銀行危機懸念緩和で総じて高い
- MRA商品市場レポート
2023年3月28日 第2421号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「銀行危機懸念緩和で総じて高い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はその他農産品の一角や、貴金属セクターを除き、軒並み堅調な推移となった。
これまで市場の不安心理をかき立てていた欧米の金融機関の経営問題が「個別事案」として処理され、FRBバー副議長も金融機関と預金の保護について言及したことで目先の安心感が広がったことが、市場のリスクテイクを再開させた。
これにより、これまで5月のFOMCでは利上げ見送りが大勢を占めていたが、急に市場は25bpの利上げを織り込み始めた。利上げが継続する以上、SVBに類似した危機に陥る銀行は出てくる可能性がある(特にノンバンク)。
また、実際に起きると影響が大きい、新興国の財政不安のリスクも顕在化することが懸念される。景気が後退局面にあるときはいろいろと「不都合な真実」が明らかになることが多いため、1.金融引締めが終了する、2.景気が底入れする、までは類似のリスク顕在化の可能性は低下しない。
一方で、金融機関向けの流動性供給でFRBのバランスシートは再び拡大しており、危機発生時の下落余地を限定させると考えられる。しかしこのことはインフレ抑制が十分に行われ無い可能性を示唆しており、いったん景気が底入れした後は、想定以上のペースでリスク資産(特に資源価格)が上昇する可能性がある。
【本日の見通し】
本日は、金融危機が一応目先は回避されたとの見方が強いため、これまでリスク回避的に売られてきた商品に広く買い戻し圧力が強まる展開が予想される。特に、エネルギーや非鉄金属は、このコラムでも指摘してきたが「新規のショートポジション」を投機筋が形成しているため、四半期末が意識される今週は買い戻し圧力が強まるのではないか。
本日予定されているイベントや統計で注目は以下の通り。FRBバー副議長の議会証言は昨日のものと異なるものは出てこないのではないか。
・米上院銀行委員会、銀行破綻と当局の対応を巡る公聴会。FRBバー副議長参加
・英中銀総裁、SVBに関して証言
・米5年債入札
【昨日のトピックス】
原油価格の急落の裏に、生産者の下落リスク回避のためのプット・オプション活用についての指摘があった。ただしこれは特別なことではなく、その他の市場でも起きることである。
原油価格は欧米の金融機関の経営問題を背景に下落、その後、80ドルを下回るあたりから下げが加速した。生産者の下落リスクヘッジのためのプット・オプションを巡る攻防の結果、テクニカルに下げが加速したと考えられる。
オプションの売り手である金融機関・商社は原油価格が下落、プット・オプションの行使価格を下抜けした場合、これに伴う時価の損失(プット・オプションの買い手は評価上の利益)を回避するため、先物に売りを入れていわゆるデルタ・ヘッジを行う。
これは為替や株などでも同様で、オプションが積み上がっている価格帯は「攻防ライン」となりやすい。
仮にここを下抜けすると、行使価格と時価の差額を支払わなければならなくなるため、プット・オプションの売り手は先物で売りを加速させざるを得なくなる。しかし、この売りに関しても権利行使のタイミングで買い戻しするため、最終的には価格の上昇要因となることも多い。
本稿執筆現在、Brentの5月限月のプット・オプションは80ドル、78ドル、75ドル、70ドルに大きく積み上がっており、6月限月もほぼ同じ行使価格にプット・オプションが積み上がっている。同様である。この水準を下抜けするか否かが当面のテクニカル上のポイントとなるだろう。
オプションの権利行使に絡んで水準が変わった場合、しばらくその「変更後のレンジ」が取引レンジとなるため注意が必要だ。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。米金融危機が「取りあえず」落ち着きを取り戻したことで、積み上がっていた売りポジションの買い戻しが、四半期末、Brentに関しては限月交代を控えて入ったことが要因。
また、イラク北部のクルド自治政府からの原油(37万バレル/日)と、北部キルクーク油田(7万5,000バレル/日)からの原油輸出を「違法」とする国際仲裁裁判所の判決を受けて、トルコが受入・輸出を拒否したことが供給懸念を強める形となった。
ロシアの▲50万バレルの減産、OPECプラスの▲200万バレルの減産にさらに▲50万バレルの減産が重なるため、短期的に上昇要因となる。
今後、イラクはトルコと交渉の予定だが、トルコ政府が政治的に対立しているクルド人に対する弾圧の一環であり、簡単に解決しないリスクは小さくない。
このコラムでも指摘したが、投機の売りポジションが「新規に」積み上がってきたことは上記を背景に、テクニカルに価格の押し上げ要因となる。
FRBは年内、政策金利を高止まりさせる方向だが、銀行救済のための流動性供給でFRBのバランスシートは再び拡大している。政策金利はインフレ抑制で年内高止まりだが、この流動性供給が下落余地を限定させるのではないか。
一方、OPECプラスは追加減産を見送る方針であり、ロシアの自主減産も想定よりも規模が実は大きくなかったことから「価格下落時のOPECプラスの価格防衛の意思」はそこまで強固なものではないことが確認されたこと、米国のSPR再積増しも否定的な発言が当局者から出ていることから、供給面の価格下支え効果は後退している。
弊社は年後半に景気が底入れして原油価格もそのタイミングから上昇、と見ていたが、Q124頃まで、場合によるとQ224まで景気底入れのタイミングがずれ込む可能性が出てきた。
米当局の金融機関対策の状況にもよるが、見通しはそれに従って変更される見通し。
直近のWTI投機筋のポジションは3月21日時点でWTIがロングが前週比+8132枚、ショートが+22,691枚と新規ショートポジションが増加している。
Brentは3月21日付けのCOTレポートで、ロングが▲42,890枚と大幅に減少、しかしショートが+13,431枚も増え、こちらも新規にショートポジションが取られている。
ファンド筋は基本、受け渡すべき現物を保有しないため、これらのショートポジションはいずれかのタイミング(相場の反転、四半期末)で買い戻しが入り、価格を一時的に押し上げる可能性が高い。
さらに言えば、リーマン・ショックのような市場の機能不全を投機筋はまだ織り込んでいる訳ではない。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 2.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落。欧米金融危機の影響もあり、景気底入れのタイミングはQ124~Q224に後ろ倒しした。
H224以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、昨日の上昇が顕著だったためいったん利益確定で売られると見るが、目先の銀行危機への懸念が後退したこと、月末・四半期末であり、投機の四半期末を意識した買い戻しが入ると予想されること、イラクからの供給問題解消に時間が掛る可能性が高いことから堅調な推移を予想する。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は下落した。気温低下予想とフランスのストライキが激化しており、原子力発電の稼働率が大きく低下していることから、ガス需要が増加すると見られたことが背景。ただし、LNGのポートもストライキが実施されている。
フランスの発電に占める原子力の比率は7割弱と高いが、足下、稼働いつは57%まで低下している。また、仏製油所の稼働停止もガス需要押し上げに寄与しているようだ。
直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
足下のガス在庫の水準は高いが、ロシア産ガスの供給の完全回復は現状あり得ないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。
ナイジェリアは2月25日に大統領選挙が行われたが、その結果を巡って混乱が見られている。
また北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。
3.4.は顕在化している。
5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。
3月13-19日のLNGトレードは、輸出量が前週比+169万トンの908万トンとなった。スポット取引のシェアは21%(前週22%)に低下。
スポットカーゴは北欧とイタリア向けが▲20万トンの減少、その他の欧州は+60万トンの増加。日中台韓は韓国の輸入減少で▲30万トンの減少。
LNGのタンカーレートはスエズ以東が横這い、以西が低下した。季節的に需要が減少する時期に入ったため、と見られる。
しかし、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になることから、タンカーレートの水準は昨年よりも高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は下落。気温上昇と景気減速懸念が材料。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は材料不足の中、小動き。
JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入することもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。
2月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+0.9%の866万トン(1月▲17.8%の927万トン)と前年比で増加したが、1-2月で見ると、▲9.7%と低迷している。
2月のLNG輸入は前年比+7.1%の521万1,000トン(前月▲24.4%の590万8,000トン)と1月の春節時よりも回復した。
2月のパイプラインベースの輸入は前年比▲7.1%の345万トン(前月▲3.27%の336万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。ロシアからの輸入は増加したが、ウズベキスタン・トルクメニスタンからの輸入が減少した。
1-2月の中国の天然ガス生産は前年比+7.0%の2,926万5,000トン(12月+5.7%の1,500万トン)と増加している。
2月の中国の電力消費量は前年比+11.5%の6,950億kwh(12月▲4.6%の7,784億kwh)と回復したものの、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
3月19日時点の日本の発電用LNG在庫は256万トン(前年同月末163万トン、2018~2022年平均2,489万9,000トン)と過去5年平均を上回り、在庫は潤沢。
冬場が終了していることから、供給不足が発生するリスクは低下している。しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
本日も、フランスのストライキ継続による原子力発電の稼働率低下を受けた、代替発電燃料需要の増加が価格を押し上げるが、と景気減速懸念、ピークシーズン終了を背景に現状水準を維持するとみる。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は上昇した。欧州のストライキの影響で、欧州全体に影響するフランスの原子力発電所の稼働が低下していることが背景。
来冬の危機は完全に去っておらず、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていること、豪州も国内供給を優先する方針であることを考えると、上振れのリスクは残存する。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
2月の中国の石炭輸入は前年比+159.8%の2,917万トン(前月+30.3%の3,148万トン)と減速。リオープンの遅れが影響した。
石炭輸入はモンゴルからの輸入増加が顕著であり、ロシアからの輸入も高い水準を維持している今後はカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
1-2月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不要になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。
これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。
ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
JKM価格を基準に石炭価格の回帰分析を行うと、150ドル(±70ドル)程度であり、現在の価格水準は0.5標準偏差程度上振れしている。別の言葉を使うと、現在の材料では80ドル~220ドルのレンジを下抜け/上抜けするのは難しい環境にある、と考えられる。
本日は、フランスのストライキが収束の兆しを見せず、欧州域内の電力供給のリスクとなる同国の原子力発電の稼働率が低下していることから、代替発電燃料の需要は増加が見込まれ、堅調な推移を予想。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は総じて堅調な推移となった。中国のリオープンが緩やかに進行している他、米シリコンバレー銀行の買収が決定されたことで安心感が広がり、リスク選好のドル安が進行したことが材料となった。
基本的にはペントアップ需要の顕在化による短期的な上昇、という整理。
今後は金融市場・欧米市場の混乱により、欧米の景気は年後半に向けて減速するという「想定されていたパス」に復帰が見込まれることから、中期的には景気の循環で下落すると予想される。
今のところ金融危機が伝染・拡大し、クレジットクランチが発生するリスクは、中銀の流動性供給策で回避されるとみているため、まだ、リスクシナリオの位置づけ。
しかし米国の政策金利高止まりが続く中では、想定しているより米金融環境は不安定な状態が続くと見られる。
直近のCOTレポートは全ての金属がロングポジションを解消し、新規にショートポジションを積み増している。投機筋は基本的に受け渡す現物を保有していないため、ショートポジションは将来の買い戻し・上昇圧力となり得るため、要注意だ。
2月の中国製造業PMIは52.6(市場予想 50.6、前月 50.1)と市場予想、前月とも上回り、中国のリオープンが始まっていることを確認する内容だった。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.078)、原材料が1.086(1.026)と比較的小幅な上昇に止まっており、先月から需給環境は大きく変わっていないことを示唆している。
規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が53.7(52.3)、中堅企業が52.0(48.6)、中小企業が51.2(47.2)と全ての規模で回復、閾値の50を上回った。
今回の回復は政府のテコ入れ策とペントアップ需要の影響に因るものと考えられ、その持続性には疑問符が付くが足下、景況感が回復している可能性は高いといえる。
ペルーで発生した暴動は沈静化の兆しを見せており、銅の生産障害は徐々に取り除かれている。Glencoreはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを見せ、MMGも銅の輸送再開が見込まれている。
懸念していた米国の景気が過熱するリスクは、欧米金融危機問題を受けた信用不安が意識され、一方で、その信用不安が「個別事案」と整理できる状況になりつつあることから、景気は循環的な減速パスに戻ったと考えられる。
ただし、政策金利高止まりが続く以上、類似の事象が発生するリスクは小さく無い。
景気底入れのタイミングの判断は難しいが、FRBは政策金利を高止まりさせる見通しであり、Q124、場合によるとQ224にずれ込む可能性が出てきた。それまでは、中国のペントアップ需要の顕在化があっても頭重いのではないか。
同時に、銀行救済のためにFRBのバランスシートは拡大しており、下落余地も限定されると予想される。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
1-2月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲9.2%の88万トン(12月+14.6%の51万4,049トン)と前年比の伸びが減速した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.3%の464万トン(12月+2.1%の210万3,029トン)と過去5年の最高水準で推移している。
1-2月の中国の精錬銅生産は+4.4%の194万5,000トン(12月+▲0.1%の96万2,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は1-2月が前年比+5.8%の282万4,000トン(12月 前年比▲4.8%の147万6,000トン)と伸びが加速した。
2月の銅スクラップの輸入は前年比+58.3%の17万3,825トン(前月▲20.3%の12万9,756トン)、年初来累計でも前年比+11.3%となっており、リオープンの動きで在庫積増しの動きが強まっていると見られる。
本日は、昨日の上昇もあっていったん売られるが、市場のリスク選好が回復していることから底堅い推移を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は変わらず、大連原料炭価格は小幅下落、上海鉄筋先物は上昇した。
中国の鉄鋼製品先物市場に海外の金融不安が影響することは余りないのだが、米金融不安がいったん落着いたことから、鉄鋼製品に買い戻しが入り、鉄鋼原料価格の上昇要因となった。
鉄鋼製品在庫は例年よりも早く減少して、同じ時期の過去5年レンジを下回り、鉄鉱石在庫も過去5年平均を割り込んでいる。原料炭は過去5年レンジを上回っている。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲53万8,000トンの1,613万5,000トン(過去5年平均 2,040万3,000トン)と減少、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで進み、水準は過去5年レンジを下回っている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲60万トンの1億3,700万トン(過去5年平均 1億4,447万6,000トン)、在庫日数は31.6日(▲0.1日、過去5年平均36.5日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状況。
原料炭在庫は▲11万トンの224万トン(169万2,000トン)、在庫日数は▲0.5日の9.6日(過去5年平均 7.9日)と在庫は積み上がっている。
2月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が50.1(前月46.6)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が48.9(43.9)と改善、それに伴い生産も51.1(50.2)となった。政策効果が顕在化しているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.87(0.83)と閾値の1を下回っており、本格的な回復には至っていない。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは60.2(56.4)と大幅に回復、2021年8月以来の高水準となった明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲44.1%の123万トン(12月▲30.0%の69万9,620トン)と大幅に減速した。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+48.1%の1,219万トン(+7.4%の540万1,000トン)と高い水準を維持している。
2月の中国粗鋼生産は前年比+6.9%の8,010万トン(前月▲2.7%の7,950万トン)と回復している。
中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、例年よりも早く在庫は減少している。中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
本日は、欧米の金融危機問題がいったん一巡したことから鉄鋼製品先物に買いが入り安くなり、現状の水準を維持すると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。米金融危機が一巡し、5月のFOMCでの利上げ実施の可能性が急に高まったことで長期金利が上昇、実質金利が上昇したことが背景。
銀・プラチナは下落、株価の影響を受けやすいパラジウムは小幅に上昇して引けている。
金価格の構成要素に占める「実質金利のシェア」は低下しているが、まだ金価格に対する説明力は実質金利が最も高い。
金のリスク・プレミアム上昇要因の主なところは、
1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
あたりだろう。基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。
仮にこの在庫積増しがなければ現在の価格は1,800ドル程度、と言うことになる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針だが、リスク回避の安全資産需要の増加が見込まれること、(安全資産ではないが)G7諸国がマネーロンダリングや、金融機関の新たなリスクとなっている仮想通貨を規制・廃止にする方針であることを考えると、弊社が想定していた1,600ドル台への下落は難しくなったとみている。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはほぼボリンジャーバンドの中心(移動平均)程度で推移しているがトレンド的には上昇方向にある。
現在のボリンジャーバンドの上限は94倍で、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落することになる。
本日は、金融危機一巡で金利が上昇していることか実質金利を押し上げ、価格を下押しするが同時に金融危機懸念を利上げが高めるため、高値維持の公算。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。米金融危機への懸念がやや和らいだことでリスクテイクのドル安が進行したことや、供給懸念を背景に原油価格が大幅に上昇したことが材料となった。
本日は原油価格の高止まりと、ロシア動向、欧米の金融機関の経営危機問題を材料に神経質な推移となり、もみ合うものと資料。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)
低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「ニッケル価格は上昇後調整へ」
2月の中国製造業PMIは52.6(市場予想 50.6、前月 50.1)と市場予想、前月とも上回り、中国のリオープンが始まっていることを確認する内容だった。
サブインデックスは受注残や原材料在庫が50を下回ったがその他の数値は概ね50を上回っており、特に需要の指標である新規受注は54.1(50.9)と大幅な改善が続いた。輸出向け新規受注もペントアップ需要か52.4(46.1)と大幅に上昇。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.078)、原材料が1.086(1.026)と比較的小幅な上昇に止まっており、先月から需給環境は大きく変わっていないことも示唆している。
ニッケル価格は年初、下落してスタートしたが、その後、中国の春節前の駆け込みで上昇、しかし2月に入ってからほぼ一貫して水準を切下げている。背景には、1.中国のリオープン後の経済活動回復の遅れ、2.米国の利上げペース加速観測が強まったこと、3.これを受けた投機筋の新規売りポジションの形成、が上げられる。
しかし、3月に入って、特にFRBパウエル議長が2回の議会証言でタカ派な発言を繰返した週の週末に掛けて、米銀2行が資金繰りに窮して破綻したことから、世界的に総リスクオフとなったことがさらに価格を押し下げた。
欧米の急速な金融引締めを切っ掛けとした金融不安の発生を受けて、投機筋も急速にネット買いポジションを解消している。
同時にショートポジションも積み上がっており、市場参加者は今回の金融危機で市場が崩壊する、とは見ていないことを示唆している(市場がリスクに晒されていれば、新規にポジションは取り難い)。
米銀2行の破綻は、米当局の金融引締めにより保有する長期債に評価損が発生、さらに、「同行の経営が厳しい状態にある」との噂がSNSで急速に拡大し、大口の法人客を中心に資金流出が加速したことが背景に有るが、こうした資金繰り問題は金融監督当局の所轄であり、正直、管理体制が機能していなかったことをうかがわせるもの。
しかし足下のニッケルタイムスプレッドはコンタンゴ幅の拡大に歯止めが掛りつつある。理由は1.LME指定倉庫在庫の減少が続いていること、2.最大消費国である中国の港湾在庫の水準の低さ、3.米金融危機懸念を背景に米ドルが売られていること、などが背景にある。
LME・上海指定倉庫在庫の水準は中国が市場に本格参入した2000年頃からみても極めて低い水準にあり、中国政府主導で経済活動を再開させようとする中では価格は上昇しやすい。
海外景気とは関係なく、中国のペントアップ需要の顕在化がしばらく続くとみられることから、投機の売りポジションが積み上がり、ドル安圧力も考えると買い戻し圧力が強まり、底堅い推移になると予想される。
ただし、欧米金融機関の経営問題を背景に、世界景気はある意味、従来市場が期待していた「循環的な景気減速のパス」に復帰したと考えられる為、上値は重く、上手くこの危機を切り抜けた後、年明け以降(場合によるとQ224)にかけて上昇に転じると予想される。
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