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ドルやや軟調で買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2023年8月21日 第2525号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ドルやや軟調で買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、穀物や農産品などの非景気循環銘柄が上昇したほか、エネルギーなども広く買いが入る形となった。ドルがやや軟調な推移となったことが広くドル建て資産価格の上昇要因となったモノの、中国の不動産セクターの混乱拡大ヘの懸念が価格上昇の重石となった(詳しくは本日の「昨日のトピックス」「MRA's Eye」で詳述しています)。

経済統計やその他の情報を見るに中国の置かれている状況は、市場参加者が想定している以上に良くない。

若年層失業率などの発表を取りやめるなど、都合の悪い統計の発表を停止するといった手段に出ている。これは市場参加者の信頼を低下させ、むしろ金融市場にとってはマイナスである。訳のわからない状態でポジションを取る市場参加者は限られるからだ。

しかし、そこまでやらなければいけない状態にあるならば、逆に何らかの対策実施に繋がるとの期待を高めていることも事実であり、まだ積極的な売り材料とはされていない状況。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った手掛かり材料に乏しく、中国不動産関連の情報と、週末に行われるジャクソンホール経済シンポジウムでのパウエル議長の発言待ちで方向感が出難いが、総じてリスク回避の動きが強まると予想されるため、どちらかと言えば軟調な推移になるのではないか。

ジャクソンホールでのFRBパウエル議長の発言には、現在ニューヨーク連銀が見直しを始めたとされる中立金利に関する発言に注目が集まる。

仮に中立金利が引き上げられれば、来年市場参加者が期待している利下げも難しくなり長期金利も高止まりする可能性がある。この場合、ショートターム・リセッションと考えていた景気が「悪いまま」ということも有り得る。

【昨日のトピックス】

昨日のトピックスではないが、現在の世界経済動向がこうなっている、と整理するのが難しくなっている。

非常に簡単にまとめると、日米はさほど悪くなく、サービス業は製造業よりも悪くなく(むしろ良い)、といった地域・業種による「温度差」が市場動向分析を非常に難しくしているといえる。

箇条書きに現状を網羅的に整理すると以下の通り。

・製造業はほぼリセッション入り 一方でサービス業はまだリセッションに入っていないが減速している(JPモルガンのグローバルPMIなど)。全体としてはまだリセッション入りしていない。

・地域別ではコロナ発生時に「財政の大判振る舞い」をした国の景気が堅調、相対的に財政出動が控えめだった国の景気は減速。

具体的には米国と日本。その他の主要国は中国や欧州など。

・財政の大判振る舞いをした国のCPIは上昇している。具体的には米国と日本。

なお、欧州のCPIも上昇したがどちらかと言えばコロナショックよりも、ラニーニャ現象発生によるエネルギー危機後、ロシアのウクライナ軍事侵攻があったため、エネルギー価格が高騰した影響が大きい。ウクライナ

・景気はこれからどこの地域も減速する可能性が高い。特に回復が期待されていた中国の景気が政策的なミスもあり(というよりは、習近平政権になって以降、繰り返し発生した不動産バブルを処理することでデフレに陥っている)、好調な米国も減速する見通し。

この場合、昨年後半から低下トレンドにあるCPIの上昇率も鈍化し、景気減速局面では「実質金融引締め」となっている状態を解消するための利下げの余地が出てくる。

しかし、ニューヨーク連銀がコロナ禍以降発表を停止していた長期中立金利「Rスター」の公表を再開、「より短期的な動向を反映しやすい手法」を用いると中立金利は1%後半に上昇している可能性を示唆しており、中立金利が上昇するなら利下げは困難になる。

・米国がもしこのままリセッションもなく景気が回復する、というのであれば2024年は再びインフレに悩まされることになり、利下げというよりは利上げの可能性も否定できず。

・米国の利上げが続くのであれば円安となる可能性はあり、その場合、日本もコストプッシュインフレに悩まされることに(日銀もインフレの上振れリスクについて言及を始めた)。

中国の回復は政府の対策次第であるため極めて不透明であるが、これまで通り何らかの対策で「なかったことにする」とした場合でも当面景気は低迷するため(早くても回復は来年以降と前提)、それまでは世界経済回復の足枷となる。

経済的に中国と繋がりが深い欧州も同じような展開になると考えられる。

そのため米国がどうなるかが、今後の商品市況に重要になるが、主な展開として3つほど挙げると以下の通り。

1.米国のサービス業の景況感が金融引締めの影響で悪化、2024年に利下げが行われる

2.米国の景気が悪化しても物価が低下せず、利下げも見送られる

3.米国の景気がこのままリセッションなく回復、2024年は低下していた物価が再び上昇を始め、追加利上げを余儀なくされる

1.の場合の商品価格(例えば原油)は下落後上昇、2.の場合は下落後低迷、3.の場合はいったん下落も価格はさらに上昇(インフレ再燃)

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。ドル安が進行したことが価格を押し上げた。ただし、前日比安値寄りした後、水準を前日程度まで引き上げて終えた、という印象である。

OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。

しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。

問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。

 OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
 サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
 ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施

 サウジ 9月も▲100万バレルの追加減産

サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。

一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。

8月15日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲7,819枚、ショートが+6,001枚と、弱気ポジションに転じた。

Brentはロングが+15,834枚、ショートが▲3,914枚と、こちらは強気ポジションに。ウクライナによるロシア艦船の攻撃リスクが意識されたとみられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス・OPECプラス)が増産/減産する
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

Q323~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は目立った手掛かり材料に乏しく、米金融政策がタカ派であることや、中国経済の動向が原油価格にも影響する(というよりは材料として積極的に扱われるようになった)ことから、不動産セクターの混乱を背景に軟調に推移すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落。豪州のストライキヘの懸念がLNGカーゴ市場の需給をタイトにすると見方から。

基本的に先進国でのストライキであり、新興国とは異なり大規模な暴動に繋がって生産・輸出設備が毀損するという事態にはなり難く結局最終的には下落に転じると予想される。

弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要が仮に+5%増加しても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。

また、ロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲5%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。

ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、延いてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。

また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇する)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。

そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。

しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。今年はエルニーニョ現象、冬はスーパーエルニーニョ、ないしは再びラニーニャ現象の発生が懸念されており、そのリスクは無視できない。

また、ウクライナがロシア船籍を攻撃するなど、これまで安定してきたLNG船の輸送にも影響が出る可能性が出てきた。

3.4.は顕在化している。特に3.に関しては恐らく今年がロシア・ウクライナ戦争の山場である可能性が高く、ロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。

5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。

今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇している。今後、ウクライナとロシアの対立が海上輸送に大きな影響をもたらす可能性があり、需要動向とは別議論でタンカーレートの水準が切り上がる展開は否定できない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス市場は下落。在庫の減少はあるものの、米西部の気温上昇予想が一転、平年並みになると見られていることが価格を押し下げた。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物市場も小動き。引き続き、豪州のストライキヘの懸念と、欧州ガス価格の下落が綱引きとなっている。

ストライキは多くの場合時間経過とともに終了すること(特に先進国では暴動にまで発展せず、数日で収束することが多い)から、長期の価格押し上げ要因にはならないとみている。

現在のJLCの水準は12.04ドルであり、現在のスポット価格はほぼこの水準まで上昇してきている。

その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

7月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+18.5%の1,031万トン(前月+19.2%の1,039万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。

6月のパイプラインベースの輸入は前年比+13.6%の443万トン(前月+1.9%の423万トン)と過去5年の最高水準(390万トン)を上回った。

6月のLNG輸入は前年比+23.5%の595万8,000トン(前月+30.2%の641万3,000トン)と前月から伸びは減速したものの、過去5年平均(515万2,000トン)を上回っている。

6月の中国の天然ガス生産は+5.8%の1,338万2,000トン(前月+7.3%の1,397万1,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

8月13日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は198万トン(過去5年平均249万1,900トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は200万トン)と、いずれの集計でも過去5年平均を下回った。

速報性のある大手電力以外の在庫も含めた水準と比較すると、過去5年の最低水準(195万8,400トン)をやや上回る程度。

現在、日本は猛暑の状態であり、スポット価格の上昇リスクは低くなく、冬場の調達圧力も高まることになるだろう。

サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

週明け月曜日は、引き続き供給面のリスクが意識される中、北半球の気温上昇がまだ夏場で続いていることから高値を維持すると見る。

ただし、ストライキが回避されれば水準は切り下がると考えられ、その可能性は高い。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は大幅に上昇した。LNGの供給懸念が強まる中、在庫として保有しやすい石炭の需要が増加しているとみられる。API2石炭価格も期先を中心に上昇した。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は137ドル、±1標準偏差で67~207ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇しているため、145~207ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。

2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+66.9%の3,926万トン(前月+110.0%の3,987万1,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。

ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。

国別では6月はロシアからの輸入が大幅に増加し、直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で42.7%、ついでインドネシア(37.6%)、豪州(10.1%)となった。戦争で苦境に陥っているロシアの救済の色彩はあるが、輸入石炭価格はロシア炭価格の低下が大きく「価格面でのメリット」を優先して中国がロシア炭を購入していることが窺える。

6月の中国の石炭生産は、前年比+2.5%の3億8,863万トン、1,295万4,000トン/日(前月+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日)と伸びが減速した。

6月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の7,751億kwh(前月+7.5%の7,222億Kwh)と伸びが減速したが、依然、過去5年レンジを上回った状態が続いている。

今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇による電力供給減少がなければ、南部の降雨による水力発電の回復や、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。

週明け月曜日は、ガス生産者のストライキ懸念がガス価格を高止まりさせているため、高値維持の公算。

ただし豪州のストライキは早晩終了するとみられ、中期的には下落すると見る。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場はまちまちだが、総じて軟調。中国当局の大手銀行に対する為替介入指示や金利引下げなどの対策実施が価格を押し上げたものの、恒大集団の米国での破産法15条申請や、碧桂園のデフォルト懸念など、根強い不動産セクターの悪化懸念が価格を下押ししている。

このコラムで繰返し主張しているが、中国地方政府は財政的に「ない袖は振れない」状態にあると考えられるため、具体的に景気を浮揚させる政策をこのタイミングで打ち出せる可能性はさほど高くない。

実際、中国地方政府の手足を縛っている余剰不動産在庫も、直近7月の水準では北京、広州、杭州、深センなどの主要都市で在庫月数は増加している。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないと考えられる。

中国政府が何の対策もしない、ということは考え難いが常識的に考えれば、1.在庫が積み上がっているこのタイミングで経済活動を刺激すれば、さらなる在庫の積増しになってしまう可能性があること、2.予算的な問題、を考えるとある程度在庫の調整が進み、かつ、予算措置が終了してからと考えるのが妥当ではないか。

この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく、危機を乗り切るための予算的な措置が具体化するのは、秋の三中全会、12月に予定されている中央経済工作会議前後と考えるのが自然である。よって(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。

なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えばそのタイミングで、「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるため、上昇リスクには常に備える必要がある。

ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が起きることになる。

さらに労働人口がピークアウトし、かつ、米国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。

週明け月曜日も、米国のタカ派的な政策によるドル高や、中国不動産セクター混乱が継続すること、それに伴う対策期待で軟調ながらも高値を維持すると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

中国の経済統計悪化や不動産会社の破綻が続く懸念などが市場参加者の不安を高めているが、逆にこれが中国政府による対策期待を高める形となり、鉄鋼製品価格が上昇、鉄鋼原料価格を押し上げた。

現在、疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)と鉄鋼製品との関係性は回復している。ただ、鉄鋼原料調達は最終消費動向に左右されるため、当面、鉄鋼製品価格動向が重要になってくる。

ロシア問題の一巡、原料炭もロシア・モンゴルからの輸入が増加しており(特にモンゴル)、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていない。

結果、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため、最終需要が増加するような経済対策の実施がなければ、総じて下押し圧力が掛りやすい。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲13万6,000トンの1,315万1,000トン(過去5年平均 1,357万8,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+400万トンの1億1,669万トン(過去5年平均 1億3,172万トン)、在庫日数は23.7日(+0.1日、過去5年平均28.6日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は▲12万トンの171万トン(過去5年平均 187万4,000トン)、在庫日数は▲0.5日の6.5日(過去5年平均 7.6日)とこちらも需給はタイトになってきた。

7月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲14.2%の67万7,960トン(前月▲22.8%の61万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

7月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+9.6%の730万8,400トン(▲0.7%の750万8,100トン)と過去5年の最高水準を上回った。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲40.9%の63.4億ドル(▲42.7%の67.0億ドル)と低下しており、引き続き中国が安売りで余剰在庫の解消に努めていることを示唆するもの。

6月の中国粗鋼生産は前年比+0.4%の9,111万トン(前月▲6.7%の9,012万トン)と小幅に増加し、過去5年平均を上回った。

これまで値引きを行って輸出を促進してきたが、それでも在庫解消に時間が掛っているため生産調整が進むかと思われたが、前年・前月よりも生産は回復している。

中国政府の需要刺激策で具体的なものが打ち出されていないこと、製造業全体の在庫循環図は調整局面入りしていることを考えると、今後の生産は引き続き低迷が予想される。

鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないと考える。

週明け月曜日も、中国不動産セクターの経営環境の悪化とその連鎖、それに対する中国当局の対策期待を受けて軟調地合ながらも高値を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格はほぼ前日と変わらず。銀とPGMは中国政府の対策期待で買い戻しが入った。ただし、これまでの売られ過ぎに伴う安値拾いの買いが入った、と考えるのが妥当だろう。

金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。

これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。

恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。

なお、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。

金の価格を構成要素に分解することは、各要素が互いに影響を及ぼし合っているため余り意味がない。

しかし、現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が4割、信用リスク要因が2割、その他の要因が3割となる。

過去実質金利異常に、その他の要因のシェアが大きくなったのは、第一次オイルショック~プラザ合意にかけてが最も高く、有事やドル価値の減価に備えて「各国が金準備を増やした時」であり、現在の状況はこのときの状況と類似する。

この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。

年内利上げは、9月FOMC以降、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。

市場予想では2024年は▲1.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+75ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲225ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲150ドルの価格低下となる。

現在の金価格を1,950ドルとすれば、1,800ドル程度までの下落があると見ている。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの上限を目指す動きになっている。

仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。

週明け月曜日は、米長期金利の上昇による実質金利の上昇はあるが、中国不動産大手の破産法申請など、信用リスクを背景とする安全資産需要が回復するとみられ、金・銀価格は高値を維持の公算。

PGMは中国の対策期待と割安感から堅調も、ファンダメンタルズの弱さから上昇余地も限定されよう。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。特段材料はなかったが、中国の介入によってややドル安に振れたこと、原油価格の上昇が材料となった。

2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。

しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。

週明け月曜日は、原油価格動向に左右される展開が予想されるが、中国不動産セクターの不透明感から軟調推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「中国不動産バブル崩壊時の影響」

中国恒大集団が米国で破産法15条を適用した。これが裁判所に認められると債権者の差し押さえができなくなるため、これを狙ったものと指摘されている。

中国の不動産市場は日本と異なり、建設している最中から購入者が代金を支払う形になっている。即ち、住宅ができていなくても資金調達ができるため、その資金を他の投資に回すことができる、という構図。

しかし、住宅の建設が進まなければ購入者は当然支払いを拒否するため、その入金をあてにして自転車操業を行っていた不動産開発業者は資金繰りが厳しくなる。

今回の中国の不動産バブル崩壊問題は、このコラムでも指摘してきたが、習近平政権になってから都合3回、意図的でないものも含めて発生した住宅バブルを、人口動態がピークアウトした中で処理しなければならなくなっており、非常に対応が難しい。

通常であれば、余剰不動産を海外投資家などに売却して不良債権処理を行うケースが多いが、中国当局の都合でいろいろなものが接収されてしまう中国の物件に対して、積極的に行う投資家がいるとは考え難い。カントリーリスクが大きすぎるのだ(そもそも中国の非居住者の住宅取得は制限されている)。

今回の問題がさらに深刻化した場合、各国の不動産市況に大きな影響を与えることが予想される。

というのも、チャイナ・マネーは各国の住宅市場に流入しており、本国での損失を補填するために保有不動産を売却する可能性があるからだ。

そうなると住宅を初めとする不動産価格が下落することになり、担保価値の低下→それに伴う銀行の与信厳格化→場合によると銀行の経営状態の悪化→クレジット・クランチ、という流れになってもおかしくない。

欧米を含む先進国はリーマン・ショック時の反省から銀行を破綻させるようなことはしないだろう。しかし米国の回転信用が増加しているように、ノンバンクを含むシャドーバンクに波及した場合、当局は対応仕切れなくなるリスクがある(そのため、オンバランス化を急いでいる訳だが)。

結局、この問題を解決するには中国政府の対応が必要、ということになるが、不良債権の海外投資家ヘの安売りなどの手段が選択できないならば、中国政府が国営企業の資本を増強し、経営不振企業を国営企業に吸収合併させ、不良債権処理を進め、同時に金融不安にならないよう、銀行の国有化(資本増強)を進めるという形になるのではないか。

ただ、幸か不幸か、中国とその他の市場は中国が市場を開放していないが故に、直接的な影響を受け難いこともまた事実であり、中国政府が「適切に対応するならば」リーマン・ショックのような連鎖倒産発生のリスクは大きくないと考えられる。

ただ、リーマン・ショック時に、複雑なデリバティブ商品(特に中国系の市場参加者は、会計基準が甘かったため、複雑でリスクが大きなレバレッジが効いた商品を望んだ)を導入、大きな損失が発生した時に「十分なリスクの説明を金融機関は怠った」として大手投資銀行が損失を被らされたということがあった。

このころと中国が同じとは思いたくないが、不動産会社が破綻した時に国内投資家が保護するが、海外投資家は保護しない、という選択をとることもない話ではない。

また、不動産セクターを切っ掛けに中国景気が減速した場合、中国ヘの輸出が減少することは確実である。この場合、日本は影響を免れないだろう。

例えば直近7月の貿易統計で日本の輸出額は8兆7,250億円だが、このうち中国向けは17.7%の1兆5,433億円とトップシェアだ。

中国が減速すればアジア向けも減速を余儀なくされるが、アジア向けの総額は50.2%の4兆4,197億円に上る。

現在市場参加者は中国政府の経済対策実施に期待を寄せているが、恐らく来年度予算が意識される年後半にならなければ具体的な話は出てこないと予想され、仮に何かあったとしても国内の混乱収束を優先する可能性が高いため、日本のリスクも小さくない。

引き続き、中国政府がどのように対応するかを注視する必要があるが、習近平が権力を握るために行ってきた住宅政策が、世界を揺るがすことになることは懸念されてはいたものの、そこに備える必要があるだろう。

具体的にはショック発生から収束まで、過去のケースでは9ヵ月程度であるため、極端に言えば1年程度の資金繰りの目処を付けておくこと、余剰在庫を保有しないこと、などが選択肢となる。

また多くの場合、ショック後に再び価格が上昇することが多い。ある意味「ピンチはチャンス」となる可能性があるため、下落に備えつつ、その後、上昇リスク回避(例えば先物やデリバティブの活用)の準備を今から行って置く必要はあろう。


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