FRBタカ派維持観測、日銀の金融正常化観測、ともに強まる
- MRA外国為替レポート
2023年2月13日号
◆先週の市場総括
先週はFRBがタカ派姿勢を維持し金融引き締めが長期化するとの見方が強まるなかドルは堅調に推移。そうしたなか日銀次期総裁を巡る報道でドル円相場は上下に振れた。
先週末の極めて強い雇用統計やISM非製造景気指数を受けて米長期金利は上昇。パウエル議長は講演でFOMC後の会見と同様インフレ鈍化に楽観的な姿勢を示したが、他の理事や当局者からはタカ派発言が相次いだ。
週末のミシガン大学消費者信頼感指数や期待インフレ率も強め。米10年債利回りは週末に3.7%台半ば近くに上昇。ユーロドル相場は週初の1.08手前から週末には1.06台後半に下落した。
一方、週初に日銀次期総裁に雨宮氏と報じられたことで週初から一段と円安に。ドル円相場は一時133円手前まで上昇した。ただ報道が否定されると131円台で底固く上下動。週末に植田氏の方向で検討と確度の高い情報が流れると一時129円台に下落した。
ただ植田氏が現時点では現在の金融緩和は妥当と発言すると131円台に戻して週末の取引を終えた。米国株は金融引き締め長期化観測が強まったことで上値の重い展開。日経平均も27,000円台半ばでもみ合いとなった。
月曜日の東京市場では早朝から円安が進行。日銀次期総裁に雨宮氏打診と一部が報道。次期総裁候補のなかでは最もハト派と目されていることから金融緩和の修正が遅延するとの見方で円が売られた。
ドル円相場は132円40銭~50銭で始まりその後131円50銭に下落したものの反発して132円10銭~40銭で上下。夕刻から欧州市場は131円60銭~90銭で推移した。
次期総裁が誰になっても金融緩和の修正は遅かれ早かれ実施されるとの見方から円安は一服した。
ユーロ円相場も142円90銭にユーロ高円安に振れて始まり、その後142円ちょうどに反落したがその後は142円50銭~80銭近辺で上下し欧州市場は142円ちょうど~30銭。ユーロドル相場は動意なく1.0790近辺でもみ合い横ばい小動き。
日経平均は円安進行を受けて輸出関連銘柄を中心に買われた。ただ円安が一服すると株高も一服。前週末比+184円高の27,693円で引け。
米国市場にかけてはドルが堅調。前週末の強い雇用統計やISM非製造業景気指数により年内利下げ観測が後退。
長期金利上昇の流れが続いた。米10年債利回りは一時3.65%をつけ引けは3.644%、2年債は4.474%に上昇。ドルを押し上げた。
ドル円相場は132円90銭に上昇し、その後は40銭台に反落して引けは132円60銭台。ユーロドル相場は1.0760から80に上昇していたが1.0710へ大きく反落して引けは1.0730近辺。
ユーロ円相場は142円40銭~60銭でのもみ合いの後142円20銭台に下落して引け。
米国株は反落。利下げ期待が後退、長期金利上昇が重石となった。高PER銘柄が売られナスダックは前週末比▲119ドル安の11,887ドル。NYダウは▲34ドル安の33,891ドル。
火曜日の東京市場ではユーロ円相場などクロス円相場中心に円高。鈴木財務相が、政府が雨宮氏に総裁を打診していることはない、と否定。これを受けて円高が進んだ。
ユーロ円相場は142円20銭~30銭のもみ合いで始まりその後は一貫して円高。夕刻から欧州市場にかけて円高が加速して141円20銭近辺へおよそ1円の円高。
ドル円相場は132円60銭~70銭で始まり132円ちょうど近辺へ下落。その後30銭にもち直したが131円70銭近辺まで下落した。
12月の毎月勤労統計で現金支給給与が前年同月比+4.8%と高い伸びとなったことで、鈴木財務相発言とあいまって日銀の金融政策修正への思惑が強まった。ユーロドル相場は1.0730~40の狭いレンジでもみ合い小動き。夕刻から欧州市場にかけては1.07ちょうど近辺に下落した。
日経平均は小幅反落。円安一服、最近の上昇のあとで利益確定売りが出やすく上値が抑制された。引けは前日比▲8円安の27,685円。欧州市場では円高一服のあとクロス円相場中心に円高が再燃。
ユーロ円相場は141円40銭~50銭に持ち直したあと140円30銭に急落した。ドル円相場は132円20銭に反発したあと131円80銭~132円ちょうどに押され、さらに131円20銭に続落。
ユーロドル相場は1.0730からじり安で1.0670。注目のパウエル議長講演で、議長は、ディスインフレのプロセスが始まった、と述べFOMC後のハト派寄りととられた発言を踏襲。今年はインフレが大幅に鈍化する年、とも述べた。
ただまだ道のりは長く、なめらかではなくでこぼことなろう、と述べた。雇用統計については、あれほど強い数字とは予想していなかった、として高金利継続姿勢も示した。
強い経済指標を受けてタカ派寄りの発言となると想定していた市場の予想は外れ、ドルが下落。ドル円相場は一時130円50銭に急落し、その後は戻して引けは131円10銭近辺。
ユーロドル相場は1.0760に上昇、その後は反落して1.0720。ユーロ円相場は底打ちじり高となり140円60銭。米10年債利回りは3.679%に小幅上昇、2年債は4.467%とほぼ変わらず。
米国株はパウエル発言へのタカ派警戒が解けて上昇。NYダウは前日比+265ドル高の34,156ドル、ナスダックは+226ドル高の12,113ドル。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅反落。米国株の堅調は支えとなったが業績決算不芳銘柄に売りが嵩んだ。27,500円超では積極的な上値買いが乏しく、引けは前日比▲79円安の27,606円。
ドル円相場は131円10銭で始まり朝方一時130円70銭台に下落したがすぐ反発し131円30銭台に。その後は131円台前半で推移した。
ユーロ円相場は140円60銭で始まりドル円相場と同様に円の高下中心の値動きとなり140円台後半で上下。
ユーロドル相場は1.0720~30の狭いレンジで小動きのあと夕刻は1.0760近辺にやや強含み。欧州市場に入ると米長期金利が低下したことを受けてドル安円高が進みドル円相場は130円60銭に下落。ユーロ円相場も連れて140円40銭に下落した。
ただ米国市場に入るとFRB当局者からタカ派発言が相次ぎドルは持ち直し。ドル円相場は131円50銭まで反発したあと131円台前半で上下し引けは131円40銭近辺。
ユーロドル相場は1.0720まで下落して1.07台前半で上下して引けは1.0710。ユーロ円相場は141円ちょうどに反発したあと引けは140円80銭。
米国株は、利下げ期待の後退、高金利継続、景気悪化懸念、などから幅広く売られた。NYダウは前日比▲207ドル安の33,949ドル、ナスダックは▲203ドル安の11,910ドル。
米10年債利回りはリスク回避から低下して3.617%、2年債は4.433%。NY連銀総裁は、十分引き締め的な金融政策を維持する必要がある、と述べた。
クック理事は、1つの経済指標の結果を過剰に重要視すべきでない、と語ったが、ウォラー理事は、インフレとの戦い・努力は報われ始めたが長期戦になる、と述べた。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅3日続落。前日の米ハイテク株安が重石。FRB当局者からタカ派発言が相次ぎ嫌気された。午後は次期日銀総裁を巡る報道で高下。引けは前日比▲22円安の27,584円。
ドル円相場は131円40銭で始まり20銭台に下落したあと80銭に反発と上下。その後は131円40銭~70銭で上下して夕刻は20銭~40銭と朝方と変わらず。
ユーロ円相場は140円80銭で始まり141円20銭に上昇。その後は上下しながら軟化して夕刻は140円60銭。ユーロドル相場は1.0710で始まり夕刻は1.0720~40で小動き。
欧州市場に入るとユーロが堅調、ドルは軟調。米長期金利がやや低下基調となりドルを押し下げた。ドル円相場は130円80銭に下落して131円近辺。
その後、発表された米国の週次の失業保険新規申請件数が予想を上回り米10年債利回りが3.6%割れに低下。ドル円相場は130円40銭まで下落した。
ユーロドル相場は堅調。1.0790へ上昇。ユーロ円相場は141円10銭に上昇したあとドル円相場の下落に押されて140円60銭に下落した。その後はドルが持ち直し。
リッチモンドン連銀総裁が、金融引き締め路線の維持が必要だ、として利上げ長期化観測が再燃。30年債入札が不調となり長期金利が上昇しドルを押し上げた。米10年債利回りは3.664%、2年債は4.484%に小幅上昇。ドル円相場は131円60銭に上昇して引け。
ユーロドル相場は1.0740に下落。ユーロ円相場は141円30銭で取引を終えた。
米国株は長期金利上昇を嫌気して高PER銘柄を中心に売り優勢。来週のCPIなど重要指標を控え取引は低調。NYダウは前日比▲249ドル安の34,189ドル、ナスダックは▲120ドル安の11,789ドル、で引け。
金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに小幅ながら反発。米ハイテク株の下落も波及せず、やや円安に振れたことが支え。個別銘柄物色で動いたが次週に米CPIの発表など重要イベントを控え様子見姿勢も強かった。引けは前日比+86円高の27,670円。
ドル円相場は131円60銭で始まり40銭~80銭で上下して50銭~80銭で上下動。その後、日経新聞が次期日銀総裁に植田和男氏と報じると、現行の金融緩和政策修正への期待が強まり大きく円高が進んだ。
ドル円相場は129円80銭に下落。ユーロ円相場も141円30銭近辺で始まりもみ合い小動きのあと139円60銭へ急落した。ただ夜になって植田氏が現在の金融政策は適切と述べると円安に振れた。
ドル円相場は129円80銭~130円60銭での高下のあと131円40銭へ上昇。ユーロ円相場は139円60銭~140円20銭で上下したあと140円80銭へ上昇した。
ユーロドル相場は動意なく1.0740で始まり小動きもみ合い、夕刻は1.0720~50で上下。米国市場ではドルが堅調。
発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(2月)が前月64.9から予想65.0を上回って66.4へ改善。期待インフレ率は5-10年が2.9%で前月から変わらなかったが、1年が前月3.9%から予想4.0%を上回り4.2%に上昇。利上げ長期化観測が強まった。
米10年債利回りは3.743%へ、2年債は4.526%へ上昇。ドル円相場は130円60銭に調整していたが131円40銭~60銭に上昇し40銭で引け。ユーロドル相場は1.0680に下落して引けた。
米国株は高PER銘柄に売り、ディフェンシブには買い。ナスダックは▲71ドル安の11,718ドル、NYダウは+169ドル高の33,869ドルで取引を終えた。カナダでも1月の雇用が大幅増。カナダ中銀は利上げ打ち止めの方針を明らかにしていたが、利上げを再検討するとの見方が台頭した。
◆今週の3つの注目ポイント
1.日銀次期総裁人事
今週前半にも日銀総裁の後任人事が2人の副総裁候補とともに国会に提出されるとみられる。14日火曜日に提出する方向で調整が進んでいると報じられている。
先週月曜日には候補者のなかで最もハト派とされていた雨宮現副総裁に政府が打診と報じられたあと鈴木財務相が否定。一旦円安に反応したあと巻き戻された。
その後週末に植田和男氏を軸に調整中と報じられ一時大きく円高に振れた。総裁が誰になっても近い将来のイールドカーブコントロール撤廃は不可避とみられるが、中長期的な政策スタンスへの思惑から円相場に影響は生じ、また短期的な相場変動要因となる。最終的に週末の報道通りの案となるか。
2.米国の経済指標
火曜日に消費者物価指数(1月)が発表となる。前年同月比は前月の+6.5%から+6.2%にさらに鈍化する予想。コア指数も同様に+5.7%から+5.5%へ低下が見込まれる。インフレ鈍化がFRB当局者に安心感をもたらすか。
水曜日に小売売上高(1月、前月比、予想+1.8%、前月▲1.1%)、NY連銀製造業景気指数(2月、予想▲20.0、前月▲32.9)、鉱工業生産(1月、前月比、予想+0.6%、前月▲0.7%)
木曜日に住宅着工件数(1月、季節調整済み年率換算、予想1,350千戸、前月1,382千戸)、建築許可件数(同、予想1,350千件、前月1,330千戸)、フィラデルフィア連銀製造業景気指数(2月、予想▲7.4、前月▲8.9)、生産者物価指数(1月、前年同月比、予想+5.5%、前月+6.2%)、週次の失業保険申請件数
が発表される。インフレ鈍化の傍らで景況感の持ち直しがみられるか。
3.日本の通関統計
木曜日に日本の通関統計(1月)が発表となる。昨年末にようやく輸入金額の減少、貿易赤字の減少の兆しがみえたが、その傾向が続くか。1月は例年名目ベースの赤字額が大きくなるが、今年は3兆9千億円にもおよぶ赤字が予想されている。前月は1兆4千億円に減少していたが、予想通りだとした場合、円安に反応する可能性があり留意を要する。
◆今週のMRA's Eye
FRBタカ派維持観測、日銀の金融正常化観測、ともに強まる
足元では米国景気の底固さが確認されている。
景況感の悪化、インフレの鈍化、という流れは続いているものの、景気悪化のペースは心配されたほどではないとの見方が強まった。1月の雇用統計で雇用者数が想定を大きく上回り増加。とくにサービス業で労働需給がなお逼迫していることが示された。
ISM非製造業景気指数は12月に大きく低下して景況感の分かれ目である50を割り込んでいたが、1月は一転して大きく好転して55に反発。総合すると、景気鈍化は続いているものの、想定よりもサービス業の堅調さが目立つ。
単月の指標だけでは判断が難しいが、早期利上げ打ち止め、年後半には利下げ、との期待を強めていた市場にとっては一定のショックとなった。
市場は利上げが3月に0.25%の利上げを実施してFF金利が5%で打ち止めとなるとの見方を強めていた。これに対し12月のFOMCで示されたメンバー予想では、FF金利は5.25%までの利上げが想定され、年内は据え置き、来年以降利下げというシナリオだ。
足元では市場のハト派予想が、FRBのタカ派予想に擦り寄るかたちで修正を余儀なくされている。
当方でも、メインシナリオでは、3月に利上げ打ち止め、10-12月期に利下げ、とみていた。これに対するリスクバイアスは、景気が底固くドル金利低下が予想より緩慢となる可能性をみていた。
足元においては、メインシナリオからやや上振れサイドのリスクに傾いている。ただなお年央まで時間がある。3月会合から5月会合にかけて多くの材料があり、5月に利上げが実施されFF金利が5.25%となるかどうかはなお不透明だ。
インフレ率は着実に低下している。消費者物価指数はコア指数が5%台半ばへ、消費支出価格指数(PCE)のコアで4%台へ低下。FF金利を下回る水準への低下が視野に入ってきた。
サービス支出の好調さや雇用情勢の逼迫がなおも続くか、あるいはやや緩和するか。緩和のスピードが速ければ年内利下げの可能性も残る。
利上げ打ち止めは確実。その後再利上げが実施される可能性は、足元で悪化している景気が底打ちし、持ち直しが明らかになり、インフレ再加速となった場合に限定されるだろう。
高金利維持が長期化するか、利下げが実施されるかのせめぎ合いとなりそうだ。
ドル軟調が継続するか、そのスピードが強弱どの程度となるか、緩慢な米長期金利に沿って緩やかなドル安となるか、あるいは金利据え置きが長期化することでドルが下支えされるか。
市場と当局の想定ギャップが解消された今、そのギャップがFRBサイドに修正されることによるドル高リスクはなくなった。今後は実際の経済指標、とくに雇用関連指標がどこまで弱くなるかが注目される。
日本では次期総裁について週末に植田和男氏の名が挙がった。週初には雨宮現副総裁に打診との報道が流れ月曜日早朝から円安に。しかし鈴木財務相が否定したことで円安一服となった。誰が日銀総裁になっても、現状の異例の金融緩和政策、イールドカーブコントロールや大量の国債購入は修正される方向にはあろう。
問題はそのスピードや、修正に取り組む姿勢だ。
植田氏は量的緩和導入時に日銀審議員として理論的支えとなったことからハト派でもある。現時点でとられている金融緩和政策は妥当との発言があった。
しかし現状の大規模かつ長期的な量的緩和の継続に対しても肯定的かどうかは不明。中央銀行本来の在り方を経済学者として見つめてきたことから、現在の金融政策の効果や持続可能性についての議論に新たな一石を投じることになりそうだ。
また海外当局者や内外の市場関係者ともつながりがあり市場への理解や国際感覚という点では、幾多の候補者のなかでは相対的に理想像に近い。日銀の次期総裁に関しては市場の期待にやや近づいた感はある。
当面はどのようなスタンスで金融政策修正を行うか、じっくり見極める必要があり、早急な反応は難しい。もっともイールドカーブコントロールが撤廃されても、日本の長期金利への影響という点では影響は限定的とみられる。
日銀による長期金利上限を離れ市場で形成されるスワップ金利のベースでは、10年金利は一時1%近辺まで上昇する場面もあった。撤廃したとしてもその程度の水準までの金利上昇にとどまろう。
となれば、金利面での円高効果はこれまでの実績範囲内となりそうだ。少なくとも125円を割り込んでドル安円高が進む原動力にはならないだろう。
さらなるドル安円高はやはり米国次第。再び利下げが確実に視野に入るかどうかがポイントとなる。メインシナリオは緩やかなドル安円高で年末には120円~125円のゾーンに下落との見方。ただリスクバイアスはそこまでドル安が進行しないサイドに強め。ドル安が加速するリスクはそれよりも低そうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について