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注目の中央銀行ウィーク
  • MRA外国為替レポート

2023年7月24日号

◆先週の市場総括


先週は円が急反落。G20後の記者会見で植田日銀総裁があらためて現行の金融政策維持を示唆したことで円安が進んだ。ドル円相場は138円台から140円台へ。週末には142円ちょうどに迫り引けは141円80銭近辺。

ユーロ円相場は155円台から158円ちょうどに上昇し引けは157円80銭。

米国の経済指標は景気鈍化・インフレ鈍化でソフトランディング期待を強めるものだったが、次週のFOMCを前に利上げ警戒感は変わらず。米2年債利回りは上昇基調となりドルを支えた。

ユーロドル相場は1.13台前半から1.11台前半へユーロ安ドル高。ドルインデックスは100ポイント割れで始まり週末に101ポイント台まで上昇。

米国株は個別決算で上下動。総じてNYダウは堅調。一方、ハイテク株は下落。日経平均も米ハイテク株安に押され、円安が支えとなったが32,000円台前半で取引を終えた。

月曜日の東京市場は休場。為替市場ではやや円高に振れたあとは横ばい。

アジア時間のドル円相場は138円80銭近辺で始まり一時40銭に下落したあと持ち直し、概ね138円台後半で上下。欧州時間に入ると138円ちょうど近辺に下落した。

ユーロ円相場は155円80銭で始まり30銭に下落したあと155円台後半で上下。欧州時間に156円ちょうど近辺に上昇したあと155円10画戦に下落。ユーロドル相場は1.1220~30で小動きのあと欧州時間に1.1250へ上昇。

発表された中国の経済指標は弱く、中国景気懸念があらためて意識された。GDP(4-6月期)は前年同月比が+6.3%と前期+4.5%から加速したものの前年同期はコロナ禍で落ち込んでいたため評価できず。前期比は+0.8%と前期+2.2%から減速し低迷。

小売売上高(6月)は前年同月比+3.1%と前月+12.1%から鈍化。鉱工業生産は+4.4%と前月+3.5%から上昇したが、固定資産投資は+3.8%と前月+4.0%から減速した。

米国株は決算発表を前に様子見。先週の物価指標でインフレ鈍化が示され利上げ打ち止め期待、ソフトランディング期待が強まったことは株価の支え。

長期金利低下はハイテク株を支えたが、一方で中国景気懸念は重石となった。NYダウは前週末比+76ドル高の34,585ドル、ナスダックは+131ドル高の14,244ドル。

米10年債利回りは3.81%へ、2年債は4.74%へそれぞれ小幅低下した。

NY連銀製造業景気指数(7月)は前月6.6から1.1へ低下したが予想▲3.5を上回った。ドル円相場はこれを受けて一時139円40銭に上昇。その後は反落して138円70銭近辺で引け。

ユーロドル相場は1.1200近辺に下落したあと反発して1.1240で引け。ユーロ円相場は156円10銭~30銭に反発したが、引けにかけて下落して155円90銭で取引を終えた。

火曜日の東京市場では日経平均が上昇。朝方は米国株の堅調を受けてハイテク株、半導体関連株、値がさ株が買われ一時前週末比+300円超上昇。しかしその後は中国景気懸念などが重石となって伸び悩み。引けは+102円高の32,493円。

ドル円相場は138円70銭で始まり朝方90銭に上昇したが軟調。夕刻は138円10銭~30銭で上下。ユーロ円相場は155円90銭で始まり156円10銭に上昇したあと反落して夕刻は155円40銭近辺で上下した。

ユーロドル相場は1.1240で始まり1.1270へじり高も、夕刻は1.1230へ押し戻された。

米国市場では経済指標を受けて乱高下。発表された米国の小売売上高(6月)は前月比が前月の+0.5%(+0.3%から上方修正)から+0.2%に減速。除く自動車では+0.3%(+0.1%から上方修正)から+0.2%へやや減速。

鉱工業生産は▲0.2%から▲0.5%へマイナス幅が拡大した。設備稼働率は前月79.6%から78.9%に低下。

ドル円相場は137円70銭に下落したあと138円60銭に急反発、137円80銭へ急落、139円ちょうどへ反発、と乱高下し、引けにかけては138円後半~139円10銭で上下して引けは138円80銭。

ユーロドル相場は1.1270へ上昇、1.1220へ反落と上下したあと1.1230近辺で引け。ユーロ円相場は154円90銭に急落、156円に急反発、その後は155円90銭近辺で上下して引け。

米国株は上昇、NYダウは7営業日続伸。昨年4月以来の高値をつけた。予想を上回る決算内容の発表が続き、買いが広がった。景気鈍化もインフレ鈍化はプラスと受け止められた。NYダウは+366ドル高の34,951ドル、ナスダックは+108ドル高の14,353ドルで引け。

米長期金利はまちまち。10年債はやや低下して3.792%、2年債はやや上昇して4.764%。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅高。前日の米国株が堅調、円安、で投資家心理が改善。日銀・植田総裁の発言で早期の金融政策修正観測が後退したことで海外勢からの買いも入った。引けは前日比+402円高の32,896円。

為替市場では円安が進行。インドで開催されていたG20財務相・中央銀行総裁会議後の会見で、日銀・植田総裁が、持続的・安定的な2%の物価目標達成にはまだまだ距離がある、との認識を示し、前提が変わらない限り全体のストーリーは不変、と述べた。

これを受けて早期の金融政策修正期待が後退。円売り戻しが強まった。ドル円相場は138円80銭で始まり午後、東証引けには139円60銭まで上昇。その後20銭近辺に反落したが欧州市場では140円ちょうど近辺まで上昇した。

ユーロ円相場も155円90銭で始まり終始右肩上がり。欧州市場では157円20銭まで上昇した。ユーロドル相場は1.1230で始まり午後には1.12ちょうど近辺にやや弱含み。その後欧州市場では1.1240に上昇したが全体的に小動きだった。

米国市場に入ると欧州通貨が対ドルで軟調。イギリスのインフレ指標が予想を下回ったことで利上げ長期化観測が後退しポンド安。連れてユーロも下落した。

ユーロドル相場は1.1180へ。引けは1.12ちょうど近辺。ユーロ円相場も156円20銭に下落し156円台前半で上下し引けは156円30銭。ドル円相場は139円40銭~70銭で上下動の後に140円近辺に反発するなど底固く139円60銭~80銭で上下して引け。

米国株は小じっかり。決算が良好で業績期待が下支え。NYダウは8連騰で前日比+109ドル高の35,061ドル。ナスダックは+4ドル高の14,358ドル。

米10年債利回りはやや低下して3.748%、2年債はやや上昇して4.768%。発表された米国の住宅着工件数(6月)は季節調整済み年率換算で1,434千戸と前月1,631千戸から大きく減少した。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。前日の大幅高をすべて吐き出した。米国市場の時間外でテスラ株が決算を受けて大幅安。日本企業の決算発表前で様子見姿勢が強かった。引けは▲405円安の32,490円。

ドル円相場は139円50銭で始まり20銭に下落しもみ合い。その後夕刻には60銭に反発して欧州市場では40銭~60銭で上下した。

発表された日本の通関統計(6月)は貿易収支が430億円の黒字となった。ユーロ円相場は156円30銭で始まり156円台前半で上下。米国市場では米長期金利の上昇に連れてドルが上昇。ドル円相場は140円50銭をつけた。その後は反落して140円10銭近辺で引け。

ユーロドル相場は1.1120近辺に下落して引けは1.1130。ユーロ円相場は155円90銭に下落して引け。米10年債利回りは3.86%へ、2年債利回りは4.483%へ上昇。

週次の失業保険新規申請件数は228千人と前週237千人から減少。中古住宅販売(6月)は季節調整済み年率換算で416万戸と前月430万戸から減少。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(7月)は前月▲13.7から▲13.5とほぼ変わらず。

米国株はまちまち。決算が良好だった銘柄が買われNYダウは8連騰。前日比+163ドル高の35,225ドル。テスラ、ネットフリックスなどが決算を受け大幅安。長期金利上昇が重石となりハイテク株が売られたことでナスダックは▲294ドル安の14,063ドルで引けた。

金曜日の東京市場では日経平均が続落。米ハイテク株安が重石となり、半導体関連が大幅安。一方、円安を材料に押し目買いが支えとなった。引けは▲186円安の32,304円。

ドル円相場は140円10銭で始まり朝方はCPIを受けて小幅円高に振れ139円80銭。ただ、すぐに反発し140円30銭に上昇。その後は140円ちょうど~30銭で夕刻まで上下した。

ユーロ円相場も同様に155円90銭で始まり60銭に下落したあと156円20銭台に反発。その後は156円ちょうど~20銭で上下。

発表された日本の消費者物価指数(6月)は前年同月比+3.3%と前月+3.2%から上昇がやや加速。除く生鮮食品は+3.3%と前月+3.2%から加速。除く生鮮食品・エネルギーベースでは+4.2%と前月+4.3%からやや上昇が鈍化したものの高水準にとどまった。

夕刻には急速に円安が進行。

一部報道で、今回の金融政策決定会合では政策修正は見送り、と報じられたことが材料。すでに織り込み済みの材料ながらあらためて円売りで反応した。

ドル円相場は142円目前まで急騰。ただその後は伸び悩み米国市場では141円20銭台に下落。引けにかけては持ち直し141円80銭で週末NYの取引を終えた。

ユーロ円相場も158円ちょうど近辺に急騰。その後は157円20銭に押し戻され、引けにかけてはじり高となって157円80銭で引け。

ユーロドル相場は東京市場から欧米市場にかけて動意薄、極めて狭いレンジでもみ合い横ばい。東京市場は1.1130で始まり夕刻は1.1140。欧米市場では1.1110~30で上下し引けは1.1120。

米国株は前日とほぼ変わらず。個別決算を材料に売り買い交錯。NYダウはこのところの上昇で利益確定売りが出やすく、ハイテクは軟調な流れが続いた。

NYダウの引けは前日比+2ドル高の35,227ドル。ナスダックは▲30ドル安の14,032ドル。米10年債利回りはやや低下して3.841%。2年債は上昇基調が続き4.848%。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC、パウエル議長会見

火曜日・水曜日の2日間、FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催される。0.25%の利上げ実施が市場予想の大勢。政策金利誘導水準は現行の5.00%-5.25%から5.25%-5.50%となる見込み。

タカ派はなお強硬姿勢を維持しているか。今回を含めて年内2回、あと1回の利上げを主張するメンバーが大勢か。

あるいは一部には打ち止めを主張する少数派もおり、パウエル議長のスタンスが気になるところ。9月の利上げはオープンとの見解を示すとみられるが、景気物価認識はどうか。インフレ鈍化に安堵感がうかがえるか。

2.米国の経済指標

全体として景気鈍化・インフレ鈍化を示すか。

月曜日 PMI景況感指数(7月、製造業、予想46.1、前月46.3、サービス業、予想54.3、前月54.4)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(5月、前年同月比、前月▲1.7%) 消費者信頼感(7月、予想112.0、前月109.7) リッチモンド連銀製造業指数(7月、前月▲7)

水曜日 新築住宅販売(6月、季節調整済み年率換算、予想721千戸、前月763千戸)

木曜日 週次の失業保険申請件数、GDP(4-6月期速報、前期比年率、予想+1.8%、前期+2.0%、個人消費、前期+4.2%) コア消費価格指数(前期+4.9%) 耐久財受注(6月、前月比、予想+0.5%、前期+1.8%)

金曜日 雇用コスト指数(4-6月期、前期比、予想+1.1%、前期+1.2%) 個人所得・消費支出(6月、前月比、予想+0.5%・+0.4%、前月+0.4%・+0.1%) PCEデフレーター(前年同月比、予想+3.1%、前月+3.8%、コア、予想+4.2%、前月+4.6%) ミシガン大学消費者態度指数(7月確報、速報72.6)

3.ECB理事会、日銀金融政策決定会合

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。今回も前回に続き0.25%の利上げを実施、政策金利は4.00%から4.25%に変更が見込まれる。

前回会合後の会見ではラガルド総裁は数次の利上げを示唆するタカ派発言を行っていた。今回はどうか。なお利上げ継続を明確に示唆するか。

木曜日・金曜日の2日間、日銀が金融政策決定会合を実施する。終了後に植田総裁が定例会見を行う。最近の総裁発言から政策変更はないとの見方が大勢。展望レポートではどのような景気物価観が示されるか。

◆今週のMRA's Eye


注目の中央銀行ウィーク

今週は日米欧で金融政策決定会合が相次ぐ。あらためて内外金融政策格差が意識されて円安方向への巻き戻しが強まるか。あるいは欧米で何らかのスタンス変化が垣間見え円安が一服するか。想定外に日銀が政策修正を匂わせることはないか。

口火を切るのはFRB。今回の会合では0.25%の利上げが確定的との見方が市場の大勢。

前回会合で示されたFOMCメンバーの見通しでは、年内2回が大勢だった。

パウエル議長はデータ次第として明言を避けながらも、多くのメンバーはあと2回利上げが適切とみている、と間接的に2回利上げの可能性を示唆してきた。

これに対し市場の見方はあと1回か2回の利上げで見方は割れる。7月会合での利上げが最後との見方が有力だが、このところ2回利上げを織り込む動きも相応に根強い。

足元の経済指標をみると、雇用情勢は引き続き引き締まっている。企業の景況感は製造業で悪化基調にあるが、サービス業においては悪化しつつもその度合いは緩やか。

肝心のインフレ動向は、引き続き鈍化基調にある。

モノについては物価上昇率の鈍化が明確。一方、サービスについては賃金上昇率が十分に低下していないこともあり、鈍化が緩慢で遅々として進んでいない。

ただし、傾向として、景気悪化・インフレ鈍化が続いていることから、利上げを焦る必要がなく、様子見とする余裕は今会合でさらに広がりそうだ。

すでに様々なインフレ率は政策金利を下回っている。ついにコアPCEも政策金利を1%程度下回る4%台前半となりそうだ。

今回はメンバーの予想は示されず、会合後のパウエル議長の会見が今後の政策動向を判断する手掛かりとなる。

おそらく、今回の利上げのあとでも、議長はデータ次第との姿勢は崩さないと想定される。

早期に利上げ打ち止め感が市場に蔓延し、長期金利が低下、資産価格が上昇するなど、景気刺激的な動きとなることは避けたいだろう。

今回の利上げで十分かどうか、判断できない、との姿勢を示しそうだ。次回9月会合まではまだ時間がある。FRBの見方と市場の見方はかなり擦り寄って、両者のギャップは利上げあと1回分の有無、ないしそれ未満となっている。

9月会合まで答えは不明だが、従来よりも振れ幅が小さいなかで、市場は様々な材料に反応し上下しそうだ。

やや先を見通せば、その間に景気物価動向がどう変化しているか。雇用情勢が緩和し賃金上昇が鈍化しているか。インフレ率、CPIやPCEデフレーターなどの上昇率が一段と明確に鈍化するか、サービスインフレが鎮静化を明確とするか、余剰資金を背景に好調を続けてきた個人消費に息切れ感が強まるか。

当局者の発言がハト派サイドに傾くことは当面あまり期待できない。景気インフレの鈍化に加えて9月会合での利上げ見送りとなれば、事後的に7月の利上げが最後だったことを確認するのが精いっぱいだろう。

9月見送りでも、6月見送り、7月利上げ、との実績をもって、なお再利上げ実施の可能性を排除しないと強調されれば、疑心暗鬼の状況は次々会合(10月31日・11月1日)まで続く可能性もある。

ECB理事会では0.25%の利上げが想定されており、政策金利は4.00%から4.25%になるとの見方が大勢だ。ラガルド総裁の利上げ積極姿勢はパウエル議長よりも明確。米国に比べて欧州のインフレ率の鈍化は捗々しくない。

インフレ率はCPIが総合で5.5%、コア指数でも5.5%と政策金利よりもなお1%超上回った状態にある。インフレ率と政策金利の動向からは、なお利上げ余地が大きいとの見方は妥当。

一方で欧州の景気悪化懸念は米国よりも大きい。中国経済の低迷が想定以上に長引いていることから、この先の景気動向に厳しさが増す可能性がある。

インフレ動向からすれば利上げ余地が大きいようにみえるが、景気を過度に抑制するリスクもある。米国に比べて欧州のほうがハードランディングのリスクが高いと思われる。

当面は限界的な金融政策格差がユーロを押し上げる可能性がある。しかし中期的にはダウンサイドリスクが強まるだろう。

日銀は今会合で政策修正に動く可能性が低くなった。

次の一手はイールドカーブ・コントロールの撤廃とみられるが、植田総裁の現行政策維持姿勢は頑ななようだ。

総裁はG20会合後の会見で、インフレ目標2%が持続的・安定的に達成されると確信できる状況にはまだまだ遠い、と発言した。仮に政策修正に動くとしても何ら事前のアナウンスメントなしに突然実施するしか方法はない。

しかし市場で政策修正期待が高まるなか、あえて否定的な発言をしたということは、今会合では修正しないと考えるのが妥当だろう。

国内の物価動向はなお値上げが持続的に行われている。それでも今は動かず来年を見越した政策判断が続くなら、政策修正期待が鎮静化した状況が長引く可能性もある。日銀のスタンスからは、金融政策格差からの円先安感、投機的な円売り圧力が続く可能性がある。

円高基調への転換は、米国ないし欧州次第になる。金利先高感が消失するか、景気悪化がさらに進行してリスク回避が強まるか。ドル円相場は140円台前半から上は重くなったとみられるが、7-9月期はなお円安値圏で波乱継続と想定される。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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