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軒並み悪化した米国の経済指標
  • MRA外国為替レポート

2023年4月10日号

◆先週の市場総括


先週は金融システム不安が緩和するなか焦点が景気動向に移った。そうしたなか米国の経済指標が軒並み弱く、景気先行き懸念が強まり、利上げ観測が後退。ドル金利先安感が強まり長期金利が大きく低下した。

ISM景気指数は製造業に加えサービス業が急速に悪化し、雇用関連指標はJOLT求人数、ADP雇用報告、週次の失業保険申請件数、いずれも弱かった。

米10年債は前週末の3.47%台から3.30%へ、2年債は4.03%台から3.78%台へ。

ドル円相場は週初に133円40銭近辺で始まり週央には一時130円60銭台に下落。その後は金曜日の祝日、ロングウィークエンドを前に円売戻し・ドル買い戻しで反発し引けは132円20銭。

雇用統計はやや弱い数字だったが事前の警戒感ほどではなく想定内で、米国株式債券市場が休場で換算のなかドルが買い戻された。

ユーロ円相場は144円台後半で始まり週央には142円台に下落。ただ後半は持ち直し144円台を回復して引けた。

ユーロドル相場は1.08台半ばから週央に1.09台半ばに上昇し週末は1.09ちょうど近辺。米国株は金利低下が支えとはなったが景気後退懸念が重石となり上値の重い展開。日経平均も週後半は下落し27,000円台半ばで引けた。

月曜日の東京市場では日経平均は続伸。1ヵ月ぶりの高値で引けた。週末の米国株が堅調だったことで幅広く買われた。低PBR株に買い。東証がPBR1倍割れ企業に改善計画を要請したことが材料。

一方短観での企業景況判断悪化は重石。引けは前週末比+146円高の28,188円。

日銀短観(3月調査)は大企業製造業の現状判断DIが前回7から予想3に対し1に悪化。先行き判断は6から3に悪化。一方、非製造業は現状判断が19から20へ、先行き判断が11から15に改善した。中小企業も同様の傾向。

中国の財新製造業PMI(3月)は前月51.6から50.0に悪化したが辛うじて景況感の分かれ目を維持した。ドル円相場は週末のOPEC減産、原油価格急騰を受けて円安で始まった。

133円40銭で高寄り。その後は仲値にかけ円高に振れて132円80銭。ただすぐに反発し午後から東証引け後、欧州市場前にかけて133円70銭台に反発した。

ユーロ円相場は144円80銭で高寄りしたあと143円80銭近辺に反落。その後は欧州市場にかけて144円60銭~80銭。ユーロドル相場は1.0850で始まり午後にかけて1.0790に下落。ただ欧州市場から米国市場にかけては一貫してユーロ高ドル安が進んだ。

ドル円相場も反落。発表された米国のISM製造業景気指数(3月)が弱く132円20銭まで大きく下落した。ユーロドル相場は1.0920へ上昇。その後はドル安一服となりドル円相場は132円台半ばを中心に上下して引けは132円40銭。

ユーロドル相場は1.09ちょうど近辺。ユーロ円相場はドル安円高に押されて143円90銭に下落して引けは144円40銭。

ISM製造業景気指数(3月)は前月47.7から47.5へ小幅悪化予想に対し46.3と大幅悪化。雇用指数は49.1から46.9へ、新規受注指数は47.0から44.3へ、価格指数は51.3から49.2へ、いずれも悪化した。

原油価格WTI先物は産油国の大幅減産決定で急騰。一時81ドルをつけて80.43ドル。

米国株はまちまち。エネルギー関連株は大幅高となったが、景気悪化懸念から景気敏感株は下落。NYダウは+327ドル高の33,601ドル、ナスダックは▲32ドル安の12,189ドル。

米長期金利は低下。10年債は3.417%。2年債は大幅に低下して3.968%と4%を割り込んだ。

火曜日の東京市場では日経平均は小幅高。3営業日続伸。ダウ堅調は支えとなったが、ディフェンシブ銘柄やエネルギー関連が中心。米景気懸念は重石。利益確定売りが上値を抑えた。引けは+99円高の28,287円。

ドル円相場は132円40銭で始まり底固く午後には90銭台に上昇し70銭~90銭近辺で上下。欧州市場にかけてはユーロ高ドル安に押されて132円50銭に押し戻された。

ユーロ円相場は144円40銭で始まり欧州市場にかけて堅調。145円40銭まで上昇した。ユーロドル相場は1.09ちょうど近辺で始まり1.0880にじり安のあと欧州市場にかけて派の圧し1.0930近辺へ。

その後ドルは反発しドル円相場は133円10銭へ持ち直し、ユーロドル相場は1.0890へ反落。米国市場に入るとドルは大幅下落。円高が進んだ。

発表されたJOLT求人数(2月)は前月10,824千人から10,400千人への減少予想に対し9,931千人と大幅に減少。1千万人割れ。2021年5月以来の低水準となった。

製造業新規受注(2月)も前月比▲0.7%の減少。米景気急減速との見方が強まり、追加利上げ観測が後退。米長期金利は大幅に低下した。10年債は3.48%台から3.34%へ。2年債は4.03%から3.82%へ。

ドル円相場は131円50銭に急落。ユーロドル相場は1.0970へ上昇。円は対ユーロでも上昇し、ユーロ円相場は144円ちょうどまで下落した。その後ドル安円高は一服。ドル円相場は131円70銭で引け。

ユーロドル相場は1.0960。ユーロ円相場は144円30銭。ドルインデックスは101.59ポイントまで下落した。

米国株は景気悪化観測が強まったことで下落。NYダウは▲198ドル安の33,402ドル。ナスダックは▲63ドル安の12,126ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅安。4営業ぶりに反落し28,000円の大台を割り込んだ。米国景気への懸念、米国株安で売り優勢。ドル安円高で輸出関連株も軟調。一時▲500円近く下落した。引けは▲474円安の27,813円。

ドル円相場は131円70銭で始まり40銭~50銭に下落。昼頃には80銭に反発したが夕刻、欧州市場にかけて下落基調となり131円20銭近辺に下落した。

ユーロ円相場も144円30銭で始まりドル円相場と同様の値動きで上下し夕刻にかけては143円70銭に下落した。ユーロドル相場は小動き。1.0950台で始まりもみ合い。

アジア時間にはニュージーランド準備銀行(RBNZ)が予想0.25%を上回る0.50%の利上げを実施し政策金利を4.75%から5.25%へ引き上げた。

欧米市場では前日に続きさらに円高が進んだ。

PMIサービス業景気指数(3月確報)は速報から下方修正。ユーロ圏は55.6から55.0へ。ドイツは53.9から53.7へ。

米国ではADP雇用報告(3月)が発表され、雇用者数前月比は前月+242千人から予想+210千人を大きく下回る+145千人増にペースダウン。前日に続き労働市場が緩和したとの見方が強まった。

ISM非製造業景気指数(3月)は55.1から54.6への小幅悪化予想に対し51.2へ大幅悪化。雇用指数は54.0から51.3へ、新規受注指数は62.6から52.2へ大幅悪化、価格指数は65.6から59.5へ大きく低下した。

軒並み弱い指標が示され景気後退が強く意識された。

米10年債利回りは一時3.2%台半ばまで低下、2022年9月以来の低水準に低下し引けは3.31%。2年債は3.79%まで低下。

ドル円相場は130円60銭台まで大幅に下落し、引けは戻して131円30銭。ユーロ円相場もリスク回避による円高で142円80銭まで下落し引けは143円20銭。

ユーロドル相場は1.0960をつけたあと米国時間引けにかけては1.09ちょうど近辺に下落し引けは1.0910。

米国株はまちまち。ディフェンシブ銘柄は強く、景気敏感株、消費関連株は売り優勢。景気悪化がサービス業を含む広い分野に広がったとの見方、ハイテク企業も影響を受けるとの見方が強まった。

NYダウは+80ドル高の33,482ドル。ナスダックは▲129ドル安の11,996ドル。原油価格WTI先物も景気悪化懸念から下落し80.61ドル。

木曜日の東京市場では日経平均は続落。前日の米国市場で景気敏感株、ハイテク株が売られたことで東京市場でも売り優勢。米国の経済指標が軒並み悪かったことから景気悪化懸念が重石となった。引けは▲340円安の27,472円。

ドル円相場は131円30銭で始まり朝方130円80銭~90銭に下落。しかしその後は反発してじり高。欧州市場では131円50銭まで上昇し20銭~40銭で上下した。

ユーロ円相場は143円20銭で始まり朝方142円60銭に下落したあと反発。夕刻、さらに欧米市場にかけて一貫して上昇。夕刻は143円50銭。

ユーロドル相場は1.0910で始まり1.09を中心に横ばいもみ合い小動き。夕刻は1.0920近辺。米国で発表された雇用関連指標はこの日も弱かった。

チャレンジャー人員削減数(3月)は前月77,770人から65,000人程度への減少予想に対し89,703人に増加。

週次の失業保険新規申請件数は前週が198千人から246千人に上方修正され当該週は228千人。継続受給者数は前週が1,689千人から1,817千人に上方修正され当該週は1,823千人。

米長期金利は小幅ながらさらに低下。10年債は3.301%、2年債は3.785%。ただ金曜日が休場となるなか雇用統計の発表を控え、ポジション調整の円売りが嵩んだ。ユーロ円相場は144円ちょうどまで上昇して引けは143円80銭。ドル円相場は131円90銭に上昇して60銭~80銭で推移して引け。

ユーロドル相場は1.0940へ上昇したあと引けは1.0920。米国株もポジション調整でまちまちの動き。株安は一服。NYダウは+80ドル高の33,482ドル。ナスダックは▲129ドル安の11,996ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅高。3営業日ぶり反発。大幅下落のあとの週末で自律反発狙いや値ごろ感の買いが入った。ただ雇用統計発表を控え徐々に様子見姿勢が強まった。引けは+45円高の27,518円。

ドル円相場は131円70銭で始まり60銭~90銭で上下動し夕刻は131円90銭。ユーロ円相場は143円80銭で始まり70銭~144円ちょうどで上下し夕刻は144円ちょうど。

ユーロドル相場は1.0920で始まりほぼ動かずもみ合い。米国市場が休場となり商い閑散となるなか注目の米雇用統計(3月)が発表された。

非農業部門雇用者数前月比は前月が+311千人から+326千人に上方修正され当月は+236千人。失業率は前月3.6%から3.5%に小幅低下。平均時給前月比は+0.2%から+0.3%へやや加速、ただ前年同月比は+4.6%から+4.2%へ鈍化した。

総じて労働市場の需給がやや緩和したことを示したが失業率が低下したことは強めとの見方もありまちまち。

ドル円相場は131円70銭から132円40銭へ上昇し132円ちょうどに反落したあと動意なく引けは132円20銭。ユーロドル相場は1.0920から1.0880に下落したあと1.0910へ戻し引けは1.09ちょうど近辺。ユーロ円相場は144円20銭に上昇したあと144円ちょうどに反落したが引けは144円20銭近辺。

米国株式・債券市場は休場。

◆今週の3つの注目ポイント


1 FOMC議事要旨

水曜日(日本時間木曜日未明)にFOMC議事要旨(3月21日・22日開催分)が公表される。

同会合は米国で地銀の破綻に端を発する金融システム不安が高まったあとの開催で、パウエル議長は会見で利上げ見送りを議論したことを明らかにした。

声明文ではタカ派姿勢が弱まり、継続的な利上げが適切、との表現は、あといくらかの利上げが必要かもしれない、に変化した。

議事要旨で実際に利上げ見送りがどのように議論されたのか。利上げ打ち止めに向けた議論はどうか。景気物価見通しに変化はあったか。ハト派スタンスがあらためて確認されれば、ドル安に反応する可能性がある。

2 米国の経済指標

3月の指標が発表されはじめる。まだ金融システム不安の影響は顕在化が十分ではないとみられるが、景気物価動向に弱さがみられるか。

水曜日 消費者物価指数(3月、前月比、予想+0.3%、前月+0.4%、前年同月比、予想+5.2%、前月+6.0%コア指数、前月比、予想+0.4%、前月+0.5%、前年同月比、予想+5.6%前月+5.5%)

木曜日 生産者物価(同、前年同月比、予想+3.2%、前月+4.6%)米週間新規失業保険申請件数

金曜日 小売売上高(同、前月比、予想▲0.4%、前月▲0.4%) 鉱工業生産(同、予想+0.3%、前月+0.0%) ミシガン大学消費者信頼感指数(4月速報、予想61.8、前月62.0)

3 日本の国際収支

月曜日に国際収支(2月)が発表される。1月の経常収支は▲1兆9,770億円と過去最大の赤字で2兆円の赤字に迫った。

貿易赤字は▲3兆1,820億円と3兆円を超える巨額に。季節要因もあるが、これが2月にどこまで改善したか。経常収支は黒字+2兆5,150億円と予想されている。

貿易収支は▲5,180億円に急減する予想。原油価格の調整と円安一服で輸入金額は減少傾向がみられるが、経常収支全体の改善が示されるか。

◆今週のMRA's Eye


軒並み悪化した米国の経済指標

先週に発表された米国の経済指標は軒並み弱い数字となった。製造業の苦戦はすでに周知のことだが、サービス業や雇用情勢は堅調で、FRBがなおも引き締めを強化する根拠とみられてきた。しかしそのサービス業や雇用情勢に弱さが確認された。

ISM景気指数(3月)は、製造業が前月47.7から46.3へ予想以上に低下し景況感の分かれ目である50を下回ったままさらに悪化した。

雇用指数は49.1から46.9へ。新規受注指数は47.0から44.3へ、価格指数は51.3から49.2へ。製造業の景況感は悪化し続けている。

一方で堅調だったサービス業にも翳りがみえた。

非製造業(3月)は55.1から54.6への小幅悪化予想を大きく下回る51.2へ。雇用指数は54.0から51.3へ、新規受注指数は62.6から52.2へ、価格指数は65.6から59.5へ2020年7月以来の水準に低下した。

PMI景況感指数(3月)も改定値は速報から下方修正。サービス業は53.8から52.6となった。

雇用関連の指数も軒並み弱かった。JOLT求人数(2月)は前月10,824千人から9,931千人へ減少し1,000万人割れ。2021年5月以来の低水準となった。

ADP雇用報告(3月)の前月比雇用者数増減は前月+242千人から+145千人に減速。チャレンジャー人員削減数(3月)は前月77,770人から89,703人に急増。

週次の失業保険新規申請件数は前週が198千人から246千人に大幅上方修正となり、当該週は228千人。継続受給者数も前週の1,689千人が1,817千人に上方修正され当該週は1,823千人。

そして週末の雇用統計(3月)は非農業部門雇用者数前月比が前月+311千人が+326千人に小幅上方修正されたが、当月は+236千人に減速。民間部門に限れば前月+266千人から+189千人に減速した。

平均時給・前年同月比は前月+4.6%から+4.2%に上昇率が低下。唯一、失業率は前月の3.6%から3.5%に低下したことが強い数字だった。ここまであらゆる経済指標が弱さを示すのは珍しい。

3月のマインド指数は金融システム不安を反映しているとみられる。

一方、実数値は金融システム懸念の発生をまだ十分に反映していないと考えられる。

FRBが景気物価動向をどう判断するか。サービス業や雇用の堅調を背景とするインフレ圧力を理由に利上げを継続してきたが、直近の数字にはその堅調にも変化がみられる。利上げ継続スタンスに逆風であることは疑いないところ。

3月のFOMC声明文では利上げスタンスに明確な変化がみられた。

文言は、継続的な利上げが適切、から、いくぶんかの利上げが必要かもしれない、と変化していた。その後、当局者の発言では、金融システム混乱は鎮静化しており、インフレ抑制のための利上げがなおも必要、との意見が多かった。

しかし直近の数字を踏まえれば、5月2日・3日の次回会合で利上げが実施されるかどうか五分五分となってきたのではないか。

仮に実施されても0.25%は確実。これでFOMCメンバー予測のターミナルレート、政策金利の最終到達水準に一致する。さらに利上げ加速する状況にはないことから6月中旬には利上げ見送りで、5月が打ち止めとなる可能性が高い。

問題は利下げに転じるタイミング。当局者からはなおも年内は金利据え置きとの意見が多い。これはFOMCでの金利見通しを反映する。

しかし市場は夏場からの利下げを予想しており、年末にかけては1%ほどの利下げを予測する。そのギャップがどう埋まるかが焦点だ。

直近の数字は急速な利下げが必要とまでは示していないが、このままいけば10-12月に利下げが行われる可能性は現実的だ。消費支出価格指数は2月に総合指数で前年同月比5.0%、コア指数で4.6%まで低下した。

現在のFF金利5.0%を下回る。実質金利はプラスに転じた。今後も賃金上昇率の鈍化、景気悪化、インフレ率の低下がみられれば、追加利上げは必要なく、また景気悪化が続くようなら、インフレ鈍化に並行して金融緩和というよりも調整利下げを行う可能性が高いだろう。

ドル円相場はなおも米長期金利動向と相関が高い。市場の金利先安感が覆される明確な証拠、強い経済指標がなければ、市場の金利感は覆らないだろう。FRBの金利見通しとのギャップが開いたまま推移する可能性が高い。

利上げ打ち止めとなれば、市場としては我が意を得た、となる。

また景気悪化・インフレ鈍化を示す経済指標が続けば、FRBの金利据え置き見通しへのチャレンジとなる。

先週末にみられたように、予想ほど悪くない経済指標によって一時的にドル売り円買い・ドル安円高が巻き戻される場面もあるだろう。

しかし中期的にみればドル安円高見通しを覆すまでの材料が整う可能性は低い。じわじわドル安円高方向に水準を切り下げていく展開をメインシナリオとして想定する。

ドル高に振れるリスクは米国景気が勢いを取り戻し、あるいはインフレ鈍化がなおも捗々しくなく利上げ継続となるケース。利下げが遅延するだけでは、ドル高円安とはならず、現状維持横ばい圏推移となりそうだ。

ドル安円高が想定以上に進む場合は、米国景気の急速な悪化や日米景況格差の日本優位の明確化、日銀の金融政策修正が急ピッチとなる場合か。


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