米連邦政府債務上限問題が大詰め
- MRA外国為替レポート
2023年5月15日号
◆先週の市場総括
先週は、週前半は米CPI発表を前に金融為替市場全般に様子見となった。一方、米国の連邦債務上限問題が週初から不透明要因として市場心理の重石となった。
バイデン大統領と議会指導者の協議は物別れ。週末にかけて不透明感が続いた。
CPIはじわりインフレ率の低下が継続。PPI(生産者物価指数)も低下が続いた。その傍ら、なおも米国地銀決算で一部銀行の預金流出が続いていることが明らかとなった。
リスク回避が強まり米長期金利は低下。米国株は景気懸念が燻るなか、金利低下でハイテク株は底固い値動きも、決算業績見通しが期待外れの銘柄もありNYダウの上値は重かった。
ドル円相場は週初から135円近辺で横ばいだったが週後半にややレンジを切り下げた。ただ週末のミシガン大学消費者調査で長期期待インフレが予想外に上昇、FRB当局者のタカ派発言とあいまってドルが反発。ドル円相場は135円70銭に反発して引け。
ユーロは対ドルで軟調。じり安となり1.10を割り込んだ。週末には1.0850まで下落し引け。
日経平均はコロナ規制が緩和されリオープン期待が高まるなか、概ね良好な決算企業業績が支え。また欧米と比べ相対的に良好な景気・金融環境から海外投資家の買いが入り29,000円台で堅調な値動きとなった。
月曜日の東京市場では日経平均は下落。前週末の米国株が大幅高となったものの、東京市場休場の連休中を通してみれば下落していることから上値が重かった。
それまでの急ピッチの上昇に加えドル安円高に振れたことから利益確定売りに押された。一方、コロナ感染症が5類に変更となったことでリオープン期待は支え。引けは連休前火曜日対比で▲208円安の28,949円。
ドル円相場は134円90銭で始まり欧米市場を通じても135円を挟んで方向感なく上下した。朝方は135円30銭に上昇したが夕刻は134円60銭台に軟調。欧州市場では135円ちょうど近辺でもみ合うも米国市場では134円60銭台に下落、引けは135円10銭近辺に持ち直し。
注目された米国FRBのシニアローンオフィサー調査では貸付基準を厳格化したとの回答は46.1%と前回44.8%から増加したが増加幅は軽微だった。
ただ借入需要は2009年以降でもっとも弱いとの結果。企業の資金調達環境悪化で景気が冷え込むとの懸念が米国株の重石。一方、地銀株の持ち直しは市場心理を支えた。NYダウは前週末比▲55ドル安の33,618ドル。ナスダックは+21ドル高の12,256ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は3.507%、2年債は4.001%へ上昇。債務上限問題は債券相場の重石、長期金利の上昇要因。
ユーロドル相場は東京市場では1.1020で始まり夕刻には1.1050台へ緩やかに上昇。一方、欧米市場では軟調反落して引けは1.10ちょうど近辺。
ユーロ円相場は東京市場では148円60銭台で始まり朝方149円10銭に上昇したがすぐに反落、148円70銭~90銭で上下。欧米市場では149円を挟んで上下したあと148円50銭~60銭に下落して引けた。
火曜日の東京市場では日経平均は大幅高。海外短期筋の買いが先物中心に断続的に入った。日本では金融不安が起こりにくいとの見方が支え。
決算発表を材料に好業績銘柄、株主還元銘柄が買われた。引けは前日比+292円高の29,242円。
ドル円相場は翌日の米消費者物価指数(CPI)の発表を前に引き続き135円近辺で方向感なく上下した。東京市場では135円10銭で始まり午後に134円70銭に下落。
ただドル安円高も一服。135円を挟んで上下したあと米国市場では135円台を維持しNY引けは135円20銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.10ちょうど近辺で始まり1.0990近辺で小動き横ばい。欧米市場ではやや下落して1.0940。ただ下落基調は続かず1.0960~70に持ち直して引けた。
ユーロ円相場は東京市場では148円台半ばで始まり70銭に上昇したが夕刻にかけ軟調。148円ちょうど近辺まで下落した。欧米市場では148円近辺で横ばい上下動。NY引けは148円20銭。
米国株はCPI発表を前に様子見姿勢が強かった。米地銀株は一部銘柄が大幅安となるなど不安定な値動き。債務上限問題への警戒感は重石となった。NYダウは▲56ドル安の33,561ドル。ナスダックは▲77ドル安の12,179ドル。
米長期金利はさらに小幅上昇。10年債は3.528%、2年債は4.032%。NY連銀総裁は、インフレは高すぎるが政策決定に金融情勢を注視する、とし、信用状況悪化でそれほど高い水準まで金利を上げる必要がない可能性がある、と述べた。
水曜日の東京市場では日経平均が下落。前日の米国ハイテク株が軟調となり値がさ株中心に売られた。米国のCPI発表を前に引き続き様子見姿勢も強かった。引けは前日比▲120円安の29,122円。
ドル円相場は小動き。135円20銭中心に小動き。欧米市場にかけても20銭~40銭で上下してCPI待ち。
ユーロ円相場は148円20銭で始まり夕刻にかけ148円70銭までじり高。ただ欧州市場では反落して148円ちょうど~20銭で上下した。
ユーロドル相場は1.0960で始まり夕刻にかけ1.0980へ、その後米国市場朝方にかけ1.0940へ反落した。
注目の米CPI(4月)は前年同月比が前月+5.0%から+4.9%に小幅低下して2年振りの低水準。コア指数は+5.6%から+5.5%に低下。サービス価格は+7.1%から+6.8%に低下した。
これを受けてドル円相場は134円40銭に下落。その後40銭~70銭で上下したあと134円10銭に下落して引けに持ち直して30銭台で引け。
ユーロドル相場は1.10ちょうどに上昇。ただすぐに反落して1.0960~80で引け。
米長期金利は低下。10年債は3.439%へ、2年債は3.910%へ。
米国株はまちまち。インフレ鈍化、金利低下はハイテク株の支えとなったが、債務上限問題の不透明感は重石となった。NYダウは一時大きく下落したが引けは前日比▲30ドル安の33,531ドル、ナスダックは+126ドル高の12,306ドル。
現地9日夕刻に行われたバイデン大統領と議会指導者との債務上限問題を巡る話し合いは進展なく、次回12日に再協議することとなった。
木曜日の東京市場では日経平均は横ばい。前日に米ハイテク株が堅調だったことから半導体関連がしっかりだったがドル安円高が重石。
決算発表は概ね良好で業績期待が下支えとなった。引けは前日比+4円高の29,126円。
ドル円相場は134円30銭台で始まり朝方一時133円90銭に下落。その後は夕刻まで134円20銭~30銭でもみ合い。
ユーロ円相場は147円50銭で始まり10銭に下落したあと20銭~40銭でもみ合い。ユーロドル相場は1.0980で始まり一時1.10近辺に上昇したが1.0970~80で小動き。
欧州市場に入るとユーロは下落。ユーロドル相場は1.0930近辺に下落してもみ合い。ユーロ円相場は146円80銭へ下落。逆にドル円相場は134円80銭に上昇。ただその後米国市場にかけては円高が進んだ。
生産者物価指数(4月)は前年同月比+2.3%と前月+2.7%から低下し2021年1月以来の低水準に低下。コア指数は+3.4%と前月+3.7%から低下した。
週次の新規失業保険申請件数は前週242千人から264千人に増加。継続受給者数は1,805千人から1,813千人に微増。
また一部地銀の決算で預金流出が明らかになり株価が大幅下落。金融不安が再燃。加えて債務上限問題の不透明感からリスク回避が強まった。
ドル円相場は133円80銭に、ユーロ円相場は146円20銭に下落した。ただその後円高は一服。ドル円相場は134円40銭に持ち直しもみ合い134円50銭で引け。
ユーロ円相場は146円90銭に反発して引け。ユーロドル相場は1.09ちょうどに下落したあと1.0920で引け。
米長期金利は低下。10年債は3.386%、2年債は3.899%に。
米国株はまちまち。決算でディズニー株が下落しNYダウを下押した。景気敏感株は弱く前日比▲221ドル安の33,309ドルで引け。一方ナスダックは金利低下が支えとなり+22ドル高の12,328ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が続伸し1年半ぶりの高値。好決算銘柄、指数寄与度の大きい値がさ株に買いが入った。海外勢の買いが続いた。引けは前日比+261円高の29,388円。
ドル円相場は134円40銭~60銭でもみ合い横ばい。午後から夕刻、欧州市場にかけては底固く134円90銭に上昇し、米国市場にかけては134円60銭~135円ちょうどで上下した。
ユーロ円相場は146円90銭で始まり夕刻には147円50銭に上昇。しかしその後欧米市場ではユーロ安となり146円台へ反落した。
ユーロドル相場は1.0920で始まり夕刻にかけて1.0940へじり高。しかし欧州市場に入ると下落に転じた。
米国市場朝方に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(5月速報)は前月63.5から62.6への悪化予想をさらに超えて57.7まで悪化。
一方、期待インフレ率は短期1年が4.6%から4.5%へ小幅低下したものの、長期5年が3.0%から2.9%への低下予想に反して3.2%に上昇。2011年以来の高水準となった。
これを受けて米長期金利が上昇。ドルは対円、対ユーロともに上昇した。
ドル円相場は135円70銭まで1円ほど上昇して引け。ユーロドル相場は1.0850へ下落。ユーロ円相場は146円70銭に下落したあと、やや戻して147円20銭近辺で引け。
FRBボウマン理事は、最新のCPIはインフレ鈍化基調の持続性を明確にしなかった、物価高と労働力逼迫が根強ければ追加利上げが必要、と述べた。
米10年債利回りは3.461%、2年債は3.989%。米国株は軟調。
ミシガン大学消費者信頼感が悪化、期待インフレ率は上昇、金融引き締め長期化による景気悪化懸念、債務上限問題の不透明感が重石となった。
NYダウは一時▲200ドル下落したが引けは▲8ドル安の33,300ドル。ナスダックは長期金利上昇が重石となり▲43ドル安の12,284ドルで取引を終えた。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
物価指標の発表が一巡し、今週は景気関連指標に注目が移る。
月曜日 NY連銀製造業景気指数(5月、予想▲5.0、前月10.8)
火曜日 小売売上高(4月、前月比、予想+0.7%、前月▲1.0%) 鉱工業生産(同、予想0.0%、前月+0.4%) 設備稼働率(予想79.7%、前月79.8%)
水曜日 住宅着工件数(4月、季節調整済み年率換算、予想1,398千戸、前月1,420千戸) 許可件数(予想1,430千戸、前月1,413千戸)
木曜日 米週間新規失業保険申請件数 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月、予想▲20.0、前月▲31.3) 中古住宅販売(4月、季節調整済み年率換算、予想425万戸、前月444万戸)
2.日本の経済指標
日本の材料からやや目が離れているが、今週の材料には要注目。
月曜日 企業物価指数(4月、前年同月比、前月+7.2%)
水曜日 GDP(1-3月期速報、前期比年率、予想+0.8%、前期+0.1%)
木曜日 貿易収支(4月、前月、▲7,540億円の赤字、季節調整後、前月▲1兆2,100億円)
金曜日 CPI(4月、前年同月比、前月+3.2%、除く生鮮食品・エネルギー、前月+3.8%)
貿易収支に改善がみられるか。日銀の政策に影響する景気物価動向はどうか。
3.欧州の経済指標
ECBは利上げ継続姿勢だが、それを支持する数字がみられるか。
月曜日 ユーロ圏鉱工業生産(3月、前年同月比、前月+2.0%)
火曜日 ZEW企業景況感指数(5月、ドイツ・期待指数、前月4.1、ユーロ圏、前月6.4)
水曜日 ユーロ圏CPI(4月、前年同月比、前月+7.0%、コア指数、同、+5.6%)
ほか、火曜日に中国で重要指標である鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資(いずれも4月)の発表がある。景気持ち直しが捗々しくないとみられているがどうか。米国の債務上限問題の行方は引き続き市場の注目材料。
◆今週のMRA's Eye
米連邦政府債務上限問題が大詰め
米国では債務上限問題が大詰めを迎えている。イエレン財務長官は、上限引き上げが議会で承認されない状況が続けば6月上旬にもデフォルト、元利払いに支障が生じると述べている。
米国債の信用リスクを材料に取引されるCDSは大きく上昇。利払い延期などテクニカルなデフォルトへの警戒感が高まる。
一方、これまで幾度も債務上限問題が生じつつ、最終的には上限引き上げが妥結されてきたことから、そうはいっても何とかなるのではないか、と、今のところ市場は半ば達観している可能性もある。
ただ今回は政治状況とあいまってギリギリまで終結が長引き、あるいは何らかの支障が生じ、あるいは米国債市場が混乱する可能性は以前より相対的に高い。
まず政治状況が従来よりも与野党の妥協を阻む可能性がある。過去もこの問題は与野党の鞘当の道具となってきた。
一般的に予算を執行し政策を実現しようとする与党に対し、野党は政策実行を阻もうとする。民主党と共和党という視点では、大きな政府・財政拡張に傾く民主党に対し、トランプ政権で崩れたものの基本的には小さな政府・財政均衡に傾く共和党、という伝統的な対立がある。
今回は来年の大統領選挙を控え、低迷する支持率を支えようとするバイデン大統領・民主党と、下院をなんとか取り戻し次に備えたい共和党の巻き返しというタイミングの悪さもある。
また共和党のマッカーシー下院議長は身内共和党の反対で歴史的な再投票の末に決定したことから、共和党強硬派の意向を汲まなければならないという状況もある。
短期的な上限引き上げで問題先送りという妥協もあるが、今回は大統領選挙を見据えるなかスケジュール的に双方ともに採りたくない解決策のようだ。
そのまま資金ショートに陥れば政府機関の一部閉鎖というお決まりのパターンに陥る。果たしてその程度で妥協に動くのか。
メインシナリオはギリギリでの妥結だが、今回はそのきっかけがみえない。そのため、なんらかのショック、インセンティブというよりカタリスト、リスクイベントがあって初めて妥協に動く可能性には留意する必要はありそうだ。
中長期的には上限引き上げで決着、また米国の財政健全姿勢があらためて確認される、という点で安堵をもたらすだろう。ただ短期的に大きなショックが生じる可能性、市場に関心を払わない政治家のゲームにより一時的にせよ大混乱となるリスクがある。
米国債市場の混乱、連邦政府のファイナンス停止は、社債市場への悪影響を通じて企業のファイナスにも支障を生じる。
米国地銀の経営破綻・経営不安、融資厳格化は主として中堅中小企業に悪影響をもたらし、景気悪化要因となりつつある。
その経営不安の要因が債券価格の下落だったが、米国債市場の混乱・価格下落が状況を悪化させる可能性がある。米国景気の先行き懸念は一気に高まる可能性があろう。FRBはなおインフレ警戒姿勢を維持しているが、さすがに景気配慮、市場の不安鎮静化に傾かざるをえなくなるだろう。
ショックは基本的に米国金融市場にとってトリプル安となる。
米国債下落=米長期金利は悪い上昇に見舞われ、米国株は急落、米長期金利上昇やリスク回避のなかでもドルが売られるという展開だ。
為替市場ではリスクポジションが手仕舞いとなる。
円は先安感から売られていたが急速に買い戻される可能性がある。
ユーロ買いが積み上がっていることが読みを難しくしている。ユーロ売り戻しの相手が円買い戻しであれば、ドルのリスクイベントであるにもかかわらず、ユーロ円相場が急落しドル円相場の下落はさほどでもないということは起こりうる。
ユーロ円相場が140円割れを試し、ドル円相場が130円割れに下落する可能性はある。
あるいはドルが忌避されればユーロ高ドル安はそのままとなる可能性もある。その場合は対ドルでの円買い戻しのみで130円割れということもあろう。短期的リスクはドル安サイド、かつボラティリティの上昇には要注意だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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