CONTENTSコンテンツ

FRBタカ派強調と3連休を控えて軟調
  • MRA商品市場レポート

2023年2月20日 第2395号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「FRBタカ派強調と3連休を控えて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は軒並み下落した。米景気(特にサービス業)がFRBが期待しているほど減速していないことを受け、FOMCメンバーがよりタカ派的な発言にシフトしていることが、これまでの楽観を後退させたこと、米3連休を控えたポジション調整が価格を下押しした。

結局、昨年後半の統計減速を受けて「それでも景気加熱を落しきる」ことがFOMCメンバーにはできずややハト派的な政策にシフトしたことが足下の強さに繋がっているともいえ、FRBは再度、政策の調整を行う必要に迫られている。

市場では「ノーランディング」を指摘するエコノミストも出始めているが、政策が適切にインフレ抑制を強めるのならば、年後半のリスク資産価格の下落は比較的大きなものになるリスクが高まることになる。

現状は緩やかな景気減速と共にインフレ率が低下していく、というのがメインシナリオである。ただ、インフレ率が本当に2%が適切なのかどうか、に関してはこのコラムでも何回か指摘しているように「東西が分裂して緩やかなブロック経済圏が構築される可能性が高いこと」「3つの脱によるインフラ投資の加速は恐らく不可避であること」を考えると、やや高い水準(3%など)になる可能性はあろう。

【本日の見通し】

本日は、米国主要市場がプレジデンツ・デーのため休場であり、動意薄くポジション調整的な取引が主体となり、現状維持を予想する。

【昨日のトピックス】

昨日のトピックスではないが、この春に長らく日銀総裁だった黒田総裁が退任、植田元日銀審議委員が就任する見通しとなった。

ここまでの評価は、市場との対話重視派、ルール・ベースの金融政策運営導入、これ以上ない国際派の投入、と概ね好意的である。

恐らく、就任直後にこれまでの黒田日銀の総括を指示し、4月27・28日の日銀政策会合で方針を決定、YCCの終了宣言、という形になると予想される。マイナス金利の解除は様子を見ながら、と言うことになるだろう。

ただ、恐らくYCCを変更しても米国の長期金利上昇が限られれば長期金利の上昇は恐らく0.8%~1.0%程度(OIS金利程度)に止まる見込みであり、先行きについても「短期金利は調整するが、10年国債の価格形成は市場に任せる」というスタンスになると予想される。

なお、この10年間の安倍・菅・黒田ラインによる財政規律の崩壊、貿易収支赤字の定常化の可能性を考えると、先々急速に国債価値が暴落するリスクは常につきまとう。これは恐らく誰が総裁をやっても同じだろう。

と、いったような変化が4月以降に起こる可能性があるのだが、本当に4月なのか?という可能性がゼロではないからだ。

というのも、今回の黒田日銀の政策は期待した効果は得られなかった(足下の物価上昇は、国際商品価格の上昇と米国金利上昇による円安を材料にしたものであり、望む物価上昇ではない。ただ、この物価上昇が企業の価格引き上げや賃金上げの動きに繋がったので「そもそもこれを期待していた」とするならば、一定の効果はあったことになるが...)という評価で恐らく一致している。

となると、明らかに自分が否定されるのを待って退任、というよりは自分で総括し、YCCを止めて退任した方が良いのでは、という判断に傾く可能性も排除しない。

そうなると、植田総裁は長い時間を掛けて、黒田総裁が行った来た政策の後処理をすることが主要業務となってしまう(もうやれることは限られるため)。

この3月・4月は恐らく日銀の金融政策を巡る「1つの山場」になるのではないだろうか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。ドル指数は低下したものの、株価の下落に伴うリスクテイク意欲の後退と、金融引締め強化への懸念、週明けのプレジデンツ・デーの休場を睨み、いったん利益確定の動きが強まったためと考えられる。

足下、景気の循環で需要減速、軟調に推移しやすく、金融政策動向などの金融要因の価格に与える影響が大きくなっている。

ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーしてみると、米国の景気の局面が類しできるが、早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、この観点からも6~7月が目処となる可能性は高い。

なお、オイルメジャーの決算でも明らかなように、「脱炭素の枷」の影響で上流部門の開発が加速する、という感じではないため原油供給が制限され、OPECプラスの価格支配力が増し、価格は下支えされることになりそうだ。

また、価格が下落すれば記録的な低水準となった米国の戦略備蓄も積増しの可能性があり、価格を下支えしよう。WTIは、一部政府高官が戦略備蓄再積増しの目処として発言したとされる80ドルを下回っている。

しかし、逆にバイデン政権は戦略備蓄の追加放出を決定している。政権側がインフレ再燃を過度に警戒していることの表れ、といえるだろう。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル/75-95ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、今年のQ323~Q423頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。

しかし、ここに来て景気の減速が想定ほどではないかもしれない、との見方が徐々に出始めている。この場合、明確な調整がないまま原油価格が上昇に転じる展開も想定される(アップサイドのリスクシナリオ)。

この場合は年後半に再びインフレが意識されるため、追加利上げで年後半に景気が急減速、と言うことも有り得る(ダウンサイドのリスクシナリオ)。

また、年後半の急減速があった場合、景気底入れがQ124にずれ込むリスクシナリオも想定しておいた方が良い状況になってきた。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q123~Q223 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、プレジデンツ・デーで米国主要市場が休場のため動意薄く、テクニカルな売買に終始すると考える。

今のところBrentは50日移動平均線(83.2ドル)が攻防ラインとなっているため、この水準でのもみ合いとなろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は続落。気温低下見通しとなったが冬場の終了が目前であり、ガス危機への懸念が後退していることが背景。

2022年のTTF価格は64.46~345ユーロのレンジだったが、今年のレンジは48.10~81.15ユーロの狭いレンジでの推移となっており、足下の気温上昇やロシアからの供給停止がこれ以上深刻化していないことを背景とした供給過剰感が価格を低迷させている。

直近のガス在庫動向シミュレーションでは、▲5%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうであり、ガス供給を巡る欧州のリスクは後退している。

しかし、需要削減が行われ無かったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する事態になればガス供給は不足することが予想される(外貨を確保したく、かつ、生産停止によるガス生産設備の毀損リスクを)。

足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。

ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。

TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。

足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

弊社のシミュレーションでは「完全に」欧州がロシア産ガスを排除するのは2027年頃であることを示唆している。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開(フル稼働は3月頃か)、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前からナイジェリアのLNG輸出は減少しており、まだ回復していない。

3.4.は顕在化している。

5.に関しては、3月頃までラニーニャ現象が継続する見通しであるが、逆に欧州に暖冬をもたらしている。

2月6日-12日のLNGトレードは。780万トン(前週806万トン)と減少、スポットカーゴの比率は23%(24%)と小幅に低下した。

スポットカーゴは、北欧・イタリア向けが▲10万トンの減少、その他の欧州が+20万トンの増加となった。日中台韓向けのスポットカーゴは▲40万トンと韓国・日本の減少が影響した。

ターム契約の数量は先週からほとんど変わっていない。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は小幅に上昇した。スエズ以東の水準は同じ時期の過去5年レンジを上抜けしており、中国の再稼働や年初からの気温低下による在庫減少を見越した調達が増えていると考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は続落、欧州同様、温暖な気候と在庫水準の高さから。ただし徐々に米国の天然ガス在庫は切り下がって過去5年平均程度であり、例年に比べて過剰に多い、と言うわけではない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は欧州ガス価格の下落もあって小幅に続落。

JKMの期間構造は今年の冬場の価格は20ドルを超えており、やはり欧州・ロシア情勢の不安定さが需給をひっ迫させる、との見方が大勢を占めているようだ。

ただし同時に、脱ロシアの進捗が需給を長期的に緩和させると見られており、全体の構造はバックワーデーションを維持している。

12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。

12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。

中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

12月の中国の発電料ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。

ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。

また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。

2月13日時点の日本の発電用LNG在庫は256万トン(前年同月末169万トン、2018~2022年平均225万7,100トン)と過去5年平均は上回っている。

冬はまだ続いており例年あるように気温次第で、2月~3月に掛けてガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。

さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

週明け月曜日も、冬場終了を見越した需要の減少観測で軟調な推移が予想されるが、過去データを元にした回帰分析によるJLCの推計が、2月は18.1ドル、3月は16.7ドル程度に低下することが予想される。

現在のJKMはこの水準を下回っているため、割安感から買いが入ることが予想され、そろそろ下値余地も限定されるとみている。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は続落し、2023-2024年の価格は200ドルを下回っている。期先の価格は160ドルまで低下。これまでのガス危機・石炭危機リスクはかなり後退した。

ただし、欧州のガス危機は完全に去った訳ではなく、夏場の気温上昇によるアジアの需要増加、中国の回復、冬場の気温低下があれば、豪州の供給が制限されていることを考えると、上振れのリスクは残存する。

豪州のNSW州が国内備蓄積増し義務化をしていることなどによる、供給減少もあるだろうが、豪州の週間石炭輸出は減少傾向にある。

特に最大輸入国である日本向けの輸出が減少したほか、日中台韓以外の地域向けの輸出も大幅に減っている。

一方で中国の輸入も回復しているが、小幅な増加に止まっており、豪州炭需給をタイト化させるといった感じではない。

しかし、結局のところ欧州炭価格は欧州のガス価格に左右されるため、夏場の猛暑、今冬の厳冬、といったリスクは残る。

結局、「脱ロシアが完全に完了すると期待される2027年頃」までは、上振れリスクは小さくないとみている。

12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。

12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は160~180ドルに低下している。豪州炭の構造的な需給緩和期待が高まっている、と言えるだろう。

冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

週明け月曜日は、発電燃料需要の減速を受けて軟調も、完全に豪州炭を他の石炭にリプレースできる訳でははないこと、ガス価格の下落余地もそろそろ限定されることから、現状水準を維持すると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属市場は総じて堅調。米PPIの上昇を受けてドル高が進行、米フィラデルフィア連銀製造業指数も悪化するなど、中国の新築住宅販売価格が1年4ヵ月連続の下落に歯止めが掛ったものの、非鉄金属にとって売り材料ばかりでありだったが、ベンチマークである銅が50日移動平均線のテクニカルなサポートラインでサポートされたことなどから、買い戻される非鉄金属が目立った。

ある意味、米国の利上げ加速は月初から織り込まれた材料でもあり、いったん買い戻しが入ったと考える。ただ、中国の回復が緩慢な中で米国が金融引締めを強化する見通しである以上、価格の方向性は下向きだろう。

直近のCOTレポートではスズを除いて全ての金属でネットロング幅は縮小、「ロング解消・新規ショート積増し」の動きがみられている。

中期的な景気減速観測で価格が下落することに賭けるポジションだが、景気が底入れすればこのポジションは急速に巻き戻されることになるが、今はそのときではないと判断しているようだ。

引き続き、投機筋の動向は注視する必要があるが、長期的な材料(3つの「脱」)で買いを入れたのならば、中期的な景気減速に伴う価格下落はその余地が限定されることを示唆している。

1月の中国製造業PMIは急速に改善している。ゼロコロナ解除と不動産セクターのテコ入れの影響によるものだ。しかし、PMIは「前月と比較したときの景況感」をヒアリングしているため、「政治的に強制的に経済活動が稼働・停止」を繰返している状況下では、統計の連続性が担保されていない。

今後の動向はやはり2月のPMIを待たなければならないだろう。ただ、中国の財政余力、海外経済の減速を考えると2月も高水準の回復は余り期待するべきではないだろう。さらに改善があるならば、中国が3月の全人代を睨んで追加的な対策を行った場合、だろう。

なお、インドで問題になっている「アダニ事件」が拡大し、アダニグループ総帥と同郷で繋がりが深いモディ首相にまで影響が及んだ場合、同国の近代化に向けたインフラ投資の障害になることが懸念される。

今のところは比較的冷静な対応になっているが、仮に黄色信号が赤信号になった場合には非鉄金属を含む工業金属需給への影響が大きくなるため、注意しておく必要はあろう。

また、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。

暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。

後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。

結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。

この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。

かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。

中期的には景気の循環によって、恐らくQ323~Q423あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移を予想する。なお、米景気が想定よりも沈静化していない可能性はあり、景気底入れのタイミングがQ124にずれ込むリスクは想定しておいたほうが良さそうだ。

リスクとしては、想定よりも景気が減速せず回復基調に入り非鉄金属価格も上昇するケース。

また逆のリスクとしては、インフレ沈静化に時間が掛り、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きとなる。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。

12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。

12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。

しかし、2月以降はリオープンの動きが始まるため回復(前々年程度の回復が上限か)が予想される(1月は中国正月の影響で営業日数が少ない)。

12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。

本日は、米金融引締め加速観測が再び強まっていること、中国の経済活動の回復の遅れから軟調な推移になると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅に下落、上海鉄筋先物は上昇した。

中国新築住宅関連統計で価格が底入れした可能性が意識されたほか、中国の2月上旬の生産量が1月下旬から+3.8%増加して、3ヵ月で最高の206万トンになったことなどから、景気回復を期待した増産で、鉄鋼原料需要が増加すると期待されたことが背景。

週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+65万5,000トンの1,781万9,000トン(過去5年平均 1,546万2,000トン)と増加。ただし増加ペースが急速に鈍化している。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+255万トンの1億4,090万トン(過去5年平均 1億4,190万6,000トン)、在庫日数は30.1日(+0.6日、過去5年平均29.8日)。在庫の増加を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでも増加に。

原料炭在庫は+14万トンの212万トン(138万トン)、在庫日数は+0.6日の8.5日(過去5年平均 5.4日)と在庫は積み上がっている。

製品在庫の増加ペースの鈍化は、増産バイアスがかかる中で起きているため、需要が回復し始めた可能性はある。

1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が46.6(前月44.3)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。

内訳を見ると新規受注が43.9(38.9)と改善、それに伴い生産も50.2(43.4)と2022年1月以来の50超えとなった。政策効果が一定程度見られているようだ。

ただし、新規受注完成品レシオは0.83と在庫の積み上がりで先月(0.94)から低下。原材料レシオは1.00(0.89)と上昇しているが、製品需要増加に前倒し対応した結果在庫に低下圧力が掛かったためと考えられる。

鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは56.4(54.4)と回復、明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。

しかし、これらの数値も中国政府主導のテコ入れ策が奏功すれば改善しようが、あくまでゼロコロナ状態が通常状態に戻るだけ、ともいえ今後も回復が継続するかどうかは2月のPMIを待つ必要がある(アンケートの取り方的に、「先月との比較」で調査を行うため、ゼロコロナのような経済に不連続をもたらす施策が採られた後の統計は1ヵ月だけで判断するべきではない)。

12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。

12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。

中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。

粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。

しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

週明け月曜日も、製品在庫の積み上げの動きが変わらない中で、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。

今後は住宅問題を中国が解消できれば回復はあるだろうが、そう簡単ではないと考えられ、上値も重いとみる。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇、銀は小幅に上昇、PGMは株の下落を受けて水準を切下げた。

米FOMCメンバーのタカ派的な発言を受けた株安、景気の先行きを懸念した長期金利の低下が実質金利を押し下げたことがドル安を促し、金価格を押し上げた。

金の基準価格は前日比+12ドルの856ドル、リスク・プレミアムは▲6ドルの987ドル。

金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造に変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。

一時、クレジットリスクの高まりを受けてリスク・プレミアムも上昇していたが、FRBの金融引締め終了期待を受けた「イールド・ハンティング」の動きがハイイールド債にも入ったため、リスク・プレミアムとの動きは乖離を始めている。

それにもかかわらず金価格が高止まりしている、と言うことは何らかの他のリスクや需要を織り込んでいると考えるのが妥当だ。

主なところは、1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米勢力が意識し始めた、2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まった、3.これらの有形無形のリスクを意識した、安全資産需要の高まり、あたりだろう。

基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。

ただ、その価格水準は弊社が想定していた価格(1,650ドル程度)よりは高い水準になるのではないか。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオは85倍と、予想した通りであるがボリンジャーバンドの上限に達している。今後は循環的に景気が減速するため、しばらくはボリンジャーバンドの上限で推移し、その後、景気の回復があるのであればボリンジャーバンドの下限に向けて水準を切下げ、銀価格は上昇余地を試す動きになると予想する。

週明け月曜日は、米国がプレジデンツ・デーで休場のため動意薄く、もみ合うものと考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は総じて堅調な推移となった。固有の新規手掛かり材料に乏しい中で、ドル安が進行したことが、プレジデンツ・デーの3連休を控えた市場参加者にポジション調整的な取引を強要したと考えられる。

昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。

週明け月曜日は、米異国がプレジデンツ・デーで休場のため動意薄く、もみ合うものと考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。

日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ首相の汚職疑惑が現実の物となった場合の近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について