想定を超える雇用統計・ISM非製造業指数を受けたドル高で軟調
- MRA商品市場レポート
2023年2月6日 第2385号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「想定を超える雇用統計・ISM非製造業指数を受けたドル高で軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は総じて軟調な推移となった。注目の雇用統計は衝撃の大幅な改善となった上、ISM非製造業指数も市場予想を大幅に上回る改善となり、米国の雇用環境がタイトであることが変わっていないこと、先行きの景気回復に伴う景気過熱から、金融引締めの鈍化が先送りになる可能性が高まったことが材料。
この結果、長期金利は上昇し、ドル高が進行して広くドル建て資産価格を押し下げた。
昨日価格が上昇した商品は、弊社がチェックしている70品目中22品目に止まり、その多くが自国通貨建て商品と、非景気循環系商品(農産品や畜産品など)に限定されている。
中期的に景気循環の影響でQ323まで景気が減速する可能性が高いことから、多くの、特に景気循環系商品価格に下押し圧力が掛かる展開がメインシナリオであるが、仮に米国が週末の雇用統計やISM非製造業指数の改善を受けて、利上げが加速(ないしは利上げ期間の延長)するような場合、想定以上に年後半に価格が下落するリスクは残る。
また、供給能力の改善を金融引締めが妨げていることも先行きの価格上昇リスクを高めるため、過剰流動性が供給されている中では、商品価格のボラティリティは高まりやすい。
仮に一時的な下落があるにせよ、それは「その後の上昇リスクに備えるための期間」と位置づけておくことが必要ではないか。
来週は企業決算が本番を迎えるが、恐らく多くの企業が「資源価格の高騰」に関してコメントするだろう。
今後のボラタイルな相場展開を考えるとこれまでのような数量中心のマネジメントに加え、価格のリスク制御に踏み出すことが必要になると考える。この問題に関してどれだけの企業が対策を行い、対応すべきリスクとして捉えているかも、今後の重要な視点といえるのではないか。
【本日の見通し】
週明け月曜日は、週末の米雇用統計やISM非製造業指数の改善を受けたドル高による急落の反動で、まずは上昇すると考える。
そして、これらの統計の改善を織り込む形で再びドル高が進行すると予想されることから、引けに掛けては水準を切下げると予想する。
ただ、雇用統計でも賃金上昇率は市場予想を上回りながらも減速しており、市場が期待していた「早期利上げ終了」が後ろ倒しになった程度、ともいえ、大幅な景気減速シナリオは依然としてリスクシナリオの位置づけとするべきだろう。
【昨日のトピックス】
昨日発表された米雇用統計は、衝撃の前月比+517千人の雇用者数の増加、ウチ政府部門が+74千人だったが、民間部門は+443千人、ウチ、サービス部門が+397千人と雇用者の回復を牽引した。
特に雇用者数の増加への寄与が大きかったのが宿泊・娯楽で+128千人(寄与度24.8%)、ついで教育・ヘルスケア(20.3%)、専門・事業サービス(15.9%)となった。
かねてから指摘されているように、コロナの影響による働き方の変化や高齢者の引退で労働参加率はプレ・コロナの水準を回復しておらず労働力プールが回復していない。
この状態で物価上昇率が鈍化したからとして金融緩和期待が高まり、先行きの指標であるISM非製造業指数が55.2と市場予想の50.5、前月の49.2を大きく上回り、遅行指標である労働市場ばかりでなく、先行きの見通しも楽観的な見方が強まっている。
確かに、前年比上昇率である消費者物価指数の伸びは鈍化しているが、それでもまだ6.5%(コア5.7%)であり、いずれ確かにFRBが想定してる2%に落ちることはあると思われる。
しかしモノの価格は下がったとしても、サービスの価格の低下は、雇用構造が反映されているため容易ではなく、場合によると年後半に利上げも選択肢になる可能性がある。
なお、インフレ率の減速が年後半まで続き、政策金利を据え置き続けると実質金融引締めとなるため、景気減速が期待される年後半に掛けて▲25bp程度の利下げがあってもそれは「現状維持」の利下げ、とも言える。
今のところ景気が底になる可能性がある11月・12月に▲25bp程度の利下げが行われる可能性は、50:50といったところだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇後、下落した。米雇用統計が市場予想を遙かに上回る記録的な内容となったことで、需要増加期待で価格が押し上げられる局面もあったが、それ以上に金融引締め観測が強まり、ドル高が進行したことが売り材料となった。
基本は景気の循環減速や米国の金融引締めによる景気減速で製品出荷が減速しており、価格は需給面では下押しされやすい。
しかし、Chevronの決算でも明らかなように、記録的な利益の使い道として750億ドルの自社株買いを発表した。これに対して2023年度のCAPEXは総額前年比+25%の140億ドル、うち20億ドルが低炭素向けの投資となった。
金額は増えているが「脱炭素の枷」が上流部門投資を踏みとどまらせており、余剰資金では自社株買いを行うことが株主還元になる、と判断しているようだ。これは恐らくExxonなど、その他のメジャーでも同じ動きになると予想される。
結局、上流部門の開発が加速する、という感じではないため原油供給が制限され、OPECプラスの価格支配力が増し、価格は下支えされることになりそうだ。これはこれまでの原油価格高騰局面とは異なる動きである。
また、米国の雇用環境がタイトな状態が続き、このまま仮にリセッションがない、と言うことになれば年後半の原油価格の上昇を受けて再び利上げが行われ、原油価格が急落というシナリオも有り得る。
そもそもインフレは供給能力の改善で解消されるべきだが、今回は様々な「枷」がはめられているため、その理屈通りとならないリスクが常につきまとうことになる。
今後の原油相場を占う上では、ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーして見ていく必要がある。早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、それはまだ先だろう。
ロシアは欧米の制裁に対して、原油価格上限設定国に対する原油・石油製品輸出を禁止する大統領令に署名した。原油輸出は2月1日から5ヵ月間禁じられ、石油製品に関しては別途、政府が通達するとしている。
石油製品の制裁はあと3週間で始まるが、現状、まだ4割近くのディーゼルやガスオイルを欧州はロシアから調達しており、それを代替するのは不可能だろう。
中国やインド、中東からの中間留分の迂回供給の可能性はあるものの、実際には難しい。2月以降、再び製品主導でBrentなどの中間留分リッチな原油の価格が上昇する可能性があるが、より懸念されるのが、石油製品価格の上昇に伴うインフレの再燃ではないか。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)するBrent 70-95ドル / 75-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)Brent 65-85ドル / 75-95ドル
5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落し、今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
しかし、ここに来て景気の減速が想定ほどではないかもしれない、との見方が徐々に出始めている。この場合、明確な調整がないまま原油価格が上昇に転じる展開も想定される。
この場合は年後半に再びインフレが意識されるため、追加利上げで年後半に景気が急減速、と言うことも有り得る状況。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まりする可能性が高い。
Q123~Q123 需要の伸び減速・生産調整 (→) グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は、週末のショックの大幅下落の反動と、米ISM非製造業指数の改善もありいったん上昇するとみるが、米金融引締め期間がさらに延びるとの懸念から上値は重いと考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は新規材料に乏しい中、小幅に上昇した。
欧州の天然ガス在庫の水準は高い。暖冬と再生可能エネルギーからの電力供給回復が背景にある。
そのため改めてガス在庫動向をシミュレーションをしてみると今のところ▲10%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうだ
しかし、需要削減が▲5%程度に止まったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する事態になればガス供給は不足することが予想される。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
ドイツは浮体式のLNG受入ターミナルの整備を進めているが、こうした取組みも脱ロシア達成には5年程度かかると考えている。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナルは稼働を再開(フル稼働は3月頃か)、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。
ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前からナイジェリアのLNG輸出は減少しており、まだ回復していない。
3.4.は顕在化している。
5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは2023年1-3月に50%、2-4月は71%の確率で正常化すると予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。
1月23日-29日のLNGトレードは、761万トン(前週793万トン)と減少した。スポット取引のシェアは18%(19%)と低下した。
北欧とイタリア向けのスポット取引はが▲40万トンの減少、一方でターム契約は+30万トンの増加となった。日中台韓のスポット取引は+30万トンの増加、主に韓国と日本向けの増加によるもの。1月の中国の輸入は春節の影響で緩慢だった。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが、スエズ以西の低下圧力が強い。このことは記録的な暖冬とこれまでの在庫積み上げで、足下の欧州の調達需要が減速していることを示唆するもの。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に下落。在庫の減少は継続しているものの、米北東部の気温上昇見通しが上値を抑えている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は小幅に上昇。特段材料がない中で現状水準を維持。
12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。
12月のLNG輸入は前年比▲13.5%の659万6,000トン(前月▲7.0%の642万トン)と前年比のマイナス幅が拡大。
12月のパイプラインベースの輸入は前年比▲8.5%の368万トン(前月+1.7%の389万トン)と輸入の伸びが前年比マイナスとなった。
中国の天然ガス生産は12月は+5.7%の1,500万トン(前月+7.4%の1,389万7,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
12月の中国の発電料ははまだゼロコロナ政策を堅持していたタイミングであるため、消費電力は前年比▲4.6%の7,784億kwh(+1.6%の6,828億kwh)と低迷していたこと、中国の国内生産増加が影響し、輸入量が減少したとみられる。
今後、集団免疫を獲得して正常化が進む中、石炭などは豪州に対して増産要請が出されるなど、今後、国内需要回復の可能性は高い。結果、天然ガス価格を下支えすることになるだろう。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を一部引き受けているが、保険料を8割引き上げている。また、ロシアに対する制裁や軍事的な緊張の度合いによってはこの水準は随時見直さされることになるため、LNG価格の上昇要因となる。
ただ、付保のLNG価格に占める比率は高くないため、そこまで価格に影響はないと言えるが、それ以上に付保自体が認められなくなり、輸入自体が途絶するリスクの方が小さくないと考える。この場合、スポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
1月29日時点の日本の発電用LNG在庫は253万トン(前年同月末180万トン、2018~2022年平均205万4,500トン)と過去5年レンジを上回っている。
しかし、冬はまだ続いており例年あるように気温次第で来年の2月頃にガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。
さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
週明け月曜日も、新規手掛かり材料に乏しい中、現状水準でのもみ合いを予想する。
なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、ロシアからのガスフローが事実上途絶していることを考えると、下値も堅かろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は大幅に下落した。中国の経済活動再開が緩慢であることや、ガス価格の下落、価格上昇を受けた豪州炭からその他の石炭へのシフトが進む、との期待が高まっていることが背景と考えられる。
昨日で大きかったのは、期先の価格が200ドルを下回ったことだ。
通常、限月交代後に価格が急騰することが多かったが、今月、その窓埋めの動きは見られておらず当面この水準での推移が予想される。
豪州炭の主要な買い手は日本であるが、主要電力会社が豪州炭価格の上昇を背景に炭種の変更や低カロリー炭への変更を次年度から行う方針を示しており、徐々に欧州炭と豪州炭の価格差は縮小することが予想される。
しかし、結局のところ欧州炭価格は欧州のガス価格に左右されるため、まだ冬が終らず、夏場が猛暑、今年の冬の厳冬、といったリスクは残るため「脱ロシアが完全に完了すると期待される2027年頃」までは、上振れリスクは小さくないとみている。
12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
12月の中国の石炭生産は、前年比+4.7%の4億269万トン、1,299万トン/日(前月+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、一時250ドルに迫った期先の価格は180~200ドルに低下している。豪州炭の構造的な需給緩和期待が高まっている、と言えるだろう。
なお、ロシアに対する制裁とは関係なく、冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られる4月以降、石炭価格は下落するとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
週明け月曜日の石炭価格は、週末の下落が大きかったことから、小幅に上昇すると考える。
◆非鉄金属
LME非鉄金属市場は大幅に下落した。休み明けの中国の経済活動が鈍化していることに加え、昨日発表された米雇用統計が極めて良好な内容だったこと、ISM非製造業指数が大幅な改善となり、米金融引締め観測を背景としたドル高進行が価格を押し下げた。
やはり、中国のリオープンや例年よりも早い春節入りの影響で駆け込みの在庫積増しの動きが顕著だったと考えられ、この間に積み上がった投機筋の買いポジションの利益確定の売りの動きでしばらく軟調な推移になると予想される。
引き続き、投機筋の動向は注視する必要があるが、長期的な材料(3つの「脱」)で買いを入れたのならば、中期的な景気減速に伴う価格下落はその余地が限定されることを示唆している。
1月の中国製造業PMI急速に改善している。ゼロコロナ解除と不動産セクターのテコ入れの影響によるものだ。しかし、PMIは「前月と比較したときの景況感」をヒアリングしているため、「政治的に強制的に経済活動が稼働・停止」を繰返している状況下では、統計の連続性が担保されていない。
今後の動向はやはり2月のPMIを待たなければならないだろう。ただ、中国の財政余力、海外経済の減速を考えると2月も高水準の回復は余り期待するべきではないだろう。さらに改善があるならば、中国が3月の全人代を睨んで追加的な対策を行った場合、だろう。
なお、ペルーで発生した暴動が沈静化しておらず、銅生産への影響が顕在化している。ペルーは世界2位の銅鉱山生産量を誇り(2021年実績)、この国の問題長期化は銅供給への影響が小さくない。
暴動の背景は、2021年に誕生した左派カスティジョ政権が、コロナの影響による国内混乱を沈静化できず、首相が5回も交代、カスティジョ自身も汚職の問題が指摘され、弾劾に至った。
後任のボルアルテ大統領はカスティジョ前大統領と共に大統領選を戦った朋友だが、政権安定のために議会の多数派を占める右派と協調したことで国民の反発が強まる形となっている。
結果、2024年4月に大統領選挙を2年前倒しする憲法改正を実施、事態の沈静化に注力しているが、今のところまずこの大統領選挙問題を乗り切らなければ事態の沈静化は難しいかもしれない。
この状況を受けてボルアルテ大統領は、今年12月に選挙をさらに前倒しすることを議会に提案している。
弊社はもう少し早期に収束の道筋が見えるのでは、と考えていたが現状を整理すると先行きの不確定要素は多く、今後、銅供給制限が長期化して価格を押し上げる可能性が高まったと考える方が妥当だろう。
中期的には景気の循環によって、恐らくQ323~Q423あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移を予想する。
リスクとしては、想定よりも景気が減速せず回復基調に入り非鉄金属価格も上昇するケース。現在、投機筋が積極的に非鉄金属を購入しており、「今年の投資テーマ」になっている可能性が否定できず、価格のアップサイドのリスクを高めている。
また逆のリスクとしては、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。
また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きとなる。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
12月の中国の非鉄金属生産は、銅が過去5年の最高水準を下回ったが、その他の金属は過去5年の最高水準を上回った。ゼロコロナの解除期待、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。
12月の中国の精錬銅生産は+0.1%の96万1,000トン(前月+22.5%の111万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は12月が前年比▲4.8%の147万6,000トン(前月+16.5%の165万5,000トン)と過去5年の最高水準を下回った。生産・輸入とも、ゼロコロナ政策堅持が影響したとみられる。
しかし、2月以降はリオープンの動きが始まるため回復(前々年程度の回復が上限か)が予想される(1月は中国正月の影響で営業日数が少ない)。
12月の銅スクラップの輸入は前年比▲13.9%の13万9,174トン(前月▲1.9%の16万1,590トン)と過去5年平均を下回った状態が続いている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
週明け月曜日は、週末の下げが大きかったことからまず買いが入るとみるが、これまで価格を押し上げてきた米国の金融引締め終了観測が巻き戻されているため、下落に転じると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は続落した。
中国は鉄鋼製品在庫積増しの時期にあるが、例年よりも在庫の水準が高く、製品価格は下落しているが、政策期待を受けた鉄鋼需要増加期待から鉄鋼原料調達圧力は緩和していないようだ。
1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が46.6(前月44.3)と改善。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が43.9(38.9)と改善、それに伴い生産も50.2(43.4)と2022年1月以来の50超えとなった。政策効果が一定程度見られているようだ。
ただし、新規受注完成品レシオは0.83と在庫の積み上がりで先月(0.94)から低下。原材料レシオは1.00(0.89)と上昇しているが、製品需要増加に前倒し対応した結果在庫に低下圧力が掛かったためと考えられる。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは56.4(54.4)と回復、明らかに中国政府の不動産セクターテコ入れ策の効果だろう。
しかし、これらの数値も中国政府主導のテコ入れ策が奏功すれば改善しようが、あくまでゼロコロナ状態が通常状態に戻るだけ、ともいえ今後も回復が継続するかどうかは2月のPMIを待つ必要がある(アンケートの取り方的に、「先月との比較」で調査を行うため、ゼロコロナのような経済に不連続をもたらす施策が採られた後の統計は1ヵ月だけで判断するべきではない)。
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。
12月の中国粗鋼生産は前年比▲9.6%の7,789万トン(前月+7.5%の7,454万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画であるが、累計で10億2,524万トン(前年10億3,856万トン)と前年を下回った。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+204万5,000トンの1,610万1,000トン(過去5年平均 1,133万1,000トン)。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+305万トンの1億3,650万トン(過去5年平均 1億3,953万6,000トン)、在庫日数は29.2日(▲2.4日、過去5年平均30.1日)。生産回復を受けて在庫は日数ベースでも、数量ベースでも不足の状態に。
原料炭在庫は+5万トンの210万トン(138万トン)、在庫日数は▲0.7日の8.4日(過去5年平均 5.6日)と日数ベースでの減少が見られている。
週明け月曜日は、鉄鋼製品在庫は積み上がっているものの、生産回復に伴う原料在庫の日数ベースの水準が低いため、在庫積み圧力は継続し上昇すると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。米雇用統計が衝撃の改善となり、その後発表されたISM非製造業指数も大幅な改善となったことで、米利上げ打ち止め観測が後退、実質金利が上昇し、ドル高が進行したことが材料となった。
金の基準価格は▲47ドルの906ドル、リスク・プレミアムは▲1ドルの959ドル。
銀価格は金の下落を受けて大幅に下落、プラチナ、パラジウムも大幅な下落となった。
金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造に変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。
現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。
また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」もあり、特に新興国で金準備を積み上げる動きが出ていることも新たな動きといえ、金価格の上昇要因となっている。
なお、基本的に金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるか、はデータの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。
なお、この分析が機能するのは「安全資産需要が高まっている間」と考えられ、恐らく利上げが続く夏頃までは参考になるのではないか。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオは81倍と、ボリンジャーバンドの下限である73倍で反発している。今後、米景気が減速することを考えると、むしろ金銀レシオは上昇する可能性が高い。
足下は12ヵ月移動平均となる83.8倍が意識される。ただ、米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることから、ボリンジャーバンドの上限である94倍までの上昇はないのではないか。
本日は、米雇用統計とISM非製造業指数の改善を受けて金融引締め観測(というよりは早期金融引締め観測後退か)を受けて水準を切り下げる展開を予想する。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシが上昇、大豆、小麦は下落した。米雇用統計・ISM非製造業指数の改善を受けたドル高が総じて価格を押し下げたが、アルゼンチンの天候状況が再び悪化したことで供給面への懸念が意識されたことが価格を支えた。
昨年の降雨の影響でアラビア半島でのバッタ発生リスクを懸念していたが、今のところサバクトビバッタの群生発生は確認されておらず、供給へのリスクは低下している状況。
週明け月曜日は、米雇用統計の改善を受けた過剰な金融引締めペースの鈍化観測の「巻き戻し」からドル高が進行し、水準を切下げる展開を予想する。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
日銀総裁の交代後に進むと期待される金融正常化が、極端な円高(ドル安)を誘発し、商品価格にプラスに作用するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気の先行きを楽観した市場の買いで資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク)
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「シカゴ材木価格は反発」
シカゴ材木価格は世界の材木需給バランスの影響を受けるが、穀物におけるシカゴ定期と同様、米国で受渡される材木の価格であるため米国の輸出入、消費動向に左右されやすい。
少し前のデータであるが2020年の米国の材木輸入は前年比+39.3%の80億1,500万ドルに達した一方、輸出は▲9.4%の26億5,900万ドルとなった。輸入の増加と輸出の減少はコロナの影響による外出禁止令によるリフォーム需要が高まったこと、米西部の山火事などの災害の影響で国内需給がひっ迫したためである。
この需給タイト化が2021年5月の材木価格高騰をもたらし、日本国内でも「ウッドショック」として報じられた。
この、「コロナによる生活圏の変化、ライフスタイルの変化、労働環境の変化」は引越しやリフォームなどの追加的な住宅需要をもたらしたといる。
その後、物流の回復の中で材木価格は下落するが、2021年後半から再び上昇に転じる。これは2021年11月中旬にカナダのブリティッシュコロンビア州が記録的な洪水に見舞われたことによる供給側の問題が材料視されたためだ。
米国の2020年~2022年の材木卸売り在庫率は過去10年の最低水準で推移していたため、まだ米国の景気に過熱感がある中で材木の供給不足が強く意識された。
その後、2022年3月から始まった米国の金融引締めの影響で長期金利が上昇に転じ、住宅向けの需要減速感が強まったため材木先物価格は下落、昨年末まで水準を切下げる展開となっていた。
しかし、ここに来て再び材木価格が上昇に転じている。米FRBがインフレ抑制のために行っていた「異次元のペースでの金融引締め」がようやくそのペースを鈍化する見通しが強まってきたためである。
材木価格を決定する上では、前述の通り、供給面と需要面の影響が無視できないが、今回の価格上昇は需要面の影響によるものと考えられる。
米国の金融引締めが終了に近いと判断される中で、住宅セクター動向に大きな影響を及ぼす長期金利が低下に転じたため、再び住宅販売が盛り返すとの期待が高まっているためである。
恐らく、米国を初めとする先進国の景気は2023年の第三四半期(7-9月期)頃に底入れし、年後半は回復基調に転じると考えられるが、それまでの間は長期金利に低下圧力が掛かるため、景気が減速しながらも住宅向け需要は堅調に推移すると予想される。実際、米10年債利回りと材木価格の間には、2022年3月以降比較的明確な逆相関の関係(10年金利が下がると材木価格が上昇、上昇すると低下)が見られる。また、昨年春以降の材木価格の下落の影響で、主要生産国であり、米国向けの最大の輸出国であるカナダの材木生産が低迷していることも価格を押し上げるだろう。
また、これまでの価格下落の間、投機筋はショートポジションを大きく積み上げてきた。このことは需給ファンダメンタルズの変化や金融政策の変化(金融引締め終了など)があれば、ポジション解消の買い戻しが入りやすく、上昇に転じるリスクが高いことを示唆している。なお、原油や非鉄金属にように材木先物そのものに投資するETFは組成されていないため、個人投資家がETFを通じて買いを入れ価格を押し上げる訳ではなく、機関投資家の売買動向が価格に影響を与えていることは付言しておきたい。
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