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エネルギー軟調・金属堅調
  • MRA商品市場レポート

2023年3月24日 第2419号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「エネルギー軟調・金属堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は気温低下を受けて発電燃料価格が上昇、リスク回避で「何にも相関しない」ビットコインが上昇、ドル安(その後ドル高となったが十分織り込めず)非鉄金属価格も上昇した。

一方、最大消費国である米国の需要減少観測とOPECの減産見送り観測から原油を初めとする液体燃料価格は下落した。

市場は引き続き米金融機関の経営問題を不安視しており、リスク回避的な動きが強まっている。その一方、昨日はBOEを初め多くの中央銀行がインフレを抑制する目的で政策金利を引き上げている。

結局「インフレ抑制が第1だが、金融監督を強化して、何か問題があった際には速やかに救済」の二本立てで対応するということだろう。

しかしこの状態は各国の利上げが終了する(即ちインフレが抑制される)ことが必要であり景気が悪くなったとしても安易な金融緩和が実施されない状態が続くことを意味している。

JPモルガンのジェイミー・ダイモンが主張するように、今年の後半はクレジット市場を「ハリケーン」が襲う可能性が否定できなくなってきた。

【本日の見通し】

本日は日米欧のPMIが発表される見通しだが、総じて良い内容にはならないとみられ、景気循環系商品には下押し圧力が掛る展開が予想される。

一方、工業金属は中国のリオープンの動きが確認される統計が複数発表されていることもあり、堅調な推移が予想される。結局、最大消費国の経済状態が価格の方向性に大きく影響していると言える。

3月日本製造業PMI 実績 48.6(前月 47.7) サービス業 54.2(54.0) コンポジット 51.9(51.1)

3月ユーロ圏製造業PMI 市場予想 49.0(前月48.5) サービス業 52.5(52.7) コンポジット 52.0(52.0)

3月独製造業PMI 49.0(48.5) サービス業 51.0(50.9) コンポジット 51.0(50.7)

3月米製造業PMI 47.0(47.3) サービス業 50.3(50.6) コンポジット 49.5(50.1)

【昨日のトピックス】

昨日、米イエレン財務長官は預金保険の上限の適用に関して、正当化されるなら預金保険で追加的な措置の用意があると発言したことで、リスク選好機運が高まる形となった。

今回の金融危機はクレディ・スイスに関しては原因がやや異なるため、米銀問題からは切り離して考えるとした場合、米国の金融引締めのペースが早すぎることが原因と考えられるものの、それ以上に、コロナ発生時に正直「不要」と考えられる金融の量的緩和を過剰に行ったことが背景にあると考えられる。

コロナが原因で強制的に経済活動が停止する中で、量的緩和を行う意味は殆どなく、インフレになるのはある意味必然だった訳で、しかも天文学的な緩和を行った結果、今、この資金吸収に非常に手間取っている状態である。

そして、現在の米預金保険制度は銀行の財務状態によって保険料率が変わる。資金繰りを維持するためには預金金利を上げざるを得ず、金利を上げればよりリスクの高い貸出を行わなければならなくなるため、中堅以下の銀行の経営状況は負のスパイラルに陥りつつある。

これを解消するには、利下げ、というよりはFRBが市場との対話を怠らず、間違いは間違いと認め、政策の透明性を高めることが必要条件となる。しかし、FRBも先行きの見通しを見誤っており、全員が疑心暗鬼になっている、と言えるのではないか。

現在の状況はY2K問題やパリバショックの頃と様相が似ている、と指摘したがむしろ1980年代のS&L(米貯蓄貸付組合)危機に状況がより似ているかもしれない。

S&Lは組合員の住宅資金の貯蓄と貸付を目的に拡大した金融機関で、預金を住宅モーゲージローンで運用する仕組み。この頃、商業銀行が住宅ローンを貸し付けるのは一般的ではなく、S&Lのような貯蓄金融機関か行うのが一般的だった。

1973年に発生したオイルショック、1979年に発生した第二次オイルショックを受けて各国は極端なインフレに見舞われる。これを回避するために利上げが行われたが、S&Lは長期固定ローンの金利を変更できず、逆ざやとなり経営状態が悪化した。

このとき、固定金利を変動金利に変換する「金利スワップ」を含むリスクヘッジは、S&Lに許可されていなかったため、こうした金融手法を用いたリスクマネジメントもできない状態だった。

しかしその後、規制が緩和されたため、逆にS&Lは業容を拡大。金利差リスクも低下したが、このときに導入したのは既存ローンを売却して、MBSの比率を高めた(これはSVBと類似)。

しかし、原油価格の急落で米南西部の住宅バブルが崩壊、ブラックマンデー以降、金融機関の破綻も続出、S&Lも多数が破綻し、S&Lの預金保険機関である連邦貯蓄貸付保険公社(FSLIC)も体力が大幅に低下して、今回SVBを救済している連邦保険公社(FDIC)の傘下に入る。

しかしこの後も破綻が相次ぎ、FDICの経営が困難となり預金保険制度自体の見直しを検討せざるを得なくなった。

今回の状況もこのオイルショック時と非常に似ており、金利引き上げが体力のない金融機関の経営を揺るがし、FDIC自体の運営も困難にする可能性が懸念されている。まだこの金融危機問題は終了した、とは言えないはこう言う背景がある。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。前日比マイナスで寄りついた後、ドル安の進行を背景に買い戻しが優勢となっていたが、米経済統計が良好だったことを受けて米景気への過度に悲観的な見方が後退し、ドルが買い戻されたことで下押し圧力が強まった。

また、OPECプラスメンバーが匿名で、年末まで▲200万バレル以上の減産を想定していない、と発言したことや、米エネルギー庁がこの水準ではSPRの積増しはない、と発言したことで需給ファンダメンタルズ面の供給面での価格下支え材料がなくなったことも、価格を下押しした。

また、直近の米石油統計をみるに、米国の石油製品出荷は減速しており、過去5年平均を下回っている。一方、製品・原油輸出はまだ堅調であり、過去5年レンジを上回っている状況。

しかし、1.ロシアの安価な原油・石油製品が巡り巡って需給を緩和していること、2.欧州の景気減速、3.フランスのストライキの影響で輸入需要が減少している、などから減速が見込まれる。

「金融危機によるダウンサイドのショック」は昨晩、イエレン財務長官が預金保護の柔軟性に関してコメントしたことで多少は緩和されたが、まだ市場は類似の破綻があると見始めており、予断を許さない状況。

恐らくリーマン・ショックのような、システミックリスクにはならないと考えられるものの、少なくとも利上げが終了するまでは経営状態が悪化する金融機関は出てくるのではないか。

弊社は年後半に景気が底入れして原油価格もそのタイミングから上昇、と見ていたが、Q224頃までずれ込む可能性が出てきた。米当局の金融機関対策の状況にもよるが、見通しはそれに従って変更の可能性が高い。

直近のWTI投機筋のポジションは3月14日時点でWTIがロングが前週比▲16,612枚、ショートが+14,070枚と、実は新規にショートポジションが形成されている。。

Brentは3月14日付けのCOTレポートで、ロングが▲49,465枚と大幅に減少、しかし注目すべきはショートが+15,442枚も増え、こちらも新規にショートポジションが取られている。

リスク資産市場は銀行問題で株を中心に下落が予想されるものの、リーマン・ショックのような金融危機にはならないとみて、ポジションを形成していると考えられる。

この新規ポジションが下げを助長していることは事実だが、問題解決後は買い戻し、上昇圧力になるため注意が必要だ。

一方、サウジとイランが国交を回復するなど、「OPECプラスの結束」が高まる可能性が出てきていること、そもそも脱炭素組の上流部門投資の不足から、価格の下落余地も限定され、景気底入れ時に価格が早いペースで上昇するリスクは依然として高いとみている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続  産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落。欧米金融危機の影響もあり、景気底入れのタイミングはQ124~Q224に後ろ倒しした。

2024年後半以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、欧米のPMIが発表されるが価格に対する先行性がある製造業PMIは低迷、重要な米国のPMIは減速見通しであり軟調推移に。

ただし、弱めの米統計はドル安に繋がるため価格の下値も限定される公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。価格水準の低さに加え、気温の低下予想が材料となった。

直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。

また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。

足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。

ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。

TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。

足下のガス在庫の水準は高いが、ロシア産ガスの供給の完全回復は現状あり得ないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。

ナイジェリアは2月25日に大統領選挙が行われたが、その結果を巡って混乱が見られている。

また北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。

3.4.は顕在化している。

5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。

3月13-19日のLNGトレードは、輸出量が前週比+169万トンの908万トンとなった。スポット取引のシェアは21%(前週22%)に低下。

スポットカーゴは北欧とイタリア向けが▲20万トンの減少、その他の欧州は+60万トンの増加。日中台韓は韓国の輸入減少で▲30万トンの減少。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が横這い、以西が低下した。季節的に需要が減少する時期に入ったため、と見られる。

しかし、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になることから、タンカーレートの水準は昨年よりも高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は小動き。米ガス統計は、ほぼ予想通り。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は欧州ガス価格が上昇したことを受けて水準を切り上げた。

JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入することもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。

2月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+0.9%の866万トン(1月▲17.8%の927万トン)と前年比で増加したが、1-2月で見ると、▲9.7%と低迷している。

2月のLNG輸入は前年比+7.1%の521万1,000トン(前月▲24.4%の590万8,000トン)と1月の春節時よりも回復した。

2月のパイプラインベースの輸入は前年比▲7.1%の345万トン(前月▲3.27%の336万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。ロシアからの輸入は増加したが、ウズベキスタン・トルクメニスタンからの輸入が減少した。

1-2月の中国の天然ガス生産は前年比+7.0%の2,926万5,000トン(12月+5.7%の1,500万トン)と増加している。

2月の中国の電力消費量は前年比+11.5%の6,950億kwh(12月▲4.6%の7,784億kwh)と回復したものの、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。

ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。

また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。

3月19日時点の日本の発電用LNG在庫は256万トン(前年同月末163万トン、2018~2022年平均2,489万9,000トン)と過去5年平均を上回り、在庫は潤沢。

冬場が終了していることから、供給不足が発生するリスクは低下している。しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

本日も、ピークシーズンの終了を受けて現状水準でのもみ合いになると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は小幅に下落。欧州の気温低下によるガス価格の上昇は合ったが、反応は限定された。

来冬の危機は完全に去っておらず、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていること、豪州も国内供給を優先する方針であることを考えると、上振れのリスクは残存する。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

2月の中国の石炭輸入は前年比+159.8%の2,917万トン(前月+30.3%の3,148万トン)と減速。リオープンの遅れが影響した。

石炭輸入はモンゴルからの輸入増加が顕著であり、ロシアからの輸入も高い水準を維持している今後はカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。

1-2月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。

これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。

ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

JKM価格を基準に石炭価格の回帰分析を行うと、150ドル(±70ドル)程度であり、現在の価格水準は0.5標準偏差程度上振れしている。別の言葉を使うと、現在の材料では85ドル~225ドルのレンジを下抜け/上抜けするのは難しい環境にある、と考えられる。

本日もピークシーズンの終了による需要減少と、割安感からの買いが交錯する形となり、現状水準を維持すると考える。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は総じて堅調な推移となった。ドル安が進行する中、中国のリオープン期待を材料にした買いが入った。

今後は金融市場・欧米市場の混乱により、欧米の景気は年後半に向けて減速するという「想定されていたパス」に復帰が見込まれること、中国のペントアップ需要の顕在化の綱引きになると予想されるが、短期的には上昇、中期的には景気の循環で下落すると予想される。

今のところ金融危機が伝染・拡大し、クレジットクランチが発生するリスクは、中銀の流動性供給策で回避されるとみているため、まだ、リスクシナリオの位置づけ。しかし米国の政策金利高止まりが続く中では、想定しているより米金融環境は不安定な状態が続くと見られる。

直近のCOTレポートは全ての金属がロングポジションを解消し、新規にショートポジションを積み増している。投機筋は基本的に受け渡す現物を保有していないため、ショートポジションは将来の買い戻し・上昇圧力となり得るため、要注意だ。

2月の中国製造業PMIは52.6(市場予想 50.6、前月 50.1)と市場予想、前月とも上回り、中国のリオープンが始まっていることを確認する内容だった。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.078)、原材料が1.086(1.026)と比較的小幅な上昇に止まっており、先月から需給環境は大きく変わっていないことを示唆している。

規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が53.7(52.3)、中堅企業が52.0(48.6)、中小企業が51.2(47.2)と全ての規模で回復、閾値の50を上回った。

今回の回復は政府のテコ入れ策とペントアップ需要の影響に因るものと考えられ、その持続性には疑問符が付くが足下、景況感が回復している可能性は高いといえる。

ペルーで発生した暴動は沈静化の兆しを見せており、銅の生産障害は徐々に取り除かれている。Glencoreはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを見せ、MMGも銅の輸送再開が見込まれている。

ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。

暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。

後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。

結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。

この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。

かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。

懸念されていた、米国の景気が過熱するリスクだが、欧米金融危機問題を受けた信用不安が意識され、一方で、その信用不安が「個別事案」と整理できる状況になりつつあることから、米国の緩やかな利上げ継続で、景気は循環的な減速パスに戻ったと考えられる。

ただし、まだ市場は「次の獲物探し」を行っているため、価格リスクは当面、下向きとみている。

景気底入れのタイミングの判断は難しいが、米国のタイトな金融政策が長期化する可能性が高まっていることを考えると、Q124~Q224にずれ込む可能性が出てきた(従来見通しをさらに後ろ倒し)。それまでは、ペントアップ需要の顕在化があっても頭重いのではないか。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

1-2月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲9.2%の88万トン(12月+14.6%の51万4,049トン)と前年比の伸びが減速した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.3%の464万トン(12月+2.1%の210万3,029トン)と過去5年の最高水準で推移している。

1-2月の中国の精錬銅生産は+4.4%の194万5,000トン(12月+▲0.1%の96万2,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

生産と輸入を合計した供給量は1-2月が前年比+5.8%の282万4,000トン(12月 前年比▲4.8%の147万6,000トン)と伸びが加速した。

2月の銅スクラップの輸入は前年比+58.3%の17万3,825トン(前月▲20.3%の12万9,756トン)、年初来累計でも前年比+11.3%となっており、リオープンの動きで在庫積増しの動きが強まっていると見られる。

本日は、米統計改善でドル高が進行しているため、これまでの上昇もありいったん売られるものと考える。ただし、中国の生産動向を見るに中国のリオープンは緩やかながら進んでいることから、下値余地も限られよう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。

通常、上海の鉄鋼製品先物市場は海外市場の混乱の影響を受け難いのだが、欧米の金融危機懸念を材料に下落し、鉄鋼原料価格にも影響が及んだ。

週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲38万1,000トンの1,667万3,000トン(過去5年平均 2,097万9,000トン)と減少、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで発生、過去5年レンジを下回っており、製品供給は十分ではない。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲100万トンの1億3,760万トン(過去5年平均 1億4,435万6,000トン)、在庫日数は31.9日(▲0.2日、過去5年平均36.5日)。在庫の増加を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状況。

原料炭在庫は+5万トンの243万トン(160万2,000トン)、在庫日数は+0.2日の10.5日(過去5年平均 7.5日)と在庫は積み上がっている。

製品在庫の減少は、増産バイアスがかかる中で起きているため、需要が回復し始めた可能性がある。ただ、これが持続可能かどうかはまだ議論の余地が残る。

2月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が50.1(前月46.6)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。

内訳を見ると新規受注が48.9(43.9)と改善、それに伴い生産も51.1(50.2)となった。政策効果が顕在化しているようだ。

ただし、新規受注完成品レシオは0.87(0.83)と閾値の1を下回っており、本格的な回復には至っていない。

鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは60.2(56.4)と大幅に回復、2021年8月以来の高水準となった明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。

1-2月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲44.1%の123万トン(12月▲30.0%の69万9,620トン)と大幅に減速した。

1-2月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+48.1%の1,219万トン(+7.4%の540万1,000トン)と高い水準を維持している。

2月の中国粗鋼生産は前年比+6.9%の8,010万トン(前月▲2.7%の7,950万トン)と回復している。

粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。

しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

本日は、金融危機不安が後退したため中国のリオープン期待が価格を押し上げるものの、米利上げが継続する見通しであることから、上値も重いと考える。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは堅調な推移となった。長期金利低下に伴う実質金利の低下が価格を押し上げ、リスク回避の金需要も継続したことが背景。

銀。プラチナも上昇、パラジウムは株価の下落に押された。

金価格の構成要素に占める「実質金利のシェア」は低下しているが、まだ金価格に対する説明力は実質金利が最も高い。

金のリスク・プレミアム上昇要因の主なところは、1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた、2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった、3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念、あたりだろう。

基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはほぼボリンジャーバンドの中心(移動平均)程度で推移しているがトレンド的には上昇方向にある。

現在のボリンジャーバンドの上限は94倍で、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落することになる。

本日は、イエレン議長が預金保険の柔軟な運用について発言したものの、基本、リスク回避の動きが続くこと、長期金利の低下が見込まれることから金銀プラチナは堅調、株安でパラジウムは軟調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は原油価格の下落と、米統計改善を受けたドル高進行が価格を下押しした。

昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。

本日は、米統計改善や利上げ継続観測を背景としたドル高進行が価格を下押しすると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。

日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)

低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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