ドル安で続伸
- MRA商品市場レポート
2023年7月12日 第2497号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ドル安で続伸」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は総じて堅調な推移となった。ドル指数の低下が続いたこと、利上げ打ち止めを期待した株価の上昇を受けたリスクテイクの再開が価格を押し上げた。
市場は今晩発表の米CPIの減速(総合指数前年比+4.0%→+3.1%、コア指数+5.3%→+5.0%)を見込んでおり、それに伴う利上げの打ち止め(7月利上げで終了)を期待していると考えられる。
ただ、このまま経済がソフトランディングした場合、恐らくサービス価格やモノの価格が再び上昇して再びインフレに、という可能性は高まることになる。現在、特に株式市場はこの状況を楽観しすぎている感じは否めない。
【本日の見通し】
本日は米CPI、米ベージュブックが公表され、足下の価格動向がどちらかと言うとファイナンシャルな面で変動していることから、神経質な推移が予想される。
本日発表の米CPIは、総合指数が前月比+0.3%(前月+0.1%)、前年比+3.1%(+4.0%)、コア指数が+0.3%(+0.4%)、+5.0%(+5.3%)と鈍化見込みである。
この物価上昇率は現在の失業率とコアPCE価格指数との関係から見れば、概ね肯定される水準。しかしFRBが目指す2%を達成しようとした場合は、単純にフィリップスカーブを用いると、失業率は8%程度でなければ辻褄が合わなくなる。
恐らく、AIの活用などでサービス価格が下落して2%の物価上昇でも失業率4%を達成する、ということを企図しているのだろうがその通りとなるか。
過去、金融引締めの影響で逆イールドになった期間が長いほど、その後に訪れる景気後退局面の期間は長くなる(ほぼ逆イールド期間と同じ期間、景気後退する)可能性がある。
逆イールドが2年程度続くことを考えると、仮に2024年に金融緩和を始めた場合、2025年一杯まで景気が後退することになる。
あくまで過去の例を参考にした場合の推定であるが、コロナ・ショックやロシアの軍事侵攻による東西分裂加速、脱炭素、といった特殊なイベントが重なるため、これまでと異なる動きになる可能性はある。
しかし、本当にショートターム・リセッション済むのかどうかが今後の焦点となるだろう。
その他の予定は以下のとおり。
・米ベージュブック
・クリーブランド連銀総裁講演
・ミネアポリス連銀総裁パネル討論会に参加
・アトランタ連銀総裁パネル討論会に参加
・リッチモンド連銀総裁講演
・カナダ中銀政策金利発表
・英中銀金融安定化報告・総裁記者会見
・ニュージーランド中銀政策金利発表
・独10年債入札
【昨日のトピックス】
NATOはスウェーデンのNATO加盟を容認することを決定した。これまでトルコが反対していたが、一転、NATO加盟を認めたことが大きい。
これにより、ロシアの「飛び地」に配備されているバルチック艦隊はNATOに完全に封じ込められることになった。ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアに取って決して望ましい結果をもたらしていない。
また、今回、ウクライナのNATO加盟協議を加速させることでも合意した。現在のウクライナの情勢に鑑み、加盟する際の行動計画を不要とし、加盟を加速させる方針。
しかしこれに対してウクライナ・ゼレンスキー大統領は「加盟招待、あるいは加盟自体の時間軸が設定されていないのは馬鹿げている」と不満を口にしている。
ただ、戦争、という自体を除けばウクライナは以前から汚職や情報保護などの問題を解決していない。
例えば今、世界中が脱炭素に舵を切っているが、2010年頃に一時ブーム(というよりは、欧州系の金融機関が日本に売り込んでいた)「欧州排出枠」の流用疑惑などがあった。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS30039_Q0A430C1EE2000/
この話のその後、日本はウクライナに対して資金の返還を要求しているが、政権転覆やクリミア問題などがあってほぼ目にすることがなくなった。むしろ今は対ロシアの防衛戦で資金を供与しているため、なかったことになっている可能性がある。
https://usfl.com/news/40638
今回の国土防衛に向けたウクライナのNATO加盟に向けて、同国内の浄化が進むことを期待しているが、一筋縄ではいかないのではないか。
また、トルコも今回のスウェーデンのNATO加盟の見返りに、EU加盟を持ち出しているが、クルド人の虐待問題や、そもそもキリスト教主体のEUがイスラム教国の加盟に抵抗感があることから恐らく加盟は認められないだろう(エルドアン大統領もEU加盟は難しいと認識していると思われる)。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。ドル指数が続落したこと、ロシアの輸出削減が実際に始まっていることが材料となった。
弊社は四半期に1回、見通しを変更しているが、7月初旬にサウジアラビアが8月以降も▲100万バレルの自主減産継続と、ロシアが▲50万バレルの輸出削減を決定したが、これは予想数値には織り込んでいなかった。
また価格見通し作成の元データはDOE月報を用いているが、昨日のDOE月報では2023年の生産見通しが下方修正され、需要見通しが引き上げられたため、弊社が前提としていた需給バランスよりも2023年はややタイト化することになる。
見通しの変更はオフィシャルには行わないが、現在のこのデータを元にすると、Brentの価格予想が2023年が79.15ドル(6月27日付見通し77.84ドル)、2024年が84.39ドル(83.19ドル)と各々、1.5ドル程度引き上がることになる。
WTIは2023年が74.25ドル(73.02ドル)、78.92ドル(77.75ドル)。
OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意、ロシアも自主的に▲50万バレルの輸出削減を決定した(詳細は以下の通り)。
しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。
問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。
OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施
サウジ 7月から▲100万バレルの追加減産
サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。
一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。
6月27日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲2,996枚、ショートが+25,093枚と、弱気に転じている。
Brentはロングが▲12,255枚、ショートが+18,331枚となっており、こちらも弱気に転じている。
5月の中国の原油輸入は前年比+12.3%の5,144万4,000トン(前月▲1.4%の4,240万7,000トン)と伸びが加速。中国の消費者は価格に敏感であるため、5月の原油価格は4月よりも低下したことが影響したとみられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+195.9%の438万トン(前月+110.0%の389万5,000トン)とこちらも大幅に加速、輸出は▲1.8%の375万トン(+33.9%の545万トン)と減速した。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、米CPIが発表され重要なコア指数の鈍化が見込まれているが、ここまでそれを織り込んで来ていることから逆に調整売りに押されるとみる。
また、予想よりも強い数字になれば、金融引締め加速でやはり下落すると予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は下落した。ノルウェーのメンテナンス終了を受けた供給面のタイトさが解消したことが材料。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要削減をしなくても足りるとの結果(前回シミュレーションでは+5%の需要増加でも足りていたので、若干状況は悪化)であるが、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。
しかし、仮にロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。
年後半に掛けて景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていることから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。
そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
3.4.は顕在化している。
5.は夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。
今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇し、過去2年の平均水準を上回った。夏場の気温上昇の影響もあり調達意欲が高まっているものと考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス市場は、全米の気温上昇観測の強まりで、ガス需要増加が期待されていることから上昇した。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場はTTFの下落を受け、今冬から2025年にかけての水準が切り下がった。
現在のJLCの水準は13.58ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
5月の中国の天然ガス生産は前年比+7.3%の1,397万1,000トン(前月+5.6%の1,382万4,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている
5月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+17.3%の1,064万トン(前月+11.0%の898万トン)と先月から急速に輸入量が増加、過去5年の最高水準を上回った。
5月の中国のパイプライン輸入は、前年比+1.9%の423万トン(+12.6%の421万トン)と、前月からは伸びが減速したが過去5年の最高水準を維持している。
一方、LNG輸入は前年比+30.1%の641万トン(+9.6%の476万7,000トン)と大幅な増加となっている。中国南部の記録的な気温上昇が影響していると見られる。
一般にエルニーニョ現象発生時は赤道近辺の気温が上昇しやすく、中国以外でもベトナムなどが5月に熱波と小雨による発電の制限などが発生している。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしリオープン後の回復がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。
季節的な猛暑、渇水などによる発電燃料輸入需要が増加する可能性があるものの、景気の回復ペースが想定よりも緩慢であるため高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
7月2日時点の日本の発電業者のLNG在庫は210万トン(過去5年平均259万4,200トン)と過去5年平均を下回った。仮に猛暑となった場合のスポット価格の上昇リスクは低くない。
サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
本日は、世界的な利上げペースの加速を受けた工業向け需要の鈍化観測と、エルニーニョ現象の影響で世界各地の気温が上昇していることに伴う需要増加観が相殺する形で、現状水準でもみ合うと考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は全ゾーン続落。特に期先の下落が大きかった。API2石炭スワップもほぼ全ゾーン下落している。
ここしばらく、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴになるか、とみて注視していたが、期先の上昇圧力は緩和して水準を切下げており、目先全ゾーンコンタンゴ化の可能性は大幅に後退している。
ただ、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは引き続き、注意したい。
期近は今のところ需給が緩和しているため、消費国である日本にとって大きな問題にはならないが、期先のコンタンゴがさらに進むリスクは意識しておく必要がある。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は135ドル、±1標準偏差で65~205ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が145~160ドル程度まで再び上昇してきていることを考えると、実際は145~205ドルが説明可能なレンジ。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できない。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
て今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる可能性があり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
5月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+92.6%の3,958万4,000トン(前月+72.7%の4,067万6,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となり、2020年1月のった。
ガスも同様であるが、中国南部の記録的な熱波や小雨の影響で、発電燃料の調達が急遽必要になったと考えられる。
2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では5月はインドネシアからの輸入が減少したが、ロシア、豪州からの輸入が増加。燃料炭の輸入は1,893万トンと、2000年以降で最高となった2020年1月の1,916万トンに近づいている。
5月の中国の石炭生産は、前年比+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日(前月+2.7%の3億7,400万トン、1,246万トン/日)と伸びが加速した。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。やはり猛暑・渇水(中国南部)に対応するための発電燃料需要は増加しているとみられる。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇や渇水による電力供給減少がなければ、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
本日は、発電燃料価格動向を左右する主体のガス価格が低迷していることから、石炭価格も低迷すると考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場はまちまち。ドル安進行で水準を切り上げた金属が多かったが、独ZEW景況感指数の悪化を受けたドル高進行で水準を切下げ、そのまま安値引けした金属が目立った。
世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクターの停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛ることになるが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。
とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。
なお、規模や対象は限定されるが、仮に中国が経済対策を行えば「デジタルに」需要が発生するため、在庫の絶対水準の低さと相まって比較的大きな上昇になる可能性があるが、そのタイミングは不明。
COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、金属毎にまちまち。
LME銅・亜鉛・錫は新規ロングの増加が新規ショートの増加を上回った。鉛・アルミはロングが減少、ショートが増加して明確に弱気のスタンス、CME銅とニッケルはロング・ショートとも減少したがショートの減少が顕著で結果、強気に。
全体としてポジションはネットショートに傾いている。基本、現物を必要としないファンド勢は将来的に必ずこのポジションを解消するため、先々の上昇のマグマが溜まっていると考えるべきだろう。
タイミングとしては中国政府の財政出動を伴う経済対策、あるいは欧米の景気底入れ。
5月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲4.6%の44万4,010トン(前月▲12.5%の40万7,293トン)と過去5年平均を回復した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+16.7%の255万6,713トン(+11.8%の210万2,572トン)と過去5年の最高水準で推移している。
精鉱輸入・精錬品輸入も増加しており、徐々に中国の経済活動の再稼働が意識されていると考えられるものの、そもそも在庫の水準が低いことに伴う在庫積増しの動きではないだろうか。
5月の中国の精錬銅生産は+26.9%の109万3,000トン(前月+25.3%の112万1,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
5月の銅スクラップの輸入は前年比+11.6%の17万6,490トン(前月+7.4%の14万5,366トン)と過去5年平均を回復した。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。
この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。
本日は、米CPIが発表され重要なコア指数の鈍化が見込まれているが、ここまでそれを織り込んで来ていることから逆に調整売りに押されるとみる。
また、予想よりも強い数字になれば、金融引締め加速でやはり下落すると予想。
なお、中国政府による不動産開発業者向けの更なる対策実施観測が報じられており、仮にそれが報じられれば価格の上昇要因となる。
ただし金利下げや返済免除などの金融面だけでは恐らく反応は薄く、不動産取得制限の緩和や頭金の引下げなどの需要を喚起する政策でなければ影響は限定されるとみる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は下落した。
7月はそもそも不需要期であるが、気温上昇と降雨の影響で建設向けの需要が減少していることから、鉄鋼製品価格は軟調。鉄鋼原料は鉄鉱石在庫の水準が過去5年を下回っており、一定の在庫積み需要があるが、原料炭は過去5年平均を上回っていることから調達圧力は緩和している状況。
疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。
恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすい。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+13万7,000トンの1,273万7,000トン(過去5年平均 1,378万7,000トン)と過去5年平均を下回っているが、在庫の増加ペースは例年よりも速い。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲50万トンの1億2,520万トン(過去5年平均 1億2,633万6,000トン)、在庫日数は25.6日(+0.7日、過去5年平均26.5日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均に近接しつつあり、需給は緩和の動き。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+4万トンの174万トン(過去5年平均 187万5,000トン)、在庫日数は+0.2日の6.7日(過去5年平均 7.3日)とこちらも在庫水準が増加し、日数ベースでも需給は緩和している。今後、原料炭価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。
5月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が49.9(前月35.20)と大幅に回復した。生産が49.9(27.5)と大幅に改善した他、新規受注も51.5(27.4)とほぼ倍増したことが影響している。
ただしこれは統計の綾の側面も否めない。というのもPMIは「前月と比べて今月はどうか、今後の見通しはどうか」というアンケートの採り方をするからだ。即ち、前月の水準が低すぎたということである。
まだ統計が出ていないためなんとも言えないが、中国鉄鋼協会によると主要鉄鋼生産者の粗鋼生産量は前月比+6.48%の223万1,000トンに達したとされている。
全く同じ比率で中国全土の粗鋼生産が増加したとすると、9,596万トンと前年比+5.8%の増加となる。しかしこの水準まで生産が増加すると、再び鉄鋼製品在庫の水準の高さが問題になる可能性は高い。
この場合、7月が季節的に降雨と高温で不需要期となることから、7月の粗鋼生産は再び低下する可能性がある。
中国の棒鋼先物価格は6月末時点で前年比▲16.8%(前月末▲26.7%、前々月末▲29.4%)とマイナス幅を縮小してはいるが、以前過去5年レンジの最低水準であり、ここで鉄鋼製品生産が増加しても、再び価格に下押し圧力が掛る可能性が高い(安売りする必要が出てくる)。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品在庫レシオは1.30(0.88)、原材料在庫レシオも1.21(1.00)と閾値の1を大きく上回っておりしばらくは調達圧力が高まり価格の押し上げ要因となろう。
しかし、中国の建設業PMIは55.7(58.2)と鈍化が続いており、短期的に鉄鋼原料や鉄鋼製品価格が上昇したとしても、最終消費のシェアが大きい不動産販売・投資が回復しなければ鉄鋼業の回復も持続的なものにならないと考えられる。
バランスシート不況にあると考えられる中国がどの程度財政出動を行い、民需の不足をカバーできるかが景気回復のタイミングを図る上で重要に成るが、今のところかけ声は大きいが、大きな経済対策を打ち出せるほど中国の財布は大きくない。
なお、WSJは関係者の話として1兆元規模の特別国債の発行を検討しており、調達した資金はインフラ整備などの成長促進に充て、大都市以外の地域を対象に非居住用の購入制限の撤廃を検討していると報じているが、今のところその動きはみられていない。
本日は、鉄鋼製品価格が需要の減少で低下する中、鉄鋼原料は在庫積みの動きと調達抑制の動きで現状維持の見込み。
なお、中国政府による不動産開発業者向けの更なる対策実施観測が報じられており、仮にそれが報じられれば価格の上昇要因となる。
ただし金利下げや返済免除などの金融面だけでは恐らく反応は薄く、不動産取得制限の緩和や頭金の引下げなどの需要を喚起する政策でなければ影響は限定されるとみる。
◆貴金属
昨日の金価格は、実質金利の小幅低下とドル乱高下を受けて、高値でもみ合った。銀・プラチナは結果小幅安、パラジウムは株価の上昇が価格を支えた。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)、2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト、3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え、あたりだろう。
これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。
恐らく、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。
ちなみに、2021年末から今年4月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が74.6トン、新興国が436.9トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは511.5トンとなる。これだけで205ドル程度の価格押し上げ要因となる(ETF1トンの積増しで0.4ドルの上昇となるため、それを用いた)。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格は低下しているため800ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」となる基準価格はIMFベースであれば1,000ドル、WGCベースでは1,250ドル程度となる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが500ドル程度であるため、IMFベースであれば1,500ドル、WGCベースでは1,750ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのWGCベースが基準となる。
残りの200ドル程度が、ドル指数回避や諸々の安全資産需要による要因と考えられる。
仮に過去5年平均程度である380ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲120ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準にした場合、年後半の金価格の目線は1,830ドル程度、ということになろうか。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。しかし、米ISM製造業指数が55を下回っている状況だと、ボリンジャーバンドの下限に張り付きやすい。
仮にボリンジャーバンドの下限75倍、上限ならば94倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると20.7~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。
100日移動平均線のサポートライン、チャート的には23.4ドルが目先の下値として意識される。ここを下抜けすると次は22.20ドルが目処に。
本日は、米CPIが発表され重要なコア指数の鈍化が見込まれているが、ここまでそれを織り込んで来ていることから逆に調整売りに押されるとみる。
また、予想よりも強い数字になれば、金融引締め加速でやはり下落すると予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。朝方発表された作柄報告がやや改善したものの、例年と比べれば悪い水準であることに変わりなく、供給面が意識されたことが材料。
エルニーニョ現象が発生している場合、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。
しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。
本日は、米作柄の悪化を材料に上昇すると見るが、米CPIの結果によっては乱高下が予想される。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化している)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について