米政策金利予測の落ち着きどころ
- MRA外国為替レポート
2023年6月12日号
◆先週の市場総括
先週はFRBの金融政策を巡る見方が揺れた。週初は弱いISM非製造業景気指数、なかでも雇用指数の悪化や受注指数、価格指数の低下を受けて、少なくとも6月の利上げ見送り観測が主流に。
一方、オーストラリア準備銀行が数回の利上げ見送りのあと追加利上げを実施。カナダ中銀が2会合見送りのあと予想外の利上げ実施、と、据え置きの後で追加利上げを実施。FRBも6月見送りでも7月ないし9月に利上げとの見方が強まった。
ドル円相場は140円近辺で始まったが140円台での上値は重く138円台に下落。週末にかけ持ち直したが引けは139円台半ば。ユーロドル相場は1.07台で方向感なく推移。ユーロ円相場は149円台中心の値動きとなった。
総じて次週のFOMCや米消費者物価指数などの材料を控え方向感なく推移した。
米国株も手控え感が強かった。日経平均は週末のSQ(特別清算指数算出)を前に急落するなど波乱となったが、無事通過すると急反発。海外勢の日本株買い意欲は依然として旺盛で週末は32,200円台で引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。前週末の米国株が大幅高となったことから幅広い銘柄が買われた。先物・現物ともに海外勢の買いが強まった。円安で輸出関連株も下支えされた。
ドル円相場は140円ちょうど近辺~20銭で上下したあと、夕刻にかけ40銭に上昇。欧州市場では140円30銭近辺で上下した。
ユーロ円相場は149円80銭~150円ちょうどでもみ合いのあと20銭に上昇したが、欧州市場では150円ちょうど近辺で推移。ユーロドル相場は1.0710で始まり1.0690~1.07ちょうど近辺で小動き。欧州市場ではやや下落して1.0680。
米国市場では発表されたISM非製造業景気指数(5月)が弱い内容だった。前月51.9から52.5への改善予想に反して50.3に悪化。雇用指数が50.8から49.2へ低下。受注指数は56.1から52.9へ悪化。価格指数は59.6から56.2へ低下した。
好調だったサービス業に先行き懸念が台頭。米国株は前週末の大幅高の反動で利益確定売りが強まった。アップル社が新商品発表後に材料出尽くしで大幅安となり指数を押し下げた。
NYダウは前週末比▲199ドル安の33,562ドル。ナスダックは▲11ドル安の13,229ドル。
米長期金利は小幅低下。10年債は3.685%、2年債は4.465%。ドル円相場は140円ちょうど~20銭で上下していたが139円20銭台に下落。その後80銭に反発して引けは139円50銭近辺。ユーロ円相場も149円20銭台に下落したあと70銭に反発し、引けは149円50銭近辺。
ユーロドル相場は1.0710~20に上昇してもみ合い引け。
火曜日の東京市場では日経平均が4営業日続伸。海外勢の日本株先高感は根強く先物中心に断続的な買いが入った。朝方は米国株が利益確定売りで下落したことを受け▲280円安となったが、切り返して後場に一段高。引けは前日比+289円高の32,506ドル。日中値幅は600円ほどに達した。
ドル円相場は139円50銭~60銭で始まり一時30銭台に下落するなど上値重く、午後から夕刻にかけて軟調。欧州市場では139円10銭~30銭で上下した。
ユーロ円相場は149円50銭で始まり20銭に下落したあと50銭~60銭で上下。欧州市場では148円80銭に下落した。ユーロドル相場は1.0710~20で小動きもみ合い。動意薄。
この日、オーストラリア準備銀行(RBA)は金融政策決定会合を開催し、予想外に政策金利を3.85%から4.10%へ0.25%引き上げた。これによりFRBが6月会合で利上げ見送りのあと7月ないし9月に再利上げとの見方が強まった。
米国市場では目立った材料がなく株価は小動き。出遅れいていた銘柄、景気敏感株、ハイテク株の一角に買いが入った。NYダウは前日比+10ドル高の33,573ドル、ナスダックは+46ドル高の13,276ドル。VIXインデックスは13.96ポイントまで低下した。
米長期金利はまちまち。10年債利回りはやや低下して3.675%、2年債はやや上昇して4.497%。ドル円相場は139円台後半で上下し引けは139円60銭~70銭。ユーロドル相場は1.0670~80で上下し引けは1.0690。ユーロ円相場は反発して149円30銭近辺で引け。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。下落は5営業日ぶり。朝方は+200円ほど上昇していたが、利益確定売りが主導し▲800円近く下落して引けは▲593円安の31,913円。
植田日銀総裁が日銀が保有するETFの売却について、物価目標実現が視野に入った場合は議論、と発言したことで、アルゴリズム(発言に反応して売買するシステム)による売りが生じたとの見方が強かった。
中国の貿易収支(5月)は黒字幅が前月から大きく縮小。輸出が前年同月比▲7.5%と大きく減少。輸入は▲4.5%と減少ながら前月よりはマイナス幅は縮小。全体として景気悪化を示す内容だった。
ドル円相場は139円60銭で始まり20銭~30銭に下落して上下。夕刻から欧州市場にはやや持ち直し30銭~50銭近辺で推移した。
ユーロ円相場は149円30銭で始まり夕刻にかけて下落し148円70銭近辺。ユーロドル相場は1.07ちょうど近辺で小動き、夕刻は1.0670。欧州市場から米国市場にかけてユーロ円相場は一貫して上昇。米国市場引けは150円ちょうど近辺。
ドル円相場は欧米市場では139円60銭から10銭割れに下落したが、カナダ中銀の利上げを受けて140円10銭~20銭近辺に大きく上昇して引けた。
この日、カナダ中銀が金融政策決定会合を開催。前回まで2会合連続で利上げを見送っていたが、今回は4.50%から4.75%に0.25%利上げ。
これにより、前日のRBAの利上げとあいまって、FRBが6月会合で利上げ見送りでも7月以降に再利上げの可能性があるとの思惑で米長期金利が上昇。ドル円相場を押し上げた。ユーロドル相場は1.0740に上昇したあと1.07ちょうど近辺に押し戻されて引け。
米10年債利回りは一時3.8%台に上昇し引けは3.795%。2年債は4.55%に上昇。米国株は出遅れ感のある景気敏感株に買いが入ったが、長期金利上昇を受けてハイテク株中心に下落。NYダウは前日比+91ドル高の33,665ドル。ナスダックは▲171ドル安の13,104ドル。VIX指数は13.94ポイントまで低下した。
木曜日の東京市場では日経平均が続落。前日に続き短期的な過熱感で売りが嵩んだ。金曜日のSQ(特別清算指数算出)を前に海外短期筋から利益確定売りが断続的に入った。午後には一時▲500円安。ただ押し目買いも入り下げ幅を縮めて引けは▲272円安の31,641円。
ドル円相場は140円20銭で始まり上値重く上下動。株安をにらみ軟調で夕刻には139円60銭~80銭に下落した。ユーロ円相場は150円ちょうどで始まりドル円相場同様に軟調。149円80銭~90銭でもみ合いのあと60銭~90銭で上下した。
ユーロドル相場は1.07ちょうどで始まり1.0710近辺で小動き。欧州市場から米国市場にかけてはドル安。
米国市場では発表された週次の失業保険新規申請件数が261千件と前週233千件から増加し2021年10月以来の水準となった。
これを受けて6月の利上げ停止のあとも追加利上げが回避されるとの見方が強まり、米長期金利が低下。ドルを下押した。米10年債利回りは3.81%から3.72%へ低下。2年債は4.52%。ドル円相場は138円90銭に下落し引け。
ユーロドル相場は1.0780へ上昇しもみ合い引け。ドルインデックスは前日の104ポイント台から103.33に下落。
ユーロ円相場は方向感なく149円台後半で上下し引けは149円80銭近辺。米国株は金融引き締め長期化観測が後退したことから下支えされた。NYダウは前日比+168ドル高の33,833ドル、ナスダックは+133ドル高の13,238ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反発。SQ(特別清算指数算出)を無事に通過。その後調整との見方に反して底固かったことから買い戻しが強まった。米金融引き締め観測が緩和したことも支え。
日銀の植田総裁は国会答弁で、保有するETFを持ち続けることも選択肢、2%の物価目標の持続的・安定的実現にはまだ少し間がある、粘り強く金融緩和を継続する、と述べた。引けは前日比+623円高の32,265円。
中国の物価統計(5月、前年同月比)は、消費者物価が前月+0.1%から+0.2%へやや上昇したものの低水準。生産者物価は前月▲3.6%から▲4.6%へ大きくマイナスとなった。為替市場では円高一服、円が軟調に推移した。ドル円相場は138円90銭で始まり堅調に推移し、夕刻から欧州市場にかけて139円60銭近辺でもみ合い。
ユーロ円相場も149円80銭で始まり150円40銭に上昇。ユーロドル相場は1.0780で始まり動意薄、小動き横ばい。欧州市場から米国市場にかけては円安一服。
今週のオーストラリア、カナダの利上げから金融引き締め長期化観測は拭えず、次週のイベントを控えて長期金利がやや上昇。10年債利回りが3.71%に低下したあと3.78%に上昇し引けは3.743%。2年債は4.596%。
ドル円相場は139円ちょうど近辺に下落したあと60銭に反発。その後は30銭~40銭を中心に推移して引けは139円40銭。ユーロ円相場は149円80銭に下落した後150円40銭に上昇したが反落。149円80銭近辺でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は1.0780に上昇したあと反落し1.0750で引け。米国株は次週のイベントを控え様子見姿勢が強かった。NYダウは前日比+43ドル高の33,876ドル。ナスダックは+20ドル高の13,259ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(米公開市場委員会)、パウエル議長会見
今週火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。終了後にパウエル議長が定例会見を実施。今回の会合では利上げ見送り、金利据え置きが予想されている。
ただ市場では7月ないし9月に追加利上げを実施するとの見方が残る。
景気物価動向の判断はどうか。なお追加利上げに前向きな姿勢がみえるか。そのヒントとしてメンバーがどのような物価・金利予測を示すか。
追加利上げが大勢として示されるか、あるいは打ち止めを示唆するか。パウエル議長は追加利上げに慎重な姿勢を示してきたが、その姿勢は変わらないか。
2.米国の経済指標
今週はとくに物価指標が注目される。インフレ鈍化が順調で利上げ見送りを支持する内容となるか。
火曜日 消費者物価指数(5月、前年同月比、予想+4.1%、前月+4.9%、コア指数、予想+5.2%、前月+5.5%)
水曜日 生産者物価指数(同、予想+1.5%、前月+2.3%、コア指数、予想+2.9%、前月+3.2%)
木曜日 輸入物価指数(前月比、予想▲0.6%、前月+0.4%) 米週間新規失業保険申請件数 NY連銀製造業景気指数(6月、予想▲15.1、前月▲31.8) 小売売上高(5月、前月比、予想▲0.1%、前月+0.4%) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(6月、予想▲12.5、前月▲10.4) 鉱工業生産(5月、前月比、予想+0.1%、前月+0.5%)
金曜日 ミシガン大学消費者信頼感指数(6月)
3.ECB理事会
木曜日にECB理事会が開催される。終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。今回の会合では0.25%の利上げが予想されている。政策金利は3.75%から4.00%へ。
総裁はインフレ抑制が不十分でなお数回の利上げが必要としてきた。市場では今回を含め2回は利上げが実施されると予想してきた。
ただこのところ景気悪化が目立ち、インフレ抑止とのバランスをとるのが難しくなってきたようにもみえる。今後の利上げ方針、利上げ回数に関して何らかの示唆があるか。利上げ打ち止め、少なくとも一旦停止が示唆されるか。
このほか、木曜日・金曜日の2日間、日銀金融政策決定会合が開催される。今回は政策変更は予想されていないが、超金融緩和政策の調整、イールドカーブコントロールの修正・撤廃に向けた議論はあるか。木曜日には通関統計(貿易収支、5月)が発表される。また同日、中国の主要経済指標(5月)が発表となるが景気低迷が示唆されるか。
◆今週のMRA's Eye
米政策金利予測の落ち着きどころ
先週、オーストラリア準備銀行、カナダ中銀、が相次いで利上げを実施。いずれも数会合の据え置きのあと追加利上げに踏み切ったことで、FRBも一時停止後の追加利上げ実施の可能性を織り込む動きが強まった。
市場は6月利上げ見送りでも7月ないし9月に追加利上げが実施される可能性が五分五分との見方に。また年後半の利下げ予測を修正。2回ないし3回の利下げを予想していたが、現時点では1回程度まで後退。結果として、年末時点のFF金利誘導水準は、1回利上げ、1回利下げ、で現状と同水準と見方に。
年末時点の水準予測が上方修正され、利下げが先送りとなったことで、同様に米長期金利は上方修正され底固い動きに。ただ、将来の利下げ方向への政策転換を織り込みながら、手前で追加利上げを織り込む複雑な金利感となり、米長期金利動向は気迷い気味だ。
オーストラリアとカナダが政策金利据え置きのあと追加利上げに踏み切ったことを材料に、FRBも同様の動きとなる、とみるのは短絡的だろう。
まずは今週のFOMCでメンバー予測が政策金利の推移をどのように示すか。ポイントはターミナルレートに変更、上方修正がみられるか。これまで5.25%としてきたが、これが5.50%や5.75%となるか。あるいは5.25%のまま利上げ打ち止めを示唆するか。
追加利上げの織り込み度合いを左右する。またこれまでは、来年、再来年、いずれも1%ずつ利下げとのメンバー予測だったが、その中長期の金利見通しに変化はあるか。
市場の景気物価観、金利観は、景気堅調、インフレ鈍化、追加利上げなし、と理想的な、金融資産価格に最も好ましいバラ色シナリオを織り込みつつあった。
ただその見方は上下双方に揺さぶられている。金利面では、いくつかの中銀が据え置き後の追加利上げに動いていることは、金融引き締め長期化観測を強めている。
一方、景気動向をみれば、中国景気の低迷、サービス業にも景況感悪化がみられるなど、景気堅調との見方は揺さぶられている。
先週のISM非製造業景気指数は、景況感指数が50割れ寸前まで悪化。雇用指数、受注指数が悪化した。5月の雇用統計では予想外の雇用増加が示されたが、他の雇用関連指標では弱い数字も散見される。
製造業に続き、サービス業でも景況感の悪化がみられたことで、景気鈍化、景気後退の可能性が高まっているようにみえる。こうした景気動向と、追加利上げ、金融引き締め長期化観測は相容れない。
その鍵を握るのは物価動向。インフレ鈍化が順調であれば、追加利上げは回避され、金融引き締めが長期化する可能性は後退する。モノの需給においてはインフレ圧力が高止まりするリスクはなさそうだ。
中国の景気悪化、デフレ状況はグローバルなインフレ圧力を今後も緩和するとみられる。中国の5月の消費者物価指数は前年同月比+0.2%、生産者物価指数は▲4.6%。国内景気の低迷、需給の悪化を示している。こうした状況は貿易取引を通じて各国のモノのインフレ圧力を抑制するとみられる。
問題はサービス部門における需給逼迫や賃金上昇。米国でも、そこが緩み始めたならFRBの追加利上げの可能性は後退する。物価指標がインフレ鈍化基調の継続を示せば、タカ派が長期間様子見する余地も生じ、追って利上げ打ち止めが明確に。
かつての「平時」の政策変更は3ヵ月に1回のペースで0.25%だったことを踏まえれば、6月に現状維持、7月会合でも様子見なら、9月会合が鍵を握りそうだ。9月利上げ見送りなら、その時点で利上げ打ち止めが確実となる。
その確度は相応に高くなっているとみられる。ただ今回6月の会合でFOMCメンバーが9月まで見通せるかは難しく、市場の見方はなお揺れそうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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