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米中景気先行きへの懸念から景気循環系商品売られる
  • MRA商品市場レポート

2023年8月8日 第2516号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米中景気先行きへの懸念から景気循環系商品売られる」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、発電燃料やその他農産品が上昇したが、景気循環系商品は総じて水準を切下げる動きとなった。

発電燃料価格の上昇は、ウクライナ軍によるロシア籍タンカーの攻撃などを受けて、供給懸念が意識されたことが材料となった。穀物の中で小麦が上昇したのも同様。

景気循環系商品の下落は、FRBボウマン理事の発言などを切っ掛けに、これまで米国の景気が後退しておらず、ノーランディングになるのでは、利上げは終了になるのではとの期待から上昇してきたことの反動が出たものと考えられる。また、中国の景気先行きへの懸念が強まっていることも材料になっているとみられる。

これまでは「いつまで利上げを行うのか」が焦点だったが、これからは「政策金利をいつまで高止まりさせ」「その後、景気後退になるのか」「その後、景気後退局面入せずに景気が回復するのか」といった景気そのものに焦点が当たると考えらられる(詳しくは昨日のトピックス、並びに本日のMRA's Eyeをご参照ください)。

【本日の見通し】

本日は、先週の雇用統計を受けた景気の減速感とインフレが高止まりしていることを材料に、調整圧力が強まる展開が予想される。ただしFOMCメンバーの発言も複数予定されており、結局金融政策への思惑から大きくレンジを脱することはないのではないか。

本日予定されているイベントと統計は以下の通り。

・フィラデルフィア連銀総裁経済見通しについて講演

・リッチモンド連銀総裁講演

・7月中国貿易統計 輸出 市場予想 前年比▲13.2%(前月▲12.4%) 輸入 ▲5.6%(▲6.8%)

【昨日のトピックス】

昨日、FOMCの主要メンバーが、金融政策見通しに関してやや異なる方向性を示した。まずニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、景気抑制的なスタンスを維持する必要性があるが、インフレが減速するならば来年、利下げは正当化されるとの見方を示した。

同総裁は今のところ金融政策は望ましい位置にあるが、「ピーク金利の観点でこれを調整する必要があるかどうか、または景気抑制的なスタンスをどれだけ長く続ける必要があるかはデータに依拠する」と発言している。

市場の読み通り、金融引締めは最終版に差し掛かっているものの、引き続きライブで判断したいとのスタンスが透ける。結局、ここまで、FRBの思うとおりのペースではインフレが沈静化していないことの裏返しとも言える。

タカ派のボウマンFRB理事は、物価安定の回復に向けて一段の利上げの必要性を5日のコロラド州での講演に続き、強調した形。

ボウマン理事は7月の利上げを支持し、追加利上げが必要になる可能性が高いと想定している。

ウィリアムズ総裁の発言は、1.既に実質金利がプラス圏に転じており、金融引締めの状態に入っていること、2.先週発表された雇用統計での非農業部門雇用者数の変化が+18.7万人(市場予想+20万人、前月+18.5万人(速報比▲2.4万人)であることを受けたものと考えられる。

つまり、実質金融引締めが始まったために、これから景気が減速する可能性が高いというスタンスだ。

これに対してボウマン理事は、1.失業率が、労働参加率が62.6%と横這いの中で3.5%(市場予想3.6%、前月3.6%)に低下し、2.さらに平均時給が前月比+0.4%(+0.3%、+0.4%)、前年比+4.4%(+4.2%、+4.4%)と伸びが減速していないこと、を材料にしたものと言える。

またこれまで低下基調だった原油価格が、「減産と景気底入れ期待」を材料に上昇を続けていることも、コアインフレの押し上げ要因になると判断したためと考えられる。

引き続き、金融引締めはこれで終わり、と判断するのは難しいと言える(詳しくは本日のMRA's Eyeをご参照ください)。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。7月以降、OPECプラス(というよりはサウジアラビアの)減産強化、米景気がシクリカルに底入れしたように見えること、最大消費国である米国の景気減速が明確ではないことを材料に上昇を続けてきたが、さすがに一服感がでたと考えられる。

現在の価格水準はこのエネルギーコラムの後半で解説している「3」の状態の範囲内であるが、弊社の想定よりもかなり早いタイミングで価格が上振れしている。

しかし、米国経済が減速するのはこれからであり、まだこのまま景気が底入れして、原油価格が高騰するシナリオはまだリスクシナリオの位置づけだ。

OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。

しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。

問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。

 OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
 サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
 ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施

 サウジ 9月も▲100万バレルの追加減産

サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。

一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。

8月1日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+13,219枚、ショートが▲3,444枚と、強気ポジションを維持。

Brentはロングが+6,349枚、ショートが▲12,379枚とこちらも強気ポジションに転じている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス・OPECプラス)が増産/減産する
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

Q323~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、市場が米景気の減速を今のところ織り込んで居ないこと、ロシア船籍へのウクライナ軍の攻撃による供給懸念などを材料に買い戻しが優勢になると予想。

中期的に調整する見通しは堅持だが、非常に重要なテクニカルポイントである200日移動平均線となるBrent81.6ドルを下回るには統計悪化(石油統計での出荷減少など)が必要か。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。ウクライナがロシアの石油タンカーを攻撃したとの報道を受けて、ロシア産LNGの供給懸念や、海上輸送への不安が高まったことが供給懸念を意識させたことが材料。

弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要が仮に+5%増加しても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。

また、ロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲5%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。

ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、延いてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。

また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇する)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。

そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。

しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。今年はエルニーニョ現象、冬はスーパーエルニーニョ、ないしは再びラニーニャ現象の発生が懸念されており、そのリスクは無視できない。

また、ウクライナがロシア船籍を攻撃するなど、これまで安定してきたLNG船の輸送にも影響が出る可能性が出てきた。

3.4.は顕在化している。特に3.に関しては恐らく今年がロシア・ウクライナ戦争の山場である可能性が高く、ロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。

5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。

今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも急上昇している。ウクライナによる船舶攻撃の影響が出た可能性は否定できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス市場は期近が下落した。CDD見通しが大幅に低下し、気温上昇観測が後退したことが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物市場は上昇。TTFの上昇に連れる形となった。

現在のJLCの水準は12.74ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。

その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

7月30日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は193万トン(過去5年平均259万4,200トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は208万トン)と、いずれの集計でも過去5年平均を下回った。

速報性のある大手電力以外の在庫も含めた水準と比較すると、過去5年の最低水準に近い。

現在、日本は猛暑の状態であり、スポット価格の上昇リスクは低くなく、冬場の調達圧力も高まることになるだろう。

サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

本日は、世界の景気減速見通しはあるものの、ほぼ全世界的に気温上昇が確認されており冷房需要の増加観測が強いこと、ウクライナがロシア船籍を攻撃するなどによる供給面の不安がLNG価格を高止まりさせると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は上昇した。中国に襲来した台風の影響で水力発電が回復、火力の需要が減少するとみられたが、ウクライナのロシアタンカー攻撃報道を受けて供給面のリスクを意識したガス価格の上昇が、石炭価格を押し上げることとなった。

ここ数ヵ月、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴになるか、とみて注視しているが、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは引き続き、注意したい。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は137ドル、±1標準偏差で67~207ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が145~155ドル程度まで再び上昇しているため、145~207ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。

2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

本日は、ウクライナがロシア船籍攻撃などによるガス価格の上昇から、石炭価格も上昇余地を探る動きに。ただし、中国に襲来した台風の影響で水力発電の回復が見込まれ、これが上昇圧力を緩和するだろう。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は下落した。中国の経済対策期待を市場がほぼ織り込む中で、中国財新製造業PMIが減速するなど、まだ中小企業の景況感はより厳しさを増しているとの見方が需要の回復期待を後退させたため。

このコラムで繰返し主張しているが、中国地方政府は財政的に「ない袖は振れない」状態にあると考えられるため、具体的に景気を浮揚させる政策をこのタイミングで打ち出せる可能性はさほど高くない。

実際、中国地方政府の手足を縛っている余剰不動産在庫も、直近6月水準では北京、広州、杭州、深センなどの主要都市で在庫月数は増加している。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。

とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。

なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えば「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるが、経済対策実施を匂わせている現時点でもそのタイミングは不明。

COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、アルミを除く非鉄金属、でネット買越し幅を拡大、ないしはネット売り越し幅を縮小しており、ファンドは中国政府の経済対策期待を織り込んだ。

LME銅はロング・ショートとも増加したがロングが上回り、アルミは中国の降雨による電力供給回復期待から売り越し幅を拡大、その他の金属はロングが増加、ショートが減少する形となった。

全体では「やや」ネット買越しの状態であり、まだ投機筋の買い余力は存在している。そのため、中国政府の経済対策が「具体的に行われた場合」価格を投機的な面から押し上げやすい。

7月の中国製造業PMIは49.3(市場予想 48.9、前月 49.0)と市場予想、前月を上回り数値としては2ヵ月連続の改善となった。中国政府による経済対策実施への期待が、先行きの見通しを若干明るくしたとみられる。

統計の内訳を見ると、新規受注は49.5(48.6)と小幅に改善したが、輸出向け新規受注は46.3(46.4)と低迷している。国内は政府の対策効果が徐々に表れているが、海外向けは欧州景気の減速を受けて減速していると考えられる。

中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注の寄与度が+0.27(前月+0.09)、生産▲0.02(+0.17)、雇用▲0.02(▲0.04)、在庫+0.08(▲0.02)と、新規受注が回復しているが、「生産が減少しているにも関わらず」在庫水準が切り上がっている。

このことは、需要の回復はあるもののまだ閾値の50を回復しておらず、経済活動の回復が緩慢であることを示唆している。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.054)、原材料が1.027(1.025)と先月と先月から需給はタイト化し始めており、いずれも閾値の1を上回っている。

いずれも在庫水準は上昇しているため、新規受注増加の影響に寄るもの。規模別に見ると大企業(50.3→50.3)、中堅企業(48.9→49.0)、中小企業(46.4→47.4)といずれも横這いないしは改善しており徐々に対策の効果が顕在化しているようだ。しかし好況にまでは至っていない。

結局、当局の一連の対策が奏功して回復するにはまだ時間が掛りそうな状況に大きな変化はなく、一方で、徐々に対策の効果が顕在化していることを確認する内容だったといえる。

恐らく、本確的な回復には不動産セクターの問題解消が必要条件になるほか、個人消費の回復や、海外景気の回復に伴う輸出の回復が必要になるため、やはり年内の回復は難しいのではないか。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。

この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。

本日は、中国の貿易統計で輸出入とも、高水準な前年比マイナスが見込まれることから軟調推移になると考える。ただし同時に引き続き経済対策「実施」への期待が価格を下支えすると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。

鄭州がこれまで住宅ローンを組んだことがない個人に対して、頭金とローン金利を優遇する措置を発表、その他の都市も導入を検討しているが本格化していないこと、台風の影響で建設向け需要が減少していることが材料となった。

現在、疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)と鉄鋼製品との関係性は回復している。ただ、鉄鋼原料調達は最終消費動向に左右されるため、当面、鉄鋼製品価格動向が重要になってくる。

ロシア問題の一巡、原料炭もロシア・モンゴルからの輸入が増加しており(特にモンゴル)、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていない。

結果、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため、最終需要が増加するような経済対策の実施がなければ、総じて下押し圧力が掛りやすい。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+28万3,000トンの1,314万8,000トン(過去5年平均 1,377万5,000トン)と過去5年平均を下回っているが、季節外れに在庫は積み上がっており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲130万トンの1億2,050万トン(過去5年平均 1億3,128万6,000トン)、在庫日数は24.4日(▲0.3日、過去5年平均27.4日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイト。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は▲8万トンの197万トン(過去5年平均 180万6,000トン)、在庫日数は▲0.3日の7.4日(過去5年平均 7.1日)とこちらは在庫水準・日数ベースでも需給は緩和している。

7月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が49.9(前月49.9)と横這いだった。新規受注が49.8(51.5)と落ち込んだが、輸出向け新規受注が51.8(49.7)と改善、生産も52.5(49.9)と改善したことが新規受注の落ち込みを相殺した。

生産が増加しているが完成品在庫が減少しているということは、7月は基本的には不需要期であり、かつ、豪雨の影響がさらに需要を下押しするとみられたが、政策効果がこれを相殺しているようだ。

中国の棒鋼先物価格は7月末時点で前年比▲8.5%(前月末▲16.8%、前月々末▲26.7%、前々月末▲29.4%)とマイナス幅を縮小してはいるが、依然として過去5年レンジの最低水準であり、8月に入ってからはこの水準も下回っている。

台風の影響による洪水で北京に緊急事態宣言が発令されるなど、混乱が見られており恐らく周辺地域も洪水の影響を当面受けることが予想され8月の鉄鋼業PMIの下押し要因となろう。

中国の建設業PMIも51.2(55.72)と減速傾向にあり、短期的に鉄鋼原料や鉄鋼製品価格が上昇したとしても、最終消費のシェアが大きい不動産販売・投資が回復しなければ鉄鋼業の回復も持続的なものにならないと考えられる。

バランスシート不況にあると考えられる中国がどの程度財政出動を行い、民需の不足をカバーできるかが景気回復のタイミングを図る上で重要になるが、今のところかけ声は大きいが、大きな経済対策を打ち出せるほど中国の財布は大きくない。

本日は、中国政府の対策期待が再び高まっているが、対策実施の遅れが上昇余地を減じるため、台風の影響を受けた建設向け需要の遅れから軟調推移となろう。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。実質金利の上昇を受けた金基準価格の下落と、金融引締めが終盤に来ているとの期待感から小幅にリスク・プレミアムが低下したことが影響した。

銀は金価格の下落を受けて大幅に下落、PGMも下落したが株価の上昇がこれを支えた。

金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。

これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。

恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。

なお、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。

金の価格を構成要素に分解することは、各要素が互いに影響を及ぼし合っているため余り意味がない。

しかし、現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が4割、信用リスク要因が2割、その他の要因が3割となる。

過去実質金利異常に、その他の要因のシェアが大きくなったのは、第一次オイルショック~プラザ合意にかけてが最も高く、有事やドル価値の減価に備えて「各国が金準備を増やした時」であり、現在の状況はこのときの状況と類似する。

この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。

年内利上げは、9月FOMC以降、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。

市場予想では2024年は▲1.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+75ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲225ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲150ドルの価格低下となる。

現在の金価格を1,950ドルとすれば、1,800ドル程度までの下落がありそうだ。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。

仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると21.6~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。

この数日で銀は100日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けしてテクニカルに急騰している。しかし、50日移動平均線が100日胃ヘを下抜けするデッドクロスとなっていることからいったん水準はテクニカルに切り下がろう。

本日は、米FOMCメンバーの発言が予定されており、神経質な推移が予想されるが、現状水準を維持すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。週間輸出検証高で米国の穀物輸出が先週から減少したことが材料となった。

小麦は、黒海でウクライナ軍がロシア船籍を攻撃したことで供給懸念が意識されたことが価格を押し上げた。

エルニーニョ現象が発生している場合、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。

しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。

本日は、ウクライナとロシアの緊張の高まりが供給懸念を醸成するため高値維持の公算。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化している)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「米景気ソフトランディングなら2024年にクラッシュのリスクも」

7月のFOMCで25bpの利上げが行われ、米国の政策金利であるFF金利は、リーマン・ショック、パリバ・ショック前の5.25%を上回る5.5%に達した。

この結果、FF金利からコアCPIを引いた実質FF金利はプラス圏に上昇し、米国は「実質金融引締め」の状態となっている。仮にここで景気が当初想定しているような減速局面にあれば、▲25bp程度の利下げを行い、軟着陸を目指す必要が出てくる。

しかし、まだ米国の景気は減速していない。直近発表された米GDPやコンファレンスボード消費者信頼感、耐久財受注などの諸々の統計は米景気がむしろ回復していることを示唆している。

しかし、過去の例では短期金利よりも長期金利の方が水準が低い逆イールドの状態が続くと、ほぼ100%に近い確率で景気後退局面が訪れており、今回も期間の長短はあるものの景気後退局面が訪れる可能性は高いとみられる。

実際、銀行の与信スタンスは利上げの加速やシリコンバレー銀行の破綻以降、厳格化しており、預金者も銀行から預金を引き出す動きが強まっている。

恐らく実質金利がさらにプラス幅を拡大すれば過去と同様、融資が減少し景況感は悪化すると予想される。

しかし、FF金利がこの水準にあっても10年長期金利はさほど上昇しておらず、住宅投資などは堅調に推移しており、金融引締めの効果を減じている。

10年金利の上昇が抑制されている最大の要因は、QEで供給した資金の回収が終了していない点。

経済のクラッシュを回避するために「緩やかに」行われているQTの結果、FRBのバランスシートは2020年1月初で4兆1,270億ドルだったが、QTを進めている現時点でも8兆2,379億ドルと、2倍近い水準を維持しており、決して金融引締めが進んでいるとは言い難い。

この景況感が減速しない中、原油価格も上昇している。原油価格は世界景気、というよりも米国の景況感を反映して変化しやすい。

仮に、逆イールド期間発生→景気減速→金融緩和で逆イールド解消→景気底入れ→原油価格上昇、というバスを経ずに景気がいきなり底入れするならば、原油価格は想定よりもかなり早く上昇し、Brentで90ドルを目指し、場合によるとその水準も超える展開も有り得る。

この場合でも昨年の水準が高いため、Q323の原油価格は前年比では▲10%程度、Q423は±0%程度となり、生産者・消費者物価ヘの影響は限定される。しかし、2024年以降も90ドル超えが続けば、前年比+10%の上昇となる。

原油価格と米コアCPIの間には相関性がみられるが、原油1ドルの上昇で0.08%、コアCPIが上昇する。即ち10ドルの上昇は+0.8%のコアCPIの上昇要因となる。

より直接的にBrent原油価格とコアCPIの単回帰分析を行うと、Brent90ドルの時のコアCPIは5.5%となる。直近は4.8%であるため、再びインフレ懸念が高まることが想定される。

つまり、早期の景気底入れに伴う原油価格の上昇は、その他の商品価格(金属など)やサービス価格(分りやすいところで行けば、航空燃料代が含まれる、旅行サービス関連価格など)にも上昇圧力が掛ることになる。

この場合、期待インフレ率も上昇するため現在プラスの実質金利に低下圧力が掛ることから、2024年に利下げでなく再度の金融再度引締めのリスクを高めることも否定できなくなる。

実際、FOMCメンバーも「もうリセッションは想定していない」としていることを勘案すると、2024年は利下げが前提であるが、原油価格高騰を受けて意図せざる利上げに踏み切らざるを得なくなる可能性も残る。また、QTのペースを加速すれば経済がクラッシュする可能性も無視できない。


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