錯綜する日銀とFRBへの政策変更期待
- MRA外国為替レポート
2023年1月23日号
◆先週の市場総括
先週は火曜日・水曜日の2日間開催された日銀金融政策決定会合が最大の注目材料だった。
事前に何らかの政策修正、イールドカーブコントロールの緩和等があるとの期待が高まっていたが結果は現状維持。
ドル円相場は週初から128円~129円のレンジで上下動、横ばいとなっていたが、結果を受けて急速に円売り戻しが進んだ。ドル円相場は一時131円台半ばに急騰。ただすぐに反落して木曜日の東京市場では一時128円割れ。
米国の経済指標が小売売上高、鉱工業生産、生産者物価指数、など軒並み弱く、ドル金利先高感が後退しドルを押し下げたことも押し下げ要因となった。
ただ週末にかけては強めの米雇用関連指標やFRB当局者がソフトランディングに楽観的な見方を示すと米長期金利が上昇。ドルを支えた。
さらに黒田総裁が現行の政策に変更ないと発言すると日銀の政策修正期待がさらに剥落して円売りが強まった。
ドル円相場は週末に一時130円60銭近辺まで上昇し引けは129円60銭。ユーロ円相場も日銀政策決定会合での乱高下を除けば概ね139円を中心に138円~140円で推移。週末は円安気味で140円台半ばで引けた。
米国株は景気悪化懸念からNYダウは軟調、利上げ鈍化期待からナスダックは底固かった。日経平均は日銀の政策維持と円高一服を支えに週末にかけて堅調。26,500円近辺で引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が下落。円高を嫌気して輸出関連銘柄中心に売られ一時▲370円超下落した。一方、内需・食品など円高メリットのある銘柄は逆行高。引けは前週末比▲297円高の25,822円。
ドル円相場は127円80銭で始まり128円20銭に上昇。ただ昼前には127円20銭に下落。朝方発表された企業物価指数(12月)は前年同月比+10.2%と前月+9.3%から上昇が加速した。
その後は日銀金融政策決定会合を前に政策変更の思惑で円が上下。米国市場休日のこの日、午後から欧州市場にかけてはポジション調整のドル買い戻し・円売り戻しが強まって128円80銭に急反発。その後は128円台で上下し引けは128円50銭近辺。
ユーロ円相場も同様に138円40銭で始まり138円台で上下したあと、欧州市場にかけて139円20銭に上昇した。その後は米国市場休場で動意薄。139円ちょうどを挟んでもみ合い小動きで引けた。
ユーロドル相場は1.0830で始まり1.0870に上昇したあと反落して欧州市場では1.08ちょうど近辺。その後は小動き上下して引けは1.0820。米国市場は休場。
火曜日の東京市場では日経平均は3営業日ぶりに反発。円高一服で輸出関連銘柄に買いが入った。一方、日銀政策決定会合の結果を前に様子見姿勢も強かった。引けは前日比+316円高の26,138円。
ドル円相場は火曜日・水曜日の両日開催される日銀金融政策決定会合の結果を前に方向感なく上下。128円50銭で始まり昼前には129円10銭に上昇。その後は概ね128円台半ば~129円ちょうどで上下し欧州市場では129円10銭台。
ユーロ円相場は139円ちょうどで始まり139円台前半を中心に上下。欧州市場では139円40銭~60銭で推移した。
ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけて終始1.0820~30で小動きのあと1.0870へ上昇。
発表されたドイツZEW景況感指数(1月)で期待指数が前月▲23.3から16.9へ予想外の大幅改善でプラスに転換。これを受けてユーロ買いが強まった。しかし米国市場に入ると一転して大きく円高・ユーロ安が進んだ。
日本の財務省が国債費の見積もりにあたり利払いの前提となる想定金利を1.6%に引き上げ、との報道で、日銀金融政策決定会合での政策修正の見方が再度強まった。
ユーロには次々回ECB理事会で0.25%へ利上げ幅縮小との思惑も重石。ユーロ円相場は急落して138円20銭。ドル円相場も連れて128円ちょうど近辺に下落。
ユーロドル相場は1.0780へ反落。その後は落ち着きを取り戻し、ドル円相場は128円20銭近辺で、ユーロ円相場は138円30銭近辺で、ユーロドル相場は1.0790近辺で引けた。
米国株はまちまち。ゴールドマンサックスの決算が予想を下回って大幅安となりNYダウの下げを牽引。景気敏感株全般に売りが波及した。決算を見極めようという姿勢が強まり利益確定売りも上値を抑えた。NYダウは前日比▲391ドル安の33,910ドルで引け。
一方、ハイテク株は底固くナスダックは前日比+15ドル高の11,095ドル。米10年債利回りはやや上昇して3.553%。2年債は概ね横ばいの4.209%。
水曜日の東京市場では朝方から日銀金融政策決定会合の結果待ち。結果は昼前に判明し政策変更なし。イールドカーブコントロールのさらなる修正を警戒していた市場は警戒解除で10年債には買い戻し。一時0.3%台に金利が低下。
為替市場では大きく円安に振れた。ドル円相場は128円20銭で始まり一時129円をつけたあと128円40銭で結果待ち。
ユーロ円相場は138円30銭で始まり139円20銭に上昇したあと138円60銭。結果が判明するとドル円相場は131円60銭近辺へ、ユーロ円相場は141円70銭近辺に急騰した。
その後は円安一服。総裁会見前に130円60銭に下落し会見で131円20銭に反発したが、欧州市場にかけてはさらに円高が進んだ。
日経平均は急騰。政策維持の安心感、円安を受けて輸出関連が買われた。引けは前日比+652円高の26,791円。
米国市場にかけてもさらに円高が進み朝方には129円ちょうど近辺まで押し戻された。ユーロ円相場も同様に139円50銭近辺へ下落。米国市場では発表された経済指標が軒並み弱く、インフレ鈍化を示したため米長期金利が大きく低下した。
生産者物価指数(PPI、12月)は前月比▲0.5%と前月+0.3%から下落に転じた。前年同月比は前月の+7.4%から+6.2%へ上昇率が予想以上に鈍化。コア指数では+5.5%へ低下した。
小売売上高(12月)は前月比▲1.1%と前月▲0.6%から一段と減少した。除く自動車でも同様に▲1.1%。鉱工業生産(同)も前月▲0.2%から▲0.7%へ減少が加速。設備稼働率は79.7%から78.8%へ大きく低下した。
これを受けて次回FOMCでの利上げ幅が0.25%に縮小するとの見方が強まった。米10年債利回りは3.373%へ、2年債は4.085%へ大きく低下。ドルを押し下げた。
ドル円相場は127円60銭近辺まで下落。ユーロドル相場は1.0880。ユーロ円相場はドル安円高に押されて138円90銭近辺へ。ただその後はFRB当局者のタカ派発言でドルは下げ止まり。ドル円相場は128円80銭に反発して引け。
ユーロドル相場は1.0790に反落。ユーロ円相場は139円ちょうど近辺で引けた。
米国株は大幅下落。当初はインフレ鈍化を好感したものの、小売や生産が大きく落ち込んだことから景気悪化懸念で売り優勢となった。NYダウは前日比▲613ドル安の33,296ドル、ナスダックは▲138ドル安の10,957ドル。
公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)では米国景気の見方に変化はなし。インフレについては鈍化傾向を確認した。
木曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。前日の米国株が大幅安。ドル安円高が再燃、米景気悪化懸念のなか前日の大幅高の反動で利益確定売りに押された。引けは前日比▲385円安の26,405円。
為替市場では海外の流れのまま円高が進んだ。ドル円相場は128円80銭で始まり40銭~60銭で上下したあと127円80銭に下落。
ユーロ円相場も139円ちょうど近辺から138円60銭~70銭でもみ合い138円ちょうど近辺に下落。ただ午後から欧州市場にかけては反転円安。
ドル円相場は東京市場朝方の水準に戻して128円40銭~70銭で上下。ユーロ円相場は139円30銭に上昇。
ユーロドル相場は1.0790で始まり横ばいもみ合いの後、欧州市場では1.0830へユーロ高ドル安。
ECB議事要旨やラガルド総裁がインフレ率は極めて高すぎるとのタカ派発言を材料にユーロが買われた。ただユーロ高は続かずその後米国市場にかけて大きく上下。138円50銭台、1.0780台に反落したあと139円10銭近辺、1.0830近辺へ上昇して引けた。
ドル円相場はもみ合い横ばいののち128円40銭近辺で引け。ドルインデックスは102ちょうど近辺。
週次の失業保険申請件数はやや減少し雇用情勢がなお堅調であることを示した。
フィラデルフィア連銀製造業景気指数(1月)は▲8.9と前月▲13.8から改善し予想▲11を上回った。
住宅着工件数(12月)は季節調整済み年率換算で1,382千戸と前月1,427千戸から減少したが予想よりやや強め。
ブレーナード副議長は度ふとランディングの可能性が高まっていると発言。インフレは緩やかな成長を背景に過去数か月で鈍化しているが、積極的な利上げの効果はまだ十分に現れていない、とややタカ派ととれる内容。
長期金利はやや上昇して米10年債は3.399%、2年債は4.129%。米国株は続落。NYダウは▲252ドル安の33,044ドル、ナスダックは▲104ドル安の10,852ドルで取引を終えた。
金曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。円高一服や春節を前に中国景気持ち直し期待が支え。引けは前日比+148円高の26,553円。
この日発表された消費者物価指数(CPI、12月)は前年同月比+4.0%と前月+3.8%から上昇加速。上昇率は予想通り。ただ為替市場では日銀の金融政策修正への期待が後退するなか円が軟調。
ドル円相場は128円40銭で始まり午後には129円30銭に上昇。その後夕方にかけては128円80銭に反落した。
ユーロ円相場は139円10銭近辺で始まり昼前に60銭に上昇。午後には140円ちょうど近辺に一段高となり夕刻は139円60銭台。ただその後欧州市場から米国市場朝方にかけて一段と円安が進み、ドル円相場は130円60銭、ユーロ円相場は141円20銭に達した。
ダボス会議で黒田総裁が現行の政策に変更ないと述べたことで円売りが再燃した。ユーロドル相場は東京市場では1.0830~40で小動きもみ合い横ばい。夕刻にやや高く1.0860に強含んだ。
ただ米国市場にかけては反落して1.08ちょうど近辺へユーロ安ドル高。米10年債利回りが上昇しドルを支えた。
10年債は一時3.5%接近に上昇。ただその後、タカ派とされるFRBウォラー理事が次回会合で0.25%の利上げを望むと発言。金利先高感が緩んだ。10年債は3.482%で引け。2年債は4.177%。
ドル円相場は反落して129円60銭で引け。円売り一服でユーロ円相場も140円50銭に反落。ユーロドル相場は反発し1.0850~60。
米国株はハイテク株が堅調。ネットフリックス社の好業績を材料に安心感が強まった。利上げ姿勢緩和も支え。ナスダックは前日比+288ドル高の11,140ドル。NYダウは前日比+330ドル高の33,375ドルで引け。
◆今週の3つの注目ポイント
今週は中国が春節で1週間休場。
1 米国の経済指標
景況感の悪化が続くなか先週は小売、生産が弱い数字となった。雇用はなお堅調さを示すが景気悪化懸念が強まるか。
月曜日 景気先行指数(12月、前月比、予想▲0.7%、前月▲1.0%)
火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(1月、前月1)
木曜日 GDP(10-12月期速報、前期比年率、予想+2.6%、前期+3.2%、個人消費、同、前期+2.3%、個人消費価格指数、前期比年率、前期+4.7%) 耐久財受注(12月、前月比、予想+2.8%、前月▲2.1%) 週次失業保険新規申請件数 新築住宅販売(12月、季節調整済み年率換算、予想614千戸、前月640千戸)
金曜日 個人所得・消費支出(12月、前月比、予想+0.2%・▲0.1%、前月+0.4%・+0.1%) 消費支出物価指数(同、前年同月比、予想+5.0%、前月+5.5% コア、予想+4.4%、前月+4.7% ミシガン大学消費者信頼感指数(1月確報)
2 PMI景況感指数(1月)
火曜日に欧米でPMI景況感指数(1月)が発表される。欧米、製造業サービス業、いずれもやや改善が見込まれているが景気悪化懸念を緩和する数字となるか。欧米の景況感格差はどちらが優位とみえるか。
ユーロ圏(製造業、予想48.5、前月47.5、サービス業、予想50.0、前月49.8)、米国(製造業、予想46.5、前月46.2、サービス業、予想46.0、前月44.7)との見込。
3 日銀金融政策決定会合要旨、CPI
23日月曜日に12月に開催された日銀金融政策決定会合の議事要旨が公表される。
当該会合では唐突な政策修正、長期金利変動幅の拡大が行われたが、その結論に至る論点はどういうものだったか。
また26日木曜日に今回1月会合の主な意見が公表される。現状維持となったがなおも機能が悪化している債券市場を前に、さらなる政策修正、イールドカーブコントロール撤廃の議論、現状に対する危惧など意見はなかったのか。
また27日には都区部消費者物価指数(1月)が発表される。前年同月比+4.1%と前月+4.0%からさらに上昇が加速する見込み。
市場とくにひとまず0.4%近辺で落ち着いている10年債利回り、長期金利の反応はどうか。
◆今週のMRA's Eye
錯綜する日銀とFRBへの政策変更期待
先週、日銀は金融政策決定会合で現行の政策を維持。さらにはイールドカーブコントロールを維持するためともとれる国債担保オペ・資金供給策の強化も行った。金融機関に国債購入を促すともとれる。
こうした姿勢に市場の金融政策修正期待は折れ、0.50%の上限に張り付きあるいは上回っていた10年国債利回りは低下。週末には0.3%台に低下した。
海外勢には政策修正を期待し、あるいは日銀に政策修正を促すように日本国債売りが嵩んでいたが、ひとまずは撤退したようだ。と同時に進めていた円買いも一服、ポジション手仕舞い。円売り戻しで週末にドル円相場は一時130円台まで反発した。
ただ日本のインフレ率はなおも上昇基調にある。
12月のCPIは前年同月比+4.0%に上昇加速。1月もさらに+4.1%へ加速する見込み。なおも企業の価格引き上げはじわじわと続いている。問題は賃金動向。日銀黒田総裁はこのところ、賃金上昇をともなった物価上昇かどうかが重要とし、インフレ率目標そのものではなく、賃金上昇が実現するまで緩和政策を維持すると論理を変化させてきた。
そのため、政府および日銀が気にする春闘の結果が日銀のさらなる政策修正、イールドカーブコントロールの緩和ないし撤廃に重要な鍵を握る。
春闘の集中回答日は3月中旬頃。次回政策決定会合は3月9日・10日で、その時点では春闘の結果が明らかになっていない。
となると、政策修正があるとしてもその次の会合、4月27日・28日となるか。海外勢も春闘の動向に注目しており、3月中旬以降は再び政策修正期待、債券売りによる円長期金利上昇圧力が強まるとともに円高期待が高まる可能性がある。
ただ総裁人事次第ではその前に再び政策修正期待が強まる可能性がある。
すでに岸田首相は黒田総裁の4月初旬退任を明らかにした。国会の会期の関係で、後任の総裁人事については2月上旬、2月10日頃に国会に提示される見込みとなっている。
そうなると、黒田総裁のもとでの最後の会合となる次回3月9日・10日の会合の前に、再び政策修正期待が高まる可能性がある。
総裁が誰になるか、も、黒田路線あるいは現状の強力な金融緩和策への固執がどの程度となるか、という点で注目される。与党内、自民党安倍派からはアベノミクスの継承を強く希望し反映された人事に期待する意見、岸田首相への圧力が強いという。
経済物価状況がすでにアベノミクス導入の2012年時点とは大きく異なっているが、どの程度そうした政治的、党派的意向が反映されるのかが注目だ。
政治的意向が通りその後の政策に反映されるようであれば、緩和継続とともに円への信認が悪化、中長期的に円安となりやすい素地となる点には留意を要する。
一方の米国ではこのところFRB当局者からソフトランディングに対する楽観的な見方が多く示されている。
足元の経済指標、企業景況感、鉱工業生産、小売売上高、など軒並み悪化傾向が続いている。インフレは明らかに鈍化傾向。一方、雇用情勢はなおも堅調。景気悪化・インフレ鈍化ただし雇用は底固い、という環境は当局にとって好ましい。
利上げの効果がまだ十分に顕在化していない、との発言は、一見、なおも利上げを継続する必要があるとのタカ派と受け止められる。
しかし、これまでの利上げの効果がこれからさらに顕在化する、との考え方となれば、緩やかに利上げを解除ということになる。
問題はその後の利下げ転換。これは雇用の悪化次第。雇用が遅行指標であることからすれば、あるいは企業の景況感がさらに悪化すれば検討されよう。
とくにサービス業の景況感が一段と悪化し、堅調なサービス部門の雇用に変調を来す可能性が高まれば利下げの可能性が一段と高まる。
市場では利上げペースの鈍化までは織り込み済み。次回会合では0.25%の利上げに留まるとの見方がコンセンサス。当局者からも0.25%に利上げ幅を縮小することを望むとの意見が散見されるようになってきた。
次回も含めて2回~3回の0.25%利上げ、合計0.50%~0.75%の利上げで5.0%~5.25%で打ち止めとなる可能性が一段と高まってきた。
その先の夏場以降に利下げに踏み切る状況となるか。インフレ率鈍化が順調でペースが速ければ実質金利はさらに上昇し景気に一段と押し下げ圧力がかかる。
景気悪化が続いているようなら、インフレ率低下にスライドした利下げ、政策金利調整はありうる。現在の景気物価動向が反転する可能性、景気回復やインフレ率上昇に向かうリスクは小さい。
リスクは引き続きダウンサイドのまま。夏場には利下げ期待が一段と強まり、10-12月期に利下げが実施されるリスクを意識する必要がありそうだ。
ドル円相場のトレンドは緩やかなドル安円高との見方は不変。日米の金融政策に対する市場の思惑が錯綜するなか、当面はストップ&ゴーとなりそうだ。
現時点では130円台に上値は重く、かといっても125円を割り込むほどの要因はない。125円割れがあるとしても4月以降との見方がメインシナリオ。ただリスクバイアスはドル安円高サイドを継続。
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