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中国不動産業テコ入れ策で工業金属高い
  • MRA商品市場レポート

2022年11月15日 第2326号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中国不動産業テコ入れ策で工業金属高い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はまちまち。ドル高修正の動きが続く中でファイナンシャルな面での買い圧力が強まっていたが、CPIショック以降の買い圧力が強すぎたこともあり調整で売られる商品も多かった。

昨日、セクター的に最も上昇したのは非鉄金属セクターで、次いでエネルギー、家畜・農産品となり、貴金属や穀物セクターなどは下落している。

非鉄金属価格の上昇は中国の不動産業テコ入れ策の影響が大きいが(詳しくは有料レポートの「昨日のトピックス」をご参照ください)、11月末を意識した投機筋の買い戻しが入ったためと考えられる。

最も上昇したのは欧州天然ガス。予報に反して温暖な状況だった北半球だが、遅まきながら冬が本番に突入したことに伴う価格上昇と考えられる。

【本日の見通し】

本日は、ここまで商品価格を押し上げてきたCPIショックの影響がそろそろ一巡したとみられることから、一旦調整売りに押される展開を予想する。

なお、長期的な観点では早期の利上げ打ち止め、と仮になった場合引締めが充分ではなく、再び長期インフレに突入する可能性があり、エネルギーや工業金属価格の上昇要因となる。

また、引締め過ぎも供給能力の改善を阻害するため、こちらもインフレを強める可能性がある。アラン・グリーンスパン以降の米金融緩和・量的緩和がやり過ぎだった、ということだろう。

特に、米企業債務のGDP比はコロナショック後に58%に達し、その後低下して49.8%となっているが、この水準が非常に高く、米企業の債務負担が軽くないことは事実である。

本日の注目は米PPI、ニューヨーク連銀製造業指数、一連の中国重要統計。

10月米PPI 前月比+0.4%(前月+0.4%)、前年比+8.3%(+8.5%) コア +0.3%(+0.3%)、+7.2%(+7.2%)

11月ニューヨーク連銀製造業指数 ▲6.0(▲9.1)

【昨日のトピックス】

昨日、米中首脳会談が行われ、対話継続が確認された。インフレに苦しむ米国と、逆に日本の失われた30年に近いデフレに突入する懸念が出ている中国からすれば、ここで無用な軍事衝突オプションは回避したい、と考えて当然であり、想定内の反応であったといえる。

民主党が中間選挙で善戦、場合によると下院も共和党と互角になる可能性があり、より中国に対して強硬姿勢を取ると考えられる共和党の発言力がさほど高まらないことは中国にとっては朗報だろう。

良くも悪くもバイデン政権は真っ当な政策を採択するため、闘う相手からすればどのような手を打ってくるかが想定できるため、相対的に御しやすい。

しかし、米国が自国の安全保障に直結する半導体などの先端分野で中国に妥協することは考え難く、同国に対するハイテク製品の供給規制は同盟国内で歩調を揃えつつ継続するとみられる。

時を同じくして中国は16項目に及ぶ不動産業者の支援策を発表した。項目は多岐にわたるが、今まで目詰まりを起こしていた不動産業者の資金繰り悪化→工事遅延→ローン支払い拒否→資金繰り悪化...のデフレスパイラルが解消することが目的である。

ただし、公共投資などの実弾を伴うものではなく、資金繰り対策であり、不動産の供給過剰が発生、不動産会社の経営が悪化しているそもそもの問題の解決にはならず、これらの問題を解決させるための手掛かり、と整理する方が妥当であり、効果は一時的とみている。

即ち、調整が必須の不動産セクターのハードランディングを回避するためのものであり、長期的に不動産セクターが回復して経済の牽引役になる、というシナリオは描き難い、ということだ。

しかし、資金繰りに窮して株価や債券価格が急落していた中国の不動産会社株や債券の良い買い材料になったのは事実だろう。

足下の非鉄金属価格の上昇は、どちらかと言えば11月末のファンド決算が意識される中での米金融引き締めペースの鈍化期待の影響の方が大きいと考えられる。

このコラムで指摘していた様に、今年の7月以降の「インフレトレードは終了」として積み上がった新規のショートポジションが巻き戻され、「米国の金融引き締めの早期打ち止め観測を背景に、「再び長期のインフレポジション」が取られ始めた可能性がある。

これは弊社が想定していた来年後半よりもかなり早い。しかし景気の減速は変わらないため長期のインフレポジション取得はやはり来年後半になると考えている。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。CPIショックで急騰していたが、FRBウォーラー理事の利上げ継続発言でドル高が進行、水準を切り下げた。ただしこの下落で50日移動平均線のサポートラインは割り込まずに引けている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし、直近11月の米石油統計では米国の増産が始まっており、早晩、2.に移行すると予想される。

ただ、そろそろロシア産原油の輸入制限が始まる見通しであり、主要なマーカー原油価格には上昇圧力が掛ることが予想される。しかし、景気減速に伴う価格下落を限定する下支え効果、と整理するべきだろう。

ロシア産原油の禁輸に伴うタンカーの不足や航路変更の影響で、FOBとCIF価格の乖離(日本の場合JCCとドバイのスプレッド)が広がる可能性がある。

また、中国が極左の政権になったことから台湾有事のリスクは高まり、中東から日本への航路も旅程が長くなり、コスト増となってFOBとCIFの乖離を拡大する可能性が出てくるため(JCCとドバイ・オマーン、Brentなどとの乖離幅拡大)、今後の中国・台湾情勢はより注意が必要であり、ビジネスリスク・市場リスクを回避する意味で、米国などの同盟国からの調達を増加させる必要が出てくると考えられる。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる見込み。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、脱炭素も、ということになれば供給面の制限は続くため、原油価格は高止まりする可能性が高いと考える。

足下の脱炭素のための化石燃料採掘制限は、「今を生きる人々」の生活にマイナスに作用していると言わざるを得ない。100年後よりも今である。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日も金融政策動向に立ち返る動きの中、米国の金融引き締め継続に変わりはないことから軟調推移を予想。

ただし、FRB理事の発言や米PPIなどの政策動向に影響を及ぼすイベント・統計もあるため神経質な推移にならざるを得ない。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に上昇。欧州の気温低下予想が価格を押し上げることとなった。先週、米国市場で見られたように気温低下は貯蔵が困難なガス価格には顕著な上昇要因となる。

これまで想定よりも温暖な気候が価格を押し下げてきたが、気温低下が始まり、冬が本番を迎える中で上昇圧力がそろそろかかることになるのではないか。

ただし気温は「神のみぞ知る」ところであり、弊社のシミュレーションでも欧州のガス在庫の取り崩しで過去5年平均を下回る可能性があるのが年明け以降と予想される。

荷揚げ前のLNG船が多数滞留しており、弊社のシミュレーションでも▲15%の需要削減ができ、年明けまでは大きなトラブルがなければ、ガス在庫の水準が過去5年平均を割り込むことはないことを示唆しており、足下のスポット価格の下押し圧力となる。

なお、4月以降はラニーニャ現象収束が期待され、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想され、足下のガス調達への懸念は後退しているといえる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州最大のガス消費国であるドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光、石炭、原発)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

現在の欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は11月上旬から中旬、ナイジェリアは未定。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性はある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。

・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも高い水準でほぼ横這い。

10月31-11月6日のLNGトレードは、773万トン(前週677万トン)と増加、スポットLNGカーゴのシェアは17%(17%)と横這い。

スポットカーゴは北欧向けが減少(▲30万トン)したが、日中台韓向けの輸出が増加(+20万トン)したことが相殺した。

なお、洋上在庫は前週比で+7.7%増加しており高い水準を維持している。米国からのLNG船の滞留が多いが主に欧州向けと考えられ、当面、LNG調達への懸念は後退している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小幅に上昇。気温低下見通しが需要を増加させるとの見方が価格を押し上げているが、FreeportのLNGターミナル再稼働が12月にずれ込む可能性が出てきたことが上値を抑えている。

ガスHDDを見ると気温低下による需要増加が見込まれているが、さらに先行きでは気温上昇が見込まれている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が変わらず、期先はパラレルに大きく上昇した。欧州の冬場の気温低下が始まったこと、アジア地区でも気温低下見通しとなっていること、米国からのLNG輸出再開の遅れ、などが材料になっている。

このコラムでも指摘しているように、気温次第で水準は簡単に変わってしまう。

10月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲18.9%の761万トン(前月▲4.4%の1,015万トン)と前年比での増加幅を急速に減少させた。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

9月のLNG輸入は前年比▲12.6%の590万トン(前月▲29.0%の472万トン)と前年比のマイナス幅が縮小、冬場に向けた調達が増加している。

9月のパイプラインベースの輸入は前年比+9.7%の425万トン(+9.0%の413万トン)と輸入の伸びが増加している。

中国国内の天然ガス生産は9月は+4.1%の164億立方メートル(前月+7.0%の169億8,000万立方メートル)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

天然ガス輸入量の減少を見ると、1.石炭輸入・生産が高水準であり電力向けのガス需要がさほど旺盛ではない、2.中国国内の天然ガス生産の増加、3.中国景気の減速、のいずれかないしは複合要因と考えられるが、貿易統計全体の数値の減速(交易量の減速)を考えると、3.の可能性が高いと考える。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

10月30日時点の日本の発電用LNG在庫は252万トン(前年同月末216万トン、2017~2021年平均243万8,000トン)と増加、過去5年平均を上回っており在庫は潤沢。

日本も欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため調達に問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は、北半球の気温低下が始まったことから上昇余地を探る動きになると考えるが、足下の供給は潤沢であるため、上昇余地は限られよう。

また、▲15%~▲20%の需要削減ができなければ、来年の春のガス在庫の水準は例年を下回ることが予想され、2023年のガス調達はより厳しい状態になるリスクがある。引き続き、冬場の気温次第。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは期近が上昇、期先が下落した。北半球の気温低下が始まったことを受け、これまでの価格調整による割安感からの買いが入った。

日中台韓印欧の石炭輸入は過去5年レンジの最低水準であり、輸出もやや低迷している。冬場に備えた在庫積増しが一巡したことを示唆している。

ロシアの体制が変わり、より穏健で、西側諸国が付き合うに足る国にならない限り、ロシア炭が市場の需給を緩和する方向には働き難いが、足下、景気の減速や北半球の気温が事前予想よりも温暖であることが価格を下押ししている。

しかし、10月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+8.3%の2,918万トン(前月+0.5%の3,304万8,000トン)と高水準を維持し、過去5年レンジを上回っており、中国が「徐々に」海上輸送炭市場に復帰しつつある。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、冬場に備えた調達の再開、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

9月の中国の石炭生産は、前年比+15.7%の3億8,672万トン、1,289万トン/日(前月+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日)と大幅に増加、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが輸入が増加しており中国国内の需給がタイト化している可能性が出てきた。

もしくはロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は220~230ドルとなっている。この水準がさらに低下するには需要の減少か鉱山生産の増加が必要条件となる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても220~230ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は北半球の気温低下に伴う発電向けの需要回復が見込まれる中、ここまでの調整で割安感が出ているためヘッジの買いなどで上昇すると予想。

なお、ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了する3~4月以降はラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は株価との連動性が高いアルミと銅は下落したが、その他の金属は大幅な上昇となった。

米国の金融引き締めペースの鈍化観測に伴うドル安進行に加えて、中国政府が不動産セクターのてこ入れ策(資金繰り策)の強化方針を決定したことで、非鉄金属需要が増加する、との期待が高まったことが背景。

7月以降は「インフレ終了」を意識した新規の投機売りが積み上がっていたが、金融引き締め減速、中国不動産セクターテコ入れで、その買い戻しが入ったと考えられる。弊社が想定していたアップサイドのリスクシナリオ(米金融引締め鈍化、中国の何らかの経済対策)が、図らずも同時に顕在化した形。

しかし、冷静になって考えると、中国のゼロコロナは続いており、香港・マカオを除く全土の新規感染者数が7ヵ月振りに1万人を突破し、北京モーターショーが中止隣、重慶市などは事実上のロックダウンとなっている。

ここまで過剰に価格が上昇するのは、どちらかと言えば金融要因の影響が大きかったと考えるべきだろう。

なお、長期の構造的な需要増加による価格上昇は、来年後半からと考えており、今回の上昇は11月末のファンド決算を意識した買い戻しとみており、米国の金融引き締めが継続する見通しであることから、12月以降は調整圧力が強まるのではないか。

10月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲1.5%の40万4,414トン(前月+25.6%の50万9,954トン)と過去5年平均を割り込んだ。

一方、銅鉱石の輸入は前年比+3.8%の186万8,751トン(前月+7.7%の227万3,426トン)と過去5年の最高水準で推移している。

中国政府の経済対策期待や電力供給障害の解消、TCが高止まりしていることが鉱石輸入を高止まりさせているが、精錬銅輸入の減少は同国の需要が減速していることを示唆している。

9月の銅スクラップの輸入は前年比+24.2%の16万6,988トン(前月+19.1%の15万4,636トン)と前月からは前年比の伸びを加速させたが、過去5年平均は下回った状態。

銅地金の輸入の急減速、スクラップ輸入の低迷を見ると中国国内の需要の回復は緩慢と見られる。前月までは回復感が強かったが、やはりゼロコロナ政策堅持の方針が重石となっているようだ。

また、3期習近平政権はイデオロギー重視で経済通がおらず、経済以上に体制維持に力を注ぐと考えられ、台湾問題などの対応を優先する可能性が高いことから、2023年以降の銅需要は落ち込む可能性があり、需要・価格のリスクは下向きだ。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国政府が不動産会社に対する資金繰り支援強化を決定したことがプラスに作用するが、コロナ感染拡大に伴うロックダウンは継続する見通しであり、影響は中立。

2.については米CPIの低下で急速に金融引き締め観測が後退しているため、リスクテイク再開でプラス、3.はQT継続であり下向き。結局1~3を総合すると、短期的に非鉄金属価格は反転、上昇しやすい地合となった。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

本日はドル高の修正ペースが余りに早かったことから調整的にドル高が進行すると予想され、かつ、非鉄金属はドル安を材料に上昇していたことから、調整売りに押されると考える。

ただし、鉛とニッケルは200日、銅、亜鉛、アルミは100日移動平均線のレジスタンスを上回っており、水準感が変わったことは否定できず、下値も堅いとみる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

中国政府が不動産セクターのテコ入れ策を発表(主に資金繰り対策)したことで、今まで目詰まりを起こしていた不動産業者の資金繰り悪化→工事遅延→ローン支払い拒否→資金繰り悪化...のデフレスパイラルが解消するのでは、との期待が鉄鋼製品価格を押し上げ、原料価格も押し上げた。

ただしこれは資金繰り対策であり、不動産の供給過剰が発生、不動産会社の経営が悪化しているそもそもの問題の解決にはならず、これらの問題を解決させるための手掛かり、と整理する方が妥当であり、効果は一時的とみている。

また、北京モーターショーが中止になるなどゼロコロナ政策は継続しており、経済統計の悪化も続いている。結局「とても酷くなるリスク」が若干緩和した、と整理するのが妥当である。

実際、中国の不動産セクター低迷は続き、人口動態的に同国の成長ペースが鈍化する可能性は高い。

中国の不動産セクターの立ち直りには、政府主導による財政状況悪化企業の国有企業による吸収合併などを含む統廃合の推進と、経済対策の実施が不可欠だ。

しかし、中国の地方政府は税収の4割を土地の利用権の売却で賄っているため、不動産セクター状況に対策余力が左右される。

結果、不動産セクターの立ち直りには時間を要することになり、建材需要の減速は鉄鋼製品・鉄鋼原料価格の下押し要因となる。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では70ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

10月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲31.7%の77万2,270トン(前月▲29.3%の89万82トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高く、粗鋼生産の回復が輸入を阻害したと考える。

9月の中国粗鋼生産は前年比+17.9%の8,695万トン(前月+0.8%の8,387万トン)と回復し、過去5年平均を上回った。中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。

10月の鉄鋼製品の輸出は前年比+15.2%の518万4,380トン(前月+1.2%の498万トン)と前年ベースでの伸びが回復、過去5年平均を復帰した。人民元安が輸出を加速させているとみられる。

10月の鉄鉱石の輸入は前年比+3.7%の9,500万トン(前月+4.3%の9,971万トン)と前年比でプラスを維持、過去5年平均も維持した。

ロックダウン解除後も経済活動の回復は緩慢だが、人民元安の進行が輸出を促進したとみられる。

週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比+1730万トンの1億3,600万トン(過去5年平均 1億3,783万6,000トン)、在庫日数は27.9日(+0.4日、過去5年平均30.8日)。

鉄鋼製品在庫は▲38万3,000トンの1,018万9,000トン(過去5年平均1,027万9,000トン)、原料炭在庫は▲4万トンの62万トン(164万2,000トン)、在庫日数は▲0.4日の2.4日(過去5年平均 6.8日)。

鉄鉱石、原料炭とも在庫はタイトな状態が続いている。仮に中国がゼロコロナ政策を撤回するならば、調達圧力は高まることになろう。

本日は、短期的にでも中国の不動産セクターの不振が解消するとの期待が高まっていることから鉄鋼製品価格に上昇圧力が掛かりやすく、価格は上昇するとみる。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。実質金利は原油価格の下落や長期金利の上昇で上昇し、金の基準価格を押し下げたが、リスク・プレミアムの構成要素であるドルが下落したことが価格を押し上げた。

銀は金価格の上昇を受けて上昇、PGMは株価の調整を受けて水準を小幅に切下げている。

金の基準価格は▲27ドルの845ドル、リスク・プレミアムは+28ドルの927ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば270ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があるが、この場合、ETFの管理残高は半分減少することになる。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、各国の政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年の春頃には米国の利上げが打ち止めとなり、実質金利も低下して基準価格は切り上がると予想される。

一方、金融引き締めの打ち止めで信用リスクが低下するため、リスク・プレミアムは低下すると予想されることから、下落があっても1,200ドル程度が限界と考えている。

足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率そのものであり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,650ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

本日は、ドル指数の調整ペースが余りに早いことから反動でドルが上昇すると見ており、調整圧力が強まる展開を予想。

ただし夜間発表の米PPIが再びハト派的な内容になる可能性もあり、その場合は上昇へ。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシと大豆は原油の下落に押され、小麦はロシアからの輸出合意延長の不透明感から買いを急ぐ動きで上昇した。

10月の中国の大豆輸入は前年比▲19.1%の413万6,000トン(前月+12.2%の772万トン)と急減速、過去5年の最低水準を下回った。

現在、中国の輸入大豆の港湾在庫水準は592万6,950トンと、過去5年レンジの下限での推移となっている。

恐らく豚肉価格の上昇に伴う出荷増加のため、多数、豚が屠畜された可能性があり、そのために餌となる大豆(圧搾して大豆ミールを得る)の輸入需要が鈍化した可能性がある。

ただし、大連の大豆ミール先物価格は高止まりしており、中国の飼育頭数が高止まりしていることも、中国の飼料供給が必ずしも充分ではないことを示唆している。

今後は冬場のラニーニャ現象がアラビア半島・北アフリカ周辺に降雨をもたらしており、サバクトビバッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性がある。

なお、今のところバッタの大量発生は確認されていない。

本日はドル安が急速に進行した反動で一旦下落すると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・日本政府の財政規律の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(アジア危機ならぬ、日本危機のリスク)。

黒田総裁退任後の政策正常化は困難を極めることが予想され、YCCは物理的な限界を露呈しており、場合によると円暴落・国債暴落・株暴落、というつい先日英国が見舞われた危機と同様の危機が訪れる恐れは無視できず(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

2022年の中国党大会を経て、ゼロコロナ政策継続の可能性が高まったことからロックダウン発生の可能性は排除できず、中国景気がハードランディングするリスク(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「ニッケル価格は調整後上昇~2023年見通し」

ニッケル価格はその他の非鉄金属と同様、水準を切下げる展開が続いていたが、足下一旦下げ止まった感がある。

2023年のニッケル需給は+15万9,000トンの供給過剰(前年+6万8,000トンの供給過剰)と供給過剰幅を拡大の公算。

ニッケル生産が前年比+35万2,000トンの331万4,000トン(+35万6,000トンの296万2,000トン)と増加する一方、米金融引締めや循環的な景気減速で需要が前年比+26万1,000トンの315万6,000トン(+13万5,000トンの289万5,000トン)と生産の回復を下回るため。

ニッケル価格に対する説明力が高い要素を精査すると、銅やアルミなど、金融要因の影響が強くなっている非鉄金属と異なり、ニッケル需給の前年比変化の説明力は維持されている。

この分析では、2022年~2023年にかけて製錬ニッケル需給の供給過剰感は解消に向い、2023年は2022年比で価格が10%程度上昇することを示唆しているが、2023年は需給バランスは緩和感が強い展開が予想され、総じてニッケル価格は低い水準での推移になると予想される。

しかし2022年以降は需給バランスというよりは、ステンレス価格そのものとの価格連動性が高くなっており、足下は中国の不動産や工業活動の先行きへの影響が大きくなっている(価格に対する説明力は、需給ファンダメンタルズ面ではやはり需要面の影響が大きい)。

現物需給バランスの指標である現物プレミアムは、最も高騰していた米国でも急速に水準を切下げており、足下の需給が緩和方向にあることを示唆している。

では、その他の非鉄金属と同様、期待インフレ率動向から見たときのニッケル価格見通しはどうか。期待インフレ率の影響を免れない、ということは、これからも、米国の金融政策動向と原油価格動向を注視する必要があることを示唆している。

ニッケル価格は「青山集団ショック」時に急騰・急落しているが、トレンドをみるに米国の利上げが始まった2022年3月以降の下落が顕著で、その後、ロシアからのニッケル供給懸念などが価格を下支えしている、と整理する方が適切だろうか。

今後も米国の利上げはペースの見直しはあるかもしれないが、それでも来年春頃までは継続する見通しであり、少なくとも2023年春頃までは上値重い展開になると考えられる。

景気の減速感が強まる中、原油価格も調整を余儀なくされると見ているため、その点もニッケル価格にはマイナスに作用しよう。

ただし、青山集団問題以降、LMEでのニッケル取扱数量が激減しており、価格変動性が高まっているのは事実。景況感から価格は低迷しやすいが、乱高下する可能性が高い。

以上から、2023年のニッケル価格は、循環的な景気減速に各国の金融引締めの影響が重なり、米国の金融引締め打ち止めが見込まれる来年春頃までは低調な推移となるが夏頃に底入れ、循環的に年後半から上昇に転じると予想する。

2023年の平均価格は21,750ドル/トン(10月予想比+688ドル/トン)。2024年は景気の循環的な回復、主用途のステンレス鋼向け需要が、中国・インドのW人口ボーナス期入りや、東西の緩やかな分裂によるインフラ投資需要増加、脱ロシア・脱炭素の流れが継続しバッテリー向け需要が徐々に増加することから構造的な上昇局面に、2024年の平均価格は23,063ドル(+313ドル/トン)とした。

しかし足下、リスク要因として挙げていた米国の金融引き締めペースの鈍化を切っ掛けに、11月末のファンド決算を意識した利益確定の買い戻しにロスカットが加わって非鉄金属セクター全体の価格水準が上昇していることに加え、中国政府が不動産セクターのテコ入れ策に舵を切っており、これに未確認ではあるがCNGR Advanced Materialが保有するインドネシア工場で火災と爆発があったという報道(同社は否定)を受けて既にニッケル価格は3万ドルを伺う展開になっている。前述のニッケル市場の流動性が青山集団事件以降低下していることによる過剰反応とも言える。

景気の減速や金融引き締めの継続、不動産セクターにテコ入れをしたとしてもバブル抑制方針に変化はない、と見られるため再びニッケル価格は調整するとみているが、仮に習近平政権が支持率向上や不動産セクターの危機的状況をみて「背に腹は代えられない」として足下の相場上昇を容認する場合、調整したとしても弊社見通しは上方修正せざるを得ないだろう。

上記見通しの上昇リスクは米国を初めとする各国の金融引締めのペースがさらに鈍化した場合、中国の不動産セクターテコ入れ策が再びバブルを誘発した場合(その後の下落は大きくなるが)、ロシア問題・異常気象を背景にエネルギー供給に制限(ガス・石炭)が発生して生産に影響が及ぶ場合、ロシアが意図的にニッケルの供給を削減する場合(報復制裁)、脱炭素の流れに乗って資源国で資源ナショナリズムの動きが加速する場合(インドネシアやフィリピン)、脱ロシアの流れを受けて電化や再生可能エネルギーインフラ投資が加速した場合、反ロシアの流れで同国ブランドの非鉄金属が取引禁止になった場合、中国のゼロコロナ政策見直しなど。

下落リスクは、各国金融引締めペースが早すぎて経済がオーバーキルになってしまう場合、米金融引締めの影響で需要の牽引役である新興国も金融引締めを余儀なくされ、新興国の需要減少・デフォルトが発生した場合、中国政府が引き続きゼロコロナ政策を継続し経済活動の強制停止が続く場合、中国の不動産セクターの回復に目処が立たず、中国政府が取り組んでいる秩序ある不動産セクターの調整が上手くいかなかった場合、脱炭素の流れ一服、石炭・LNG価格の急落など。


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