景気への楽観続き総じて堅調
- MRA商品市場レポート
2023年5月9日 第2451号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「景気への楽観続き総じて堅調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は総じて堅調な推移となった。先週末に発表された米雇用統計が「まだ米国の景気が後退していないこと」を確認する内容だったことを受けて景気循環系商品中心に買い戻しが継続したため。
しかし、米国の政策金利高止まりは長期化する可能性があり、それに伴う融資の減速が景気を減速させるリスクは小さくない(詳しくは昨日のトピックスを参照ください)。
現在の市場は「凪・楽観」という状態にあると考えられるが、下期以降は恐らく金融引締めの影響による信用収縮は不可避であり、米国の債務上限問題はこれからが本番となる。さすがにギリギリのところで民主・共和は合意するとみているが、それまでの間はリスク選好が後退するため、「足元の景気がまだ悪くないことを材料にした買いによる価格上昇」は抑制されるだろう。
【本日の見通し】
本日は欧米で目立った手掛かり材料の発表がないが、本日発表の中国貿易統計で輸出の伸びが減速する見通しであり、それを材料にしていったん水準を切下げる商品が目立つと考える。
今のところ市場は新たな経済統計(特に米国)の発表待ちの状態であり、方向感は出難いと考える。
・4月中国貿易統計 市場予想 輸出 前年比+8.0%(前月+14.8%) 輸入 ▲0.2%(▲1.4%)
【昨日のトピックス】
昨日、FRBの金融安定報告が発表され、今後の与信の縮小と金融ストレスへの懸念が表明された。
また、上級融資担当者調査では、Q123の融資基準が厳格化され、商業・産業向けの貸出需要が軟化したことも報告された。中・大規模企業向け融資の条件を引き締めている銀行の割合は46%と、前回調査の44.8%から上昇した。
今後、FRBはインフレ抑制のためにターミナルレートを高止まりさせることはほぼ規定路線であり、長短金利の逆転状態は長期化する見通しであり、方向所の通り金融環境が悪化する可能性は高い。
この状況で、米国の債務上限問題が政争の具となっている。このあたりは日本も米国も変わりがない。イエレン財務長官は連邦税収の期限である6月15日までの資金繰りを手当したとしていたが、直近ではこのままだと6月1日に特別会計措置による資金を使い切る可能性があると指摘している。
仮にそうなった場合、ドルが売られ、米国債も下落することが予想される。この場合、米国債は至る所で担保として用いられていることから担保価値が毀損し、信用収縮に拍車が掛る恐れがある。
現在、リスク回避資産として金が物色されているが、もしこの事態が顕在化した場合はキャッシュ化の動きが強まり、下落することになるだろう。昨日も金のリスク・プレミアムは+20ドル上昇し、1,106ドルに達している。市場は不慮のリスクに備える動きを強めている。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。特段目立った材料はなかったが、先週の米雇用統計やISM指数を受けて米経済が堅調であることから短期的な買い戻しが継続している状況。
この数日で確実になったのは米雇用市場は堅調であり、その結果消費の落ち込みもまだ目立ったものが見られず、インフレが十分抑制されていない点だ。そのため、足下の楽観から原油には売られすぎからの買い戻しが入りやすい。
しかしFRBは政策金利を高値維持するか、追加利上げを実施するかが選択されると考えられ、先行きの下落リスクはむしろ高まっている。下期に掛けてノンバンクも含めた金融機関の経営環境の悪化、それに伴う信用収縮の懸念を指摘する向きも多い。
景気のソフトランディングに成功すれば供給能力の制限から年後半か来年以降、急速に価格が上昇するシナリオ、金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗、価格が急落する、の両方のリスクに晒されている状態。
前者の場合、OPECプラスの減産や非OPECプラス諸国の上流部門投資が不充分であること(脱炭素に加えて、金利高の影響もある)から、2024年の価格上昇は弊社が想定しているよりも大きなものになる可能性はある。
後者の場合、供給能力の制限から思ったほど価格は下落せず、「スタグフレーション」となる可能性も有り得る。
3月の中国の原油輸入は前年比+22.5%の5,230万8,000トン(前月+12.1%の4,074万トン)と伸びが加速した。中国のリオープンが顕在化し始めたと考えられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+110.0%の389万5,000トン(+40.1%の290万トン)とこちらも大幅に加速、輸出は+33.9%の545万トン(+91.7%の621万トン)とやはり加速している。
直近のWTI投機筋のポジションは5月2日時点でWTIがロングが前週比▲94枚、ショートが+21,499枚とネットロングが減少。
Brentは5月2日付けのCOTレポートで、ロングが▲42,383枚、ショートは+27,014枚とネットロングが大幅に減少している。
いずれも新規ショートポジションの積み上げによる下落であり、早晩ポジション解消で上昇に転じるマグマが溜まっていると考えるべきである。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続。産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日も原油価格に対する影響が大きい米国の統計の発表がないが、最近市場では材料にされやすい中国の貿易統計で輸出の伸びが減速する見通しであることから、軟調推移を予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は全ゾーン小幅に上昇した。目立った材料はないが夏場に向けた調達が始まっていると考えられる。
冬場に向けた在庫積増しが始まっているが、弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。
逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。
ただし昨年に比べれば景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていること、ロシアも原油価格・ガス価格下落による財政状況の悪化が懸念されるため更なるガス供給の削減は常識的に考えて難しいことから、気温の低下がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。ロシアのLNGが第三国経由で欧州に流入することを想定した場合は2025年頃に脱ロシアが完了する。実際はこの中間で2026年頃に脱ロシア完了となるのではないか。
このことは、2026年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
3.4.は顕在化している。
5.は「凪」のシーズン。恐らく今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は冷夏となる見通し。ただしエルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、冬場のリスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は期近が上昇した。足下の期近と期先のスプレッドが拡大しコンタンゴが歴史的な水準になっていること、米経済統計の改善、冬場に向けた在庫積増しの動きから、割安感からの買いが入った。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物期近は全ゾーンほぼパラレルに小幅に上昇した。一部の地域の気温上昇や渇水、夏場を睨んだ調達が入ったためと考えられる。
3月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+11.2%の887万トン(+0.9%の866万トン)と過去5年の最高水準を上回り、中国の経済活動が再開していることをうかがわせる内容。
3月のLNG輸入は前年比+15.9%の536万3,000トン(前月+7.1%の652万トン)と高い水準を維持した。
3月のパイプラインベースの輸入は前年比+4.6%の351万トン(▲7.1%の345万トン)とこちらも輸入は増加した。
中国国内の天然ガス生産は3月は±0.0%の1,448万5,000トン(1-2月累計+7.0%の2,926万5,000トン)と過去5年の最高水準となった。
3月の中国の電力消費量は前年比+6.1%の7,369億kwh(前月+11.5%の6,950億kwh)と伸びが減速した。回復はしているもののそのペースは緩慢と見られる。
天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。
中国国内の渇水による水力発電の停滞観測から、ガスや石炭などの代替燃料の需要は今後も旺盛とみられ、景気減速下でも需要は底堅いと予想される。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧米の圧力による輸入禁止よりも、欧米企業がメンテナンスから撤退していることによる中長期的な供給途絶のリスクの方が大きいだろう。
4月23日時点の日本の発電用LNG在庫は256万トン(前年同月末196万トン、2018~2022年平均235万3,900トン)と過去5年の最高水準に近く、在庫の水準は十分か。
しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
本日も新規手掛かり材料に乏しい中、現状水準を維持と考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は前日とほぼ変わらず。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
しかし、期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度であることを考えると、実際は165~200ドルが説明可能なレンジか。
2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けて価格上昇リスクは小さくないとみる。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
そろそろ夏場を意識した調達が本格化するため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
実際、豪州炭の週間輸出動向を見ると、日本と中国の輸入量が増加し始めており、夏場に向けた動きが出始めたと考えられる。
3月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+150.7%の4,116万5,000トン(前月+159.8%の2,917万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。
昨年のロシアの軍事侵攻による物流の停滞から輸入は減少していたため発射台が低かったこともあるが、中国のリオープンと豪州に対する制裁解除や国内の渇水の影響で輸入が増加したものと考えられる。やはり、この国の発電燃料は石炭なのだ。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されるのではないか。
3月の中国の石炭生産は、前年比+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日(1-2月+6.9%の7億3,400万トン、1,245万トン/日)と伸びが減速している。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を下回っているが、豪州炭の輸入再開の影響でその必要性が低下したこと、発電需要の伸び鈍化が影響したと考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
本日も、凪のシーズンであることもあり現状水準維持と考える。ただし、インドやバングラディシュの一部などの気温上昇や、中国の渇水といった石炭調達の切っ掛けとなる材料は多く、底堅い推移に。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は英国王の戴冠式で休場。
年初に期待されていたような中国の需要の大幅な回復が価格を支える、というよりは減速が見込まれていた米国の景気が、FRBの期待していないタイミングで底入れし、かつ、今月でFOMCでの利上げは終了するとの期待感が、リスク選好の買い戻しを誘いやすい状況。
ただし、最大消費国である中国の景況感は決して良い訳ではない。4月の中国製造業PMIは49.2(市場予想 51.4、前月 51.9)と市場予想、前月とも下回り、中国のペントアップ需要の顕在化が一巡した可能性があることを示唆する内容となった。
中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度(▲1.44)が大きく、次いで、生産(▲1.10)、雇用(▲0.18)の寄与度が大きかった。
景気回復局面では新規受注が生産を促し、雇用に繋がるという過程を経ることが多いが今回は明確に新規受注に減速がみられ、今回の回復がペントアップ需要の顕在化による一時的なものである可能性が高まった。
実際、輸出向け新規受注の減少が▲2.8に止まる一方、新規受注全体では▲4.8となっており、輸入も48.9(前月50.9)と▲2.0の低下となっており「国内の新規受注が低迷」していることを示唆している。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(1.083)、原材料が1.019(1.110)と両方とも低下しているが、完成品は閾値の1を下回っている。生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は49.4(49.5)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」にあるとみられる。規模別の製造業PMIも全ての規模で閾値の50を下回っており、やはり世界景気の減速を受けて景況感は減速する可能性が高いと見るべきだろう。
3月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲19.0%の40万8,174トン(前月▲10.9%の40万9,514トン)と過去5年平均を下回り低迷した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲7.5%の202万1,293トン(前月+9.6%の228万トン)と過去5年の最高水準で推移している。
3月の中国の精錬銅生産は+10.8%の104万5,000トン(1-2月+14.3%の194万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
精錬品の輸入減少や銅精鉱の輸入減少は調達面の問題(在庫の低さ)を背景とするものである可能性が高く、製品生産が増加していることから、ペントアップ需要の顕在化が起きているものと見られる。
3月の銅スクラップの輸入は前年比+18.4%の17万7,571トン(前月+58.3%の17万3,825トン)と過去5年平均を上回っている。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
本日はこの数日の上昇が大きかったこと、米金融引締め(金利高止まり)観測が強まっていることからドル高が進行しやすいこと、中国貿易統計は輸出の鈍化が予想されていることから軟調推移を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は上昇した。
鉄筋価格は年初来安値まで下落していたが、GW明けで割安感もあり鉄鋼製品価格が上昇、それを受けて水準を切り上げた。しかし国内需要の回復は緩慢であり輸出頼みの状況が続いている。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+5万9,000トンの1,457万2,000トン(過去5年平均 1,596万3,000トン)と増加、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで進んでいたが減少ペースが鈍化し、徐々に過去5年平均に水準は近づいている。。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲60万トンの1億2,920万トン(過去5年平均 1億3,832万6,000トン)、在庫日数は24.9日(+0.7日、過去5年平均29.6日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+9万トンの139万トン(175万2,000トン)、在庫日数は+0.3日の4.8日(過去5年平均 7.3日)とこちらも、日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状態。
4月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が45.0(前月48.4)と減速した。新規受注の落ち込みが特に顕著(50.2→39.9)だが、輸出新規受注は55.5(42.1)と増加していることを勘案すると、国内需要が急速に減少している可能性があることを示唆。
実際、中国の棒鋼先物価格は4月末時点で前年比▲29.4%(前月末▲19.1%)と低下しており、前月比ベースでも下落している。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況にあると考えられる。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品レシオは0.87(1.13))と大幅に低下、原材料レシオも1.02(1.31)と急低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和。
これまでの需要は政府のテコ入れによるものと考えられるが、それが剥落している状況。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではないといえる。
とはいえ、中国の建設業PMIは63.9(65.6)と減速してはいるものの、非常に高水準を維持しており、恐らく不動産在庫の削減は進むと期待されるため当面、回復感は持続すると考えられる。
3月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲32.6%の68万1,840トン(前月▲33.7%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
3月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+59.7%の789万トン(+70.2%の616万トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。
3月の中国粗鋼生産は前年比+8.4%の9,573万トン(前月+6.8%の8,437万8,000トン)と回復し、過去5年レンジを上回った。
国内の粗鋼生産を増加させ、輸入を減らし輸出に回していることが窺える。銅などは国内の需要がペントアップ需要の顕在化で増加していると考えられるものの、鉄鋼製品に関してはこの数字の上ではむしろ輸出増加で国内需要、不動産セクターの回復が遅れていることを示唆している。
中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
本日も割安感とGW明けの活動再開から鉄鋼製品価格は上昇、鉄鋼原料価格も上昇すると考える。ただし中国の経済活動の回復は緩慢であり上昇余地も限定か。
◆貴金属
昨日の金価格は実質金利が上昇したものの、リスク・プレミアムが上昇したため高値を維持した。銀は小幅安、PGMは株の上昇もあって水準を切り上げた。
足下、6月15日の連邦税収の期限まで資金繰りができていたと思われた米国だが、イエレン財務長官は6月1日にも資金が枯渇すると指摘しており、米国債の格下げリスクが意識された。
現在、期間1年の米国債CDSは156bpと過去最高水準まで上昇している。
金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。
1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと
2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと
3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
4.米国の債務上限問題を受けた格下げないしはデフォルト懸念
4.に関しては6月15日の米連邦税収が無事終了するまでは、債務上限問題や米国債の格下げ懸念がつきまとう。現在の金価格はこのリスクを織り込んでいると考えられ、6月15日のXデーを無事乗り切ることができれば、このプレミアムが剥落して水準を切下げるのではないか。
各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。
なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。
基準価格をざっくり1,000ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」はIMFベースであれば1,156ドル、WGCベースでは1,454ドルとなる。
簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,706ドル、WGCベースでは2,004ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。
恐らく信用リスク分は上述のXデーを過ぎれば剥落するため、過去5年平均程度である330ドル程度までの下落が想定され▲220ドル程度の下落要因となる。年後半の金価格の目線は1,785ドル程度、ということになろうか。
なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限まで低下しており、トレンドは低下方向に転じている。米統計の底入れを受け、景気への楽観が実需増加期待を高めているためと考えられる。
現在のボリンジャーバンドの下限は74倍で、この水準までの低下があると28ドルまで価格は上昇することになる。
本日も、米国債のデフォルト懸念(恐らく回避されると見る)を材料に、リスク・プレミアムが高止まりするため金価格は高い水準を維持、銀も同様。
株価が比較的堅調に推移しているため、PGMも堅調推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は小幅安。原油価格上昇やロシアの供給懸念を材料に大きく上昇していたが、ドルが小幅に上昇したことや、米国のトウモロコシ・大豆の作付進捗を背景に水準を切下げた。
本日は、原油に戻り売り圧力が強まることから軟調推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・債務上限問題を契機とする、米国債のデフォルトないしは格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)
新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「大豆価格は短期的に上昇 年末にかけて下落も底堅い」
ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて高騰していた穀物価格だが、軒並み水準を切下げて概ね軍事侵攻前の水準まで下落した。
ラニーニャ現象の終了や、ロシアの軍事侵攻後に大問題となったロシア産穀物の輸出が実質的に継続していることが市場の不安感を後退させたためと考えられる。
直近4月の米農務省の需給見通しでは、世界の大豆需要は前年比+283万トンの3億6,583万トンと過去最高に達する見込みだが同時に生産が前年比+984万トンの3億6,964万トンの増加となるため、生産量は需要を+381万トン上回ることになり、昨年の▲320万トンの供給不足から大幅に需給が緩和することが見込まれている。
増産の大半は世界1位の大豆生産国となったブラジル(+2,350万トン)によるものだ。4月の需給見通しでは米国の生産は3月見通しから据え置きとなったが、作付の遅れが指摘されている小麦と異なり、4月末時点の大豆作付は過去5年レンジを大きく上回る19.0%と順調だ。
ただし、価格に対する説明力が高い需給率(需要合計÷供給合計)は84.2%(前年83.8%)と前年から上昇の見込みであり、需給は緩和ながらも価格は高い水準を維持する可能性が高い事を示唆している。別の言葉を使えば、大豆の需給ファンダメンタルズの価格への影響は比較的中立であると言えるだろう。
需給バランスが大豆価格に影響を与えることはもちろんだが、この数ヵ月の大豆価格は、より金融政策や思惑に左右されているという印象が否めない。
大豆の直近限月価格は昨年10月6日に最安値となる13.5ドルを付けた後上昇していたが、3月10日のシリコンバレー銀行を含む米銀2行の破綻、その後のクレディ・スイス銀行の経営危機報道を受けて多くのリスク資産が売られる中、大豆も下落。
その後、各国金融当局の比較的速やかな対応によって事態が沈静化する中で買い戻しが入ったが、4月に入ってからの米経済東経の鈍化、インフレ関連統計がインフレ沈静化を示唆していなかったことから金融引締め観測が台頭、再び水準を切り下げた。
しかし、5月に入って米国のインフレ懸念が高まっていることと同時に、景気の底入れを示唆する統計が複数発表され、短期的なリスク選好相場になっていると考えられる。
直近3年の主要統計・指標のうち、大豆価格に対する説明力が最も高いのは米トウモロコシである。これは作付地域がほぼ同じであり、生産動向がほぼ同様に影響を受けるためだ。
次いで説明力が高いのが10年期待インフレ率と、WTI原油であり期待インフレ率はWTI原油の影響を受ける。また、穀物生産に必要な化学肥料のコストや光熱費は原油価格に連動する。そのため短期~中期的な大豆価格動向は原油価格動向の影響を受けると考えた方が良い。
足下、米国の経済統計の減速が一服し、製造業・サービス業とも回復期待が強まっている状況で、これまで売られてきたWTI原油にも買い戻しが入っている。そのため、短期的に大豆価格は上昇余地を試すことになるだろう。
原油価格の中期的な見通しは、米景気の先行きをどのように考えるかで市場でも見通しが分かれている。
米国景気の底堅さ、中国の回復期待を織り込み強気の見通しとしているハウスは多い。この見通し通りの展開であれば、年末に向けて水準を切り上げると考えるのが妥当である。
しかし、上記の通り需給ファンダメンタルズはそれほど強い訳ではない(需給がタイトな訳ではない)こと、弊社は年末にかけて米国を初めとする世界景気は調整の度合いを強めるとみており、原油価格は年後半に掛けて下落すると考えているため、大豆価格の下押し要因となる。
ただし、原油も供給能力に制限があるため、下がったとしても余地は限定され、同様に大豆の下落余地も限定されるのではないか。
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