景気先行き懸念とドル高で軟調
- MRA商品市場レポート
2023年6月26日 第2485号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「景気先行き懸念とドル高で軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場はその他農産品や発電燃料の一角が上昇したが、その他の商品、特に景気循環系商品価格が水準を切り下げる展開となった。
各国中央銀行が粘着質のインフレを回避するために利上げの姿勢を強めていることが、景気の先行き減速懸念を強めたことが材料。
このコラムでは以前から指摘しているが、金利に対する感応度が高い製造業は既にコロナ後のペントアップ需要が一巡、景気に遅行する雇用や賃金の影響を受けるサービス業はまだ減速が明確ではなく、むしろ回復感すら出ている状況。
現在、エネルギーや非鉄金属などの景気循環系商品価格が下落しているものの、サービス価格の下落は明確ではなく、結局各国ともタカ派のスタンスを維持せざるを得なくなってきている。
しかし、ここまでのインフレの背景は2000年頃から始まった世界的な量的緩和の行き過ぎの副作用によるものともいえ、金利を引き上げるだけでは沈静化が難しくなっている可能性が高い。
だからといって急速に引き締めやQTを加速させると再びリスク資産価格が急落、望まない追加緩和を実施せざるを得なくなる可能性がある。
基本的に景気に楽観的になりやすい欧米金融機関の見通しでもQ323~Q423はショートタームリセッション入りを予想しているため、このタイミングでの利上げはリスク資産価格を大きく押し下げるリスクがある。また、既に減速している製造業の景況感を更に悪化させる可能性は否定できない。
なお、中国は総じて在庫調整が必要な局面にあると考えられ、その間は金融緩和はある程度企業運営の助けとなるが、金融緩和が需要を増加させるステージにはまだなっていないと考えられる。
共産党の強力な一党支配の国であるため、超法規的な対策が行われる可能性はあるものの、西側の国の理屈で考えれば中国の回復はやはり年明け以降(といってもあと半年程度)になるのではないか。
【本日の見通し】
週明け月曜日は、インフレ抑制のための各国中央銀行のタカ派スタンスが再び強まっていることを背景に、調整売りに押される商品が増えると予想する。
なお、予定されている経済統計やイベントで注目は以下の通り。
・6月独IFO企業景況感指数 90.6(前月91.7) 現況指数 93.5(94.8) 期待指数 88.1(88.6)
【昨日のトピックス】
昨日、日米欧のPMIが発表された。欧州最大の経済国であるドイツの製造業PMIが45.5(市場予想 45.3、前月45.7)、ユーロ圏製造業PMIが43.6(44.8、44.8)となり、ドイツは市場予想は上回ったものの前月から減速、ユーロ圏全体では市場予想、前月とも下回る結果となった。
一方、多くの地域でインフレの源泉となっているサービス業の景況感は、ドイツが54.1(56.3、57.2)、ユーロ圏が52.4(54.5、55.1)とこちらは市場予想、前月とも下回った。しかし、閾値の50は上回った状況が続いている。
米国は製造業PMIが46.3(48.5、48.4)、サービス業PMIが54.1(54.0、54.9)と製造業が想定以上に鈍化し、サービス業は相変わらずであることを示唆する内容だった。
これらを総じて見ると、結局のところインフレの発生源となっているサービス価格の上昇につながるサービス業の景況感はまだ好調だが、さすがに減速感が出ていること、製造業の景況感は決して楽ではないこと、そのため利上げや高金利政策は継続するが、それが終盤に差しかかっていることを示唆している、といえる。
となると多くのハウスが予想している年後半の景気下振れリスクは高まることになる。
なお、日本の製造業PMIは49.8(前月50.6)と閾値の50を下回った。サービス業もインバウンド消費の増加などもあったが、54.2(55.9)と減速感が強まっている。金融緩和を継続している国であるため他国ほど悪化していないが、引き続き1.海外向けの輸出、2.海外からのインバウンド消費、が景気を下支えする構造になっている以上、海外景気が減速する中ではやはり減速は免れないのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。各国中銀が政策金利の引き上げに動く中、米国もあと2回の利上げがあるとしてリスク回避と合せてドルが物色されたことが、ファイナンシャルな面で原油価格を下押しする形となった。
原油相場は完全にボックス圏での取引となっており、新規材料待ちの状態が続いている。
ロシアのウクライナ軍事侵攻、制裁実施中の2022年以降のデータも含めて回帰分析を行うと、2023年のBrent価格予想は78.1ドルとなるが、直近5月までのデータを用いると81.1ドルとなる。2024年は上昇見通しで82.7ドルが予想平均価格となる。
ただし、各国の利上げがまだ行われ、景気過熱の沈静化の遅れを考えると景気回復のタイミングは大方の市場参加者が期待している年内底入れではなく、Q224頃にずれ込む可能性がたかまっているとみている。
長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
OPECプラスは減産期間を1年延長し、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意(詳細は以下の通り)。
しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。
問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。
OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施
サウジ 7月から▲100万バレルの追加減産(8月以降も継続の可能性)
サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。
一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、今年のウラルの平均価格は50ドル台であり、想定を大きく下回っている。
6月13日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+14,242枚、ショートが+31,610枚と、新規でショートが積み上がっており弱気に転じている。
Brentはロングが▲17,616枚、ショートが▲9,827枚となっておりこちらも弱気に傾いている。
5月の中国の原油輸入は前年比+12.3%の5,144万4,000トン(前月▲1.4%の4,240万7,000トン)と伸びが加速。中国の消費者は価格に敏感であるため、5月の原油価格は4月よりも低下したことが影響したとみられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+195.9%の438万トン(前月+110.0%の389万5,000トン)とこちらも大幅に加速、輸出は▲1.8%の375万トン(+33.9%の545万トン)と減速した。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・需要回復期(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日も、各国中央銀行の金融引き締め継続再確認を受けた先行き懸念で、水準を切り下げる展開を予想。但しサービス業の景気は明確に減速していないため、下値も堅いと見る。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は続落した。各国中央銀行の金融引き締め再加速を受けて景気の先行き減速懸念が強まっていることが背景。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要が過去5年平均よりも+5%増加したとしても足りるとの結果であるが、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。
しかし、仮にロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。
年後半に掛けて景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていることから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されていない。しかし2024年いっぱいで、ウクライナ経由の欧州向けガス輸出の契約は、更新されない可能性が高まっている。
そのため、2025年までに脱ロシアを完了することは難しく、やはり2026年~2027年頃に脱ロシア完了はずれ込むと考えるのが妥当だろう。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
3.4.は顕在化している。
5.は夏場の調達が始まっているが、今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は最大消費地の北アジアは冷夏となる見通し。ただし既に東南アジア・南アジアは気温上昇と渇水が起きている地域も多いこと、エルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、夏・冬とも価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けともほぼ変わらず。昨年の水準を下回った状態が続いている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は期近が上昇、期先が下落した。期近の上昇は気温上昇を受けた冷房需要の増加観測が背景。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場はパラレルに小幅に続落した。各国中央銀行の金融引き締め再加速の影響で小幅に水準を切り下げる展開。しかしスポットはボックス圏での推移になっている。
現在のJLCの水準は13ドル程度であり、現在のスポット価格はこれを大きく下回っている。その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
5月の中国の天然ガス生産は前年比+7.3%の1,397万1,000トン(前月+5.6%の1,382万4,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている
5月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+17.3%の1,064万トン(前月+11.0%の898万トン)と先月から急速に輸入量が増加、過去5年の最高水準を上回った。
5月の中国のパイプライン輸入は、前年比+1.9%の423万トン(+12.6%の421万トン)と、前月からは伸びが減速したが過去5年の最高水準を維持している。
一方、LNG輸入は前年比+30.1%の641万トン(+9.6%の476万7,000トン)と大幅な増加となっている。中国南部の記録的な気温上昇が影響していると見られる。
一般にエルニーニョ現象発生時は赤道近辺の気温が上昇しやすく、中国以外でもベトナムなどが5月に熱波と小雨による発電の制限などが発生している。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしリオープン後の回復がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。
季節的な猛暑、渇水などによる発電燃料輸入需要が増加する可能性があるものの、景気の回復ペースが想定よりも緩慢であるため高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
週明け月曜日は、世界的な利上げペースの加速を受けた工業向け需要の鈍化観測と、エルニーニョ現象の影響で各地の気温が上昇していることに伴う需要の季節的な増加観測が相殺しあい、現状水準でもみ合うと考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は期先が下落した。これまで期先の上昇が顕著だったが、世界景気の減速観測を背景にガス価格が調整したため、期先にも売り圧力が高まった。
基本、期先は殆ど取引流動性がないため、下落時/上昇時の変動幅が大きくなりやすい。ただし、当面、インドや中国などの新興国を中心に石炭需要はなくならない一方、欧州中心に鉱山生産は制限されるとの見方から、割安感を意識した買いが期先の価格を下支え→押し上げる可能性は高まっていると見ている。
過去、原油やその他の商品でも見られたことだが、コンタンゴ→バック、の形状になっている状態が継続すると、1.期近が上昇してバックワーデーションになる、2.期先が上昇して全ゾーンコンタンゴになる、3.そのまま、のいずれかが起きることになる。
仮に、欧州の石炭生産規制によって供給が絞られる一方、中国やインドは石炭を今後も使う見通しであり、中長期的な需給ひっ迫を市場が意識し始める可能性はあるため期先の動きは注目だ。
期近は今のところ需給が緩和しているため、消費国である日本にとって大きな問題にはならないが、期先のコンタンゴがさらに進むリスクは意識しておく必要がある。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が130~140ドル程度まで再び上昇してきていることを考えると、実際は130~200ドルが説明可能なレンジ。
2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除しない。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
て今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏にある可能性があり、南アジアでは既に記録的な熱波が観測されている地域も多い。そのため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
5月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+92.6%の3,958万4,000トン(前月+72.7%の4,067万6,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。
ガスも同様であるが、中国南部の記録的な熱波や小雨の影響で、発電燃料の調達が急遽必要になったと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では4月まではインドネシアと豪州からの輸入が増加、ロシアからの輸入が減少している。特に豪州からの輸入増加が顕著で制裁解除の影響が顕在化していると考えられる。
5月の中国の石炭生産は、前年比+5.1%の3億8,500万トン、1,242万5,000トン/日(前月+2.7%の3億7,400万トン、1,246万トン/日)と伸びが加速した。
5月の中国の電力消費量は前年比+7.5%の7,222億Kwh(前月+8.5%の6,901億kwh)と伸びが減速、過去5年レンジも上回った。やはり猛暑・渇水(中国南部)に対応するための発電燃料需要は増加しているとみられる。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇や渇水による電力供給減少がなければ、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
週明け月曜日は、中国の渇水の影響で発電向けの燃料確保の動きは強まると予想されること、各国の金融引き締め加速を受けた景気の減速観測が相殺しあう形で現状水準を維持すると考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。各国中央銀行の金融引締め強化とそれを受けたリスク回避のドル高進行が非鉄金属価格を押し下げた。
また、世界最大の非鉄金属消費国である中国の景気回復が遅れており(不動産セクターに偏り過ぎた経済成長のツケを払っている状態)、そのことも価格を低迷させている。
このコラムで主張している通り、中国の不動産セクターの立て直しは簡単なことではなく、さらに地方政府のサイフも大きくないことからやはり回復には時間が掛るとみている。
これもかねてから指摘している通りだが、1.中国の人口ボーナス期は2030年頃まで続くため、まだ近代化を目的としたインフラ投資は継続する、2.人口ボーナス期に入り、かなり積極的に国内インフラ投資を行っているインドが今後10年~20年の非鉄金属需要を牽引する、可能性が高い。
ただ、新興国の場合、為政者がかじ取りを誤ると潜在需要が顕在化しないため、モディ首相率いるインドの政策動向は注視していく必要がある。
世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクターの停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。
実際、非鉄金属のベンチマークである銅の人民元建ての価格は過去65,600人民元/トンが「最高値」として意識される傾向が強い。というのも2000年以降、この水準にタッチすると下落していることが多く、今回も同様。
やはり中国の景気はそれほど回復しておらず、非鉄金属価格の上昇がある中で消費を継続するのは困難、という事だろう。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛ることになるが、恐らく共産党支配が強い国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないのではないか。
とはいっても年内の回復は難しく、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待される(早ければ)Q423の後半、遅くともQ224の前半には上昇に転じるとみる。
そしてその場合、非鉄金属の在庫絶対水準が低いことから、比較的顕著な上昇になるとみている。
COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は特段材料がない中で、中国政府の対策期待で総じて買い戻しが入る展開隣、アルミを除く全ての非鉄金属が買越し幅を拡大、または売り越し幅を縮小した。
銅・亜鉛・鉛・ニッケル・錫は新規ロングの増加とショートの減少で明らかに強気に転じている。
アルミはロング・ショートとも増加しているがショートの増加が大きい。恐らく中国雲南省のアルミ生産増加観測が材料視されたと考えられる。
この一連の買い戻しで再びネット買越しに転じている。景気の底入れのタイミング次第だが、早ければ年後半から需要が回復し、かつ、脱炭素などのテーマ性のある金属の物色が始まるため、比較的大きな上昇になるのではないか、と見ている。
最大消費国である中国の景況感は良いとは言えず5月の中国製造業PMIは48.8(市場予想 49.5、前月 49.2)と市場予想、前月とも下回り、非製造業PMIも54.5(55.2、56.4)と減速が確認された。ゼロコロナの終了とそれに伴うペントアップ需要の顕在化が期待されたが、Q123でそれも一巡したとみられる。
中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度が▲0.15(前月▲1.44)と引き続き大きく、次いで、生産▲0.15(▲1.10)、雇用▲0.08(▲0.18)、在庫▲0.03(▲0.04)となった。
先月から比べればマイナス幅が縮小しているため、状況の更なる悪化は一応歯止めが掛りつつあると言える。
しかし、本確的な回復には不動産セクターの問題解消(必要条件)に加え、個人消費の回復や、海外景気の回復に伴う輸出の回復が必要になるため、やはり年内の回復は難しいのではないか。
統計の内訳を見ると、新規受注は48.3(48.8)、輸出向け新規受注も47.2(47.6)と低迷している。国内の消費の弱さに加え、人民元安をテコに進めてきた輸出も欧州景気の減速を受けて減速している。
また、投入価格は40.8(46.4)と大幅低下、販売価格も41.6(44.9)と低下しており、欧米はインフレで苦しんでいるが中国はデフレに突入した感(日本化)すらある。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(0.988)、原材料が1.015(1.019)と先月とほぼ変わらなかったが、完成品は閾値の1を下回っている。
生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は48.9(49.4)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」が継続しているとみられ、しばらくは在庫調整圧力が強まることになるだろう。通常、意図せざる在庫積増し局面から調整局面を経て在庫積増しが必要な局面に入るまで、1年程度は掛る。
ただ、欧米と違い、国の意向で「無理」が通る国営企業の在庫調整は進捗しやすいと考えられるため、通常のサイクルよりも早く回復する可能性はある。
5月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲4.6%の44万4,010トン(前月▲12.5%の40万7,293トン)と過去5年平均を回復した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+16.7%の255万6,713トン(+11.8%の210万2,572トン)と過去5年の最高水準で推移している。
精鉱輸入・精錬品輸入も増加しており、徐々に中国の経済活動の再稼働が意識されていると考えられるものの、そもそも在庫の水準が低いことに伴う在庫積増しの動きではないだろうか。
5月の中国の精錬銅生産は+26.9%の109万3,000トン(前月+25.3%の112万1,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
5月の銅スクラップの輸入は前年比+11.6%の17万6,490トン(前月+7.4%の14万5,366トン)と過去5年平均を回復した。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
週明け月曜日は、週末の下落もあって実需筋の安値拾いの買いが期待されることから一旦上昇すると見る。しかし、中国政府当局が追加対策に及び腰であることを考えると上値も重いと考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は休場、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は休場、上海鉄筋先物は休場だった。
疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。
恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすいと考えている。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲25万トンの1,217万8,000トン(過去5年平均 1,364万9,000トン)と減少。
これまで過去5年平均の減少ペースほどの減少になっていなかったが、ここに来て在庫の減少ペースが加速している。5月の粗鋼生産が減少しており、景気の回復が緩慢なことを背景とした生産調整の影響と考えられる。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+65万トンの1億2,635万トン(過去5年平均 1億2,637万6,000トン)、在庫日数は25.0日(+0.1日、過去5年平均24.9日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は過去5年平均に近接しつつあり、需給は緩和の動きに。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は▲18万トンの200万トン(過去5年平均 177万2,000トン)、在庫日数は▲0.7日の7.4日(過去5年平均 6.7日)とこちらも在庫水準が増加し、日数ベースでも需給は緩和している。今後、原料炭価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。
5月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が35.2(前月45.0)と大幅に減速した。生産の落ち込みが特に顕著(47.2→27.5)。これは年初から生産が高水準であったことによる在庫の積み上がりの反動と考えられる。
新規受注も33.9(前月39.9)と落ち込みが大きく、輸出向けも44.1(55.1)と急減速している。これまで人民元安などをテコに輸出にバイアスが掛っていたとみられるが、海外製造業の景況感は金融引締めの影響で減速しており、頭打ち感が出てきている。
実際、中国の棒鋼先物価格は5月末時点で前年比▲26.7%(前月末▲29.4%)と低下、さらに過去5年レンジも下回っており鉄鋼製品を巡る需給環境は緩和していると考えられる。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況が継続している。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品在庫レシオは0.88(0.87)と低迷、原材料在庫レシオも1.00(1.02)と閾値の1まで低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和している。
Q123の需要が国内の需要(ペントアップ需要+地方政府財政を何とかしなければならない中での不動産市場のテコ入れ)が増加ことによるもので、それが剥落していると考えられる。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではなく、回復には時間がかかろう。
好調だった中国の建設業PMIも58.2(63.9)と急減速しており、更なる低下のリスクは無視できない。世界的に景気の減速感が強まる(逆に回復を始めた米国はそれを抑制するための金融引締め維持)可能性が高いことから、回復はやはり2024年にずれ込むのではないか。
5月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲22.1%の63万1,350トン(前月▲39.1%の58万4,930トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
5月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.7%の835万5,720トン(+59.3%の793万2,430トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。
5月の中国粗鋼生産は前年比▲6.7%の9,012万トン(前月▲0.2%の9,264万トン)と減速基調を維持し、過去5年平均を下回った。
国内で生産した鉄鋼製品が国内で処理仕切れず輸出に回していたが、それも厳しくなってきたために生産量を減らし始めたと考えられる。製造業全体の在庫循環図は調整局面入りしており、まだ在庫調整が必要な事を示唆している。
鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週明け月曜日は、中国休み中の下落をフォローする形で、鉄鋼製品、鉄鋼原料とも水準を切り下げる展開を予想する。
◆貴金属
昨日の金価格は小幅に上昇した。景気先行きを懸念した長期金利の低下を受けて実質金利が低下したことが背景。銀も金に連れ高。PGMは株価の調整が重石となり頭重い推移となった。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。
1.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
2.米国債の格下げないしはデフォルト懸念
3.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと
4.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと
1.に関しては概ね米国の利上げの影響によるものであるため、米国の金融引締めが続く以上、リスク・プレミアムは高止まりすることになる。
逆に言えば、利上げが終了し、利下げに転じればリスク・プレミアムは低下することが予想されるが、今の状況だと早くても年後半になるだろう。
2.に関しては2025年に債務上限問題が延期されたが、その間、財政の健全性が担保されないとして、格下げになる可能性は残る。
実際、2011年の債務上限問題発生時は妥結していたものの、「財政赤字の削減が十分ではない」としてS&Pは米国債を格下げし、米国債は下落している。
仮に格下げがなければこれまで指摘したように、リスク・プレミアムが剥落して▲220ドル程度の下落になるだろうが、その判断はもう少し情報収集が必要だろう。
3.は2022年以降、特にその動きが顕著になった。各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格は低下しているため900ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」となる基準価格はIMFベースであれば1,100ドル、WGCベースでは1,350ドル程度となる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,650ドル、WGCベースでは1,900ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。
仮に過去5年平均程度である370ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲210ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準にした場合、年後半の金価格の目線は1,720ドル程度、ということになろうか。
ただ、米中対立の構図が続く中ではドル忌避の動きが継続するため、上述の1.の要因が継続して高止まり、ということも有り得る。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限を目指す動きになっている。しかし、米ISM製造業指数が55を下回っている状況だと、ボリンジャーバンドの下限に張り付きやすい。
仮にボリンジャーバンドの下限75倍、上限ならば94倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると20.7~26.0ドルが現在取り得る範囲といえる。
100日移動平均線のサポートライン、チャート的には23.4ドルが目先の下値として意識される。ここを下抜けすると次は22.20ドルが目処に。
週明け月曜日は、目立った手掛かり材料に乏しい中、新規材料待ちで現状水準を維持すると考える。但し各国中銀が追加利上げに動く中で、金の基準価格の低下が見込まれるためやや軟調推移か。銀も同様。
PGMは世界的な金融引き締め観測を背景とする株安が重しとなり、やはり軟調推移か。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。リスク回避のドル高が再び進んでいること、原油価格の下落が材料となった。エルニーニョ現象発生は基本的には価格の下落要因(注:過去の傾向に基づくアノマリー)となるため、テクニカルに短期的な買われ過ぎ感が出ていたので、週末を控えた利益確定の動きが出たものと考えられる。
通常、エルニーニョ現象が発生している時は穀物価格は下落しやすいのだが、北米の生産見通しが乾燥気候の影響でかなり悪い状態であり、生産下振れリスクが強く意識されている状況。
ここに来てエルニーニョ現象の発生による不作の可能性(現在は米グレートプレーンズ)が指摘されるようになってきた。
ただ、2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。
しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。
週明け月曜日は、各国中央銀行の利上げでリスク回避的にドルが物色されていることから、軟調推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「原油見通しリスクシナリオ考察」
原油価格は年後半に向けて価格水準を切下げ、景気底入れの前後のタイミングで上昇に転じるというのが現在弊社が想定しているメインシナリオである。
基本的に原油価格動向は景況感に左右され、供給面が材料になるのは景気が良好で供給に障害が生じたときである。
そのため景気減速局面でのOPECやOPECプラスによる減産は、価格に下支え効果をもたらすと整理するのが適切である。しかしOPECプラスは既に2024年の減産を決定しているため、想定通り景気が底入れするならば2024年の原油価格は想定以上に上昇する可能性があると考えている。
原油のリスクシナリオ
では今から年末までに原油が高騰する、ないしは暴落する展開はどのようなケースが有り得るのか。
価格が上昇するシナリオについては、現在世界景気はどちらかと言えば減速方向にあるため、景気が底入れするまでに価格の上昇があるとすれば供給面か金融面かのいずれかの材料が顕在化することが必要条件となる。
原油市場でのプレゼンスが上がった中国が大規模な経済対策を打つ、というシナリオもなくはないが、不動産セクターの調整が終了していないこと、コロナ禍、人口動態ピークアウトを通じて構造的な成長力が鈍化していること、財政的なゆとりがないことから、その可能性は高くはないと見ている。
供給面は大規模な供給停止が突如発生する場合で、かつてはホルムズ海峡の閉鎖、直近ではロシアに対する制裁で強制的にロシア産原油を買わないといったことが該当する。
これらのイベントはその影響が余りに大きいため、それが懸念されるだけでも価格上昇要因となる。仮にホルムズ海峡が閉鎖される、またロシア規模の産油国の生産が完全に供給停止になる、といった場合は、Brent原油価格は瞬間的に前回高値である139.13ドルを目指す展開になるだろう。
そしてそのイベントリスクの長期化度合いによっては150ドルを上回る展開になってもおかしくない。
しかし、現在は水面下で米国とイランの核開発に関する協議も行われているようであり、さらにサウジアラビアとイランの関係が改善していること、ロシアの原油も第三国を通じて国際市場に流入しているためこのシナリオの発生確率は高くない。
そのため、サウジアラビアを中心としたOPECプラスが、意図的に供給を大幅に減らす方がより蓋然性の高いシナリオと言える。
しかし、6月のOPECプラス会合では減産を迫るサウジアラビアに各国が同調せず、結局減産を先送りし、足下はサウジアラビアが減産することでどうにかOPECプラスの結束を確認するに止まったことを考えると、やはり景気減速で原油価格が下落する局面での大規模減産の可能性は低いと見ている。
となると、金融面が材料になる場合の方が発生確率が高そうだ。過去の原油価格動向、FF金利動向を見ると金融引締めを行って逆イールド状態になっているときは、景気加熱沈静化を行っているため原油価格は下落している。
そして注目は、景気後退局面入りする前の金融緩和局面で一時的に原油価格が上昇することがある点だ。
その後、ほとんどの場合、景気が後退局面入りしているため価格は再び下落、実際に価格が上昇するのは景気後退局面が終了してからとなっている。
つまり米国が金融緩和に舵を切ったときに一時的な価格上昇が起こる可能性があり、年後半に市場がこれまで期待していた▲50bp程度の利下げが行われたときに、原油価格が比較的大きく上昇する展開が想定される。
ただしそれは持続可能な価格上昇ではなく、上げ幅も限定されるとみる。Brent原油で一時的に90ドル程度まで上昇するだろうが恐らく一時的で、結局下落すると予想される。持続的な上昇には景気の底入れが必要条件となる。
では逆に下落するシナリオはどうか。これは需要が即時に減少する、金融面、産油国の増産のいずれかないしは全ての合わせ技による。
まず需要の即時の減少は、実需以外の投機の需要も含む需要の減少を意味するが、いわゆる「ショック」が発生した場合だろう。この25年を俯瞰すると、ドットコムバブルの崩壊、サブプライム・ショック、リーマン・ショック、コロナ・ショックなどがこれに当たる。
これらのショックが顕在化すると信用市場に大きな影響が及び、企業の格付が引き下げられるなどのトリガーが引かれ、企業の借り入れ条件が悪化したり、場合によっては資金調達ができなくなったりといったことが起こり得る。この場合、信用市場でのリスク顕在化が実需に影響を及ぼすことになり、さらにその波及効果が大きいため小さいリスクにならないことが多い。
現在、このリスクが発生する可能性としては、欧米中央銀行の金融引締め過ぎにより低格付企業が破綻したり、ドル高の進行が新興国の外貨建て債務を増加させ財政破綻となったり、この春に問題視された金融機関のデフォルトといったことがこれに当たる。
今のところ、FRBは慎重にインフレ抑制のための金融引締めを継続しているが、「魔が差して」過度に利上げをするリスクは排除できない。恐らく利上げが完全に打ち止めになり、市場の安心感が広がるのは今年の年末以降になると思われるが、それまでは景気の減速も見込まれるため大幅な原油価格の下落は起こり得る。
イベントの程度にもよるが、Brent原油で60ドル程度までの下げがあってもおかしくない。
産油国の増産はこれまでも確認されてきたが、原油価格が下落する局面で起きることが多い。
原油価格が下落するときの減産は、減産規模以上に価格が上昇すれば問題がないが、当然「抜け駆け」が起きるため結局実入りを確保するため産油国が減産しないということが起こり得る。
具体的には▲10%生産量を減らしたなら、+10%以上価格が上がらなければ減産効果はなかったことになる。恐らくここまで紹介してきたリスクシナリオの中で、このシナリオの発生の可能性が最も高いのではないか。
しかし、それでも脱炭素の影響で十分な増産能力が確保できていないこと、2014年サウジアラビアのムハンマド皇太子の決断によって発生した、OPECショックによって価格が低迷したことから、この10年、十分な上流部門投資が行われていないことから、これまでほど抜け駆け増産の影響で大きく下落する可能性は高くないとみている。
恐らくそのときの水準から▲10ドル程度価格を押し下げる効果で止まるのではないか。
では企業はどのようにするべきか
このようなシナリオはあくまで「リスク」シナリオであり、企業が営業計画や経営計画を立てるときにメインシナリオとすることは難しい。もちろん「原油が150ドルになっても大丈夫な体制を作るように」意図的にリスクシナリオを前提とした経営計画を策定する企業もない訳ではない。
しかし、通常は市場コンセンサスベースを用いた方が、計画立案に無理がなくなる。それよりはこうしたリスクが発生した時ヘの対応を事前に進めて置く方がより有益ではないだろうか。
具体的には現在保有している原料調達や製品販売のポジションを把握し(日次・週次・月次などでどの程度の仕入と販売があり、それがどのような価格体系になっているかを把握すること)、これまでみてきたようなリスクシナリオが顕在化した場合、どの程度業績に影響が出るかを把握することが必要になってくる。
その上で、その好ましくないシナリオが顕在化したときに、どのような打ち手があるかを考え、その打ち手を導入した時にどの程度の効果があるかを把握しておくことが必要になるだろう。
これまで戦略資源の代表選手は原油やガスであったが、今後、東西分裂や脱炭素の流れの中で戦略資源は化石燃料だけではなく、ニッケルやコバルト、亜鉛やアルミといった鉱物資源全般に広がると考えられる上、恐らく食料品も重要な戦略資源になって行くだろう。
そのときが来てからの対応では遅すぎるため、このようなリスクシナリオを想定し、それにいかに対処できるかといったことを平時から心がけておくことが必要になるだろう。恐らく遅からず、市場リスクヘの対応可否が業績を左右する時代が訪れるものと予想される。
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