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「優しい金融政策」に支えられたリスク選好
  • MRA外国為替レポート

2019年2月18日号

◆先週の市場総括


先週は警戒すべき材料があるなかリスク選好がなお維持された。米中通商交渉に関しては前週末に首脳会議延期との報道があったが、週初に再び3月中に開催と報じられ、また閣僚級協議が行われるなるなか、再び期待感が高まった。

また米国内ではつなぎ予算の期限が迫るなか与野党が新たな予算案に合意したことで、政府機関閉鎖が回避される見通しとなった。

経済指標には弱い数字もみられたが、FRBの慎重な姿勢がリスク選好の支えとなった。米国株は週を通じて堅調。リスク選好が強まるなか円は全般に軟調。ドル円相場は110円ちょうど近辺で始まり週央には一時111円台にのせた。

ただ米長期金利が上昇しきれず週初の水準に押し戻されるなか上値も重く、110円40銭台に反落して週末の取引を終えた。日経平均は堅調な米国株、ドル高円安に支えられて21,000円台を回復した。

月曜日の東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は109円80銭で始まり底固い値動きで110円ちょうど近辺に上昇してもみ合い。旧正月明けの中国株は堅調に推移した。

週末にかけて開催される米中通商交渉、閣僚協議への期待が維持された。3月1日の交渉期限前に電話で首脳会談を実施する、あるいは3月中に米国で首脳会談を行うとの報道があらためて期待を高めた

ドルは全般にしっかり。ユーロドル相場は1.1320~30から欧米市場にかけて1.13割れ、1.1270までユーロ安ドル高が進んだ。そうしたなか欧州株は堅調。

ドル円相場は110円25銭まで上昇。その後は110円10銭に下落したものの、110円40銭中心に上下して引けた。米国株はまちまち。米長期金利は小幅反発。10年債利回りは2.66%。

火曜日の東京市場のドル円相場は110円40銭で始まり60銭台に上昇してその後は110円60銭中心に上下。ユーロドル相場は1.1280近辺で小動き。ユーロ円相場は124円50銭から80銭に上昇。

日経平均は20,450円近辺で寄り付いた後、20,800円台に上昇。後場は20,800円台後半でもみ合い引けた。中国株は続伸。リスク選好が強まるなか全般的に円が軟調な展開となった。

海外市場に入ると欧州通貨が反発。イギリスの離脱協定をめぐり英国外相が離脱協定で3月29日までの合意は可能と発言。ポンド、ユーロ、に買戻しが入った。ユーロは対ドルで1.1340へと反発。ユーロ円相場は124円60銭近辺から125円20銭台に上昇。

また米国では与野党が新たな予算案で合意。政府機関閉鎖回避の可能性が高まった。米国株は大幅高。米10年債利回りはさらに小幅上昇して2.68%。

ドル円相場はユーロ高ドル安に押され一時110円40銭を割ったが、リスク選好が強まるなか底固く110円50銭近辺でもみ合い引けた。

水曜日の東京市場のドル円相場は110円50銭で始まりじり高。110円70銭に上昇して海外市場にかけてもみ合い。ユーロ円相場も125円20銭から50銭に上昇した。引き続きリスク選好が高まるなか円が全面的に軟調。

日経平均は21,000円台で高寄りし続伸して21,200円に上昇。後場は21,100円~200円でもみ合い引けた。欧米市場ではユーロが反落しドルが上昇。

発表された米消費者物価指数(1月)は前年同月比+1.6%と予想+1.5%より強め、エネルギーと食料品を除くコア指数でも前年同月比+2.2%と予想よりもややしっかりした数字。

トランプ大統領が米中通商交渉の期限延長に言及、また政府機関の閉鎖を回避する意向を示した。米国株は上昇。米長期金利も小幅ながらさらに上昇し、10年債利回りは2.70%、2年債利回りは2.54%。

ドル円相場はじり高となり111円ちょうど。ユーロドル相場は1.1250へとユーロ安ドル高が進んだ。ユーロ円相場はユーロが全般に反落するなかじり安となり125円ちょうど近辺に下落した。

木曜日の東京市場のドル円相場は夕刻まで111円近辺で方向感なくもみ合い、横ばい。ユーロは対ドル、対円で小幅反発して1.1280、125円30銭。

日経平均も21,100円~21,200円でもみ合いに終始した。日本のGDP(10-12月期)が発表となり前期比年率+1.4%。内需はまずまずだったが外需が予想より弱かった。

中国の貿易収支(1月)は輸出が予想よりも強く前年同月比マイナス予想に対してプラス、輸入のマイナス幅も予想よりは小さかった。

数字に対する市場の反応は鈍い。海外市場に入るとドルは下落。発表された米小売売上高(12月)が前月比▲1.2%。年末商戦は好調と伝えられていたものの予想外に弱い数字。

米国株は一時大きくマイナスに振れた。ただその後FRBブレイナード理事が、保有資産の縮小(市場からの資金吸収)は年内に停止すべき、と発言したことを好感して株価は持ち直した。米長期金利は低下。2年債利回りは2.50%、10年債利回りは2.66%。

ドル円相場は110円50銭に下落。ユーロドル相場は1.13台へとユーロ高ドル安が進んだ。米中協議を巡っては、閣僚級協議の進展を前提に交渉期限の60日間延長を検討、と報じられ、引き続き期待感が維持された。

金曜日の東京市場ではやや円高に振れた。ドル円相場は110円50銭で始まり、その後はやや軟化して110円30銭~40銭で上下。ユーロ円相場も124円80銭で始まり、同様に124円30銭~60銭で上下した。

日経平均は21,000円近辺で安寄りした後、20,900円中心に上下。引けは20,900円近辺。海外市場では米国株が大幅高。引き続き米中通商交渉の進展期待、政府機関閉鎖回避による安心感が支え。

NY連銀製造業指数(2月)は8.8と予想6.0、前月3.9を上回った。またミシガン大学消費者信頼感指数(2月)も95.5と予想93.3、前月91.2より強かった。

一方、1月の鉱工業生産、小売売上高は弱めだったが、2月以降に関心が移りネガティブな反応はなかった。米長期金利は上昇したものの小幅。10年債利回りは2.66%。

ドル円相場は110円50銭を中心に上下動して引けは110円40銭台。ユーロドル相場は1.1240へユーロ安ドル高が進んだが1.13に持ち直し。ユーロ円相場は124円30銭から124円80銭に上昇。リスク選好が強まるなか、円は軟調、一方でドルも軟調となり、ドル以外の通貨に対して円安気味の推移となった。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC議事録

水曜日にFOMC議事録(1月29日・30日開催分)が公表される。この会合では市場の想定以上のハト派スタンスが明らかになった。利上げの当面の見送り、小休止を明確に示唆し、またバランスシートの縮小(市場からの資金吸収)についても、現在のペースをいずれかのタイミングで鈍化、ないし停止する可能性を示した。

米国経済は良好としつつも内外で不確実性が増しリスクが高まっているとの認識が背景。議事録でそれらの議論の詳細が明らかになる。総じて慎重なスタンスによってあらためて市場に安心感を与えリスク選好を支えるか。

2.米国の経済指標

米国の経済指標には強弱双方散見される。12月さらに1月については政府機関閉鎖の影響があるとされて弱い数字はやや軽視されているが実態はどうか。

足の速い景況感指数の2月分の発表が始まるが堅調な景気動向を示すか。

木曜日に耐久財受注(12月)、中古住宅販売(1月)、景気先行指数(同)、フィラデルフィア連銀製造業指数(2月)、PMI景況感指数(同)、が発表される。

3.欧州の経済指標

このところ欧州経済への懸念が強まっている。弱い数字が欧州通貨の弱さを招き、反面でドルを支えるか。あるいはリスク選好に水を差し、あるいは長期金利の低下を招いて円安にブレーキをかけるか。

火曜日 ドイツZEW景況感指数(2月)水曜日 ユーロ圏消費者信頼感指数(同)木曜日 ユーロ圏・独仏PMI景況感指数(同)金曜日 ユーロ圏消費者物価指数(1月)、ドイツIFO景況感指数(2月)

また木曜日にはECB理事会議事要旨(1月23日、24日開催分)が公表される。どの程度、ダウンサイドリスクへの警戒感が強まり、ハト派に傾いているか。

◆今週のMRA's Eye


「優しい金融政策」に支えられたリスク選好

先週もリスク選好の回復が続いた。米国株は年初からの上昇基調が継続し、戻り高値を更新している。一方で米国の長期金利10年債利回りは2.6%~2.7%で低迷している。

リスク選好には2つの局面がある。ひとつは景気あるいは企業業績が良好で、いわば「業績相場」で株価が上昇し、明るい展望からリスク選好が高まるケース。この場合は株高・金利上昇となる。

もうひとつは景気や企業業績に不安感がありながらも、とくに金融政策の下支えで安心感がもたらされてリスク選好が維持されるケース。

この場合、株価は「金融相場」で上昇し、一方で金利先高感が抑制されているため長期金利は上昇しない。あるいは長期金利の低迷が株価を支えるかたちとなる。

足元の状況は後者だ。景気先行きに不透明感がありながらも、金融政策ないし先行きのガイダンスに対する安心感からリスク選好が回復している。

もちろん、米中通商交渉への期待感が維持されていること、米国の政府機関閉鎖が回避されたことも、不安感解消の基礎にある。ただ世界全体を見回した場合、金融政策が緩和サイドに傾いていることは大きい。

米国FRBは利上げを一時休止し、またバランスシートの縮小の停止を視野に入れている。利上げにより政策金利は中立金利に近づき、またインフレ率をいよいよ上回って、金融正常化というよりも緩やかな引き締めへと移行してきたが、早々に様子見となることは市場にとって大きな安心材料だろう。

欧州でも景気見通しの悪化によってECBは利上げを先送りするとみられる。以前は今年の秋にも利上げとみられていたが、来年に先延ばし、あるいはむしろ量的緩和・長期資金供給の再開を検討との報道もある。

中国についても景気てこ入れ策として人民銀行が資金供給を実施。金融政策は景気浮揚、緩和サイドに傾いている。そうしたなか日銀は、今秋の消費税率引き上げもあり、金融正常化、金利先高感が高まるような政策はとれないだろう。

日米欧そして中国と、世界経済の主要なエリアで金融政策は引き締めの停止、金融正常化の停止、緩和に傾いていることで、リスク選好には追い風が吹いている。

ただ景気減速見通しのなか、あるいは不透明感がなお解消されていないなか、手放しのリスク選好は難しい。

この状況は「適温相場」におけるリスク選好とは異なる。景気が巡航速度で拡大を続けるなか、インフレリスクが抑制されており、金融政策がやや引き締め気味、という状態は景気・業績主導のリスク選好だが、現状は異なる。

金融政策に頼るかたちのリスク選好は、景気減速懸念の後退、景気見通しの好転などが伴わなければ長続きせず、またリスク回避に反転するリスクを伴う。

年初来継続しているリスク選好が、年末年初にかけて極端なリスク回避に転じた反動の範囲内に終わるリスクもある。FRBが懸念する不透明感や景気減速懸念、外部環境の悪化が解消するのか、時間をかけて見極める必要がある。

そうしたなかで為替市場では足元では円が軟調に推移している。株価堅調が示すリスク選好の回復が主要因だ。

ただグローバルな金融政策の柔軟化、緩和サイドへの傾き、とくにFRBの利上げ停止や資金吸収の停止観測、に支えらえている面が大きい。

ドル金利先高感は当面強まらず、ドルにとっては上値の重石になる。欧州景気の悪化懸念や欧州金利の先高感後退、欧州通貨の下落が、相対的にドル高をもたらす面があるが、その場合のドル高円安の勢いはまた弱いとみられる。

110円台に乗せてきたドル円相場だが、なお111円台、112円台と上昇するには、金融相場的なリスク選好では役不足。不安定なドル高円安状態が続きそうだ。

一方で、現状のリスク選好回復基調が続くなかでは、109円台では底固い値動きとなりそうだ。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :110.47(▲0.01)
ユーロ :124.78(▲0.03)
英ポンド :142.409(+0.97)
豪ドル :78.895(+0.39)
カナダドル :83.43(+0.33)
スイスフラン :109.877(▲0.07)
ブラジルレアル :29.8357(+0.17)
中国人民元 :16.314(▲0.04)
韓国ウォン(日本円=100) :9.812(+0.01)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1296(+0.000)
英ポンド :1.2889(+0.009)
豪ドル :0.7141(+0.004)
カナダドル :1.3244(▲0.005)
スイスフラン :1.0052(+0.000)
ブラジルレアル :3.7015(▲0.018)
中国人民元 :6.7731(+0.001)
韓国ウォン :1128.7(+3.45)

【主要国政策金利】
米国 :2.50
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :2.66(+0.01)
米2年債 :2.51(+0.02)
日本10年債利回り :▲0.02(▲0.01)
日本2年債利回り :▲0.02(+0.00)
独10年債利回り :0.10(▲0.00)
独2年債利回り :▲0.56(▲0.00)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,883.25(+443.86)
NASDAQ  :7,472.41(+45.46)
S&P500 :2,775.60(+29.87)
日経平均株価 :20,900.63(▲239.08)
ドイツ DAX :11,299.80(+210.01)
インド センセックス :35,808.95(▲67.27)
中国上海総合 :2,682.39(▲37.32)
ブラジル ボベスパ :97,525.91(▲489.18)
英国FT250 :18,987.23(+89.03)
ビットコイン :3564.79(▲5.23)

【主要商品価格】
WTI :55.59(+1.18)
Brent :66.25(+1.68)
米ガソリン :157.29(+6.44)
米灯油 :202.03(+4.87)

金 :1322.49(+9.92)
銀 :15.79(+0.17)
プラチナ :807.80(+19.91)
パラジウム :1433.59(+15.03)
銅 :6183.50(+5:6.5B)
アルミニウム :1863.00(+12:34.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セト
ル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :907.50(+4.00)
シカゴ とうもろこし :374.75(±0.0)
シカゴ小麦 :504.25(▲2.75)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。

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