米国市場休場で動意薄い
- MRA商品市場レポート
2023年1月17日 第2371号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米国市場休場で動意薄い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はまちまちだった。米国の主要市場がキング牧師生誕記念で休場の中、コレアで上昇してきた商品が売られ、売られてきた商品に買い戻しが入り、ポジション調整的な取引が主体だったと考えられる。
最も上昇したのはビットコイン。動意が薄い中でここまでの下落を受けた投資妙味からの買いが入ったとみられる。なお、名称は「コイン」であるが、金や銀などのコインとは全く異質な商品であり、暗号資産は明確にコモディティではないことは指摘しておきたい。
最も下落したのが発電燃料。気温上昇やLNGのフロー増加、結局暖冬だったことで足下の調達圧力が後退しているため。
【本日の見通し】
本日は、昨日買い戻されたドルが再び下落すると予想されるため、特に工業金属は中国勢の春節前の在庫積み上げで価格は総じて堅調な推移になると予想。
ただし、年初以降、ほとんどの商品に関して中国のリオープンが材料視されており、本日発表の中国重要統計は下振れ見通しであるため下振れする可能性も否定できない。
1-12月中国工業生産 市場予想 前年比+3.7%(1-11月期+3.8%) 12月 +0.1%(前月+2.2%)
1-12月期中国小売売上高 年初来年比▲0.8%(▲0.1%) 12月 ▲9.0%(▲5.9%)
1-12月期中国固定資産投資 +5.0%(+5.3%)
1-12月期中国不動産投資 ▲10.5%(▲9.8%)
1-12月期中国不動産販売 1-11月期 ▲28.4%
【昨日のトピックス】
昨日発表された12月の日本の企業物価指数は、前年比+10.2%の大幅な上昇となり、9月の高い水準に復帰した。エネルギー価格の上昇や円安の影響を転嫁する動きが強まっていることが背景。
日本はほとんど資源がないため、海外からの資源輸入に頼らざるを得ないビジネスモデルとなっているが、さらに言えば、市場価格の転嫁に時間差があることが、他国と比してこのタイミングで物価が上昇していることの背景にある。
過去6ヵ月間の平均価格や、昨年1年間の平均価格、為替は毎年12月のものを参照、といった「ハイブリッド型の条件」になっているものも少なくない。結果、国際資源価格は下落していても、価格上昇がこれから始まる商品は多い。
価格リスクマネジメントの観点からは、市場で価格制御が可能な価格体系で売買を行うべきであり、その価格体系は「複雑な計算式」が含まれるものであるべきではない。
さらに言えば、一覧性の観点から日経新聞に掲載されている価格を参照して売買価格が決定されることもあるが、できれば回避した方が良く、価格はできる限りLMEやCME、ICEといった取引所の価格を基準に決定することが望ましい。
日本はこうしたリスクを、売り手と買い手の話し合いの元に分け合う形で売買が行われていることが多いが、現物が極端に少ないときなど、数量の確保と同時に価格の上昇も制御することは難しくなってくる。
そのため、数量と価格を切り離し、価格の制御は別途行う、という形が望まれる。今後、企業物価は原油価格の下落や円安で低下が予想されるものの、「供給能力不足による物価上昇を、金利引き上げで抑制」したことから、景気が底入れすれば、再び上昇圧力が強まる可能性が高いことは忘れてはならない。
今回、価格が下落するならば既に上昇リスクに備える準備をするべきだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。米国市場が休場の中、調整していたドルが若干上昇したことでポジション調整の売り戻しが入ったと考えられる。
過去、中国の統計が原油価格を動かしたケースは実は余りない。しかし、これからゼロコロナが解除され、経済活動が元に戻る中では、「通常の状態に戻る中での需要回復」が原油価格を押し上げる可能性がある。
ただし、世界全体が景気減速に向かう中でその影響は限定されるだろう。
12月の中国の原油輸入は前年比+4.2%の4,807万トン、1,147万バレル/日 (前月+11.8%の4,674万トン、1,153万バレル/日)と、前月から前年比増加幅を縮小したが、同じ時期の過去5年の最高水準は上回った。ゼロコロナ終了に伴う国内需要に対応するための輸入増加、と考えられる。
一方、石油製品は輸入が前年比+48.4%の327万9,000トン(+19.7%の310万トン)と急増、輸出は+138.4%の770万トン(+46.5%)と急増している。
ネットで見ると国内の需要はそれほど旺盛ではなく、海外への輸出が輸入を上回っている状況。回復期待はあるものの、まだ中国の経済活動は本格的に回復していない、と言える
※原油1トン=7.4バレルとして算出。石油製品は種類の内訳が不明のためバレル換算していない。
今後の相場展開を占う上では、ドル指数の動向と原油価格の動向をクロスオーバーして見ていく必要がある。早晩、金融政策(どちらかと言えば緩和的なバイアス)を受けて原油価格が底入れし、ドルよりも先に上昇を始めると予想される(景気の転換点・底入れのサイン)が、それはまだ先だろう。
ロシアは欧米の制裁に対して、原油価格上限設定国に対する原油・石油製品輸出を禁止する大統領令に署名した。原油輸出は2月1日から5ヵ月間禁じられ、石油製品に関しては別途、政府が通達するとしている。
しかし、ロシアに対する制裁を行っている国の数はそれほど多くなく、インドや中国などの中立国スルーで供給は続くことから禁輸の影響は限定されることになるだろう。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在は3.の状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を禁輸、ロシアが報復措置を厳正に行った場合(ないしはOPECプラスの減産)Brent 75-100ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-95ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 70-90ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-85ドル
5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、景気循環の影響で需要が減速するため価格は基本的には下落する。しかし、楽観的なメインシナリオでは今年のQ323頃に景気が底入れするため、年後半に掛けては再度上昇するとみる。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まりする可能性が高い。
Q123~Q123 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッションの場合(↓)
Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期(↑)
2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、昨日の流れを受けて調整売り圧力が強まると考える。なお、これまでとは異なり、中国の経済動向ヘの注目が集まっているため、本日発表の中国の重要統計は下振れ予想であり、その点でも下振れの可能性は否定できず。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は続落。気温低下予報だが、中国からなどのLNGカーゴの増加期待が材料視された、との指摘があった。
欧州の天然ガス在庫の水準が高いため、改めてシミュレーションをしてみると今のところ▲10%の需要削減が可能であれば2023年のガス調達には問題がなさそうだ。
しかし、需要削減が▲5%程度に止まったり、現在20%程度の稼働となっているロシアからのガス供給が完全に停止する、といった事態になればガス供給は間に合わないことになる。
足下、価格が下落しているため問題になっていないが、EUが合意しているTTFの価格上限設定は、今後の市場メカニズムを歪めるため適切な価格上昇に伴う増産を阻害したり、市場を無視した低価格が欧州向けのカーゴを減じる可能性があったりと、問題が多い。
TTFはガスやLNGの取引の国際指標として現物契約に用いられている価格であるだけに、その他のガス市場への影響も小さくないと考える。
足下のガス在庫の水準は高いが、今年は年初からロシア産ガスの供給が期待できないため、2023-2024年のガス調達は困難な状況が続くだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
ドイツは浮体式のLNG受入ターミナルの整備を進めているが、こうした取組みも脱ロシア達成には5年程度かかると考えている。
2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。
Freeportの再開予定は1月後半よりも早いことはないとされ、場合によると3月以降の再稼働となる可能性がある。ナイジェリアは徐々に状況の改善が伝えられているが、洪水前の状態に戻るにはまだ時間が掛かる。
3.4.は顕在化している。
5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは2023年1-3月に50%、2-4月は71%の確率で正常化すると予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。
1月2日-8日のLNG貿易は、820万トンと前週と変わらなかった。スポット調達の比率は22%とこちらも変わらず。
北西欧州・イタリア向けのスポットカーゴは横這い、その他の欧州向けは▲20万トンの減少、日中台韓の輸入は+30万トンの増加となり相殺氏合った。アジアの輸入増加は主に中国と韓国からのもの。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも低下しているが例年の水準よりは高く、欧州の調達需要は引き続き旺盛と見られる。これは構造的な需要の増加によるものだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は休場。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は休場。
12月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲11.8%の1,028万トン(前月▲3.8%の1,032万トン)と前年比での減少幅を縮小した。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。
11月のLNG輸入は前年比▲7.0%の642万トン(前月▲34.6%の403万2,000トン)と前年比のマイナス幅が縮小、冬場に向けた調達が増加している。
11月のパイプラインベースの輸入は前年比+1.7%の389万トン(+11.6%の358万トン)と輸入の伸びが鈍化している。
パイプラインの国別輸入内訳は金額ベースのみの開示となった。各々の契約条件が異なるため数量と同じ比較ができないが、ロシアが前月比+1億5,670万ドルの増加となっており、次いでトルクメニスタン(+1億4,290万ドル)となった。ウズベキスタンとカザフスタンは減少。
中国国内の天然ガス生産は11月は+7.4%の1,389万7,000トン(前月+10.8%の1,352万9,000トン)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。
天然ガス輸入量の減少を見ると、ゼロコロナの影響による経済活動の停滞、国内生産の増加の影響が小さくないと考えられるが、ゼロコロナは解除され、石炭などは豪州に対して増産要請が出されるなど、今後、国内需要回復の可能性は高い。結果、天然ガス価格を下支えすることになるだろう。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2は、欧州がLNGタンカーに対する付保を断ったため供給懸念が強まったが、英再保険会社が従来の半分では有るが付保を承諾したため、目先の調達懸念は後退している。
しかし、付保が撤廃される可能性はあること、付保額が半分以下に(保険引き受け能力は国内損保が80億円、海外再保険会社が220億円)なっているため、このままではスポット調達にシフトせざるを得ない可能性があること、からJKMの上昇要因となる。
また、サハリン2も欧米企業がメンテナンスから撤退しているため、中長期的な供給途絶のリスクは無視できない。
1月8日時点の日本の発電用LNG在庫は248万トン(前年同月末180万トン、2018~2022年平均205万4,500トン)と過去5年レンジを上回っている。
しかし、冬はまだ続いており例年あるように気温次第で来年の2月頃にガス供給が不足して価格高騰、ということも有り得る。
さらに、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
本日は、欧州TTFが昨日大きく下落したこと、まだ冬場であること、気温低下見通しであることから買い戻しで上昇すると考える。。
なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、ロシアからのガスフローが事実上途絶していることを考えると、下値も堅かろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は小幅に下落した。
足下の需給が緩和していないことは期間構造を見ても明らかである。中国が豪州炭の輸入を再開、この価格水準でもカロリーや性状を考えると豪州炭の方がメリットがあるようだ。
また、日本も中国とも同様に石炭種の変更は困難であるため、輸入は高い水準を維持している。
期先の価格の下落は生産者側のコスト削減などの影響が大きいと考えられるが、豪州側の供給の問題(人手不足、ストライキ、異常気象など)はまだ残存していると考えられ、期先の価格動向は引き続き注視する必要がある。
12月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲0.1%の3,090万8,000トン(前月▲7.8%の3,231万トン)と前年比マイナス幅を縮小した。中国の経済活動再開を睨んだ在庫の積み上げと考えられ、過去5年レンジの上限での推移となっている。
国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後輸入は増加が予想される。やはりカロリーや炭種の違いによる使い勝手から、豪州炭が選好されると考えられる。
11月の中国の石炭生産は、前年比+5.5%の3億9,131万トン、1,304万トン/日(前月+3.6%の3億7,090万トン、1,194万トン/日)と、同じ時期の過去最高水準を上回っている。
海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが、豪州に増産要請を行うなど、国内炭はスペック的に不充分と考えられ、今後さらに増産があるかと言えば、環境面への配慮(住民への配慮をせざるを得ない)から難しいのではないか。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭の輸入は西側諸国で制限されており、代替となる高カロリー炭を求める動きは継続している。
通常、石炭先物の期先の価格は現在の生産コストの上限に近づきやすいが、ロシア問題発生前は120ドル前後だった水準は、200~230ドルに上昇している。これはコストカーブ上からロシア炭が抜け落ちていることによるもの、といえる。
恐らくロシア炭はいろいろなルートを通じて海上輸送炭市場に流入するため、徐々にこの水準は切り下がるとみているがまだそれには時間が掛かるだろう。
なお、ロシアに対する制裁とは関係なく、冬場が終了し、かつ、ラニーニャ現象が収束すると見られる4月以降、石炭価格は下落するとみているが、その後、夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇に転じるだろう(Q223の後半ぐらいからか)。
本日は、欧州天然ガス価格が前日の反動で上昇すると見られること、中国の石炭輸入増加観測を背景に上昇を予想。
◆非鉄金属
LME非鉄金属市場は大幅な下落となった。調整してきたドルが、米国主要市場休場の中で買い戻しが入ったことなどを材料に、これまで上昇してきた反動で売られる流れとなった。
昨年末に発表された中国製造業PMIが悪化しており、需給ファンダメンタルズは緩和、この価格上昇は春節前の在庫積増しの動き(今年は実質的に1月21日から休みに突入する)であり、さらにコロナの感染拡大から帰郷した労働者が休みを長く取る、という可能性もあるためまだ現時点においては一時的な上昇、と整理すべきと考えている。
なお、コロナの感染拡大による免疫獲得を材料に、早期に中国の経済活動が再開すれば話は別で、1月の製造業PMIが改善、新規受注在庫レシオも上昇する可能性はある。
この場合、足下の価格上昇が投機だけではなく、需給ファンダメンタルズ面で肯定されることを意味する。
しかし、1.海外景気は減速すること、2.足下の上昇は期待先取りの可能性が高いこと、3.直近の新規受注在庫レシオは少なくとも需給がタイト化していないことを示唆していること、を考えるとやはり価格の方向はまだ下向きである。
方向性が出るのは、中国の製造業PMIが発表され、春節が明けた2月以降になるのではないか。
10月に修正法案が提出されたチリの鉱山ロイヤルティ法案だが、この度最終法案が合意に近づいている。生産コストの上昇に繋がる。10月時点の変更は以下の通り。
3%の新ロイヤルティ→1%に。年間生産量5万トン未満は免除。
営業利益に連動して課税されるが、営業費用、減価償却費を差し引くことが認められた。
営業利益率~0% :免除0%~20% :8%20%~45%:8%~12%45%~60%:12%~26%60%~ :26%
中期的には景気の循環によって、恐らくQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。
世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。
リスクとしては、米利上げ打ち止め直後から価格が上昇する場合。現在、6月のFOMCで利上げは打ち止めになると予想されており、Q223から景気回復を先取りして価格が上昇する可能性はある。
また逆のリスクとしては、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。
また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。
価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。
11月の中国の非鉄金属生産は、ほとんどの金属の生産が高い水準を維持、過去5年レンジを上回る水準となっている。ゼロコロナの解除、不動産セクターのテコ入れ策(主に資金繰り策)、それに伴う生産活動の再開が影響しているとみられる。
しかし、感染爆発で再びロックダウンを余儀なくされる可能性は低くなく、先行きの需要・生産両方の重石となる。冬場一杯はこの状態が続き、集団免疫を獲得するまで(1年程度か)は不安定な状態が続くのではないか。
12月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均は維持した。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。
11月の中国の精錬銅生産は+22.5%の111万5,000トン(前月+8.1%の92万3,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。
生産と輸入を合計した供給量は11月が前年比+16.5%の165万5,000トン(前月+5.0%の132万7,000トン)と過去5年の最高水準を上回っており、今後、ゼロコロナ解除、不動産セクターのテコ入れに備えた動きが起きていると考えられる。実際、中国の取引所銅在庫の水準は季節的に見ても低く、LME在庫の水準も低いことから、国内生産を増加させていると考えられる。
11月の銅スクラップの輸入は前年比▲1.9%の16万1,619トン(▲15.2%の11万2,857トン)と過去5年平均は下回っている。景気減速に伴い、スクラップの供給も減少していると考えられる。
銅地金の輸入の回復、国内生産の増加を考えると中国の需要は政策的なテコ入れによって一時的に急回復していると考えられる。
ただし、世界景気の減速やこれ以上、住宅バブルを発生させることはさすがに回避すると考えられることから、中期的な見通しは引き続き弱気だ。
本日は、昨日の下落を受けていったん買い戻しが入ると考える。基本的に春節前の在庫積み上げの動きが見られると期待されるため。
ただ、本日発表の中国の重要統計は下振れ見通しであり、最終的には前日比マイナスか。なお、需給ファンダメンタルズを考えると、春節入り以降は軟調推移になると考えられる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。
中国国家発展改革委員会が、鉄鉱石市場での買いだめや価格つり上げに対して罰則を科すとの声明を受けて、経済活動回復が阻害されるとの見方が強まったことが背景。
ただし、中国政府の経済活動再開、春節(今年は実質的に1月21日から始まる)前の鉄鋼原料在庫積増しの動きが鉄鋼原料価格を押し上げている状況。
また当面は季節性に加えて、中国のコロナの終息度合いや、今回対応を失敗すると長期にわたる不動産不況に突入する可能性がある不動産業界のテコ入れ・再編策の動向に鉄鋼原料価格動向は左右されると考える。
そして長期的には徐々に鉄鋼セクターの価格動向は、インドのインフラ投資動向に左右されていくことになるだろう。
12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が44.3(前月40.1)と改善した。不動産セクターの資金繰り支援策やゼロコロナの解除に伴う生産活動の再開期待が高まってることが背景にある。
内訳を見ると新規受注が38.9(34.5)と改善、それに伴い生産も43.4(39.3)と改善している。政策効果が一定程度見られているようだ。
鉄鋼製品の主要用途先である住宅セクターの指標である建設業PMIは54.4(55.4)と前月から小幅に減速。中国政府が不動産業界向けの資金繰り支援策を打ち出したが、コロナの感染拡大や国内の循環的な景気減速の影響から脱していないことを示唆している。
ゼロコロナ政策の継続、不動産業界向け支援策の効果が出るまでは時間がかかると思われることを考えると、鉄鋼市場の需給は緩和した状態が続き、鉄鋼原料価格の頭を重くしよう。
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲30.0%の69万9,620トン(前月▲47.2%の75万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
12月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+7.4%の540万1,000トン(+28.2%の559万トン)と過去5年平均を上回り高井水準を維持している。
11月の中国粗鋼生産は前年比+7.5%の7,454万トン(前月11.4%の7,976万トン)と低迷し、過去5年平均を下回っている。中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。
粗鋼生産は抑制気味で、国内製品が海外に流出する状態になっている。しかし、中国の鉄鋼製品在庫はこれまでのゼロコロナ政策の影響で減少しており、在庫水準は高くない。そのため、季節的な要因もあるが今後、中国の不動産セクターのてこ入れ策を背景に在庫の積増しが起きると考えられ、鉄鋼原料輸入は増加圧力が掛かると考える。
しかし、中期的には世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。
週末発表の在庫統計は、鉄鋼製品在庫は+111万2,000トンの1,125万1,000トン(過去5年平均 925万3,000トン)。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比+110万トンの1億3,520万トン(過去5年平均 1億4,031万6,000トン)、在庫日数は33.5日(+0.3日、過去5年平均32.6日)。日数ベースでは充分だが、今後、鉄鋼製品在庫の積増しが行われることを考えると充分とは言えない。
原料炭在庫は▲4万トンの207万トン(147万トン)、在庫日数は▲0.2日の9.6日(過去5年平均 6.3日)とかなり積み上がってきた。
本日は、中国の経済活動再開と春節前の在庫積増しの動きが鉄鋼原料価格を押し上げるが、ここまでの上昇を受けて中国当局が価格上昇を牽制する動きを見せており、上昇余地も限定されると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は小幅に下落した。米国市場が休場の中動意薄く、金価格がドル高を材料に小幅下落する中で、水準を切下げる流れとなった。
銀価格は金価格の下落を受けて下落、PGMも同様だった。
金価格に対する説明力は引き続き実質金利が最も高い。しかし、米金融引締め加速によってこの構造にやや変化が見られ、実質金利で説明可能なポーションは50%を下回っている。
現状はクレジットリスクが強く意識されていると考えられることから、期間1年程度の北米CDSとリスク・プレミアム(実質金利で説明できない部分)の回帰分析を行うと、リスク・プレミアム中、600ドル程度が安全資産需要と見做され、残りがドル指数などのその他の要因、ということになる。
また、世界の情勢変化や「通貨に対する信用の低下」もあり、特に新興国で金準備を積み上げる動きが出ていることも新たな動きといえ、金価格の上昇要因となっている。
中国は昨年11月・12月で62トンの金を購入しており、これだけで25ドル程度の価格押し上げ要因となる。
なお、この分析が機能するのは「安全資産需要が高まっている間」と考えられ、恐らく利上げが続く夏頃までは参考になるのではないか。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
米国での太陽光パネル設置が脱中国の中でも進展しそうな感じであること、EV車へのシフトに伴い、工業品としての銀需要の増加も見込まれることが、金銀レシオを押し下げながら銀価格を押し上げている。
ボリンジャーバンドなどを参考にすると、そろそろ金銀レシオの低下も佳境とみられるが、金価格が金融引締めの中でも高値を維持している状況下、銀価格も高止まりが予想される。
本日は、中国の重要統計が下振れ見通しであり、株価の調整などを通じてドル高圧力がかかる可能性があるため、軟調推移か。
◆穀物
シカゴ穀物市場は休場。
今後は冬場のラニーニャ現象がアラビア半島・北アフリカ周辺に降雨をもたらしており、サバクトビバッタの大量越冬を可能にするため、2023年は穀物供給リスクが継続する可能性がある。
なお、今のところバッタの大量発生は確認されていない。
本日は、昨日のドル高の修正でいったんドルが弱含むと予想されることから上昇余地を探る展開か。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスクだが経常収支黒字の間は顕在化し難いリスク)。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまう場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。
インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「価格上限設定と脱炭素のリスク 過去に学ぶ」
豪州ではガス・石炭価格に上限規制が期限付とは言え導入され、付帯条件が付きながらも欧州ではガス価格に上限が設定された。日本ではこれよりも早くガソリンや電気・ガス代金に財政が投入され、上限価格が設定され、ドイツもエネルギー消費者支援のために関して大規模な予算が付けられた。
世界中でこうした資源価格に上限を設定する動きが加速している。これにより生産者は採算性が確保できなくなり、上流部門投資が滞るリスクが高まる。
それ以前に、脱炭素を目的とした投資制限(誤解を恐れずに言えば、「別のバブルを別の市場で作ろうとする動き」ともいえる)が起きているためそれだけでも上流部門投資は停滞している。
さらにインフレ抑制のための金融引締め継続を考えると充分な供給能力が確保されて価格が安定する、というのは難しい。
いつの時代もそうであるが、こうした規制は極端な方向に振れやすく、別のリスクをもたらすことが多い。
よくこのコラムでも例に挙げているのは米国とドイツの投機取引規制だ。米国はかつてタマネギの先物をシカゴに上場していたが、投機取引のせいで変動性が増している、として投機取引規制を強化。その後さらに変動性が増した(その後タマネギ先物市場はなくなった)。
ドイツでは同様に、ベルリン小麦先物の規制を1897年から開始、やはり同様に価格変動性が増したため、1900年から先物市場を改修して投機取引参入を認め変動性は落ち着きを取り戻した。
これは市場参加者が「現物を欲しい、売りたい」という実需家だけになってしまい、豊作の時は限りなく安く、不作の時は限りなく価格が高くなってしまうのだ。
現物を保有することが目的でない市場参加者が市場にいる場合、「価格が高ければ売り、安ければ買い」を入れて投資リターンを追求する動きをするためこうした極端な価格変動が抑制される効果が期待できる。
しかし、現在の商品市場は実はそういう投資家は少なく「需給バランスのみを重視し、トレンドフォローする」投機家が主体となった。リーマン・ショックの反省から「ボルカー・ルール」が適用され、リスクを取る投機家が減ったのだ。言葉を換えると、価格変動を抑制する方向に機能する市場参加者が減った、とも言える。
一方で1990年代後半から続く一連のバブル発生と崩壊を受けて、中央銀行は多量の資金を市場に投入してきた。これは膨らみ続けており、現在のQTで吸収するのには数十年を要するだろう。
即ち、1.現物市場での価格規制が生み出す投資抑制、2.過剰流動性の滞留、3.投機取引の「質」の変化、によって高い変動性がもたらされる可能性がある、と言うことだ。
これまで商品市場から退場していた投資銀行も今度は「環境」という誰も反対し難い市場を対象に、再び商品市場に参入している。これからの10年は「大きな変動性とそれの制御」が重要なテーマとなるだろう。
そして、西側諸国が投資を手控える中、中国やインドを初め、その他の新興国は温暖化は関係なく、上流部門投資を続けるだろう。結果、西側諸国は高い価格で資源を購入し続けなければならない、という自体に直面する恐れがある。
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