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米統計改善景気循環系商品上昇
  • MRA商品市場レポート

2023年7月28日 第2509号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米統計改善景気循環系商品上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、景気循環系商品が軒並み上昇し、前日上昇していたその他農産品などの非景気循環系商品が水準を切下げた。

昨日発表された米GDPや耐久財受注などの統計に改善が見られ、米国経済が減速していないことを確認する内容だったこと、FRBの利上げもあと1回程度が限界とみられていることが市場参加者のリスクテイク意欲を回復させたことが材料。

ECBは予定通り政策金利を引き上げたが、9月の会合でも追加利上げの可能性を示唆しており、徐々に先進各国の金融政策に「温度差」がはっきりし始めている。

その中でサプライズだったのが、日銀がYCCの修正を行う可能性が示唆されたことだが、円高・ドル安をもたらしたが、米統計の改善があるため今のところドル指数はむしろ上昇している。

【本日の見通し】

本日は、昨日の米統計が良好なないようだったことから、より注目されている米個人所得・支出・コア物価指数に注目が集まる。

市場予想は物価指数の低下と消費・所得の改善を見込んでおり、この通りであれば景気循環銘柄にさらに上昇圧力が掛る展開が予想される。今のところまだ、米経済に減速感は出ておらず、予想通りであるならば減速は年後半になろう。

本日の注目統計、イベントは以下の通り。昨日のトピックスでも解説している日銀政策会合でのYCCの扱いについても注目したい。

・6月米個人所得 市場予想 前月比+0.5%(前月+0.4%) 支出 +0.4%(+0.1%)、実質個人支出 +0.3%(±0.0%) デフレータ 前月比+0.2%(+0.1%)、前年比+3.0%(+3.8%) コアデフレータ 前月比+0.2%(+0.3%)、前年比+4.2%(+4.6%)

・7月独CPI

・G20環境・気候相会合

・日銀金融性政策決定会合・総裁記者会見

【昨日のトピックス】

昨日、突如日銀がYCCの修正を検討しているとの報道が流れた。日経新聞の報じるところでは、長期金利の誘導目標を0.5%に止めるものの、市場動向に応じて0.5%を一定程度超えることを容認する、というもの。

現在の指し値オペだと0.5%を上回る場合には無制限に購入を続けなければならなくなるが、市場で購入できる国債にも限りが有るためこのオペレーション制約を解除するために枠組を修正することにしたと考えられる。

ただ、明確なターゲットを示さなかったことで市場参加者は「どこまでの上昇は容認するのか」と金利には上昇圧力が掛る可能性が高まり、こうなるとまた同様に金利上昇を抑制するための防戦買いを行わなければならなくなる。

米国が期待通りリセッションに向かってくれるならば、米長期金利も上昇が抑制されるが、昨日発表の米GDPや前日発表されたコンファレンスボード消費者信頼感指数などはむしろ改善しており、まだ、米国の景気は後退していない。

そのため、米長期金利は昨日、再び4%に乗せた。結局、各国の長期金利は米国債動向をフォローするため、このタイミングでのYCC解除は、恐らく金利の上昇要因となる。

これまでの大規模緩和は、前黒田総裁が「円安は日本にとってメリット」と発言してきたことからも分るように、日銀の責務ではない円安進行を企図して行っていた可能性は否定できない。

確かに円安でインバウンド消費で外国人旅行者は喜ぶが、彼らを喜ばせるために、日本に居住している日本人が困窮する、というのは本末転倒である。

円安進行は大規模緩和と日本の先々を悲観してのものであり、それこそアベクロダノミクスの成果とも言えるが、円高が進んだ時に輸出企業も現地生産を進めており、これまでほどの円安のメリットはない。

今回、このような修正を持ち出してきたのは、上記のオペの限界に加え、為替の急速な円安を受けた消費者物価の高騰を抑制したいとの思惑があったと考えるのが妥当だろう。

ただ、円高に誘導した場合、物価上昇率が再び低下を始める可能性もある。この場合、それこそこれまでやってきた異常な政策を継続せざるを得なくなる。

このコラムでも繰り返し主張しているが、アベクロダノミクスで行ってきた、異常な金融政策(やる必要がなかった長期金利を無理矢理引き下げる政策)を正常化するのは容易ではないことを示唆している。今日の政策会合ではどのような結論になるのだろうか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米GDPが市場予想を上回り、米国経済がまだ堅調であること、今週発表された米統計が良好なものが多かったこと、さらに日銀のYCC修正報道を受けたドル安進行がファイナンシャルな面で価格を押し上げた。

結局、米国経済はまだ減速しておらず、リセッションも回避されるという市場コンセンサス通りの展開になる可能性が出てきたと「市場が判断」し始めたようだ。

なお、現在の価格水準はこのエネルギーコラムの後半で解説している「3」の状態の範囲内であるが、弊社の想定よりもかなり早いタイミングで価格が上振れしている。

昨日の「昨日のトピックス」でもコメントしているように、米国経済が減速するのはこれからであり、まだこのまま原油価格が高騰するシナリオはまだリスクシナリオの位置づけだ。

というのも、これまで逆イールド期間の継続と、景気後退局面入が同時に起きていることはなく、逆イールド期間終了後に(金融緩和開始)原油価格が上昇し、その後、景気後退を経て価格が下落、景気後退局面が終了してから再び価格が上昇する、というパスを経ることが一般的(というか1990年以降は全てそうなっている)だったからだ。

しかし、今回そのバスを経ずに景気が底入れするならば、原油価格は想定よりもかなり早く上昇し、Brentで90ドルを目指し、場合によるとその水準も超える展開になってもおかしくない

この場合でも、Q323の原油価格は前年比では▲10%程度、Q423は±0%程度となるため、物価ヘの影響は限定される。しかし、2024年以降も90ドル超えが続けば、前年比+10%の上昇となる。

原油価格と米コアCPIの間には相関性がみられるが、原油1ドルの上昇で0.08%、コアCPIが上昇する。即ち10ドルの上昇は+0.8%のコアCPIの上昇要因となる。

より直接的にBrent原油価格とコアCPIの単回帰分析を行うと、Brent90ドルの時にコアCPIは5.5%となる。直近は4.8%であるため、再びインフレ懸念が高まることが想定される。原油価格の上昇は、その他の商品価格(金属など)やサービス価格(分りやすいところで行けば、航空燃料代が含まれる、旅行サービス関連価格など)にも上昇圧力が掛ることになる。

この場合、期待インフレ率も上昇するため現在プラスの実質金利に低下圧力が掛ることから、2024年に利下げでなく再度の金融再度引締めのリスクを高めることも否定できない。

OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。

しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。

問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。

 OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
 サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
 ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施

 サウジ 7月以降も▲100万バレルの追加減産

サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。

一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。

7月18日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+20,044枚、ショートが▲12,622枚と、強気ポジションを維持。

Brentはロングが▲30,891枚、ショートが+9,442枚と、リビアの生産再開などが材料になった可能性が高い。

6月の中国の原油輸入は前年比+45.3%の5,206万2,000トン(前月+12.3%の5,144万4,000トン)と伸びが前月からさらに加速した。この水準は同じ時期の過去5年の最高水準に迫る。

今回の輸入増加は、製油業者のメンテナンス終了と、ティーポットと言われる独立系生産者の輸入枠拡大が影響したとみられる。

一方、石油製品は輸入が前年比+168.8%の441万トン(前月+195.9%の438万トン)とこちらも大幅に加速、輸出は+40.9%の451万トン(▲1.8%の375万トン)と回復したが、過去5年平均は下回っている。

国内景気の回復が遅れる中、原油の輸入増加は先々の製品輸出の増加に繋がる可能性がある。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス・OPECプラス)が増産/減産する
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

Q323~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、短期的に買われ過ぎのサインが出ていること、週末であることからさすがに調整売りに押されて下落すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は下落。気温上昇はあるものの、太陽光や風力などの発電が回復していること、ガス貯蔵設備のキャパシティ問題、これまでの上昇の反動から水準を切下げている。ただ、小動きだった。

弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要削減をしなくても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。

しかし、仮にロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。

ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、延いてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。

また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇擦る)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。

そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。

しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。今年はエルニーニョ現象、冬はスーパーエルニーニョ、ないしは再びラニーニャ現象の発生が懸念されており、そのリスクは無視できない。

3.4.は顕在化している。特に3.に関しては恐らく今年がロシア・ウクライナ戦争の山場である可能性が高く、ロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。

5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。

今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇し、過去2年のレンジを上抜けした状態が続いている。気温の上昇や冬場に向けた調達圧力が高まっているものと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス市場は期近が下落した。CDD見通しが大幅に低下し、気温上昇観測が後退したことが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物市場は小動き。猛暑と日本の天然ガス在庫の水準の低さと、TTFの下落といった強弱材料混在で。

現在のJLCの水準は12.74ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。

その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

6月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+19.2%の1,039万トン(前月+17.3%の1,064万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。

6月のパイプラインベースの輸入は前年比+13.6%の443万トン(前月+1.9%の423万トン)と過去5年の最高水準(390万トン)を上回った。

6月のLNG輸入は前年比+23.5%の595万8,000トン(前月+30.2%の641万3,000トン)と前月から伸びは減速したものの、過去5年平均(515万2,000トン)を上回っている。

6月の中国の天然ガス生産は+5.8%の1,338万2,000トン(前月+7.3%の1,397万1,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

6月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の7,751億kwh(前月+7.5%の7,222億Kwh)と伸びが減速したが、依然、過去5年レンジを上回った状態が続いている。

気温上昇による需要増加の面も否めず、景気の先行きは不透明で、中国南部の降雨による水力発電の回復をみるに、高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

7月23日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は198万トン(過去5年平均259万4,200トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は208万トン)と、いずれの集計でも過去5年平均を下回った。

速報性のある大手電力以外の在庫も含めた水準と比較すると、過去5年の最低水準に近い。

現在、日本は猛暑の状態であり、スポット価格の上昇リスクは低くなく、冬場の調達圧力も高まることになるだろう。

サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

本日は、世界の景気減速見通しはあるものの、ほぼ全世界的に気温上昇が確認されており冷房需要の増加観測が価格を高止まりさせると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は小幅に低下。欧州ガス価格の下落とこれまで数日間上昇してきたことの反動。尚、まだ夏は続くため、北半球の気温上昇を背景とした発電用燃料需要増加、ガス在庫のスペース不足に伴い、保管がより簡単な石炭物色の動きは続くと見られ、高い水準を維持している。

ここしばらく、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴになるか、とみて注視しているが、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは引き続き、注意したい。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は135ドル、±1標準偏差で65~205ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が145~155ドル程度まで再び上昇しているため、145~205ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安い。。

2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できない。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+110.0%の3,987万1,000トン(前月+92.6%の3,958万4,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。

ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。

国別では特にロシアからの輸入増加(+149万トン)と顕著であり、次いでカナダ(+31万トン)、米国(+15万トン)となっている。

6月の中国の石炭生産は、前年比+2.5%の3億8,863万トン、1,295万4,000トン/日(前月+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日)と伸びが減速した。

6月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の7,751億kwh(前月+7.5%の7,222億Kwh)と伸びが減速したが、依然、過去5年レンジを上回った状態が続いている。

今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇による電力供給減少がなければ、南部の降雨による水力発電の回復や、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

本日は、気温上昇とロシアのガス供給停止ヘの懸念からガス価格が高止まりすると予想され、石炭価格も堅調な推移を予想。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は下落した。中国の経済対策ヘの期待から上昇していたことの反動。

中国は経済対策を打ち出す方針を示したが、財政的に「ない袖は振れない」と考えられるため、具体的に景気を浮揚させる政策をこのタイミングで打ち出せる可能性はさほど高くない。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。

とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。

なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えば「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるが、経済対策実施を匂わせている現時点でもそのタイミングは不明。

COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、LME銅と亜鉛は売り越し幅を拡大(買越し幅を縮小)したが、その他は買越し幅を拡大(売り越し幅を縮小)した。

今週予定されている中銀ウィークを控え、ポジション調整的な取引が主体と考えられる。

ただ全体では「やや」ネット買越しの状態であり、まだ投機筋の買い余力は存在している。そのため、中国政府の経済対策実施見通しは価格を投機的な面から押し上げやすい。

6月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲16.4%の44万9,649トン(前月▲4.6%の44万4,010トン)と過去5年平均を下回った。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+3.2%の212万5,046トン(+16.9%の256万トン)と過去5年の最高水準で推移しているが、前月からは数量が減った。

経済活動再開を意識して銅精鉱の輸入が増加していたが、電力不足や経済活動再開の遅れから輸入全体のペースが鈍っている状況。

6月の中国の精錬銅生産は+17.5%の109万6,000トン(前月+26.9%の109万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。

6月の銅スクラップの輸入は前年比+2.8%の16万9,754トン(前月+11.6%の17万6,490トン)と過去5年平均を回復した。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。

この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。

本日は、米統計の改善を受けてFOMCで否定していなかったように、年内利上げの可能性が高まっているためドル高が進行していることから、ファイナンシャルな面で水準を切り下げると考えられる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

中国政府の内需刺激策の詳細は明らかではないが、鉄鋼製品在庫の減少による鉄鋼製品価格の上昇が鉄鋼原料価格を押し上げた。

現在、疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)と鉄鋼製品との関係性は回復している。ただ、鉄鋼原料調達は最終消費動向に左右されるため、当面、鉄鋼製品価格動向が重要になってくる。

ロシア問題の一巡、原料炭もロシア・モンゴルからの輸入が増加しており(特にモンゴル)、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていない。

結果、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため、最終需要が増加するような経済対策の実施がなければ、総じて下押し圧力が掛りやすい。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲4万7,000トンの1,276万7,000トン(過去5年平均 1,381万9,000トン)と過去5年平均を下回っている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲50万トンの1億2,280万トン(過去5年平均 1億2,914万6,000トン)、在庫日数は25.1日(▲0.1日、過去5年平均27.1日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均を下回っている。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+2万トンの194万トン(過去5年平均 181万4,000トン)、在庫日数は+0.1日の7.4日(過去5年平均 7.1日)とこちらは在庫水準・日数ベースでも需給は緩和している。

6月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲22.5%の61万2,010トン(前月▲22.2%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

6月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比▲0.7%の750間8,100トン(+7.7%の836万トン)と昨年の水準を下回ったが、過去5年の最高水準は下回ってきた。

6月の中国粗鋼生産は前年比+0.4%の9,111万トン(前月▲6.7%の9,012万トン)と小幅に増加し、過去5年平均を上回った。

これまで値引きを行って輸出を促進してきたが、それでも在庫解消に時間が掛っているため生産調整が進むかと思われたが、前年・前月よりも生産は回復している。

7月が不需要期であること、製造業全体の在庫循環図は調整局面入りしていることを考えると、7月以降の生産は減少するのではないか。

鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないと考える。

バランスシート不況にあると考えられる中国は公的セクターの支出を必要としているが、大きな経済対策を打ち出せるほど中国の財布は大きくない。

一部報道では1兆元規模の特別国債の発行(インフラ投資目的)を検討、大都市以外の地域を対象に非居住用の購入制限の撤廃を検討していると報じているが、今のところその動きはみられていない。

本日は、中国政府の対策期待が再び高まっているが、対策実施の遅れが上昇余地を減じるため、結局現状維持となろう。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米経済統計の改善を受けた長期金利の上昇が基準価格を▲38ドル押し下げたが、リスク・プレミアムが+12ドル上昇し、この影響を相殺した。

銀は金価格の下落を受けて下落、PGMは株価の下落もあってさらに大きな下落に。

金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。

これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。

恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。

恐らく、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。

金の価格を構成要素に分解することは、各要素が互いに影響を及ぼし合っているため余り意味がない。

しかし、現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が4割、信用リスク要因が2割、その他の要因が3割となる。

過去実質金利異常に、その他の要因のシェアが大きくなったのは、第一次オイルショック~プラザ合意にかけてが最も高く、有事やドル価値の減価に備えて「各国が金準備を増やした時」であり、現在の状況はこのときの状況と類似する。

この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。

年内利上げは、7月FOMC以降、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。

市場予想では2024年は▲1.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+75ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲225ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲150ドルの価格低下となる。

現在の金価格を1,950ドルとすれば、1,800ドル程度までの下落がありそうだ。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。

仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると21.6~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。

この数日で銀は100日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けしてテクニカルに急騰している。しかし、50日移動平均線が100日胃ヘを下抜けするデッドクロスとなっていることからいったん水準はテクニカルに切り下がろう。

本日は、米統計改善を受けたFOMCの年内利上げの可能性の高まりから、軟調な推移になると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。プーチンがアフリカ向けに「ロシア産穀物の供給」を表明したことや、ドル高進行が材料となった。

エルニーニョ現象が発生している場合、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。

しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。

本日は、米統計改善を受けたドル高進行と、ロシアの穀物供給報道を受けて軟調推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化している)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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