景気悪化・物価鎮静化を示す指標に留意
- MRA外国為替レポート
2022年11月28日号
◆先週の市場総括
先週は週後半にドル安円高が進んだ。週前半はドルが堅調。ドル円相場は140円台前半で始まり142円に乗せるなど底固く推移。前週にFRB当局者のタカ派発言が続き、米長期金利が反発したことがドル買い戻しを強めた。
ユーロドル相場は1.03台前半で始まり1.02台に押される場面が多かった。ただ週央に様相が一変。水曜日に発表された米国の経済指標が弱め。加えて公表された11月のFOMC議事要旨で多数のメンバーが利上げペースダウンを支持していることが確認されると米長期金利が低下。ドルを押し下げた。
ドル円相場は138円台前半に下落して引けは139円近辺。ユーロドル相場は1.04台で引け。ドルインデックスは週初の107ポイント台後半から106ポイント割れに下落。米国株は利上げペースダウン期待が支えとなり堅調。日経平均も28,000円台に乗せて強含みで推移した。
月曜日の東京市場では日経平均が小幅高。今週は休日が多く翌週以降の材料を前に手控えられ売買は低調。中国の感染拡大も重石となった。引けは前週末比+45円高の27,944円。
為替市場ではドルが買い戻された。ドル円相場は140円30銭で始まり20銭~40銭でもみ合い。午後に入るとドル高円安が急速に進んだ。
夕刻には141円90銭に達し、60銭~80銭で上下したあと142円ちょうどに上昇。ユーロドル相場は1.0330で始まり朝から一貫してユーロ安ドル高が進んだ。
夕刻には1.0230~40で推移。ユーロ円相場は144円90銭で始まりユーロ安ドル高の勢いに押されて144円30銭に下落。ただ夕刻から欧州市場にかけてはユーロ高円安に転じ145円40銭に上昇した。
円が総じて軟調。米国市場朝方には一時円が買い戻され、ドル円相場は141円90銭に、ユーロ円相場は144円90銭に下落した。ただすぐに円安に転じてドル円相場は142円20銭をつけ10銭近辺でもみ合い引け。
ユーロ円相場は145円50銭~60銭。ユーロドル相場は1.0240~60で上下し1.0220台に下落したあと反発し1.0240近辺で引け。ドルインデックスは107.84ドルに上昇した。
米国株は下落。中国の感染拡大、一部主要都市でのロックダウンが重石。NYダウは前週末比▲45ドル安の33,700ドル。ナスダックは▲121ドル安の11,024ドル。
原油価格WTI先物は中国感染拡大に加えOPEC増産との報に一時75ドル台に急落。ただサウジアラビアが否定したことで79.73ドルに戻して引け。シカゴ連銀全米活動指数(10月)は前月0.10から▲0.05に悪化した。
火曜日の東京市場では日経平均は続伸。ドル高円安が進んだことで輸出関連銘柄が堅調。先物主導で買いが入った。引けは前日比+170円高の28,115円。
ドル円相場は142円10銭で始まり上値の重さから失速し141円70銭に下落。その後142円ちょうどに反発したが欧州市場にかけて141円10銭に下落した。
ユーロは底固く推移し欧州市場に入ると強めの指標で上昇したが、ECB当局者発言による利上げ幅縮小観測で反落。ユーロドル相場は1.0240で始まり1.02台後半で上下し1.0290に上昇したが押し戻され1.0260~80で上下動。
ユーロ円相場は145円50銭~60銭でもみ合いのあと30銭台に下落。夕刻には60銭に戻したが欧州時間に大きく下げて144円90銭。
米国市場では米長期金利が低下しドルが軟調。リッチモンド連銀製造業指数(11月)が前月▲10から▲6への回復予想に届かず▲9に留まった。
米10年債利回りは3.758%へ、2年債は4.523%へ低下した。ドル円相場は141円台前半で上下し引けは141円20銭。ユーロドル相場は上下しながら上昇し1.03ちょうど近辺。ユーロ円相場はじり高となり145円50銭。
米国株は長期金利低下や良好な一部小売決算業績見通しが支えとなり堅調。NYダウは前日比+397ドル高の34,098ドル。ナスダックは+149ドル高の11,174ドル。
水曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間のドル円相場は141円20銭で始まり一時141円を割ったが概ね141円台前半で推移。
欧州市場にかけては141円20銭~60銭で上下動。ユーロドル相場は底固い値動き。1.03ちょうど近辺で始まり夕刻1.0350に上昇したが1.03ちょうどに押し戻され1.03台前半でもみ合い。
ユーロ円相場は145円50銭で始まり夕刻には146円10銭に上昇したがその後は145円50銭に反落した。
発表された欧州のPMI景況感指数(11月)は予想より強め。ユーロ圏製造業は前月46.4から47.3に予想を上回って改善。サービス業は48.6で変わらず。インフレ高進が重石となった。
米国市場に入るとドルが全面安。弱い経済指標に加えFOMC議事要旨で利上げペース減速が確実視され長期金利が低下。ドルを押し下げた。
週次の失業保険新規申請件数は前週222千件から240千件に増加。継続受給者数は1,507千件から1,551千件に。
ミシガン大学消費者信頼感指数(11月確報)は速報54.7から56.8に上方修正されたがインフレ期待(1年)が速報5.1%から4.9%へ予想外に下方修正された。
PMI景況感指数(11月)は製造業が前月50.4から47.6へ予想外の大幅悪化で景況感の分かれ目である50割れ。サービス業は47.8から46.7へさらに悪化。総合指数は48.2から46.3へ予想外に大きく悪化した。
ドル円相場は急落して140円を割り込み139円60銭に下落。ユーロドル相場は1.0360~80へ。さらに公表された11月のFOMC議事要旨では、高インフレの収束には懐疑的な意見が多数となったが、大多数の参加者が近いうちに利上げペースを減速することが適切になる可能性が高い、とした。
これまでの累積的な金融引き締めの効果をみて到達水準を探る局面に入ったことが明らかになった。米10年債利回りは3.709%、2年債は4.49%に低下。
ドル円相場は一時139円20銭をつけ引けは40銭~50銭。ユーロドル相場は1.04ちょうど近辺。ドルインデックスは106.09に急落した。ユーロ円相場はドル安円高に押されて144円60銭に下落したが引けは反発して145円ちょうど近辺。
米国株はFOMC議事要旨を好感して上昇。NYダウは前日比+95ドル高の34,194ドル。ナスダックは+110ドル高の11,285ドル。
木曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。米利上げペース減速見通しが支えとなった。ただ高値では利益確定売りもあり上昇幅は抑制された。引けは火曜日対比+267円高の28,383円。
ドル円相場は139円40銭~50銭で始まり60銭に上昇したものの早々に反落して139円割れ。138円60銭近辺へ。夕刻から欧州市場にかけては上下しながら139円20銭を回復した。
ユーロ円相場は145円ちょうどで始まり20銭に上昇したあとは反落して144円60銭~145円ちょうどで緩やかに上下。その後欧州市場に入ると143円60銭台に下落した。
ユーロドル相場は1.04ちょうど近辺で始まり1.0450に上昇したあと反落。欧州市場では1.0380へ下落した。
ドル円相場も138円10銭へ大きく下落。その後は138円10銭~40銭で上下しNY引けにかけてはしっかり。138円60銭で取引を終えた。ユーロ円相場はNY引けにかけてじり高。引けは144円30銭。ユーロドル相場は1.0430に反発したあと引けは1.0410近辺。
米国株式市場は休場。米債利回りはやや低下して10年債は3.689%、2年債は4.473%。
金曜日の東京市場では日経平均が小幅反落。中国懸念で利益確定売りが優勢。感謝祭で様子見姿勢が強かった。引けは前日比▲100円安の28,283円。
ドル円相場は138円60銭で始まり10時仲値近辺では139円に上昇。その後は138円40銭に反落したものの欧州市場では米長期金利が上昇でドル買い戻しが進み米国市場朝方には139円60銭。
ユーロドル相場は1.0410で始まり10~30でもみ合い推移。欧州から米国朝方にかけ1.0360へ下落した。
ユーロ円相場は144円30銭で始まり30銭~70銭で上下。欧州市場にかけて145円10銭台に上昇、円安に振れた。ただその後は144円40銭に反落。米国市場ではドルが反落。
米10年債利回りは3.746%へ上昇していたが低下に転じて3.691%へ。
ドル円相場は139円ちょうど近辺に下落し引けは139円10銭近辺。ユーロドル相場は1.0400~10へユーロ高ドル安となり引け。ユーロ円相場は144円台後半で上下し引けは144円80銭近辺。
米国市場は短縮取引。米国株は引き続き利上げペースダウン期待が支え。景気敏感株と消費関連株がしっかり。一方ハイテク株は下落。NYダウは前日比+152ドル高の34,347ドル、ナスダックは▲58ドル安の11,226ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
今週は重要な指標が相次ぐ。景気悪化、インフレ鎮静化の流れがさらに確認されるか。
月曜日 ダラス連銀製造業景気指数(11月)
火曜日 ケースシラー住宅価格指数(9月、前年同月比、予想+10.5%、前月+13.1%)、消費者信頼感指数(11月、予想100.0、前月102.5)
水曜日 ADP雇用報告(11月、前月比雇用者数増減、予想+200千人、前月+239千人) JOLT求職者数(10月、予想10,300千人、前月10,717千人) GDP(7-9月期改定値) シカゴ購買部協会景気指数(11月、予想47.0、前月45.2)
木曜日 個人所得・消費支出(10月、前月比、予想+0.4%・+0.8%、前月+0.4%・+0.6%) 消費支出物価指数(同、コア、前年同月比、予想+5.0%、前月+5.1%) ISM製造業景気指数(11月、予想49.8、前月50.2)
金曜日 雇用統計(11月、非農業部門雇用者数前月比、予想+200千人、前月+261千人、失業率3.7%で前月と不変予想、平均時給、前年同月比、予想+4.6%、前月+4.7% )
2.ベージュブック(地区連銀経済報告)
水曜日(日本時間木曜日未明)にベージュブックが公表される。12月のFOMCでの景気物価動向判断の基礎となる報告。さらなる景気悪化、消費が依然として底固いか、雇用情勢に変調がみられるか、あるいはインフレ鎮静化が進んでいるか、などの判断がどうなされているか。
経済指標のみならず、総合的に各地区連銀がどのようにみているか、気になるところ。12月会合での利上げ幅縮小を確定づける証左となるか。ドル金利先高感、長期金利の反応はどうか。
3.パウエル議長講演、FRB当局者発言
FOMCを前にFRB当局者の発言機会が注目される。11月のFOMCでは声明文に変化がみられ、これまでの急ピッチでの利上げの累積的効果を考慮、その効果が顕在化するまでのタイムラグを考える必要があるとしていた。
その後はタカ派発言が相次いだが、FRBの総意が利上げ慎重あるいはタカ派継続、どちらに傾いているか。
パウエル議長は水曜日に講演。ほか、月曜日にNY連銀総裁、セントルイス連銀総裁が、水曜日にはブラウン理事、クック理事が、木曜日にはバー副議長、金曜日にはシカゴ連銀総裁が発言する。
◆今週のMRA's Eye
景気悪化・物価鎮静化を示す指標に留意
先週は米国のPMI景況感指数(11月)製造業が47.6と景況感の分かれ目である50を大きく割り込んだ。この間、悪化傾向を続けていたがついに50割れ。サービス業の景況感はひと足早く50を割って悪化していたが、さらに悪化度合いが深まった。
今週はISM製造業景気指数(11月)の発表を控えているが、こちらもついに50を割るとの予想が大勢だ。景気悪化トレンドは夏以降続いている。
景気の波、トレンドは短期間で変化せず、景気刺激的な材料が特段なければ悪化し続ける。むしろ景気悪化・需要抑制によりインフレを抑制しようとしているFRBの目論見通り。問題は「薬が効きすぎる」ことだろう。
インフレ率は緩やかに低下基調にある。景気悪化見通し、とくに中国景気の先行き懸念から資源価格は全般的に調整。海運市況をみても、コンテナ船やバラ積み船のフレートは大きく調整している。
コロナ禍が一服したことで物流の混乱が解消したことに加え、需要減退が反映され始めたとみられる。
米国のクリスマス商戦に向けた仕入は一服。またその仕入も在庫が早々に積み上がったことで低調といわれる。消費者物価は家賃の上昇率がなお高止まり、タイムラグをもって続いているため反応は鈍いが、それを除けば低下は明らかとなってきた。
当局は目標を2%としているため、なお足元のインフレ水準は高すぎるとしている。しかし引き締め効果が出始めたと感じているとみられる。
そのため、金融政策の効果のタイムラグを考慮しようというスタンスに舵切りしたのは頷ける。
今週は週末に雇用統計が発表される。雇用情勢はなお堅調とみられているものの、非農業部門雇用者数の増加ペースは鈍化してきた。11月は前月比200千人増が予想されているが、長期的に見た平均的水準まで低下することになる。
失業率はなお平均的水準より低いが、すでに低下は止まり、やや上昇しつつある。平均時給の上昇率は前年同月比4.6%となお高いが、こちらも上昇率はピークアウトしてきた。
このところいわゆるGAFAでも大規模な人員削減が実施されている。企業全般には人手不足感がなお強いといわれるものの、景況感の悪化が採用に慎重となる可能性はある。景気の遅行指標である雇用情勢は緩和しつつあり、こちらもFRBがそろそろ様子見に傾く材料となる。
とくに、雇用関連指標が予想外に悪い数字となった場合の市場の反応が大きくなりやすい点には留意を要する。
すでに12月の利上げは0.50%に利上げ幅が縮小すると見込まれているが、問題はその後。利上げ幅のさらなる縮小や利上げ打ち止めを織り込みにいく可能性がある。
景気悪化、インフレ率低下、雇用緩和、のトレンドはなお続く。そのトレンドのなかで、個々の指標が予想より強いか弱いか、が瞬間的には材料とされやすい。ただトレンドを転換する材料・要因はなく、リスクはトレンドが強まるサイドに傾いている。
個別の指標についてもダウンサイドリスク、ドル金利先高感の緩和、ドル先高感のさらなる緩和、ドル安方向への調整、に引き続き留意する必要はあろう。
市場の関心事は物価から景気にシフトしつつある。FRBが金融引き締め効果のタイムラグを考慮し始めたことがさらにその傾向を強めるだろう。これまではインフレ関連指標をみて積極的な金融引き締めの継続・緩和を占っていた。
しかし今後はPMI景気指数やISM景気指数など企業サイドの景況感の悪化がどこまで深まるか、鉱工業生産や小売売上高など実数値がどこまで悪化するか、企業業績がどの程度悪化するか、に注目が集まろう。
また消費者信頼感にどの程度の悪化がみられるか。実数値である個人所得・消費動向が弱まることはないか。その背景にある雇用情勢にも緩みが明確になるのか。物価動向よりもこれらの重要性が増し、市場の関心も高まろう。
米長期金利は長い期間から低下し始めた。2年債利回りはなお利上げが続くことから高止まりしやすく4.5%近辺にあるが、10年債利回りは3.7%近辺に低下した。
逆イールドは強まり景気後退リスクを示している。利上げのピークが5.00%~5.25%と見込まれるなか2年債利回りの水準はその先の利下げを織り込んでいる。
ドル金利先高感の低下はドル先高感の低下となり、ドルインデックスは大きく調整した。9月下旬のピークには115に迫っていた。しかしその後、110~114での上下動を経て、11月初から下落が明確となり先週末には106を割り込んだ。
ドル高がピークアウトしたことは明確に。ドル円相場をみても、年初来のドル高円安トレンドの下値支持線を割り込んだ。
テクニカルにみてドル高円安は終了と判断され、良くて横ばい、あるいはドル安円高にトレンド転換と判断される。今後は材料と値動き両面から、リスクバイアスはドル安円高サイドとみておく必要がある。
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