金融引締めへの懸念根強く軟調
- MRA商品市場レポート
2023年3月1日 第2402号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「金融引締めへの懸念根強く軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はその他農産品や非鉄金属・貴金属の一角が上昇したが、総じて軟調な推移となった。
米製造業部門の減速の一方、サービス業部門は堅調であり、インフレは継続するとの見方から金融引締めが加速するのでは、との見方が価格を押し下げた。
弊社は今年の秋に向けて景気は減速して景気循環銘柄価格が下落する、とみている。しかし、景況感を確認するための指標の1つである「ドル指数とWTI」の動きを見ると、「ドル高・原油高」が同時に発生している日が少し増えてきたように感じる。
このことは「米景気が悪くなく、金利高、ドル高、原油高を容認」していることになり、明確な調整がないまま景気が回復局面入りし始めた可能性を示唆するものだ。
この場合、「インフレ抑制」を旗印に始めた金融引締めが意味を成さなかったといえ、昨年10月に「後数回で利上げは終了」といったFRBの日和が、現在の状況をもたらした可能性は否定できない。
ただ、トランプ政権以降、コロナ発生で大量に財政出動を行い、金融緩和も異次元レベルで行ってきたため、これを解消するのは容易ではない、とも言える。
いずれにせよ、米金融当局のスタンスがより強硬になるリスクはじわじわと高まっていると考えられる。
【本日の見通し】
本日は、複数の重要統計の発表が予定されており、市場は神経質にならざるを得ない。
全体の総括のところでもコメントしているが、想定よりも景気が減速していない場合、更なる金融引締めで景気循環系商品・インフレ系資産価格(殆どがそう)には下押し圧力が、悪い統計の場合には上昇圧力が掛ることになる。
やはり、これまでの数年間、必要だったとはいえ、緩和しすぎ・財政を出動しすぎ、だろう。
2月米ISM製造業指数 市場予想 48.0(前月 47.4) 支払い価格指数 46.5(44.5)
2月中国製造業PMI 50.6(50.1)、非製造業PMI 54.9(54.4)
【昨日のトピックス】
日経新聞電子版のトップに、少子化問題が取り上げられていた。
弊社は商品市場動向を分析する上で最も重要なのが人口動態であると考えており、注視している。
しかし、日本はエネルギー消費がむしろ減少方向にあり、金属消費量も同様であり、商品市場動向分析にとってそこまで重要ではないことから、コラムで日本の人口動態については殆ど取り上げてこなかった。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA275KO0X20C23A2000000/
しかし、改めて日本の状況を確認すると、私の様な団塊ジュニアの世代が「人口のピーク世代」だったのだが、1992年に日本の人口動態がピークを超えると、それ以降の労働環境の悪化を背景に既婚率が低下、同時に出生率も低下した。
そして団塊ジュニアの世代は出産適齢期を終えてしまい、恐らくこの状態だと人口を国内だけで増加させるのは30年~40年の長期戦略にならざるを得ない。
ある意味、アベノミクスの成果でもあるが、専業主婦・主夫を労働力として用いる、という手法は限界に達している。
少し前の統計だが、日本の女性の就労率は米国を抜いている。欧州と比較すればまだ改善の余地がある、と言われているがそれでも数パーセントのレベルだろう。
結局、国力を維持するためには移民を積極的に受け入れる、と言うことが重要な選択肢となるが、国内の治安維持や今、日本が世界に売り込んでいる「日本の良さ」が失われる可能性も出てくる。これは国内では大きな議論になるだろう。
そうなると、減少していく人口の中でいかに稼ぐかを考えなければならないが、急に新しい稼ぎ手となるビジネスが出てくる訳ではない。そして、稼ぐ力が弱まれば、今後予想される資源インフレ発生時に「買えない」ということが定常化してしまう可能性がある。
欧米はインフレが当たり前であり、そのために他社よりも早く、値決めを行う。先物市場が活用されるのもそのためであり、ある意味非常に合理的である。
今一度、日本がどの方向に進むべきなのか、今の延長線上で考えるならば、やはり価格リスクについて考える必要があるのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。ドル指数の下落を受けて買い戻しが入った。足下、米金融政策の方向性や、景気のパスに対する確信が持てない中、50日移動平均線のテクニカルポイントを巡る攻防が続いている。
しかし、このコラムでも繰り返し主張しているように、基本的には景気は減速基調にあるため、原油価格が低下しなければおかしい。上げに不思議の上げあり、下げに不思議の下げなし、である。
ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーしてみると、米国の景気の局面が類しできるが、早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、この観点からも6~7月が目処となる可能性は高い。
なお、オイルメジャーの決算でも明らかなように、「脱炭素の枷」の影響で上流部門の開発が加速する、という感じではないため原油供給が制限され、OPECプラスの価格支配力が増し、価格は下支えされることになりそうだ。
また、価格が下落すれば記録的な低水準となった米国の戦略備蓄も積増しの可能性があり、価格を下支えしよう。WTIは、一部政府高官が戦略備蓄再積増しの目処として発言したとされる80ドルを下回っている。
しかし、逆にバイデン政権は戦略備蓄の追加放出を決定している。政権側がインフレ再燃を過度に警戒していることの表れ、といえるだろう。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル/75-95ドル
5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、今年のQ323~Q423頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
しかし、ここに来て景気の減速が想定ほどではないかもしれない、との見方が徐々に出始めている。この場合、明確な調整がないまま原油価格が上昇に転じる展開も想定される(アップサイドのリスクシナリオ)。
この場合は年後半に再びインフレが意識されるため、追加利上げで年後半に景気が急減速、と言うことも有り得る(ダウンサイドのリスクシナリオ)。
また、年後半の急減速があった場合、景気底入れがQ124にずれ込むリスクシナリオも想定しておいた方が良い状況になってきた。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
Q123~Q223 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、米ISM製造業指数に注目が集まるが、市場予想は改善見通しであり、支払い価格指数も上昇見込みであり、予想通りであれば引締め観測強化で軟調な推移に。
なお、今晩発表の米石油統計では原油在庫の+1.4MBの増加が予想されているが、朝方発表のAPI統計では+6.2MBの大幅な在庫増加が確認されており、予想に反してベアな内容にある可能性は高く、この面でも価格は下押しされるか。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は期近が続落した。3月入りが目前となり、冬場のピークシーズンが終了間際であることが価格を下押ししている。
2022年のTTF価格は64.46~345ユーロのレンジだったが、今年のレンジは46.67~81.15ユーロの狭いレンジでの推移となっており、足下の気温上昇やロシアからの供給停止がこれ以上深刻化していないことを背景とした供給過剰感が価格を低迷させている。
直近のガス在庫動向シミュレーションでは、▲5%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうであり、ガス供給を巡る欧州のリスクは後退している。
しかし、需要削減が行われ無かったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する事態になればガス供給は不足することが予想される(外貨を確保したく、かつ、生産停止によるガス生産設備の毀損リスクを)。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。
ナイジェリアは2月25日に大統領選挙が行われたが、その結果を巡って混乱が見られているようだ。
また北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。
3.4.は顕在化している。
5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。
2月20-26日のLNGトレードは、905万トン(前週859万トン)と増加、スポット調達の比率は23%と、先週の16%から上昇した。
スポット調達の増加は北欧とイタリアが横這いだったが、その他の欧州の調達が+30万トン増加した。日中台韓の調達も+40万トンと増加。
ターム契約は、先週から▲4%減少、スポット取引は+53%の増加に。恐らくスポット価格の下落がスポットカーゴへのシフトを促したと考えられる。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。上述の通り、割安感からスポットカーゴ需要が増加していることが影響したようだ。
また、季節的には需要が増加するタイミングではないが、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になる。
これにより、アジアもカーゴの奪い合いが起きると考えられ、中国の緩やかなリオープン、しばらくすると北アジアは夏場の調達が意識されることから、タンカーレートも上昇が予想される。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物市場は、材料薄の中ほぼ変わらず。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は欧州ガス価格の下落を受けて小幅に続落。
JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入することもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。
12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。
12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。
12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。
中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
12月の中国の発電料ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
2月19日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末169万トン、2018~2022年平均225万7,100トン)と過去5年レンジを上回っている。
今冬は乗り切ったが、ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
本日も、冬場終了が目前となるなか、需要の減少観測で軟調な推移が予想される。しかし、過去データと弊社原油価格予想を元にした回帰分析によるJLCの推計が、3月・4月ともは18ドルであり、現在のJKMは既にこの価格を下回っており割安であることから、そろそろ下支えされると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は小幅に下落した。ピークシーズンの終了で足下の需要が抑制されていること、ガス価格の下落が影響している。
また、豪州炭の主要な買い手である日本勢が低カロリー炭やその他の地区の石炭へのシフトを進めている可能性が出てきたことも、価格を従来の水準よりも押し下げている。
しかし、来冬の危機は完全に去っておらず、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていること、豪州も国内供給を優先する方針であることを考えると、上振れのリスクは残存する。
豪州のNSW州が国内備蓄積増し義務化をしていることなどによる、供給減少もあるだろうが、豪州の週間石炭輸出は減少傾向にある。
特に最大輸入国である日本向けの輸出が減少したほか、日中台韓以外の地域向けの輸出も大幅に減っている。
一方で中国の輸入も回復しているが、小幅な増加に止まっており、豪州炭需給をタイト化させるといった感じではない。
結局、「欧州の脱ロシアが完全に完了すると期待される2027年頃」までは、上振れリスクは小さくないとみている。
12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。
これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。
冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
本日は、ガス価格の低下で価格は下押しされやすいものの、同時に、価格下落による割安感もあり現状水準を維持すると見る。
◆非鉄金属
LME非鉄金属市場はまちまち。アルミ、銅、亜鉛は上昇したがその他の金属は大きく水準を切下げた。
基本、ドル指数動向が価格を左右しやすいが、昨日はドル指数は軟調に推移し、取引後半で上昇に転じている。LME非鉄金属は時間的に米国時間の後場の動きをフォローしきれないので、後半のドル高進行が余り材料にされなかった。
昨日発表されたCOTレポートは銅のロング(ロング・ショートとも増加したが、ロングの増加が顕著)が増加したが、その他は引き続きロング幅を削った。基本、弱気のポジション取りとなっている、といえる。
亜鉛、鉛、ニッケルはロング減少、ショートが増加。アルミは流動性の観点から銅と並んで投機の対象となりやすいが、ロング・ショートとも増加したがショートが勝った。スズは逆にロング・ショートとも減少したが、ロングの減少幅が大きかった。
新規のショートの積み上がりは、先々の上昇圧力となる。かなり気の長い話だが、年後半には構造の変化に伴う買いが入ると予想される。ただ、四半期毎に決算が出るファンド筋からすれば、この3月、非鉄金属にテクニカルな上昇圧力が掛る可能性が高い。
1月の中国製造業PMIは急速に改善している。ゼロコロナ解除と不動産セクターのテコ入れの影響によるものだ。しかし、PMIは「前月と比較したときの景況感」をヒアリングしているため、「政治的に強制的に経済活動が稼働・停止」を繰返している状況下では、統計の連続性が担保されていない。
今後の動向はやはり2月のPMIを待たなければならないだろう。ただ、中国の財政余力、海外経済の減速を考えると2月も高水準の回復は余り期待するべきではないだろう。さらに改善があるならば、中国が3月の全人代を睨んで追加的な対策を行った場合、だろう。
なお、インドで問題になっている「アダニ事件」が拡大し、アダニグループ総帥と同郷でのモディ首相にまで影響が及んだ場合、同国の近代化に向けたインフラ投資の障害になることが懸念される。
今のところは比較的冷静な対応になっているが、仮に黄色信号が赤信号になった場合には非鉄金属を含む工業金属需給への影響が大きくなるため、注意しておく必要はあろう。
また、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。
暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。
後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。
結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。
この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。
かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。
中期的には景気の循環によって、恐らくQ323~Q423あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移を予想する。なお、米景気が想定よりも沈静化していない可能性はあり、景気底入れのタイミングがQ124にずれ込むリスクは想定しておいたほうが良さそうだ。
リスクとしては、想定よりも景気が減速せず回復基調に入り非鉄金属価格も上昇するケース。それに伴うインフレ懸念の高まりが金融引締めを加速させ、年後半に急落するケース。
特に金融引締めスタンスが長期化した場合、財務体力がなく同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の調整幅は大きくなり、回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。
また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生する恐れがあることも価格面で下向きのリスクだ。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。
12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。
しかし、2月以降はリオープンの動きが始まるため回復(前々年程度の回復が上限か)が予想される(1月は中国正月の影響で営業日数が少ない)。
12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
本日は、中国製造業PMIに注目が集まる。先月はリオープン期待で大幅に改善したが、その基調が続くかどうか。
一方、米国の金融引締めの可能性がISM製造業指数の結果、高まることになれば金融面では価格を下押しへ。結局、現状水準でもみ合う可能性が高い。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。
大気汚染の影響で河北省の都市で生産抑制方針が報じられたが、鉄鋼製品価格は引き続き軟調な推移に。在庫の減少や建設活動の稼働再開が材料で上昇してきたが、まだ経済活動の再開が緩慢であることを示唆している。
今週末から全人代が始まるため高炉も稼働停止を余儀なくされることから、しばらくは駆け込み需要で鉄鋼原料価格は堅調と見る。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+65万5,000トンの1,781万9,000トン(過去5年平均 1,546万2,000トン)と増加。ただし増加ペースが急速に鈍化している。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+255万トンの1億4,090万トン(過去5年平均 1億4,190万6,000トン)、在庫日数は30.1日(+0.6日、過去5年平均29.8日)。在庫の増加を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでも増加に。
原料炭在庫は+14万トンの212万トン(138万トン)、在庫日数は+0.6日の8.5日(過去5年平均 5.4日)と在庫は積み上がっている。
製品在庫の増加ペースの鈍化は、増産バイアスがかかる中で起きているため、需要が回復し始めた可能性はある。
1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が46.6(前月44.3)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が43.9(38.9)と改善、それに伴い生産も50.2(43.4)と2022年1月以来の50超えとなった。政策効果が一定程度見られているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.83と在庫の積み上がりで先月(0.94)から低下。原材料レシオは1.00(0.89)と上昇しているが、製品需要増加に前倒し対応した結果在庫に低下圧力が掛かったためと考えられる。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは56.4(54.4)と回復、明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
しかし、これらの数値も中国政府主導のテコ入れ策が奏功すれば改善しようが、あくまでゼロコロナ状態が通常状態に戻るだけ、ともいえ今後も回復が継続するかどうかは2月のPMIを待つ必要がある(アンケートの取り方的に、「先月との比較」で調査を行うため、ゼロコロナのような経済に不連続をもたらす施策が採られた後の統計は1ヵ月だけで判断するべきではない)。
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。
12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
本日も、中国全人代前の駆け込みもあり、鉄鋼原料価格は高値を維持すると見る。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは金価格が上昇、銀も上昇、プラチナも上昇、パラジウムは下落した。
昨日は米長期金利が上昇したが、原油価格の上昇を受けて期待インフレ率が上昇したため実質金利が低下したこと、リスク回避の金需要増加が価格を支えた。
株価の連動性が高いパラジウムは下落して引けている。
金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造に変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。
一時、クレジットリスクの高まりを受けてリスク・プレミアムも上昇していたが、FRBの金融引締め終了期待を受けた「イールド・ハンティング」の動きがハイイールド債にも入ったため、リスク・プレミアムの水準は乖離している。
それにもかかわらず金価格が高止まりしている、と言うことは何らかの他のリスクや需要を織り込んでいると考えるのが妥当だ。
主なところは、1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた、2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった、3.これらの有形無形のリスクを意識した、安全資産需要の高まり、あたりだろう。
基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。
ただ、その価格水準は弊社が想定していた価格(1,650ドル程度)よりは高い水準になるのではないか。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオは85倍と、予想した通りであるがボリンジャーバンドの上限に向かう動きとなっている。過去、ISM製造業指数が55を超えて居ない時は、ボリンジャーバンドの上限に張り付くことが多い。
現在の上限は95倍であり、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落する。
ただし米景気が図らずも底入れする可能性が出てきているため、まずは90倍が試されることになるだろう。この場合、20ドル程度が目先の下値になる。
本日は、米ISM製造業指数が若干改善する見通しであり、金融引締め加速観測を受けて軟調な推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。ドル指数が上昇したことや、中国がアルゼンチン産の大豆の購入をキャンセルし、より安価なブラジル産へのシフトを進めたことなどが材料となった。
昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。
本日は、米ISM製造業指数が若干改善する見通しであり、金融引締め加速観測を受けて軟調な推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ首相の汚職疑惑が現実の物となった場合の近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
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