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CPI鈍化期待で堅調
  • MRA商品市場レポート

2023年2月14日 第2391号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「CPI鈍化期待で堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギーや非鉄金属などの景気循環系商品が買われ、その他が軟調な推移となった。固有の材料があった、と言うわけではなく為替がEUの景気見通し情報修正を受けてややドル安に転じたことで、買い戻しが入る形となった。

逆に、ドル安・自国通貨安で自国通貨建てで取引されている商品は軟調な推移となっている。

現状、商品市場は固有の材料に乏しく、総じて軟調な推移となりやすい地合。ただしこのような「凪」の状況だと金融政策変更を通じた為替レートの変動が価格を動かしやすい。

なお、ドル安進行はドル建て資産価格の上昇要因となり得る。これは「物質的な価値が不変の商品の場合、ドルが減価すれば同じ価値のものを購入するのにより多くのドルを支払わなければならず、名目価格が上昇する」からである。

時々「原油価格が上昇しているのでドル安です」というコメントを目にすることがあるが、市場規模的に因果関係が逆であり、ドル動向主導で商品価格が動くというのが正しい因果関係だろう。

もっと言えば、「景気の局面」によって、ドル指数・原油価格の関係は変わるので、注意したい所(詳しくは、エネルギー関連のコラムを参照ください)。

【本日の見通し】

本日は、先週のテーマが「米景気過熱による金融引締め長期化によるドル高」で、ドル建て資産価格が下押しされる展開となったが、本日発表の米CPIが減速すると予想されているため、堅調な推移になると予想される。

ただ、もし市場予想に反してインフレが加速している場合、先週からのテーマがインフレが想定よりも沈静化していないこと、だったため、大幅な下落になると予想される。

本日注目の経済統計は以下の通り。

Q422ユーロ圏GDP 市場予想 前期比+0.1%(前期+0.3%)前年比+1.9%(+2.4%)

1月米CPI 前月比+0.5%(前月+0.1%)、前年比+6.2%(+6.5%) コア 前月比+0.4%(+0.4%)、前年比+5.5%(+5.7%)

【昨日のトピックス】

昨日、中国は「遼東半島に1月から10回、米国の気球が飛来している。厳重に抗議し、米国は謝罪すべきだ」と発言した。当然、米国はこれに対して反発している、というかほとんど無視している。

仮に米国が中国に気球を飛ばそうと考えた場合、偏西風に乗せて運ぶ必要があるため、欧州を通り、ロシアを通り、中国の主要都市を通過して遼東半島に達することになるが、これまでロシアがこれを発見して撃墜した記録もない。

また同時に中国は南米にも気象観測用の気球が流れたが、これも「よきせぬ誤作動」によるものと発言している。どれだけ誤作動すれば気が済むのか。

結局、偵察気球(というよりも自走能力があるので海外では飛行船、という表現胃なっている)で有ることは変わりがないが、複数の気球を上げることで「軍用ではなく、民生ですよ」という「言い訳作り」以外の何者でもない。

誤解を恐れずに言わせてもらえば、「なぜこんなことをしたんだ!」「山田君がやったからです」という小学生レベルの反論、といえる。もちろん、米国が本当に気球を飛ばしたのかもしれないが、軍事衛星で国内状況はかなり正確に把握できること、また、上記のように撃墜される可能性が高いことを考えると、米国の気球であった可能性は低いだろう。

しかし、である。この一連の中国政府の発言は、「小学生並みの理屈で軍事的な行動を起こす可能性がある」リスクが無視できないことを示唆している。言葉を換えると、ロシアと同様、経済合理性のない判断で暴挙に出る可能性がゼロではない、と言うことだ。

フィリピンからマルコス大統領が来日、「台湾有事は発生しないことを祈る」一方で「有事の際にはフィリピンが巻き込まれないシナリオは考え難い」としており、有事発生時に米軍に協力する用意があることを示唆した。

日本もこのような有事への備えは待ったなし、と言える。これは軍備だけではなく、通常使っている日用品やエネルギーのサプライチェーン見直しの必要性を示唆している。

日本は工業品の部品のみならず、食料品などの生活必需品も中国からの供給に依存している。日本の食料品及び動物の中国からの輸入シェアは、米国に次ぐ2位で10%強に達している。

https://diamond.jp/articles/-/312551

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。今晩発表の米CPIが鈍化する見通しであることを受けて、先週から始まった雇用統計・ISM非製造業指数ショックから、やや行き過ぎが修正される形で金利が低下、ドル安となったことが影響した。

ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーしてみると、米国の景気の局面が類しできるが、早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、この観点からも6~7月が目処となる可能性は高い。

なお、オイルメジャーの決算でも明らかなように、「脱炭素の枷」の影響で上流部門の開発が加速する、という感じではないため原油供給が制限され、OPECプラスの価格支配力が増し、価格は下支えされることになりそうだ。

また、価格が下落すれば記録的な低水準となった米国の戦略備蓄も積増しの可能性があり、価格を下支えしよう。WTIは、一部政府高官が戦略備蓄再積増しの目処として発言したとされる80ドルを下回っている。

ただし、米国の雇用環境がタイトな状態が続き、このまま仮にリセッションがない、と言うことになれば年後半の原油価格の上昇を受けて再び利上げが行われ、原油価格が急落というシナリオも有り得る。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は3.の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル/75-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル/75-95ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。

しかし、ここに来て景気の減速が想定ほどではないかもしれない、との見方が徐々に出始めている。この場合、明確な調整がないまま原油価格が上昇に転じる展開も想定される。

この場合は年後半に再びインフレが意識されるため、追加利上げで年後半に景気が急減速、と言うことも有り得る状況。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q123~Q223 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米CPIの伸び鈍化が期待される中、堅調な推移になると予想されるものの100日移動平均線のレジスタンスが強く意識されているため、上値も重いと考える。

ただ、この水準を上抜けした場合、短期的にテクニカルに90ドル程度までの上昇は有り得る。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落。冬が終了に向かう中、ロシアからの供給停止も見られず軟調な推移が続いている。

現在、欧州天然ガスとLNG在庫の合計は、同じ時期の過去5年の最高水準を維持しており、供給は充分な状況。

直近のガス在庫動向シミュレーションでは、▲5%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうであり、ガス供給を巡る欧州のリスクは後退している。

しかし、需要削減が行われ無かったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する事態になればガス供給は不足することが予想される(外貨を確保したく、かつ、生産停止によるガス生産設備の毀損リスクを)。

足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。

ICEは「価格上限のない」TTFをロンドンに上場することを決めたが、この上場に伴う影響は稼働してみないとまだなんとも言えない。

TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。

足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

弊社のシミュレーションでは「完全に」欧州がロシア産ガスを排除するのは2027年頃であることを示唆している。このことは、2027年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開(フル稼働は3月頃か)、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前からナイジェリアのLNG輸出は減少しており、まだ回復していない。

3.4.は顕在化している。

5.に関しては、3月頃までラニーニャ現象が継続する見通しであるが、逆に欧州に暖冬をもたらしている。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが、スエズ以西の低下圧力が強い。このことは記録的な暖冬とこれまでの在庫積み上げで、足下の欧州の調達需要が減速していることを示唆するもの。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小幅に下落。米東部の気温上昇見通しによる需要減少観測が価格を下押しした。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は小幅に下落。冬場の終了が価格を下押ししている。

ただ、期間構造をみるに今年の冬場の価格は20ドルを超えており、やはり欧州・ロシア情勢の不安定さが需給をひっ迫させる、との見方が大勢を占めているようだ。

ただし同時に、脱ロシアの進捗が需給を長期的に緩和させると見られており、全体の構造はバックワーデーションを維持している。

12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。

12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。

中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

12月の中国の発電料ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。

今後、集団免疫を獲得して正常化が進む中、石炭などは豪州に対して増産要請が出されるなど、今後、国内需要回復の可能性は高い。結果、天然ガス価格を下支えすることになるだろう。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直されることになるため、LNG価格の上昇要因となる。

ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。

また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。

2月5日時点の日本の発電用LNG在庫は242万トン(前年同月末169万トン、2018~2022年平均225万7,100トン)と過去5年平均は上回っている。

冬はまだ続いており例年あるように気温次第で、2月~3月に掛けてガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。

さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日も、冬場終了を見越した需要の減少観測で軟調な推移が予想されるが、過去データを元にしたJLCの推計が、今月は18.1ドル、来月は16.7ドル程度に低下することが予想されるものの、逆にこの水準を割り込んで下落することは難しくなってきたとみている。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は下落した。ガス在庫の積み上がりと冬場終了に伴う需要減少、高価格炭から低価格炭へのシフトが起きているためと考えられる。

週次の豪州炭の輸出動向を見ると大幅な減少は見られておらず、日本向けの輸出も大幅に減少している感じはない。そもそも取引流動性が低い中で下落局面入りしていることから反応が大きくなっている、と考えるのが妥当だろう。

結局のところ欧州炭価格は欧州のガス価格に左右されるため、夏場の猛暑、今冬の厳冬、といったリスクは残る。

結局、「脱ロシアが完全に完了すると期待される2027年頃」までは、上振れリスクは小さくないとみている。

12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。

12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は170~180ドルに低下している。豪州炭の構造的な需給緩和期待が高まっている、と言えるだろう。

冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られるQ223に石炭価格は水準を一段切下げるとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。

本日も、発電燃料需要の減速を受けて現状水準を維持すると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属市場は上昇した。米国の金融引締め長期化観測を受けたドル高が価格を下押ししてきたが、今晩発表の米CPIがやや鈍化の見通しであることからドルの修正安が起き、それを受けて水準を切り上げる展開となった。割安感からの買い戻し、といえる。

年初からの値動きは、中国のリオープンや例年よりも早い春節入りの影響で駆け込みの在庫積増しの動きが顕著だったことによるもの、という整理が適当と考えられ、足下は米国の金融引締め長期化観測を背景に、利益確定の売りが投機筋を中心に発生している、と考えられる。

実際、直近のCOTレポートではほとんどの金属に関して投機筋は「ベア」なポジションを取っており、いったん利益確定の動きが強まっている状況。

引き続き、投機筋の動向は注視する必要があるが、長期的な材料(3つの「脱」)で買いを入れたのならば、中期的な景気減速に伴う価格下落はその余地が限定されることを示唆している。

1月の中国製造業PMIは急速に改善している。ゼロコロナ解除と不動産セクターのテコ入れの影響によるものだ。しかし、PMIは「前月と比較したときの景況感」をヒアリングしているため、「政治的に強制的に経済活動が稼働・停止」を繰返している状況下では、統計の連続性が担保されていない。

今後の動向はやはり2月のPMIを待たなければならないだろう。ただ、中国の財政余力、海外経済の減速を考えると2月も高水準の回復は余り期待するべきではないだろう。さらに改善があるならば、中国が3月の全人代を睨んで追加的な対策を行った場合、だろう。

なお、インドで問題になっている「アダニ事件」が拡大し、アダニグループ総帥と同郷で繋がりが深いモディ首相にまで影響が及んだ場合、同国の近代化に向けたインフラ投資の障害になることが懸念される。

今のところは比較的冷静な対応になっているが、仮に黄色信号が赤信号になった場合には非鉄金属を含む工業金属需給への影響が大きくなるため、無視できないリスクに。

また、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。

暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。

後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。

結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。

この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。

かなり厳しい生産状況にあるが、Glencoreなどはセキュリティを強化して生産を再開させる動きを強めており、緩慢では有るが生産は回復すると予想される。しかし、本格的な生産回復には暴動の収束が必要条件であるため、まだ先行きは不透明だ。

中期的には景気の循環によって、恐らくQ323~Q423あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移を予想する。

リスクとしては、想定よりも景気が減速せず回復基調に入り非鉄金属価格も上昇するケース。

また逆のリスクとしては、インフレ沈静化に時間が掛り、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きとなる。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。

12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。

12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。

しかし、2月以降はリオープンの動きが始まるため回復(前々年程度の回復が上限か)が予想される(1月は中国正月の影響で営業日数が少ない)。

12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。

本日は、非鉄金属価格変動要因の中でも重要な、ドル指数動向に影響が出る米消費者物価指数動向に注目しているが、今のところ市場予想は減速が確認される見通しであり、堅調な推移を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は続落した。

春節明けの中国建設業の動きが緩慢であること、鉄鋼製品在庫が例年を上回るペースで積み上がっていることが鉄鋼製品価格を押し下げたことが背景。

稼働率の遅れの原因としては、春節の際に帰省していた労働者が職場に戻ってきていないこと。これは業界の業況が良くないことも影響していると指摘されている。

週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+106万3,000トンの1,716万4,000トン(過去5年平均 1,342万7,000トン)。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+185万トンの1億3,835万トン(過去5年平均 1億4,119万6,000トン)、在庫日数は29.6日(+0.4日、過去5年平均30.0日)。生産回復を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでも不足の状態。

原料炭在庫は+5万トンの210万トン(138万トン)、在庫日数は▲0.7日の8.4日(過去5年平均 5.6日)と日数ベースでの減少が見られている。

1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が46.6(前月44.3)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。

内訳を見ると新規受注が43.9(38.9)と改善、それに伴い生産も50.2(43.4)と2022年1月以来の50超えとなった。政策効果が一定程度見られているようだ。

ただし、新規受注完成品レシオは0.83と在庫の積み上がりで先月(0.94)から低下。原材料レシオは1.00(0.89)と上昇しているが、製品需要増加に前倒し対応した結果在庫に低下圧力が掛かったためと考えられる。

鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは56.4(54.4)と回復、明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。

しかし、これらの数値も中国政府主導のテコ入れ策が奏功すれば改善しようが、あくまでゼロコロナ状態が通常状態に戻るだけ、ともいえ今後も回復が継続するかどうかは2月のPMIを待つ必要がある(アンケートの取り方的に、「先月との比較」で調査を行うため、ゼロコロナのような経済に不連続をもたらす施策が採られた後の統計は1ヵ月だけで判断するべきではない)。

12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。

12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。

中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。

粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。

しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

本日も、製品在庫の積み上げの動きが変わらない中で、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。

今後は本当にリオープン後に住宅問題を中国が解消できれば回復はあるだろうが、そう簡単ではないと考えられ、上値も重かろう。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米CPIの減速期待が実質金利を押し下げたが、今晩のCPIを控えていったんポジション調整があったと考えるのが妥当。

銀価格も金価格の下落を受けて下落。PGMは株価の反発を受けて水準を切り上げた。

金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造に変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。

現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。

また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」ロシアに対する「ドル決済停止」を受けて有事に備えて金準備を積みます動きが、新興国・反米諸国で見られていると考えられ、金価格の上昇要因となっている。

基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

なお、この状況にあっても実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しを変更する必要はないと考えている。

ただ、その価格水準は弊社が想定していた価格(1,650ドル程度)よりは高い水準になる可能性が出てきた。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオは81倍と、ボリンジャーバンドの下限である73倍で反発している。今後、米景気が減速することを考えると、むしろ金銀レシオは上昇する可能性が高い。

足下は12ヵ月移動平均となる83.8倍が意識される。ただ、米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることから、ボリンジャーバンドの上限である94倍までの上昇はないのではないか。

本日は、米CPIが減速する見通しであるため、実質金利の低下とドル安進行で堅調な推移になると予想する。

PGMも長期金利の低下があれば株価に上昇圧力が掛るため、同様に堅調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は堅調な推移となった。固有の材料に乏しい中、為替動向、原油価格動向に左右される展開。

昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。

本日は、米CPIの減速を受けたドル安が価格を押し上げると予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。

日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「東西分裂加速のリスク」

ロシアのウクライナ軍事侵攻は1年が経過し、欧米諸国は主要地域の奪還を目指すウクライナに対して戦車を供与することを決定、欧米とロシアの対立はさらに激しさを増すことになった。

現在、ロシアに対しては北朝鮮やイランといった国がミサイルやドローンを供与しているようだが、中国は米国との関係悪化や衝突を回避するためにあからさまな支援は行ってこなかったが、WSJの調べではこれまでロシアに対して軍用品の提供を行っていることが明らかになった。

具体的には軍用輸送ヘリの航行装置や、軍用車両用の伸縮式アンテナ、スホイ35戦闘機用部品などだ。これらの軍用品やウズベキスタンなどの第三国を通じて行われている、と報じている。

ロシアは軍需品の多くを国内で生産できる能力を有するものの、現代戦に必要な半導体等の軍民両用技術については輸入に大きく依存している。

また、ウクライナに侵攻したロシアの貿易収支は、「原油価格上昇・ガス価格上昇」で改善していたが、財政収支は原油・ガス価格の下落と戦費拡大や国内の年金や保障費負担を受けて急速に悪化しており、このままウクライナヘの軍事攻撃を継続することは困難な状況に陥ると予想される。

言葉を換えると「親ロシア国の支援」を積極的に仰ぐ可能性が高まっている、と言うことだ。台湾を巡る米国との対立を受けて、微妙にスタンスを変えてくる可能性も否定できない。気球の米国内への侵入は、これを受けて米軍や政府がどのような動きをするかを把握するための、まさに「観測気球」だろう。

この状況を考えると、ロシアのウクライナヘの軍事侵攻、コロナが引き金になって2022年は世界が「再び東西に分裂する可能性」が高まっていると言っても言い過ぎではないかもしれない。

ここまでの中国に対する欧米諸国の対応は、経済の分離が難しいことは受入つつも「知的財産を強制的に収奪され、中国の都合で企業運営が妨げられ、サプライチェーンにも大きな影響を及ぼすリスク」を回避するため、デカップリングの動きを強めている。

世界は1989年のベルリンの壁崩壊以降、急速にグローバリゼーションの度合いを高めた(注:経済・社会・政治の3分野に関してグローバリゼーションの進展度合いを指数化したもの。KOF Swiss Economic Instituteのデータを参照している)が、リーマン・ショック以降減速、米中対立激化、コロナ・ショックの影響でさらにグローバリゼーションの巻き戻しが起きている状況。

また、貿易量の伸びも、グローバリゼーション時代と比較して減速していることは明らかである。

中国を含む新興諸国は、ロシアの軍事侵攻に対する制裁で「ドル決済停止」のリスクを小さく見積もっていないと考えられる。ワールド・ゴールド・カウンシルの推計では2022年の各国政府・中央銀行の金準備積増しは過去最高に達したようだ。

このことは、東西分裂後の米国を含む西側諸国の制裁に耐え得る決済体制構築を、中国を含む反米勢力が企図している可能性があることを示唆している。今後、金準備の増加が続くようであれば、再び東西再分裂のリスクが高まっている、と考えるべきかもしれない。

今回の戦争や台湾有事が、第三次世界大戦の引き金にならないよう、外交面での努力を自由主義国・専制主義国ともすべきだろう。


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