非常に強い米雇用統計を受けて下落
- MRA商品市場レポート
2023年7月7日 第2494号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「非常に強い米雇用統計を受けて下落」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、その他の農産品や石油製品を除き、概ね水準を切下げる展開となった。
注目のADP雇用統計は市場予想を遙かに上回る内容で、雇用市場のタイトさを確認する内容となったこと、ISM非製造業指数も予想以上に改善したことで、景況感の改善と同時に金融引締め再加速の可能性が高まったことが価格に影響、どちらかと言えばファイナンシャルな要因が強く影響した。
ただし、求人数の減少は続いており、労働力プールである失業者との比率は1.6倍と徐々に労働市場の需給が緩和に向かっていることもまた事実であるが、2000年以降を見たときにここまで求人>失業者、となった期間はない(詳しい解説は昨日のトピックスをご参照ください)。
【本日の見通し】
本日は、ADP雇用統計が良好な内容だったため、米雇用統計も市場予想以上に強い内容になる可能性があり、その場合は金融引締め加速観測がさらに高まることから軟調な推移になると考える。
ただ、恐らくアジア時間~欧州時間に掛けては、雇用統計を控えたポジション調整が起きるため。昨日下落した商品が多いことからいったん買い戻される流れになると考える。
本日予定されているイベントや統計で注目は以下の通り。
・6月米雇用統計 非農業部門雇用者数 市場予想 前月比+23万人(前月+33.9万人) 失業率 3.6%(3.7%) 平均時給 前月比+0.3%(+0.3%)、前年比+4.2%(+4.3%)
・米イエレン財務長官、李強首相と会談
・シカゴ連銀総裁CNBCインタビュー
・NATO事務総長、首脳会議を控えた記者会見
【昨日のトピックス】
昨日の米統計は、米国のサービス業の雇用環境が引き続きタイトであり、結果賃金も上昇し、サービス関連の価格が知恵かし難い状況が続く可能性を示唆するものだった。
ADP雇用統計は前月比+49.7万人(市場予想+22.5万人、前月+26.7万人)と市場予想、前月も大きく上回った。
雇用者数の増加を業種別でみると、最も増加しているのがレジャー・ホスピタリティで前月比+23.2万人、ついで、教育・サービスが+7.4万人だった。
景気の先行指標の1つである金融の雇用者数は▲1.6万人、情報が▲3万人の減少となっているが、全体としてはまだ雇用環境が緩和しているという感じではない。
また、同時に発表されたISM非製造業指数も小幅な改善が見込まれていたが、53.9(51.2、50.3)と市場予想、前月とも上回っている。内訳を見ると、新規受注が55.5(52.9)と加速、輸出向け新規受注も61.5(59.0)と需要面の回復が顕著だ。
さらにADP雇用統計と平仄を取る形で雇用も53.1(49.2)と回復している。
ISM非製造業指数に先行するISM製造業指数は悪化を続けているため、「過去のパターン通り」であれば遅行してISM非製造業指数も減速が見込まれる。
しかし今回はコロナの影響で労働力プールが縮小したことから、今までと同じ展開にならない可能性も出てきた。この状況であれば7月の25bpの利上げはほぼ確実であり、年内にさらにもう1回の利上げも、4割程度の確率で市場は織り込み始めている。
この利上げはドル高を誘発し、ドル建て資産価格の下落要因となるが、果たして利上げだけで雇用環境の緩和がもたらされるかどうかは、不透明と言わざるを得ない。
この結果、不足する人員を補う為にAIやロボットを活用する、という展開は十分に有り得る。これは1990年代中頃から2000年前半にみられたIT革命のときと状況が類似する。仮にそれが進めば逆に失業者が増えて失業率が上昇する可能性もあるだろう(ただしこれはまだリスクシナリオの位置づけ)。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は羅高下して高安まちまち。米ADP雇用統計、米ISM非製造業景況指数の改善といった「需給ファンダメンタルズのプラス要因」と金融引締め加速観測の強まりを受けた「ファイナンシャル要因」が相殺し合う形となったため。
また、夜間に発表された米石油統計は市場予想比で原油がややベア、製品がブルな内容だった。
製品は特に需要の回復が顕著で、ガソリン・ケロシンは過去5年平均を上回っている。これら2つの油種は、前者が自動車、後者が航空機の燃料でありいずれも個人の移動に用いられる。
一方、商業向けの需要が多いと考えられるディーゼルを含むディスティレートの出荷は過去5年平均を下回っている。このことは、ISM製造業指数が悪化し、ISM非製造業指数の方が改善していることと平仄が取れている。
景気のシクリカルな回復や労働市場のタイトさが消費を可能にしているが、この状況が続くと再びインフレとなるため、金融当局は金融引締めを継続せざるを得ないだろう。
OPECプラスは2024年も減産継続、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意(詳細は以下の通り)。
しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。
問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。
OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施
サウジ 7月から▲100万バレルの追加減産(8月も継続)
サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。
一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。
6月27日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲2,996枚、ショートが+25,093枚と、弱気に転じている。
Brentはロングが▲12,255枚、ショートが+18,331枚となっており、こちらも弱気に転じている。
5月の中国の原油輸入は前年比+12.3%の5,144万4,000トン(前月▲1.4%の4,240万7,000トン)と伸びが加速。中国の消費者は価格に敏感であるため、5月の原油価格は4月よりも低下したことが影響したとみられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+195.9%の438万トン(前月+110.0%の389万5,000トン)とこちらも大幅に加速、輸出は▲1.8%の375万トン(+33.9%の545万トン)と減速した。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、雇用統計次第。ADP雇用統計の流れを受ければ良好な内容→ファンダメンタルズ要因↑+ファイナンシャル要因↓、悪い内容であればその逆になるため、結局現状水準でもみ合うものと考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は期近が小幅に続落、期先が小幅に上昇した。ノルウェーの生産再開・計画外停止と、今年の冬場の気温低下ヘの備えの動きが交錯している形。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要削減をしなくても足りるとの結果(前回シミュレーションでは+5%の需要増加でも足りていたので、若干状況は悪化)であるが、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。
しかし、仮にロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。
年後半に掛けて景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていることから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。
そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
3.4.は顕在化している。
5.は夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。
今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇し、過去2年の平均水準を上回った。夏場の気温上昇の影響もあり調達意欲が高まっているものと考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス市場は期近が小幅に下落。北部の気温低下予想が南部の気温上昇の影響を相殺した。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は期近が小幅に下落、期先が上昇した。TTFに追随する動きだが正直、日々の値動きの範囲内。
現在のJLCの水準は13.58ドルであり、現在のスポット価格は、かなりその差を縮小させたが、まだこの水準を下回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
5月の中国の天然ガス生産は前年比+7.3%の1,397万1,000トン(前月+5.6%の1,382万4,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている
5月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+17.3%の1,064万トン(前月+11.0%の898万トン)と先月から急速に輸入量が増加、過去5年の最高水準を上回った。
5月の中国のパイプライン輸入は、前年比+1.9%の423万トン(+12.6%の421万トン)と、前月からは伸びが減速したが過去5年の最高水準を維持している。
一方、LNG輸入は前年比+30.1%の641万トン(+9.6%の476万7,000トン)と大幅な増加となっている。中国南部の記録的な気温上昇が影響していると見られる。
一般にエルニーニョ現象発生時は赤道近辺の気温が上昇しやすく、中国以外でもベトナムなどが5月に熱波と小雨による発電の制限などが発生している。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしリオープン後の回復がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。
季節的な猛暑、渇水などによる発電燃料輸入需要が増加する可能性があるものの、景気の回復ペースが想定よりも緩慢であるため高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
6月25日時点の日本の発電業者のLNG在庫は223万トン(過去5年平均242万9,400トン)と過去5年平均を下回った。仮に猛暑となった場合のスポット価格の上昇リスクは高まっている。
サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
本日は、世界的な利上げペースの加速を受けた工業向け需要の鈍化観測と、エルニーニョ現象の影響で各地の気温が上昇していることに伴う需要の季節的な増加観測が相殺しあい、現状水準でもみ合うと考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は全ゾーン大幅に下落した。特段材料があった訳ではなく、限月交代後の上昇が大きかったこともあり、ガス価格の下落に歩調を合わせた形。
この数週間、期先の価格が上昇して全ゾーンコンタンゴとなる可能性が出てきた。
過去、原油やその他の商品でも見られたことだが、コンタンゴ→バック、の形状になっている状態が継続すると、1.期近が上昇してバックワーデーションになる、2.期先が上昇して全ゾーンコンタンゴになる、3.そのまま、のいずれかが起きることになる。
この数週間の動きを見ていると、2.となる可能性が高まっているようだ。この通りであれば期先(2028年頃)の価格は165ドル~180ドルまで上昇することになる。
仮に、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは注目だ。
期近は今のところ需給が緩和しているため、消費国である日本にとって大きな問題にはならないが、期先のコンタンゴがさらに進むリスクは意識しておく必要がある。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は135ドル、±1標準偏差で65~205ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇してきていることを考えると、実際は150~205ドルが説明可能なレンジ。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できない。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
て今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる可能性があり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
5月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+92.6%の3,958万4,000トン(前月+72.7%の4,067万6,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となり、2020年1月のった。
ガスも同様であるが、中国南部の記録的な熱波や小雨の影響で、発電燃料の調達が急遽必要になったと考えられる。
2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では5月はインドネシアからの輸入が減少したが、ロシア、豪州からの輸入が増加。燃料炭の輸入は1,893万トンと、2000年以降で最高となった2020年1月の1,916万トンに近づいている。
5月の中国の石炭生産は、前年比+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日(前月+2.7%の3億7,400万トン、1,246万トン/日)と伸びが加速した。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。やはり猛暑・渇水(中国南部)に対応するための発電燃料需要は増加しているとみられる。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇や渇水による電力供給減少がなければ、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
本日は、競合発電燃料のガス価格が高止まりする中、昨日の下げが大きかったこともあり割安感からの買いで上昇すると考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場はニッケルと亜鉛が小幅に上昇、錫が大幅に上昇、その他の金属は中国政府の経済対策への過度な期待が後退する中、米ドル高進行を受けて水準を切下げている。
錫は8月1日から開始される予定のミャンマーの鉱石輸出停止の影響で、需給がタイト化するとみられている。
世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクターの停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛ることになるが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。なりふり構わず、財政出動による公的需要で不連続に需要が増加する可能性も否定はしない。
とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。
そしてその場合、非鉄金属の在庫絶対水準が低いことから、比較的顕著な上昇になるとみている。
COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、CME銅がネット買越し幅を拡大、亜鉛が売り越し幅を縮小したが、その他の金属は先週から買越し幅を縮小、ないしは売り越し幅を拡大しており、トータルのネット買越し幅を縮小させた。
ほぼ全ての金属で新規でショートポジションが積み上がっている。基本、現物を必要としないファンド勢は将来的に必ずこのポジションを解消するため、先々の上昇のマグマが溜まっていると考えるべきだろう。
タイミングとしては中国政府の財政出動を伴う経済対策、あるいは欧米の景気底入れ。
5月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲4.6%の44万4,010トン(前月▲12.5%の40万7,293トン)と過去5年平均を回復した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+16.7%の255万6,713トン(+11.8%の210万2,572トン)と過去5年の最高水準で推移している。
精鉱輸入・精錬品輸入も増加しており、徐々に中国の経済活動の再稼働が意識されていると考えられるものの、そもそも在庫の水準が低いことに伴う在庫積増しの動きではないだろうか。
5月の中国の精錬銅生産は+26.9%の109万3,000トン(前月+25.3%の112万1,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
5月の銅スクラップの輸入は前年比+11.6%の17万6,490トン(前月+7.4%の14万5,366トン)と過去5年平均を回復した。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
また、習近平政権になってから、権力掌握のためにかなり無理な経済政策(過剰な投資)を行ってきたため、そのツケを払う結果、中国が「日本化」するリスクは以前よりも高まっている。
この場合、工業金属のみならず、エネルギーなどの景気循環系商品の構造的な下押し要因となるため、今後の中国政府の政策対応の重要性は増すことになる。ただ、中国は2030年頃まではまだ構造的な成長が見込めるため、これはまだリスクシナリオの位置づけ。
本日は、米雇用統計がADP雇用統計の流れを受けて強い内容であればドル高進行で下落、弱い内容であればドル安進行で上昇すると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、大連も小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は小動きだった。
中国当局による鉄鋼生産削減要請で鉄鋼向け需要の減少が見込まれるものの、在庫水準がやや過去5年平均を下回っている事もあり、一定の鉄鋼原料積増しの動きがみられ、高値を維持している。
疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。
恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすい。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+42万2,000トンの1,260万トン(過去5年平均 1,370万6,000トン)と季節的には珍しく在庫が増加している。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲65万トンの1億2,570万トン(過去5年平均 1億2,608万6,000トン)、在庫日数は24.9日(▲0.1日、過去5年平均24.9日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均に近接しつつあり、需給は緩和の動きに。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は▲7万トンの184万トン(過去5年平均 181万6,000トン)、在庫日数は±0.0日の7.0日(過去5年平均 6.9日)とこちらも在庫水準が増加し、日数ベースでも需給は緩和している。今後、原料炭価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。
5月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が49.9(前月35.20)と大幅に回復した。生産が49.9(27.5)と大幅に改善した他、新規受注も51.5(27.4)とほぼ倍増したことが影響している。
ただしこれは統計の綾の側面も否めない。というのもPMIは「前月と比べて今月はどうか、今後の見通しはどうか」というアンケートの採り方をするからだ。即ち、前月の水準が低すぎたということである。
まだ統計が出ていないためなんとも言えないが、中国鉄鋼協会によると主要鉄鋼生産者の粗鋼生産量は前月比+6.48%の223万1,000トンに達したとされている。
全く同じ比率で中国全土の粗鋼生産が増加したとすると、9,596万トンと前年比+5.8%の増加となる。しかしこの水準まで生産が増加すると、再び鉄鋼製品在庫の水準の高さが問題になる可能性は高い。
この場合、7月が季節的に降雨と高温で不需要期となることから、7月の粗鋼生産は再び低下する可能性がある。
中国の棒鋼先物価格は6月末時点で前年比▲16.8%(前月末▲26.7%、前々月末▲29.4%)とマイナス幅を縮小してはいるが、以前過去5年レンジの最低水準であり、ここで鉄鋼製品生産が増加しても、再び価格に下押し圧力が掛る可能性が高い(安売りする必要が出てくる)。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品在庫レシオは1.30(0.88)、原材料在庫レシオも1.21(1.00)と閾値の1を大きく上回っておりしばらくは調達圧力が高まり価格の押し上げ要因となろう。
しかし、中国の建設業PMIは55.7(58.2)と鈍化が続いており、短期的に鉄鋼原料や鉄鋼製品価格が上昇したとしても、最終消費のシェアが大きい不動産販売・投資が回復しなければ鉄鋼業の回復も持続的なものにならないと考えられる。
バランスシート不況にあると考えられる中国がどの程度財政出動を行い、民需の不足をカバーできるかが景気回復のタイミングを図る上で重要に成るが、今のところかけ声は大きいが、大きな経済対策を打ち出せるほど中国の財布は大きくない。
なお、WSJは関係者の話として1兆元規模の特別国債の発行を検討しており、調達した資金はインフラ整備などの成長促進に充て、大都市以外の地域を対象に非居住用の購入制限の撤廃を検討していると報じているが、今のところその動きはみられていない。
本日は、鉄鋼製品生産削減が需要減少の影響を相殺して鉄鋼製品価格が横這い推移となる中、鉄鋼原料価格も現状維持の見込み。
◆貴金属
昨日の金価格は良好な米雇用関連統計とISM非製造業指数を受けて長期金利が急騰、実質金利が上昇したことが金価格を押し下げた。一方で信用リスクも高まるため、リスク・プレミアムが上昇して下落幅を限定した。
銀は金価格の下落をうけて大幅に下落、投機的な色彩が強まっているプラチナも大幅に下落した。
パラジウムは日本時間の早朝に発表された米自動車販売が1,568万台(市場予想1,540万台、前月1,505万台)と改善したことで自動車向けの触媒需要増加期待がやや価格の下落を限定した。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。
1.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
2.米国債の格下げないしはデフォルト懸念
3.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと
4.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと
1.に関しては概ね米国の利上げの影響によるものであるため、米国の金融引締めが続く以上、リスク・プレミアムは高止まりすることになる。今年はあと最大でも2回程度の利上げが見込まれている。
逆に言えば、利上げが終了し、利下げに転じればリスク・プレミアムは低下することが予想されるが、今の状況だと早くても年明け以降になるだろう。
2.に関しては2025年に債務上限問題が延期されたが、その間、財政の健全性が担保されないとして、格下げになる可能性は残る。
実際、2011年の債務上限問題発生時は妥結していたものの、「財政赤字の削減が十分ではない」としてS&Pは米国債を格下げし、米国債は下落している。
仮に格下げがなければこれまで指摘したように、リスク・プレミアムが剥落して▲220ドル程度の下落になるだろうが、その判断はもう少し情報収集が必要だろう。
3.は2022年以降、特にその動きが顕著になった。各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年4月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が74.6トン、新興国が436.9トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは511.5トンとなる。これだけで205ドル程度の価格押し上げ要因に。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格は低下しているため900ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」となる基準価格はIMFベースであれば1,100ドル、WGCベースでは1,350ドル程度となる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,650ドル、WGCベースでは1,900ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのWGCベースの価格となっている。
仮に過去5年平均程度である370ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲210ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準にした場合、年後半の金価格の目線は1,720ドル程度、ということになろうか。
ただ、米中対立の構図が続く中ではドル忌避の動きが継続するため、上述の1.の要因が継続して高止まり、ということも有り得る。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。しかし、米ISM製造業指数が55を下回っている状況だと、ボリンジャーバンドの下限に張り付きやすい。
仮にボリンジャーバンドの下限75倍、上限ならば94倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると20.7~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。
100日移動平均線のサポートライン、チャート的には23.4ドルが目先の下値として意識される。ここを下抜けすると次は22.20ドルが目処に。
本日は、米雇用統計がADP雇用統計の流れを受けて強い内容であれば長期金利上昇・ドル高進行で下落、弱い内容であれば長期金利低下・ドル安進行で上昇すると考える。。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシが上昇したが、大豆と小麦が下落した。
トウモロコシは特段材料があった訳ではないが、豊作見通しから急落していたため5月に潰えた545セントのラインでテクニカルにサポートされた模様。大豆・小麦はドル高進行が価格を下押しした。
エルニーニョ現象が発生している際、買いは続かず下落に転じていることが多い。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。
しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。
本日は、米雇用統計がADP雇用統計の流れを受けて強い内容であれば長期金利上昇・ドル高進行で下落、弱い内容であれば長期金利低下・ドル安進行で上昇すると考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化している)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
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