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米CPIは予想通り鈍化しリスク選好で上昇
  • MRA商品市場レポート

2023年1月13日 第2369号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米CPIは予想通り鈍化しリスク選好で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は総じて堅調な推移となった。注目の米CPIがほとんど市場予想通り弱めの内容となり、2月FOMCでの利上げが25bpでほぼ確実となったことで金利が低下、ドル指数低下、株高となり、リスク選好が強まったことが背景(CPIの詳細については「昨日のトピックス」を参照ください)。

昨日下落したのは、ドル安の裏返しで自国通貨建て商品が水準を切下げたことを除けば、ほとんど大きな下落にはなっていない。

足下、米国の利上げペース鈍化、中国のリオープン、欧州のガス調達一服・価格下落による経済活動再開、ロシア・ウクライナの戦況が膠着していること、からリスク選好となりやすい環境になっている。

【本日の見通し】

本日は、昨日の米CPIを受けて米国の利上げが終盤にきている、との期待が高まっていることから、リスク選好が継続して上昇余地を探る商品が目立つと考えられる。

本日はCPIの鈍化を受けて、消費者がインフレ期待をどのように見ているかの判断材料となる、ミシガン大学消費者マインド指数のインフレ期待に注目している。市場予想は以下の通り。

1月ミシガン大学消費者マインド指数 市場予想 60.7(前月59.7) 現況指数 60.0(59.4) 期待指数 59.0(59.9) 1年期待インフレ率 4.3%(4.4%) 5年-10年期待インフレ率 2.9%(2.9%)

【昨日のトピックス】

昨日発表された米CPIはほぼ市場予想通りの内容となった。総合指数が前月比▲0.1%(市場予想▲0.1%、前月+0.1%)、前年比+6.5%(+6.5%、+7.1%)、コア指数が前月比+0.3%(+0.3%、+0.2%)、前年比+5.7%(+5.7%、+6.0%)と、ほとんど予想通りである。

これを受けて市場の米利上げ加速観は減速している。2月のFOMCは94.7%(前日76.7%)の確率で25bpの利上げが予想されている。25bp利上げであれば、3月のFOMCの利上げも25bpの確率が76.6%(65.9%)となった。

ただ、利上げのペースが緩やかになるため、利上げ終了を市場は7月頃と見込んでおりその間、景気の下振れ圧力は強まることになる。

難しいのが米ISM製造業指数・非製造業指数は明確に減速しており、「景気後退局面下での利上げ継続」となっている点である。

さらに、今回のCPIでは減速が確認されているものの、粘着質なインフレの状況はやはり解消していない点は懸念材料である。

CPIヘの寄与が大きい住宅は前年比+7.5%(前月+7.1%)と予想通りではあるが伸びが加速している。過去の住宅価格とCPIでの住宅の関係性をみるに、住宅価格下落から1年後に影響が出るため、早くても今年の春以降にならなければCPIの住宅指数は減速しないと予想される。

しかし、より懸念される野はサービス(除く家賃)であり、前月の+7.3%から+7.4%に伸びが加速しているのだ。これは月初の雇用統計などに反映されているように、サービス業の雇用市場がタイトな状態(働き方の変化、コロナによる高齢者の市場からの退場)が続いている可能性が高い。

補助金が昨年末で終了しているため、サービス業の人員不足はやはり時間経過と共に解消することが期待されるものの、それには時間が掛かるとみておいた方が良い。

結果、足下の価格上昇にはなるものの、スタグフレーション状態になる可能性を示唆する内容だったといえるのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米CPIが予想通りの内容となり、ドル安が進行したことが材料となった。

今後の相場展開を占う上では、ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーして見ていく必要がある。早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、それはまだ先だろう。

ロシアは欧米の制裁に対して、原油価格上限設定国に対する原油・石油製品輸出を禁止する大統領令に署名した。原油輸出は2月1日から5ヵ月間禁じられ、石油製品に関しては別途、政府が通達するとしている。

しかし、ロシアに対する制裁を行っている国の数はそれほど多くなく、インドや中国などの中立国スルーで供給は続くことから禁輸の影響は限定されることになるだろう。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-95ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-85ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落する。しかし、楽観的なメインシナリオでは今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まりする可能性が高い。

Q123~Q123 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日のCPIを受けてからのミシガン大学消費者マインド指数のインフレ期待鈍化予想を受けて、再び上昇余地を探る展開を予想。ただし、週末と言うこともあり、上昇余地は限定されると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に上昇した。記録的な暖冬が需要を減じ、価格が下落していたが、「極渦」の発生が予想されており気温急低下の可能性が出てきたことが価格を押し上げた。

ただし、在庫水準の高さもあり調達をそれほど急ぐ動きもなく、小幅な上昇に止まった。

欧州の天然ガス在庫の水準が高いため、改めてシミュレーションをしてみると今のところ▲10%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうだ。

しかし、需要削減が▲5%程度に止まったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する、といった事態になればガス供給は間に合わないことになる。

足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。

TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。

足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

ドイツは浮体式のLNG受入ターミナルの整備を進めているが、こうした取組みも脱ロシア達成には5年程度かかると考えている。

2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は1月後半よりも早いことはないとされ、場合によると3月以降の再稼働となる可能性がある。ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前の状態に戻るにはまだ時間が掛かる。

3.4.は顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは2023年1-3月に50%、2-4月は71%の確率で正常化すると予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

1月2日-8日のLNG貿易は、820万トンと前週と変わらなかった。スポット調達の比率は22%とこちらも変わらず。

北西欧州・イタリア向けのスポットカーゴは横這い、その他の欧州向けは▲20万トンの減少、日中台韓の輸入は+30万トンの増加となり相殺氏合った。アジアの輸入増加は主に中国と韓国からのもの。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが例年の水準よりは高く、欧州の調達需要は引き続き旺盛と見られる。これは構造的な需要の増加によるものだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小動き。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物も小動きだった。

11月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲3.8%の1,032万トン(前月▲18.9%の761万トン)と前年比での減少幅を縮小、前月比では大幅な輸入増加となった。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

11月のLNG輸入は前年比▲7.0%の642万トン(前月▲34.6%の403万トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

ほとんどの主要地域からの輸入が前月から増加しており、特に豪州が前月比+98万4,700トンと顕著で、次いでカタール(+41万6,600トン)、インドネシア(+31万1,900トン)、マレーシア(+19万6,500トン)となった。

なお、ロシアからの輸入増加は+9万6,100トンに止まっている。

11月のパイプラインベースの輸入は前年比+1.7%の389万トン(前月+11.6%の358万トン)となった。

パイプラインの国別輸入内訳は金額ベースのみの開示となった。各々の契約条件が異なるため数量と同じ比較ができないが、ロシアが前月比+1億5,670万ドルの増加となっており、次いでトルクメニスタン(+1億4,290万ドル)となった。ウズベキスタンとカザフスタンは減少。

11月の中国の天然ガス生産は+7.4%の1,389万7,000トン(前月+10.8%の1,352万9,000トン)と生産は増加、過去5年の最高水準を上回っている。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を断ったため供給懸念が強まったが、英再保険会社が従来の半分では有るが付保を承諾したため、目先の調達懸念は後退している。

しかし、付保が撤廃される可能性はあること、付保額が半分以下に(保険引き受け能力は国内損保が80億円、海外再保険会社が220億円)なっているため、このままではスポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。

また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。

1月8日時点の日本の発電用LNG在庫は248万トン(前年同月末180万トン、2018~2022年平均205万4,500トン)と過去5年レンジを上回っている。

しかし、冬はまだ続いており例年あるように気温次第で来年の2月頃にガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。

さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は欧州の気温上昇や再生可能エネルギーからの電力供給増加、米国の寒波の影響緩和から軟調推移を予想。ただし欧州で極渦発生による気温低下が予想されており、その場合一時的にスポット価格は上昇するとみられる。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、ロシアからのガスフローが事実上途絶していることを考えると、下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は小幅に上昇した。昨日の大幅な下落の反動による買い戻しとみられる。

足下の需給が緩和していないことは期間構造を見ても明らかである。中国が豪州炭の輸入を再開、この価格水準でもカロリーや性状を考えると豪州炭の方がメリットがあるようだ。

また、日本も中国とも同様に石炭種の変更は困難であるため、輸入は高い水準を維持している。

期先の価格の下落は生産者側のコスト削減などの影響が大きいと考えられるが、豪州側の供給の問題(人手不足、ストライキ、異常気象など)はまだ残存していると考えられ、期先の価格動向は引き続き注視する必要がある。

11月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲7.8%の3,231万トン(前月+8.3%の2,918万トン)と高水準に迫ったが、前年比ではマイナスの状況。国内生産の増加やゼロコロナ政策の影響による国内の電力需要の低迷もあって昨年ほど輸入需要は旺盛ではない。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、冬場に備えた調達の再開、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

11月の中国の石炭生産は、前年比+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日(前月+3.6%の3億7,009万トン、1,194万トン/日)と増加、過去の同じ時期の過去最高水準を上回り、中国が海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)も上回った。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は残る。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭の輸入は西側諸国で制限されており、代替となる高カロリー炭を求める動きは継続している。

通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、ロシア問題発生前は120ドル前後だった水準は、200~230ドルに上昇している。これはコストカーブ上からロシア炭が抜け落ちていることによるもの、といえる。

恐らくロシア炭はいろいろなルートを通じて海上輸送炭市場に流入するため、徐々にこの水準は切り下がるとみているがまだそれには時間が掛かるだろう。

なお、ロシアに対する制裁とは関係なく、冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られる4月以降、石炭価格は下落するとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

本日は、欧州の気温上昇がガス価格(JKM)の低下を通じ、石炭価格を押し下げると考えられるものの、中国の豪州炭輸入再開に加え、欧州が極渦の影響で気温が低下する可能性がでてきたことから、高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属市場は総じて堅調。

昨日は朝方、さすがに上げ過ぎ感から下落してスタートしたが、記録的な低水準であるLME指定倉庫在庫の減少継続と、米CPIが市場予想通りの弱い内容になったことが材料となった。

また、全ての前提となる最大消費国、中国のリオープン、早期に始まる春節前の在庫積増しの動きがさらに価格を押し上げている。ここまでの上昇は投機主導のものと思われたが、COTレポートを見るに、ロングが増加しているのは銅と鉛ぐらいでその他は減少している。

こうなると、ここまでの年初からの上昇は、投機、というよりは中国の経済活動再開を受けた季節的な在庫積増しによる価格上昇である可能性が高いといえる。

しかし、昨年末に発表された中国製造業PMIが悪化しており、需給ファンダメンタルズは緩和、この価格上昇は春節前の在庫積増しの動き(今年は実質的に1月21日から休みに突入する)であり、さらにコロナの感染拡大から帰郷した労働者が休みを長く取る、という可能性もあるためまだ現時点においては一時的な上昇、と整理すべきと考えている。

なお、コロナの感染拡大による免疫獲得を材料に、早期に中国の経済活動が再開すれば話は別で、1月の製造業PMIが改善、新規受注在庫レシオも上昇する可能性はある。

この場合、足下の価格上昇が投機だけではなく、需給ファンダメンタルズ面で肯定されることを意味する。

しかし、1.海外景気は減速すること、2.足下の上昇は期待先取りの可能性が高いこと、3.直近の新規受注在庫レシオは少なくとも需給がタイト化していないことを示唆していること、を考えるとやはり価格の方向はまだ下向きである。

方向性が出るのは、中国の製造業PMIが発表され、春節が明けた2月以降になるのではないか。

10月に修正法案が提出されたチリの鉱山ロイヤルティ法案だが、この度最終法案が合意に近づいている。生産コストの上昇に繋がる。10月時点の変更は以下の通り。

3%の新ロイヤルティ→1%に。年間生産量5万トン未満は免除。

営業利益に連動して課税されるが、営業費用、減価償却費を差し引くことが認められた。

営業利益率~0% :免除0%~20% :8%20%~45%:8%~12%45%~60%:12%~26%60%~ :26%

中期的には景気の循環によって、恐らくQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

リスクとしては、米利上げ打ち止め直後から価格が上昇する場合。現在、6月のFOMCで利上げは打ち止めになると予想されており、Q223から景気回復を先取りして価格が上昇する可能性はある。

また逆のリスクとしては、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

11月の中国の非鉄金属生産は、ほとんどの金属の生産が高い水準を維持、過去5年レンジを上回る水準となっている。ゼロコロナの解除、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。

しかし、感染爆発で再びロックダウンを余儀なくされる可能性は低くなく、先行きの需要・生産両方の重石となる。冬場一杯はこの状態が続き、集団免疫を獲得するまで(1年程度か)は不安定な状態が続くのではないか。

11月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+5.8%の54万トン(前月▲1.5%の40万4,414トン)と過去5年平均を回復した。銅価格の下落もあったが、中国政府が不動産セクターの資金繰り支援策を打ち出したことで需要増加への期待が高まったことが影響したとみられる。

一方、銅鉱石の輸入は前年比+10.1%の241万1,691トン(前月+3.8%の186万8,751トン)と過去最高水準となった。政府の対策に伴う国内需要の回復期待、上海在庫が過去5年の最低水準を遙かに下回る水準で推移していることなどから、さすがに在庫積増し需要が顕在化していると考えられる。

この中国の在庫積増しの動きは、銅以外の非鉄金属にも当てはまり、足下、急速に水準を切り上げているスズを除けば全て過去5年の最低水準~過去5年平均を下回る水準、での推移となっている。

仮に中国政府が不動産セクターやその他の工業セクターのテコ入れ策を打ち出せば、在庫不足を材料に価格が上昇する可能性はある。ただ、そこまで積極的な対策を打てる財政的なゆとりが中国中央・地方政府にあるわけでは無いため、影響は限定されるだろう。

11月の中国の精錬銅生産は+12.4%98万6,000トン(前月+11.5%の95万3,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

生産と輸入を合計した供給量は前年比+7.3%の135万7,000トン(前月+12.8%の145万6,000トン)と過去5年平均を上回っており需要は堅調だが、前年比増加幅が減速している。

11月の銅スクラップの輸入は前年比▲1.9%の16万1,590トン(前月▲15.2%の11万2,857トン)と前月からは前年比のマイナス幅が縮小。ただし、過去5年平均は下回った状態。

銅地金の輸入の急減速、スクラップ輸入の低迷を見ると中国国内の需要の回復は緩慢と見られる。

また、3期目となる習近平政権はイデオロギー重視で経済通がおらず、経済以上に体制維持に力を注ぐと考えられ、台湾問題などの対応を優先する可能性が高いことから、2023年以降の銅需要は落ち込む可能性があり、需要・価格のリスクは下向きだ。

本日は、昨日のCPIを受けたドル安進行と、中国勢の在庫積み増しの動きを受けて堅調推移を予想するが、週末であること、特に1月に入ってからの上昇が顕著であることからいったん売られると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は期近が上昇、中心限月が下落した。

中国政府の経済活動再開、春節(今年は実質的に1月21日から始まる)前の鉄鋼原料在庫積増しの動きが鉄鋼原料価格を押し上げている状況。季節的に中国は金属関連在庫を積み上げる時期にあるため、鉄鋼原料価格は上昇しやすい。

また当面は季節性に加えて、中国のコロナの終息度合いや、今回対応を失敗すると長期にわたる不動産不況に突入する可能性がある不動産業界のテコ入れ・再編策の動向に鉄鋼原料価格動向は左右されると考える。

そして長期的には徐々に鉄鋼セクターの価格動向は、インドのインフラ投資動向に左右されていくことになるだろう。

12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が44.3(前月40.1)と改善した。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。

内訳を見ると新規受注が38.9(34.5)と改善、それに伴い生産も43.4(39.3)と改善している。政策効果が一定程度見られているようだ。

鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは54.4(55.4)と前月から小幅に減速。中国政府が不動産業界向けの資金繰り支援策を打ち出したが、コロナの感染拡大や国内の循環的な景気減速の影響から脱していないことを示唆している。

ゼロコロナ政策の継続、不動産業界向け支援策の効果が出るまでは時間がかかると思われることを考えると、鉄鋼市場の需給は緩和した状態が続き、鉄鋼原料価格の頭を重くしよう。

11月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比+7.5%の7,454万トン(前月▲47.0%の75万2,290トン)と前年比プラスとなったが、過去5年平均を下回り、低迷が続いている。

そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高いうえ、ゼロコロナ政策の影響で国内の経済活動が停滞していることが輸入を阻害している。今後、ゼロコロナ政策は解除となるが、感染爆発の影響で当面は生産活動は停滞すると考えられる。

11月の中国粗鋼生産は前年比+11.4%の7,976万トン(前月+17.9%の8,695万トン)と減速し、過去5年平均を下回った。中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。

11月の鉄鋼製品の輸出は前年比+28.2%の559万トン(前月+15.2%の518万4,380トン)と前年ベースでの伸びが加速、同じ時期の過去5年の最高水準を上回った。国内需要の回復が遅れる中で、輸出が増加しているとみられる。

11月の鉄鉱石の輸入は前年比▲5.9%の9,880万トン(前月+3.7%の9,500万トン)と前年比でマイナスとなったが、過去5年平均は維持した。

中国政府が徐々にゼロコロナ政策を見直ししていること、鉄鋼原料在庫水準の低さから在庫積増しの動きがみられているため、と考えられる。

週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+55万8,000トンの1,013万9,000トン(過去5年平均 870万9,000トン)。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+45万トンの1億3,410万トン(過去5年平均 1億4,081万6,000トン)、在庫日数は33.2日(+0.1日、過去5年平均32.6日)。日数ベースでは充分だが、今後、鉄鋼製品在庫の積増しが行われることを考えると充分とは言えない。

原料炭在庫は+9万7,000トンの212万トン(146万6,000トン)、在庫日数は±0.0日の9.8日(過去5年平均 6.3日)とかなり積み上がってきた。

本日も、中国の経済活動再開と春節前の在庫積増しの動きで鉄鋼原料価格は高止まりの公算。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。米CPIが予想通りの弱めの内容だったことから長期金利が低下、実質金利が低下したことが価格を押し上げた。銀価格も金の上昇を受けて上昇、プラチナは小幅下落、パラジウムは株高もあって水準を切り上げた。

金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造にやや変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。

現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。

また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」もあり、特に新興国で金準備を積み上げる動きが出ていることも新たな動きといえ、金価格の上昇要因となっている。

中国は昨年11月・12月で62トンの金を購入しており、これだけで25ドル程度の価格押し上げ要因となる。

なお、この分析が機能するのは「安全資産需要が高まっている間」と考えられ、恐らく利上げが続く夏頃までは参考になるのではないか。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることが、金銀レシオを押し下げながら銀価格を押し上げている。

ボリンジャーバンドなどを参考にすると、そろそろ金銀レシオの低下も佳境とみられるが、金価格が金融引締めの中でも高値を維持している状況下、銀価格も高止まりが予想される。

本日は、昨日のCPIを受けた実質金利の低下やドル安基調を背景に、堅調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。昨日発表の需給報告で、全ての穀物の期末在庫の水準が、生産見通しの引下げを受けて(単収低下、作付面積の減少など)市場予想を下回ったことが材料。

・1月米単収見通し実績(市場予想、前月)トウモロコシ 173.3Bu/エーカー(172.5、172.3)大豆 49.5Bu/エーカー(50.3、50.2)小麦 46.5Bu/エーカー(NA、46.5)

・1月米生産見通しトウモロコシ 137億3,000万Bu(139億3,639万Bu、139億3,000万Bu)大豆 42億7,600万Bu(43億5,739万Bu、43億4,600万Bu)小麦 5億6,700万Bu(5億8,081万Bu、5億200万Bu)

・1月米輸出見通しトウモロコシ 19億2,500万Bu(NA、20億7,500万Bu)大豆 19億9,000万Bu(NA、20億4,500万Bu)小麦 7億7,500万Bu(NA、7億7,500万Bu)

・1月米在庫見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 12億4,200万Bu(13億1,369万Bu、12億5,700万Bu)大豆 2億1,000万Bu(2億3,296万Bu、2億2,000万Bu)小麦 5億6,700万Bu(5億8,081万Bu、5億7,100万Bu)

今後は冬場のラニーニャ現象がアラビア半島・北アフリカ周辺に降雨をもたらしており、サバクトビバッタの大量越冬を可能にするため、2023年は穀物供給リスクが継続する可能性がある。

なお、今のところバッタの大量発生は確認されていない。

本日は、弱めの米CPIを受けてドルが軟調になっていることから上昇余地を探る動きに。ただし週末と言うこともあって調整売り圧力も予想されることから、上昇余地は限定か。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまう場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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