発電燃料上昇・工業金属上昇
- MRA商品市場レポート
2023年6月12日 第2475号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「発電燃料上昇・工業金属上昇」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は発電燃料が大幅に上昇、非鉄金属を含む工業金属が上昇し、原油は下落した。
発電燃料価格の上昇は北半球の気温上昇や渇水、これまでの下落で非常に水準が低くなっていた事による買い戻しであり、工業金属は中国政府の自動車購入の奨励策を打ち出す考えを示したこと、不動産セクターのてこ入れのため、一級都市の不動産規制を緩和する、といった報道が材料になった。
基本、欧米景気は減速し、中国はゆっくりとした回復になると予想され、世界全体をならずと2023年中の景気は総じて横這い、回復は2024年以降になると予想される。
【本日の見通し】
週明け月曜日は目立った手掛かり材料に乏しいが、中国の経済対策期待を材料に、工業金属価格には上昇圧力が掛る展開が予想される。
ただ、世界景気の減速見通しを背景に、結局はレンジワークとなるのではないか。
【昨日のトピックス】
昨日発表された中国のCPI・PPIは中国がデフレ状態にある可能性を示唆する内容だった。
CPIは前年比+0.2%(市場予想+0.2%、前月+0.1%)、PPIは▲4.6%(▲4.3%、▲3.6%)と低迷している。CPIは市場予想通りだったが、PPIは市場予想を大きく下回っている。
中国国家統計局の董莉娟氏は発表文で「最終需要は5月に引き続き回復」「PPIの低下は、国際商品相場が下落したほか、工業製品の内外需が弱かった」と分析している。しかし平たく言えば、海外の景気が悪化して供給過剰となった商品の価格が下落したが、そうであるならば輸出需要が減少することになるため、この影響が一時的、と整理するのはやや無理がある。
また、統計局の付凌暉報道官は5月中旬の記者会見で、物価上昇率が低水準で推移しているのは一時的であり、中国経済はデフレではないと言い切っている。
ただ、日本のバブル崩壊の過程を学習してきた、とした中国政府が日本と同様の不動産市況の悪化に直面し、対処に苦慮していることを考えると(デフレにはならないにせよ)それに近い状態が続く可能性は否定できない。
なお、消費者物価を個別に見ると、自動車は前年比▲4.2%(前月▲4.0%)、耐久財は▲1.8%(▲1.2%)とマイナス幅が拡大、スマホなどの通信危機は▲2.1%(▲2.3%)と前月からマイナス幅を縮小しているが、前月比では▲0.8%(▲0.4%)と減速ペースが加速している。
この状態を脱するために金融緩和を中国政府は企図しているが、金利下げで企業の投資需要は増加しようが、個人消費は減税や住宅セクターでの負担軽減、投資促進などの対策が必要であり、バブル抑制に舵を切っている状況に変りがないことを考えると、金利下げによる最終需要の底上げ効果は限定されるのではないだろうか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。OPECプラスの減産やそれに対する評価、というよりはドルがジリ高となった方の影響が大きかったと考えられる。
足下、株価が強く推移し、景気の先行きを逆に不透明にしているが、インフレ沈静化の兆しが見えない中でFRBの高金利政策は持続せざるを得ない状況は続いており、先行きの景気減速、リスク回避の続落リスクはむしろ高まっている。
景気のソフトランディングに成功すれば供給能力の制限から年後半か来年以降、急速に価格が上昇するシナリオ、金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗して価格が急落する、の両方のリスクに晒されている状態。
前者の場合、OPECプラスの減産や非OPECプラス諸国の上流部門投資が不充分であること(脱炭素に加えて、金利高の影響もある)から、2024年の価格上昇は弊社が想定しているよりも大きなものになる可能性はある。
後者の場合でも供給能力の制限から思ったほど価格は下落せず、「スタグフレーション」となる可能性は高まっている。
以上を踏まえ、ロシアのウクライナ軍事侵攻、制裁実施中の2022年以降のデータも含めて回帰分析を行うと、2023年のBrent価格予想は78.1ドルとなるが、直近5月までのデータを用いると81.1ドルとなる。2024年は上昇見通しで82.7ドルが予想平均価格となる。
弊社は7月に見通しを変更の予定で、上記の水準が予想策定の発射台となるが、恐らく1~2ドル、この水準よりも低い見通しになると考えている。
長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
OPECプラスは減産期間を1年延長し、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意した(詳細は以下の通り)。
しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。
問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。
OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施
サウジ 7月から▲100万バレルの追加減産(8月以降も継続の可能性)
サウジアラビアの財政均衡価格は81ドル、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。
一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、ここまでのウラルの平均価格は57ドルであり、想定を大きく下回っている。
ここで減産を行って価格が上昇すればロシアにとっては良いのだが、そうならなかった場合、大幅に歳入が減少することになる。
かつてみられたように「景気減速・需要減速局面で生産者が生産を渋る」動きが観られていると考えられる。恐らく、今回は「ロシアは減産すると言いいつつ減産を行わず、その他の国(サウジ・UAEなど)が自主減産してくれれば」というのが本音ではないか。
以上を考えると、サウジがここまで積極的な発言(脅し)をしたことで、減産見送りとなれば下落は大きなものとなる可能性があるため、形だけでも減産を行うと考えられる。
6月6日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+17,233枚、ショートが+7,382枚と、新規でロングが積み上がっている。
Brentはロングが+17,550枚、ショートが▲4,209枚となっており、こちらはOPECプラスの減産を意識したポジション取りに。
5月の中国の原油輸入は前年比+12.3%の5,144万4,000トン(前月▲1.4%の4,240万7,000トン)と伸びが加速。中国の消費者は価格に敏感であるため、5月の原油価格は4月よりも低下したことが影響したとみられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+195.9%の438万トン(前月+110.0%の389万5,000トン)とこちらも大幅に加速、輸出は▲1.8%の375万トン(+33.9%の545万トン)と減速した。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は目立った手掛かり材料に乏しく、現状水準でのもみ合いになると考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は大幅に上昇。特段材料があった訳ではないが、そもそもここまでの下落でかなり割安感が出ていたことや、欧州全体で猛暑が続く見通しであること、年末にかけての在庫積み増しは継続していることが価格を押し上げた。
エルニーニョ現象でも厳冬となる可能性はあり、夏場のエルニーニョ現象発生後は冬場にラニーニャ現象が発生、厳冬となるリスクも残るため、脱ロシアが完了するまではピークシーズンの価格スパイクのリスクは残る。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果。
逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合、需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減することが必要となる。
ただし年後半に掛けて景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていること、ロシアも原油価格・ガス価格下落による財政状況の悪化が懸念されるため更なるガス供給の削減は常識的に考えて難しいことから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
しかし、上述の通りロシア産ガスの供給が実質的に制限されていないことから、実際はこの中間で2026年頃に脱ロシア完了となるのではないか。
このことは、2026年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
3.4.は顕在化している。
5.は夏場の調達が始まっているが、今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は最大消費地の北アジアは冷夏となる見通し。ただし既に東南アジア・南アジアは気温上昇と渇水が起きている地域も多いこと、エルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、夏・冬とも価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下し、昨年の水準を下回った。状態が続いている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は気温低下見通しと、週末を控えたポジション調整の売りに押された。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は続伸。欧州ガス価格が気温の影響で上昇している他、中国の輸入増加などを材料にした買いが続いた。中国南部の渇水や気温上昇の影響で、発電向けのガス調達が増加している可能性がある。
現在のJLCの水準は13ドル程度であり、現在のスポット価格はこれを大きく下回っている。その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
4月の中国の天然ガス生産は+5.6%の1,382万4,000トン(±0.0%の1,448万5,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準。
5月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+17.3%の1,064万トン前月+11.0%の898万トン)と先月から急速に輸入量が増加、過去5年の最高水準を上回った。
まだ統計が発表されていないが、恐らく中国南部の記録的な気温上昇が影響していると見られる。一般に、エルニーニョ現象発生時は赤道近辺の気温が上昇しやすく、中国以外でもベトナムなどが5月に熱波と小雨による発電の制限などが発生している。
恐らく、中国のリオープンの動きは緩慢なものの、気温上昇や発電熱源の不足が輸入増加を促したと考えられる。
4月の中国の電力消費量は前年比+8.5%の6,901億kwh(前月+6.1%の7,369億kwh)と伸びが加速したが季節的に数量は減少している。昨年4月はロックダウン開始月ということもあり伸びが加速していても不自然ではない。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。
季節的な猛暑、渇水などによる発電燃料輸入需要が増加する可能性があるものの、景気の回復ペースが想定よりも緩慢であるため高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
週明け月曜日も、アジアの夏場、欧州・米国の冬場に向けた在庫の積増しの動きが割安感から継続すると見られ、上昇余地を探る動きに。
ただし、在庫水準の高さや景気減速観測もあり、上昇余地は限られよう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は小幅に下落した。この数日の上昇が大きかったことで調整売りに押されたかたち。
中国国内電力会社の発電用石炭在庫の水準は過去5年平均を回復、十分な在庫があるように見えるが、中国南部の気温上昇や渇水の影響で水力発電の水準が低下しており、発電燃料の調達圧力が高まっていると考えられる。
ただ、中国のリオープン後の経済活動の回復ペースは緩慢であり、上値が重いのも事実。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が130~140ドル程度まで再び上昇してきていることを考えると、実際は130~200ドルが説明可能なレンジ。
2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除しない。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
て今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏にある可能性があり、南アジアでは既に記録的な熱波が観測されている地域も多い。そのため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
5月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+92.6%の3,958万4,000トン(前月+72.7%の4,067万6,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。
ガスも同様であるが、中国南部の記録的な熱波や小雨の影響で、発電燃料の調達が急遽必要になったと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では4月まではインドネシアと豪州からの輸入が増加、ロシアからの輸入が減少している。特に豪州からの輸入増加が顕著で制裁解除の影響が顕在化していると考えられる。
4月の中国の石炭生産は、前年比+2.7%の3億7,400万トン、1,246万トン/日(前月+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日)と伸びがさらに減速した。
中国の消費電力は前年比+8.5%の6,901億kwhと前月から伸びは加速したが季節性もあり総量は減少している。この状況で豪州炭の輸入再開で4月の石炭輸入が記録的な水準である事もあり生産が低迷したと考えられる。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇や渇水による電力供給減少がなければ、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
週明け月曜日は、競合燃料であるガス価格が上昇していることや、中国貿易統計を受けた中国の在庫積増し需要が旺盛であることを受けて上昇余地を探る展開。
ただし、中国の輸入が旺盛だったということは気温や水力発電の状況次第では「在庫の更なる積増しが不要」となることもまた事実であり、気象状況によっては再び大きく下落するリスクも。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は概ね上昇した。中国商務省が自動車販売のキャンペーン(地方のEV販売中心)を実施することを決定するなど、中国の景気てこ入れ策を材料にした買いが入った。
ただし、中国地方政府の財政状況は不動産セクターの低迷が続いているため、どの程度の規模で補助金が出されるかは不透明。
中国は景気刺激のために少しずつ金融緩和に舵を切っている。しかし、利下げによって人民元安が加速して資金流出も加速するリスクや、再び不動産セクターがバブルになるリスクを考えると、当局が更なる緩和を断続的に行うインセンティブはさほど高くないと考える。
世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクターの停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。
実際、非鉄金属のベンチマークである銅の人民元建ての価格は過去65,600人民元/トンが「最高値」として意識される傾向が強い。というのも2000年以降、この水準にタッチすると下落していることが多く、今回も同様。
やはり中国の景気はそれほど回復しておらず、非鉄金属価格の上昇がある中で消費を継続するのは困難、という事だろう。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は意図せざる在庫積増し局面の終期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況とみられる。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛ることになるが、恐らく景気てこ入れもあるためそこまで時間は掛らないのではないか。
弊社は中国のペントアップ需要の増加で価格がQ123に上昇し、その後年末に掛けて水準を緩やかに切下げると考えていたが、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待されるQ423~Q123に上昇に転じるとみる。
COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向はさらにネット売り越し幅を拡大した。しかしここに来てアルミと錫には買い戻しが入り、ネットロングに転じている。
ロングポジションの解消も進んでポジションが軽く、新規ショートも積み上がっているので、イベントリスク終了後には上昇に転じるとみているが、それにはまだ時間が掛りそうだ。
直近でネット売り越しだったのは、2020年6月はまさにコロナ危機時だったが、このときは大幅な財政出動や金融緩和が行われ、物流の停滞やコロナの影響による鉱山生産減少が意識され始めたタイミングであり、この後、ネット買越しは増加して価格は上昇している。
今回は、金融引締め継続、財政も削減、物流停滞は解消し、鉱山生産も回復していることから、2020年とは逆の動きになる可能性は低くない。やはり構造的な脱炭素向けの需要増加が期待され、景気が底入れするとみられる2023年後半頃までは上値は重いのではないか。
ただ、脱炭素などのテーマ性のある金属は景気底入れ後は顕著な上昇になるリスクはあると考えている。
最大消費国である中国の景況感は良いとは言えず5月の中国製造業PMIは48.8(市場予想 49.5、前月 49.2)と市場予想、前月とも下回り、非製造業PMIも54.5(55.2、56.4)と減速が確認された。ゼロコロナの終了とそれに伴うペントアップ需要の顕在化が期待されたが、Q123でそれも一巡したとみられる。
中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度が▲0.15(前月▲1.44)と引き続き大きく、次いで、生産▲0.15(▲1.10)、雇用▲0.08(▲0.18)、在庫▲0.03(▲0.04)となった。
先月から比べればマイナス幅が縮小しているため、状況の更なる悪化は一応歯止めが掛りつつあると言える。
しかし、本確的な回復には不動産セクターの問題解消(必要条件)に加え、個人消費の回復や、海外景気の回復に伴う輸出の回復が必要になるため、やはり年内の回復は難しいのではないか。
統計の内訳を見ると、新規受注は48.3(48.8)、輸出向け新規受注も47.2(47.6)と低迷している。国内の消費の弱さに加え、人民元安をテコに進めてきた輸出も欧州景気の減速を受けて減速している。
また、投入価格は40.8(46.4)と大幅低下、販売価格も41.6(44.9)と低下しており、欧米はインフレで苦しんでいるが中国はデフレに突入した感(日本化)すらある。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(0.988)、原材料が1.015(1.019)と先月とほぼ変わらなかったが、完成品は閾値の1を下回っている。
生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は48.9(49.4)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」が継続しているとみられ、しばらくは在庫調整圧力が強まることになるだろう。通常、意図せざる在庫積増し局面から調整局面を経て在庫積増しが必要な局面に入るまで、1年程度は掛る。
ただ、欧米と違い、国の意向で「無理」が通る国営企業の在庫調整は進捗しやすいと考えられるため、通常のサイクルよりも早く回復する可能性はある。
5月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲4.6%の44万4,010トン(前月▲12.5%の40万7,293トン)と過去5年平均を回復した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+16.7%の255万6,713トン(+11.8%の210万2,572トン)と過去5年の最高水準で推移している。
精鉱輸入・精錬品輸入も増加しており、徐々に中国の経済活動の再稼働が意識されていると考えられるものの、そもそも在庫の水準が低いことに伴う在庫積増しの動きではないだろうか。
4月の中国の精錬銅生産は+25.3%の112万1,000トン(前月+10.8%の104万5,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
4月の銅スクラップの輸入は前年比+7.4%の14万5,366トン(前月+18.4%の17万7,571トン)と過去5年平均を下回った。恐らく国内生産の増加と需要の減速でスクラップ輸入需要が低下したと考えられる。また、景気減速に伴うスクラップ供給減少の可能性も否定できない。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
週明け月曜日は、中国政府の対策期待を受けた買い戻しで上昇するとみているが、中国政府の経済対策余力も大きくなく、米国や欧州の景気減速を考えると上昇余地は限られると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。
鉄鋼製品価格は大手銀行の預金金利引下げがローン金利引下げに繋がるとの期待を高め、また、自動車販売キャンペーンの延長や、一部報道では一級都市の不動産規制を緩和するとの期待が鉄鋼製品価格を押し上げ、鉄鋼原料価格を押し上げている。
ただし、中国の経済活動の回復は遅れており、鉄鋼需要の回復と共に鉄鋼原料価格が上昇に転じる、という流れになるにはまだ時間が掛ると考えられる。
疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。
恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすいと考えている。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲50万トンの1,290万6,000トン(過去5年平均 1,389万トン)と減少、水準は低いが減少ペースが鈍化しており、徐々に過去5年平均に水準は近づいている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲15万トンの1億2,675万トン(過去5年平均 1億3,183万6,000トン)、在庫日数は24.4日(▲0.8日、過去5年平均27.3日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+14万トンの218万トン(169万8,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.8日(過去5年平均 6.5日)とこちらは急速に在庫水準が増加し、日数ベースでも需給は緩和している。今後、原料炭価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。
5月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が35.2(前月45.0)と大幅に減速した。生産の落ち込みが特に顕著(47.2→27.5)。これは年初から生産が高水準であったことによる在庫の積み上がりの反動と考えられる。
新規受注も33.9(前月39.9)と落ち込みが大きく、輸出向けも44.1(55.1)と急減速している。これまで人民元安などをテコに輸出にバイアスが掛っていたとみられるが、海外製造業の景況感は金融引締めの影響で減速しており、頭打ち感が出てきている。
実際、中国の棒鋼先物価格は5月末時点で前年比▲26.7%(前月末▲29.4%)と低下、さらに過去5年レンジも下回っており鉄鋼製品を巡る需給環境は緩和していると考えられる。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況が継続している。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品在庫レシオは0.88(0.87)と低迷、原材料在庫レシオも1.00(1.02)と閾値の1まで低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和している。
Q123の需要が国内の需要(ペントアップ需要+地方政府財政を何とかしなければならない中での不動産市場のテコ入れ)が増加ことによるもので、それが剥落していると考えられる。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではなく、回復には時間がかかろう。
好調だった中国の建設業PMIも58.2(63.9)と急減速しており、更なる低下のリスクは無視できない。世界的に景気の減速感が強まる(逆に回復を始めた米国はそれを抑制するための金融引締め維持)可能性が高いことから、回復はやはり2024年にずれ込むのではないか。
5月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲22.1%の63万1,350トン(前月▲39.1%の58万4,930トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
5月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.7%の835万5,720トン(+59.3%の793万2,430トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。
4月の中国粗鋼生産は前年比▲0.2%の9,264万トン(前月+8.4%の9,573万トン)と急減速したが、まだ過去5年平均は上回っている。
国内で生産した鉄鋼製品が国内で処理仕切れず輸出に回していたが、それも厳しくなってきたために生産量を減らし始めたと考えられる。製造業全体の在庫循環図は意図せざる在庫減少局面の終期にあり、まだ在庫調整が必要な事を示唆している。
鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週明け月曜日も、中国政府の不動産セクターてこ入れや自動車販売キャンペーン実施を受けた鉄鋼製品需要増加期待が鉄鋼製品価格を押し上げ、鉄鋼原料価格の水準も押し上げると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は小幅に下落した。長期金利低下とインフレ率の低下を受けた実質金利の上昇が影響した。銀はもみ合った結果前日比プラス、PGMは景気の先行き懸念で前日比マイナスで引けている。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。
1.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
2.米国債の格下げないしはデフォルト懸念
3.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと
4.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと
1.に関しては概ね米国の利上げの影響に寄るものであるため、米国の金融引締めが続く以上、リスク・プレミアムは高止まりすることになる。
逆に言えば、利上げが終了し、利下げに転じればリスク・プレミアムは低下することが予想されるが、今の状況だと早くても年後半になるだろう。
2.に関しては2025年に債務上限問題が延期されたが、その間、財政の健全性が担保されないとして、格下げになる可能性は残る。
実際、2011年の債務上限問題発生時は妥結していたものの、「財政赤字の削減が十分ではない」としてS&Pは米国債を格下げし、米国債は下落している。
仮に格下げがなければこれまで指摘したように、リスク・プレミアムが剥落して▲220ドル程度の下落になるだろうが、その判断はもう少し情報収集が必要だろう。
3.は2022年以降、特にその動きが顕著になった。各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格は低下しているため900ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」となる基準価格はIMFベースであれば1,100ドル、WGCベースでは1,350ドル程度となる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,650ドル、WGCベースでは1,900ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。
仮に過去5年平均程度である360ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲220ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準にした場合、年後半の金価格の目線は1,710ドル程度、ということになろうか。
ただ、米中対立の構図が続く中ではドル忌避の動きが継続するため、上述の1.の要因が継続して高止まり、ということも有り得る。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの上限を目指していたが再び下落していた。しかし、米景気先行き懸念が意識される中で再びレシオを上昇させつつある。
仮にボリンジャーバンドの上限に達するならば、94倍程度が目処になるが、金を1,950ドル程度とすると20.7ドル程度までの下落余地があることになるが、100日移動平均線のサポートライン、チャート的には23.4ドルが目先の下値として意識される。ここを下抜けすると次は22.20ドルが目処に。
週明け月曜日は、目立った手掛かり材料に乏しく、現状水準でもみ合うと考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシが原油価格の下落で水準を切下げたが、大豆・小麦は上昇した。昨日の米農務省の需給報告は弱気な内容だったものの、ほぼそれを無視して水準が切り上がった。週末に向けたポジション調整の買い戻しと考えられる。
昨日の米需給報告は以下の通り。いずれも弱気な内容だった。
・6月米単収見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 181.5Bu/エーカー(181.26Bu/エーカー、181.5Bu/エーカー)大豆 52.0Bu/エーカー(51.9Bu/エーカー、52.0Bu/エーカー)小麦 44.94Bu/エーカー(NA、44.7Bu/エーカー)
・6月米生産見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 152億6,500万Bu(152億3,515万Bu、152億6,500万Bu)大豆 45億1,000万Bu(45億242万Bu、45億1,000万Bu)小麦 16億6,500万Bu(16億6,554万Bu、16億5,900万Bu)
・6月米輸出見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 21億Bu(NA、21億Bu)大豆 19億7,500万Bu(NA、19億7,500万Bu)小麦 7億2,500万Bu(NA、7億2,500万Bu)
・6月米在庫見通し 実績(市場予想/前月)トウモロコシ 22億5,700万Bu(22億3,730万Bu、22億2,200万Bu)大豆 3億5,000万Bu(3億4,077万Bu、3億3,500万Bu)小麦 5億6,200万Bu(5億6,619万Bu、5億5,600万Bu)
ここに来てエルニーニョ現象の発生による不作の可能性(特に南半球)が指摘されるようになってきた。ただ。2000年以降はエルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作で価格は下がっていることも多く、過去の傾向からすれば、エルニーニョ現象の影響は小さいと考えられる。
しかし、異常気象をもたらす気象状況であるため油断は禁物で、不作になるリスクも常に意識しておく必要がある。
週明け月曜日は、昨日、想定外の上昇となったため、下落すると考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「エルニーニョ現象発生で日本の食料品価格は低下か?」
ウクライナ南部、ドニプロ川のカホフカダムが今般、何者かの攻撃ないしは攻撃の過程で受けたダメージの影響か決壊し、ウクライナに甚大被害が発生している。ウクライナ政府の発表では、今回の浸水によって今後2~3年の間、50万ヘクタールの農地で農業ができなくなる可能性があるとしている。
ロイターが報じるところでは、同地域では穀物・油糧種子生産全体の約4%に相当する400万トンがこの地域で生産されているとされ、穀物・油脂供給に大きな影響が出る可能性が出てきた。
市場ではこの報道を受けて小麦価格が高騰する局面があったが、足下、シカゴ定期価格は大きな上昇も見せずに安定しており、今回の問題の影響が限定されると市場は見ているようだ。
仮に同地区の生産が完全に停止し、4%相当の小麦生産が減少したと仮定すると、米農務省のデータを元にすれば、2023-2024穀物年度のウクライナの小麦生産は1,750万トンであるため、これに単純に4%を乗じると▲70万トン減少の1,680万トンとなる。
世界の小麦需給バランスは、直近の米農務省統計では405万トン(前年度▲427万トン)の供給過剰が見込まれており、仮にウクライナの生産が▲70万トン減少したとしても、335万トンの供給過剰となるため、この状況でも価格には下押し圧力が掛りやすい。価格に対する説明力が高い、需要を生産で割った「需給率」も78.8%(前年79.0%)とダム決壊の影響前後で変りはなく、恐らく現時点では価格に対する影響は限定されると考えられる。なお、洪水の被害が広がり、穀物を保管するサイロや輸出設備・港にも影響が及べばこの限りではない。
今回、小麦価格に持続的な上昇圧力が掛っていない背景には、長らく穀物生産に影響を及ぼしてきたラニーニャ現象が終了し、エルニーニョ現象の発生が見込まれていることがある。
過去データを元にすると、ラニーニャ現象発生時よりもエルニーニョ現象発生時に穀物価格が下落しているケースが多いためだ。ただし、エルニーニョ現象発生後にラニーニャ現象が発生することも多く、それが主要な冬小麦の播種の時期に重なれば再び小麦を含む穀物生産・供給のリスクになる怖れはある。
また、エルニーニョ現象だからといっても、必ずしも毎回価格が下落するわけではなく、今回のダム決壊とはやや異なるが、局所的な洪水がインフラを破壊して供給が停止する可能性もあるため、価格が上昇しないと決め打ちするのはリスクと言える。
例えば日本の食料品(生鮮食品を除く食料、以下食料品価格)の前年比上昇率とエルニーニョ現象・ラニーニャ現象の発生時期の動向を比較すると、2007年以降はラニーニャ現象発生時に食料品価格が上昇しているが、2007年以前はむしろエルニーニョ現象発生時に食料品価格が上昇しているケースが多い。
この理由は米国の2007年エネルギー独立・安全保障法成立を受けて、エタノールやバイオ燃料といった穀物由来のエネルギー使用が義務づけられ、その後の脱炭素の流れで穀物・油脂類が注目されたため、絶対価格水準が上昇、海外市況の影響をより強く受けるようになったためと考えられる。
なお、今年は食料品価格上昇につながりやすいラニーニャ現象ではなく、エルニーニョ現象の発生が見込まれていることから、近年の傾向通りであれば日本の食料品価格にも下押し圧力が掛ることになる。
しかし、2007年よりも前はどちらかと言えば国内要因で食料品価格が上昇していた可能性があり、普通のエルニーニョ現象ではなく、スーパーエルニーニョ現象になるならば、この頃と同様に食料品価格が上昇する可能性も否定できない。
また、アベ・クロダノミクス以降続く円安進行も時間差をもって輸入物価の押し上げに寄与するため、消費者にとって負担が重い状態が続くことが予想される。
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