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米統計改善によるドル高で軟調もエネルギ-は高い
  • MRA商品市場レポート

2023年4月24日 第2440号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米統計改善によるドル高で軟調もエネルギ-は高い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は多くの商品が水準を切り下げた。米製造業PMIが想定外の改善となり、同国経済の回復期待がエネルギー価格を押し上げたが、同時に米インフレ懸念への警戒から金利が上昇、ドル高も進行したため多くの商品価格の下押し要因となった。

FOMCを控えたブラックアウト期間入りの最終日だったため、複数の連銀総裁、FOMCメンバーの講演があったが、いずれも利上げはあと1回程度行うことを示唆し、金利も容易に引き下げないことを主張していた。

今回の金融引締めは景気を悪化させてインフレを抑制することが目的であるため、景気回復を(おかしな表現だが)放置して、現在の前年比ベースでも高い水準を維持しているインフレ率を高いまま、ないしは上昇することを容認するとは考え難い。

やはり金融引締め継続に伴う信用収縮も見込まれることを考えると、景気は減速すると考えるのが妥当(というよりも、悪くなってくれないと困る)と言えるだろう。

【本日の見通し】

週明け月曜日は、FOMC直前のブラックアウト期間で有るため連銀総裁の発言がなく、方向感に欠ける展開になると予想される。

発表予定の経済統計で注目は独IFO景況感指数。市場予想は、総合指数が93.4(前月93.3)、現況指数が96.0(95.4)、期待異数が91.1(91.2)と底堅い内容になると予想され、ユーロ安・ドル高要因となりそうだが、小幅な改善でも有るため積極的に材料にはならないのではないか。

【昨日のトピックス】

昨日発表の米PMIは、製造業・サービス業とも予想外の改善となり、コンポジット(総合)指数は11ヵ月振りの高水準となった。

米国の景気は2021年7月頃にピークを打っており、通常の景気循環では2年程度で底入れするため、2023年7月以降の底入れが予想されていた。

しかし、想定よりも早く、1年10ヵ月程度でシクリカルな回復局面に入った可能性が出てきた。しかし、景況感の回復はインフレの上昇に繋がるため、米国の利上げの可能性が出てくる。

今のところ5月のFOMCでの25bpの利上げはほぼ間違いがない状態で、FOMCメンバーは誰も利下げについては言及していない。次のテーマはいつまで政策金利を高止まりさせるかだろう。

今回のFRBの政策は景気よりも物価上昇の抑制を目的としている。そのため、景気が減速ないしは循環的な回復が顕在化しているならば、その回復ペースを緩やかないしは下向きに修正するための政策金利高止まり(ないしは追加利上げ)を検討してもおかしくはない。

仮にこのまま景気の回復と価格の上昇を容認するならば、2024年に再び深刻なインフレに直面することになろう。

一方、日本の消費者物価指数も発表されたが、コア指数は上昇した。政府の補助金を電力・ガス会社に投入する政策によって「見かけ上」光熱費の上昇はマイナス寄与となっているが、生鮮食品を除く食料の価格が上昇している。

このコラムでも指摘してるが、エネルギーや食料品の価格は過去の価格で決定されること、また、価格を最終価格に転嫁するまでに時間が掛ることから、値上げはこれからが本番になると考えられる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米PMIの改善を受けて米景気の回復期待が強まり、需要増加観測が価格を押し上げた。ただしこの上昇でも100日移動平均線のレジスタンスラインは上抜けしていない。

昨日のトピックスのところでもコメントしているが、米国はやや循環的な回復が想定よりも早いタイミングで顕在化している可能性がある。

しかし、インフレが十分に抑制されていないことから「利上げ・しばらく維持」となる可能性が高いことから、OPECプラスの減産はあるものの景気は減速ないしは低迷するとみられ、年後半にかけての景気減速・価格下落の可能性は高い。

弊社は原油価格は2024年に掛けて上昇するとみているが、現時点で主要なリサーチハウスの中で、最も弱気な見通しとなっている。

市場コンセンサスは非常に強気で、Q423のBrent平均価格は90ドル、最も高いところで110ドルが予想されている。一方弊社は78.67ドルであるが、これはEIAの見通しの方向性と大きな差はない。

この見通しの差は、1.景気底入れのタイミング、2.米金融緩和の動向、3.OPECプラスの減産遵守動向、によって発生していると考えられる。

下期に掛けてノンバンクも含めた金融機関の経営環境の悪化、それに伴う信用収縮の懸念を指摘する向きも多いため、政策の変更がなければ、回復は2024年にずれ込む可能性が高い。

仮に早期に利下げが行われれば、ファイナンシャルな面で価格が押し上げられるため、見通しの上振れリスク(価格上昇が早期に発生)となる。

現在の原油市場は、ソフトランディングに成功すれば年後半か来年以降、急速に価格が上昇する、あるいは金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗、価格急落、の両方のリスクに晒されている状態。

しかし、OPECプラスの生産能力が、一部の調査機関も指摘しているように本当に毀損(ロシアなど)しており生産量が回復しなければ、価格急落時も下げ余地が限定され「スタグフレーション」となる可能性も有り得る。

脱炭素ヘの移行期間、それに伴う中途依存度・ロシア依存度の高まりを受けて消費国は非常に大きな痛みを受けることは不可避の状況かもしれない。

3月の中国の原油輸入は前年比+22.5%の5,230万8,000トン(前月+12.1%の4,074万トン)と伸びが加速した。中国のリオープンが顕在化し始めたと考えられる。

一方、石油製品は輸入が前年比+110.0%の389万5,000トン(+40.1%の290万トン)とこちらも大幅に加速、輸出は+33.9%の545万トン(+91.7%の621万トン)とやはり加速している。

直近のWTI投機筋のポジションは4月18日時点でWTIがロングが前週比+12,136枚、ショートが+3,193枚とネットロングが増加。

Brentは4月18日付けのCOTレポートで、ロングが+8,793枚、ショートは+847枚とやはりネットロングを増加させている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、目立った材料に乏しく、米統計の改善とそれに伴うドル高進行を材料にもみ合うものと考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小動き。気温低下やノルウェーからの供給停止はあるが、季節的な需要減少が価格を下押ししている状況。

早くも「冬場」に向けた在庫の積増しが始まる。弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。

逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。

また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。

ただし昨年に比べれば景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていることから上記シミュレーションの通り気温の低下がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。

しかし今年の冬が例年通りの冬であれば、2022-2023年の冬よりも寒い冬となること、冬場のラニーニャ現象再度発生のリスクを考えるとまだ調達環境は安泰とは言えない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高止まり、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

3.4.は顕在化している。

5.は「凪」のシーズン。恐らく今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は冷夏となる見通し。ただしエルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、冬場のリスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は小動き。気温が再び低下する見通しとなったことはあったが、不需要期でありそれほど大きな材料にはならなかった。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物も小動き。

JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入していることもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。

3月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+11.2%の887万トン(+0.9%の866万トン)と過去5年の最高水準を上回り、中国の経済活動が再開していることをうかがわせる内容。

2月のLNG輸入は前年比+7.1%の652万トン(前月▲24.4%の590万8,000トン)と前年比プラスに転じた。

2月のパイプラインベースの輸入は前年比▲7.1%の345万トン(▲3.2%の336万トン)と輸入は低迷している。

中国国内の天然ガス生産は1-2月は+7.0%の2,926万5,000トン(12月+5.7%の1,500万トン)と過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

2月の中国の電力消費量は前年比+11.5%の6,950億kwh(12月▲4.6%の7,784億kwh)と回復したものの、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。

天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。

ただし、中国国内の渇水による水力発電の停滞観測から、ガスや石炭などの代替燃料の需要は今後も旺盛とみられ、景気減速下でも需要は底堅いのではないか。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧米の圧力による輸入禁止よりも、欧米企業がメンテナンスから撤退していることによる中長期的な供給途絶のリスクの方が大きいだろう。

4月9日時点の日本の発電用LNG在庫は240万トン(前年同月末196万トン、2018~2022年平均2,353万9,000トン)と過去5年平均を上回り、在庫は足りている状況。

ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。

また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

週明け月曜日は、ノルウェーのメンテナンスの影響による供給減少や、インドの熱波によるガス調達圧力の高まりなどを背景に情緒余地を探る動きか。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は昨日予想したとおり、特段材料がない中で小幅に水準を切下げた。一方、ノルウェーからのガス供給減少や、インドの熱波の影響による石炭調達増加があったか、API2石炭は全ゾーンパラレルに水準を切り上げた。

中国の豪州炭輸入は再開しているが、中国の工業セクターの活動がまだ緩慢なままで、製鉄会社が価格を引き下げるなどの動きに出ている事もあり、追加の石炭在庫積増しには慎重な可能性がある。

欧州API2石炭の期間構造は、期近が上昇したが期先はほぼパラレルに小幅に続落。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は140ドル、±1標準偏差で70~210ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

しかし、期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度であることを考えると、実際は150~210ドルが説明可能なレンジか。

2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けて価格上昇リスクは小さくないとみる。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

そろそろ夏場を意識した調達が本格化するため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

実際、豪州炭の週間輸出動向を見ると、日本と中国の輸入量が増加し始めており、夏場に向けた動きが出始めたと考えられる。

3月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+150.7%の4,116万5,000トン(前月+159.8%の2,917万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。

昨年のロシアの軍事侵攻による物流の停滞から輸入は減少していたため発射台が低かったこともあるが、中国のリオープンと豪州に対する制裁解除や国内の渇水の影響で輸入が増加したものと考えられる。やはり、この国の発電燃料は石炭なのだ。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されるのではないか。

3月の中国の石炭生産は、前年比+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日(1-2月+6.9%の7億3,400万トン、1,245万トン/日)と伸びが減速している。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を下回っているが、豪州炭の輸入再開の影響でその必要性が低下したこと、発電需要の伸び鈍化が影響したと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

週明け月曜日は、インドの熱波の影響による石炭調達増加観測を受けて再び上昇余地を探る動きか。ただしまだ夏場に向けた調達が本格化している訳ではないため、上昇余地は限定か。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は続落した。欧州の製造業PMIの減速や、米統計の改善を受けた金融引締め観測、ドル高進行が材料となった。

中国のペントアップ需要の顕在化はあるものの、全体として力強さに欠ける中、為替動向が価格に影響を与えやすいが、昨日は米金融政策への思惑が交錯し、米金利が上昇後下落、それに追随する形でドルも上昇・下落となったため、非鉄金属もほぼ同じ値動きとなった。

今のところ上海の錫取引所在庫の水準は過去5年レンジを上回って高い水準に有るため(詳しくはAPPENDIXを参照ください)直ちに供給不足にはならないが、先行きが不透明であるため、市場のアップサイドヘの反応は小さくない。

直近のCOTレポートでは錫のショートがロングを上回る増加となっていたため、この買い戻しが加速したことが価格急騰の背景にある。

そもそも非鉄金属はQ223には中国のペントアップ需要が顕在化し、米国の利上げが一巡することから上昇を予想しているが、下期に掛けてはペントアップ需要の剥落と、世界景気の減速もあって息切れし、水準を切下げるとみている。

景気が減速する中で米国の政策金利高止まりが続く中では、想定しているより米金融環境は不安定な状態が続くと見られ、価格のリスクは下向きだ。

実際、中国の消費者物価指数の内訳を見ると、食品・エネルギーを除くコア指数が+0.7%(前月+0.6%)と伸びが緩慢であり、商品別では住宅関連が▲0.3%(▲0.1%)と減速しており、消費は弱い。住宅セクターの減速は工業金属全体の需要にマイナスに作用する。

しかし、米国が想定よりも速く利下げを行えば、そのタイミングから価格は再びドル安を材料に上昇することに。しかしこの場合、2024年に再び世界がインフレのリスクに晒されるリスクが高まることになる。

直近のCOTレポートは錫を除き、買越しポジションを拡大。

銅・鉛・アルミ、ニッケルがロング増加、ショート減少で強気のポジション取り。亜鉛はロング・ショートとも増加したがロング増加が上回り、錫はロング・ショートとも増加したがショートが上回った。

足下の錫価格急騰は、この新規ショートポジションの買い戻しが進んだ影響が小さくないと考えられる。

ミャンマー北部の最大武装組織「ワ州群」が同国北部からの鉱物資源輸出停止を決定、有効な契約を締結している業者は8月1日まで取引を継続できるが、それ以降は取引が禁じられる見通しであり、錫やニッケル価格の上昇要因となっている。

錫供給の減少が現実のものとなれば、半導体その他のハイテク関連製品供給の障害となる。

3月の中国製造業PMIは51.9(市場予想51.6、前月 52.6)と市場予想、前月とも上回り、中国のペントアップ需要の顕在化が続いていることを確認する内容。

需要の指標である新規受注は減速(54.1→53.6)受注残も減少(49.3→48.9)、輸出向け新規受注も閾値の50は上回ったが、50.4(52.4)と大きく減速している。

また、投入価格も50.9(54.4)と急減速、卸価格も48.6(51.2)と減速している。このことは製造業に関しては需要面の回復が遅れていることを示唆している。

結局、ペントアップ需要の顕在化は続いているものの、1月・2月の勢いはなくなった見るべきではないか。

ただし、新規受注在庫レシオは完成品が0.924(0.935)、原材料が1.110(1.086)と完成品は余剰だが、原料が不足していることを示唆。渇水などの影響で国内生産が影響を受けていると見られ、短期的にはペントアップ需要と相まって、非鉄金属を含む工業金属価格を押し上げるだろう。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

3月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲19.0%の40万8,174トン(前月▲10.9%の40万9,514トン)と過去5年平均を下回り低迷した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲7.5%の202万1,293トン(前月+9.6%の228万トン)と過去5年の最高水準で推移している。

1-2月の中国の精錬銅生産は+14.3%の194万5,000トン(前月+8.1%の92万3,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。物流の問題などで発射台が低かった昨年から回復、水準も高い。

精錬品の輸入減少や銅精鉱の輸入減少は調達面の問題(在庫の低さ)を背景とするものである可能性が高く、製品生産が増加していることから、ペントアップ需要の顕在化が起きているものと見られる。

2月の銅スクラップの輸入は前年比+58.3%の17万3,825トン(▲20.3%の12万9,756トン)と過去5年の最高水準を上回った。休みの巡り合わせの影響も小さくない。

以上を考えると、中国の需要は政策的なテコ入れによって一時的に急回復していると考えられる。ただし、世界景気の減速やこれ以上、住宅バブルを発生させることはさすがに回避すると考えられることから、中期的な見通しは引き続き弱気だ。

週明け月曜日は、この数日の下落を受けていったん買い戻しが入るが、米金融引締め観測を材料とした米ドル高が進行していること、中国の景気回復の遅れから上昇余地は限定されるだろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

中国の週間在庫では鉄鋼製品在庫の水準が低く、鉄鉱石在庫日数は過去5年レンジを下回り原料炭主要輸入港である京唐港の石炭在庫も過去5年レンジを下回っている状況だが、それでも鉄鋼製品の価格を下げなければ鉄鋼製品が売れない状態にあるため、中国の景況感は市場の期待ほどのペースではないと考えられる。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲41万2,000トンの1,496万7,000トン(過去5年平均 1,739万3,000トン)と減少、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで進み、水準は過去5年レンジの下限。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲160万トンの1億3,170万トン(過去5年平均 1億4,141万6,000トン)、在庫日数は24.6日(▲0.3日、過去5年平均30.7日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。

原料炭在庫は▲20万トンの137万トン(185万8,000トン)、在庫日数は▲0.7日の4.8日(過去5年平均 7.8日)とこちらも、日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状態。

3月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が48.4(前月50.1)と減速した。しかし、新規受注は50.2(48.9)と増加しているため景況感の悪化というよりは完成品在庫(前月比▲11.7)、原材料在庫(▲13.2)の減少がヘッドラインの数値を下振れさせたと考えるのが妥当。

鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品レシオは1.13(0.87)と大幅に上昇、新規受注原材料レシオも1.31(0.95)と大幅に上昇しており、鉄鋼製品・鉄鋼原料の需給がタイトであることを示唆している。

しかし、輸出向け新規受注は42.1(49.8)と急減速しており、今回の需要が国内の需要(ペントアップ需要+地方政府財政を何とかしなければならない中での不動産市場のテコ入れ)に因るものと考えられ、中国の財政状況と、「更なる不動産バブルの発生を容認できるのか」という視点から考えれば、持続可能ではないとみている。

とはいえ、中国の建設業PMIは65.6(60.2)と統計が確認可能な2012年5月以降の最高水準となっており、しばらくはこの建設セクターの戻り需要が鉄鋼製品・鉄鋼原料需給をタイト化させ、価格を高止まりさせると考える。

3月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲32.6%の68万1,840トン(前月▲33.7%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

3月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+59.7%の789万トン(+70.2%の616万トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。

3月の中国粗鋼生産は前年比+8.4%の9,573万トン(前月+6.8%の8,437万8,000トン)と回復し、過去5年レンジを上回った。

国内の粗鋼生産を増加させ、輸入を減らし輸出に回していることが窺える。銅などは国内の需要がペントアップ需要の顕在化で増加していると考えられるものの、鉄鋼製品に関してはこの数字の上ではむしろ輸出増加で国内需要、不動産セクターの回復が遅れていることを示唆している。

中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

本日は、最終需要の弱さはあるが、鉄鉱石・原料炭とも在庫水準が低いため一定の在庫積増し期待があることから高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は大幅に下落した。米経済統計の改善を受けた実質金利の上昇、ドル高の進行を背景としたリスク・プレミアムの低下が材料となった。

銀価格は金価格の下落で水準を切下げ。PGMは株価が上昇したこともあって上昇。

足下、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇している。金のリスク・プレミアム上昇要因の主なところは、以下の通り。

1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めたこと2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念4.米国の債務上限問題を受けた格下げないしはデフォルト懸念

4.に関しては6月15日の米連邦税収が無事終了するまでは、債務上限問題や米国債の格下げ懸念がつきまとう。現在の金価格はこのリスクを織り込んでいると考えられ、6月15日のXデーを無事乗り切ることができれば、このプレミアムが剥落して水準を切下げるのではないか。

現在、実質金利で説明可能なポーション以上に、リスク・プレミアムの影響が大きい。

基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。

なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。

基準価格をざっくり1,000ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」はIMFベースであれば1,156ドル、WGCベースでは1,454ドルとなる。

簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,706ドル、WGCベースでは2,004ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。

恐らく信用リスク分は上述のXデーを過ぎれば剥落するため、過去5年平均程度である330ドル程度までの下落が想定され▲220ドル程度の下落要因となる。年後半の金価格の目線は1,785ドル程度、ということになろうか。

なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはほぼボリンジャーバンドの中心(移動平均)程度で推移しているがトレンド的には上昇方向にある。

現在のボリンジャーバンドの上限は94倍で、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落することになる。

週明け月曜日は手掛かり材料に乏しく、週末の大幅な下落の反動で上昇すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。ドルが続伸したことや、ウクライナの穀物輸出再開が材料となっている。

3月の中国の大豆輸入は前年比+7.9%の685万3,000トン(前月+38.3%の704万トン)と伸びが減速したが、高い水準を維持。

中国のリオープンや食肉需要の増加観測を受けて中国は大豆の港湾在庫を増加させている。現在661万4,920トンと過去5年平均を回復した。今後も季節的な在庫積増しが予想される。

週明け月曜日は手掛かり材料に乏しく、この数日の下落を受けた安値拾いの買いで上昇すると見る。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「アラビカ豆価格は下落へ~原油高騰時は高止まりか」

アラビカ豆価格(高級コーヒー豆の種類)は昨年末~今年の年初にかけて大きく水準を切下げて推移していた。

昨年12月に発表された米農務省の需給報告でも表作となる2022-2023年が記録的な減産となった2021-2022から生産量が改善し、大幅な京急過剰に転じるとみられていたこと、ブラジルの肥料価格の下落による生産コストの低下見通しが背景にある。

他の農産品と比較してエルニーニョ現象・ラニーニャ現象とコーヒー価格の相関は高くないが、コーヒーも2000年以降は他の農産品と同様、ラニーニャ現象の時に価格が上昇しやすい傾向があることは事実である。

今年についてもラニーニャ現象の影響で南米の主要生産地で洪水が発生するなど、異常気象の発生が生産地の生育環境を著しく毀損したことが原因で供給懸念が広がり、1月中旬から水準を切り上げ、4月に入ってからも上昇を続けている。

USDAの予想では今年は昨年の189万4,000袋から791万袋に供給過剰幅を大きく拡大する見通しだったが、最大生産国であり、最大輸出国であるブラジルの動向次第で供給過剰幅は縮小の可能性が高まっている。

特に、果樹が異常気象で影響を受けた場合、大豆や小麦といった一年草と比較して影響が長期にわたることが多いため、異常気象に伴う供給下振れリスクの影響は小さくない。

しかし、世界全体ではロシアのウクライナヘの軍事進行の影響で石油価格が上昇、肥料価格も高騰して生産に著しい支障が出た昨年ほどの価格上昇にはならないと考えられる。

他市場商品とアラビカ豆価格との価格相関性を見ると、実はWTI原油との相関性が高い。これは、生産に用いる肥料価格や燃料費などとの連動性が高いことが影響しているとみられる。

前述の通りブラジルのコーヒー生産者はロシアがウクライナ侵攻後もブラジル生産者向けに肥料供給を継続しているため、むしろ肥料価格の下落の恩恵を受けたが、世界の肥料価格とコーヒー価格の相関性は高く、ブラジル以外の国の肥料のコストは上昇しているとみるべきだろう。

一般的な理解として原油価格を期待インフレ率の指標として用いている市場参加者も多く、もちろん相関性を考慮しながらの取引にはなるが、「原油価格上昇/下落=商品価格上昇/下落」を前提として取引が行われている可能性が高い。

固有の需給ファンダメンタルズに大きな変化があった場合はこの限りではないが、大きな枠組(価格の絶対水準)を議論する場合には概ねこのフレームワークが機能すると期待される。

恐らく今年は異常気象の影響でアラビカ豆の需給はタイトな状態が続き、足下の原油価格もOPECプラスの自主減産によって「景気がよいにもかかわらず、価格が高止まりする」状態が続いていることから、上半期中はアラビカ豆価格も高値を維持するのではないか。

しかし原油価格はやはり景気動向に需要が左右され、価格もそれに従って変化しやすい。今のところ各国中央銀行の金融引締めは継続、仮にこれ以上金利を引き上げなかったとしてもインフレ退治のために金利が高止まりする可能性は高く、原油価格も下落が予想されることから、アラビカ豆価格も年後半に掛けて水準を切下げると予想される。

ただし、OPECプラスが頑なに生産を絞り続けた場合、あるいは一部で指摘され始めたように、OPECプラス諸国、特にロシアの供給能力が毀損して低下、生産量を維持できない場合、想定以上に原油価格が上昇する可能性はある。

また、西側諸国は脱炭素達成のために原油の増産を行っていないため、景気減速にもかかわらずエネルギーの価格が下がらず、インフレが続く「スタグフレーション」となる可能性も排除できない。この場合は景気減速でコーヒー豆需要の減少はあるものの、生産コストの上昇などからコーヒー価格も高止まりする恐れがある。


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