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米景気への懸念から軟調 工業金属は中国要因で堅調
  • MRA商品市場レポート

2023年1月19日 第2373号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米景気への懸念から軟調 工業金属は中国要因で堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品などの景気動向に左右され難い商品が上昇、中国のリオープンを材料にした非鉄金属買いは継続したものの、軟調な推移になった商品が目立った。

米国の小売売上高ヘの注目が集まっていたが想定よりも悪い内容であり、インフレを抑制するために行ってきた各国中央銀行の金融引締めがその効果を発揮しつつあることが確認され、「景気そのもの」を材料にした売りが入ったためと考えられる。

ただ、ここで問題になるのは景気が本当に減速した場合、「インフレ抑制に主眼を置いて、利上げや高金利を維持できるのか」という点だ。仮に景気を重視すれば利上げ・高金利容認を撤回して、市場が期待する利下げということも有り得るがこうなると再び物価が上昇することになる。

逆にインフレ抑制に主眼を置けば金融引き締め過ぎとなり、Q323と期待される景気の底が底割れとなるリスクも出てくることになる。

結局、インフレを抑制するには供給能力の拡充が必須だが、脱炭素屋金融引締めがこれを阻害しているとも言え、非常に難しいオペレーションを各国中銀は要求されているといえるだろう。

市場は利下げを、中央銀行は高金利維持を見込んでいるがこの市場と当局の意識の乖離が、特に今年後半以降の景気動向を左右する大きなリスクになると考えられる。

結局、この状況だと価格は乱高下しやすく、その制御をいかに行うかということは企業経営上の重要な課題になるのではないか。

【本日の見通し】

本日は、市場の注目が「景気そのもの」に移りつつ有ること、株安を背景としたリスク回避でドル高に再びなりやすいことから軟調な推移になる商品が目立つと考える。ただし、中国のリオープンや春節前の駆け込み需要がある工業金属などは堅調地合を維持するのではないか。

本日注目の材料は以下の通り。

12月米住宅着工 市場予想 前月比▲4.8%の135.8万戸(前月▲0.5%の142.7万戸)

12月住宅着工許可件数 +1.0%の136.5万戸(▲10.6%の135.1万戸)

1月フィラデルフィア連銀製造業指数 ▲11.0(▲13.8)

【昨日のトピックス】

昨日の日銀金融政策決定会合は市場が予想(期待)していたYCCの終了は見送られた。日銀の国債購入などのオペレーションが限界に達し、銀行から買い入れた国債を貸し出さなければオペレーションができなくなる状況に陥っている。

毎回、日銀政策会合で繰り出される日銀の方針は複雑さを極めており、論理的にというよりも実務上最早、このオペレーションが持続可能ではなく、副作用しかないことを浮き彫りにしている。

また、それ以上にETFを通じて保有している株は多く、多くの企業で日銀が筆頭株主という異常事態である。お隣の中国が改革開放を見直し、国有企業を強くして支配を強める方針を打ち出し「時計の針が逆回転している」という指摘も目にするが、日本は静かに同じことをしているといえる。

https://diamond.jp/articles/-/267714

「日銀は政府の子会社」と指摘した人もいたが、このロジックを引き合いに出せば、日銀が保有しているならばそれは政府が保有していることと同じであり、日本の時計の針も逆回転している、とも言える。

問題は日銀が買い入れた国債や株が下落した場合に大きな損失が発生するリスクがあることだ。国債に関してはオーバーパーで購入している物がほとんどと考えられるため、そのまま満期で償還されれば損失が発生する。これは巡り巡って国民負担となる。

また、日銀の買入によって政府債務が貨幣化しているがインフレになった場合、政府負担が重くなり破綻、と言うことも有り得る状況。この10年間の日銀政策(というよりは政府の方針か)の責任は小さくない。

今回の会合を受けて黒田日銀の間は結局YCC解除は行わない可能性が高まった、と言えるが、市場は総裁交代後の政策変更を強く織り込み始めるとも言えるだろう。

実際にYCCを解除しても、米国景気が減速して海外金利が低下するならばその影響は限定されると期待されるが、希望的観測なのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。ドルが修正安となる中で上昇していたが、米国時間に発表された小売売上高が悪化、PPIも減速して最大消費国である米国の需要減少観測が強まったことが材料となった。

ドル安、中国のリオープンなどを材料に価格は上昇してきたが、やはり循環的な景気減速の影響は小さくない。

今後の相場展開を占う上では、ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーして見ていく必要がある。早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、それはまだ先だろう。

ロシアは欧米の制裁に対して、原油価格上限設定国に対する原油・石油製品輸出を禁止する大統領令に署名した。原油輸出は2月1日から5ヵ月間禁じられ、石油製品に関しては別途、政府が通達するとしている。

しかし、ロシアに対する制裁を行っている国の数はそれほど多くなく、インドや中国などの中立国スルーで供給は続くことから禁輸の影響は限定されることになるだろう。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル/75-95ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落する。しかし、楽観的なメインシナリオでは今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まりする可能性が高い。

Q123~Q123 需要の伸び減速・生産調整 (→)グローバル・リセッションの場合 (↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米統計の減速を受けて調整圧力が継続する展開を予想する。市場の注目は金融政策の方向性よりも米国の景気そのものへの注目が高まっていると考えられる。

本日発表のフィラデルフィア連銀製造業指数は若干改善も、マイナスの状態が続くため結局売り材料に。

なお、朝方発表の米API統計では原油在庫の増加が確認されており、今晩のEIA統計での原油在庫を市場は減少予想としているため、サプライズで売られる可能性は高い。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に上昇。気温低下見通しとここまでの下落、冬場はまだ継続していることから買いが入った。

欧州の天然ガス在庫の水準は高い。気温上昇と再生可能エネルギーからの電力供給回復が背景にある。

そのため改めてガス在庫動向をシミュレーションをしてみると今のところ▲10%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうだ。

しかし、需要削減が▲5%程度に止まったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する、といった事態になればガス供給は間に合わないことになる。

足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。

TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。

足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

ドイツは浮体式のLNG受入ターミナルの整備を進めているが、こうした取組みも脱ロシア達成には5年程度かかると考えている。

2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開(フル稼働は3月頃か)、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は1月後半よりも早いことはないとされ、場合によると3月以降の再稼働となる可能性がある。ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前の状態に戻るにはまだ時間が掛かる。

3.4.は顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは2023年1-3月に50%、2-4月は71%の確率で正常化すると予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

1月9日-15日のLNG貿易は、766万トン(前週827万トン)と前週から減少、スポット調達の比率は18%(22%)とこちらも低下した。

北西欧州・イタリア向けのスポットカーゴは▲50万トンの大幅な減少、ただしその他の欧州の調達は+20万トンの増加となった。日中台韓は▲10万トンと小幅に減少。ターム契約はほぼ変わらず。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが例年の水準よりは高く、欧州の調達需要は引き続き旺盛と見られる。これは構造的な需要の増加によるものだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。米国の気温低下が和らぐとの期待や、米経済活動の鈍化観測が材料となった。

しかし、HDD予想は急速に上昇しており今後、極渦の影響などによる気温低下に伴う需要増加が見込まれるため、どちらかと言えば今晩の在庫統計を睨んだポジション整理、と考える方が適切ではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。割安感と気温低下見通しを受けた調達圧力の高まりが背景と考えられる。

12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

11月のLNG輸入は前年比▲7.0%の642万トン(前月▲34.6%の403万2,000トン)と前年比のマイナス幅が縮小、冬場に向けた調達が増加している。

11月のパイプラインベースの輸入は前年比+1.7%の389万トン(+11.6%の358万トン)と輸入の伸びが鈍化している。

パイプラインの国別輸入内訳は金額ベースのみの開示となった。各々の契約条件が異なるため数量と同じ比較ができないが、ロシアが前月比+1億5,670万ドルの増加となっており、次いでトルクメニスタン(+1億4,290万ドル)となった。ウズベキスタンとカザフスタンは減少。

中国国内の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

天然ガス輸入量の減少を見ると、ゼロコロナの影響による経済活動の停滞、国内生産の増加の影響が小さくないと考えられるが、ゼロコロナは解除され、石炭などは豪州に対して増産要請が出されるなど、今後、国内需要回復の可能性は高い。結果、天然ガス価格を下支えすることになるだろう。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を断ったため供給懸念が強まったが、英再保険会社が従来の半分では有るが付保を承諾したため、目先の調達懸念は後退している。

しかし、付保が撤廃される可能性はあること、付保額が半分以下に(保険引き受け能力は国内損保が80億円、海外再保険会社が220億円)なっているため、このままではスポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。

また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。

1月8日時点の日本の発電用LNG在庫は248万トン(前年同月末180万トン、2018~2022年平均205万4,500トン)と過去5年レンジを上回っている。

しかし、冬はまだ続いており例年あるように気温次第で来年の2月頃にガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。

さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は、欧州・アジアの気温低下見通しを受けて上昇余地を探る動きになると考える。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、ロシアからのガスフローが事実上途絶していることを考えると、下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は期先がパラレルに上昇した。期近は小幅に下落。しかし総じて高値を維持しているとの印象。

足下の需給が緩和していないことは期間構造を見ても明らかである。中国が豪州炭の輸入を再開、この価格水準でもカロリーや性状を考えると豪州炭の方がメリットがあるようだ。

また、日本も中国とも同様に石炭種の変更は困難であるため、輸入は高い水準を維持している。

期先の価格の下落は生産者側のコスト削減などの影響が大きいと考えられるが、豪州側の供給の問題(人手不足、ストライキ、異常気象など)はまだ残存していると考えられ、期先の価格動向は引き続き注視する必要がある。

12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。

12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭の輸入は西側諸国で制限されており、代替となる高カロリー炭を求める動きは継続している。

通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、ロシア問題発生前は120ドル前後だった水準は、200~230ドルに上昇している。これはコストカーブ上からロシア炭が抜け落ちていることによるもの、といえる。

恐らくロシア炭はいろいろなルートを通じて海上輸送炭市場に流入するため、徐々にこの水準は切り下がるとみているがまだそれには時間が掛かるだろう。

なお、ロシアに対する制裁とは関係なく、冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られる4月以降、石炭価格は下落するとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

本日は、中国の石炭輸入増加観測、欧州・アジアの気温低下見通しを材料に高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属市場は総じて堅調な推移となった。リオープンやドル安を材料にした中国勢の買いと投機の買いが継続しているためと考えられる。

なお、銅はペルーの状況悪化(後述)が供給面のリスクとして長期化する可能性が意識され始めている。

直近のCOTレポートは総じてネットロングが増加している。

銅・亜鉛・亜鉛はロングが増加、ショートが減少して強気のポジション、鉛は暖冬でロングを減らしショートが増加、ニッケルはポジション自体が落されて結果ネットロングが増加、スズはロング・ショートとも増加してネットロング増加、という感じだった。

基本、投機筋は非鉄金属に対して強気のポジション取りとなっている。

昨年末に発表された中国製造業PMIが悪化しており、需給ファンダメンタルズは緩和、この価格上昇は春節前の在庫積増しの動き(今年は実質的に1月21日から休みに突入する)であり、さらにコロナの感染拡大から帰郷した労働者が休みを長く取る、という可能性もあるためまだ現時点においては一時的な上昇、と整理すべきと考えている。

なお、コロナの感染拡大による免疫獲得を材料に、早期に中国の経済活動が再開すれば話は別で、1月の製造業PMIが改善、新規受注在庫レシオも上昇する可能性はある。

この場合、足下の価格上昇が投機だけではなく、需給ファンダメンタルズ面で肯定されることを意味する。

しかし、1.海外景気は減速すること、2.足下の上昇は期待先取りの可能性が高いこと、3.直近の新規受注在庫レシオは少なくとも需給がタイト化していないことを示唆していること、を考えるとやはり価格の方向はまだ下向きである。

方向性が出るのは、中国の製造業PMIが発表され、春節が明けた2月以降になるのではないか。

なお、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。

暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。

後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。

結果、4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。

弊社はもう少し早期に収束の道筋が見えるのでは、と考えていたが現状を整理すると先行きの不確定要素は多く、今後、銅供給制限が長期化して価格を押し上げる可能性が高まった。

中期的には景気の循環によって、恐らくQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

リスクとしては、米利上げ打ち止め直後から価格が上昇する場合。現在、6月のFOMCで利上げは打ち止めになると予想されており、Q223から景気回復を先取りして価格が上昇する可能性はある。

また逆のリスクとしては、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

11月の中国の非鉄金属生産は、ほとんどの金属の生産が高い水準を維持、過去5年レンジを上回る水準となっている。ゼロコロナの解除、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。

しかし、感染爆発で再びロックダウンを余儀なくされる可能性は低くなく、先行きの需要・生産両方の重石となる。冬場一杯はこの状態が続き、集団免疫を獲得するまで(1年程度か)は不安定な状態が続くのではないか。

12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。

11月の中国の精錬銅生産は+22.5%の111万5,000トン(前月+8.1%の92万3,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

生産と輸入を合計した供給量は11月が前年比+16.5%の165万5,000トン(前月+5.0%の132万7,000トン)と過去5年の最高水準を上回っており、今後、ゼロコロナ解除、不動産セクターのテコ入れに備えた動きが起きていると考えられる。実際、中国の取引所銅在庫の水準は季節的に見ても低く、LME在庫の水準も低いことから、国内生産を増加させていると考えられる。

11月の銅スクラップの輸入は前年比▲1.9%の16万1,619トン(▲15.2%の11万2,857トン)と過去5年平均は下回っている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。

銅地金の輸入の回復、国内生産の増加を考えると中国の需要は政策的なテコ入れによって一時的に急回復していると考えられる。

ただし、世界景気の減速やこれ以上、住宅バブルを発生させることはさすがに回避すると考えられることから、中期的な見通しは引き続き弱気だ。

本日は、米国の景気減速に伴うドル安と春節前の駆け込み調達で上昇すると見るが、そろそろ買いも終盤とみられ上昇余地は限定と考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

ただし直近の中国の不動産投資や固定資産投資、工業生産は減速しており、公的な支援がなければ中国のおかれている状況は楽観できない。

もちろん、ゼロコロナ解除にともない「消費の水準が異例の低水準から回復する」期待はある。しかし海外景気の減速や、不動産セクターのテコ入れを行ってもバブルを作るまでのテコ入れはできないことから、そろそろ上値も重くなると考える。

ただ仮に、不動産セクターの立て直しに成功すれば価格には上昇圧力が掛かることになるだろう。もし失敗すればかつての日本のように、不動産セクターが長期不況に入る可能性も否定できない。

長期的には徐々に鉄鋼セクターの価格動向は、インドのインフラ投資動向に左右されていくことになるだろう。

12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が44.3(前月40.1)と改善した。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。

内訳を見ると新規受注が38.9(34.5)と改善、それに伴い生産も43.4(39.3)と改善している。政策効果が一定程度見られているようだ。

鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは54.4(55.4)と前月から小幅に減速。中国政府が不動産業界向けの資金繰り支援策を打ち出したが、コロナの感染拡大や国内の循環的な景気減速の影響から脱していないことを示唆している。

ゼロコロナ政策の継続、不動産業界向け支援策の効果が出るまでは時間がかかると思われることを考えると、鉄鋼市場の需給は緩和した状態が続き、鉄鋼原料価格の頭を重くしよう。

12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。

12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。

中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。

粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。

しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+111万2,000トンの1,125万1,000トン(過去5年平均 925万3,000トン)。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+110万トンの1億3,520万トン(過去5年平均 1億4,031万6,000トン)、在庫日数は33.5日(+0.3日、過去5年平均32.6日)。日数ベースでは充分だが、今後、鉄鋼製品在庫の積増しが行われることを考えると充分とは言えない。

原料炭在庫は▲4万トンの207万トン(147万トン)、在庫日数は▲0.2日の9.6日(過去5年平均 6.3日)とかなり積み上がってきた。

本日は、中国の経済活動再開と春節前の在庫積増しの動きが鉄鋼原料価格を押し上げるが、そろそろ終盤であり上昇余地も限定と考える。

◆貴金属

昨日の金価格は小幅に下落した。米国の経済統計悪化を受けた長期金利の低下が実質金利を押し下げたが、ドルがリスク回避で上昇したためこれが相殺された形。

銀は金の下落を受けて大幅に調整、PGMは株価の急落もあって水準を切下げている。

金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造にやや変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。

現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。

また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」もあり、特に新興国で金準備を積み上げる動きが出ていることも新たな動きといえ、金価格の上昇要因となっている。

中国は昨年11月・12月で62トンの金を購入しており、これだけで25ドル程度の価格押し上げ要因となる。

なお、この分析が機能するのは「安全資産需要が高まっている間」と考えられ、恐らく利上げが続く夏頃までは参考になるのではないか。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることが、金銀レシオを押し下げながら銀価格を押し上げている。

本日は、米景気減速に伴う実質金利の低下や、リスク回避のドル高進行が相殺し合い、金価格はもみ合い、銀も同様。PGMは景気減速を意識した株価の下落で調整圧力が強まると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。需給ファンダメンタルズはタイトであることを示唆するものが多いものの、原油価格の下落や価格に対する説明力が高い期待インフレ率が原油価格の下落を受けて調整したことが材料となった(大豆については本日のMRA's Eyeを参照ください)。

今後は冬場のラニーニャ現象がアラビア半島・北アフリカ周辺に降雨をもたらしており、サバクトビバッタの大量越冬を可能にするため、2023年は穀物供給リスクが継続する可能性がある。

なお、今のところバッタの大量発生は確認されていない。

本日は、期初在庫の水準低下で引き続き需給ファンダメンタルズがタイトであるが、米景気の先行きを懸念した原油安・期待インフレ率の低下が価格を下押しするため現状水準でもみ合うと考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまう場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「2023年も大豆価格は高止まりか」

ラニーニャ現象の発生やウクライナへのロシアの軍事侵攻を受けた穀物供給不安を材料に上昇していた大豆価格は、中国のゼロコロナ政策の堅持に伴う消費活動の低迷から価格水準を切下げていたが、昨年10月以降、じりじりと水準を切り上げ原稿執筆時点では昨年8月以来となる200日移動平均線のレジスタンスラインを試す展開となっている。

2022-2023穀物年度の世界大豆需給は、昨年の不作の影響で期初在庫が前年比▲182万トンの9,822万トンとなる一方、ブラジルなどの増産により生産が+2,991万トンの3億8,801万トンに達し、供給は増加の公算。

需要面は、輸出の増加(+2,998万トン)を供給増加が上回る(+3,528万トン)ため、前穀物年度と比較した場合需給は緩和する見通しで、在庫率は27.3%(27.0%)と上昇が見込まれている。需給率は84.1%(84.0%)と昨年とさほど変わらないが、昨年に比べれば世界需給は緩和が予想される。

しかし、大豆価格に対して説明力が高い米国の需給見通しは、長く続いたラニーニャ現象の影響で、よりタイト化する見通しだ。

生産は前年比▲515万トンの1億1,638万トンに減少すると予想されている。2022-2023の作付面積は8,750万ヘクタール(前年8,720万ヘクタール)、収穫面積は8,630万ヘクタール(8,630万ヘクタール)が予想されているが、単収が49.5ブッシェル/エーカーと、前年の51.7ブッシェルから大きく低下することが要因である。

また、ラニーニャ現象は今後終了する見通しであるものの、3月頃までは続く見込みであり、播種が計画通り進まない可能性はある。この点も供給面のリスクとなろう。

一方、需要面は輸出が政治的な対立から中国が米国産の大豆輸入を削減する影響で▲468万トンの減少、圧搾需要の増加(112万トンを相殺し)、全体で▲300万トンの1億1,853万トンに減少する見通しである。

しかし、生産減少の影響が大きいため在庫率は4.8%とこの10年で2番目に低い水準となり、需給率についても95.4%とやはりこの10年で2番目に高い水準になると予想されている。

静態分析でも、シカゴ定期価格の決定要因となるCBOTの受渡可能在庫は原稿執筆時点で924万7,000ブッシェルと、同じ時期の過去5年の最低水準であり低く、この点も大豆価格の高止まりを肯定しやすい。

USDAは2023年の大豆価格見通しを14.2ドルとしている。過去10年間の需給率と大豆年間平均価格の回帰分析では、2023年の平均価格は12ドル程度(±1標準偏差で10ドル~14.1ドル)となるが、昨年の1年間の平均価格が15.51ドルであり、この水準を基準に需給率の上昇分を単純に加算して価格を算出すると15.87ドル程度となる。

2020-2021年以降、大豆の平均価格は10ドルを超えていたが、恐らく今年も平均価格は少なくとも10ドルを超えることになるだろう。結局、大豆価格はしばらく高値を維持する可能性が高いと言うことだ。

ただし、他の穀物も同じだが、価格に対する説明力が高い米国の期待インフレ率が、米国の金融引締め、インフレ抑制策によって低下圧力に晒されているため、今後、米金融政策主導で大豆価格にも下押し圧力が掛かる可能性が排除できないことも付言しておきたい。


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