ドル高で軟調 エネルギーは露減産報道で堅調
- MRA商品市場レポート
2023年2月13日 第2390号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ドル高で軟調 エネルギーは露減産報道で堅調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はドル高で軟調も、エネルギーセクターと自国通貨建て商品が物色される流れとなった。
エネルギーはロシアが3月から▲50万バレルの原油減産方針を示したことで、需給ひっ迫観測が強まったことが材料。また、月初に発表された米雇用統計を受けた米金融引締めの長期化観測が長期金利を上振れさせており、それに伴うドル高進行で、自国通貨建て商品価格は押し上げられた。
一方、最大消費国である中国の経済活動、特に建設活動の戻りが昨年の春節後の1週間と比較しても上海では▲3.5%低い水準に止まっていることが報じられており、1.コロナ後の回復の遅れ、2.建設業界の低迷を受けて賃金不払いを恐れた従業員の職場復帰の遅れ、などが影響しているとみられる。
やはり、中期的な景気の減速、構造的な成長力の鈍化に中国共産党も抗えない、と言うことだろう。
一方、米政府は今回の気球問題を受けて中国に対して更なる制裁を課す方針であり、足下の景況感悪化を受けて米国と「手打ち」を画策していた中国からすれば、痛手としかいいようがない。
ただ、今回の米中対立を受けて中国が新興国に対して攻勢を仕掛ける可能性は高く、外交の争いは激しくなるだろう。
(日銀の次期総裁候補となる植田元日銀審議委員の去就後の影響については、昨日のトピックスを参照ください)
【本日の見通し】
週明け月曜日も、国際的には本日も目立った手掛かり材料に乏しい中、米国の金融引締め長期化観測を背景とするドル上昇や、実質金利上昇が価格を下押しする展開が予想される。
注目は、商品市場ヘの影響はほとんどないと考えられるが、日本のGDPに注目したい。市場予想は以下の通り。
Q422日本実質GDP 市場予想 前期比年率 +2.0%(前期▲0.8%) 前期比 +0.5%(▲0.2%) GDPデフレータ 前年比+1.1%(▲0.3%) GDP民間消費支出 前期比+0.6%(+0.1%) GDP民間企業設備投資 前期比▲0.3%(+1.5%) 在庫投資 ▲0.1%(+0.1%)
【昨日のトピックス】
2月14日に後任人事が国会に提出される日銀総裁問題だが、日経新聞のスクープで、植田元日銀審議委員が就任する見通しとなった。
植田氏は東大数学科から経済学に転じた異色の経済学者であり、数字を詰めてロジックを構築する理論派で、日本では数少ない金融政策を正しく議論できる経済学者である。
岸田政権は「雨宮さん、中曽さんに断られたから、お鉢が回ってきた」のではなく、初めから本命と考えていたようだ(一部報道より)。
量的緩和やゼロ金利政策、その時間軸効果などの政策を理論面で支えた人物である。しかしリフレ派かと言えば恐らくそうではないだろう。
これまでのアベクロダノミクスで進めてきた量的緩和はほぼ効果がなかったことも指摘しており、「現状を見ながら検証し、政策も変更する」バランス型と考えるのが適切ではないか。
既に現在の金融緩和継続を示唆しているが、これは現在の経済状況を受けて金融引締めが適当ではない、と言っているだけに過ぎない。
植田氏は景気刺激のために金融緩和を支持してきたが、その後もスタンスは変わっておらず景気が悪ければ金融緩和の方針で、ある意味、論調はぶれていない(この間、クロダノミクスで日銀がスーパーハト派に転じたため、結果的にややタカ派になった、と言うことだろう)。
植田氏は政務債務が増加する中では、金利を引き上げることを躊躇する局面が出ること、ETFの保有は相場が上昇しているときは良いが、下落に転じた場合に大きな問題となり、それは最終的に国民負担になることも著書で指摘している。
海外ではマサチューセッツ工科大学在学中に、FRB副議長だったスタンレー・フィッシャーに師事していた。
フィッシャー氏に師事した著名人には、イエレン前FRB議長、バーナンキ元FRB議長、ドラギ前ECB総裁、サマーズ元財務長官、共和党の元経済顧問、マンキュー氏(トランプ大統領と対立して共和党支持を止める)があり、国際的にも各国中央銀行と協調路線が取れる、との期待も合ったのではないか。
副総裁には内田氏と氷見野氏が指名される見通し。内田氏は、植田氏が日銀内部管理の経験がないことからここをサポートする、氷見野氏は財務省とのパイプ役として任命されたと考えられ、手堅い布陣といえる。
しかし、この10年間の異常な政策の後始末は誰がやっても大変であることは変わりがない。正直、お手並み拝見、としかいいようがない。
ただ、就任時のコメントには注目したい。というのも在任期間中の政策の「方向性」として市場がレッテルを貼る可能性があり、それが定着して政策の自由度を縛ることが有り得るためだ。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。ロシアが3月から原油生産を▲50万バレル削減する、と発表。ロシアに対する制裁に対する対抗措置としており、これが価格を押し上げた。
しかし、実際には制裁の影響で充分な輸出が行われていない可能性があり、その場合生産設備への影響が無視できないことから、生産調整を行った、とも取れる。
いずれにせよ現状は景気減速の中で需要が減少しているため、効果は限定されると見るがこれを受けてOPECプラスがどのような対応をするかに注目が集まる(昨日OPECプラスは主要関係者の匿名のコメントとして、ロシアの問題はあれど生産量を維持、の方針を表明している)。
ただ、昨日の価格上昇でも長らくレジスタンスとして意識されている100日移動平均線を上抜けはできておらず、まだ景気減速と金融引締めに伴う需要減速が価格を押し下げる展開が予想される。
ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーしてみると、米国の景気の局面が類しできるが、早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、この観点からも6~7月が目処となる可能性は高い。
なお、オイルメジャーの決算でも明らかなように、「脱炭素の枷」の影響で上流部門の開発が加速する、という感じではないため原油供給が制限され、OPECプラスの価格支配力が増し、価格は下支えされることになりそうだ。
また、価格が下落すれば記録的な低水準となった米国の戦略備蓄も積増しの可能性があり、価格を下支えしよう。WTIは、一部政府高官が戦略備蓄再積増しの目処として発言したとされる80ドルを下回っている。
ただし、米国の雇用環境がタイトな状態が続き、このまま仮にリセッションがない、と言うことになれば年後半の原油価格の上昇を受けて再び利上げが行われ、原油価格が急落というシナリオも有り得る。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル/75-95ドル
5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
しかし、ここに来て景気の減速が想定ほどではないかもしれない、との見方が徐々に出始めている。この場合、明確な調整がないまま原油価格が上昇に転じる展開も想定される。
この場合は年後半に再びインフレが意識されるため、追加利上げで年後半に景気が急減速、と言うことも有り得る状況。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まりする可能性が高い。
Q123~Q223 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は固有の手掛かり材料やイベントが少ないが、週末の価格上昇の反動でいったん下落すると予想する。基本、レンジワーク継続に変わりはない。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小幅に上昇。在庫増加と気温上昇、割安感のせめぎ合いという状況。
欧州の天然ガス在庫の水準は高い。暖冬と再生可能エネルギーからの電力供給回復が背景にある。
そのため改めてガス在庫動向をシミュレーションを直近データでアップデートしたところ▲5%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうであり、ガス供給を巡る欧州のリスクは後退している。
しかし、需要削減が行われ無かったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する事態になればガス供給は不足することが予想される。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
弊社のシミュレーションでは「完全に」欧州がロシア産ガスを排除するのは2027年頃であることを示唆している。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開(フル稼働は3月頃か)、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。
ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前からナイジェリアのLNG輸出は減少しており、まだ回復していない。
3.4.は顕在化している。
5.に関しては、3月頃までラニーニャ現象が継続する見通しであるが、逆に欧州に暖冬をもたらしている。
1月23日-29日のLNGトレードは、761万トン(前週793万トン)と減少した。スポット取引のシェアは18%(19%)と低下した。
北欧とイタリア向けのスポット取引はが▲40万トンの減少、一方でターム契約は+30万トンの増加となった。日中台韓のスポット取引は+30万トンの増加、主に韓国と日本向けの増加によるもの。1月の中国の輸入は春節の影響で緩慢だった。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが、スエズ以西の低下圧力が強い。このことは記録的な暖冬とこれまでの在庫積み上げで、足下の欧州の調達需要が減速していることを示唆するもの。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に上昇。米西部の気温低下見通しを受けたもの。ただし最大消費地区である北東部の気温上昇見通しもあり、影響は限定されている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は小動き。新規材料に乏しい状態が続いている。
12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。
12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。
12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。
中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
12月の中国の発電料ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
今後、集団免疫を獲得して正常化が進む中、石炭などは豪州に対して増産要請が出されるなど、今後、国内需要回復の可能性は高い。結果、天然ガス価格を下支えすることになるだろう。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
2月5日時点の日本の発電用LNG在庫は242万トン(前年同月末169万トン、2018~2022年平均225万7,100トン)と過去5年平均は上回っている。
冬はまだ続いており例年あるように気温次第で、2月~3月に掛けてガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。
さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
週明け月曜日も、新規手掛かり材料に乏しい中、現状水準でのもみ合いを予想する。
なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、ロシアからのガスフローが事実上途絶していることを考えると、下値も堅かろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は上昇。昨日指摘したように、大幅下落の反動、冬場が続いていることから割安感による買いが入ったと考えられる。
週次の豪州炭の輸出動向を見ると大幅な減少は見られておらず、日本向けの輸出も大幅に減少しているという感じはない。そもそも取引流動性が低い中で下落局面入りしていることから反応が大きくなっている、と考えるのが妥当だろう。
結局のところ欧州炭価格は欧州のガス価格に左右されるため、まだ冬が終らず、夏場が猛暑、今年の冬の厳冬、といったリスクは残るため「脱ロシアが完全に完了すると期待される2027年頃」までは、上振れリスクは小さくないとみている。
12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は180~200ドルに低下している。豪州炭の構造的な需給緩和期待が高まっている、と言えるだろう。
なお、ロシアに対する制裁とは関係なく、冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られる4月以降、石炭価格は下落するとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
週明け月曜日も、目立った手掛かり材料に乏しい中、現状水準を維持すると考える。ただし、流動性の低さを背景として価格が「飛び」やすいことから、神経質な推移が続くと予想。
◆非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。米長期金利が上昇してドル高が進行したことが背景。なお、植田元日銀審議委員の日銀総裁就任報道でドル指数にも多少影響は出たが、限定された。
現在、インドで発生している「アダニ事件」。インドのインフラ投資の最大シェアを獲得しているアダニグループの不正問題であるが、かなり長い間、モディ首相と関係がある人物が率いているグループでもあり、インフラ投資政策が減速、非鉄金属需要を冷やす可能性も出てきた。
インドは今後、近代化に向けた投資加速で工業金属需要(ストック需要)が増加することは確実なのだが、中国のような「製造業中心」の成長(フロー需要の増加)が達成できるかどうかはまだなんとも言えない。
というのは、インドのGDPに締める各産業の比率を見ると、直近Q322時点で最もシェアが大きいのが金融・保険で26.4%、次いで貿易・宿泊・運輸・通信で18.5%、製造業は17.1%であり、むしろ製造業の比率は低下している。
モディ首相が「メイク・イン・インディア」と主張していたのは製造業セクターのテコ入れが必要であることを認識していたためだ。
今後も外資導入を続ける必要があるが、インドの国内産業を駆逐してしまう可能性がある中国企業の進出を防ぎつつ、いかに製造業セクターを成長させるかが、今後、インドが安定成長を達成するために重要なポイントとなるだろう。
仮にアダニ事件が問題となり、モディ政権の政策が揺らぐことがあれば、「近代化投資」すらままならない可能性があり、人口ボーナス期入りしているにも関わらず、汚職や政治不信で全く期待した成長ができていない、南米のような国になるリスクも否定しない。
年初からの値動きは、中国のリオープンや例年よりも早い春節入りの影響で駆け込みの在庫積増しの動きが顕著だったことによるもの、という整理が適当と考えられ、足下は米国の金融引締め長期化観測を背景に、利益確定の売りが投機筋を中心に発生している、と考えられる。
実際、直近のCOTレポートではほとんどの金属に関して投機筋は「ベア」なポジションを取っており、いったん利益確定の動きが強まっている状況。
引き続き、投機筋の動向は注視する必要があるが、長期的な材料(3つの「脱」)で買いを入れたのならば、中期的な景気減速に伴う価格下落はその余地が限定されることを示唆している。
1月の中国製造業PMI急速に改善している。ゼロコロナ解除と不動産セクターのテコ入れの影響によるものだ。しかし、PMIは「前月と比較したときの景況感」をヒアリングしているため、「政治的に強制的に経済活動が稼働・停止」を繰返している状況下では、統計の連続性が担保されていない。
今後の動向はやはり2月のPMIを待たなければならないだろう。ただ、中国の財政余力、海外経済の減速を考えると2月も高水準の回復は余り期待するべきではないだろう。さらに改善があるならば、中国が3月の全人代を睨んで追加的な対策を行った場合、だろう。
なお、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。
暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。
後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。
結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。
この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。
かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。
中期的には景気の循環によって、恐らくQ323~Q423あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移を予想する。
リスクとしては、想定よりも景気が減速せず回復基調に入り非鉄金属価格も上昇するケース。現在、投機筋が積極的に非鉄金属を購入しており、「今年の投資テーマ」になっている可能性が否定できず、価格のアップサイドのリスクを高めている。
また逆のリスクとしては、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。
また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きとなる。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。
12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。
しかし、2月以降はリオープンの動きが始まるため回復(前々年程度の回復が上限か)が予想される(1月は中国正月の影響で営業日数が少ない)。
12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
週明け月曜日は目立った手掛かり材料に乏しい中、方向感に欠ける展開が続くと予想されるが、中期的な景気の減速やドル安の再度修正を受けて軟調な推移になろう。
ただし、この数日の下落の大きさを考えると、いったん割安感からの買いが入ると考えるのが妥当ではないか。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。
中国の建設情報サイト100年建設は2月10日時点で上海の900以上のプロジェクトの状況を確認したが、そのプロジェクトの稼働率は45.8%で、昨年の春節後よりも▲3.5%低いことが指摘された。
稼働率の遅れの原因としては、春節の際に帰省していた労働者が職場に戻ってきていないこと。これは業界の業況が良くないことも影響していると指摘されている。
結果、製品在庫の積み上がりもあって製品価格は下落した。しかし、生産活動の回復を受けて鉄鋼原料の「対需用比での在庫不足」が意識されているため、鉄鋼原料は高値で推移している。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+106万3,000トンの1,716万4,000トン(過去5年平均 1,342万7,000トン)。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+185万トンの1億3,835万トン(過去5年平均 1億4,119万6,000トン)、在庫日数は29.6日(+0.4日、過去5年平均30.0日)。生産回復を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでも不足の状態。
原料炭在庫は+5万トンの210万トン(138万トン)、在庫日数は▲0.7日の8.4日(過去5年平均 5.6日)と日数ベースでの減少が見られている。
1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が46.6(前月44.3)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が43.9(38.9)と改善、それに伴い生産も50.2(43.4)と2022年1月以来の50超えとなった。政策効果が一定程度見られているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.83と在庫の積み上がりで先月(0.94)から低下。原材料レシオは1.00(0.89)と上昇しているが、製品需要増加に前倒し対応した結果在庫に低下圧力が掛かったためと考えられる。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは56.4(54.4)と回復、明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
しかし、これらの数値も中国政府主導のテコ入れ策が奏功すれば改善しようが、あくまでゼロコロナ状態が通常状態に戻るだけ、ともいえ今後も回復が継続するかどうかは2月のPMIを待つ必要がある(アンケートの取り方的に、「先月との比較」で調査を行うため、ゼロコロナのような経済に不連続をもたらす施策が採られた後の統計は1ヵ月だけで判断するべきではない)。
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。
12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週明け月曜日も、製品在庫の積み上げの動きが変わらない中で、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。
今後は本当にリオープン後に住宅問題を中国が解消できれば回復はあるだろうが、そう簡単ではないと考えられ、上値も重かろう。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。米長期金利の上昇を受けて実質金利が上昇したものの、引き続き先行きの地政学や構造的な市場変化のリスクを意識した買いが継続し、高値を維持している。
この間、ETFの残高はむしろ減少傾向にあるが、一方でCFTCの先物ポジションは投機筋のロングが増加している。現状の価格上昇は先物主導での上昇、といっても良いかもしれない。
しかし、WGCの調査ではQ422の政府・中央銀行の金買いが55年来の記録的な水準になっていることが指摘されており、気球問題に端を発する米中対立の激化や、戦争で東西分裂懸念が強まる中、安全資産、無国籍通貨としての金の価値が見直されている可能性が高まっている。
ただし、実質金利の上昇には抗えず、2,000ドルを超えるような展開にはなっていない。足下はテクニカルに50日移動平均線のサポートラインを試している状況。
金の基準価格は▲23ドルのドル、リスク・プレミアムは+27ドルの993ドル。
銀は金価格の上昇もあって水準を切り上げ、PGMは株価の下落もあって大きく続落している。
金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造に変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。
現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。
また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」ロシアに対する「ドル決済停止」を受けて有事に備えて金準備を積みます動きが、新興国・反米諸国で見られていると考えられ、金価格の上昇要因となっている。
基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。
ただ、その価格水準は弊社が想定していた価格(1,650ドル程度)よりは高い水準になる可能性が出てきた。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオは81倍と、ボリンジャーバンドの下限である73倍で反発している。今後、米景気が減速することを考えると、むしろ金銀レシオは上昇する可能性が高い。
足下は12ヵ月移動平均となる83.8倍が意識される。ただ、米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることから、ボリンジャーバンドの上限である94倍までの上昇はないのではないか。
週明け月曜日も米金融引締め観測を背景とする売り圧力と、安全資産需要の買いのせめぎ合いとなり、材料に乏しい中もみ合うと考える。
PGMは週末の下落が大きかったため買い戻しが入ると考えるが、株価の調整(特にハイテク関連株)を受けて調整圧力が強まるとみる。
◆穀物
シカゴ穀物市場は大幅に上昇した。原油価格の上昇やアルゼンチンが再び乾燥気候に見舞われているとする報道を受けて、米国時間の後場に急速に買い戻しが入った。
トウモロコシは100日、小麦は50日移動平均線のサポートラインが意識され、大豆は特段固有材料がなかったが、買い戻しが入った。
昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。
週明け月曜日は週末の上げが大きかったことから、まず売られると考える。その後は、材料に乏しい中、原油の戻りとドル高進行が相殺される形となり、もみ合いを予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「ロシアのウクライナ侵攻と中東情勢~その3」
原油価格高騰と一連の金融政策の関係
2022年の原油価格上昇の要因はコロナとロシアであることは間違いがないが、今回の価格高騰や東西対立は10年以上前から始まっていたと考えるのが適切と考える。
恐らくリーマン・ショック発生によって始まった、世界的な過剰流動性の市場への供給がその切っ掛けと考えられる。
ただし、バブル発生→崩壊を乗り切るために金融緩和を行って乗り切る、と言うことを切っ掛けとするならばこれは1997年頃から始まったアジア通貨危機、それを切っ掛けとする年のLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)の破綻、ドットコムバブルの崩壊の方がリーマン・ショックよりも時期が早いが、中国が世界の商流に組み込まれて以降、発生したイベントリスクという意味ではリーマン・ショックが契機になったとする方が適切と考えられる。
2000年以降、中国の改革開放が進み、2021年12月にWTOヘの加盟が認められ中国は世界の工場としての地位を確保した。
この結果、中国の近代化に必要なインフラ投資が加速して鉄や銅といった鉱業金属の価格が急騰、近代化が進む中ではエネルギー需要が増加するためこれまで充分上流部門投資が行われてこなかった原油も供給不足に陥り価格は高騰した。
この間、この資源価格の高騰に目を付けたのが年金資金を運用しているファンド勢であり、商品市場に投資が可能になるように商品インデックスに連動する債券組成、発行され、現物の裏付けを持つ上場投資信託(ETF)が金を切っ掛けに株式市場に上場された。
これにより今までは商品市場に滞留する資金は商品投資目的の参加者の資金に限られていたが、より市場規模の大きな債券市場、株式市場の資金も流入するようになった。
商品先物市場に資金が流入した場合、通常は取引所の証拠金という形で流入するため、売り買い両方の取引が可能になる。
しかし、基本的に現物を取得する目的ではない投資家の場合、「売るための現物」を有していないことからまず先物市場で買いを入れるところから始まるのが通例であり、商品市場への投機資金流入は基本的には価格の上昇要因となりやすい。
ここで重要なことは、今まで比較的商品市場は閉じた市場だったが、より大きな株式市場や債券市場と金融商品を通じて繋がってしまったため、各国の経済政策のみならず金融政策の影響も強く受けるようになったという点だろう。
またこのときの動きとしてもう1つ大きかったのが、欧米の投資銀行が商品の「現物市場」に直接参入していた点である。
先ほど説明した商品のパフォーマンスに連動する商品は、あくまで先物市場で売買を行うため、実際の商品現物の需給バランスに直接影響を及ぼすものではない。
しかしこの頃の投資銀行は自前でタンカーや製油所を保有し、現物を運用して利益を上げていた。資金力に勝る投資銀行が現物を直接保有することは、そのまま現物の需給バランスがタイトになることを意味し、このことも商品価格を押し上げる要因となった。
このように、多くの市場参加者の読み通り、中国が国際市場に参入してからは需要の増加に供給が追いつかず、ほとんどの商品価格が上昇した。しかしその後、米国でサブプライムローンという信用力の低い個人向けの商品を裏付けとする商品が複数組成され、この商品を組成している金融機関も利回りの高さから相互にこの商品を保有していた。
しかし、不動産バブルが弾け、この商品を保有していた米リーマン・ブラザーズが破綻、連鎖的に金融市場は機能不全となり、中央銀行は市場の機能を維持するために過剰な流動性を供給せざるを得なくなった。
過剰流動性の供給は一義的には価格の上昇要因となるが、取引量の増加を通じて価格の変動性を大きくする効果を持つ。
そして、商品市場の需給を大きくゆがめていた投資銀行に対して、商品取引の投機的な売買、現物取引から撤退するよう「ボルカー・ルール」が導入され投資銀行は積極的に長期や5年・10年といった期先の投機的ポジションを保有することが困難になった。
これまで投資銀行は「割安・割高」と判断した時に買いを入れたり売りを入れたりして価格を安定化させる役割も担っていたのだが、そのような売買が制限された結果、「市場のトレンド」を見て売り買いするようになる。
即ち現物の需給バランスがタイトな時には買いを入れ、緩和している時には売りを入れる、といった感じで市場の動きを増幅させる効果をもたらすようになる。
即ち、現物市場の需給バランスが大きく供給不足・供給過剰に陥っていない場合には問題がないのだが、ひとたび供給不足や供給過剰になった場合には、そのときの価格上昇や下落が増幅される市場になったと言うことである。
これまで見てきたように、充分な上流部門投資が行われず、タイムリーに必要なエネルギーが供給され難い世界に転じる可能性があること、中東の化石燃料への依存度はしばらく高まることが予想されることから、商品価格は高い水準で乱高下しやすい。またこの乱高下が中東の地政学リスクを高めることになるため、経済的に不安定な状態が続くと予想される。
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