OPEC+サプライズ減産でエネルギー急騰
- MRA商品市場レポート
2023年4月4日 第2426号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「OPEC+サプライズ減産でエネルギー急騰」
【昨日の市場動向総括】
本日は、エネルギーセクターやその他農産品価格が上昇したが、その他の商品は軟調な推移となった。
今回(というよりも年内)減産が見送られるとみられていたOPECプラスが、OPECプラスとしては減産を維持したが、自主減産を決める国が複数発生したことが原油価格の急騰をもたらし、その他のエネルギー価格の押し上げ要因となった。
なお、こうしたエネルギー・資源価格の上昇は日本の輸入物価指数や企業の調達コスト上昇を通じて日本国内のスタグフレーションリスクを高めることになる。
日銀短観も景況感の減速が確認されているため(詳しくは「昨日のトピックス」を確認ください)、日本景気の先行きは楽観できない。
一方、米国時間に発表された米ISM製造業指数が46.3(市場予想47.5、前月49.3)と予想を上回る減速。需要の先行指標である新規受注も44.3(47.5、47.0)と大幅に減速、さらに雇用が46.9(前月49.1)と減速が確認された。
このことは少なくとも景気の先行性がある製造業の雇用環境・ビジネス環境が悪化していることを示唆しており、中期的な景気のトレンドが下向きにあることを確認するもの。
しかし、恐らくISM非製造業指数は相対的に良好な内容となり、雇用や新規受注もまだ高い水準が維持されるとみられ、今回のエネルギー価格の上昇が金融引締め観測をさらに強めることから、やはり景気のパスは下向きと考えられる。
【本日の見通し】
本日は、原油の高騰とOPECプラスの価格防衛への意思が確認されたことでエネルギー価格が高騰したが、昨日の上げ幅の大きさ、ISM製造業指数の減速を受けていったん売られる商品が目立つと考えられる。
その一方で、景気減速を受けたドル安進行が価格を下支えすることになろう。
なお、今回のOPECプラスのサプライズ減産を受けて原油価格が高止まりするため、これでFRBは金融緩和には動きにくくなってきた。FEDウォッチでも、直近では5月の利上げは見送りの可能性が51.6%だったが、昨日1日で25bpの利上げの可能性が56.7%に上昇している。
しかし、これはISM製造業指数が示すように景気減速であっても利下げに踏み切り難くなることを示唆している。脱炭素の影響で化石燃料供給のフレキシビリティが低下する中、OPECプラスの価格支配力は増しており、「大幅な景気減速に至るまでは」価格に対する影響力が小さくないことを再確認する形となった。
本日発表予定の経済統計・イベントで注目は以下の通り。
・2月米JOLT求人 10,500千件(前月 10,824千件)
・2月米製造業受注 市場予想 前月比▲0.5%(前月▲1.6%) 除く輸送機器 ±0.0%(+1.2%)
・2月米耐久財受注改定 ▲1.0%(±0.0%)
・3月米自動車販売 1,450万台(1,489万台)
【昨日のトピックス】
昨日発表された日銀短観は、ベンチマークである大企業製造業の景況感指数は5期連続の悪化となった。しかしこれは2022年第1四半期をピークとする景気の循環的な減速によるものであり、ここからカウントするとちょうど5四半期である。
通常、景気の山から谷までは2年程度掛るため、同じ循環性が維持されるのであれば、日本の景気底入れはQ124頃となり弊社が指摘している2024年に入ってからの世界景気の底入れのタイミングと付合する。
コロナからの脱却、中国のペントアップ需要の顕在化などを材料とした需要の回復は見込まれるため、日本の景気もそこまで悪化する感じではないが、基本的に今年は年末に掛けて景気が減速する方向にあることを再確認したと言える。
なお、弊社が業況判断DI以上に重視している「需給判断DI」は大企業製造業が一時1990年、2018年以来のプラス圏となったが、急速に低下している。通常、水面上に需給判断DIが浮上し、長期にわたってその水準を維持することはこの50年で数えるばかりしかない。
また、「販売価格・仕入価格判断DI」は過去数回、仕入価格が急騰し、時間差を以て仕入価格ほどではないが販売価格が上昇するケースがあったが、いずれも販売価格が水面上に出てからしばらくして仕入価格が下落、その後、販売価格も低下するということが起きている。
今回は「新たな冷戦入り」の可能性があるため、この50年とは異なる動き(コストが余計にかかり、西側諸国は高い水準での調達を余儀なくされる)となる可能性は低くないが、過去の例を見るに、短期的に価格が調整する可能性も同様に低くないと見ている。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は急騰した。年内は追加減産は行わないとしてきたOPECプラスが、OPECプラスとしては減産幅を維持するものの、各国がサプライズで自主減産を決定したことが材料。ISM製造業指数の悪化はあったが、昨日は材料視されなかった。
5月からサウジアラビアが▲50万バレルの減産、その他の国もあわせると▲110万バレル、7月以降はロシアの減産延長を受けて年末まで▲160万バレルの追加減産となる。これにイラクからトルコ経由の▲50万バレルの減産を考慮すると、各々▲160万バレル、▲210万バレルの減産となる。
ほとんどの市場参加者が追加減産は見送られるとみていたため完全にサプライズとなった。OPECプラスの減産で景気後退局面であるが価格は下支えされると予想していたが、これまでOPECプラスが追加減産実施を繰返し否定してきたため、弊社も追加減産は行われない、という前提で4月度の予想を見直ししたばかりだ。
今回の減産が100%遵守された場合、弊社の価格予想モデルを元にすると、Brent原油は2023年が3.5ドル、2024年が5.5ドル程度、弊社の予想よりも高い水準になると見られる。
しかし、中期的に景気の減速が需要を減じて価格が下落する、という流れは大きく変わらない。実際、景気が減速する局面で原油価格が高騰するならば、レーショニングが起きる可能性も高まる。
イラク北部のクルド自治政府からの原油(37万バレル/日)と、北部キルクーク油田(7万5,000バレル/日)からの原油輸出を「違法」とするトルコの主張を受けた国際仲裁裁判所の判決を受けて、原油輸出は停止している。
弊社は年後半に景気が底入れして原油価格もそのタイミングから上昇、と見ていたがQ124頃まで、場合によるとQ224まで景気底入れのタイミングがずれ込む可能性が出てきた。
米当局の金融機関対策の状況にもよるが、見通しはそれに従って変更される見通し。
直近のWTI投機筋のポジションは3月21日時点でWTIがロングが前週比+8132枚、ショートが+22,691枚と新規ショートポジションが増加している。
Brentは3月21日付けのCOTレポートで、ロングが▲42,890枚と大幅に減少、しかしショートが+13,431枚も増え、こちらも新規にショートポジションが取られている。
ファンド筋は基本、受け渡すべき現物を保有しないため、これらのショートポジションはいずれかのタイミング(相場の反転、四半期末)で買い戻しが入り、価格を一時的に押し上げる可能性が高い。
さらに言えば、リーマン・ショックのような市場の機能不全を投機筋はまだ織り込んでいる訳ではない。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は 3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 60-80ドル/70-90ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落。欧米金融危機の影響もあり、景気底入れのタイミングはQ124~Q224に後ろ倒しした。
H224以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。
Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、サプライズ減産の翌日であり、いったん下落余地を探る動きになると考える。ただ、この上昇でテクニカルポイントを上抜けしており、しばらくは100日移動平均線となる82.70ドル程度が意識されることになろう。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇。OPECプラスがサプライズ減産を実施したことを受けてエネルギーセクターに買い戻しが入る流れを、欧州ガス価格も影響を受けた。
直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。
また、ロシアからの供給が停止した場合も、かなり早い夏の前の段階でガスは大幅に不足することが予想される。この場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
足下のガス在庫の水準は高いが、ロシア産ガスの供給の完全回復は現状あり得ないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開。ただし安定稼働になるかどうかは半年程度、稼働状況を確認する必要がある。
ナイジェリア北部ではイスラム過激派勢力と政府の対立も続いているうえ、物価高騰、新紙幣導入による混乱が、国内情勢不安に拍車を掛けている状況。供給はしばらく不安定な状態が続こう。
3.4.は顕在化している。
5.はしばらく「凪」のシーズンに入る。恐らく今年はエルニーニョ現象が発生
LNGのタンカーレートはスエズ以東が横這い、以西が低下した。季節的に需要が減少する時期に入ったため、と見られる。
しかし、例年と異なりロシアの供給が事実上停止しているため、北欧は不需要期であるにも関わらず、春先から夏にかけてもLNG調達が必要になることから、タンカーレートの水準は昨年よりも高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は下落。穏やかな気温見通しを背景に。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物も上昇。OPECプラスの自主減産の影響で原油価格が大幅に上昇したことが影響した。
JKMは中国のリオープンの遅れや季節的に北アジアが穏やかなシーズンに突入していることもあり、恐らくQ223は一年を通じて発電燃料が割安な時期になると考えられる。
2月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+0.9%の866万トン(1月▲17.8%の927万トン)と前年比で増加したが、1-2月で見ると、▲9.7%と低迷している。
2月のLNG輸入は前年比+7.1%の521万1,000トン(前月▲24.4%の590万8,000トン)と1月の春節時よりも回復した。
2月のパイプラインベースの輸入は前年比▲7.1%の345万トン(前月▲3.27%の336万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。ロシアからの輸入は増加したが、ウズベキスタン・トルクメニスタンからの輸入が減少した。
1-2月の中国の天然ガス生産は前年比+7.0%の2,926万5,000トン(12月+5.7%の1,500万トン)と増加している。
2月の中国の電力消費量は前年比+11.5%の6,950億kwh(12月▲4.6%の7,784億kwh)と回復したものの、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はない。しかし、付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくない。
この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
3月26日時点の日本の発電用LNG在庫は229万トン(前年同月末163万トン、2018~2022年平均2,489万9,000トン)と過去5年平均を下回り、在庫は不足。ただしピークシーズンではないため問題がある水準ではない。
ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。
また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
本日は、原油価格急騰を受けて上昇した昨日の反動でいったん下落すると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は大幅に上昇し、期先の価格は240ドルに達した。OPECプラスがサプライズ減産を行う中でエネルギーセクター全体に買いが入る流れとなった。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は170ドル、±1標準偏差で100~240ドル程度までが説明可能なレベルと水準が20ドル切り上がっている。
2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)で有ることを考えると、年後半に向けて価格上昇リスクは小さくないとみる。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を切下げるとみているが、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
2月の中国の石炭輸入は前年比+159.8%の2,917万トン(前月+30.3%の3,148万トン)と減速。リオープンの遅れが影響した。
石炭輸入はモンゴルからの輸入増加が顕著であり、ロシアからの輸入も高い水準を維持している今後はカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
1-2月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不要になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の価格上昇や供給面の問題から、安価な石炭へのシフトが進んでいるためと考えられる。
これは構造的な需給緩和期待が高まっていることの証左、とも言えるだろう。
本日は、OPECプラスのサプライズ減産を受けたエネルギーセクター全体の買い戻しの動きから、石炭価格もこの影響を免れないと見られ、上昇圧力が強まることが予想されるが、昨日の上昇幅は大きく、いったん下落すると考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。OPECプラスのサプライズ減産の影響で原油価格が高騰してインフレ懸念が強まったが、米ISM製造業指数の減速で景気減速懸念が意識されたことが背景。
中国のペントアップ需要の顕在化が価格を押し上げているが、金融市場・欧米市場の混乱により、欧米の景気は年後半に向けて減速するという、これまで想定していたパスに復帰が見込まれることから、中期的には景気の循環で下落すると予想される。
今のところ、今回の金融危機がシステミックリスクとなるケースはリスクシナリオと位置づけている。しかし1.景気が減速する中で、2.米国の政策金利高止まりが続く中では、想定しているより米金融環境は不安定な状態が続くと見られる。
直近のCOTレポートは亜鉛・ニッケル・スズがネット買越しポジションを縮小させたが、銅と鉛、アルミは買越し幅を拡大した。
個別に見ると、銅・鉛はロングの増加とショートの買い戻し、亜鉛・ニッケルはロング減少・ショート増加、アルミ・スズはロング・ショートとも増加したがアルミは買いが、スズは売りが上回った。
金融市場動向を敏感に受けやすいベンチマークの銅は、金融危機が一巡したことや期末を控えた買い戻しが優勢となった。流動性の大きなアルミはロング・ショートとも増加している。
今のところ市場が「機能不全になるリスク」をLME非鉄金属市場は意識していない。恐らく、4月に入ってからリオープン・ペントアップ需要の顕在化を意識した買いが入り、再び上昇することになろう。
3月の中国製造業PMIは51.9(市場予想51.6、前月 52.6)と市場予想、前月とも上回り、中国のペントアップ需要の顕在化が続いていることを確認する内容。
需要の指標である新規受注は減速(54.1→53.6)受注残も減少(49.3→48.9)、輸出向け新規受注も閾値の50は上回ったが、50.4(52.4)と大きく減速している。
また、投入価格も50.9(54.4)と急減速、卸価格も48.6(51.2)と減速している。このことは製造業に関しては需要面の回復が遅れていることを示唆している。
結局、ペントアップ需要の顕在化は続いているものの、1月・2月の勢いはなくなった見るべきではないか。
ただし、新規受注在庫レシオは完成品が0.924(0.935)、原材料が1.110(1.086)と完成品は余剰だが、原料が不足していることを示唆。渇水などの影響で国内生産が影響を受けていると見られ、短期的にはペントアップ需要と相まって、非鉄金属を含む工業金属価格を押し上げるだろう。
ペルーで発生した暴動は沈静化の兆しを見せており、銅の生産障害は徐々に取り除かれている。Glencoreはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを見せ、MMGも銅の輸送再開が見込まれている。
懸念していた米国の景気が過熱するリスクは、欧米金融危機問題を受けた信用不安が意識され、一方で、その信用不安が「個別事案」と整理できる状況になりつつあることから、景気は循環的な減速パスに戻ったと考えられる。
ただし、政策金利高止まりが続く以上、類似の事象が発生するリスクは小さく無い。
景気底入れのタイミングの判断は難しいが、FRBは政策金利を高止まりさせる見通しであり、Q124、場合によるとQ224にずれ込む可能性が出てきた。それまでは、中国のペントアップ需要の顕在化があっても頭重いのではないか。
同時に、銀行救済のためにFRBのバランスシートは拡大しており、下落余地も限定されると予想される。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
1-2月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲9.2%の88万トン(12月+14.6%の51万4,049トン)と前年比の伸びが減速した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.3%の464万トン(12月+2.1%の210万3,029トン)と過去5年の最高水準で推移している。
1-2月の中国の精錬銅生産は+4.4%の194万5,000トン(12月+▲0.1%の96万2,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は1-2月が前年比+5.8%の282万4,000トン(12月 前年比▲4.8%の147万6,000トン)と伸びが加速した。
2月の銅スクラップの輸入は前年比+58.3%の17万3,825トン(前月▲20.3%の12万9,756トン)、年初来累計でも前年比+11.3%となっており、リオープンの動きで在庫積増しの動きが強まっていると見られる。
本日は、エネルギー価格の上昇がインフレ率を押し上げること、米ISM製造業指数の悪化を受けたドル安進行が価格の上昇に繋がるものの、金融引締め再加速懸念を強めるため結局軟調な推移になると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は大幅に下落した。
中国国家発展改革委員会が、いくつかの先物会社に対して鉄鉱石市場に関する強気見通しやニュースの提供を停止するよう指示があったとの噂を受けて、当局の価格面での介入観測が価格を押し下げた。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲45万1,000トンの1,568万4,000トン(過去5年平均 1,972万3,000トン)と減少、例年と異なり在庫の取り崩しがかなり早いペースで進み、水準は過去5年レンジを下回っている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲10万トンの1億3,690万トン(過去5年平均 1億4,441万6,000トン)、在庫日数は31.5日(±0.0日、過去5年平均36.4日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状況。
原料炭在庫は▲18万トンの201万トン(117万トン)、在庫日数は▲1.0日の8.4日(過去5年平均 8.5日)と在庫水準はまだ高いものの、日数ベースでは過去5年へ金を下回り、需給はタイトになってきた。
3月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が48.4(前月50.1)と減速した。しかし、新規受注は50.2(48.9)と増加しているため景況感の悪化というよりは完成品在庫(前月比▲11.7)、原材料在庫(▲13.2)の減少がヘッドラインの数値を下振れさせたと考えるのが妥当。
鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品レシオは1.13(0.87)と大幅に上昇、新規受注原材料レシオも1.31(0.95)と大幅に上昇しており、鉄鋼製品・鉄鋼原料の需給がタイトであることを示唆している。
しかし、輸出向け新規受注は42.1(49.8)と急減速しており、今回の需要が国内の需要(ペントアップ需要+地方政府財政を何とかしなければならない中での不動産市場のテコ入れ)に因るものと考えられ、中国の財政状況と、「更なる不動産バブルの発生を容認できるのか」という視点から考えれば、持続可能ではないとみている。
とはいえ、中国の建設業PMIは65.6(60.2)と統計が確認可能な2012年5月以降の最高水準となっており、しばらくはこの建設セクターの戻り需要が鉄鋼製品・鉄鋼原料需給をタイト化させ、価格を高止まりさせると考える。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲44.1%の123万トン(12月▲30.0%の69万9,620トン)と大幅に減速した。
1-2月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+48.1%の1,219万トン(+7.4%の540万1,000トン)と高い水準を維持している。
2月の中国粗鋼生産は前年比+6.9%の8,010万トン(前月▲2.7%の7,950万トン)と回復している。
中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、例年よりも早く在庫は減少している。中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
本日は、中国当局の介入観測や、原油価格高騰による金融引締め再加速懸念を背景に水準を切下げる展開か。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。原油価格の上昇で期待インフレ率が上昇する一方、ISM製造業指数の減速を受けて長期金利が低下したこと、ドル安進行が材料となった。
銀価格は小幅に下落、プラチナも同様、パラジウムは株高を受けて小幅に上昇した。
足下、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇している。金のリスク・プレミアム上昇要因の主なところは、
1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めたこと2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念
あたりだろう。基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。
仮にこの在庫積増しがなければ現在の価格は1,800ドル程度、と言うことになる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。
しかし、リスク回避の安全資産需要の増加が見込まれること、(安全資産ではないが)G7諸国がマネーロンダリングや、金融機関の新たなリスクとなっている仮想通貨を規制・廃止にする方針であることを考えると、弊社が想定していた1,600ドル台への下落は難しくなったとみている。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはほぼボリンジャーバンドの中心(移動平均)程度で推移しているがトレンド的には上昇方向にある。
現在のボリンジャーバンドの上限は94倍で、この水準までの上昇があると19ドルまで価格は下落することになる。
本日は、原油価格上昇による実質金利低下圧力が価格を押し上げると予想される。市場の注目するPCEデフレーターが発表されるが、恐らく米国の利上げ継続を肯定する内容、と言っても5月頃で利上げは終了することを意識させる内容になると予想され、基準価格は高止まり、金利高止まりでリスク・プレミアムも高止まりで高値維持と考える。
銀・PGMも「利上げの打ち止め期待」で堅調な推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇。米ISM製造業指数の悪化を受けてドル安が進行する中、堅調な推移になる穀物が目立った。
ブラジルでは大豆の収穫の遅れが指摘されており、米国の気象状況の改善がトウモロコシ価格を押し下げている。
本日は、景気減速観測を背景としたドル安の進行と、原油価格の上昇を受けて堅調な推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)
低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「穀物生産コストは低下の見通しだが」
コロナ・ショック、ウクライナ危機以降、資源価格の高騰が続き、さらに穀物供給への影響が大きいラニーニャ現象が長らく発生していたため、穀物価格は軒並み高値での推移となっていた。
しかし、長らく続いたラニーニャ現象が終了の見通しであることや、米国のインフレ抑制を目的とした金融引締めの影響でドル高が進行し、穀物価格は下落、概ねロシアの軍事侵攻以前の水準まで低下している。
現在、アルゼンチンの生産減少見通しや、ラニーニャ現象の余波による米国の渇水などの影響で生産への懸念が出ているため強含みする局面も見られる。
しかし、3大穀物価格の各経済統計との相関性を比較すると、総じて最も相関性が高いのが海洋ニーニョ指数であり、これは今後上昇の見通しであるため穀物価格にはマイナスに作用することが予想される。
またこれに次いで説明力が高いのが米国の10年期待インフレ率である。米国はインフレ抑制目的で金融引締めを行っており、10年期待インフレ率は昨年4月がピークで3.04%まで上昇していたが、現在は2.3%台まで低下している。
10年期待インフレ率は原油価格との相関性が高く、原油価格は需要が景気動向に左右されるため、今後、欧米の景気が循環的な減速局面入りしていることを考えると年後半~来年に掛けて原油価格が下落する可能性は高く、同時に期待インフレ率も低下が予想される。
この結果、穀物価格にも下押し圧力が掛ることになるだろう。実際、米国の穀物の生産コストのうち、電機料金、肥料、化学薬品(農薬など)の占める比率は、直近のUSDAのデータでは、トウモロコシが26.1%、小麦が22.5%、大豆が16.0%となっており、原油価格の下落はこれらのコストの下押し要因となるため、穀物価格の発射台となるコストも低下が見込まれる。
なお、現在の肥料や原油価格の水準を元に2023年の原油に連動しそうなコストを算出すると、現在の見通しでも2021年度程度までしか低下しない見込みだ。
しかし、生産コストに占める比率が高いということは、逆にこれらのコストが上昇すれば価格の押し上げ要因になる、ということである。
仮に米国が早期に利下げに踏み切れば原油価格が上昇することもあり得るし、来年第1四半期頃と思われる景気底入れが年内にずれ込むと言ったことがあれば生産コストが押し上げられ、穀物価格にも上昇圧力が掛ろう。
また、エルニーニョ現象は必ずしも穀物生産にプラス(価格にはマイナス)の天候になる訳ではないこともリスク要因の1つだ。
この他にも、農産品生産に必要な化学肥料の主要供給国がロシア、ベラルーシ、中国であることを考えると、西側陣営ヘの供給量が政治的な意図で絞られるリスクは排除できない。
実際、欧米は中国向けの半導体関連装置の供給を制限する方針であり、これの報復が食品分野まで及ぶリスクはあるだろう。
日本の2022年の食料品・動物輸入は金額ベースで8兆4,530億円だが、そのうち首位が米国で1兆9,120億円(22.6%)だが、2位は中国で1兆1,176億円(13.2%)に及ぶ。
恐らく穀物以外の食料品価格にも下押し圧力が掛る可能性はあるものの、「意図的に輸出してもらえない」あるいは「価格が引き上げられる」というリスクは残ろう。価格のみならず、日本が直面する「食の安全」のリスクは改めて小さくはない。
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