドル円相場は146円40銭中心に小動きもみ合い。ユーロ円相場は158円50銭近辺でもみ合い、夕刻は60銭に上昇後、20銭~50銭で上下。ユーロドル相場は1.0820で始まり1.0830へ緩やかに上昇。
欧州市場から米国市場朝方にかけては大きく円安が進んだ。あらためて日銀の超金融緩和継続を材料に円売りが活発化。ドル円相場は147円40銭へ、ユーロ円相場は159円ちょうどへ上昇した。
しかしその後は米国の弱い経済指標、米長期金利の低下を受けてドルが急落。ドル円相場は145円70銭~80銭で推移し80銭台で引け。
ユーロドル相場は1.0780から1.0890へ上昇し1.0880で引け。ユーロ円相場はドル円相場の下落に押されて158円40銭に下落し引けは70銭。
発表された米国のJOLT(米雇用動態調査)求人者数(7月)は8,827千人と2年振りの低水準。前月も9,582千人から9,165千人に大幅下方修正となった。求人数の減少基調が明確となり雇用逼迫の緩和を確認。
消費者信頼感指数(8月)も前月117.0から106.1へ大きく悪化した。追加利上げ観測が後退して米長期金利は低下。来年前半の利下げも取り沙汰されるなどし、10年債は一時4.248%をつけていたが4.117%へ。2年債は4.904%へ低下して5%を割り込んだ。
米国株は堅調。金融引き締め観測の後退が支えとなった。NYダウは前日比+292ドル高の34,852ドル、ナスダックは+238ドル高の13,943ドル。ドル円デックスは104ポイント近辺から103.50割れへ下落した。
水曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。前日の米国株の堅調を受けて朝方は+300円高。ただ買い一巡後は重要指標の発表を控えて戻り売りに押された。引けは前日比+106円高の32,333円。
ドル円相場は145円80銭台で始まり夕刻にかけて上昇基調が続き146円50銭近辺へ。欧州市場では30銭~40銭で指標発表待ち。
注目の米国ADP雇用報告(8月)は雇用者数前月比が+177千人と前月+324千人から大きく伸びが鈍化して予想+200千人を下回った。
GDP(4-6月期改定値)は速報の+2.4%から+2.1%へ予想外の下方修正。これを受けて米長期金利が低下しドルを下押した。
ドル円相場は145円60銭に下落。ただその後長期金利が持ち直し146円30銭~20銭で引け。欧州での金融引き締め継続観測が米長期金利を支えた。米10年債利回りは4.08%台に低下したあと4.11%で引け。2年債は4.836%に低下した後4.88%。
ユーロ円相場は158円70銭で始まり欧州市場から米国市場にかけて一貫して上昇し159円80銭で引けた。
ドイツCPI(8月)が+6.1%と前月+6.2%から上昇鈍化したものの高止まり。利上げ継続観測が強まった。
日欧金融政策格差をあらためて材料としてユーロ高円安が進んだ。ユーロドル相場は東京市場では1.0880で始まり夕刻は60~70。その後米国市場では1.0950へ上昇し引けは1.0920。ドルインデックスは103.18に続落。
米国株は小幅高。弱い経済指標を受けて追加利上げ観測が後退、長期金利が低下したことを好感してハイテク株中心に買い。買い一巡後は利益確定売りに上値を抑えられた。NYダウは前日比+37ドル高の34,890ドル、ナスダックは+75ドル高の14,019ドル。
木曜日の東京市場では日経平均が4営業日続伸。米長期金利が低下、米国株がハイテク株中心にしっかりだったこと、中国の経済指標がさほど悪くなかったこと、から全般的に買われた。引けは前日比+285円高の32,619円。
発表された中国のPMI景況感指数(8月)は製造業が前月49.3から49.7へ小幅改善、非製造業が51.5から51.0へ小幅悪化にとどまった。
ドル円相場は146円20銭で始まり昼前に145円80銭近辺に下落。その後夕刻にかけては145円90銭~146円ちょうどでもみ合い。ユーロ円相場は159円70銭で始まり下落して20銭~40銭で上下。夕刻、欧州市場に入ったあと米国市場にかけてユーロは大きく下落。
発表されたユーロ圏消費者物価指数(8月)は、総合指数は前年同月比+5.3%で変わらず、コア指数は+5.5%から+5.3%に低下した。
その後公表されたECB理事会議事要旨では、スタッフ予想では9月に利上げを実施する必要はないとの見解が示された。またスタグフレーション懸念も浮上。ユーロ円相場は158円40銭~60銭へ、さらに米国時間には157円60銭まで下落した。
ドル円相場は強めの経済指標に146円20銭に上昇したが、アトランタ連銀総裁の発言を受けて145円50銭に下落し引けも同水準となった。総裁は、すでに金利水準は十分引き締め的、9月の金利据え置きを示唆した。
ユーロドル相場は東京市場では1.0920ではじまり40に上昇したあと20近辺に押し戻されて軟調。欧州時間に入ると大きく下落して1.0860~80で上下動。米国市場ではさらに1.0830台へ下落し引けは1.0840近辺。
米国株はまちまち。利上げ打ち止め観測は支えとなったが雇用統計前に利益確定売りが嵩んだ。NYダウは前日比▲168ドル安の34,721ドル。ナスダックは+15ドル高の14,034ドル。
週次の失業保険新規申請件数は前週230千件からやや減少して238千件。継続受給者数はやや増加して1,725千件。
個人所得・消費支出(7月)は前月比+0.2%・+0.8%と所得の伸びは前月+0.3%からやや鈍化、消費の伸びは+0.5%から加速した。消費支出物価指数はコア指数が前月+4.1%から+4.2%へ上昇がやや加速。
シカゴ購買部協会景気指数(8月)は前月42.8から48.7へ予想を上回り改善した。米長期金利は小幅低下。米10年債は4.108%、2年債は4.867%。
金曜日の東京市場では日経平均が5営業日続伸。8月1日以来およそ1ヵ月ぶりの高値で引けた。
朝方は前日の米国株安で軟調に始まったが、中国の経済指標がまずまずで不安感が緩和。海外短期筋が先物中心に買いを入れ一時+200円高。ただ雇用統計発表を控え上値追いも限定的。引けは+91円高の32,710円。
ドル円相場は145円50銭で始まり朝方は70銭に上昇、20銭台に下落と上下。その後夕刻にかけてじり高となり145円60銭近辺に戻して40銭~50銭で上下。
ユーロ円相場は157円80銭中心に方向感なく小動き上下動。夕刻から欧州市場は157円80銭~90銭。ユーロドル相場は1.0840~50で小動きのあと欧州市場に入ると1.0830~60で上下。
注目の米雇用統計(8月)は予想以上に弱い数字となりドルが下落した。米国の雇用統計(8月)は非農業部門雇用者数前月比が+179千人と予想+170千人よりやや多かったが、7月分が+187千人から+155千人へ、6月分が+185千人から+128千人へ、それぞれ大幅に下方修正。
失業率が前月3.5%から3.8%へ想定外の大幅上昇。平均時給の上昇率は前月比+0.2%と前月+0.4%から予想+0.3%を下回って鈍化した。これを受けて米長期金利は低下。10年債利回りは4.074%へ。ドル円相場は144円40銭台に急落。ユーロドル相場は1.0880へ上昇。
しかしその後の米経済指標が強く長期金利が急反発。10年債は4.182%へ。ドルも急反発。ドル円相場は146円30銭に上昇して引けは146円20銭近辺。ユーロドル相場は大幅に下落して1.0770台で引け。ドルインデックスは104.26へ上昇。
ユーロ円相場は雇用統計を受けてドル安円高に押されて157円10銭割れとなったが、その後のドル円相場の反発で157円80銭台に戻した。引けは157円60銭近辺。
ISM製造業景気指数(8月)は前月46.4から47.6へ予想47.0を上回って改善。雇用指数が前月44.4から48.5へ、価格指数が42.6から48.4へ上昇し、粘着的なインフレ圧力を示した。また製造業PMI(8月)が速報47.0から47.9へ上方修正された。
クリーブランド連銀総裁は、労働市場の需給は均衡してきたが依然として強い、インフレは高すぎる、と述べた。
米国株はまちまち。朝方は弱い雇用統計を受け過度な引き締め懸念が後退し上昇したが、その後の強い経済指標や連銀総裁のタカ派発言を受けて長期金利が上昇すると伸び悩み。
NYダウは前日比+115ドル高の34,837ドル、ナスダックは▲3ドル安の14,031ドルで取引を終えた。VIX 指数は13.09と低水準を継続。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
引き続きドルは米景気指標、とくに悪い数字に反応しやすい。
今週は非製造業、サービス業の指標に注目。火曜日に製造業新規受注(7月)、水曜日にISM非製造業景気指数(8月、予想 52.4、前月 52.7)、サービス業PMI(8月、予想 51.0 改定値 51.0)、木曜日に週次の失業保険申請件数、が発表される。
2.ベージュブック(米地区連銀経済報告)
水曜日にベージュブックが公表される。9月のFOMCでの政策判断における景気物価動向の基礎資料。景気減速、インフレ鈍化、双方について、各連銀がどのような判断をしているか。追加利上げの必要性を示唆するか、あるいは、様子見が望ましいとの見方につながるか。
とくに年内あと1回の利上げを五分五分で織り込むなか、有無のいずれに見方が傾くか。米長期金利の動向を左右し、またドルの動向に影響を与えることから注目される。
3.中国の経済指標
中国景気への不安感が燻るなか、火曜日に民間調査の財新サービス業PMI(8月、前月54.1)が発表される。
木曜日には貿易統計(8月)が発表となる。中国の経済指標のなかではもっとも信頼度が高いとされる。海外景気の減速は輸出の悪化を、内需低迷は輸入の悪化を示すがどうか。前月の数字は、輸出は前年同月比▲14.5%、輸入は▲12.4%だった。
ほか、金曜日に日本の国際収支(7月)、景気ウォッチャー調査(8月)が発表となる。
◆今週のMRA's Eye
米長期金利、ドル円相場、ともに乱高下続く可能性
先週のドル円相場は総じて上値が重い展開のなか、米国の経済指標の強弱、米長期金利の上下動に連れて144円~147円台で乱高下した。
雇用関連指標は総じて弱い数字となり雇用市場の需給緩和を示した。インフレ鈍化が続いているものの、最近のインフレ率低下は鈍く水準はなお目標に比べて高いまま。製造業の景況感の回復や過度な中国経済への懸念が後退。やや長めのドル金利観が上下に振れた。
FRB当局者の発言はなおも総じてタカ派的だが、追加利上げの必要性については意見が割れている。
フィラデルフィア連銀、NY連銀、アトランタ連銀、などの総裁からは、金利は引き締め的で利上げはすでに十分、との認識が示され、利上げ打ち止めを示唆。
一方で、なおもインフレは高すぎ、まだやることがある、と追加利上げを示唆する総裁も。
パウエル議長はインフレ警戒感を示しつつも慎重に判断する、と述べ、政策判断を留保している。
ただ共通しているのは、早期利下げの可能性は低い、との認識だ。追加利上げを実施するか、見送るか、いずれにしても利上げはあと1回あるいかないか。その後は粘り強く、高い政策金利水準を維持して景気悪化・インフレ鈍化のさらなる効果浸透を待つとのスタンスだ。
米国の労働市場の需給はひっ迫している、といわれてきたが、雇用関連指標はここにきて市場の予想よりも弱い数字が散見される。需給緩和傾向は明確となってきた。
製造業の景況感は悪化が一服。持ち直しの気配もみられる。一方でサービス業の景況感悪化は続いている。
景気全体が持ち直す材料は、製造業の在庫調整一巡、中国の景気回復があればその波及効果ぐらいか。在庫調整一巡による自律回復は、肝心の需要が減退していれば持続性や力強さは欠くとみられる。
中国の景況感指数には回復もみられたが、不動産市況の悪化が簡単に解決するとは想定できず、政策対応によって何とか悪化に歯止めがかかる程度。景気に好影響を与えるというポジティブな方向に向かう可能性は低い。
その結果、米国内でこのまま引き締め効果が浸透し景気後退に陥る確率は高いだろう。市場の関心事は、あらためて米国景気後退の深度、利下げ開始のタイミングや利下げのペースに移ってきた。
その論定を巡る市場の思惑は経済指標の強弱で揺れ動き、米長期金利を大きく上下動している。米国経済の見方は割れ、政策金利見通しも追加利上げ・金利高止まり長期化から、利上げ打ち止め・来年前半にも利下げ開始との見方まで振れ幅がある。
インフレ再燃を回避するためには実質金利を高止まりさせ景気引き締め効果を維持する必要がある。
ただ景気悪化、雇用情勢緩和が続くなか、インフレ鈍化による実質金利の上昇、景気引き締め効果の増加が過度な景気抑制とならないよう、インフレ鈍化に応じた調整的な利下げはありうるだろ。
景気浮揚ではなく景気悪化を回避する程度の利下げ、アクセルを踏み直すのではなくブレーキを緩める程度の政策金利の調整、は想定されよう。9月のFOMCで示される政策金利予測が注目される。市場の見方が上下に振れる余地が当面大きい。
米国の経済指標に敏感に反応するドル金利観の上下動がドル円相場を不安定にしている。これを為替需給まで掘り下げて考えれば、市場の思惑、投機的な売買が主導となっているため、ここまでドル金利動向に敏感に反応している可能性が大きい。
投資家の資金流出入が、目先の米長期金利の上下動にここまで敏感に反応して増減することはない。
ドル金利動向とドル円相場は相応に相関関係を維持しているが、それも金利動向に応じた投機的な売買が自己実現的に相関関係を強めている可能性もある。
昨年秋にかけて大きくドル高円安が進んだ局面と比較すれば、ベースラインの為替需給が大きく異なっている。昨年は毎月2兆円以上の貿易赤字が続き、インバウンドも停止していたため旅行収支はトントン。総じて大幅な円売り超過となっていた。
しかし足元では貿易収支が黒字になる月も散見され、総じて貿易収支はトントンから5,000億円以下の赤字に留まっている。これはコロナ前の状況に回帰した。
さらにインバウンド再開で旅行収支は3,000億円程度の黒字に回復した。円を巡るベースラインの需給は大きく改善している。
この面からは円安が進行する状況にない。それでもドル高円安が足元で進んでいるのは、消去法的に考えれば、とくにドル金利観の変化・米長期金利の上下動を材料にした投機的な売買が主導しているということになる。
なおも米経済が底固く、ドル金利先安観が強まらなければ、ドル円相場は高止まりする可能性がある。ただ円サイドの要因、とくに対外収支による為替需給でさらに円安が進む状況ではない。
その結果、米経済指標の強弱によって大きく乱高下する状況は続きそうだ。
年末から来年に向けて、米景気悪化、ドル金利先安観が強まる可能性を踏まえれば、リスクはドル安円高サイド。ただ大幅なドル安円高は想定しにくいというのがメインシナリオ。
短期リスクは上下双方。ドル高円安に振れる可能性は、足元のドル高円安や資源価格の持ち直し続き、タイムラグをもって日本の収支悪化に持続的に現れる可能性。
この場合は米金利高止まり見通しと日本の収支悪化の双方からドル高円安圧力がかかる。
逆にドル安円高リスクは、投機的な円売りドル買いの積み上がり。金利差がポジション保有のリスクを緩和するクッションとなり、手仕舞いは一時的になりそうだが、ポジションが大きいだけにインパクトはありそうだ。
景気悪化見通しや中国景気への不安、株価調整などが、引き鉄となりうる。さらにドル金利先安観が明確となれば、ドル買いポジションを圧縮したままとなる可能性がある。
その場合はドル安円高方向に水準調整したままとなる。9月FOMCから10月~12月期は波乱の相場展開が続きそうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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