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中国懸念と米長期金利上昇の併存~リスク回避と円相場
  • MRA外国為替レポート

2023年8月21日号

◆先週の市場総括


先週はドルが底固く推移。米国ではインフレ鈍化も景気堅調との見方から金利高止まり観測が強まり長期金利が上昇基調を続けた。

10年債利回りは4.2%台から一時4.3%台まで上昇。2年債は一時5%をつけるなど昨年10月以来の水準に上昇した。

ドル円相場は145円ちょうど近辺で始まり一時146円台半ばに上昇。ただ週末にかけてはリスク回避が強まり円は買い戻され145円割れ。引けは145円40銭。中国景気懸念がリスク回避を強めた。

週初から大手デベロッパー・碧桂園社のデフォルト懸念が台頭。中国の主要経済指標・鉱工業生産・小売売上高などは軒並み弱め。さらに週末には恒大集団がNYで連邦破産法を申請したことで懸念が一段と強まった。

米国株は軟調。中国懸念と長期金利上昇が重石。日経平均も32,000円の大台を割り週末の引けは31,450円。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅安。前週末の米国株安が重石。加えて中国経済先行き不安が高まり売りが嵩んだ。引けは前週末比▲413円安の32,059円。

一時▲440円安で大台32,000円割れ寸前。中国では大手デベロッパーのデフォルト懸念が台頭。不動産セクターに不安が広がった。

ドル円相場は145円ちょうど近辺で始まり145円ちょうどを挟んで144円80銭~145円20銭で上下。夕刻にかけては149円90銭~145円ちょうどでもみ合い、欧州市場では80銭~90銭。

ユーロ円相場は158円80銭で始まり158円台後半を中心に上下して夕刻は158円40銭~50銭で上下。ユーロドル相場は1.0950で始まり横ばいもみ合い。夕刻は1.0960。

欧州市場から米国市場にかけてはドル高・ユーロ安・円安。米国債が売られ長期金利が上昇。10年債利回りは4.2%台に、2年債は4.9%台後半に上昇しドルを押し上げた。

ドル円相場は145円60銭に上昇。米国市場で20銭に下落したが引けにかけて持ち直し145円60銭近辺で引け。ユーロドル相場は1.0880に下落し、その後は持ち直したが引けは1.0910近辺。ドルインデックスは103ポイント台に上昇して引け。

ユーロ円相場は158円50銭~80銭で上下したあと30銭に下落したが反発。引けは158円60銭~80銭で上下。

米10年債は4.201%、2年債は4.973%で引け。金利高止まり長期化観測が引き続き長期金利水準を押し上げ。米国株は半導体関連・ハイテク株が業績期待で買われた。

中国景気懸念や長期金利上昇は重石。ディフェンシブ銘柄は買われた。NYダウは前週末比+26ドル高の35,307ドル。ナスダックは+143ドル高の13,788ドル。

発表されたNY連銀調査の期待インフレ率は1年が3.55%と前月3.83%から低下して2021年4月以来の低水準。3年期待インフレ率は前月2.95%から2.91%に小幅低下した。実質金利上昇で追加利上げの必要性は低下したとの見方が強まった。

火曜日の東京市場では日経平均が反発。米ハイテク株が買われたことで半導体関連など値がさ株が買われた。円安で輸出関連にも買い。朝方は前日比+340円超上昇した。ただ中国の経済指標が弱く中国景気懸念が重石。

GDPは全体で強めだったものの個人消費がマイナスとなり反応は鈍かった。引けは前日比+178円高の32,238円。

日本の4?6月期GDP速報は前期比年率+6.0%と前期+2.7%から加速。ただ個人消費は▲0.5%と減少した。

中国の7月の主要経済指標はいずれも弱く予想を下回った。小売売上高は前年同月比+2.5%と前月+3.1%から減速して予想+4.2%を大きく下回った。鉱工業生産は+4.4%から+3.7%へ、固定資産投資は+3.8%から+3.4%へ減速。失業率は5.2%から5.3%へ上昇。

ドル円相場は145円40銭~60銭で上下したあと、東証引け後、欧州市場にかけて80銭台に上昇。ユーロ円相場は158円60銭~80銭で上下したあと夕刻には159円20銭台に上昇し10銭~30銭で上下した。

ユーロドル相場は1.0910近辺で小動きもみ合い。欧州市場にかけて1.0940に小幅高。米国市場朝方にかけては円高に振れドル円相場は145円10銭、ユーロ円相場は158円70銭台に下落した。ユーロドル相場は1.09ちょうど近辺へ。

米国株は下落。中国景気懸念、人民銀行の利下げも不安感を強め、中国関連株が売られた。また大手格付け会社フィッチレーティングスが大手も含め70以上の銀行を格下げの可能性と報じられ銀行株が軒並み下落。市場心理が悪化した。

長期金利上昇も重石。NYダウは▲361ドル安の34,946ドル。ナスダックは▲157ドル安の13,631ドル。米10年債利回りは一時4.2%台後半に上昇し4.212%。2年債は一時5%をつけ4.956%。

ドル円相場は米長期金利上昇が支えとなり持ち直し、引けは145円60銭近辺。ユーロドル相場は1.0910近辺で引け。ユーロ円相場は158円90銭近辺に上昇したあと引けは158円80銭。

発表された米国の小売売上高(7月)は前月比+0.7%と前月+0.2%から加速。アマゾンプライムの特売、新学期需要が押し上げたとみられている。

NY連銀製造業景気指数(8月)は前月+1.1から▲19.0に大幅悪化。輸入物価指数(7月)は前月比+0.4%と予想より大きく上昇。NAHB住宅市場指数(8月)は前月56から50へ大きく低下した。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。2ヵ月ぶりの安値。前日の米国株が中国景気不安や銀行格下げ不安から大きく下落。市場心理が悪化したなか先物主導で下落した。引けは前日比▲472円安の31,766円と32,000円の大台割れ。

ドル円相場は145円60銭近辺で小動きもみ合い。夕刻にはやや押して30銭~50銭で上下した。欧州市場に入るとドル堅調のなか145円90銭に上昇し70銭~90銭で推移。米国市場に入ると米長期金利上昇に支えられ146円40銭まで上昇し引けは146円30銭。

ユーロ円相場は158円60銭~80銭で小動きもみ合い横ばい。欧州市場には159円ちょうど~20銭で上下した。米国市場ではユーロ安ドル高に押されて158円80銭に小幅下落したが引けは戻して159円20銭。

ユーロドル相場は1.09ちょうど~1.0910で小動き横ばい。夕刻は1.0930にやや強含み。米国市場では1.0870に下落して1.0880で引け。欧米市場では総じてドルが堅調、円が軟調となった。

発表された米国の住宅着工(7月)は季節調整済み年率換算で1,452千戸と前月1,434千戸から増加。鉱工業生産(同)は前月比+1.0%と前月▲0.5%から大幅に改善した。

公表されたFOMC議事要旨(7月開催分)では、大半のメンバーがインフレに著しい上振れリスクがある、さらなる金融引き締めが必要となる可能性がある、と記された。

これらを受けて追加利上げの可能性、引き締め長期化観測が強まった。米長期金利の上昇基調は続き、10年債は一時4.28%をつけ昨年10月以来の高水準に。引けは4.258%。2年債は4.969%。ドルを押し上げた。

米国株は金融引き締め長期化懸念、長期金利上昇を受け下落。とくに高PER銘柄、ハイテク株の下落が大きかった。NYダウは前日比▲180ドル安の34,765ドル。ナスダックは▲156ドル安の13,474ドルで引け。

木曜日の東京市場では日経平均が続落。2か月半ぶりの安値をつけた。米国株安で値がさ株中心に売り優勢。中国懸念も下押し。円安一服警戒感で輸出関連も上値が重かった。引けは前日比▲140円安の31,626円。

ドル円相場は146円20銭~30銭で始まり貿易収支を受けて一時50銭台に上昇したがその後は146円40銭近辺でもみ合い小動き。

ユーロ円相場は159円20銭近辺で始まり小動きながら159円ちょうど近辺までじり安。ユーロドル相場は1.0880で始まり60~70でもみ合い。

発表された日本の通関統計(7月)は貿易収支が▲790億円の赤字と前月430億円の黒字から悪化し赤字となったが小幅。前年同月の▲1兆4,200億円の赤字からは大きく改善し、収支ゼロ近傍が続いている。

欧州市場に入るとドル安円高。ドル円相場は米国市場朝方にかけて145円60銭近辺まで下落した。ユーロドル相場は1.0920へ上昇。ユーロ円相場は158円80銭に下落。ただその後は米長期金利上昇がドルを支えた。

発表された週次の失業保険新規申請件数は239千件と前週248千件から減少し労働市場の底固さを示した。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月)は前月▲13.5から予想を上回る大幅改善の+12.0。米10年債利回りは一時4.33%まで上昇した。ドル円相場は146円30銭へ反発。

ユーロドル相場は1.0860に反落。ユーロ円相場は159円ちょうどを挟み上下横ばい。その後未明に中国不動産大手・恒大集団が米国破産法適用を申請と報じられるとリスク回避が強まった。円は買い戻されドル円相場は145円60銭台に下落し引けは145円80銭近辺。

ユーロ円相場は158円30銭に下落して引けは50銭近辺。ユーロドル相場は1.0870で引け。

米国株は下落。NYダウは3日続落。朝方発表された小売大手ウォルマートが決算を受けて下落。消費関連に売りが波及した。長期金利上昇を嫌気してハイテク株も下落。

NYダウは▲290ドル安の34,474ドル。ナスダックは▲157ドル安の13,316ドル。VIX指数は17.89に上昇。米10年債利回りは低下して4.277%。2年債は4.936%。

金曜日の東京市場では日経平均が朝方に大幅続落。米国株が大幅安。中国・恒大集団がNYで連邦破産法を申請したことで投資家のリスク回避が強まった。

他の不動産会社へ連鎖破綻の観測が強まり、中国景気悪化懸念からインバウンド関連が売られた。引けは前日比▲175円安の31,450円。

為替市場ではリスク回避で円買い戻しが進んだ。ドル円相場は145円80銭で始まり夕刻まで下落基調。145円20銭割れまで下落した。ユーロ円相場は158円50銭~60銭で始まり157円80銭割れへ。

ユーロドル相場は1.0870で始まり軟調。欧州市場では1.0850まで下落。

発表された日本の消費者物価指数(7月)は総合指数が前年同月比+3.3%と前月と変わらず。除く生鮮食品は+3.1%と前月+3.3%から上昇鈍化も予想通り。除く生鮮食品・エネルギー(コア・コア)は+4.3%と前月+4.2%から上昇加速。

欧米市場でもドル円相場は上値重く上下動。145円40銭~70銭台で上下したあと145円割れに下落しNY引けは145円40銭。

ユーロ円相場は158円20銭台から157円70銭まで下落し引けは158円10銭。ユーロドル相場は1.0870~80で小動きもみ合い引け。

米国株は上値の重い展開。中国景気悪化懸念で朝方NYダウは前日比▲200ドル安。ただその後は値ごろ感からの買いが支え。週末・夏季休暇で参加者が少なく前日比+25ドル高の34,500ドルで引け。ナスダックは▲26ドル安の13,290ドル。

米長期金利の高止まりが嫌気された。米10年債は4.254%へ小幅低下。2年債は4.94%に高止まり。

◆今週の3つの注目ポイント


1.ジャクソンホール年次シンポジウム、当局者発言

24日木曜日から26日土曜日まで、米国でカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール年次シンポジウムが開催される。毎年恒例の同会合には各国の財務相・中銀総裁らが集まり経済・政策について議論する。

25日金曜日にはFRBパウエル議長、ECBラガルド総裁の発言機会があり、金融政策に何らかのガイダンスが示されるか、利上げ打ち止めに何等かのヒントがあるか注目される。

2.米国の経済指標

米国では長期金利上昇が続く。インフレ鈍化も景気底固く、高金利が長期化するとの見方から長期金利が上昇。経済指標がなおもそうした見方を維持し長期金利を支えるか。

火曜日 中古住宅販売(7月、季節調整済み年率換算、予想415万戸、前月416万戸) リッチモンド連銀製造業指数(8月、前月▲9)

水曜日 新築住宅販売(7月、季節調整済み年率換算、予想707千戸、前月697千戸)

木曜日 週次の失業保険申請件数(予想240千人、前週239千人) 耐久財受注(7月、前月比、予想▲4.0%、前月+4.7%) カンザスシティ連銀製造業活動指数(8月)

金曜日 ミシガン大学消費者信頼感(8月、確報)

3.PMI景況感指数

水曜日にPMI景況感指数(8月速報)が発表される。

ユーロ圏・製造業は予想42.7、前月42.7。サービス業が予想50.5、前月50.9。ドイツは製造業が予想38.6、前月38.8。サービス業が予想51.5、前月52.3。

米国は製造業が予想48.9、前月49.0。サービス業は予想52.5、前月52.3。景況感の強弱、欧米格差、製造業とサービス業の格差はどうか。

◆今週のMRA's Eye


中国懸念と米長期金利上昇の併存~リスク回避と円相場

株価など金融資産価格には逆風が強まっている。米国景気はなお底固さをみせているものの、中国経済はコロナ禍明けでも回復が捗々しくない。中国の主要経済指標は小売売上高や鉱工業生産などで弱い数字が続く。

そうしたなか大手不動産デベロッパーが相次いで経営破綻・デフォルトに陥り、これまで長年懸念されてきた不動産バブルの崩壊・不良債権問題が顕在化しはじめた。個人の不動産投資が破綻すれば個人消費にも影響が生じよう。

中国経済の低迷・悪化はグローバルに影響を与え、全般的なリスク回避要因、金融資産価格に逆風となる。またどのエリア・国が相対的にもっとも悪影響を受けるかも注目されよう。

対中輸出がどの程度重要な位置を占めるか、中国の内需、消費や設備投資に、どの程度依存しているかが左右する。

日本は中国国内消費より機械・電子機器・部品など生産・設備関連への影響の方が大きそうだ。消費面ではインバウンドへの影響が懸念されているが、現時点では、対日団体旅行がようやく再開されるかどうか、という段階。

今後の訪日中国人や国内での消費の増加にどれほど影響するか、上乗せがどの程度抑制されるかという限界的な影響となりそうだ。

むしろ中国からは国内消費関連で輸入に頼る部分が大きく、中国国内のデフレは有利に働く面もあろう。

米国が受ける悪影響は日本よりも少なそうだ。米国はそもそも経済における貿易依存度が低い。

また直近の貿易統計では中国よりもメキシコやカナダなど隣国のシェアが中国を抜き、中国離れが垣間見える。それも米国の輸入超過。中国景気低迷・悪化は、キャタピラー社など、一部、対中ビジネスを推進している企業への悪影響が中心となる。

米国景気減速は主としてFRBの金融引き締め、長短金利の上昇など、国内要因による影響がもっぱらで、中国景気の動向はFRBの政策をさほど左右しないだろう。

中国の内需不振による悪影響は資源価格の下落を通じて資源国経済に直接的に顕在化するだろう。かつてほどの「爆買い」は鎮静化しているものの、経済規模はなお大きく影響は甚大だ。

オーストラリアやブラジルがイメージされるが、距離感や影響度合いからすればオーストラリアの影響の方が大きそうだ。同国は資源生産・輸出への依存度を低下させようとしてきたが、中国内需の影響は依然として高いままだ。

問題は欧州。欧州は内需の伸びが鈍く成長率は低迷。長らく中国経済の成長に乗ろうという戦略を、政府・企業が一体となって進めてきた。独仏とくにドイツは筆頭。裏を返せば、中国の内需不振による影響は大きくなる。

インフレ鈍化がなお捗々しくないなか、金融引き締めを続けている。インフレ高進が消費を抑制し景気懸念も高まってきた。

そこに中国景気悪化による外需への悪影響が加われば、欧州景気の先行き懸念はさらに強まる。こうした状況はECBの金融政策にも影響を与えそうだ。インフレ重視から景気配慮へ、利上げの打ち止めが視野に入ってきた。

景気懸念が強まるなかで、逆行して米長期金利は上昇基調。米国景気とくに雇用情勢が底固さをみせるなか、なおインフレ上振れリスクを重視するFRBメンバーのタカ派姿勢が再確認された。

さらに1回の追加利上げがあるとの見方が強まり、また利下げ期待が後ろ倒しに修正された。

これによりとくに長い期間の金利が上方修正され10年債利回りの水準が4.3%近辺まで上昇。昨年のピーク水準に近づきつつある。財政悪化による国債増発による需給懸念も長期金利上昇圧力となっている。

前者はFRBによる引き締め過ぎリスクを招き、後者は景気動向から乖離した悪い金利上昇となり、景気への下方リスクを強めることになる。米国債利回りは様々な金融資産価格のベンチマークであり、金利上昇がいかなる理由であれ価格下落要因となる。投資家のリスク回避が強まった状態は続きそうだ。

米金利高止まりとリスク回避はドルを支える要因となる。一方、リスク回避に加え、資源価格の下落や欧州景気懸念、ECBの利上げ打ち止め観測は、クロス円相場、ユーロ円相場で円高を招く。

投機的な円売りが嵩んだ状況では円買い戻しが短期的な円高につながる。ドルと円が強い状況となりやすい。

ただ米長期金利の大幅な上昇はFRBの追加利上げを不要とする要因。鍵は米国景気がどの程度悪化、明確な減速を示すか。雇用情勢が緩和するか。

ドル円相場が大きく下落するとすれば、中国景気懸念、米長期金利上昇のあと、米国景気の悪化、利上げ打ち止めの明確化、リスク回避が強まるなか米長期金利のピークアウト、が生じる場合。それにはなお時間がかかりそうだが、留意しておく必要はあろう。


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