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供給懸念でエネルギー堅調 中国懸念で金属セクター軟調
  • MRA商品市場レポート

2023年8月9日 第2517号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「供給懸念でエネルギー堅調 中国懸念で金属セクター軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、発電燃料を含むエネルギーセクターが供給面のリスクを意識して上昇したが、その他の商品は軒並み水準を切下げる展開となった。

Moody'sの米銀格下げ検討報道も、リスク回避姿勢を強めた。昨日の動きで特徴的だったのがビットコインの価格上昇が最も大きかった点。結局、「先行きが良く分らないため、何とも連動しない商品」が物色されやすい地合になっている、と考えられる。

ウクライナがロシア船籍を攻撃する可能性を否定しておらず、これまで実質的に供給に問題が発生していなかったロシア産エネルギーや穀物の供給リスクが意識されていることが足元の価格上昇要因となっている。

エネルギーに関しては引き続き米国の景気動向が価格を左右しやすいが、週間石油統計では既に製品出荷の減速がみられ、さらに市場が今年になってから特に材料視し始めた中国の経済状況は悪化しており、需要面でエネルギー価格を押し上げる材料は徐々に減少している状況。

しかし、まだ景気が後退した訳ではないこと、上述の供給面の問題が原油価格を高止まりさせ、その他の商品価格も押し上げている状況。

なお、市場が期待している中国の経済対策だが、やはりない袖は振れない状態であり、発表される統計も減速しているため次年度予算が執行される2024年にならなければ、中国工業セクターの回復は難しい(まだ在庫調整局面が続く)のではなかろうか。

ただ、共産主義であり、かつ、共産党の一党独裁である中国が、理屈に合わない政策を遂行する可能性もあり、価格上振れリスクも無視できない状況。

【本日の見通し】

本日は、昨日の下落を受けて買い戻しが入るが、昨日上昇したエネルギーセクターは調整売りに押されると考える。

今後を決定するのはまさに景気動向そのものであり、景気への先行性が高いISM製造業指数や製造業PMI、フィラデルフィア連銀製造業指数、シカゴPMIなどの指標の重用性が増すことになるだろう。

本日予定されているイベント・統計で注目は以下の通り。特に景気への懸念が強まっている中国のCPI/PPIには注目したい。

・7月中国消費者物価指数 市場予想 前年比▲0.4%(前月±0.0%) 生産者物価指数 ▲4.0%(▲5.4%)

・7月中国全体のファイナンス規模 1兆1,000億元(4兆2,241億元) 人民元建て新規融資 7,800億元(3兆495億元) マネーサプライ M2 前年比+11.0%(+11.3%) M1 +3.0%(+3.1%)

【昨日のトピックス】

7月の中国の貿易統計は輸出が前年比▲14.5%(市場予想▲13.2%、前月▲12.4%)、輸入が▲12.4%(▲5.6%、▲6.8%)と、輸出入とも、前月、市場予想を下回った。

中国政府による経済対策期待はあったが、特に輸入が前年比で大幅に減速していることから、中国国内の回復は市場が期待しているほどではないことを再確認する内容だった。

循環的な景気回復が想定よりも早く始まった可能性がある米国向けの輸出も、年初来の累計の前年比が▲18.6%(1-6月期▲17.9%)とマイナス幅を拡大、欧州も▲8.9%(▲6.6%)、ボリュームの大きいアセアン諸国向けも▲2.0%(+1.5%)とマイナスに転じており、外需の落ち込みも小さくない。

世界の工場である中国の輸出減少は、世界景気が減速している可能性を示唆している。

中国の国内情勢は厳しく、不動産セクターの回復が遅れる中で政府の経済対策のゆとりは大きくないことから、効果的な内需刺激策を打ち出すことができない状況に変りはない。

外需に関しては、米経済はノーランディング、いや、既に景気回復は始まっている、利上げも終盤との指摘もあるが、実質金利がプラスに転じていることからむしろ景気減速はこれからと考えるのが妥当ではないか。

これを勘案すると、経済対策期待で中国の内需は下期に掛けて下支えされるものの、外需の落ち込みで内外需をならすと横這いであり、回復は新年度予算からの支出が可能になる2024年以降になるのではないだろうか。

しかし、ここまで統計が悪化するとさすがに何らかの対策を想定因りも早く、かつ、規模を大きく実施する必要性を、共産党上層部も意識していると考えられ、早晩財政出動を伴う経済対策が対象や規模を限定して行われると予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格はドル指数の上昇を受けて大幅に水準を切下げていたが、米銀格下げ報道を受けてドル安が進行したこと、ウクライナ・ゼレンスキー大統領がロシア艦船への攻撃の可能性を示唆したことで、供給面が意識されたことが材料。

現状の整理として、まだ米国の景気後退が始らない中で、OPECプラスの減産やロシア・ウクライナ問題を巡る供給不安が顕在化していることが想定以上に価格を押し上げている。

7月の中国の原油輸入は前年比+17.0%の4,368万6,000トン(前月+45.3%の5,206万2,000トン)と伸びが前月から減速した。価格に聡い中国勢力の輸入意欲が、価格上昇を受けて後退したと考えられる。ただしロックダウンの影響が残る昨年からは水準が大きく上昇している。

一方、石油製品は輸入が前年比+177.2%の450万4,000トン(前月+168.8%の441万トン(前月+195.9%の438万トン)とロックダウンの影響を受けた昨年比で大幅な伸びを維持した。輸出は+55.7%の531万トン(前月+40.9%の451万トン)と伸びが加速、過去5年平均を上回った。

中国の国内需要の回復期待で輸入は増加しているものの、内需の回復が期待ほどではなく、先月指摘したように原油輸入の増加が輸出の増加に繋がりつつある状況。

現在の価格水準はこのエネルギーコラムの後半で解説している「3」の状態の範囲内であるが、弊社の想定よりもかなり早いタイミングで価格が上振れしている。

しかし、米国経済が減速するのはこれからであり、まだこのまま景気が底入れして、原油価格が高騰するシナリオはまだリスクシナリオの位置づけだ。

OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。

しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。

問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。

 OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産 ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施

 サウジ 9月も▲100万バレルの追加減産

サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。

一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。

8月1日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+13,219枚、ショートが▲3,444枚と、強気ポジションを維持。

Brentはロングが+6,349枚、ショートが▲12,379枚とこちらも強気ポジションに転じている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス・OPECプラス)が増産/減産する
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

Q323~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米景気の明確な減速がない中での供給不安顕在化で高値維持の公算。ただし、今晩発表の米石油統計では原油在庫の+1.9MBの増加が見込まれているが、朝方発表のAPI統計は+4.1MBの増加が確認されており、価格の下押し要因に。

中期的に調整する見通しは堅持だが、非常に重要なテクニカルポイントである200日移動平均線となるBrent81.6ドルを下回るには統計悪化(石油統計での出荷減少継続など)が必要か。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。生産者のメンテナンスや、ウクライナ・ロシアの緊張の高まりが供給不安を煽っていることが材料となっている。

ただし、天然ガス・LNG在庫の水準の高さが価格上昇を抑制している状況。

弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要が仮に+5%増加しても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。

また、ロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲5%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。

ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、延いてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。

また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇する)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。

そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。

しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。今年はエルニーニョ現象、冬はスーパーエルニーニョ、ないしは再びラニーニャ現象の発生が懸念されており、そのリスクは無視できない。

また、ウクライナがロシア船籍を攻撃するなど、これまで安定してきたLNG船の輸送にも影響が出る可能性が出てきた。

3.4.は顕在化している。特に3.に関しては恐らく今年がロシア・ウクライナ戦争の山場である可能性が高く、ロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。

5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。

今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも急上昇している。ウクライナによる船舶攻撃の影響が出た可能性は否定できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス市場は小幅に上昇。米南部・米北東部の気温上昇が続くとの見通しが材料となった。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物市場は小動き。

現在のJLCの水準は12.04ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。

その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

7月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+18.5%の1,031万トン(前月+19.2%の1,039万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。

6月のパイプラインベースの輸入は前年比+13.6%の443万トン(前月+1.9%の423万トン)と過去5年の最高水準(390万トン)を上回った。

6月のLNG輸入は前年比+23.5%の595万8,000トン(前月+30.2%の641万3,000トン)と前月から伸びは減速したものの、過去5年平均(515万2,000トン)を上回っている。

6月の中国の天然ガス生産は+5.8%の1,338万2,000トン(前月+7.3%の1,397万1,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

7月30日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は193万トン(過去5年平均259万4,200トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は208万トン)と、いずれの集計でも過去5年平均を下回った。

速報性のある大手電力以外の在庫も含めた水準と比較すると、過去5年の最低水準に近い。

現在、日本は猛暑の状態であり、スポット価格の上昇リスクは低くなく、冬場の調達圧力も高まることになるだろう。

サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

本日は、世界の景気減速見通しはあるものの、ほぼ全世界的に気温上昇が確認されており冷房需要の増加観測が強いこと、ウクライナがロシア船籍を攻撃するなどによる供給面の不安がLNG価格を高止まりさせると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は小幅に上昇した。北半球の気温上昇や、ウクライナのロシアタンカー攻撃報道を受けて供給面のリスクを意識したガス価格の上昇が、石炭価格を押し上げている。

ここ数ヵ月、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴになるか、とみて注視しているが、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは引き続き、注意したい。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は137ドル、±1標準偏差で67~207ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が145~155ドル程度まで再び上昇しているため、145~207ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。

2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+66.9%の3,926万トン(前月+110.0%の3,987万1,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。

ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。

国別では6月はロシアからの輸入が大幅に増加し、直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で42.7%、ついでインドネシア(37.6%)、豪州(10.1%)となった。戦争で苦境に陥っているロシアの救済の色彩はあるが、輸入石炭価格はロシア炭価格の低下が大きく「価格面でのメリット」を優先して中国がロシア炭を購入していることが窺える。

6月の中国の石炭生産は、前年比+2.5%の3億8,863万トン、1,295万4,000トン/日(前月+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日)と伸びが減速した。

6月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の7,751億kwh(前月+7.5%の7,222億Kwh)と伸びが減速したが、依然、過去5年レンジを上回った状態が続いている。

今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇による電力供給減少がなければ、南部の降雨による水力発電の回復や、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。

本日は、ウクライナがロシア船籍攻撃などによるガス価格の上昇から、石炭価格も上昇余地を探る動きに。ただし、中国に襲来した台風の影響で水力発電の回復が見込まれ、これが上昇圧力を緩和するだろう。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は下落した。中国の貿易統計が輸出入とも減速しており、内外需の減少観測が価格を押し下げることとなった。

このコラムで繰返し主張しているが、中国地方政府は財政的に「ない袖は振れない」状態にあると考えられるため、具体的に景気を浮揚させる政策をこのタイミングで打ち出せる可能性はさほど高くない。

実際、中国地方政府の手足を縛っている余剰不動産在庫も、直近6月水準では北京、広州、杭州、深センなどの主要都市で在庫月数は増加している。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。

とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。

なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えば「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるが、経済対策実施を匂わせている現時点でもそのタイミングは不明。

COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、アルミを除く非鉄金属、でネット買越し幅を拡大、ないしはネット売り越し幅を縮小しており、ファンドは中国政府の経済対策期待を織り込んだ。

LME銅はロング・ショートとも増加したがロングが上回り、アルミは中国の降雨による電力供給回復期待から売り越し幅を拡大、その他の金属はロングが増加、ショートが減少する形となった。

全体では「やや」ネット買越しの状態であり、まだ投機筋の買い余力は存在している。そのため、中国政府の経済対策が「具体的に行われた場合」価格を投機的な面から押し上げやすい。

7月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲2.7%の45万1,159トン(前月▲16.4%の44万9,648トン)と過去5年平均を下回る状態が続いた。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+3.9%の197万4,959トン(前月+3.2%の212万5,046トン)と過去5年の最高水準を下回り、減速傾向を維持した。

経済活動再開を意識して銅精鉱の輸入が増加していたが、電力不足や経済活動再開の遅れから輸入全体のペースが鈍っている状況。

6月の中国の精錬銅生産は+17.5%の109万6,000トン(前月+26.9%の109万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。

6月の銅スクラップの輸入は前年比+2.8%の16万9,754トン(前月+11.6%の17万6,490トン)と過去5年平均を維持している。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。

この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。

本日は、昨日の下落の反動で上昇を予想も、中国の貿易統計の減速を受けて頭重い推移になるだろう。なお、本日発表のCPI・PPIとも低迷が予想されており、これも売り材料に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

中国最大の民間不動産会社であるカントリー・ガーデンが、月曜日、2本のドル建て社債の利払いができなかったことを認めるなど、中国の不動産市況の苦境が伝わっていることが鉄鋼製品価格の下落と、鉄鋼原料価格の下落をもたらしている。

現在、疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)と鉄鋼製品との関係性は回復している。ただ、鉄鋼原料調達は最終消費動向に左右されるため、当面、鉄鋼製品価格動向が重要になってくる。

ロシア問題の一巡、原料炭もロシア・モンゴルからの輸入が増加しており(特にモンゴル)、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていない。

結果、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため、最終需要が増加するような経済対策の実施がなければ、総じて下押し圧力が掛りやすい。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+28万3,000トンの1,314万8,000トン(過去5年平均 1,377万5,000トン)と過去5年平均を下回っているが、季節外れに在庫は積み上がっており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲130万トンの1億2,050万トン(過去5年平均 1億3,128万6,000トン)、在庫日数は24.4日(▲0.3日、過去5年平均27.4日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイト。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は▲8万トンの197万トン(過去5年平均 180万6,000トン)、在庫日数は▲0.3日の7.4日(過去5年平均 7.1日)とこちらは在庫水準・日数ベースでも需給は緩和している。

7月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲14.2%の67万7,960トン(前月▲22.8%の61万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

7月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+9.6%の730万8,400トン(▲0.7%の750万8,100トン)と過去5年の最高水準を上回った。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲40.9%の63.4億ドル(▲42.7%の67.0億ドル)と低下しており、引き続き中国が安売りで余剰在庫の解消に努めていることを示唆するもの。

6月の中国粗鋼生産は前年比+0.4%の9,111万トン(前月▲6.7%の9,012万トン)と小幅に増加し、過去5年平均を上回った。

これまで値引きを行って輸出を促進してきたが、それでも在庫解消に時間が掛っているため生産調整が進むかと思われたが、前年・前月よりも生産は回復している。

中国政府の需要刺激策で具体的なものが打ち出されていないこと、製造業全体の在庫循環図は調整局面入りしていることを考えると、今後の生産は引き続き低迷が予想される。

鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないと考える。

本日は、中国政府の対策期待が再び高まっているが、不動産市況の回復にはまだ時間が掛ると予想され、どちらかと言えば価格には下押し圧力が掛りやすいが現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。実質金利の低下が金の基準価格を小幅に押し上げたが、ドル指数が上昇したことがリスク・プレミアムを押し下げた。

銀は金価格の下落を受けて続落、PGMは株価の調整もあって大幅な下落に。

金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。

これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。

恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。

なお、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。

金の価格を構成要素に分解することは、各要素が互いに影響を及ぼし合っているため余り意味がない。

しかし、現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が4割、信用リスク要因が2割、その他の要因が3割となる。

過去実質金利異常に、その他の要因のシェアが大きくなったのは、第一次オイルショック~プラザ合意にかけてが最も高く、有事やドル価値の減価に備えて「各国が金準備を増やした時」であり、現在の状況はこのときの状況と類似する。

この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。

年内利上げは、9月FOMC以降、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。

市場予想では2024年は▲1.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+75ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲225ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲150ドルの価格低下となる。

現在の金価格を1,950ドルとすれば、1,800ドル程度までの下落がありそうだ。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。

仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると21.6~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。

この数日で銀は100日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けしてテクニカルに急騰している。しかし、50日移動平均線が100日胃ヘを下抜けするデッドクロスとなっていることからいったん水準はテクニカルに切り下がろう。

本日は、米利上げが最終局面に差し掛かっていることや、信用リスクの顕在化を受けたキャッシュ化圧力が価格を下押しするが、実質金利の下押し圧力を受けて底堅い推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が上昇、小麦が下落した。日本時間の朝方発表された作柄報告で、トウモロコシ・大豆とも改善は見られたが基本的に過去5年の最低水準を下回る作柄であることが意識された。

小麦は、黒海でウクライナ軍がロシア船籍を攻撃したことで供給懸念が意識されたことが価格を押し上げていたが、いったん手仕舞いに押された。

7月の中国の大豆輸入は前年比+23.4%の973万1,000トン(前月+24.5%の1,027万トン)と前年比で高い伸びを維持したが、過去5年レンジを下回った。

中国の国内在庫は67.1万トンと過去5年レンジを大きく下回っており、在庫の積増し需要は相応にあると推察される。

エルニーニョ現象が発生している場合、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。

しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。

本日は、ウクライナとロシアの緊張の高まりが供給懸念を醸成するため高値維持の公算。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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