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米欧の金融政策スタンスに差異
  • MRA外国為替レポート

2023年5月8日号

◆先週の市場総括


先週は前週末の日銀金融政策決定会合、植田総裁の金融緩和維持スタンスを受けた流れで週初は一段と円安が進んだ。

欧米の金融政策決定会合で利上げが実施されることも視野に、強めのISM製造業景気指数もあってドル円相場、ユーロ円相場、ともに上昇。ドル円相場は137円台半ばへ、ユーロ円相場は151円台半ばへ。週央には円安一服。

FOMCでは予想通り0.25%の利上げが実施されパウエル議長は利上げ打ち止めを示唆。またECBでは0.50%との見方もあったが0.25%の利上げが実施され、ラガルド総裁は利上げ継続姿勢を示した。

その後は米国地銀株が再び大きく売られ金融不安が強まると円が買い戻された。

ドル円相場は133円台半ばへ、ユーロ円相場は147円台前半に下落。ただ円高は続かず、週末の米雇用統計が強い数字となると円安が進んだ。ドル円相場は134円台後半で、ユーロ円相場は148円台後半で引けた。

米国株は週末にかけ地銀株が買い戻され、好決算の支えもあって持ち直した。

月曜日の東京市場では日経平均は3営業日続伸。引けは2022年8月以来29,000円の大台に乗せ29,123円。週末の米国株が堅調、円安が支え。ファースト・リパブリック銀行が破綻したがJPチェース銀行に買収で決着し、織り込み済みで悪影響はなかった。

ドル円相場は136円20銭~30銭で始まり堅調。80銭に上昇し60銭~80銭で上下したあと午後から夕刻は136円90銭台で推移。

ユーロ円相場は150円40銭で始まり150円ちょうどに下落したが底固く反発して150円80銭に上昇。夕刻にかけては反落して30銭。ユーロドル相場は1.1040で始まりドル堅調のなか1.10ちょうど近辺に下落し夕刻は1.0990。

欧州市場に入るとユーロは持ち直し。ユーロ円相場は150円90銭へ、ユーロドル相場は1.1030台。ECBが大幅利上げする可能性が意識された。ドル円相場は136円60銭~80銭。

米国市場朝方に発表されたISM製造業景気指数は強い数字となりドルが急上昇。ドル円相場はその後終盤にかけても堅調で137円50銭。ユーロドル相場は1.0970~80に下落。ユーロ円相場は150円60銭に反落したが引けにかけじり高となり150円90銭で引け。

ISM製造業景気指数(4月)は前月46.3から47.1へ予想を上回る改善。雇用指数は46.9から50.2へ、新規受注指数は44.3から45.7へ、価格指数は49.2から53.2へ。

いずれも強い数字でインフレ懸念もあらためて意識され6月以降も利上げが継続するのではないかとの見方も台頭。米長期金利は上昇。2年債利回りは4.147%へ。

大規模社債発行が相次ぐと報じられたこともあり10年債利回りも上昇し3.572%。米国株は小幅下落。金利上昇が重石となった。ファースト・リパブリック銀行の破綻は大きく影響せず。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅上昇。3営業日連続で年初来高値を更新した。ドル高円安を受けて輸出関連銘柄が買われた。

ただFOMC、ECB理事会を前に様子見姿勢も強く、このところの大幅高のあとで利益確定売りも出やすかった。引けは前日比+34円高の29,157円。

為替市場では円が軟調、ユーロが堅調。ドル円相場は137円50銭で始まり40銭中心、30銭~50銭でもみ合い。夕刻は137円80銭手前まで上昇した。

ユーロ円相場は150円90銭で始まり夕刻には151円50銭に上昇。ユーロドル相場は1.0980で始まり90近辺でもみ合い夕刻は1.10ちょうど近辺に上昇した。

欧米市場では円安は一服。ユーロは下落。欧州市場ではユーロ円相場は150円40銭へ、押されてドル円相場も137円30銭近辺に反落。ユーロドル相場は1.0950近辺に反落した。

米国市場朝方はドル円相場は137円60銭近辺に戻した。ただ弱い雇用指標、米国株の急落を受けて米長期金利が大きく低下。ドル円相場は136円40銭に急落した。

JOLT求人数(3月)は前月9,931千人から10,400千人への増加予想に反して9,590千人に大幅減少。3ヵ月連続の減少で2年振りの低水準となった。

株式市場では地銀株が再び大幅下落。金融不安が高まった。景気懸念も台頭。NYダウは一時▲600ドル超下落。引けには下げ幅を縮めたが▲367ドル安の33,684ドル。ナスダックも▲132ドル安の12,080ドル。

米中景気懸念から原油価格WTI先物は71.54ドルに下落した。

米10年債利回りは3.433%へ、2年債は3.992%へ低下。

ドル円相場はその後下落一服、やや持ち直し136円60銭近辺で上下して引け。ユーロドル相場は反発し1.10ちょうど近辺。ユーロ円相場は149円80銭に急落したあと持ち直し150円20銭台で引け。

水曜日の東京市場は休場。アジア時間から欧米市場にかけてドル安・円高が進んだ。ドル円相場は136円60銭で始まり前日の流れのまま軟調。

昼頃には136円ちょうど近辺でもみ合い。さらに夕刻には135円60銭近辺へ、米国市場朝方には135円40銭近辺まで下落した。

ユーロ円相場も150円20銭近辺で始まりアジア市場から欧米市場にかけ一貫してユーロ安円高。米国市場朝方には149円30銭まで下落した。

ユーロドル相場は1.10ちょうど近辺で始まりじり高。欧州市場から米国市場朝方には1.1040近辺へ上昇し上下した。

米国市場に入ると経済指標、およびFOMC、パウエル議長の会見を受けて値動きの荒い展開。ただドル安・円高の流れは変わらなかった。

ADP雇用報告(4月)は雇用者数前月比が+296千人と前月+142千人から大幅に増加し予想を上回る強い数字。

ドル円相場は135円90銭に急騰したが急反落。ISM非製造業景気指数(4月)は前月51.2から51.9に改善。新規受注指数が52.2から56.1に改善。ただ雇用指数が51.3から50.8へ悪化。

ドル円相場はなお軟調で135円ちょうど近辺まで下落。その後40銭近辺に反発してFOMCの結果待ち。FOMCでは予想通り0.25%の利上げが実施された。ただ声明文で、追加の政策措置が適切、との利上げを示唆する文言が削除された。

また、政策判断にはこれまでの引き締めによる累積的効果やタイムラグを考慮する、と記した。なお景気や雇用は底固くインフレ警戒感を示したものの、家計や企業の信用状況が悪化しているとの認識を示した。

FOMCを受けてドル円相場は134円80銭まで下落し135円70銭に反発するなど乱高下。その後パウエル議長の会見で再び大きくドル安円高に振れて134円70銭近辺で引けた。

議長は、完全な引き締め水準に達した可能性または近づいた、と述べた。今会合で利上げ停止を協議したが今会合ではない、と述べた。

ユーロ円相場はFOMC結果発表後には150円ちょうど近辺に反発したが、パウエル議長会見後に反落。引けは149円ちょうど近辺。ユーロドル相場はFOMCでの高下を経てもユーロ高ドル安基調で引けは1.1060。

米国株はまちまち。NYダウは引けにかけて下げ幅を広げ前日比▲270ドル安の33,414ドル。ナスダックは長期金利低下が支えとなり+65ドル高の12,145ドル。

原油価格WTIは続落して68.14ドル。米長期金利は利上げ停止観測が強まり10年債利回りは3.364%。2年債は3.865に低下した。

木曜日も東京市場は休場。ドル円相場はアジア市場朝方も前日の流れのまま下落。134円70銭近辺で始まり50銭中心に上下動。欧州市場に入ると20銭に下落したあと80銭に反発、134円40銭~80銭で上下。

ユーロ円相場は149円ちょうど近辺で始まり148円80銭~149円ちょうどで上下。

欧州市場に入ると148円60銭~149円20銭で上下し149円ちょうど近辺でECB理事会の結果待ち。

ユーロドル相場は1.1060で始まり80~90で上下したあと1.1040~80で上下。

ECB理事会では大方の予想通り0.25%の利上げが実施され政策金利は3.50%から3.75%に。前回会合まで3回連続で0.50%の利上げを実施していたが4会合ぶりに0.25%に戻した。

会合後に会見したラガルド総裁は、インフレ見通しはあまりにも長く高すぎる状態が続いている、利上げは止めない、と追加利上げを示唆した。

ユーロ円相場は大きく上下動したあと147円20銭まで下落。ユーロドル相場は1.10ちょうどに下落したあと1.10ちょうど~1.1050で上下し1.0990。週次の失業保険新規申請件数は前週230千件から242千件に増加。

米国株式市場では地銀株の下落が止まらず投資家心理が悪化。リスク回避から円高が進みドル円相場は133円50銭に下落した。その後は円高一服。

ドル円相場は134円20銭~30銭で引け。ユーロ円相場は147円90銭。ユーロドル相場は持ち直し1.1010で引け。

米国株は地銀株安、景気悪化懸念、などから軟調。NYダウは前日比▲286ドル安の33,127ドル。ナスダックは▲9ドル安の12,016ドル。VIX指数は19.98に上昇。原油価格WTIは下げ止まったが68.59ドル。

金曜日の東京市場は休場。アジア市場では午後にかけてドルが緩やかに下落したあとじり高。ドル円相場は134円30銭で始まり133円90銭へ、欧州時間にかけて134円20銭に戻した。

ユーロドル相場は1.1010で始まり1.1040へ、その後1.1010へじり安。ユーロ円相場は方向感なく147円80銭~148円ちょうどで上下したあと147円80銭へ下落。

注目の米雇用統計(4月)は強めの数字だった。非農業部門雇用者数は前月比+253千人増と予想+180千人を上回った。ただ前月分が+236千人から+165千人に下方修正され、総じて予想通り。

失業率は3.5%から上昇予想に反し3.4%へ低下。平均時給も前年同月比+4.2%から+4.4%へ予想をやや上回り、前月比も+0.5%に加速した。

これを受けてドルは急反発。円は下落。ドル円相場は135円10銭に急上昇したあと134円70銭へ反落して上下動。引けは134円80銭近辺。

ユーロドル相場は1.0970へ下落したが1.1040へ反発し1.1020で引け。ユーロ円相場は148円70銭に上昇して148円60銭で引けた。

米国株は大幅高。前日に急落した地銀株が買い戻され急反発。市場心理が持ち直した。銀行株への市場操作を当局が調査、空売り規制の検討も、との報道が背景。アップル社の決算が市場予想を上回ったことも安心感をもたらした。

NYダウは前日比+546ドル高の33,674ドル、ナスダックは+269ドル高の12,235ドル。米長期金利は上昇。10年債は3.435%、2年債は3.928%。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

先週に重要指標の発表を終えたあと、今週はとくに物価指標が注目される。

水曜日 消費者物価指数(4月、前月比、予想+0.4%、前月+0.1%、前年同月比、予想+5.0%、前月+5.0%) コア指数(前月比、予想+0.3%、前月+0.4%、前年同月比、予想+5.4%、前月+5.6%)

木曜日 生産者物価指数(同、前年同月比、予想+2.4%、前月+2.7%) コア指数(同、予想+3.3%、前月+3.4%) 米週間新規失業保険申請件数

金曜日 輸入物価指数(4月) ミシガン大学消費者信頼感指数(5月速報、予想62.6、前月63.5) 期待インフレ率

2.FRBシニアローンオフィサー調査結果、米債務上限問題

月曜日にFRBシニアローンオフィサー調査の結果が公表される。

この間の地銀経営不安、監督規制強化の動きを受けて貸出姿勢に厳格化傾向が顕著にみられるか。引いては景気への影響が懸念されるか。

また同じく月曜日にバイデン大統領が上下両院の指導者と債務上限を巡り話し合いを行う。上限引き上げなど有効な措置がとられなければ6月上旬にもデフォルトの可能性が高いとみられているが、何らかの進展があるか。逆に進展なくドル不安が高まるか。

3.日本の国際収支、日銀金融政策決定会合主な意見

11日木曜日に日本の国際収支(3月)が発表される。

経常収支は前月の2兆2千億円の黒字から2兆9千億円弱の黒字へ黒字幅が拡大する予想。

すでに通関ベースでは貿易収支が発表されているが、国際収支ベースの貿易収支は前月の▲6,000億円の赤字から▲4,500億円の赤字に赤字幅が縮小する予想。赤字改善傾向がなお意識されるか。

また同日には4月に開催された植田新総裁のもとでの初めての政策決定会合の主な意見が公表される。ハト派寄りの結果となったが論点はどうだったか。

ほか、11日木曜日から13日土曜日まで、新潟でG7財務相・中央銀行総裁会議が開催される。景気やインフレ動向、そのバランス、また金融システムの安定性などを巡る議論、参加する当局者の発言に注目。

◆今週のMRA's Eye


米欧の金融政策スタンスに差異

先週はFOMC、ECB理事会が開催され、いずれも0.25%の利上げが決定された。利上げ幅は同様、かつ基本的なタカ派スタンス、インフレ警戒姿勢も同様だが、今後のスタンスについては温度差がみられた。

その違いは、第一に、ターミナルレート=政策金利の最終到達水準に達しているか否かに起因するとみられる。

そして第二に、インフレ率の水準の違いにもよる。

第三に、金融システムの動揺、地域金融機関の経営不安の程度にもよる。

FRBは前回3月の声明文で、利上げに関する文言を修正し、幾分かの利上げが必要かもしれない、と弱めていた。

今回の声明文ではさらに修正。追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積的効果や経済や物価に時間差で与える影響を考慮する、とした。

素直に受け止めれば、利上げを打ち止めして様子を見る、との意思表示だ。そうでなければ文言を変更する意味がない。

今後の金融政策判断は一段と経済指標次第となり、追加利上げ実施の判断へのハードルが高くなったとみられる。よほど明確に利上げを実施すべき理由、要因がない限り、据え置きとなる可能性が高い。

パウエル議長は利上げ打ち止めと断言はできないが、逆に追加利上げを実施すると明確に表明することはさらに困難だろう。

景気動向、雇用情勢はなお底固く、インフレ率の低下が捗々しくないことからタカ派姿勢は容易に崩すことはできない。ただ、メンバーの大勢が考えるターミナルレートに到達したこと、政策効果のタイムラグを考慮すると明言したこと、から、ここからは持久戦ということだろう。

金利据え置きがどの程度続くかは現時点で不透明。メンバーは年内据え置き、来年から徐々に利下げという予測。リスクは上下双方にある。

想定外に景気が底固く、インフレが粘着的となる可能性もあり、その場合は据え置き期間が想定より長期化する。一定期間据え置きのあと追加利上げを実施する可能性は皆無ではないが、これまでの発言からすればその可能性は据え置き期間長期化のリスクより低そうだ。

景気が再加速する、あるいはインフレが再加速する状況にならなければ、利上げ打ち止め後に再利上げとはなりそうもない。

逆に年内に利下げが実施される可能性は年内据え置きの可能性と同等にありそうだ。

市場は年後半に2回~3回程度の利下げを織り込む。どの程度景気悪化、とくに雇用悪化が顕在化するか、インフレが緩慢ながらも鈍化するか、に係る。これまでの金融引き締めの累積効果に加え、地銀経営破綻や規制強化、融資姿勢の厳格化が信用収縮を招き景気鈍化に追加的に寄与する可能性は高まった。

結果、現時点でのドル金利感のリスクは横ばいから下方となり、当面は経済指標の強弱に応じて揺れる状況が続きそうだ。

これに対し、ECB、ラガルド総裁は追加利上げに前向きな姿勢を明確にしている。ECBはターミナルレートを明確にしていない。ターミナルレートに到達したかどうか不明。FRBに比べ、一段と手探り状態とみえる。

エネルギー価格、原油価格の急騰一服、供給不安緩和で経済全体への悪影響は当初の想定より緩和。景気は底固さをみせている。インフレ率はピークアウトしたが、水準は米国よりも高い。地域金融機関の経営不安も今のところみられない。

米国に比べ金利上昇が緩慢なことから、欧州債保有による欧州金融機関の含み損は米国よりも軽微とみられる。この点が大きな違いだ。

ECBは利上げ幅を0.50%に加速して3回実施したが、先週の会合では0.25%に縮小した。FRBよりも利上げ開始が遅れ、利上げスピードも緩慢だったこと、インフレ率が米国を上回っていること、地域金融機関の経営不安が今のところみられないこと、から利上げはしばらく継続しそうだ。

今回の会合で主要政策金利(リファイナンス金利)は3.75%に、中銀預金金利は3.25%、限界貸出金利は4.00%となった。

主要政策金利は4.25%まで上昇するとの見方が市場の大勢。あと0.25%の利上げを2回ということになる。

ユーロ圏の潜在成長率は欧州委員会によれば1%とみられている。一方、米国の潜在成長率は2%程度。

両者のギャップは1%。そこから推測すれば、ターミナルレートも1%のギャップがあるとして、FRBが5.25%ならECBは4.25%と考えるのは理にかなっている。

ただECBの場合はそこで利上げ打ち止めとなるか、FRBよりも確証が持てない。インフレ鈍化が米国よりも捗々しくなく、足元で景気悪化懸念が後退したことで、より緩慢に利上げが続くリスクも残る。

利上げ期間は米国よりも長期化し、現時点で年内利下げの可能性は米国より低いだろう。

欧米と日本の金融政策ギャップが円安の原動力とすれば、米国で利上げ打ち止めの可能性が高まるなか、欧州金利の先高感が一服するかどうかが円安一服の鍵となりそうだ。

ユーロ高円安が一服するかどうかが、ドル円相場の一段の調整にも影響しよう。年後半、米国で利下げへの転換が燻り、欧州が利上げ打ち止めとなるかどうか。

そうなれば、ドル円相場が130円割れに下落する可能性が高まる。リスクは欧州で利上げが長期化する場合。結果的にドル安円高のタイミングやペースが後ずれする可能性がある。

今のところその可能性は低く、またそれによりドル高円安が加速する可能性も低そうだ。

欧米の利上げが想定外に長期化する場合は後々の景気リスクが強まる。円安には限界があろう。日本の貿易収支改善も手伝って、ドル円相場が140円を超える展開は想定しにくい。


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