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米景気への楽観で上昇
  • MRA商品市場レポート

2023年5月8日 第2450号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米景気への楽観で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場はエネルギーが特に上昇し、その他の非鉄金属などの商品も上昇、下落したのは自国通貨建て商品と発電燃料の一角だった。

米雇用統計(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)が市場予想を上回る改善となり、失業率も低下するなど「景気が回復している」ことを意識させる内容であり、かつ、FRBの利上げも5月で終了となる見通しであることが、広く買い戻しを誘った。

結局、インフレを抑制するためにFRBが行っている金融引締めが期待した通りの成果を収めていないことが明らかになっており、かつ、「今景気が悪くなっているわけではない」として株には楽観した買いが入り、それに伴いリスク資産には買い戻しが入る形となった。

しかし、この状況であれば高金利維持はもちろん、追加利上げの可能性も否定できないことから足下の売られすぎが修正され、その後の下落リスクをさらに高めるものと整理するのが妥当ではないか。

それに対して市場の期待と異なるのが中国の回復。直近のPMIなどは顕著な悪化が見られており、政策による景気回復は期待ほどではない。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った新規手掛かり材料に乏しいが、「米国の景気は悪くなっていない」との楽観が再び強まっていることから、広く買い戻しが続く展開を予想する。

エネルギー価格が上昇する局面では、期待インフレが高まるため、結果、インフレ系の資産は上昇しやすくなる。これは非鉄金属や穀物などでも概ね同じ結果となる。

現状を整理すると、「米国はFRBの見通しに反して良好、中国は期待に反して悪化」ということだろう。となるとエネルギーには買い戻しが入り、工業金属は原油高が買い戻しを誘うものの、下落余地が拡大していると言えるのではないか。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米雇用統計は非常に良好な内容だった。雇用者数は前月比+25.3万人(市場予想 +18.5万人、前月+16.5万人)と増加。ただし、前月の雇用者数が▲7.1万人下方修正されているため、前月比ではほぼほぼ予想通りではある。

しかし、雇用者数が想定以上のペースで増加していることは間違いがない。雇用者数の増寄与が大きい業種は教育・ヘルスサービスで前月比+7.7万人(増加寄与度+30.4%)であり、全業種に占める雇用者数のシェアは16.1%と最も大きなセクターだ。

次いで寄与が大きかったのは専門・事業サービスで+4.3万人(寄与度+17.0%、雇用者シェア14.7%)、宿泊・娯楽(+12.3%、+10.6%)となった。

前月から雇用者数が減少しているのは「一時サービス」のみであり、その他は全て増加している。特に、専門・事業サービスに至っては、雇用者数の増加が前月から加速している。

これまではサービス業の雇用増加が雇用市場をタイト化させているという解釈であったが、製造業も増加寄与度は+13.0%(シェア13.8%)と大きく、米国の雇用市場全体、堅調であることを示唆する内容。

また、労働参加率も62.6%(前月62.6%)と高止まり、失業率に至っては3.4%(市場予想3.6%、前月+3.5%)と低下している状況で、仮にフィリップス曲線が機能しているとすれば、インフレ率は5.5%程度までの上昇余地があることになる。

この状況だとFRBは追加利上げの可能性もゼロではなくなる。今のところ5月の利上げでいったん停止、様子見がメインシナリオではあるが、6月FOMCでの利上げの可能性は、Fed Watchベースでは8.5%に止まる。

しかし、雇用統計発表前までは追加利上げは±0.0%、むしろ利下げの可能性を9.2%ほど織り込んでいたため、市場参加者もスタンスを変えざるを得なくなったのではないか。

しかし、求人関係統計は決してよくはない。JOLT求人も3月が直近となるが求人数は減少を続けている。米中小企業雇用計画と求人数は昨年春頃をピークに減少傾向となっている。ただ、求人数の水準が鈍化傾向になっただけであり、まだ景気が後退している訳ではない。

しばらくは景気循環系商品価格に買い戻し圧力がつよまりつつ、タカ派な金融政策見通しが価格上昇を抑制する、という展開になるのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米雇用統計が良かったから、というよりも5月1日以降、発表されている米統計の改善が続き、この数日の金融危機を景気とする下落が行き過ぎとの見方から修正買いが入ったためと考えられる。

弊社は年末にかけての景気減速を前提に価格が下落するとみているが、このタイミングでのここまでの下落は想定していなかった。やや市場が金融市場の先行きを過剰に不安視していると考えられる、

しかし、この数日で確実になったのは米雇用市場は堅調であり、その結果消費の落ち込みもまだ目立ったものが見られず、インフレが十分抑制されていない点だ。そのため、足下の楽観から原油には売られすぎからの買い戻しが入りやすい。

しかしFRBは政策金利を高値維持するか、追加利上げを実施するかが選択されると考えられ、先行きの下落リスクはむしろ高まっている。下期に掛けてノンバンクも含めた金融機関の経営環境の悪化、それに伴う信用収縮の懸念を指摘する向きも多い。

景気のソフトランディングに成功すれば供給能力の制限から年後半か来年以降、急速に価格が上昇するシナリオ、金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗、価格が急落する、の両方のリスクに晒されている状態。

前者の場合、OPECプラスの減産や非OPECプラス諸国の上流部門投資が不充分であること(脱炭素に加えて、金利高の影響もある)から、2024年の価格上昇は弊社が想定しているよりも大きなものになる可能性はある。

後者の場合、供給能力の制限から思ったほど価格は下落せず、「スタグフレーション」となる可能性も有り得る。

3月の中国の原油輸入は前年比+22.5%の5,230万8,000トン(前月+12.1%の4,074万トン)と伸びが加速した。中国のリオープンが顕在化し始めたと考えられる。

一方、石油製品は輸入が前年比+110.0%の389万5,000トン(+40.1%の290万トン)とこちらも大幅に加速、輸出は+33.9%の545万トン(+91.7%の621万トン)とやはり加速している。

直近のWTI投機筋のポジションは5月2日時点でWTIがロングが前週比▲94枚、ショートが+21,499枚とネットロングが減少。

Brentは5月2日付けのCOTレポートで、ロングが▲42,383枚、ショートは+27,014枚とネットロングが大幅に減少している。

いずれも新規ショートポジションの積み上げによる下落であり、早晩ポジション解消で上昇に転じるマグマが溜まっていると考えるべきである。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、米統計の改善が金融政策引締めによるリスク回避よりも純粋に「景気がよい」と判断されている可能性があり、引き続き買い戻しが入るものと予想。

ただし、政策金利の更なる引締め観測も少しずつ高まっているため、上昇余地も限定されよう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落した。供給面に大きな障害が生じていない中で凪のシーズンであり期近の動きは鈍い。一方、冬場は高い水準を維持している。

冬場に向けた在庫積増しが始まっているが、弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。

逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。

また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。

ただし昨年に比べれば景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていること、ロシアも原油価格・ガス価格下落による財政状況の悪化が懸念されるため更なるガス供給の削減は常識的に考えて難しいことから、気温の低下がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。ロシアのLNGが第三国経由で欧州に流入することを想定した場合は2025年頃に脱ロシアが完了する。実際はこの中間で2026年頃に脱ロシア完了となるのではないか。

このことは、2026年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

3.4.は顕在化している。

5.は「凪」のシーズン。恐らく今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は冷夏となる見通し。ただしエルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、冬場のリスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は2026年頃までは上昇、その先は小幅に水準を切下げている。足下、ガス供給の増加もあって米天然ガスの期近の水準はヒストリカルに見ても緩和(コンタンゴが拡大)している状況。

直近限月と半年先のスプレッドを見ると、現在の水準はコロナショック後の2020年7月の水準であり、ヒストリカルに見ても足下の現物需給が緩和していることが窺える。

米国のガス生産と需要を見ると、生産は過去5年レンジを上抜けている一方、需要はやや低迷している。気温と景気の影響が出ているものとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物期近は全ゾーンほぼパラレルに上昇した。大幅な上昇ではなく小動き。

3月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+11.2%の887万トン(+0.9%の866万トン)と過去5年の最高水準を上回り、中国の経済活動が再開していることをうかがわせる内容。

3月のLNG輸入は前年比+15.9%の536万3,000トン(前月+7.1%の652万トン)と高い水準を維持した。

3月のパイプラインベースの輸入は前年比+4.6%の351万トン(▲7.1%の345万トン)とこちらも輸入は増加した。

中国国内の天然ガス生産は3月は±0.0%の1,448万5,000トン(1-2月累計+7.0%の2,926万5,000トン)と過去5年の最高水準となった。

3月の中国の電力消費量は前年比+6.1%の7,369億kwh(前月+11.5%の6,950億kwh)と伸びが減速した。回復はしているもののそのペースは緩慢と見られる。

天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。

中国国内の渇水による水力発電の停滞観測から、ガスや石炭などの代替燃料の需要は今後も旺盛とみられ、景気減速下でも需要は底堅いと予想される。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧米の圧力による輸入禁止よりも、欧米企業がメンテナンスから撤退していることによる中長期的な供給途絶のリスクの方が大きいだろう。

4月23日時点の日本の発電用LNG在庫は256万トン(前年同月末196万トン、2018~2022年平均235万3,900トン)と過去5年の最高水準に近く、在庫の水準は十分か。

しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。

また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

週明け月曜日も新規手掛かり材料に乏しい中、現状水準を維持と考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物はまちまちだったが、全体として小幅に水準を切り上げた。一方、API2石炭は水準を切り上げた。風力発電の低下で代替燃料である石炭が物色されたと考えられる。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

しかし、期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度であることを考えると、実際は165~200ドルが説明可能なレンジか。

2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けて価格上昇リスクは小さくないとみる。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

そろそろ夏場を意識した調達が本格化するため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

実際、豪州炭の週間輸出動向を見ると、日本と中国の輸入量が増加し始めており、夏場に向けた動きが出始めたと考えられる。

3月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+150.7%の4,116万5,000トン(前月+159.8%の2,917万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。

昨年のロシアの軍事侵攻による物流の停滞から輸入は減少していたため発射台が低かったこともあるが、中国のリオープンと豪州に対する制裁解除や国内の渇水の影響で輸入が増加したものと考えられる。やはり、この国の発電燃料は石炭なのだ。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されるのではないか。

3月の中国の石炭生産は、前年比+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日(1-2月+6.9%の7億3,400万トン、1,245万トン/日)と伸びが減速している。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を下回っているが、豪州炭の輸入再開の影響でその必要性が低下したこと、発電需要の伸び鈍化が影響したと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

週明け月曜日も、凪のシーズンであることもあり現状水準維持と考える。ただし、インドの熱波の影響による石炭調達増加の可能性があること、北アジアも気温が上昇していること、中国の渇水といった石炭調達の切っ掛けとなる材料は多く、底堅い推移に。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は為替に左右されながらも、水準を切り上げる展開となった。

ここまでの調整幅が大きく、割安感が出ていること、米国の景気への懸念が後退しむしろインフレ懸念が高まる中「まだ景気は悪くなっていない」としてリスク選好の買いが入ったためと考えられる。

年初に期待されていたような中国の需要の大幅な回復が価格を支える、というよりは減速が見込まれていた米国の景気が、FRBの期待していないタイミングで底入れし、かつ、今月でFOMCでの利上げは終了するとの期待感が、リスク選好の買い戻しを誘っていると考えられる。

ただし、最大消費国である中国の景況感は決して良い訳ではない。4月の中国製造業PMIは49.2(市場予想 51.4、前月 51.9)と市場予想、前月とも下回り、中国のペントアップ需要の顕在化が一巡した可能性があることを示唆する内容となった。

中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度(▲1.44)が大きく、次いで、生産(▲1.10)、雇用(▲0.18)の寄与度が大きかった。

景気回復局面では新規受注が生産を促し、雇用に繋がるという過程を経ることが多いが今回は明確に新規受注に減速がみられ、今回の回復がペントアップ需要の顕在化による一時的なものである可能性が高まった。

実際、輸出向け新規受注の減少が▲2.8に止まる一方、新規受注全体では▲4.8となっており、輸入も48.9(前月50.9)と▲2.0の低下となっており「国内の新規受注が低迷」していることを示唆している。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(1.083)、原材料が1.019(1.110)と両方とも低下しているが、完成品は閾値の1を下回っている。生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は49.4(49.5)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」にあるとみられる。規模別の製造業PMIも全ての規模で閾値の50を下回っており、やはり世界景気の減速を受けて景況感は減速する可能性が高いと見るべきだろう。

3月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲19.0%の40万8,174トン(前月▲10.9%の40万9,514トン)と過去5年平均を下回り低迷した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲7.5%の202万1,293トン(前月+9.6%の228万トン)と過去5年の最高水準で推移している。

3月の中国の精錬銅生産は+10.8%の104万5,000トン(1-2月+14.3%の194万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

精錬品の輸入減少や銅精鉱の輸入減少は調達面の問題(在庫の低さ)を背景とするものである可能性が高く、製品生産が増加していることから、ペントアップ需要の顕在化が起きているものと見られる。

3月の銅スクラップの輸入は前年比+18.4%の17万7,571トン(前月+58.3%の17万3,825トン)と過去5年平均を上回っている。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

週明け月曜日は、米国の景気が「まだ」減速せずむしろ拡大基調に戻ったのではとの楽観から株が上昇しやすく、これまでCOTレポートでも確認されているようにLME非鉄金属の投機筋のネットショートが増加していることから、これらのポジションに買い戻しが入り上昇余地を探る動きになると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

GW明け後の中国鉄鋼市場は動きが緩慢であり、中期貸出制度の緩和などの期待もあったがそれも見送られていることから、建設業の活動は鈍い。結果、鉄鋼製品価格が下落し、鉄鋼原料価格も上昇している。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+5万9,000トンの1,457万2,000トン(過去5年平均 1,596万3,000トン)と増加、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで進んでいたが減少ペースが鈍化し、徐々に過去5年平均に水準は近づいている。。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲60万トンの1億2,920万トン(過去5年平均 1億3,832万6,000トン)、在庫日数は24.9日(+0.7日、過去5年平均29.6日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+9万トンの139万トン(175万2,000トン)、在庫日数は+0.3日の4.8日(過去5年平均 7.3日)とこちらも、日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状態。

4月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が45.0(前月48.4)と減速した。新規受注の落ち込みが特に顕著(50.2→39.9)だが、輸出新規受注は55.5(42.1)と増加していることを勘案すると、国内需要が急速に減少している可能性があることを示唆。

実際、中国の棒鋼先物価格は4月末時点で前年比▲29.4%(前月末▲19.1%)と低下しており、前月比ベースでも下落している。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況にあると考えられる。

鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品レシオは0.87(1.13))と大幅に低下、原材料レシオも1.02(1.31)と急低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和。

これまでの需要は政府のテコ入れによるものと考えられるが、それが剥落している状況。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではないといえる。

とはいえ、中国の建設業PMIは63.9(65.6)と減速してはいるものの、非常に高水準を維持しており、恐らく不動産在庫の削減は進むと期待されるため当面、回復感は持続すると考えられる。

3月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲32.6%の68万1,840トン(前月▲33.7%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

3月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+59.7%の789万トン(+70.2%の616万トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。

3月の中国粗鋼生産は前年比+8.4%の9,573万トン(前月+6.8%の8,437万8,000トン)と回復し、過去5年レンジを上回った。

国内の粗鋼生産を増加させ、輸入を減らし輸出に回していることが窺える。銅などは国内の需要がペントアップ需要の顕在化で増加していると考えられるものの、鉄鋼製品に関してはこの数字の上ではむしろ輸出増加で国内需要、不動産セクターの回復が遅れていることを示唆している。

中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

週明け月曜日は、中国の国内の最終需要の回復の遅さから鉄鋼製品価格が低調な推移になると予想されるため、鉄鋼原料価格も下落すると考える。ただし、在庫不足による積増し需要も認められるため、水準自体はそこまで大きく調整しないのではないか。

◆貴金属

昨日の金価格は長期金利上昇に伴う実質金利の上昇を受けて水準を切り下げた。銀も下落、プラチナ・パラジウムは株価上昇を受けて水準を切り上げた。

足下、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇している。金のリスク・プレミアム上昇要因の主なところは、以下の通り。

1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと

2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと

3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念

4.米国の債務上限問題を受けた格下げないしはデフォルト懸念

4.に関しては6月15日の米連邦税収が無事終了するまでは、債務上限問題や米国債の格下げ懸念がつきまとう。現在の金価格はこのリスクを織り込んでいると考えられ、6月15日のXデーを無事乗り切ることができれば、このプレミアムが剥落して水準を切下げるのではないか。

各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。

なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。

基準価格をざっくり1,000ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」はIMFベースであれば1,156ドル、WGCベースでは1,454ドルとなる。

簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,706ドル、WGCベースでは2,004ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。

恐らく信用リスク分は上述のXデーを過ぎれば剥落するため、過去5年平均程度である330ドル程度までの下落が想定され▲220ドル程度の下落要因となる。年後半の金価格の目線は1,785ドル程度、ということになろうか。

なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限まで低下しており、トレンドは低下方向に転じている。米統計の底入れを受け、景気への楽観が実需増加期待を高めているためと考えられる。

現在のボリンジャーバンドの下限は74倍で、この水準までの低下があると28ドルまで価格は上昇することになる。

週明け月曜日は、新規手掛かり材料に乏しい中、米景気への楽観から金利に上昇圧力がかかるため、軟調な推移を予想。

景気への楽観(といえるほどの状況ではないか)を材料に金銀レシオが低下し、銀価格は上昇余地を探るか。PGMも株高で上昇へ。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇。原油価格の上昇や、国連副報道官が黒海の穀物輸出に向けた協議で合意に至らなかったと発言したことが、供給懸念を高めた事が背景。

今年はラニーニャ現象が収束したものの、北米の生産地はラニーニャ現象の影響が残存して播種に影響が出ていると見られ、価格の上昇要因となっている。

週明け月曜日は原油に買い戻しが入ると予想される中、地合は上向きで、かつ、クレムリンへのドローン攻撃などを材料にロシアが穀物輸出延長を見送る可能性が材料とされているため、堅調な推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「残る冬場のガス価格高騰リスク」

欧州のガス+LNG在庫水準は高く、同じ時期の過去5年の最高水準で推移している。

ロシアからのパイプラインでのガス供給はキャパシティの20%程度に低下したが、昨年から加速したロシア産ガスからLNGヘのシフトが速やかに進んでいること、記録的な暖冬の影響によって家庭用のガス需要が減少したこと、景気の減速や価格高騰を背景に欧州から別の地区ヘの産業のシフトによる需要減少がじわりと出始めていること、などが在庫積み上がりの背景にあると考えられる。

年初来のLNGの輸送動向を見ると前年から+475万8,000トン(+3.5%)の増加となっている。全体では、東ロシアからの輸出が▲70万7,000トンの減少、アフリカが▲26万1,000トンの減少となったが、アジア太平洋(+164万3,000トン)、中東(+57万7,000トン)、ノルウェー(+152万6,000トン)の増加がこれを相殺した。特に増加が顕著だったのが北米で、+173万3,000トンとなっているが、地中海欧州(▲217万6,000トン)、日中台韓(▲49万9,000トン)で減少しているが、東西欧州向けが+298万4,000トンと増加してこれを相殺している。※本稿執筆時点で取得可能なデータを元にした。なお、北米からの輸出の合計と主要地域向けのLNGの合計に齟齬が発生しているが、全体の輸出入の方向性と地域毎の輸出入の方向性を把握することがより重要であること、データ元もこれ以上のデータを開示していないことから全体の数字と個別地域の数字の積み上げの差を「誤差調整項」として処理している。

ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する制裁とその報復でスポットベースのガス価格は急騰していたが、市場が想定していた以上にLNG市場の柔軟性があったこと、ロシア産のLNGの輸出は欧州向けも含めてまだ継続していること、といった供給面での懸念がやや後退したことから熱量ベースのガス価格は原油価格で説明可能な水準まで低下している。

供給面に大きな障害がない状態だと、スポットLNGの極東指標であるJKM価格はBrent価格と連動して動きやすい。2018-2022年の過去5年の季節性の平均を元にBrent/JKMレシオを推計すると、今年の年末は3倍弱程度まで低下することが予想される。

実際に平均値を算出すると、Q323が2.8倍、Q124が4.0倍となる。現在の市場のQ423のBrent価格予想は、市場予想中央値が90ドル、最も高いところで110ドル、最も低いところで74ドル、Q124は各々、90ドル、110ドル、68ドルとなっている。

これを前提とすると、Q423のJKM価格は中央値が32ドル、26.4ドル~39ドル、Q124が中央値が23ドル、17ドル~27.5ドルが想定レンジとなる。

現在、日本の発電業者のLNG在庫の水準は過去5年平均を下回っており、夏場に向けた在庫の積増しは十分ではなく、今後も積み増しの必要性が出てくる。

基本は長期契約分で賄い、不足分はスポットで、という形になるが夏場が想定よりも暑い夏となった場合そのリスクは小さく無い。

また、中国の天然ガス国内生産が減速しており、輸入ガスが増加している状況。中国のペントアップ需要の顕在化、個人消費の回復があれば上げが加速する可能性も有り得るため、下期に向けては景気の減速でエネルギー価格には下押し圧力が掛る展開がメインシナリオではあるものの、冬場の上昇リスクは無視できないとみている。


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