金融不安払拭されず週末を控えて調整売り
- MRA商品市場レポート
2023年3月20日 第2415号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「金融不安払拭されず週末を控えて調整売り」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は金銀、ビットコイン、その他農産品の非景気循環銘柄がリスク回避的に物色されて、ドル安進行と中国リオープンを材料に非鉄金属が上昇した。
ファーストリパブリックバンクに大手11行が預金を奉加帳方式で預け入れ、支援を行うとしたが、「資本増強が必要」と市場はこれを評価していない。また、クレディ・スイス問題も、現在の支援では不充分として市場はこれも評価していない。
結局、UBSによって買収されることが必要、と市場は見ており、さらに来週のFOMCで25bpの利上げを諦め、いったん見送りをする必要があると当局に要求しているようだ。
現在、金融危機問題を背景に景気が「ノーランディング」となる見通しは夢物語(そもそもノーランディングになると再びインフレ圧力が強まるため、結局は金融引締めが必要にある)になったが、米FRBの利上げタイミングがコロナや米中間選挙を背景に遅れたため、結局このような危機をもたらしている。
このコラムやMRA's Eyeでも何回か指摘したが、今回の出来事は「Y2K問題」が顕在化したときと非常に状況が類似している。
【本日の見通し】
週明け月曜日は、予定された手掛かり材料が乏しいが、引き続き欧米の金融危機問題に左右される形となり、神経質な推移が予想される。
現在、UBSによるクレディ・スイスの買収が検討されているようだが、もしこれが上手くキレイに妥結すれば、急速に安心感が広がりリスク資産には上昇圧力が掛ることになるだろう。
しかし逆に「交渉に入っていること」が分っているため、この週末に妥結に至らず、決裂となれば債券を除く全ての商品に換金売りが入り、大幅な下落となるだろう。この場合は、金も現金化されて下落することが予想される。
【昨日のトピックス】
米ファーストリパブリックバンクの救済が発表され、クレディ・スイスに対しては500億ユーロの流動性供給が決定され、「ひとまず不安が後退」したと思われたが、完全に解決(これまでの反応をみていると、市場は全ての米不健全行に資本注入が行われ、クレディ・スイスは買収されること)していないと市場は見ていないようだ。
しかし、特にクレディ・スイスは資産規模が大き過ぎるため、「絶対に潰せない銀行」であることは間違いがないことから、恐らくUBSとの合併はまとまる(というよりは、スイスにとってもまとめる以外に選択肢がない)ことになるだろう。
しかし、スイスの名目GDPは2021年基準で7,998億ドル、クレディ・スイスの資産規模は2022年末時点で5,690億ドルであり、GDP規模の7割を超える。
日本に置き換えれば、560兆円の7割なので資産規模392兆円の銀行が破綻するようなイメージだ。スイス政府がこれを容認するとはとても思えない。
恐らく、1.UBSとの吸収合併が決定される、2.ホールセール部門の貸出はかなり劣悪な案件が多数含まれている様子であり、前回UBSを救済するときに用いられたバッドバンク方式(不良債権を基金に売却し、スイス中銀が出資、政府がUBSに金融安定化目的で資本注入した方法)が採用されるのではないか。
前回はクレディ・スイスは破綻を逃れたが、今度は逆の立場となる。
思い出されるのが、前回、リーマンブラザーズをバークレイズが買収する話が合ったが、結局土壇場でご破算となったことだ。今回、もし同じことになれば、金融市場は大混乱となろう。来週は「正念場」の週となる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。クレディ・スイスに対してドイツ銀行、HSBCなどが取引を制限する方針とロイターが報じたことで株が下落、それに伴いファンド筋の手仕舞い売りが価格を押し下げた。
直近の投機筋のポジションは3月7日時点でWTIがロングが前週比▲8,016枚、ショートが+397枚と、圧倒的にポジション解消の売り圧力が強い。ただしこれはSVBの破綻前の下落であり、パウエル議長のタカ派な議会証言によるドル高進行が売り材料だった。
Brentは3月14日付けのCOTレポートで、ロングが▲49,465枚と大幅に減少、しかし注目すべきはショートが+15,442枚も増え、「新規に」ポジションが取られていることである。
リスク資産市場は銀行問題で株を中心に下落が予想されるものの、リーマン・ショックのような金融危機にはならないとみて、ポジションを形成しているとみられる。
この新規ポジションが下げを助長していることは事実だが、問題解決後は買い戻し、上昇圧力になるため注意が必要だ。
とはいえ、まだ米国の利上げは継続し、その後も金利はしばらく高止まりされる可能性が指摘されていることから、まだ、複数の銀行が経営危機にさらされると考えられ、景気減速の中でのリスク顕在化は価格の下振れリスクを大きくしやすい。
一方、サウジとイランが国交を回復するなど、「OPECプラスの結束」が高まる可能性が出てきていること、そもそも脱炭素組の上流部門投資の不足から、価格の下落余地も限定され、景気底入れ時に価格が早いペースで上昇するリスクは依然として高いとみている。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル
5.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、Q423~Q124頃に景気が底入れするため(景気底入れタイミングをやや後ろ倒しに)、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
また、イランとサウジの国交回復で、よりOPECの結束は強まることが予想される。この場合、価格下落時にOPECが機能するため下落余地はより限定されることになろう。
Q123~Q323 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q423~Q124 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q224以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は、予定されている目立った材料がないが、市場は銀行の経営不安問題を強く意識しており、支援と支援が不充分との見方が交錯する中で、軟調地合の中乱高下するとみる。
週末行われるUBSによるクレディ・スイス買収・合併(救済策)が仮に決裂した場合、リーマン・ショックを超える危機顕在化で、大幅な下落となるが、その影響の大きさから恐らく合併は速やかに決定されるのではないか。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は下落した。気温上昇も材料であるが、クレディ・スイス問題を背景に景気の先行き懸念が強まっていることが、工業向け需要を減じるとの見方が強まったことが背景。
直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。
ナイジェリアは2月25日に大統領選挙が行われたが、その結果を巡って混乱が見られているようだ。
また北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。
3.4.は顕在化している。
5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。
LNGのタンカーレートはスエズ以東が横這い、以西が低下した。季節的に需要が減少する時期に入ったため、と見られる。
しかし、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になることから、タンカーレートの水準は昨年よりも高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は下落。気温上昇見通しと、米銀不安を背景とした工業向け需要の減少観測が価格を押し下げていると考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は欧州ガス価格が下落したことを受けて水準を切下げた。
JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入することもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。
1-2月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲9.7%の1,793万トン(12月▲11.8%の1,028万トン)と前年比での減少幅を縮小したが水準は低い。
12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。
12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。
中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
12月の中国の発電量ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
3月12日時点の日本の発電用LNG在庫は238万トン(前年同月末163万トン、2018~2022年平均2,489万9,000トン)と過去5年平均を下回り、在庫は潤沢ではない。
冬場が終了していることから、供給不足が発生するリスクは低下している。しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
週明け月曜日も、ピークシーズンが終了したことで現状の低水準でのもみ合いになると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は下落した。欧米のガス価格下落が価格を下押しした。
来冬の危機は完全に去っておらず、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていること、豪州も国内供給を優先する方針であることを考えると、上振れのリスクは残存する。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
1-2月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+71.3%の6,064万トン(12月▲0.1%の3,090万8,000トン)と大幅な増加となった。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられる。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。
これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。
ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
JKM価格を基準に石炭価格の回帰分析を行うと、155ドル(±70ドル)程度であり、現在の価格水準は0.5標準偏差程度上振れしている。別の言葉を使うと、現在の材料では85ドル~225ドルのレンジを下抜け/上抜けするのは難しい環境にある、と言うことだろう。
週明け月曜日は、気温上昇や銀行の金融危機問題を背景にガス価格が軟調なことから、頭重いものの、中国のリオープンが緩やかに始まっていることを受けた海上輸送炭需要の増加から、下値も堅いと考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は上昇した。欧米銀行の金融不安を背景に、欧米の金融引締めが早晩終了するとみられていることや、金利低下を背景とするドル安進行、中国のリオープンによる緩やかな需要増加が非鉄金属価格を押し上げた。
今後は金融市場・欧米市場の混乱により、欧米の景気は年後半に向けて減速するという「想定されていたパス」に復帰が見込まれること、中国のペントアップ需要の顕在化の綱引きになると予想されるが、短期的には上昇、中期的には景気の循環で下落するとみている。
今のところ金融危機が伝染・拡大し、クレジットクランチが発生するリスクは、中銀の流動性供給策で回避されるとみているため、まだ、リスクシナリオの位置づけ。
直近のCOTレポートは鉛を除く全ての金属でネット買越しポジションを縮小した。米銀破綻問題を背景に、投機筋のポジションは弱気に傾いている。
銅・鉛はロング・ショートとも減少したが、銅はロングの解消が、鉛はショートの解消圧力が強かった。
その他の金属はロングが減少、ショートが増加、と明確に弱気のポジション取り。米銀問題が一巡すれば、これらのポジションには買い戻しが入り、上昇圧力となる。
2月の中国製造業PMIは52.6(市場予想 50.6、前月 50.1)と市場予想、前月とも上回り、中国のリオープンが始まっていることを確認する内容だった。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.078)、原材料が1.086(1.026)と比較的小幅な上昇に止まっており、先月から需給環境は大きく変わっていないことを示唆している。
規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が53.7(52.3)、中堅企業が52.0(48.6)、中小企業が51.2(47.2)と全ての規模で回復、閾値の50を上回った。
今回の回復は政府のテコ入れ策とペントアップ需要の影響に因るものと考えられ、その持続性には疑問符が付くが足下、景況感が回復している可能性は高いといえる。
ペルーで発生した暴動は沈静化の兆しを見せており、銅の生産障害は徐々に取り除かれている。Glencoreはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを見せ、MMGも銅の輸送再開が見込まれている。
ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。
暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。
後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。
結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。
この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。
かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。
懸念されていた、米国の景気が過熱するリスクだが、欧米金融危機問題を受けた信用不安が意識され、一方で、その信用不安が「個別事案」と整理できる状況になりつつあることから、米国の緩やかな利上げ継続で、景気は循環的な減速パスに戻ったと考えられる。
ただし、まだ市場は「次の獲物探し」を行っているため、価格リスクは当面、下向きとみている。
景気底入れのタイミングの判断は難しいが、恐らくQ423~Q123あたりが景況感の底になると考えられる(従来見通しをやや後ろ倒し)。それまでは、ペントアップ需要の顕在化があっても頭重いのではないか。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
1-2月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲9.2%の88万トン(12月+14.6%の51万4,049トン)と前年比の伸びが減速した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.3%の464万トン(12月+2.1%の210万3,029トン)と過去5年の最高水準で推移している。
12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。
12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
週明け月曜日は、予定された材料に乏しいが、引き続き金融システム不安が市場の主たるテーマとなっているため、ドル安が進行しやすく、中国のペントアップ需要の顕在化が進む中では、上昇圧力が掛ると考える。
仮に、UBSによるクレディ・スイスの買収・合併策がこの週末決裂した場合は大幅な下落になろう。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。
通常、上海の鉄鋼製品先物市場は海外市場の混乱の影響を受け難いのだが、欧米の金融危機懸念を材料に下落し、鉄鋼原料価格にも影響が及んだ。
しかし、鉄鋼原料在庫・鉄鋼製品の在庫水準は低いため、鉄鋼製品価格が下落したが、鉄鋼原料には買いが入った。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲38万1,000トンの1,667万3,000トン(過去5年平均 2,097万9,000トン)と減少、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで発生、過去5年レンジを下回っており、製品供給は十分ではない。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲100万トンの1億3,760万トン(過去5年平均 1億4,435万6,000トン)、在庫日数は31.9日(▲0.2日、過去5年平均36.5日)。在庫の増加を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状況。
原料炭在庫は+5万トンの243万トン(160万2,000トン)、在庫日数は+0.2日の10.5日(過去5年平均 7.5日)と在庫は積み上がっている。
製品在庫の減少は、増産バイアスがかかる中で起きているため、需要が回復し始めた可能性がある。ただ、これが持続可能かどうかはまだ議論の余地が残る。
2月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が50.1(前月46.6)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が48.9(43.9)と改善、それに伴い生産も51.1(50.2)となった。政策効果が顕在化しているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.87(0.83)と閾値の1を下回っており、本格的な回復には至っていない。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは60.2(56.4)と大幅に回復、2021年8月以来の高水準となった明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲44.1%の123万トン(12月▲30.0%の69万9,620トン)と大幅に減速した。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+48.1%の1,219万トン(+7.4%の540万1,000トン)と高い水準を維持している。
12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週明け月曜日は、鉄鋼製品先物が欧米金融機関の経営危機問題を背景に不安定な推移になると予想されることから鉄鋼製品価格の下押し圧力となるが、在庫水準の低さ(鉄鋼製品・鉄鉱石)から堅調な推移を予想。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターはまちまち。欧米金融機関問題が解消に向かうと期待されたものの、市場はこれまでの対策を「不充分」とみているようで、銀行セクターが売られ、株が下落する中で債券利回りが低下、ドル安が進行したため安全資産需要が高まったことが背景。
これまで安全通貨の一角であった「スイス・フラン」が逃避先とならないため、円や金が物色される形となっている。
銀は大幅に上昇、プラチナは上昇、パラジウムは株の下落を受けて続落した。
金価格の構成要素に占める「実質金利のシェア」は低下しているが、まだ金価格に対する説明力は実質金利が最も高い。
一時、クレジットリスクの高まりを受けてリスク・プレミアムも上昇していたが、FRBの金融引締め終了期待を受けた「イールド・ハンティング」の動きがハイイールド債にも入ったため、リスク・プレミアムの水準は乖離している。
それにもかかわらず金価格が高止まりしている、と言うことは何らかの他のリスクや需要を織り込んでいると考えるのが妥当だ。
主なところは、1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた、2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった、3.これらの有形無形のリスクを意識した、安全資産需要の高まり、4.金融引締め継続による企業破綻、あたりだろう。
基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの上限に向かう動きとなっている。過去、ISM製造業指数が55を超えて居ない時は、ボリンジャーバンドの上限に張り付くことが多い。
現在の上限は95倍であり、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落する。
週明け月曜日は予定されている材料が少ないが、この週末に議論が行われる見通しの「UBSによるクレディ・スイスの買収」動向に左右され、神経質な推移になるだろう。
もし決裂すると、それこそリーマン・ショックを超える危機となるため恐らく合意に至るとみているが、その場合は金価格の下落要因に。
仮に決裂した場合、金にも換金売り圧力が強まり、大幅な下落となる可能性はある。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシ・小麦はドル安進行の影響で、銀行危機問題があったものの小幅に上昇。大豆はスプレッド解消の売りに押された。
昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。
週明け月曜日は、恐らくUBSによるクレディ・スイス救済がまとまり、安心感からドル高が進行するため、軟調な推移になるとみる。
仮に決裂した場合はドル安進行のため、買いが入るが、金融危機になるため下落することになろう。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)
低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「エルニーニョ現象の発生で穀物は軟調か」
先日、米気象庁の気象予報センター(CPC)はほぼ3年続いたラニーニャ現象が収束し、今年の夏から秋にかけてエルニーニョ現象が発生する、との見通しを示した。
エルニーニョ現象は発生すると観測地点の水温が上昇し、ラニーニャ現象は水温が低下する。その結果、大気が不安定になって気候が変化する。なお、エルニーニョ現象が発生すると予想されている夏~秋(6-8月・9-11月)の気象状況を簡単にまとめると、以下の通りである。
(日本)夏:冷夏・多雨秋:低温・やや少雨
(世界)夏:南米~アフリカまで「赤道の南側」の気温が上昇、北半球は西欧州を除いて気温低下秋:南米・東南アジアの気温が上昇、オセアニアが少雨、北アジア・北米が低温
ただしここで重要なのは、必ずしも上記の通りの気象状況になるわけではなく、あくまでそうなる傾向が強い、というだけである。
実際、ラニーニャ現象は北半球に厳冬をもたらすと言われているが、欧州は逆に記録的な暖冬となった。しかし、市場参加者は過去の傾向値を見ながらトレードを行うことが多い。
農産品の場合は生産地の気温や土壌水分、日照時間や湿度などが生産に影響を与え、価格にも影響を与えてきた。
しかし、過去のデータの蓄積があるため、多くの農産品でラニーニャ現象発生は価格上昇、エルニーニョ現象発生は価格下落、という整理になっているケースが多く、この見通し通りであれば今年の夏~秋にかけて、多くの農産品価格に下押し圧力が掛る展開になることが予想される。
直近でエルニーニョ現象が発生したのは2018年10月-2019年4月であるが、この間の主要な農畜産品の騰落率を見て見ると弊社が注目している20品目中、11品目の価格が下落している。
最も下落しているのが現在、上昇が顕著なオレンジジュースで、期間中の騰落率は▲35.8%となっている。次いで下げが大きかったのは小麦(▲17.8%)、次いでロブスタ豆(▲10.7%)、肥育牛(▲10.5%)となった。
反対に上昇しているのは豚赤身肉(+35.6%)、ココア(+29.4%)、シンガポールゴム(+24.0%)、粗糖(+15.1%)となっている。
もちろん、当該作物の生産地における生産状況や需要動向に価格が左右されることは間違いがないため、必ずしもこの関係性が維持される訳ではない。
しかし、前回のエルニーニョ現象発生時の騰落状況を把握しておくことは、重要といえるだろう。仮にこのときと同様に農産品価格に下落が圧力が掛るならば、各国政府・中央銀行が気をもんでいるインフレ抑制にも寄与するため、世界経済に取ってはプラスの気象見通しといえる。
ただし、これも繰り返しであるが、必ずしも同じ結果になるわけではない点には注意が必要である。
というのも、その前のエルニーニョ現象発生時(2015年4月-2016年4月)の農産品の騰落率は、20品目中8品目しか下落していないからだ。
しかし、下落した商品を列挙すると肥育牛(▲35.6%)、次いで生牛(▲23.7%)、アラビカ豆(▲9.1%)、ロブスタ豆(▲8.3%)なっており、小麦も▲6.6%、オレンジジュースも▲0.4%と下落している。直近のラニーニャ現象発生時と類似の商品の下落が目立つことに気がつく。
また上昇商品上位も、粗糖(+35.5%)、豚赤身肉(+24.8%)、ココア(+21.7%)、パーム油(+20.4%)となっておりやはり類似の商品が上昇しているところは注目に値しよう。
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