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2023年のメインシナリオ再確認
  • MRA外国為替レポート

2023年1月9日号

◆先週の市場総括


昨年末にかけてドル円相場は円高一服、134円台までドル高円安が進んだが、年末30日に130円台に反落して131円近辺で年末の取引を終えた。

黒田総裁が先般の政策修正を出口の一歩では全くないと発言したことで投機的な円買いに歯止めがかかった。中国では経済再開による景気持ち直し期待も台頭し、強めの米国経済指標とあいまって米10年債利回りが3.8%台後半へ上昇。ドルを支えた。

ただ年末に日経新聞が、日銀がインフレ見通しを上方修正すると報じたことで、さらなる金融緩和策修正への思惑が強まり再び円が買われた。ドル円相場は130円台へ急落。ユーロ円相場も140円ちょうどへ下落した。

年が明け年初早々も年末の流れのままに日銀の金融緩和政策修正観測を材料に円高が進んだ。ドル円相場は一時129円台半ばまで下落。ユーロ円相場は138円台前半へ。

ただその後は米国の雇用関連指標が強かったことからFRBの金融引き締め長期化観測の台頭が勝り、ドル売り円買いの巻き戻し、ドル買い円売りが活発化した。

雇用統計が強いとの見方から週末にかけてドル円相場は一段高となり134円台後半へ。注目の雇用統計では予想外に賃金インフレ鎮静化が明確となり、またISM非製造業景気指数が想定外の弱さに。

米長期金利が低下しドルは急反落。米10年債利回りは一時3.8%台後半に上昇していたが週末は3.56%。ドル円相場は132円ちょうど近辺に大幅下落して引けた。米国株は金融引き締め長期化観測が後退したことから週末に大幅高。NYダウは+700ドル高。

年初2日月曜日、東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は131円ちょうど近辺で動意なく横ばい。ユーロドル相場も1.07近辺で小動き横ばい。欧米市場ではユーロ円相場が一貫して軟調。

アジア時間は140円20銭~30銭だったが米国市場では139円30銭~40銭に下落。ユーロドル相場は1.0650へ。ドル円相場もやや円高に振れて130円台後半で上下した。ドルインデックスは103.50近辺。

米国株は小幅安。NYダウは前週末比▲73ドル安の33,147ドルで引け。ナスダックは▲11ドル安の10,466ドル。米長期金利は持ち直し上昇。10年債が3.88%へ、2年債が4.43%へ上昇した。

3日火曜日も東京市場が休場のなか年末来の日銀の緩和修正観測を材料にアジア時間に一段と円高が進んだ。

ドル円相場は130円70銭で始まり131円ちょうどに反発したあと129円50銭に下落。ユーロ円相場は139円40銭で始まり140円に反発したあと138円40銭に下落した。

欧州市場に入るとユーロ安ドル高。ユーロドル相場はアジア時間に1.0660~70で始まったが欧州に入ると1.0520へ下落した。ユーロ円相場も137円台半ばに下落。

ドイツの消費者物価指数(12月)は前年同月比+8.6%と前月+10.0%から大きく上昇率が鈍化した。

米国株は上値の重い展開。中国の財新製造業PMI(12月)が49.0と前月49.4からさらに悪化。感染拡大による生産活動の停滞懸念とあいまって株価の上値を抑制した。

アップルやテスラなどへの影響懸念からナスダックは▲79ドル安の10,386ドル。NYダウは小幅▲10ドル安の33,136ドル。

米10年債利回りは低下して3.752%、2年債は4.38%。ユーロドル相場は米国市場では1.05台半ばを中心に方向感なく上下。ドル円相場は連れて130円~131円の間で上下し引けは131円ちょうど近辺。ユーロ円相場は138円ちょうど~20銭近辺。

4日水曜日は東京市場が新年の取引開始。日経平均は朝方に年末比▲400円超の大幅下落で始まった。米国の金融引き締め長期化懸念、景気悪化懸念が下押し圧力に。

ただ売り一巡後は押し目買いに支えられ引けは▲377円安の25,716円。

ドル円相場は131円ちょうどで始まり軟調。130円台後半で上下し、欧州市場朝方には130円ちょうど近辺に下落した。

ユーロドル相場がドル安に振れたことがドル円相場も下押し。ユーロドル相場は1.0550近辺で始まりもみ合い、欧州市場朝方に1.0630へユーロ高ドル安。

ユーロ円相場は138円20銭で始まり138円台前半で上下。一時138円を割ったが欧州市場ではユーロ高に振れ138円台半ばへ。

米国市場に入ると強めの米国雇用関連指標、FRB当局者のタカ派発言を受けてドル高円安が進んだ。

円は対ユーロでも下落。日銀の政策修正観測による円買い、FRBの金融引き締め緩和観測によるドル売り、が手仕舞われドル買い円売り。ユーロ円相場でも円が売り戻された。

JOLT求人者数(11月)が前月10,512千人から予想10,000千人への減少予想ほど減らずほぼ同水準の10,458千人。

ISM製造業景気指数(12月)は前月49.0からほぼ予想通り48.4に低下しさらなる景況感悪化を示したが、内訳で雇用指数が48.4から51.4に改善した。

一方新規受注は47.2から45.2へ、価格指数は43.0から39.4へ低下し景気悪化・インフレ鎮静化基調を示した。

強めの雇用関連指数を受けてドル円相場は131円へ、さらに132円台半ばへ上昇して引け。ユーロ円相場も140円70銭近辺に上昇。ユーロドル相場は1.0580にユーロ安ドル高に振れたあと1.06近辺で上下した。

ミネアポリス連銀総裁は一旦利上げをペースダウンないし停止したあとの利上げ再開、2段階利上げの可能性に言及した。

公表されたFOMC議事要旨(12月開催分)では多くの高官がインフレ・景気両方のリスクを均衡させる必要性を強調。歴史は時期尚早の緩和政策への転換を警告している、メンバーは全般的にインフレリスクが鍵を握る要因と認識、と記した。

労働市場は均衡化に伴い失業率は上昇しそうだが、労働市場は非常に強く23年に利下げが適切と考えるメンバーはいない、とした。

米国株は反発。押し目買いが支え。NYダウは前日比+138ドル高の33,269ドル。ナスダックは+71ドル高の10,458ドル。原油価格WTI先物は中国での感染拡大・景気懸念から大幅下落し72.84ドル。米10年債利回りは3.687%に低下。2年債は4.353%に小幅低下。

5日木曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。米国株が底固く推移し、金融引き締めへの過度な警戒感が和らいだことが支え。引けは前日比+103円高の25,820円。

中国の財新サービス業PMI(12月)は前月46.7から48.0へ予想外の改善となった。中国株は景気回復を先取りして堅調が続き、商品市況は足元の需給悪化を材料に調整が続く。

ドル円相場は132円70銭で始まり10時の仲値近辺で131円70銭に下落したがその後は持ち直し。132円台半ば~後半で上下し夕刻は132円90銭。ユーロ円相場は140円70銭で始まり140円ちょうど近辺に下落したあと持ち直し夕刻には141円に乗せた。

ユーロドル相場は1.0610で始まり動意薄、1.06近辺で小動き。欧州市場に入るとややドル安円高に振れ、ドル円相場は132円40銭~60銭、ユーロドル相場は1.0610~30、ユーロ円相場は140円60銭。その後米国市場にかけてはドル高円安が進んだ。

この日発表された米国の雇用関連指標が強めで週末の雇用統計への警戒感からドル買いが進んだ。発表された米国のチャレンジャー人員削減数(12月)は前月76,835千人に対し43,651千人に減少。

ADP雇用報告(12月)は雇用者数前月比が前月+127千人が+182千人に上方修正され、さらに当月が+235千人と予想+150千人を大きく上回った。

週次の失業保険新規申請件数は前週225千人から204千人に減少。継続受給者数も1,710千人から1,694千人に微減。ドル円相場は134円ちょうどに上昇し引けにかけてやや押して133円40銭。ユーロドル相場は1.0520に下落して引け。

ユーロ円相場は141円30銭に上昇したあと140円20銭~40銭。ドルインデックスは105ポイント台に上昇した。

米国株は主要3指数がそろって大幅反落。NYダウは一時▲400ドルを超える下落。雇用関連指標が強めで雇用統計への警戒感、金融引き締め長期化観測が再燃し株価を押し下げた。

一方、この日、タカ派で知られるセントルイス連銀総裁が、インフレ率はなお高過ぎるが2023年はインフレ鈍化の1年となる、と述べ、FOMCメンバーによる政策金利予想5.1%は適切、金利は完全に抑制的な水準にあると述べ、従来のタカ派スタンスを和らげた。

この発言でドル高にブレーキ、株価は支えられた。NYダウは前日比▲339ドル安の32,930ドル、ナスダックは▲153ドル安の10,305ドルで引け。米10年債は3.718%、2年債は4.46%、に小幅上昇。

6日金曜日の東京市場では日経平均が反発。米株安で売り先行も押し目買いや円安を手掛かりに反発。一方雇用統計発表を前に様子見姿勢も強く26,000円の大台では上値が重かった。引けは前日比+153円高の25,973円。

円債市場では10年国債が0.50%の日銀設定変動幅上限に張り付き取引が成立しない状況が続く。海外投機筋中心に日銀がさらに金融政策を修正するとの思惑は根強い。

為替市場では米雇用統計が強い数字になるとの思惑から先取りするかたちでドル高円安が進んだ。ドル円相場は133円40銭で始まり夕刻には134円台前半、欧州から米国朝方にかけて134円80銭近くまで上昇した。

ユーロドル相場は1.0520で始まり1.0480台に下落して雇用統計待ち。ユーロ円相場は140円30銭で始まり終始右肩上がりで米国朝方には141円40銭。

注目の米雇用統計(12月)は非農業部門京者数前月比が+223千人と予想+200千人を上回った。失業率も3.7%から3.5%に低下。ただ平均時給が前年同月比+4.6%と前月+5.1%から大きく減速し予想+5.0%を下回った。賃金インフレ鎮静化との見方から金融引き締め長期化懸念が後退。

さらにISM非製造業景気指数(12月)が49.6と前月56.5から大幅に悪化し予想55.0を下回った。内訳も雇用指数が前月51.5から49.8に悪化、新規受注は56.0から45.2へ、価格は70.0から67.6へ、それぞれ低下。

これを受けて米10年債利回りは大幅に低下し3.56%、2年債も4.258%。ドルは急反落。ドル円相場は133円20銭に急落したあと一時134円台に戻したが132円ちょうど近辺に下落して引け。

ユーロドル相場は1.0540台に上昇し反落した後さらに上昇して引けは1.0640台。ユーロ円相場は140円台前半に下落し引けは140円60銭。ドルインデックスは103.91に急落。

米国株は金融引き締め観測の後退で急騰。NYダウは前日比+700ドル高の33,630ドル。ナスダックは+264ドル高の10,569ドルで週末の取引を終えた。

◆今週の3つの注目ポイント


1 米国の経済指標

米国では雇用物価指標の強弱に応じて金融引き締め長期化・早期打ち止め双方の期待が浮き沈みしている。今週の指標はどうか。

木曜日に注目の消費者物価指数(12月)が発表される。予想は前年同月比+6.5%と前月+7.1%から一段と上昇率が鈍化する見通し。コア指数は予想+5.7%とこちらも前月+6.0%から鈍化見通し。

週次の失業保険申請件数が再び増加するか。金曜日には輸入物価指数(12月、前月比、予想▲0.8%、前月▲0.6%)、ミシガン大学消費者信頼感指数(1月、予想60.5、前月59.7)。期待インフレが低下するかどうかも注目される。

2 パウエル議長発言

火曜日にパウエル議長が発言する。FOMC議事録では市場の金融引き締め早期緩和期待に牽制するタカ派的な姿勢もみられた。

一方、タカ派で知られるセントルイス連銀総裁が政策金利は十分に引き締め的な水準に達したと発言しタカ派姿勢を緩めた。市場に強弱双方の期待・警戒感が交錯するなか、パウエル議長はどのようなニュアンスを示すか。

3 日本の経済指標

年末にかけて日銀がさらなる金融緩和策の修正に動くとの見方が強まった。10年国債利回りはあらたな上限である0.50%に再び張り付く状況。投機筋は次の一手を期待し債券売り長期金利上昇に賭けている。

市場の思惑に影響する消費者物価動向は今後一段と注目される。

火曜日に都区部消費者物価指数(12月)が発表される。予想は前年同月比+3.8%と前月+3.6%からさらに上昇が加速する見通し。

水曜日には景気先行指数(11月)、木曜日には国際収支(11月)、景気ウォッチャー調査(12月、現状判断DI、予想47.8、前月48.1)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


2023年のメインシナリオ再確認

今年の為替相場の見通しのメインシナリオを確認すれば以下の通りだろう。

昨年末にかけてのドル高ピークアウトの流れがそのまま継続。FRBが3月ないし5月には利上げを打ち止め。一方、その後の利下げへの転換は時期が不透明。景気悪化、インフレ鎮静化がさらに進捗することで年後半にはドル金利先安感が強まるとみられ、ドル安がさらに進行するとみられる。

そのスピードは景気悪化のペース次第。景気後退のペースが緩慢、ないし浅く、米経済が底固さを維持すれば、ドル安も緩慢で底固い動きとなる可能性がある。

同時に2023年は円安もピークアウト。昨年末にかけてすでに円高方向に転じているがその流れが続くとみられる。

円安圧力は貿易収支の改善で緩やかに後退。日銀の金融政策修正が追加的に実施される可能性がありさらに円高要因に。ただ昨年末にかけて大きな需給変化要因となった当局の円買い為替介入は見込めない。

貿易収支の改善ペースは緩慢とみられ、円高の勢いも鈍いとみられる。巨額の赤字が縮小するものの赤字のままであれば為替需給は円売りに傾いたまま。円高の勢いは緩慢となりそうだ。

もうひとつの円高材料としての日銀による追加的な金融政策修正はどうか。イールドカーブコントロールの撤廃は実施すべきと考えるが、新体制でどの程度踏み込めるかは不透明だ。

日本では欧米にタイムラグをもってインフレ率上昇が続くとみられる。水準は低いもののインフレ率の方向は欧米と日本で逆方向となる。こうした状況で、金融緩和政策のさらなる修正を巡って、市場の期待、あるいは投機筋の仕掛け、と、日銀の攻防が当面続きそうだ。

米国においてはタカ派スタンスを市場に織り込ませたままにしたいFRBとハト派転換を先読みする市場の攻防が続く。

日本ではハト派の日銀とタカ派転換を期待する市場、と日米における当局と市場の攻防は真逆だ。

日銀のスタンス変更の方が不透明感が強く、円相場にボラティリティをもたらし方向感なく上下動を繰り返す要因となるとみておいた方がよい。

欧州ではインフレが遅ればせながら鎮静化しつつある。

消費者物価上昇率は米国よりも高く二桁に達したが、ようやく9%台に戻った。ただ水準は日米欧でもっとも高い。ECBは底流にインフレファイターであるドイツ連銀の思想が流れており、FRBよりも手綱を緩めるタイミングは遅くなりそうだ。

一方、エネルギー供給不安、エネルギー価格上昇は欧州経済の足かせとなっており、景気悪化懸念は米国よりも大きい。こうしたことから利上げのペースはFRBよりも緩慢となっている。

なおもスタグフレーションのリスクが高く舵取りが困難だ。景気物価および金融政策のリスクが日米よりも高い。ただ足元で暖冬が思わぬ追い風となっており欧州懸念は後退している。このままmuddle through =なんとか切り抜けることができるか。

市場全体のサイクル、相場循環からみれば、逆金融相場から逆業績相場へ、という局面となる。

FRBが金融緩和への転換を遅延させれば景気悪化・企業業績悪化を背景とする逆業績相場の期間が長くなる。

サイクルは、金融相場→業績相場→逆金融相場→逆業績相場→金融相場→・・・。これに応じた相場全体の基本的なサイクルは以下の通り。

金融相場では景気悪化・業績低迷のなか金融緩和主導で期待から株高・リスク選好回復。政策金利は低下、長期金利は低位安定。ドル円相場は金利面からのドル安・リスク選好による円安で低位安定。

業績相場では景気業績回復で株高・リスク選好加速、政策金利先高感、長期金利は上昇。ドル円相場は金利面でドル高・リスク選好で円安、ともっともドル高円安が進みやすい。

逆金融相場となると金利上昇が株価押し下げ要因に。利上げが景気悪化・業績悪化懸念をもたらし株価にマイナス。リスク回避が強まる。

ドル円相場は金利面でドル高となるがリスク回避で円高ともなりドル円相場は高値もみ合いで天井を探る展開に。

さらに逆業績相場となれば景気悪化が顕著となり利下げを探る展開に。長期金利は低下。株価は業績悪化で下押しがかかるが、長期金利低下が下支え要因で底値模索。

ドル円相場はドル金利低下でドル安、リスク回避で円高、となりドル安円高が大きく進みやすい局面となる。現状はこうしたサイクルに入りつつあり、ドル安円高が進みやすい局面ということになる。

こうした一般論、循環的な見方を、個別要因を加味してどれほど修正するか。米国景気悪化が緩慢となり、ドル金利が高止まりすればドルは底固くまたドル安は遅延する。

リスク選好が維持されれば円高は進みにくい。ただ10年間続いた日銀の超金融緩和が修正されればそれ相応の影響はあるだろう。

一方、為替需給に大きく影響しているのが資源価格の動向。日本の巨額の貿易赤字が改善しなければ、リスク回避の円高、という概念そのものが成り立たない。

円が安全通貨とみられているのは、経常黒字国であり巨額の対外債権国であることが要因。経常赤字とならないまでもトントンに近づけば安全性は剥落する。

対外債権国であることは、日本の投資家のリパトリエーション、国内への資金回帰の可能性が円高をもたらす点が主要因。

昨今、日本の個人投資家が日本経済や政府日銀の政策に失望し、また財政への不安とあいまって円への信認も失っているようにみえることは、円にとって大きなリスクだ。

2023年にこれが顕在化する状況ではないとみられるが、長期的な視点からみれば現状の政策の延長線上ではリスクが顕在化する可能性がさらに高まる。円相場の水準が不可逆的に円安方向にシフトして循環する可能性には留意が必要だ。


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