欧米金融危機取りあえず一服も前日比下落の商品目立つ
- MRA商品市場レポート
2023年3月17日 第2414号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「欧米金融危機取りあえず一服も前日比下落の商品目立つ」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はエネルギーセクターが堅調、その他の商品は総じて軟調なものが目立った。
欧米金融機関の経営危機問題が市場の中心テーマとなっているが、米銀11行がファーストリパブリックバンクに預金をおくことで支援することを決定、金融不安が後退したことが米景気の崩落期待を後退させたことで、エネルギー需要の回復期待が高まったことが背景。
やはり、最大消費国である米国の景気動向は、エネルギー価格ヘの影響が小さくない。
一方、注目されていたECB会合は予定通り50bpの利上げが行われた、クレディ・スイス問題が、スイス国立銀行の資金供与で取りあえず沈静化したため、従来通りのインフレ抑制策を継続できる、と判断したためだ。
そもそも、今回の金融引締めは欧米とも対応が遅れた(というよりは、コロナの時に、そもそも経済活動が停滞するのは必至であるのに、金利下げだけではなく不必要な量的緩和や過度な財政出動をやり過ぎた)ことにより、インフレ抑制が困難になっている訳で、元々、景気減速下にあるもののインフレが沈静化していないことが発端である。
恐らく緩和した資金の回収やインフレ沈静化は容易ではなく、今回、いったん物価が低下したとしても「脱炭素の枷」「脱炭素推進による資源需要増加」から、景気が底入れすれば再びインフレになる可能性は高いとみている。
金融機関の経営危機は是々非々で対応し、インフレ抑制は継続する、というのが現状のメインシナリオと考えられる。
なお、商品を含む市場のボラティリティが上昇しているため、ボラティリティに起因するファンドの破綻、と言ったリスク顕在化の可能性はあるため、まだ突発的な下振れリスクは残存している状況(基本、景気が拡大局面になければ、このリスクは顕在化しやすい)。
【本日の見通し】
本日は、欧米金融機関の経営危機問題が一応、一時的に解消したとの見方が強まっていることから、リスク回避的に売られてきた商品に広く買い戻しが入ると予想される。
しかし同時に、利上げが欧米ともまだ行われる見通しであり、景気の循環的な減速パスに復帰したと考えられることから、米銀破綻問題の影響が一巡、株価が上昇していることから、多くの商品に買い戻しが入ると考える。
しかし、米銀問題は完全に解決したわけではなく、景気減速の中では継続すると考えられるため、利上げの影響もあり上値は重いだろう。
本日発表の統計では、ミシガン大学消費者マインド指数(市場予想67.0、前月67.0)に注目している。
期待インフレ率は1年が4.1%(前月4.1%)、5-10年が2.9%(2.9%)が見込まれている。
【昨日のトピックス】
15日に発表された工業金属のフロー需要に影響する中国の工業生産は、1-2月がまとめて発表されたが、前年比+2.4%と、1-12月期累計の+3.6%からは減速した。
GDPに占める個人消費の比率も上昇しているため小売売上高は重要であるが、前年比+3.5%(1-12月期▲0.1%)と回復しており、政府による強制的な移動制限が解除されたことに伴うペントアップ需要の顕在化が確認された形。
ストック需要の指標である固定資産投資は、1-2月期が前年比+5.5%と、1-12月期の+5.1%から加速。特に公的セクターの回復が+10.5%(+10.1%)と好調だった。政府主導の景気刺激が顕在化した形。ただし、民間部門は+0.8%(+0.9%)と減速しており、回復の足取りは重い。
住宅販売は年初来前年比+3.5%(1-12月期▲28.4%)と急回復。政府による不動産セクターのてこ入れ策が奏功し始めていることをうかがわせる内容。
しかし、不動産開発投資は▲5.7%(▲10.0%)と依然、前年比マイナスの状態であり回復にはほど遠い状態。
総じて経済活動の再開を意識させる内容だったものの、その足取りが重いことを確認する内容だった。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。クレディ・スイス問題が中央銀行の資金供給で一服したこと、米銀の救済策も材料視され、リスク回避的に売られていたことから買い戻しが優勢となった。
米国の石油製品出荷は減速しているため景気は減速方向にあると考えられるが、この数日の下落は信用リスク拡大、危機発生に備えた非実需の手仕舞い売りによるものと考えられるため、危機への懸念が後退した中では買い戻しが入りやすい。
ただし、まだ米国の利上げは継続し、その後も金利はしばらく高止まりされる可能性が指摘されていることから、まだ、複数の銀行が経営危機にさらされると考えられ、景気減速の中でのリスク顕在化は価格の下振れリスクを大きくしやすい。
一方、サウジとイランが国交を回復するなど、「OPECプラスの結束」が高まる可能性が出てきていること、そもそも脱炭素組の上流部門投資の不足から、価格の下落余地も限定され、景気底入れ時に価格が早いペースで上昇するリスクは依然として高いとみている。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル
5.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、Q423~Q124頃に景気が底入れするため(景気底入れタイミングをやや後ろ倒しに)、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
また、イランとサウジの国交回復で、よりOPECの結束は強まることが予想される。この場合、価格下落時にOPECが機能するため下落余地はより限定されることになろう。
Q123~Q323 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q423~Q124 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q224以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、この数日の金融不安の後退を受けて買い戻しが優勢になると考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇した。欧米の銀行問題の一巡で景気がクラッシュすることへの警戒が後退したことが材料となった。
また、フランスのLNGターミナルのストが続けば、パイプライン渡し価格であるTTFには上昇圧力が掛ることになる。
直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。
ナイジェリアは2月25日に大統領選挙が行われたが、その結果を巡って混乱が見られているようだ。
また北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。
3.4.は顕在化している。
5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。
LNGのタンカーレートはスエズ以東が横這い、以西が低下した。季節的に需要が減少する時期に入ったため、と見られる。
しかし、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になることから、タンカーレートの水準は昨年よりも高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は小幅に上昇。再び気温が低下する見通しとなったことが材料となった。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は欧州ガス価格が上昇したことを受けて上昇した。
JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入することもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。
1-2月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲9.7%の1,793万トン(12月▲11.8%の1,028万トン)と前年比での減少幅を縮小したが水準は低い。
12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。
12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。
中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
12月の中国の発電量ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
3月12日時点の日本の発電用LNG在庫は238万トン(前年同月末163万トン、2018~2022年平均2,489万9,000トン)と過去5年平均を下回り、在庫は潤沢ではない。
冬場が終了していることから、供給不足が発生するリスクは低下している。しかし、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
本日も、ピークシーズンが終了したことで「凪」の時期に入るため、需要は盛り上がらないと考えられるが、フランスのストライキの影響でLNGターミナルが稼働していない影響が意識されており、スポットカーゴ需給の緩和(陸揚げされないため)は短期的に価格を押し下げると考える。
ただし、再稼働すれば今度は輸入増加に繋がるため、再び上昇することになろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は小動き。新規手掛かり材料に乏しい中、ガス価格は上昇したものの小動きに止まっている。
来冬の危機は完全に去っておらず、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていること、豪州も国内供給を優先する方針であることを考えると、上振れのリスクは残存する。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
1-2月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+71.3%の6,064万トン(12月▲0.1%の3,090万8,000トン)と大幅な増加となった。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられる。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。
これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。
ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
JKM価格を基準に石炭価格の回帰分析を行うと、155ドル(±70ドル)程度であり、現在の価格水準は0.5標準偏差程度上振れしている。別の言葉を使うと、現在の材料では85ドル~225ドルのレンジを下抜け/上抜けするのは難しい環境にある、と言うことだろう。
本日は、ガス価格の上昇に一巡感が出ており、凪のシーズン入りすることから現状の低水準での推移が続くと考える。
◆非鉄金属
LME非鉄金属市場はまちまち。株式市場の影響を受けやすい銅は、欧米金融機関危機問題の一服で買い戻しが入り小幅に上昇したが、その他は総じて軟調な推移となった。
景気が循環的な減速パスに入ることが、今回の金融危機問題で再認され、利上げも緩やかながら継続するとの見通しが、最大消費国である中国の輸出回復観測を後退させたことが背景。
今後は金融市場・欧米市場の混乱と、中国のペントアップ需要の顕在化の綱引きになると予想されるが、短期的には上昇、中期的には景気の循環で下落するとみている。
直近のCOTレポートは鉛を除く全ての金属でネット買越しポジションを縮小した。米銀破綻問題を背景に、投機筋のポジションは弱気に傾いている。
銅・鉛はロング・ショートとも減少したが、銅はロングの解消が、鉛はショートの解消圧力が強かった。
その他の金属はロングが減少、ショートが増加、と明確に弱気のポジション取り。米銀問題が一巡すれば、これらのポジションには買い戻しが入り、上昇圧力となる。
2月の中国製造業PMIは52.6(市場予想 50.6、前月 50.1)と市場予想、前月とも上回り、中国のリオープンが始まっていることを確認する内容だった。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が1.069(1.078)、原材料が1.086(1.026)と比較的小幅な上昇に止まっており、先月から需給環境は大きく変わっていないことを示唆している。
規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が53.7(52.3)、中堅企業が52.0(48.6)、中小企業が51.2(47.2)と全ての規模で回復、閾値の50を上回った。
今回の回復は政府のテコ入れ策とペントアップ需要の影響に因るものと考えられ、その持続性には疑問符が付くが足下、景況感が回復している可能性は高いといえる。
ペルーで発生した暴動は沈静化の兆しを見せており、銅の生産障害は徐々に取り除かれている。Glencoreはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを見せ、MMGも銅の輸送再開が見込まれている。
ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。
暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。
後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。
結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。
この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。
かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。
懸念されていた、米国の景気が過熱するリスクだが、欧米金融危機問題を受けた信用不安が意識され、一方で、その信用不安が「個別事案」と整理できる状況になりつつ有ることから、米国の緩やかな利上げ継続で、景気は循環的な減速パスに戻ったと考えられる。
景気底入れのタイミングの判断は難しいが、恐らくQ423~Q123あたりが景況感の底になると考えられる(従来見通しをやや後ろ倒し)。それまでは、ペントアップ需要の顕在化があっても頭重いのではないか。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
1-2月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲9.2%の88万トン(12月+14.6%の51万4,049トン)と前年比の伸びが減速した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.3%の464万トン(12月+2.1%の210万3,029トン)と過去5年の最高水準で推移している。
12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。
12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
本日は、欧米金融危機問題が一巡したことから買い戻しが入るとみるが、同時に欧米の利上げ継続の可能性も高く、頭重い推移になると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は大幅に下落した。
通常、上海の鉄鋼製品先物市場は海外市場の混乱の影響を受け難いのだが、欧米の金融危機懸念を材料に下落し、鉄鋼原料価格にも影響が及んだ。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲55万9,000トンの1,705万4,000トン(過去5年平均 2,080万4,000トン)とげ減少、例年と異なり在庫の取り崩しが既に発生、過去5年レンジを下回っており、製品供給は十分ではない。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲280万トンの1億3,860万トン(過去5年平均 1億4,417万6,000トン)、在庫日数は32.2日(▲0.7日、過去5年平均36.5日)。在庫の増加を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状況。
原料炭在庫は+15万トンの224万トン(153万8,000トン)、在庫日数は+0.6日の9.7日(過去5年平均 6.9日)と在庫は積み上がっている。
製品在庫の減少は、増産バイアスがかかる中で起きているため、需要が回復し始めた可能性がある。ただ、これが持続可能かどうかはまだ議論の余地が残る。
2月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が50.1(前月46.6)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が48.9(43.9)と改善、それに伴い生産も51.1(50.2)となった。政策効果が顕在化しているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.87(0.83)と閾値の1を下回っており、本格的な回復には至っていない。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは60.2(56.4)と大幅に回復、2021年8月以来の高水準となった明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲44.1%の123万トン(12月▲30.0%の69万9,620トン)と大幅に減速した。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+48.1%の1,219万トン(+7.4%の540万1,000トン)と高い水準を維持している。
12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
本日は、欧米の金融危機問題が個別事案として一服したことを受けて市場が落ち着きを取り戻しており、買い戻しで鉄鋼製品が上昇、鉄鋼原料価格も上昇すると見る。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターはまちまち。欧米金融機関問題が一巡する中、ECBが想定通り50bpの利上げを行ったことで、FOMCでも25bpの利上げが行われるとの見方が強まったことが実質金利の上昇をもたらしたが、「まだ問題が完全に解決したわけではないこと」「利上げが継続する見通しであること」からリスク・プレミアムが上昇し、高値を維持した。
銀は小幅に下落、プラチナは上昇、パラジウムは大幅な下落となった。利益確定の動きと見られる。
金価格の構成要素に占める「実質金利のシェア」は低下しているが、まだ金価格に対する説明力は実質金利が最も高い。
一時、クレジットリスクの高まりを受けてリスク・プレミアムも上昇していたが、FRBの金融引締め終了期待を受けた「イールド・ハンティング」の動きがハイイールド債にも入ったため、リスク・プレミアムの水準は乖離している。
それにもかかわらず金価格が高止まりしている、と言うことは何らかの他のリスクや需要を織り込んでいると考えるのが妥当だ。
主なところは、1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた、2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった、3.これらの有形無形のリスクを意識した、安全資産需要の高まり、4.金融引締め継続による企業破綻、あたりだろう。
基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの上限に向かう動きとなっている。過去、ISM製造業指数が55を超えて居ない時は、ボリンジャーバンドの上限に張り付くことが多い。
現在の上限は95倍であり、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落する。
本日は、金融危機問題が一応一服したことを受けて金利が上昇するものの、利上げ継続に伴う信用不安顕在化のリスクが残ることから、高値を維持すると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。ウクライナ産穀物の黒海経由での輸出延長、120日を主張するウクライナ・トルコと、60日を主張するロシアとの対立で、穀物輸出見通しが不透明なこと、原油高、ドル安などの強弱材料が混在しているため。
正直なところ、この数日の値動きは小動きであり、ポジション調整的な取引が主体と考えられる。
昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。
本日は、欧米金融危機問題が一服、原油に買い戻しが入ると予想されること、黒海合意の先行き懸念から堅調な推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)
低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
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