足元で強まるドル独歩高~米金利高止まり・リスク回避でドル底固い
- MRA外国為替レポート
2023年8月28日号
◆先週の市場総括
先週はドルが底固い値動き。週末のパウエル議長発言がタカ派的になるとの警戒感、金利高止まり長期化観測が強まるなか米長期金利はなおも上昇基調。週央には発表されたPMI景況感指数(8月)が弱い数字となったことで景気減速懸念が強まり、一時長期金利を下押した。
しかし労働市場は堅調との指標が支えとなり長期金利は持ち直し。週末のパウエル議長の発言は、適切なら追加利上げの用意がある、としたことで、タカ派的との見方が強まった。
米金利高止まり長期化観測を背景に2年債は概ね5%台で推移。10年債は4.23%。
ドル円相場は一時144円台に下落する場面もあったが145円台中心の値動き。週末は146円台半ばに上昇して取引を終えた。
ユーロドル相場も1.08台後半から1.07台後半に下落。ユーロ円相場は158円で週初と変わらず。米国株は金融引き締め長期化観測から上値重く推移。
日経平均は週末に大きく下落して31,600円台で引けた。
月曜日の東京市場では日経平均は4営業日ぶりに反発。前週末に米長期金利上昇が一服。株価が落ち着いて推移したことで底固かった。大幅安のあとで自律反発狙いの買いも支え。ただアジア株が軟調に推移し上値も重かった。
中国金融当局はこの日も金融緩和、実質的な利下げに動いたが0.1%と小幅だったことから影響は軽微だった。引けは前週末比+114円高の31,565円。
ドル円相場は145円40銭で始まり朝方20銭~60銭で上下したがその後は40銭近辺でもみ合い。ユーロ円相場は158円ちょうどで始まり157円80銭~158円40銭で上下して20銭近辺でもみ合い。
ユーロドル相場は動意薄。1.0880近辺で小動き横ばい。夕刻から欧州市場に入ると大きく円安が進んだ。ドル円相場は145円90銭台に上昇し、米国市場では146円40銭まで上昇。
ユーロ円相場は159円20銭まで円安が進んだ。ユーロドル相場は1.0910に上昇したあと1.0880に反落。米長期金利の上昇を受けてドルが堅調。10年債利回りは一時4.35%をつけ引けは4.34%。昨年のピークを越える動き。2年債は5.00%台に乗せて引けた。
今週予定されているパウエル議長発言がタカ派的になるとの警戒感が強まり長期金利を押し上げた。
ドル円相場はその後上昇一服、引けにかけては146円20銭近辺で上下。ユーロ円相場は159円20銭~40銭で上下し引けは30銭近辺。ユーロドル相場は1.09ちょうど近辺でもみ合い引けた。
米国株はまちまち。金融引き締め長期化観測、パウエル議長のタカ派発言への警戒、長期金利上昇は重石となりNYダウは前週末比▲36ドル安の34,463ドル。一時は▲200ドル下落も持ち直した。
長期金利上昇にもかかわらず米ハイテク株は業績を材料に上昇。ナスダックは+206ドル高の13,497ドルで引けた。
火曜日の東京市場では日経平均が続伸。一時+340円高。前日に米ハイテク株が堅調、円安も支えとなった。前週に大きく下落したあとで自律反発狙いの買いが入った。引けは+291円高の31,856円。
昼頃に植田日銀総裁が岸田首相と会談と報じられたが株価の反応は鈍かった。
ドル円相場は146円20銭で始まり40銭に上昇したが午後にかけては下落。植田・岸田会談の報を受けて円高に振れ145円80銭台に下落。東証引け頃は146円10銭近辺に戻したが欧州市場にかけては145円50銭近辺まで下落した。
米国市場では146円10銭に反発したが上値重く、145円80銭~90銭近辺でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は159円20銭~40銭で横ばい上下動。その後欧州市場から米国市場にかけては一貫してユーロ安円高基調となり158円20銭で引け。
ユーロドル相場は1.09近辺で始まりアジア時間には夕刻にかけて緩やかに1.0930に上昇。しかし欧米市場では下落して1.0830割れ。引けは1.0850。総じてユーロ円相場の下落が際立った。
米10年債利回りはアジア時間に4.36%をつけたが米国市場では4.33%で引け前日と概ね同水準。2年債は5.052%にやや上昇。
米国株はまちまち。大手格付け会社が地銀5行を格下げしたことで金融株全般が軟調。メーシーズ社の決算が不芳で大幅安となり消費関連全般が売られた。ハイテクは底固い値動き。NYダウは前日比▲174ドル安、ナスダックは+8ドル高の13,505ドル。
発表された中古住宅販売(7月)は季節調整済み年率換算で407万戸と前月416万戸から減少して6か月ぶり低水準。
リッチモンド連銀製造業指数(8月)は前月▲9から▲7に小幅改善。フィラデルフィア連銀非製造業活動指数(8月)は前月1.4からマイナス13.1に大きく悪化した。
リッチモンド連銀総裁は、インフレ高止まりなら追加利上げが必要、と述べた。
水曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。8月15日以来の32,000円回復。寄付き直後は▲100円超下落したが持ち直し。32,000円割れでは押し目買いが優勢だった。引けは前日比+153円高の32,010円。
発表された日経PMI景況感指数(8月)は製造業が前月49.6から49.7とほぼ変わらず。サービス業が53.8から54.3に改善した。
ドル円相場は145円80銭~90銭で始まり午後は60銭~70銭にややレンジを切り下げてもみ合い。ユーロ円相場は158円20銭から158円ちょうどに下落したあと夕刻には30銭に戻した。
ユーロドル相場は1.0850で始まり緩やかに上昇し夕刻は1.0870。欧州市場に入ると欧州の弱い経済指標を受けてユーロ安、円高に振れた。
発表されたPMI景況感指数(8月)はユーロ圏製造業が前月42.7から43.7へ改善したものの、サービス業が50.9から48.3へ悪化、総合指数も48.6から47.0へ悪化した。
ドイツ製造業は38.8から39.7へ改善したが、サービス業は52.3から47.3へ大きく悪化、総合指数も48.5から44.7に悪化した。
ユーロ円相場は157円30銭へ、ユーロドル相場は1.0810へ下落。ドル円相場も145円30銭に下落した。その後、米国市場にかけては145円30銭~60銭で上下。しかし米国の経済指標も弱く今度はドル安に振れた。
米国のPMI景況感指数(8月)は製造業が前月の49.0から47.0へ、サービス業が52.3から51.0へ、総合指数は52.0から47.0へ悪化して2年9か月ぶりの低水準。これを受けて米長期金利は低下。10年債利回りは4.193%へ、2年債は4.973%へ低下して5%割れ。ドルを押し下げた。
ドル円相場は144円60銭~70銭でもみ合い、その後はやや持ち直し144円80銭近辺で引け。ユーロドル相場は1.0860~70に反発。ユーロ円相場はドル円相場の下落に連れて156円90銭に下落したあと157円30銭で引け。
米国株は上昇。長期金利上昇一服を好感、エヌビディア社の業績期待でハイテク中心に堅調。ナスダックは+215ドル高の13,721ドル、NYダウは+184ドル高の34,472ドルで引けた。
木曜日の東京市場では日経平均が4営業日続伸。前日の米国株がハイテク中心に堅調。アジア株のしっかりで、半導体関連が買われた。一方、ドル安円高は自動車など輸出関連の重石。引けは+276円高の32,287円。
ドル円相場は144円80銭で始まり朝方60銭に下落したあと145円ちょうど近辺でもみ合い。夕刻には145円ちょうど~20銭で推移した。ユーロ円相場は157円30銭で始まり10銭に下落したあと午後には157円90銭まで反発。
ユーロドル相場は1.0860~70でもみ合い、小動き動意薄。この日から始まるジャクソンホールシンポジウムでのパウエル議長の発言、タカ派スタンスへの警戒感が根強かった。
欧米市場ではドル円相場は146円目前まで上昇。その後145円40銭台に反落したが持ち直し引けは145円80銭~90銭。
フィラデルフィア連銀総裁が、利上げやバランスシート縮小で信用逼迫しており現状で利上げは十分、と発言。NY連銀総裁も引き締めは十分との認識を示している。
一方でボストン連銀総裁は、インフレ目標達成には辛抱強く断固とした姿勢が必要、と述べた。
これを受けてドル円相場は上下動。米長期金利上昇がドルを支えた。
ユーロドル相場は1.0810へ下落したあと1.08台前半で上下し引けにかけては軟調で1.0810。ユーロ円相場は157円40銭に下落したあとは157円80銭~158円ちょうどで推移し引けは157円70銭とやや上値の重い値動き。
発表された週次の失業保険新規申請件数は230千件と前週239千件からやや減少し労働市場の堅調さを示した。米10年債利回りは4.243%へ上昇。2年債は5.023%へ上昇し5%台を回復。ドルインデックスは104ポイント目前に上昇。
米国株は大幅下落。長期金利上昇やパウエル議長のタカ派発言を警戒し、ハイテク中心に下落した。ナスダックは▲257ドル安の13,463ドル、NYダウは▲373ドル安の34,099ドルで引けた。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。下げ幅は今年2番目の大きさとなった。前日の米国株がハイテク中心に下落。金融引き締め長期化観測が重石となり、半導体関連を中心に売られた。
アジア株が軟調となったのも心理を悪化。引けは前日比▲662円安の31,624円。
ドル円相場は145円90銭で始まり146円20銭に上昇。その後は146円を挟んで145円90銭~146円20銭で欧米市場にかけて横ばい上下動。パウエル議長の発言待ち。
ユーロ円相場は157円60銭~80銭で上下したあと40銭~50銭にレンジを切り下げ。欧州市場にかけて157円20銭に下落したが、欧米市場では右肩上がりとなった。
ユーロドル相場は1.0810で始まり1.0780へじり安。欧州から米国市場にかけては1.0820へ持ち直した。
発表された東京都区部の消費者物価指数(8月)はコア指数が前年同月比+2.8%と前月+3.0%から上昇率が鈍化。
欧州のIFO企業景況感指数(8月)は前月87.4から85.7へ想定以上に悪化した。注目のジャクソンホール年次シンポジウムでパウエル議長は、インフレは高すぎるまま、インフレ抑制にはまだ長い道のり、適切なら追加利上げの用意がある、今後の政策判断は慎重に進める、と述べた。
米10年債利回りは一時4.28%に上昇したが押し戻されて4.23%。2年債は5.08%に上昇。
市場はドル高に反応。ドル円相場は一瞬145円80銭に下落したが反発して146円60銭に上昇。引けは40銭近辺。ユーロドル相場は1.0770へ下落し引けは1.0790。
ユーロ円相場は158円20銭まで上昇したあと引けは158円ちょうどで引けた。
米国株は発言後に下落したが、利上げサイクルは終わりに近いとの見方から持ち直し。NYダウは前日比+247ドル高の34,346ドル。ナスダックは+126ドル高の13,590ドル。
パウエル議長の発言はタカ派的との見方があったものの、概ね想定内との見方も。シカゴ連銀総裁は、今の状況が続くなら金利をいつまで今の水準に保つべきかの議論になる、として引き締めプロセスが終わった可能性を示唆した。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
米国では政策金利高止まり観測が強まっている。9月のFOMCを前に一連の重要指標が注目される。
月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(8月、予想▲21.6、前月▲20.0)
火曜日 ケースシラー住宅価格指数(6月、前年同月比、予想▲1.7%、前月▲1.7%) JOLT求人数(7月、前月9,582千人) 消費者信頼感指数(8月、予想116.4、前月117.0)
水曜日 ADP雇用報告(8月、雇用者数前月比、予想+198千人、前月+324千人) GDP(4-6月期改定値)
木曜日 米週間新規失業保険申請件数 個人所得・消費支出(7月、前月比、予想+0.3%・+0.7%、前月+0.3%・+0.5%) 消費支出価格指数(同、前年同月比、予想+3.3%、前月+3.0%、コア指数、予想+4.2%、前月+4.1%) 雇用統計(8月、非農業部門雇用者数前月比、予想+168千人、前月+187千人、失業率、3.5%で前月比不変予想、平均時給、前年同月比、予想+4.3%、前月+4.4%) ISM製造業景気指数(8月、予想47.0、前月46.4)
2. ECB理事会議事要旨、消費者物価指数
木曜日に7月のECB理事会議事要旨が公表される。同会合では利上げが実施されたものの、ラガルド総裁は次回9月の利上げについて、オープンとのスタンスを示した。
市場は9月利上げを確実視していたため、想定外のハト派スタンスと受け止められた。その後ユーロ高は一服し、とくに対ドルで軟調に推移している。
背景にあるのは景気懸念の強まり。同会合の時点でどの程度景気懸念が強まっていたか。
9月の利上げ観測が後退するなか、木曜日に発表されるユーロ圏消費者物価指数(8月)が注目される。前年同月比、予想+5.1%、前月+5.3%。コア指数は予想+5.3%、前月+5.5%。
3.中国の経済指標
中国景気への不安が強まるなか、PMI景況感指数の強弱は市場のリスク選好・回避に影響を与える点で注目される。
木曜日に製造業PMI(8月)、予想49.1、前月49.3、非製造業、前月51.5、が発表される。また金曜日に民間ベースの財新製造業PMI(8月、予想49.2、前月49.2)が発表される。
◆今週のMRA's Eye
足元で強まるドル独歩高~米金利高止まり・リスク回避でドル底固い
先週、ドル円相場は146円台後半まで上昇し、年初来高値を更新した。146円を超える水準では日本の通貨当局が円安牽制の姿勢を示してきたが、明確な介入姿勢は伺われず、今のところ漠たる警戒感にとどまっている。
足元のドル高円安の背景が円安ではなくドル高である点が当局の手詰まり感を連想させ、投機的なドル買い円売りに安心感をもたらしているとみられる。
ドルインデックスは8月初旬には102ポイント台そこそこで推移していたが、先週末には104ポイントへ上昇した。
ドル高、とくにドルインデックス上昇の裏側にはユーロの下落がある。欧州では景気悪化懸念が強まっており、ECBの金融引き締め姿勢が揺らいでいることが背景だ。
7月の会合で次回9月の会合での利上げの有無をオープンとして明確な利上げ姿勢を示さなかったことから、ユーロ金利先高感が緩和し始めた。インフレ率は鈍化しているもののペースは緩慢でなお5%台にとどまる。
7月までは、欧州ではインフレ率が政策金利を大きく上回っており、利上げ余地が大きいとの見方が市場の大勢だった。米国ではすでにインフレ率は政策金利を下回っているのと対照的。
ECBはFRBに遅れて利上げを開始し、利上げペースも緩慢だったことで、利上げ打ち止めはFRBよりも遅くなるとの見方が自然。その間、欧米金利差が縮小し、これがユーロ高ドル安につながるとの見方となっていた。
しかし、この見方が足元で修正を余儀なくされた。
ラガルド総裁をはじめECB当局者からは欧州の景気を懸念する声が散見されるようになった。国内消費は根強いインフレのため不調。加えて中国景気の悪化、低迷が、外需、製造業部門から欧州経済の見通しに不安を投げかけている。
欧州景気不安がインフレ懸念を上回り、金融引き締めを躊躇させるとの見方が台頭している。現時点で9月の利上げは不透明、ないし利上げ見送り、との見方が強まっている。
米国では9月の利上げは微妙だが、11月会合での利上げの可能性は半々程度織り込まれている。さらに利上げ打ち止めでも金利高止まりが来年後半まで続くとの見方も台頭。これが米長期金利の水準訂正、10年債利回りや2年債利回りの上昇をもたらした。
年末から来年にかけての欧米の金利見通し、金融政策格差は、欧州優位から米国優位に変化。これがユーロ安ドル高をもたらしている。
欧州景気悪化観測の台頭、中国経済への不安感、は全般的なリスク回避要因となる。一方、米国景気がなおも底固さを示し、雇用情勢が堅調を維持していることは、一定の安心感をもたらしている。
リスク回避の際に投資家の資金が回帰しやすいのがドルキャッシュだ。しかも現在は先進各国のなかでドルの短期金利が最も高い。様々な金融資産、とくにリスク資産に逆風が強まるなか、安全資産としてのドルキャッシュに資金が回帰し、ドル独歩高になりやすい環境となっている。
ドル高円安の進行はこうした流れのなかで生じており、円独歩安ではなくドル独歩高が主因だ。ユーロ円相場は先週、概ね横ばいで推移している。
日本の状況はさほど悪くない。
景気は欧州に比べ良好で先行き不安は少ない。インフレ進行も欧州のように消費を過度に抑制するほどではない。ファンダメンタルズからは円がさほど売られる状況ではない。
貿易収支はなお赤字だが、収支トントン近辺まで改善しており円売り圧力は弱い。円安の主要因は超金融緩和の継続のみとなった。
内外金融政策格差を材料とする投機的な円売りが主体とみてよいだろう。ユーロと円は均衡、いずれもドルに対して軟調ではあるが、その背景は異なっている。
円高に振れるとすれば、短期的には、リスク回避の強まり、投機的な円売りの解消だろう。
米国景気が底固いとはいえ、グローバルな景気不安が強まるなか、米政策金利および長期金利の高止まりが続けば、リスク資産価格への逆風、株価調整となれば、ポジション手仕舞いを誘発し円買い戻し、円高が生じる可能性がある。
ただこの場合の円高は、あくまでも投機的な円売りの買い戻しの範囲内。米国経済や米国金融市場に異変が生じていない限り、積極的に円に逃避することはなく、限定的だ。
中期的に円高に振れるとすれば、こうした状況のなかで米国経済の先行きに不安感が生じた場合、景気悪化懸念が強まった場合。
リスク回避的な環境のなかで米国ひとり勝ちとはならず、米国も共倒れ、ドル金利先安感が台頭すればドル独歩高は崩れるだろう。
過度に売られている円は買い戻され、中期的にドル安円高方向へ水準修正される可能性が高い。年内はなお粘り腰をみせるかもしれないが、来年初にはその可能性が高まるとみられ留意を要する。
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