クロス円相場、欧州通貨が牽引する円安続く
- MRA外国為替レポート
2023年6月26日号
◆先週の市場総括
先週は週後半にかけて大きく円安が進んだ。ECBは前週に利上げを実施し、7月の利上げが確実視されるなか、当局者からなおもタカ派発言が相次いだ。
そうしたなか木曜日にはスイスが0.25%の利上げを実施。イギリスは予想外に0.50%の利上げを実施し利上げを再加速させた。イギリスではインフレ率上昇が加速したことが背景。
米国ではパウエル議長が上下両院で議会証言を実施。発言内容はFOMC後の会見と概ね同様だったが、あらためて年内利上げの必要性を匂わせるかたちとなった。
欧米の金利先高感、ないし日本との金融政策格差があらためて意識され、週末にドル円相場は144円に迫り、ユーロ円相場は156円台後半に上昇。スイスフランは160円台に上昇。ポンド円相場は183円に迫った。
一方、欧米の景況感指数は製造業、サービス業ともに悪化。景況感悪化のなか利上げ継続観測で景気悪化懸念が強まり株価を圧迫。日経平均も週末にかけて需給悪化懸念から利益確定売りが嵩み32,000円台後半に反落して引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が反落。高値警戒感から売りが優勢となり後場に下げ幅を拡大した。一時前週末比▲400円安。引けは▲335円安33,370円。
ドル円相場は前週の流れを受けて円安気味に推移した。141円70銭で始まり80銭~142円手前でもみ合い。その後40銭に下落したが夕刻にかけて142円台に上昇した。夕刻以降は米国市場が休場のため小動き。141円70銭に下落したが持ち直し、141円90銭~142円でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は155円ちょうど近辺で始まり上下しながら昼過ぎには154円70銭に下落。ただ夕刻にかけて155円20銭まで戻した。欧州市場では154円70銭に下落したが持ち直し155円ちょうど近辺でもみ合い引け。
ユーロドル相場は小動き。1.0940で始まり横ばい。欧米市場でも1.0910~20と極めて狭いレンジで推移した。
米国市場は休場。ECBレーン理事は、7月は利上げが確実だが、9月は予測が難しい、判断するのは時期尚早と述べ、9月の利上げが不透明であることを示唆した。
一方、シュナーベル専務理事は、インフレ率は上方修正された予測を上回るリスクがある、ECBは引き続きデータに強く依存する必要がある、利上げを控え過ぎるより過度な利上げを実施する方向に誤るほうが望ましい、とタカ派姿勢を示した。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅高。中国景気への不安感が上値を抑制した。引けは前日比+18円高の33,388円。
この日、中国金融当局は利下げに踏み切った。景気悪化懸念、デフレ懸念が強まるなか景気下支えには不十分との見方、利下げがかえって景気悪化を示したことで不安感が広がった。
ドル円相場は上下動しながら上値の重い値動き。141円90銭台で始まり、142円20銭に上昇、昼前には141円60銭近辺に反落、142円10銭に反発。
欧州市場から米国市場朝方にかけては141円20銭台に下落した。米国市場では概ね141円30銭~60銭で上下し40銭近辺で引け。ユーロ円相場は155円ちょうど近辺で始まり昼前には154円60銭に下落。夕刻には155円40銭に反発したが欧米市場では154円ちょうど近辺まで下落した。
ドイツの生産者物価指数(PPI、5月)が前年同月比+1.0%と前月+4.1%から予想を下回る上昇率となりインフレ鈍化期待が強まり、金利先高感が後退した。
ユーロドル相場は1.0920で始まり1.0950に上昇していたが1.09ちょうど近辺に下落。ただその後ユーロは持ち直し、ユーロドル相場は1.0920、ユーロ円相場は154円40銭で引けた。
月曜日休場明けの米国株は下落。パウエル議長の議会証言前に様子見が強まるなか、中国景気への不安が関連銘柄を下押した。NYダウは一時▲380ドル安となり引けは▲245ドル安の34,053ドル。ナスダックは▲22ドル安の13,667ドル。米長期金利は低下。10年債利回りは3.719%、2年債利回りは4.685%。
水曜日の東京市場では日経平均が上昇。前日の米国株が下落したことから▲200円安となったが持ち直し。海外勢の買いが続き押し上げられた。引けは+186円高の33,575円。
為替市場では朝方公表された日銀の金融政策決定会合議事要旨を受けて円安が進んだ。
賃金上昇の持続性は不透明、イールドカーブ・コントロールの弊害はあるが国際金融情勢の見極めが必要、など当面様子見・現状維持したいとの意見が散見された。
ドル円相場は141円40銭近辺で始まり70銭に上昇。さらに夕刻から欧州市場にかけて142円10銭台までドル高円安が進んだ。
ユーロ円相場は154円40銭近辺で始まり夕刻には155円30銭に上昇した。ユーロドル相場は1.0910~20の極めて狭い値幅で小動き横ばい。
欧州市場では円がやや買い戻され、ドル円相場は141円70銭へ、ユーロ円相場は154円80銭に押された。米国市場では大きくユーロ高、ドル安、円安が進んだ。
この日パウエル議長は下院で議会証言を行った。発言内容はほぼFOMC後の会見と同じで新味はなかった。インフレ圧力は依然として根強い、メンバーのほぼ全員が年内利上げは適切とみている、と述べた。一方、利上げを行うとしてもペースはゆっくり、指標次第、とも述べた。
会見前にドル円相場は142円40銭に上昇していたが、その後は141円70銭に反落し引けは141円80銭近辺。ユーロドル相場は1.0990へ大きくユーロ高ドル安が進んだ。ドルインデックスは102ポイントちょうど近辺に下落。
ユーロ円相場は156円ちょうど近辺まで上昇し引けは155円80銭近辺。米長期金利は小幅上昇し10年債は3.727%、2年債は4.72%。
米国株は主要3指数がそろって下落。NYダウは▲102ドル安の33,951ドル。ナスダックは▲165ドル安の13,502ドル。パウエル議長のタカ派寄りの発言を受けて目先の利益確定売りが勝った。
木曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。利上げ長期化観測で米国株がハイテク中心に下落したこと、高値警戒感から下落した。引けは前日比▲310円安の33,264円。
ドル円相場は141円80銭で始まり60銭~90銭で上下したあと午後にじり高。夕刻から欧州市場にかけては142円ちょうど近辺で上下した。ユーロ円相場も同様に155円80銭近辺で上下のあと、夕刻にかけては156円50銭に上昇した。
ユーロドル相場は小動き。1.0990近辺でもみ合い横ばい。その後、欧州市場では1.1010に上昇。
この日、スイス中銀は金融政策決定会合で0.25%の利上げを決定し、政策金利は1.50%から1.75%へ。イギリス中銀(BOE)は予想外に0.50%の大幅利上げを決定。政策金利は4.50%から5.00%に引き上げられ、なおも追加利上げを示唆した。
前日に発表されたイギリスの消費者物価指数(5月)は前年同月比+8.7%と前月+8.7%のまま極めて高水準だった。
米国市場では発表された週次の失業保険新規申請件数は前週の264千件と同水準。シカゴ全米活動指数(5月)は前月の0.14から▲0.15に悪化。カンザスシティ連銀製造業活動指数(6月)は前月▲1から▲12に悪化した。
一方、中古住宅販売(5月)は季節調整済み年率換算で前月428万戸から430万戸に増加した。パウエル議長はこの日も上院銀行員会で証言を行った。
多くのメンバーが年内1回から2回の利上げが適切と考えている、と前日同様の発言を繰り返した。欧州の利上げ、イギリス中銀の利上げ再加速で、FRBも金融引き締めを長期化するとの見方が強まり米長期金利は上昇。
FRBボウマン理事は、インフレ率を目標の2%まで低下させるには追加利上げが必要、と述べた。
10年債利回りは一時3.8%をつけ3.798%、2年債は4.79%に上昇。ドルは米国市場朝方に下落したが持ち直し。欧米の金融引き締め長期化観測で円はドルや欧州通貨に対して下落。
ユーロ円相場は155円90銭に下落したあと156円90銭まで上昇して引けは70銭~80銭。
ポンド円相場は182円台半ばに上昇。スイス円相場は160円に迫った。ドル円相場は米国市場朝方に141円80銭に下落したが、その後は一貫して上昇。143円20銭まで上昇し引けは143円10銭近辺。
米国株はまちまち。NYダウは前日比▲4ドル安の33,496ドル。ナスダックは+128ドル高の13,630ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。需給悪化懸念で先物中心に手仕舞い売りが嵩んだ。日経平均への寄与度が大きい銘柄、このところ上昇が目立った商社株、ほか、幅広い銘柄が売られた。
午後は一時▲690円安。日中の値幅は960円近くに及んだ。引けは▲483円安の32,781円。
ドル円相場は143円ちょうど近辺で始まり142円80銭に下落したあと持ち直し143円40銭に上昇。20銭~40銭で上下したあと、欧州市場から米国市場にかけては143円を挟んで142円80銭~143円30銭で上下した。
ユーロ円相場は156円70銭~80銭で始まり40銭~50銭で上下。夕刻は156円80銭に上昇していたが、弱い欧州PMI景況感指数を受けて155円10銭まで下落した。
ユーロドル相場も1.0950~60で小動きもみ合い横ばいのあと夕刻にかけ1.0920近辺にじり安。欧州市場では1.0840へ大きく下落した。
ユーロ圏PMI景況感指数(6月)は製造業が前月44.8から43.6へ、サービス業が55.1から52.4へ、それぞれ予想以上に悪化した。
米国株も下落。米国のPMI景況感指数(6月)も製造業が48.4から46.3へ、サービス業が54.9から54.1へそれぞれ悪化。サービス業の悪化は予想通りに留まった。
ただ景気悪化のなか金融引き締め長期化との見方で景気悪化懸念が強まり株価を下押した。NYダウは▲219ドル安の33,727ドル。ナスダックは▲138ドル安の13,492ドル。
米長期金利は低下し10年債利回りは3.737%、2年債は4.748%。ただ為替市場では欧米と日本の金融政策格差を材料に一段と円が売られた。ドル円相場は143円90銭まで大幅に上昇し引けは70銭。
ユーロ円相場は156円60銭に上昇しもみ合い引け。ユーロドル相場は反発し1.0880~1.09ちょうどで上下し引けは1.0890台。
サンフランシスコ連銀総裁は、年内あと2回の利上げが現時点では非常に妥当な見通し、と述べた。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
パウエル議長はじめFRB当局者からタカ派発言が続くなか、なかでもインフレ関連指標に注目が集まろう。一方で景気悪化傾向は続き市場の懸念は強まっている。
月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(6月、予想▲26.5、前月▲29.1)
火曜日 耐久財受注(5月、前月比、除く輸送機器機、予想0.0%、前月▲0.2%) ケースシラー住宅価格指数(4月、前年同月比、前月▲1.2%) 新築住宅販売(5月、季節調整済み年率換算、予想659千戸、前月683千戸) 消費者信頼感指数(6月、予想103.5、前月102.3) リッチモンド連銀製造業指数(6月、予想▲10、前月▲15)
木曜日 米週間新規失業保険申請件数
金曜日 個人所得・消費支出(5月、前月比、予想+0.4%・+0.2%、前月+0.4%・+0.8%) デフレーター(前年同月比、予想+3.8%、前月+4.4%、コア、予想+4.7%、前月+4.7%) シカゴ購買部協会景気指数(6月、予想44.2、前月40.4) ミシガン大学消費者態度指数(6月確報、速報63.9、期待インフレ1年、速報3.3%、5年、3.0%)
2. 欧州の経済指標
欧州ではインフレ鈍化が捗々しくなく、イギリスではなお加速が観測される状況。景気悪化は続きインフレ抑止とのバランスは一段と難しさを増す。
月曜日 ドイツIFO企業景況感指数(6月、予想90.5、前月91.7)
木曜日 ドイツCPI(6月、前年同月比、予想+6.3%、前月+6.1%) ユーロ圏消費者信頼感(6月確報) 経済信頼感(6月、前月96.5) ECB経済報告
金曜日 ユーロ圏CPI(6月、前年同月比、予想+5.6%、前月+6.1%、コア、予想+5.3%、前月+5.3%)
3.ECBフォーラム
月曜日から水曜日まで3日間、ECBフォーラムが開催される。日米欧の金融当局者が集まり発言も多い。
火曜日にはECBラガルド総裁が発言。水曜日にはラガルド総裁、パウエルFRB議長、植田日銀総裁、ベイリーBOE総裁が討論を行う。
この他、欧州各国中銀当局者の発言機会も多い。なおも市場の欧米金利先高感を煽るかたちとなるか。日銀の金融緩和姿勢が際立ち投機的な円売りを加速させるか。
ほか、金曜日に景気動向が懸念される中国で製造業・サービス業PMI(6月)が、同日に日本でCPI(6月)が発表される。
◆今週のMRA's Eye
クロス円相場、欧州通貨が牽引する円安続く
先週は主として欧州で金利先高感が強まり、欧州通貨が対円で大きく上昇した。
ECBはすでに前週に0.25%の利上げを実施し、次回7月の会合でも追加利上げが確定的な情勢。9月についても判断は時期尚早としながら利上げの可能性が高まっていた。
先週はスイス中銀が0.25%の利上げを実施し、政策金利を1.50%から1.75%へ引き上げ。なかでも予想外とされたのがイギリス中銀(BOE)の動き。0.50%に利上げ幅を拡大、利上げ再加速させて、政策金利を4.50%から5.00%に引き上げた。
イギリスでは5月のCPIが前年同月比+8.7%に高止まり。コアインフレ率も+7.1%に伸びが加速して31年振りの高水準となっていた。
BOEはさらに1%ほど利上げして政策金利を6%まで引き上げるとの見方が大勢となっている。欧州でのインフレ高止まり、追加利上げ継続が、金利面から欧州通貨高円安を促している。
また欧州各国中銀の積極的な金融引き締め姿勢は、FRBも追加利上げを躊躇せず行う可能性が高いとの思惑を強めた。
BOEは0.50%から0.25%に利上げ幅を縮小していたが再拡大。またオーストラリア準備銀行(RBA)は利上げ休止のあと再開に動いている。
パウエル議長からは、多くのFOMCメンバーがなお0.25%の利上げを1回ないし2回実施することが妥当とみているとの発言が繰り返された。また他のFRB当局者から追加利上げを妥当とする発言が散見された。欧州各国中銀の動きに、市場もFRBの追加利上げをあと1回は織り込みつつある。
一方、日銀はなお超金融緩和政策の修正に慎重。4月の金融政策決定会合で現状維持を決めたが、その議事録が先週公表された。賃金上昇の持続性が不透明、イールドカーブの弊害有るも国際金融情勢の見極めが必要、当面現状維持したい、と政策変更をしたくない理由、意見が列挙されていた。
こうした姿勢が、欧米の金融引き締め姿勢とあいまって、投機的な円売りを加速させたのは明らかだ。
リスク選好・株高もクロス円相場中心の円安を促してきたとみられる。ただ金融引き締め観測とリスク選好・株高は相容れない。
米国が利上げ打ち止め、欧州が利上げ継続、であれば米国株堅調・リスク選好の維持は可能だが、米国でも追加利上げ継続なら、その前提条件が崩れる。
少なくともリスク選好の円安、とくにクロス円相場を中心とした円安は株高の一服、株価調整とともに頭打ちとなるとみられる。
足元では単純に金融政策格差だけを材料として円全面安が進んでいるということになる。金利差が材料なら、欧州の利上げが継続する限り円安が続く、という結論になる。
FRBの利上げ打ち止めが明確になるにはなお9月頃まではかかるだろう。欧米金利上昇観測が一服するのは秋となり、円安もそれまで続くとの見方となる。ただその原動力は投機的な円売りだ。
経済指標は景気悪化基調を示している。PMI景況感指数はサービス業でも景況感が継続的に悪化していることを示した。
中国の景気低迷は明確となり、すでに市場の懸念材料となっている。経済指標で景気悪化がさらに示されるようなら株価調整、リスク回避の強まりは不可避だろう。
その場合、積み上がった投機的な円売りポジションが解消、円高方向に振れると想定される。そのリスクが少なくとも短期的には高まっている。
目先は株価動向、さらなる景気悪化を確認する指標、主として米国になるがインフレ鈍化、期待インフレ率の後退、雇用悪化、賃金上昇率の鈍化、などを示す経済指標への反応は要注意だ。
こうしたデータの積み上げで、最終的に利上げが打ち止めとなった場合の反動もまた、相応に大きいと予想される。
9月までは円安圏で留まりながらも波乱の相場展開の可能性。少なくともボラティリティは上昇しそうだ。その後は円高サイドに調整の可能性。金利面ではさほど急激な円高は想定されないものの、ポジションやこれまでの水準調整という点からは円高の動きが大きくなる可能性もあり留意を要する。
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