CONTENTSコンテンツ

エネルギ-は上昇も米統計減速で引けに掛けて下落
  • MRA商品市場レポート

2023年6月6日 第2471号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「エネルギ-は上昇も米統計減速で引けに掛けて下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は発電燃料やその他原油などのエネルギーセクターの上昇が目立ったが、非鉄金属等の金属セクターは水準を切下げて引けた。

週末開催されたOPECプラス総会で、サウジアラビアが自主減産を決定したことがエネルギーセクターの価格を押し上げた一方、米ISM非製造業指数が市場予想を下回り、景気減速を意識させる内容だったことで、ドル安・原油安(高寄りした後で原油は下落)となった。

基本、原油価格が下落するとインフレ系資産価格には下押し圧力が掛るため、昨日は序盤は上昇圧力、後半は米統計減速を受けた需要減少観測で原油安、商品安となった。

OPECプラスの減産(詳しくはエネルギーセクターのコラムを参照ください)はこれまで口先介入をしてきた以上、減産しなければ価格が下落することは明白だったため、結局減産に追い込まれたというのが正直なところだろう。

【本日の見通し】

本日は、米ISM非製造業指数の減速を受け、景気循環系商品価格に下押し圧力がかかる展開が予想される。しかし、同時にドル安進行も予想されるため、ファイナンシャルな面で価格は下支えされることになるだろう。

本日予定されている統計・イベントで注目は、米ブリンケン国務長官のサウジアラビア訪問。中国に出し抜かれる形で中東が第三局を形成し始める中、中東から手を引き、対中国戦略に力を入れようとしてきた米国が、サウジアラビアに対してどのような巻き返しを図るかに注目している。

なお、中国がサウジアラビアの「庇護者」になることは基本的にはなく、サウジアラビアも最終的には軍事技術や防衛面では米国を頼りにしていることは間違いがない。

ただ、ムハンマド皇太子は米民主党とバイデン大統領のことを嫌っているため、長期的な視点に立った場合、米国がサウジアラビアをどのように考えているかを計る上で重要な面談になると考える。

【昨日のトピックス】

5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比+33.9万人(市場予想+19.5万人、前月+29.4万人)の増加と、市場予想、前月も大幅に上回った。

一方で労働参加率が62.6%と横這いながら、失業率が3.7%(3.5%、3.4%)と上昇、平均時給も前月比+0.3%(+0.3%、+0.4%)と減速、「雇用は回復しているが、インフレも沈静化している」という評価となった。

前日に発表されたADP雇用統計も、労働者数が前月比+27.8万人(+17.0万人、+29.1万人)と増加、非農業部門労働生産性が▲2.1%(▲2.4%、▲2.7%)と悪化、単位あたり人件費も+4.2%(+6.0%、+6.3%)と減速しておりこの内容とほぼ整合性がとれている。

この通りのシナリオであれば、現在の高金利政策を継続すればインフレは徐々に沈静化するが景気も悪くならない、という理想的な展開となる。

しかし過去、インフレや景気の過熱を沈静化する目的で政策金利が引き上げられ、逆イールドが発生している時は必ずその後に景気後退局面が訪れており今回も恐らくそうなる可能性が高い。

実際、米国の小売業、卸売業の在庫循環図を見ると、いずれも意図せざる在庫積み増し局面の終期にあり、通常通りであればここから在庫調整局面入りするため在庫積増しが必要な局面になるまで1年程度の時間を要することになる。

しかし、コロナ発生時にほぼ不要と思われた金融緩和のツケを現在払っている状態であるり、実際にインフレが期待している2%台に沈静化するには相当の時間が掛ると予想され、さらにはFRBが期待している2%の物価上昇率の達成は2025年以降になるのではないか。

仮に景気に配慮して、期待インフレ率の低下程度の利下げに止まらず、過度な金融緩和が実施されれば3%台の物価上昇率が「通常状態」になる可能性も排除できず、まだインフレを巡る対応の終着点は見えてこない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇後下落した。OPECプラスの減産期間延長と、サウジアラビアの自主減産を受けて大幅に上昇したが、米ISM非製造業指数の減速を受けた景気減速懸念が価格を下押しした。

このコラムでは繰り返し主張しているが、景気減速時の需要減少に対してのOPECプラスの減産の価格押し上げ効果は限定される。ただしよりもOPECプラスのシェアが上昇しているため、価格下支え効果は従前よりも高い。

OPECプラスは減産期間を1年延長し、サウジアラビアが自主的に▲100万バレルの追加減産を行うことで合意した(詳細は以下の通り)。

しかし、景気が減速する局面では減産による価格押し上げ効果は限定され、「価格下支え効果をもたらす」と整理した方が正確だろう。

問題は早ければ今年の年末、遅くとも来年6月頃からの価格上昇が、この減産の影響によってかなり顕著になる可能性がある点だ。

 OPEC23ヵ国 昨年11月から▲200万バレル
 サウジなど8ヵ国 5月から▲116万バレルの自主減産
 ロシア ▲50万バレルを3月から自主減産
→合計▲366万バレルの減産を2024年一杯実施

 サウジ 7月から▲100万バレルの追加減産(8月以降も継続の可能性)

サウジアラビアは81ドルを想定、OPECバスケット価格のここまでの平均が80ドル程度であるため、やや予算を下回っていることから多少の減産で価格が上昇するなら、減産はありと判断していると考えられる。

一方、ロシアは2023年度のウラル原油前提価格を70.1ドルに設定しているとみられるが、ここまでのウラルの平均価格は57ドルであり、想定を大きく下回っている。

ここで減産を行って価格が上昇すればロシアにとっては良いのだが、そうならなかった場合、大幅に歳入が減少することになる。

かつてみられたように「景気減速・需要減速局面で生産者が生産を渋る」動きが観られていると考えられる。恐らく、今回は「ロシアは減産すると言いいつつ減産を行わず、その他の国(サウジ・UAEなど)が自主減産してくれれば」というのが本音ではないか。

以上を考えると、サウジがここまで積極的な発言(脅し)をしたことで、減産見送りとなれば下落は大きなものとなる可能性があるため、形だけでも減産を行うと考えられる。

5月30日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+4,485枚、ショートが+35,013枚と、新規でショートが積み上がっているう。

Brentはロングが+8,866枚、ショートが▲14,559枚となっており、こちらはBrentとの連動性が高い中東原油の上昇要因となり得る、OPECプラスの減産が意識されているとみられる。

足下、株価が強く推移し、景気の先行きを逆に不透明にしているが、インフレ沈静化の兆しが見えない中でFRBの高金利政策は持続せざるを得ない状況は続いており、先行きの景気減速、リスク回避の続落リスクはむしろ高まっている。

景気のソフトランディングに成功すれば供給能力の制限から年後半か来年以降、急速に価格が上昇するシナリオ、金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗して価格が急落する、の両方のリスクに晒されている状態。

前者の場合、OPECプラスの減産や非OPECプラス諸国の上流部門投資が不充分であること(脱炭素に加えて、金利高の影響もある)から、2024年の価格上昇は弊社が想定しているよりも大きなものになる可能性はある。

後者の場合でも供給能力の制限から思ったほど価格は下落せず、「スタグフレーション」となる可能性は高まっている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日のISM非製造業指数の悪化を受けた景気減速観測で調整売りに押されると考える。OPECプラスの減産は景気が減速している状況であり、価格下支え効果に止まると考えるべきだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に上昇。欧州の発電状況を見るに足下の景気が回復し、需要が増加している訳ではないが、冬場を睨んだ在庫積増しの動きが割安感から出ているためと考えられる。

欧州最大のエネルギー消費国であるドイツの発電量(7日平均)は、同じ時期の過去5年の最低水準である486億キロワット(単位時間あたりの日平均)を下回る431億キロワットとなっている。GDPに見られるように、リセッション入りの影響で工業向けの需要が減少しているのだろう。

また、太陽光発電と風力発電の比率が上昇しており、そのバックアップである石炭やガスの需要が減少していることも価格を下押ししている。やはり、過去、発電燃料価格の押し上げ要因となりやすかった、ラニーニャ現象が終了した影響は小さくないとみる。

弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果。

逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。

また、ロシアからの供給が停止した場合、需要を過去5年平均の水準から▲10%以上削減することが必要となる。

ただし年後半に掛けて景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていること、ロシアも原油価格・ガス価格下落による財政状況の悪化が懸念されるため更なるガス供給の削減は常識的に考えて難しいことから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。しかし、ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社のシミュレーションでは欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

しかし、上述の通りロシア産ガスの供給が実質的に制限されていないことから、実際はこの中間で2026年頃に脱ロシア完了となるのではないか。

このことは、2026年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向や、価格低下による採算性の悪化から予定通りになるかどうかは分らないが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

3.4.は顕在化している。

5.は夏場の調達が始まる時期であるが、今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は最大消費地の北アジアは冷夏となる見通し。ただしエルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、冬場のリスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下し、昨年の水準を下回った。状態が続いている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は上昇。気温上昇見通しで、冷房向けの需要が増加すると見られたことが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物はパラレルに上昇。割安感とピークシーズン(夏のアジア需要)を見越した買いが割安感から入ったためと考えられる。

現在のJLCの水準は15ドル程度であり、現在のスポット価格はこれを大きく下回っている。その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

5月28日時点の日本の発電用LNG在庫は248万トン(前年同月末211万トン、2018~2022年平均249万6,500トン)と過去5年平均を下回っている。

ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。

また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

4月の中国の天然ガス生産は+5.6%の1,382万4,000トン(±0.0%の1,448万5,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準。

4月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+11.0%の898万トン(+11.2%の887万トン)と先月とほぼ同じ前年比水準を維持したが、それでも過去5年の最高水準は下回っている。

内訳を見ると、4月のパイプラインベースの輸入は前年比+12.6%の421万トン(前月+4.6%の351万トン)と過去5年の最高水準(374万トン)を大きく上回った。

一方、4月のLNG輸入は前年比+9.6%の476万7,000トン(前月+15.9%の536万3,000トン)と過去5年平均(481万トン)を割り込んだ。国内生産の増加とパイプラインベースの輸入増加、燃料の種類は異なるが、石炭在庫の積み上がりが発電向けのLNG輸入需要を減じたと考えられる。

4月の中国の電力消費量は前年比+8.5%の6,901億kwh(前月+6.1%の7,369億kwh)と伸びが加速したが季節的に数量は減少している。昨年4月はロックダウン開始月ということもあり伸びが加速していても不自然ではない。

天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。

季節的な猛暑、渇水などによる発電燃料輸入需要が増加する可能性があるものの、景気の回復ペースが想定よりも緩慢であるため高水準の発電燃料輸入は減速の可能性がある。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

本日は、アジアの夏場、欧州・米国の冬場に向けた在庫の積増しの動きが割安感から加速すると見られ、上昇余地を探る動きに。

ただし、在庫水準の高さや景気減速観測もあり、上昇余地は限られよう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は大幅に上昇した。ガス価格の上昇とこれまでの下落による割安感からの買いが入ったと考えられる。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が120~130ドル程度まで低下してきたことを考えると、実際は120~200ドルが説明可能なレンジ。

2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除しない。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

て今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏にある可能性があり、南アジアでは既に記録的な熱波が観測されている地域も多い。そのため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

4月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+72.7%の4,067万6,000トン(前月+150.7%の4,116万5,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。

国別ではインドネシアと豪州からの輸入が増加、ロシアからの輸入が減少している。特に豪州からの輸入増加が顕著で制裁解除の影響が顕在化していると考えられる。

4月の中国の石炭生産は、前年比+2.7%の3億7,400万トン、1,246万トン/日(前月+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日)と伸びがさらに減速した。

中国の消費電力は前年比+8.5%の6,901億kwhと前月から伸びは加速したが季節性もあり総量は減少している。この状況で豪州炭の輸入再開で4月の石炭輸入が記録的な水準である事もあり生産が低迷したと考えられる。

今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、季節的な気温の上昇や渇水による電力供給減少がなければ、経済活動の回復ペースの鈍さから高水準の輸入ペースは鈍化の可能性がある。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

本日は、特段新規材料がない中で割安感からの買いが価格を支え現状水準を維持すると考える。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は下落した。中国政府が景気刺激に動くのではとの期待はあったものの、人民元安・資金流出に繋がりやすい金利水準の引下げは対象とし難く、景況感の改善には時間が掛ると見られたことが価格を下押しした

世界の非鉄金属消費の5割を占める中国の景気は不動産セクターの停滞で回復しておらず、需要は低迷した状態が続いている。

実際、非鉄金属のベンチマークである銅の人民元建ての価格は過去65,600人民元/トンが「最高値」として意識される傾向が強い。というのも2000年以降、この水準にタッチすると下落していることが多く、今回も同様。

やはり中国の景気はそれほど回復しておらず、非鉄金属価格の上昇がある中で消費を継続するのは困難、という事だろう。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は意図せざる在庫積増し局面の終期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況とみられる。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛ることになるが、恐らく景気てこ入れもあるためそこまで時間は掛らないのではないか。

弊社は中国のペントアップ需要の増加で価格がQ123に上昇し、その後年末に掛けて水準を緩やかに切下げると考えていたが、中国の回復の遅れと欧米の景気減速から今年の秋頃まで低迷した後、景気底入れが期待されるQ423~Q123に上昇に転じるとみる。

COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向はさらにネット売り越し幅を拡大した。CME銅を除く全ての金属がロング減少・ショート積増しとなっている。

ロングポジションの解消も進んでポジションが軽く、新規ショートも積み上がっているので、イベントリスク終了後には上昇に転じるとみているが、それにはまだ時間が掛りそうだ。

直近でネット売り越しだったのは、2020年6月はまさにコロナ危機時だったが、このときは大幅な財政出動や金融緩和が行われ、物流の停滞やコロナの影響による鉱山生産減少が意識され始めたタイミングであり、この後、ネット買越しは増加して価格は上昇している。

今回は、金融引締め継続、財政も削減、物流停滞は解消し、鉱山生産も回復していることから、2020年とは逆の動きになる可能性は低くない。やはり構造的な脱炭素向けの需要増加が期待され、景気が底入れするとみられる2023年後半以降までは上値は重いのではないか。

ただ、脱炭素などのテーマ性のある金属は景気底入れ後は顕著な上昇になるリスクはあると考えている。

最大消費国である中国の景況感は良いとは言えず、4月の中国製造業PMIは49.2(市場予想 51.4、前月 51.9)と市場予想、前月とも下回り、中国のペントアップ需要の顕在化が一巡した可能性があることを示唆する内容となった。

中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度(▲1.44)が大きく、次いで、生産(▲1.10)、雇用(▲0.18)の寄与度が大きかった。

景気回復局面では新規受注が生産を促し、雇用に繋がるという過程を経ることが多いが今回は明確に新規受注に減速がみられ、今回の回復がペントアップ需要の顕在化による一時的なものである可能性が高まった。

実際、輸出向け新規受注の減少が▲2.8に止まる一方、新規受注全体では▲4.8となっており、輸入も48.9(前月50.9)と▲2.0の低下となっており「国内の新規受注が低迷」していることを示唆している。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(1.083)、原材料が1.019(1.110)と両方とも低下しているが、完成品は閾値の1を下回っている。

生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は49.4(49.5)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」にあるとみられる。規模別の製造業PMIも全ての規模で閾値の50を下回っており、やはり世界景気の減速を受けて景況感は減速する可能性が高いと見るべきだろう。

4月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲12.5%の40万7,293トン(前月▲19.0%の40万8,174トン)と過去5年の最低水準を下回った。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.8%の210万2,572トン(▲7.5%の202万1,293トン)と過去5年の最高水準で推移している。

4月の中国の精錬銅生産は+25.3%の112万1,000トン(前月+10.8%の104万5,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善(渇水のリスクはある)を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。

4月の銅スクラップの輸入は前年比+7.4%の14万5,366トン(前月+18.4%の17万7,571トン)と過去5年平均を下回った。恐らく国内生産の増加と需要の減速でスクラップ輸入需要が低下したと考えられる。また、景気減速に伴うスクラップ供給減少の可能性も否定できない。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている(循環的な需要増加とは別)。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

本日は、米ISM非製造業指数の減速を受けたドル安進行が見込まれるため、ファイナンシャルな面で買い戻しが入り、上昇余地を探る動きになると予想する。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

中国の鉄鋼製品生産が減少する中、鉄鋼製品価格が上昇したことが鉄鋼原料価格を押し上げることになった。

疑似鉄鋼原料価格(鉄鉱石:原料炭=1.6:0.9で加重平均したもの)を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。

恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすいと考えている。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲50万トンの1,290万6,000トン(過去5年平均 1,389万トン)と減少、水準は低いが減少ペースが鈍化しており、徐々に過去5年平均に水準は近づいている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲15万トンの1億2,675万トン(過去5年平均 1億3,183万6,000トン)、在庫日数は24.4日(▲0.8日、過去5年平均27.3日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+14万トンの218万トン(169万8,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.8日(過去5年平均 6.5日)とこちらは急速に在庫水準が増加し、日数ベースでも需給は緩和している。今後、原料炭価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。

5月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が35.2(前月45.0)と大幅に減速した。生産の落ち込みが特に顕著(47.2→27.5)。これは年初から生産が高水準であったことによる在庫の積み上がりの反動と考えられる。

新規受注も33.9(前月39.9)と落ち込みが大きく、輸出向けも44.1(55.1)と急減速している。これまで人民元安などをテコに輸出にバイアスが掛っていたとみられるが、海外製造業の景況感は金融引締めの影響で減速しており、頭打ち感が出てきている。

実際、中国の棒鋼先物価格は5月末時点で前年比▲26.7%(前月末▲29.4%)と低下、さらに過去5年レンジも下回っており鉄鋼製品を巡る需給環境は緩和していると考えられる。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況が継続している。

鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品在庫レシオは0.88(0.87)と低迷、原材料在庫レシオも1.00(1.02)と閾値の1まで低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和している。

Q123の需要が国内の需要(ペントアップ需要+地方政府財政を何とかしなければならない中での不動産市場のテコ入れ)が増加ことによるもので、それが剥落していると考えられる。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではなく、回復には時間がかかろう。

好調だった中国の建設業PMIも58.2(63.9)と急減速しており、更なる低下のリスクは無視できない。世界的に景気の減速感が強まる(逆に回復を始めた米国はそれを抑制するための金融引締め維持)可能性が高いことから、回復はやはり2024年にずれ込むのではないか。

4月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲39.1%の58万4,930トン(前月▲32.6%の68万1,840トン(前月▲33.7%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

4月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+59.3%の793万2,430トン(前月+59.7%の789万トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。

4月の中国粗鋼生産は前年比▲0.2%の9,264万トン(前月+8.4%の9,573万トン)と急減速したが、まだ過去5年平均は上回っている。

国内で生産した鉄鋼製品が国内で処理仕切れず輸出に回していたが、それも厳しくなってきたために生産量を減らし始めたと考えられる。製造業全体の在庫循環図は意図せざる在庫減少局面の終期にあり、まだ在庫調整が必要な事を示唆している。

鉄鋼原料価格が中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

本日は、中国政府による景気刺激が期待できないものの、鉄鋼製品生産の削減から鉄鋼製品価格の上昇が見込まれ、鉄鋼原料価格も上昇余地を探るか。ただし需要自体の弱さは続いており、上昇余地も限定。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。米景気減速観測を受けた長期金利の低下、原油価格の上昇が基準価格を小幅に押し上げ、ドル安がリスク・プレミアムを押し上げたため。

銀価格は小幅に下落、プラチナは上昇、パラジウムは株価の下落もあって水準を切下げた。

金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。

1.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念

2.米国債の格下げないしはデフォルト懸念

3.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと

4.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと

1.に関しては概ね米国の利上げの影響に寄るものであるため、米国の金融引締めが続く以上、リスク・プレミアムは高止まりすることになる。

逆に言えば、利上げが終了し、利下げに転じればリスク・プレミアムは低下することが予想されるが、今の状況だと早くても年後半になるだろう。

2.に関しては恐らく上院も債務上限適用停止法案を可決すると見られるが、債務上限を引き上げることで財政の健全性が担保されないとして、格下げになる可能性は残る。

実際、2011年の債務上限問題発生時は妥結していたものの、「財政赤字の削減が十分ではない」としてS&Pは米国債を格下げし、米国債は下落している。

仮に格下げがなければこれまで指摘したように、リスク・プレミアムが剥落して▲220ドル程度の下落になるだろうが、その判断はもう少し情報収集が必要だろう。

3.は2022年以降、特にその動きが顕著になった。各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。

なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。

基準価格をざっくり1,000ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」はIMFベースであれば1,156ドル、WGCベースでは1,454ドルとなる。

簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,706ドル、WGCベースでは2,004ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。

恐らく信用リスク分は上述のXデーを過ぎれば剥落するため、過去5年平均程度である330ドル程度までの信用リスク分の低下があるとすれば、▲220ドル程度の下落要因となる。WGCデータを基準二した場合、年後半の金価格の目線は1,785ドル程度、ということになろうか。

ただ、米中対立の構図が続く中ではドル忌避の動きが継続するため、上述の1.の要因が継続して高止まり、ということも有り得る。

なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限まで低下していたが、再び上限を目指す動きとなっている。景気の先行きへの懸念が強まっていることが背景。

仮にボリンジャーバンドの上限に達するならば、21ドル程度までの下落余地があることになるが、100日移動平均線のレジスタンスラインを回復したため、チャート的には23.5ドルが目先の下値として意識されると考える。

本日は、米景気の減速観測から長期金利が低下、実質金利が上昇するものの同時に利上げ打ち止め観測が強まるため、リスク・プレミアムに下押し圧力がかかることから高値維持の公算。

銀・PGMは株価の調整圧力の強まりで軟調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が下落、小麦が小幅に上昇した。特段材料があったというよりも現状水準でもみ合っている印象。

トウモロコシ、大豆の作付は例年よりも早く終了したが、作柄が悪化しており徐々に豊作見通しが下方修正される可能性が意識されている。

ただし、景気減速の中ではエネルギー向けの需要減少が意識されるため、トウモロコシ・大豆には下押し圧力が掛りやすい。

本日も新規材料に乏しいが、原油の上昇やドル安進行もあって堅調な推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国債の格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「パーム油価格上昇は2023年後半からか」

パーム油価格の指標であるマレーシアのパーム油先物価格は、一時88.4セント/ポンドまで上昇していたが昨年6月以降の米国の金融引締めペースの加速を受けたリスク資産価格の下落の流れで水準を切下げ、原稿執筆時点で36.7セント/ポンドまで低下している。

直近3年のパーム油価格と各種経済統計との相関性を確認すると、直近では米10年期待インフレ率との相関性が最も高い。10年期待インフレ率はWTIとの相関性が高い。直近1年データを元にすると大豆との相関性が高いが、次いでWTI、米10年期待インフレ率となる。

ただ、過去に遡りコロナが発生する前の2019年5月を最終とした3年の相関分析を行うと、最も説明力が高いのが大豆油価格、次いで生産と需要、中国の小売売上高、マレーシアのパーム油在庫水準など、いわゆる需給ファンダメンタルズ要因が最も価格説明力が高かった。

これは2019年5月から1年間を対象とする分析でもほぼ同じであり、インドネシア・マレーシアの生産量、海洋ニーニョ指数動向の説明力が高かった。

このことは、コロナショック以降の4年の間に、パーム油市場動向を分析する上で、需給バランス以上に期待インフレ率やバイオ燃料などの価格に影響を与えやすい原油価格動向の重要性が増したことを示唆している。

特に価格の連動性が高まったのは昨年6月の米金融引締め加速以降であるため、恐らく米国の金融引締めが一巡して「通常運転」に戻る中では従来通り、需給ファンダメンタルズの説明力が高くなると予想される。

今のところ市場コンセンサスでは年2回程度の利下げが行われるとされているが、FRBの声明をみるに早くても今年の年末~来年初に掛けて政策が通常運転になると予想されるため、それまでは金融政策や原油価格動向を注目しておく必要があるだろう。

では、2023-24年のパーム油の需給ファンダメンタルズはどうか。

5月に発表された米農務省の需給報告では、生産が世界最大の生産国であるインドネシアと2位のマレーシアの生産が、生産地の拡大や異常気象の終了で単収が回復すると期待されることから、前年比+142万トンの7,956万4,000トンに増加する見込みだ。

一方、人口増加を背景とする食品向けのパーム油需要やバイオ燃料向けの需要が増加することから、国内需要が+244万8,000トンの7,795万5,000トンと増加する見通しであり、世界生産・国内需要の差である需給バランスは+160万9,000トンの供給過剰となる見込みである。

ただし昨年の+263万7,000トンよりは供給過剰幅が縮小するため、価格には上昇圧力が掛りやすい。

とはいえ上述の通り金融政策動向、それを受けた景気動向・原油価格動向の影響が小さくないため、実際に価格が上昇に転じるのはその他の商品と同じく、年後半にずれ込むのではないか。

なお、再生可能エネルギーとしてパーム油は用いられているが、インドネシアは2023年2月1日から、パーム油ベースのB35バイオディーゼルの使用を義務化している。

B35ディーゼルは原油由来のディーゼル65%に対してバイオディーゼルを35%混合したものであり、この使用が義務化されることでインドネシアのパーム油需要は(食品向けも含めて)前年比+141万トンの2,010万トンに増加するとみられている。

その一方でEUや日本は、バイオ燃料の原料となる作物を栽培するために森林や泥炭地などの高い炭素蓄積がある土地を転用することは、非持続可能」としており、基本的には制限される方向で、インドネシアの需要増加の影響を相殺することになるだろう。

とはいえ、化石燃料に比してエネルギー集積量の低い植物由来の燃料を大量に生産しようとした場合、広大な土地が必要になるため、今後、バイオ燃料のあり方については更なる議論が必要になるものと考えられる。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について