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米欧金融不安鎮静化でも金融為替市場の混乱続く
  • MRA外国為替レポート

2023年3月20日号

◆先週の市場総括


先週も金融システム不安から各市場は波乱の展開。問題の生じた金融機関に対し支援策が表明されたものの市場の不安は根強くリスク回避は払拭されなかった。

ファンドの業績不安も台頭し市場では警戒感が高い状態が継続。また金融機関の融資態度厳格化で景気悪化懸念が強まった。ECBはインフレ抑止を優先して0.50%の大幅利上げを断行。これも市場の警戒感を高めることとなった。

米国の経済指標は弱めの数字が散見され景気懸念を後押し。米国株は銀行支援策を好感する一方で警戒感や懸念も根強く両者が交錯して乱高下。日経平均は軟調で27,000円に迫った。

リスク回避や景気懸念から米長期金利は低下。10年債利回りは3.44%、2年債は3.83%に低下。欧米金利低下とリスク回避を受けて円が全面高。ドル円相場は週初134円台半ばで始まり週末には131円台半ばに下落し引けは131円80銭。ユーロ円相場も143円台半ばから140円台半ばまで下落して引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が大きく下落。週末に米国で地銀の破綻が相次ぎリスク回避が強まった流れのまま売り先行。値がさ株、金融株、その他幅広く売られた。

ドル安円高も重石。一時▲500円超下落して引けは▲311円安の27,832円。為替相場は乱高下しながら円高。ドル円相場は134円80銭で始まり早々に133円60銭まで急落。その後は135円ちょうどに戻したが、昼には133円70銭に下げた。

夕刻にかけて134円70銭にじり高となったが欧州市場に入ると米長期金利が大きく低下したことを受けて133円ちょうど近辺まで下落した。

米10年債利回りが3.70%近辺から3.54%へ低下。2年債も4.24%へ。ユーロ円相場もリスク回避から円高。143円60銭で始まり143円割れ~144円台で大きく上下したあと、夕刻に144円40銭から142円ちょうど近辺に急落した。

今週のECB理事会で大幅利上げに反対意見が強まるとの見方から欧州長期金利も低下したことが下押し。

ユーロドル相場は1.0660で始まり1.0730へややしっかりとしたあとは1.0720中心に推移。欧州市場ではドル売りが勝り1.0660へ低下した。

米国市場では米長期金利が一段と低下。3月FOMC会合での利上げが見送られるとの見方が4割ほどに増加。リスク回避で米国債に資金が流入し金利が低下した。

2年債は一時4%割れ。ドル円相場は133円80銭から132円20銭台へ下落。ユーロ円相場は142円80銭から141円40銭へ下落した。

ただその後は株価が下落一服となったことから円高一服。ドル円相場は133円60銭までじり高となり引けは133円20銭。ユーロ円相場は143円30銭までじり高の後引けは142円90銭。

ユーロドル相場は堅調。1.0750にじり高のあと引けは1.0730。ドルインデックスは103.62に下落した。

米国株は当局の迅速な対応、預金全額保護や銀行への資金繰り支援策を好感し下落一服。利上げ見送り観測も台頭し長期金利が大幅に低下したことも株価の支えに。

NYダウは一時+350ドル高。ただ景気減速懸念が重石となり引けにかけて下落して▲90安の31,819ドルで取引を終えた。ナスダックは+49ドル高の11,188ドル。

火曜日の東京市場では日経平均は大幅続落。米地銀の相次ぐ破綻で金融システムへの懸念が根強くリスク回避が強まった。

日本でも地銀株中心に下落。このタイミングでゆうちょ銀行株の売り出しに伴う保有株入れ替え、資金捻出のための売却が重石に。引けは前日比▲610円安の27,222円。

為替相場は乱高下。円相場の上下動が激しかった。ドル円相場は133円20銭中心でもみ合いのあと90銭に上昇し、小反落のあと午後にかけてじり高、東証引けの15時頃には134円ちょうどを回復した。

ただその直後、欧州勢の参入時間帯になり133円20銭に急落、134円30銭に急反発、と激しい値動き。

134円ちょうど~20銭近辺を中心に上下して米CPIの発表待ちとなった。CPIを受けて大きく上下しながら134円90銭まで上昇したが、その後はじり安。134円ちょうどまで下落したあとNY引けは20銭。

ユーロ円相場は142円90銭で始まり143円40銭に上昇、143円ちょうど~40銭で推移。ただドル円相場と同様に東証引け後に142円60銭に急落した。

その後は一貫して右肩上がり。リスク回避の緩和にともない買い戻され144円40銭まで上昇、143円90銭~144円30銭で上下し引けは144円10銭。

ユーロドル相場は東京朝方に1.0730で始まり緩やかに下落し夕刻は1.0680。欧州から米国市場にかけては堅調。CPI発表時は1.0750に上昇し1.07ちょうど~1.0750で上下。その後も小じっかりで1.0750をつけたあと引けは1.0730。

米CPI(2月)は前月比+0.4%と予想通り前月+0.5%から上昇鈍化、前年同月比は+6.0%と前月+6.4%から予想通り低下した。コア指数は前年同月比が+5.6%から+5.5%に低下してこれも予想通り。

米国市場では金融システム不安が一服し株高、長期金利上昇。NYダウは朝方前日比+500ドル近く上昇。銀行破綻の連鎖が回避されたとの見方で売られていた金融株の一角が急反発した。

ただ買い一巡後は軟調となり上昇幅を縮め前日引値近辺へ下落。その後引けにかけては急上昇し前日比+336ドル高の32,155ドルで引けた。

ナスダックは+239ドル高の11,428ドル。VIX指数は前日に一時30ポイント台に急上昇していたがこの日は23.73まで低下した。米10年債利回りは3.685%へ、2年債は4.246%へ急反発。ドルを支えた。

水曜日の東京市場では日経平均は概ね前日同水準で引けた。リスク回避一服、米国株反発を受けて朝から買い先行。一時+200円高。

ただ戻り売りも多く売り買い交錯。リスク回避一服もポジション整理が続いた。引けは前日比+7円高の27,229円。

中国の2月の主要経済指標はまちまち。小売売上高はゼロコロナ政策の撤廃で持ち直し前年同月比+3.5%だった。鉱工業生産は+2.4%。為替市場ではリスク回避一服で円高も一服。円安に推移した。

ドル円相場は134円20銭で始まり朝方は60銭に上昇、134円ちょうどに下落、と上下したあと夕刻は135円10銭に上昇。ユーロ円相場は144円10銭で始まり145円ちょうど近辺にじり高となった。

ユーロドル相場は1.0730で始まり1.0760に上昇したあと1.0740近辺でもみ合い。欧州市場に入るとクレディ・スイス銀行の業績不安で市場が混乱した。

同行の筆頭株主が追加支援を否定したことで株価が急落。市場であらたな金融システム不安が広がりリスク回避が急速に高まった。

欧州株は金融株を中心に大幅下落。リスク回避で長期金利は大きく低下。0.50%と予想されていたECBの利上げ予想も不透明に。ユーロは急落。円は急騰。米長期金利も低下。米2年債利回りは米国のリスク回避一服で夕刻にかけて4.4%近辺まで戻していたが欧州時間に入り4.0%に急低下。

ユーロ円相場は145円ちょうど近辺から米国市場にかけて139円50銭へ下落。ユーロドル相場は1.0520へ。ドル円相場は132円20銭近辺まで急落した。

米国で発表された経済指標は軒並み弱め。さらに金利低下を促した。NY連銀製造業景気指数(3月)は前月▲5.8から▲8.0への悪化予想に対し▲24.6と大幅に悪化。

小売売上高(2月)は前月比▲0.4%と前月+3.0%から一転して減少し予想をやや下回った。生産者物価指数(PPI、2月)は前月比▲0.1%、前月が+0.7%から+0.3%に下方修正、前年同月比は+4.6%と予想+5.4%を下回り、前月が+6.0%から+5.7%に下方修正された。

コア指数も前年同月比が前月+5.0%(下方修正後)から+4.4%に低下した。

これら弱い指標や金融システム不安から次回FOMCでの利上げも0.25%と据え置きが半々の見方に。米2年債利回りは3.75%まで低下して引けは3.89%。10年債は日本時間夕刻の3.70%から米国時間には3.40%に低下して3.46%。

ドル円相場は米国市場では持ち直し132円80銭~133円30銭近辺で上下したあと132円40銭に反落。その後は133円80銭に持ち直し引けは133円40銭。ユーロ円相場は139円70銭~140円60銭で上下したあと139円50銭台に下落。

その後、スイス中銀が支援を表明したことで持ち直し141円10銭で引け。ユーロドル相場は1.05台半ばを中心に上下したあと持ち直し引けは1.0580。

米国株は朝方一時▲700ドル超。金融株や景気敏感株を中心に大幅安。ディフェンシブ銘柄には買い。長期金利低下で高PER銘柄は買われた。ダウは引けにかけて持ち直し前日比▲280ドル安の31,874ドル。ナスダックは+51ドル高の12,251ドル。

VIX指数は前日低下していたが再び上昇して26.14。原油価格WTI先物は景気懸念で67.61ドルへ大幅下落。金価格はリスク回避で上昇した。

木曜日の東京市場では日経平均が下落。朝方はリスク回避がなお優勢で売り先行。一時前日比▲500円超下落した。ただ午前中にスイス中銀がクレディ・スイスの資金繰り支援策を発表したことでリスク回避が一服。押し目買いも入り下げ幅を縮めた。引けは▲218円安の27,010円。

発表された2月の日本の通関統計では貿易赤字が8,980億円と大きく減少した。ドル円相場は133円40銭で始まり乱高下。132円50銭に下落、133円40銭に反発、132円60銭に下落と大きく上下。夕刻にかけては133円20銭に持ち直して132円60銭~133円ちょうどで上下した。

ユーロ円相場は141円10銭で始まり140円20銭に下落、141円40銭に反発、140円60銭に下落と乱高下。その後はクレディ・スイス支援策の発表で底固く141円60銭に戻した。

ユーロドル相場は1.0580で始まり1.0610へ小動きじり高。

欧州時間ではECBがこの日の理事会で0.50%の利上げを決定。政策金利を3.00%から3.50%に引き上げた。市場の混乱を受けて利上げ幅を0.25%に縮小、ないし利上げ見送りも想定していただけに予想外。インフレ抑制姿勢を鮮明とした。

これを受けて市場ではリスク回避が強まった。ユーロは利上げにもかかわらず下落。ユーロ円相場は139円20銭に急落して下げ止まり乱高下。ラガルド総裁が必要なら流動性を積極的に供給する用意があると発言したことで一定の安心感。ユーロ円相場は141円80銭に戻した。

ユーロドル相場は1.0550に下落したがその後は1.06ちょうど~20で上下。ドル円相場も一時131円70銭台に急落。ただ米国時間には133円80銭まで巻き戻した。

米国では大手11行が経営懸念のファースト・リパブリック銀行の支援策を固めたことで懸念が後退し、リスク回避の円高は一服。米長期金利の反発がドルを押し上げた。

イエレン財務長官は、銀行システムは健全、と述べた。米10年債利回りは3.579%へ、2年債は4.174%へ反発。米国株は朝方軟調も反発。

NYダウは朝方一時▲300ドル安となったが、ファースト・リパブリック銀行支援を受けて持ち直し。引けは前日比+371ドル高の32,246ドル。ナスダックは+283ドル高の11,717ドル。VIX指数は▲3.15ポイント低下して22.99。

この日米国で発表された指標はまちまち。新規住宅着工件数(2月)は季節調整済み年率換算で1,450千戸と前月1,339千戸から増加。許可件数も増加。

週次の失業保険新規申請件数も前週211千件から減少して192千件、継続受給も1,718千件から1,684千件に減少し労働市場の強さを示した。

一方でフィラデルフィア連銀製造業景気指数(3月)は前月▲24.3から改善予想▲14.0に対し▲23.2と改善はわずかで予想を大きく下回った。輸入物価指数(2月)は前年同月比▲1.1%となり、2020年12月以降で初めてマイナスとなった。

金曜日の東京市場では日経平均は反発。前日の米国市場で、ファースト・リパブリック銀行への支援策が決まり米国株が反発。これを受けて投資家心理がやや好転し日本株にも買いが入った。

ただ世界景気先行き不透明感は根強く上値は重かった。引けは前日比+323円高の27,333円。

ドル円相場は133円70銭で始まりじりじりとドル安円高が進み夕刻は132円80銭~133円10銭で上下。欧州市場に入るとやや持ち直し133円40銭に上昇したあと133円ちょうど~40銭で上下。

ユーロ円相場は141円90銭で始まり上値重く140円60銭~80銭で推移。その後夕刻から欧州市場にかけては持ち直し142円20銭に上昇した。

ユーロドル相場は1.0610で始まり1.0670へユーロがじり高、ドルじり安。しかし欧州市場ではドルが持ち直し1.0620へ押し戻された。

米国市場では朝方から株価が大きく下落。NYダウは一時▲500ドル超下落した。銀行の経営不安が燻るなか融資態度の厳格化が景気を冷やすとの懸念が株価を下押した。

地銀全般の経営悪化懸念から金融株を中心に幅広く売られ、景気敏感株が総じて下落。一方、長期金利低下でハイテク株は底固かった。

NYダウは下げ幅を縮めたものの▲384ドル安の31,861ドル。ナスダックは▲86ドル安の11,630ドル。VIX指数は2.52ポイント反発して25.51。

原油価格WTI先物は下落し66.37ドル。米10年債利回りは3.44%に、2年債は3.83%に低下した。

欧米市場では再び円高が強まりドル円相場は131円80銭へ下落。その後132円20銭まで反発したものの上値重く、131円60銭まで下落し引けは131円80銭。

ユーロ円相場も140円20銭へ下落したあと20銭~80銭で上下。その後141円20銭に反発したが上値重く引けは140円60銭。

ユーロドル相場は1.0670へ反発しもみ合い引けた。ドルインデックスは103.89に下落。発表された米国の経済指標は軒並み弱め。

鉱工業生産(2月)は前月比0.0%、設備稼働率は前月78.3%から78.0%に低下。景気先行指数(2月)は前月比▲0.3%と前月▲0.3%に続きマイナス。

ミシガン大学消費者信頼感指数(3月速報)は前月67.0から63.4へ悪化。期待インフレ率は前月4.1%から3.8%に低下した。

◆今週の3つの注目ポイント


1 FOMC(連邦公開市場委員会)、メンバー予測、パウエル議長会見

今週21日火曜日・22日水曜日の2日間にわたりFOMCが開催される。

結果は日本時間23日木曜日未明午前4時に公表。その後4時半からパウエル議長が定例記者会見を行う。金融システム不安が俄かに台頭し、景気先行き懸念も強まるなか、どのような判断が示されるか。

市場では大幅利上げや高金利長期化を見込んでいたが、この間の混乱で一変。利上げ見送りや年内利下げも再び台頭している。

パウエル議長やその他の当局者は、ターミナルレート(政策金利の最終到達水準)は従来予想よりも高くなると発言していたが、一覧の混乱で変化はみられるか。

今回の会合での利上げ幅は0.25%と見送りが拮抗。ECBが0.50%の大幅利上げに踏み切ったことや銀行支援策がまとまったことで0.25%利上げとの見方が優勢だが結果はどうか。

またメンバーによる予測、ターミナルレートが実際に引き上げられるかどうかが注目される。

2 PMI景況感指数(3月)

金曜日に各国のPMI景況感指数(3月)が発表される。市場で景気先行き懸念が強まるなか先行き不安を煽るかたちとなるか。

市場は強めの数字でも今後の悪化を懸念し反応は鈍く、弱い数字なら一段と警戒感を強める可能性がある。ユーロ圏は製造業が48.5と前月から変わらず、サービス業が52.7から52.5への小幅悪化予想。米国は製造業が47.3で変わらず、サービス業が50.6から50.3への小幅悪化が予想されている。

3 リスク回避やボラティリティの動向

先週末にかけてもリスク回避は緩和せず。ボラティリティが高い状態が続いている。

懸念されている銀行に対する支援策が示されたものの、金融システムに対する不安感は根強い。国際金融システム不安には至らないものの、市場や景気見通しに対する投資家の不安感は払拭されず。これが今週、鎮静化するのか、なおもリスク回避が続くのか。

ヘッジファンドの業績不安、閉鎖のリスクも高まっており、資産流動化・資産売却懸念がリスク回避を維持する可能性がある。金融機関ないし投資家の新たな業績不安やファンド閉鎖などが報じられれば一気にリスク回避が強まる可能性があり留意を要する。

ほか、日本では金曜日にCPI(2月)が発表され総合指数は上昇鈍化、コア指数は上昇加速が見込まれている。

◆今週のMRA's Eye


米欧金融不安鎮静化でも金融為替市場の混乱続く

一連の金融機関の破綻や業績不安に対し当局は迅速に対応策を打ち出したものの、市場のリスク回避はなお収まらない。

金融システム危機と投資家のリスク選好・リスク回避が別の次元のためだ。一方、金融システム危機の背景にある銀行監督・規制と金融政策は本来別次元の話だが、しかし全く関係なく運用できるわけでもない。今回生じたリスクイベントを今一度整理するとともに、なお残るリスクや金融為替市場への影響を整理しよう。

まず米国で生じた地銀の経営不安、金融システム懸念は、1つの地銀の債券運用の失敗・ALMリスク管理の不備が発端だ。

シリコンバレー銀行(SVB)の場合、コロナ禍による「ハイテクバブル」で預金(負債)が膨張。余剰資金を米国債や住宅ローン担保証券(MBS)など債券投資に回した。

長短金利差で利ザヤを稼ごうという目論見は頷ける。ただいささかやり過ぎだったようだ。

そこに予期せぬ急激なFRBの利上げ、長期金利の急上昇、債券価格の急落が襲った。運用資産の含み損が拡大。それを懸念して預金が流出し、運用資産・債券の売却により資産負債をバランスする必要に迫られた。

満期まで保有すれば含み損は実現せずに済むところ、売却により損失が顕在化し、一段と不安が広がることになった。

預金流出が加速しさらなる債券売却に迫られた。その負のスパイラルが取付け騒ぎとなり破綻に陥った。

こういう事態となれば投資家、預金者は次のSVBを探す。

業績に懸念のある銀行から預金をシフトする動きが広がり危機が伝播する。今回はリーマンショックのようなグローバルバンク、大手行ではなく、地銀に対する経営不安の連鎖。デリバティブやクレジット関連の金融商品や市場がからんだ危機ないしは大手銀行間、国際金融の不安ではなく、いわば旧来型の米国内に限定される金融システム危機だ。

危機に際して、問題銀行に流動性を供給し、また業績懸念を払しょくすれば危機は鎮静化する。中央銀行や大手行による預金による流動性供給は有用だ。

債券売却を強いられないように、FRBが保有国債を担保に中長期資金を供給するBTFP(Bank Term Funding Program)を迅速に制定し2兆ドルの資金供給を行う姿勢を示したことは、銀行による債券売却の連鎖による損失実現や債券市場の混乱を予防することに役立っただろう。

預金の全額保護、という異例の対応を示したことも、預金者に安心感を与え、取り付け騒ぎ・預金流出の連鎖を予防する一助になる。一連の対応で金融システム危機は回避される可能性は高い。

ただそれと市場参加者、投資家のリスク回避が鎮静化するかは別だ。

当方で懸念していた想定リスクシナリオは金融システム危機ではなく市場の混乱による危機。クレジット市場の悪化、クレジットリスクのある資産の価格下落に端を発する市場の混乱だった。

今回は長期金利上昇による債券価格の上昇が発端だが、急速なリスク回避の高まり、ボラティリティの上昇、という点では共通する。

危機の主体として想定していたのはノンバンク、すなわち金融機関以外の投資家。ヘッジファンド、年金基金、など投資家の損失拡大、危機や混乱の連鎖だ。

リスク回避の高まり、市場流動性の低下、投資家の流動性確保・資産売却を通じた市場から市場へ、投資家から投資家へ、の混乱・危機の連鎖。

今回の市場の混乱は地銀の債券投資失敗が発端で想定とやや異なるもののリスクの本質は変わらない。なおも市場の混乱、リスク回避が続く可能性に留意する必要がある。

足元では銀行株下落が牽引するかたちで株価全般が下落。地銀がリスクに敏感となることで融資姿勢が一段と厳格化し、これまでの急速な利上げとあいまって金融引き締め効果が強まり、景気悪化が加速する可能性が懸念されている。これが景気敏感株全般の下落圧力にもつながっている。

一般的に、ボラティリティ上昇は運用資産のリスク評価を高め、保有資産の圧縮、資産売却を促す要因となる。

また想定外の値動きは運用全般の見直しや資産売却、ともすれば想定外の損失拡大で運用全体の手仕舞いにつながる。今回の危機の発端は長期金利の急騰・債券価格の急落だったが、足元ではリスク回避により安全資産である米国債に急速に資金が流入している。

長期金利は急低下、債券価格は急騰した。

本来は安定しているはずの長期金利・債券価格の乱高下、ボラティリティの上昇はあらたな混乱の火種となりかねない。

BTFPにより債券売却が抑制され予期せぬ債券価格の急落、長期金利上昇は避けられたが、利上げ見通しの急転換、年内利下げの可能性の急速な台頭で、逆に長期金利が急低下。

金利シナリオの急変はまた、とくにヘッジファンドの懐を痛める。

ファンドは金利上昇による金融機関の業績向上期待で、長期金利上昇に賭けた債券売りと銀行株買いのポジションを構築していたとみられる。

それが足元では、債券価格急騰・長期金利低下、銀行株の急落、ボラティリティの上昇に見舞われている。

これらによる損失拡大で一部のヘッジファンドは閉鎖の危機に直面しているとの見方もある。資金化のための資産売却、市場の流動性低下、ボラティリティのさらなる上昇、市場から市場への連鎖、他の投資家の損失拡大、という負のスパイラルリスクは残る。

金融システム危機の鎮静化でも市場の混乱による負の連鎖のリスクになおも警戒が怠れない状況は続くとみられる。

一連の混乱は市場の政策金利見通しにも大きく影響している。本来は金融政策と銀行監督・規制は別もの。

景気物価動向に対応した金融政策と金融危機への対処は異なる次元の判断となる。

先週、利上げ見送りや利上げ幅を0.25%に縮小するとみられていたECBが、前回と同様の0.50%の大幅利上げを維持したことはそれを示す。ただ欧州の場合はクレディ・スイスの業績懸念が市場の思惑を招いた。

しかし、スイスはユーロ圏に加盟していない。金融立国として独自の金融規制や金融政策を保持している。ECBにとっては守備範囲外だ。

またクレディ・スイスの場合はそもそも経営不安が取り沙汰されており、今になって突然生じた話でもない。プライベートバンクとインベストメントバンクの融合体であり、融資などを通じた経済への悪影響もさほど大きくないだろう。

また米国の地銀に端を発する混乱は米国内にとどまる可能性が大きい。となればECBの金融政策に影響を与える度合いが小さいのは当然だ。

その結果、市場への影響としては、依然として米国発リスク回避、米国市場の混乱、それがグローバル投資家にどう影響するか、海外市場にどの程度波及する可能性があるか、ということになりそうだ。

欧州の金利見通しはさほど影響を受けないが、米国の金利見通しが影響を受けるのは不可避。この点、今週のFOMCでどのような判断が示されるか。

ターミナルレートの引き上げの可能性についての言及があったが、それが撤回されるか。早々の利上げ打ち止め、12月のメンバー予測が維持されるか。ECBと異なるスタンスが示されるかどうか注目される。

市場のドル金利見通しは急転換し、ドル金利先安感が台頭しているが、それがFRBのお墨付きを得るか。

またアジア市場や日本は一連の混乱から離れた場所にある。かねてから「安全通貨」としてみられてきた、ドル、円、スイスフラン、のうち、ドルとスイスが怪しいとみられれば、消去法的に円先高感が強まる。

円の弱点は巨額の日本の貿易赤字で、円の安全性が毀損されているとされていたが、直近の通関統計では赤字額が大きく減少した。これも円の後押しとなる可能性がある。

ドル金利、欧州金利、見通しの変化、とくにドル金利見通しの変化が後押しするかたちで、ドル円相場の上値の重たい状況は続きそうだ。

ドル円相場が高止まりしドル安円高への転換は年央以降にずれ込むかにみられた。しかし再び元のシナリオに回帰、足元からドル安円高傾向が明確になりつつある点には留意が必要だろう。


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