中国統計市場予想を下回り総じて軟調
- MRA商品市場レポート
2023年7月18日 第2501号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「中国統計市場予想を下回り総じて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場はその他農産品や、異国通貨建て商品価格が上昇したが、その他の商品は軒並み水準を切下げた。
米国のインフレ関連を材料にした売買は、FOMCメンバーがブラックアウト期間に入ったため目先いったん終了したが、逆に発言がないタイミングであるため神経質になりやすい。
そんな中、中国の重要統計が発表になったが(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)、軒並み同国の景気が回復していないことを示唆する内容であり、特に景気に敏感な景気循環系商品価格が水準を切下げる動きとなった。
昨日、イエレン財務長官は「リセッション入りすることなく、米国経済は回復し、インフレも抑制できる」と自信を覗かせたが、この状態で景気が回復すると恐らくエネルギ-価格が上昇することになり、来年再び資源インフレヘの対応が必要になると予想される。
一応、来年追加利上げがあるというシナリオは、資源価格が景気回復と相まって上昇した場合のリスクシナリオの位置づけではあるが可能性の低いシナリオとも言い切れない。
また、過去の利上げ局面(逆イールド局面)では、ほぼ、その期間と同じだけの景気後退局面が米国に訪れているため、来年以降の景気が低迷するリスクも無視できない。これから年末にかけての金融政策動向と景気のパス、インフレ動向が来年の経済見通しに大きな影響を与えるのではないか。
【本日の見通し】
本日は、米景気の先行きヘの楽観と、中国の景気先行きヘの懸念といった強弱材料が混在する中で、まちまちとなるのではないか。非鉄金属などは下げが大きかったことから、実需筋の買い戻しで上昇するとみている。
しかし、市場は中国の景気回復をかなり過剰に期待していたため、中国政府の対応が遅れていることを考えると、やはり最終的に下落する商品が目立つとみている。
それとは別に、利上げ打ち止めで先行きヘの楽観が広がっている株価は堅調な推移になり、それがリスク資産価格を下支えすることが予想される。
ただ、米国の高金利政策で徐々にではあるが米労働市場も減速、回転信用の上昇による借金消費が限界に差し掛かっていること、今後、教育ローン減免の終了で中低所得者の消費が減速するリスクは意識しておくべきだろう。その意味で、本日の米小売売上高には注目している。
本日予定されているイベント・統計で注目は以下の通り。
・6月米小売売上高 市場予想 前月比+0.5%(前月+0.3%) 除く自動車 +0.3%(+0.1%) 除く自動車・ガソリン +0.3%(+0.4%) 除く自動車・建材 +0.3%(+0.2%)
・6月米鉱工業生産 前月比±0.0%(▲0.2%)
・7月米NAHB住宅市場指数 56(55)
・米バイデン大統領、イスラエルネタニヤフ首相と会談
・FRB副議長(銀行監督担当)講演
【昨日のトピックス】
昨日発表された中国の重要統計は、強弱まちまちながらも、総じて中国の経済活動の回復が遅れていることを示唆する内容となった。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-6月期が前年比+3.8%(市場予想 +3.5%、1-5月期+3.6%)、6月単月が+4.4%(+2.5%、前月 +3.5%)と市場予想を上回った。ただし、比較対象期間が昨年の「ロックダウン期間」を含むため、決して強い統計とは言えない。
業種別に見ると、自動車製造(+23.8%→+8.8%)、電気機械(+15.4%→+15.4%)、加工金属製品製造(▲0.4%→+2.4%)、一般機械(+6.1%→▲0.2%)、通信・PC・電子機器(±0.0%→+1.2%)と昨年の発射台が低いにもかかわらず低迷している。
GDPに占める個人消費の比率が上昇しているため小売売上高は重要であるが、年初来累計で前年比+8.2%(市場予想 +8.0%、前月 +9.3%)、5月 +3.1%(+3.3%、+12.7%)と市場予想は年初来累計が上回ったが、単月では下回り、前月からも伸びが減速した。
消費の内訳を見ると、自動車▲1.1%(前月+24.2%)、通信機器+6.6%(+27.4%)と耐久消費財の伸びが減速している。昨年6月はロックダウン期間空けであるためやや消費が強かったからそのためと考えられるが、総じて想定よりも個人消費は強くない。
ストック需要の指標である固定資産投資は、年初来累計で前年比+3.8%(市場予想+3.4%、1-5月期+4.0%)と市場予想は上回ったが、前期累計は下回った。また、公的+8.1%(+8.4%)、民間 ▲0.2%(▲0.1%)と公的・民間とも伸びが減速、シェアの大きな民間はマイナス幅が拡大している。
住宅販売も年初来累計で前年比+3.7%(+11.9%)と伸びが大幅に減速、主要都市の住宅在庫月数も再び上昇している。
主要都市では北京の住宅在庫は18.2ヵ月(前月17.4ヵ月)、深センが20.6ヵ月(19.3ヵ月)、広州が17.6ヵ月(14.9ヵ月)と上昇しており、中国の不動産在庫の解消は容易ではないことをうかがわせる。
在庫解消が終了していないことから、不動産開発投資は年初来で前年比▲7.9%(▲7.5%、1-5月期▲7.2%)と前年比マイナス幅を拡大しており、市場予想も下回っている。
新たな開発投資がなければ地方政府も不動産収入も増加しないため、そろそろない袖は振れない状態になってきたのではないか。
失業率は5.2%(5.2%)と横這い。ただし、16-24歳失業率は21.3%(20.8%)とさらに上昇、過去最悪の水準を上回り暴動などが発生してもおかしく無い危険水準に達している。やはり海外の需要が減速した場合の中国経済の鈍化の可能性は高いと考えられる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は続落した。リビアの生産再開と、朝方発表された中国の経済統計が市場予想を下回るものが多く、同国の需要減少観測が強まったことが価格を下押しした。
中国はこの10年でエネルギー消費を増加させており、BP統計を元にすれば2022年の米国の石油需要が1,914万バレル/日であるのに対して、中国は1,429万5,000バレル/日と500万バレル程度の差しかなくなってきた(と言っても、500万バレルはインドの需要に匹敵するが)。
そのため、マクロ的な観点から中国の需要動向が原油価格に影響を及ぼすのは必須である。しかし中国統計が発表された後にこれが価格に織り込まれているケースは正直、余り見たことがない。
ただ、欧米調査機関は中国ファクターを今年~来年の需要見通しの重要な要素と位置づけており、それに基づいて取引を行っている市場参加者は多いため、結論とすると中国統計は無視できない、ということになる。
DOEデータが更新されたため、弊社モデルで原油価格見通しを再計算すると、Brentの価格予想が2023年が79.15ドル(6月27日付見通し77.84ドル)、2024年が84.39ドル(83.19ドル)、WTIは2023年が74.25ドル(73.02ドル)、78.92ドル(77.75ドル)となる。
弊社のオフィシャルビューから1~2ドル程度上昇することになるが、数字を全て見直ししなければならないほどのインパクトではないため、弊社はルール通り、次回価格見通しは10月に更新の予定。
OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。
しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。
問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。
OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施
サウジ 7月以降も▲100万バレルの追加減産
サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。
一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。
7月11日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+22,299枚、ショートが▲9,705枚と、強気に転じている。
Brentはロングが+25,023枚、ショートが▲23,100枚となっており、こちらも強気に転じている。
6月の中国の原油輸入は前年比+45.3%の5,206万2,000トン(前月+12.3%の5,144万4,000トン)と伸びが前月からさらに加速した。この水準は同じ時期の過去5年の最高水準に迫る。
今回の輸入増加は、製油業者のメンテナンス終了と、ティーポットと言われる独立系生産者の輸入枠拡大が影響したとみられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+168.8%の441万トン(前月+195.9%の438万トン)とこちらも大幅に加速、輸出は+40.9%の451万トン(▲1.8%の375万トン)と回復したが、過去5年平均は下回っている。
国内景気の回復が遅れる中、原油の輸入増加は先々の製品輸出の増加に繋がる可能性がある。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、この2営業日の下落が大きく、100日移動平均線のサポートラインでサポートされていることから、テクニカルに買い戻しが入ると考える。
このラインを維持すると、当面、Brentは78ドル~82ドルのレンジ、このラインを下回れば、75ドルから79ドルでのレンジワークが予想される。
なお、ドル動向が主要な価格ドライバーであることは間違いがないが、このまま景気が減速する中でのドル安であれば需要が減少するため、再び価格は下落に転じると予想される。
その場合、その「絶対価格水準」がどこになるのか、を判断する上で上記のレジスタンス/サポートラインの上抜け/下抜け有無は非常に重要になると考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は、ノルウェーのメンテナンス終了や、LNG調達の競合先である中国の経済統計悪化が価格を下押しした。
ただし、大きな変動というよりはまだ日々の値動きの範囲内という印象で、期近がやすく冬場の価格が高いという状態は続いている。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要削減をしなくても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。
しかし、仮にロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。
ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、ひいてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。
また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇擦る)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。
そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。今年はエルニーニョ現象、冬はスーパーエルニーニョ、ないしは再びラニーニャ現象の発生が懸念されており、そのリスクは無視できず。
3.4.は顕在化している。
5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。
今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇し、過去2年のレンジを上抜けした。気温の上昇や冬場に向けた調達圧力が高まっているものと考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス市場は小幅に下落。一大消費地である米北東部の気温が例年を下回る見通しとなったことや在庫水準の高さが材料。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は小動き。
現在のJLCの水準は13.58ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
6月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+19.2%の1,039万トン(前月+17.3%の1,064万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。
5月のパイプラインベースの輸入は前年比+1.9%の423万トン(前月+12.6%の421万トン)と過去5年の最高水準(415万トン)を上回った。
5月のLNG輸入は前年比+30.2%の641万3,000トン(+9.6%の476万7,000トン)と過去5年平均(514万3,000トン)を回復している。
6月の中国の天然ガス生産は+5.8%の1,338万2,000トン(前月+7.3%の1,397万1,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。
ただし、気温上昇による需要増加の面も否めず、景気の先行きは不透明で、中国南部の降雨による水力発電の回復をみるに、高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
7月9日時点の日本の発電業者のLNG在庫は207万トン(過去5年平均259万4,200トン)と過去5年平均を下回り、過去5年の最低水準に迫っている。現在、日本は猛暑の状態であり、スポット価格の上昇リスクは低くない。
サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
本日は、米国の景気減速、欧州の利上げ継続を受けた工業向け需要の鈍化観測と、エルニーニョ現象の影響で世界各地の気温が上昇していることに伴う需要増加観が相殺する形で、現状水準でもみ合うと考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は期近が小幅に下落したが、その他のゾーンは概ね上昇下。これまで調整が続いていたこともあり、割安感からの買い戻しが入ったとみられる。
ここしばらく、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴになるか、とみて注視していたが、現状、「期中」の価格が下落し、期先の価格が上昇しており、再び全ゾーンコンタンゴ化の可能性が否定できなくなってきた。
欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは引き続き、注意したい。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は135ドル、±1標準偏差で65~205ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が125~130ドル程度まで再び低下しているため、125~205ドルが説明可能なレンジ。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できない。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+110.0%の3,987万1,000トン(前月+92.6%の3,958万4,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。
ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では5月まではインドネシアと豪州からの輸入が増加、ロシアからの輸入が減少している。特に豪州からの輸入増加が顕著で制裁解除の影響が顕在化していると考えられる。
6月の中国の石炭生産は、前年比+2.5%の3億8,863万トン、1,295万4,000トン/日(前月+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日)と伸びが減速した。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。やはり猛暑・渇水(中国南部)に対応するための発電燃料需要は増加しているとみられる。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇による電力供給減少がなければ、南部の降雨による水力発電の回復や、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
本日は、発電燃料価格動向を左右する主体のガス価格が低迷していることから、石炭価格も現状維持の公算。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。中国の重要統計が軒並み市場予想を下回り、かつ、非鉄金属価格に影響が大きい不動産開発投資が減速していることが売り材料視された。
世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクター(のみならず製造業セクターも)の停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。
とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。
なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えば「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるが、そのタイミングは不明。
COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、金属毎にまちまち。
LME銅・亜鉛・錫は新規ロングの増加が新規ショートの増加を上回った。鉛・アルミはロングが減少、ショートが増加して明確に弱気のスタンス、CME銅とニッケルはロング・ショートとも減少したがショートの減少が顕著で結果、強気に。
全体としてポジションはネットショートに傾いている。基本、現物を必要としないファンド勢は将来的に必ずこのポジションを解消するため、先々の上昇のマグマが溜まっていると考えるべきだろう。
タイミングとしては中国政府の財政出動を伴う経済対策、あるいは欧米の景気底入れ。
6月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲16.4%の44万9,649トン(前月▲4.6%の44万4,010トン)と過去5年平均を下回った。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+3.2%の212万5,046トン(+16.9%の256万トン)と過去5年の最高水準で推移しているが、前月からは数量が減った。
経済活動再開を意識して銅精鉱の輸入が増加していたが、電力不足や経済活動再開の遅れから輸入全体のペースが鈍っている状況。
5月の中国の精錬銅生産は+26.9%の109万3,000トン(前月+25.3%の112万1,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
5月の銅スクラップの輸入は前年比+11.6%の17万6,490トン(前月+7.4%の14万5,366トン)と過去5年平均を回復した。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。
この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。
本日は、昨日の統計悪化による下落を受けた対策期待や、下落による割安感からの買い戻しでまずは買い戻しが入ると見ているが、中国の回復遅れが鮮明になったことから上昇余地も限定されるのでは。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。
中国統計の悪化で鉄鋼製品価格が下落していることが、鉄鋼原料価格の下押し要因となった。
疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。
恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすい。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+7万6,000トンの1,281万3,000トン(過去5年平均 1,379万1,000トン)と過去5年平均を下回っているが、在庫の増加ペースは例年よりも速い。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲190万トンの1億2,330万トン(過去5年平均 1億2,743万6,000トン)、在庫日数は25.3日(▲0.4日、過去5年平均26.8日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均を下回っている。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+2万トンの194万トン(過去5年平均 181万4,000トン)、在庫日数は+0.1日の7.4日(過去5年平均 7.1日)とこちらは在庫水準・日数ベースでも需給は緩和している。
6月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲22.5%の61万2,010トン(前月▲22.2%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
6月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比▲0.7%の750間8,100トン(+7.7%の836万トン)と昨年の水準を下回ったが、過去5年の最高水準は下回ってきた。
6月の中国粗鋼生産は前年比+0.4%の9,111万トン(前月▲6.7%の9,012万トン)と小幅に増加し、過去5年平均を上回った。
これまで値引きを行って輸出を促進してきたが、それでも在庫解消に時間が掛っているため生産調整が進むかと思われたが、前年・前月よりも生産は回復している。
7月が不需要期であること、製造業全体の在庫循環図は調整局面入りしていることを考えると、7月以降の生産は減少するのではないか。
鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないと考える。
バランスシート不況にあると考えられる中国は公的セクターの支出を必要としているが、大きな経済対策を打ち出せるほど中国の財布は大きくない。
一部報道では1兆元規模の特別国債の発行(インフラ投資目的)を検討、大都市以外の地域を対象に非居住用の購入制限の撤廃を検討していると報じているが、今のところその動きはみられていない。
本日は、鉄鋼製品価格が需要の減少で低下する中、鉄鋼原料は在庫積みの動きと調達抑制の動きで現状維持の見込み。
なお、想定以上に悪い不動産市況を背景に、市場では中国政府による不動産開発業者向けの更なる対策実施観測への期待が高まることから、下げ余地も限定されると考える。
ただし金利下げや返済免除などの金融面だけでは恐らく反応は薄く、不動産取得制限の緩和や頭金の引下げなどの需要を喚起する政策でなければ影響は限定されるとみる。
◆貴金属
昨日の貴金属価格は、金銀がほぼ前日と変わらず、PGMが上昇した。PGM上昇はハイテク関連株の上昇がけん引したと考えられる。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。
これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。
恐らく、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。
ちなみに、2021年末から今年4月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が74.6トン、新興国が436.9トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは511.5トンとなる。これだけで205ドル程度の価格押し上げ要因となる(ETF1トンの積増しで0.4ドルの上昇となるため、それを用いた)。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格は低下しているため800ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」となる基準価格はIMFベースであれば1,000ドル、WGCベースでは1,250ドル程度となる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが500ドル程度であるため、IMFベースであれば1,500ドル、WGCベースでは1,750ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのWGCベースが基準となる。
残りの200ドル程度が、ドル指数回避や諸々の安全資産需要による要因と考えられる。
仮に過去5年平均程度である380ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲120ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準にした場合、年後半の金価格の目線は1,830ドル程度、ということになろうか。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。
仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると21.6~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。
この数日で銀は100日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けしてテクニカルに急騰している。しかし、50日移動平均線が100日胃ヘを下抜けするデッドクロスとなっていることからいったん水準はテクニカルに切り下がろう。
本日は、米インフレのピークアウトを市場が強く意識し始めているため、実質金利が低下しやすく、ドル安も進行しやすいことから上昇余地を探る展開を予想。
また、株価が上昇していることもありPGM価格にも上昇圧力が掛る展開。
◆穀物
シカゴ穀物市場は大豆が小幅に上昇したがその他は下落した。エルニーニョ現象による異常気象が発生しているが、それでも北米の生産が回復するとの期待が価格を押し下げている状況。
ただ、トウモロコシ・大豆・小麦の北米の作柄は決して良いといえる状態ではなく、このままだと不作になる可能性が高い(米農務省の見通しは楽観的)。
昨日、黒海合意が破棄されたが、陸路を通じて欧州に穀物は輸送されること、マクロで見た場合、エルニーニョ現象発生時には価格は下落していることが多いことから影響は限定されると考える。
むしろ、安価なウクライナ産穀物が陸路を通じて東欧に流入することで、「ウクライナ支援反対」の声が農業従事者から高まることの方がリスクだろう(ある意味これをロシアは狙った可能性も)。
エルニーニョ現象が発生している場合、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。
しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。
本日は、需給緩和見通しを材料に、軟調推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化している)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「大豆は調整も年後半の高騰リスクは排除できず」
2020年~2023年初まで継続したラニーニャ現象の影響と、ロシアのウクライナ侵攻によってひまわり油を初めとする油脂類の生産減少、供給懸念を材料に上昇してきた大豆価格だが、ラニーニャ現象の収束、エルニーニョ現象の発生などを機に水準を再び切り下げている。
直近7月の米農務省の需給見通しでは、2023-24穀物年度の世界の大豆国内需要は前年比+2,167万トンの3億8,451万トンと過去最高に達するが、同時に生産が前年比+3,559万トンの4億531万トンに増加、昨年の687万トンの供給過剰からさらに需給が緩和することが見込まれている。
期初在庫や輸出入を考慮した後の需給バランスも+1,210万トンの供給過剰(前年+1,029万トンの供給過剰)が予想されており、大豆価格には下押し圧力が掛る可能性が高い。
増産の大半は世界2位の生産国である米国の大豆生産が前年比+65万トンと小幅な増加に止まる中、世界3位のアルゼンチン(前年比+2,300万トン)と世界1位のブラジル(+700万トン)が大幅増産になる見通しであることによる。
実際、価格に対する説明力が高い需給率(需要合計÷供給合計)も、世界全体では82.1%(前年83.8%)と低下が見込まれている。同数値の低下は需給の緩和を示唆し、価格が下押しされやすい環境にあることを意味する。
また、今年は前述のとおりエルニーニョ現象が発生していることから、過去データを元に取引する市場参加者のマインドは弱気に傾きやすい。
さらに、穀物価格は一般に期待インフレ率との連動性が高いが、期待インフレ率の決定要因の1つである原油価格も、景気減速に伴う需要減速で年後半に掛けては下落が見込まれるため、このことも、価格を下押ししよう。
しかし、大豆価格の国際指標であるシカゴ定期は、世界の需給動向よりも米国の需給動向に左右されやすいが、米国の需給バランスは世界需給見通しとは裏腹にタイトな状態が継続している。
同様に米国の需給率を計算すると、93.4%(前年94.4%)と前年から低下するものの、その水準は高い。
また、在庫率も前年から上昇して7.0%(5.9%)が予想されるが、この10年の平均が8.8%であることを考えると需給はタイトといえる。
また、ラニーニャ現象発生の余波とエルニーニョ現象発生による干ばつの影響で作柄が悪化しており、過去20年の最低水準を下回る状態が続いている。
過去20年で、7月の段階で作柄が50%台だったものが収穫時期に掛けて回復して50%を上回ったのは2006年のみであり、気象状況の悪化があればさらに生産が下振れる可能性はあるだろう。
また、現在発生しているエルニーニョ現象が秋口に掛けて終了したのち、再びスーパーエルニーニョの発生が予想されている。
エルニーニョ現象の発生であれば価格は通常下押しされやすいが、過去、エルニーニョ現象が発生した後はラニーニャ現象が発生していることも多いため、この場合に生産が下振れして、価格を押し上げる可能性がある。
また、景気減速で年後半に掛けて調整が予想される原油価格も、ひとたび景気が底入れすると、供給能力が十分でないため大幅な上昇となりやすいことも穀物価格・大豆価格の上昇リスクを高めることになろう。
今のところ市場コンセンサスは「年後半に短いリセッション入した後、回復へ」となっているため、コンセンサス通りの景気のパスとなるならば原油価格の上昇・期待インフレ率の再度の上昇は有り得るシナリオだ。
以上を勘案すると、年後半の大豆価格高騰リスクはやはり意識しておく必要があるのではないか。
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