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選挙結果先取りの動き続き堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年11月9日 第2322号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「選挙結果先取りの動き続き堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギー価格が下落したが、その他の商品は総じて堅調な推移となった。

米中間選挙の結果を先取りする形で共和党勝利が織り込まれており、財政赤字の減少期待で金利が低下し、全体的にリスクテイク機運が高まり、ドル安も進行したことが材料となった。

原油については中国のゼロコロナ政策継続が材料になった、というよりは、米中間選挙結果を受けて原油を含む化石燃料生産が増加するのでは、あるいは、共和党の議席増加が中東情勢との改善に寄与するのでは、といった期待感が価格を押し下げたと考えられる。

【本日の見通し】

本日は、米国の中間選挙の結果待ちではあるが、共和党が勝利する見通しであり、今のところ景気にとってはプラス、と判断されていることからリスク資産価格には上昇圧力が掛る展開が予想される。

本日の材料としては、引き続きFOMCメンバーの講演(ニューヨーク連銀総裁、リッチモンド連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁)、中国CPI(市場予想前年比+2.4%、前月+2.8%)・PPI(▲1.5%、+0.9%)に注目している

【昨日のトピックス】

開票が日本時間の午前中に始まる米中間選挙だが、これまでの報道によれば共和党が上下院とも勝利する可能性が高まっている。

バイデン政権が支持されなかった背景には、繰り返し各方面で主張されているようにインフレが沈静化せず、リビングコストの上昇が続いていることが影響したことは明らかである。

妊娠中絶問題で民主党が巻き返せるのではないか、という期待がリベラルの中で高まったが、有権者の関心は、1.景気、2.インフレ、3.犯罪、4.政府支出、5.移民、6.中絶問題、7,銃規制、という順番になっており、直近では実はほとんど関心がな区なってしまっている。

政治は非常に不条理なもので、コロナ対策による財政出動や金融緩和はトランプ政権の時に実施されたものであり、バイデン政権だけが悪い訳ではない。これは日本においても同じで、現在の円安は岸田政権の失策というよりは、安倍・菅政権時代の「インフレにするための金融緩和」と「放漫財政政策」を長年続けたことに因るものである。

あと数時間で趨勢が決する賀、下馬評通り共和党が勝利、バイデン政権はレームダック化することになる。ただ、これにより放漫財政には歯止めが掛り、過度な環境規制も緩和されるため、バランスが取れた政策が運営されることになるのではないか。

なお、過去に大統領と議会がねじれているケースはむしろねじれていないケースよりも多く、普通の状態、ともいえることは付言しておきたい。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。中国のゼロコロナ政策継続が材料になった、というよりは、米中間選挙結果を受けて原油を含む化石燃料生産が増加するのでは、あるいは、共和党の議席増加が中東情勢との改善に寄与するのでは、といった期待感が価格を押し下げたと考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。また、米石油統計をみるに期待されていた米国の増産は起きていない。そのためしばらくは1.に止まると考える。

なお、今週の11月の米中間選挙で共和党が勝利した場合、化石燃料が増産され、2.に移行するとみている。

ただ、そろそろロシア産原油の輸入制限が始まる見通しであり、主要なマーカー原油価格には上昇圧力が掛ることが予想され、景気減速に伴う価格下落を限定し、原油価格の下支え要因となろう。

ロシア産原油の禁輸に伴うタンカーの不足や航路変更の影響で、FOBとCIF価格の乖離(日本の場合JCCとドバイのスプレッド)が広がる可能性がある。

また、中国が強左の政権になったことから台湾有事のリスクは高まり、中東から日本への航路も旅程が長くなり、コスト増となってFOBとCIFの乖離を拡大する可能性が出てくるため(JCCとドバイ・オマーン、Brentなどとの乖離幅拡大)、今後の中国・台湾情勢はより注意が必要であり、ビジネスリスク・市場リスクを回避する意味で、米国などの同盟国からの調達を増加させる必要が出てくると考えられる。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる見込み。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、脱炭素も、ということになれば供給面の制限は続くため、原油価格は高止まりする可能性が高いと考える。

足下の脱炭素のための化石燃料採掘制限は、「今を生きる人々」の生活にマイナスに作用していると言わざるを得ない。100年後よりも今である。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、引き続き米中間選挙の動向を睨み、神経質な推移になろう。今ところ共和党勝利で財政赤字拡大に歯止めが掛り、金利低下・株高・リスク資産高が予想されているが、原油は景気の影響をより強く受けるため、上値も重く、基本は下落基調に変化はないと考えている。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。価格下落で割安感が出たこと、現在、ピークシーズン入りしていること、プライスキャップ制度の不透明感から買いが入った形。

現在、荷揚げ前のLNG船が多数滞留しており、弊社のシミュレーションでも▲15%の需要削減ができ、年明けまでは大きなトラブルがなければ、ガス在庫の水準が過去5年平均を割り込むことはないことを示唆しており、足下のスポット価格の下押し圧力となる。

独専門家委員会は電気料金の高騰に対して価格上限設定を提案しており、この通りとなれば価格上昇を背景とする消費減少に歯止めが掛ることになる。

この補助金などの対策の効果で消費が減らなかった場合は、冬場に在庫が減少して来年度以降の調達にも影響が出ることになる。もちろん気温は「当たるも八卦」であり、神のみぞ知るところで有るため、まだ厳冬に転じるリスクはなくなっておらず、価格リスクは上向きと見るべきだろう。

実際、気温上昇を材料に下落していた米国天然ガス価格は昨日、急騰している。

なお、4月以降はラニーニャ現象収束が期待され、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想され、足下のガス調達への懸念は後退しているといえる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州最大のガス消費国であるドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光、石炭、原発)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

現在の欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は11月上旬から中旬、ナイジェリアは未定。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性はある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。

・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも高い水準でほぼ横這い。

10月24-30日のLNGトレードは、682万トン(前週712万トン)と減少、スポットLNGカーゴのシェアは17%(18%)と低下、追加調達需要が減少していることを示唆する内容。

北欧以外のLNGスポット調達が▲20万トン減少、日中台韓向けのカーゴは10万トン増加。主に韓国と日本からの需要増加によるもの。ターム契約の調達は減少している。

なお、洋上在庫は前週比で+3%増加しており、2017年以降最高水準、過去5年平均の2倍。米国からのLNG船の滞留が多いが主に欧州向けと考えられ、当面、LNG調達への懸念は後退している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。月曜日の高騰を受けた利益確定の動きと、FreeportのLNGターミナル再稼働の遅れヘの懸念が材料となった。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が大幅に上昇。欧州ガス価格の上昇を受けて買いが入った。

10月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比▲18.9%の761万トン(前月▲4.4%の1,015万トン)と前年比での増加幅を急速に減少させた。パイプラインガス、LNGどちらが減少したかはまだ詳細が発表されていないため分からない。

9月のLNG輸入は前年比▲12.6%の590万トン(前月▲29.0%の472万トン)と前年比のマイナス幅が縮小、冬場に向けた調達が増加している。

9月のパイプラインベースの輸入は前年比+9.7%の425万トン(+9.0%の413万トン)と輸入の伸びが増加している。

中国国内の天然ガス生産は9月は+4.1%の164億立方メートル(前月+7.0%の169億8,000万立方メートル)と伸びは鈍化したが、過去5年の最高水準を上回る生産が続いている。

天然ガス輸入量の減少を見ると、1.石炭輸入・生産が高水準であり電力向けのガス需要がさほど旺盛ではない、2.中国国内の天然ガス生産の増加、3.中国景気の減速、のいずれかないしは複合要因と考えられるが、貿易統計全体の数値の減速(交易量の減速)を考えると、3.の可能性が高いと考える。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

10月30日時点の日本の発電用LNG在庫は255万トン(前年同月末207万トン、2017~2021年平均239万6,800トン)と増加、この時期の過去5年の最高水準であり、在庫は潤沢。

日本も欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため調達に問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は、欧州・アジアの気温低下が遅れる見通しであること、中国統計の減速から軟調な推移を予想。しかし、米国の気温低下による国内需要増加・輸出の減少は価格を下支えするだろう。

とはいえ、▲15%~▲20%の需要削減ができなければ、来年の春のガス在庫の水準は例年を下回ることが予想され、2023年のガス調達はより厳しい状態になるリスクがある。引き続き、冬場の気温次第。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップはパラレルに続落。欧州の調達意欲に一服感が出ていることが材料になっていると考えられる。

日中台韓印欧の石炭輸入は過去5年レンジの最低水準であり、輸出もやや低迷している。冬場に備えた在庫積増しが一巡したことを示唆している。

ロシアの体制が変わり、より穏健で、西側諸国が付き合うに足る国にならない限り、ロシア炭が市場の需給を緩和する方向には働き難いが、足下、景気の減速や北半球の気温が事前予想よりも温暖であることが価格を下押ししている。

しかし、10月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+8.3%の2,918万トン(前月+0.5%の3,304万8,000トン)と高水準を維持し、過去5年レンジを上回っており、中国が「徐々に」海上輸送炭市場に復帰しつつある。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、冬場に備えた調達の再開、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

9月の中国の石炭生産は、前年比+15.7%の3億8,672万トン、1,289万トン/日(前月+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日)と大幅に増加、同じ時期の過去最高水準を上回っている。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を上回っているが輸入が増加しており中国国内の需給がタイト化している可能性が出てきた。

もしくはロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270~300ドルであり、これが低下するには需要の減少か鉱山生産の増加が必要条件となる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は、競合燃料のガス価格が再び反発していることを受け、割安感からの買いが入ると予想され上昇すると見る。

なお、ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了する3~4月以降はラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に上昇した。中国政府はゼロコロナ政策を変更する意思がないことが確認されたが、昨日は米選挙結果を先取りする形で長期金利低下を受けてドル安となったことで、11月末のファンド決算を控えた買い戻しが優勢となった。

10月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲1.5%の40万4,414トン(前月+25.6%の50万9,954トン)と過去5年平均を割り込んだ。

一方、銅鉱石の輸入は前年比+3.8%の186万8,751トン(前月+7.7%の227万3,426トン)と過去5年の最高水準で推移している。

中国政府の経済対策期待や電力供給障害の解消、TCが高止まりしていることが鉱石輸入を高止まりさせているが、精錬銅輸入の減少は同国の需要が減速していることを示唆している。

9月の銅スクラップの輸入は前年比+24.2%の16万6,988トン(前月+19.1%の15万4,636トン)と前月からは前年比の伸びを加速させたが、過去5年平均は下回った状態。

銅地金の輸入の急減速、スクラップ輸入の低迷を見ると中国国内の需要の回復は緩慢と見られる。前月までは回復感が強かったが、やはりゼロコロナ政策堅持の方針が重石となっているようだ。

また、3期習近平政権はイデオロギー重視で経済通がおらず、経済以上に体制維持に力を注ぐと考えられ、台湾問題などの対応を優先する可能性が高いことから、2023年以降の銅需要は落ち込む可能性があり、需要・価格のリスクは下向きだ。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国政府がゼロコロナ政策を堅持する方針を示したことで足下はマイナスに作用している。

2.については米中間選挙を控えて「共和党勝利→財政赤字縮小→金利低下→株これを先取りして上昇」という流れになっているのでプラス、3.はQT継続であり下向き。結局1~3を総合すると、短期的に非鉄金属価格は下落しやすい地合となった。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ来年後半から、再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

本日は、ドル安を背景に昨日は上昇したが、最大消費国である中国の景気減速観測が強まっていること、ゼロコロナ政策は継続する見通しであることから下落するとみる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

中国のゼロコロナ政策は堅持される方針が示され、鉄鋼製品の主要用途である建築向け需要が減少するとの見方が鉄鋼製品価格を押し下げたが、在庫水準の低さから一定の在庫積増し需要があったものと考えられる。

10月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲31.7%の77万2,270トン(前月▲29.3%の89万82トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高く、粗鋼生産の回復が輸入を阻害したと考える。

9月の中国粗鋼生産は前年比+17.9%の8,695万トン(前月+0.8%の8,387万トン)と回復し、過去5年平均を上回った。中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。

10月の鉄鋼製品の輸出は前年比+15.2%の518万4,380トン(前月+1.2%の498万トン)と前年ベースでの伸びが回復、過去5年平均を復帰した。人民元安が輸出を加速させているとみられる。

10月の鉄鉱石の輸入は前年比+3.7%の9,500万トン(前月+4.3%の9,971万トン)と前年比でプラスを維持、過去5年平均も維持した。

ロックダウン解除後も経済活動の回復は緩慢だが、人民元安の進行が輸出を促進したとみられる。

週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比+230万トンの1億3,430万トン(過去5年平均 1億3,723万4,000トン)、在庫日数は27.6日(▲0.4日、過去5年平均30.7日)。

鉄鋼製品在庫は▲37万トンの1,057万2,000トン(過去5年平均1,0825万2,000トン)、原料炭在庫は▲10万トンの70万トン(151万6,000トン)、在庫日数は▲0.4日の2.7日(過去5年平均 6.4日)。

鉄鉱石、原料炭とも在庫はタイトな状態になっている。

中国の不動産セクターは低迷しており、人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では70ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日は、中国のゼロコロナ政策堅持方針を受けて、再び水準を切下げる展開を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。米中間選挙結果を先取りして金利が低下、実質金利も低下したこと、金利低下やリスクテイクでドル安が進行したことが背景。

銀価格は金価格の上昇を受けて大幅に上昇、PGMも株高を背景に水準を切り上げた。特に金利低下はハイテク関連株の上昇を通じてパラジウム価格の上昇要因となる。

金の基準価格は+17ドルの798ドル、リスク・プレミアムは+19ドルの915ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば270ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要がある。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、各国の政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年の春頃には米国の利上げが打ち止めとなり、実質金利も低下して基準価格は切り上がると予想される。

一方、金融引き締めの打ち止めで信用リスクが低下するため、リスク・プレミアムは低下すると予想されることから、下落があっても1,200ドル程度になるのではないか。

価格の大幅下落には大口の売りが入ることが必要になるが、それは、各国中央銀行の金準備売却かETFの解約、ということになる。

前者は戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向が重要になると考えている。

ワールド・ゴールド・カウンシルの推計では、各国中央銀行はむしろ金準備を積増ししており、Q322の各国中央銀行の金準備積増しは399トンと過去最高水準に達したとされ、金価格の下支え要因となる。

足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率そのものであり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,650ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

本日は米中間選挙結果を先取りして米長期金利が低下、ドル安も進行しているため上昇余地を探る動きに。銀、PGMも同様の展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシが原油価格の下落を受けて下落、小麦はロシア問題が不透明であるが、需給報告を控えて調整売りに押された。大豆は期近が小幅に上昇したが、全体的に水準を切下げた。

10月の中国の大豆輸入は前年比▲19.1%の413万6,000トン(前月+12.2%の772万トン)と急減速、過去5年の最低水準を下回った。

現在、中国の輸入大豆の港湾在庫水準は579万9500トンと、過去5年レンジを下回る水準と低いが、恐らく豚肉価格の上昇に伴う出荷増加のため、多数、豚が屠畜された可能性があり、そのために餌となる大豆(圧搾して大豆ミールを得る)の輸入需要が鈍化した可能性がある。

ただし、大連の大豆ミール先物価格は高止まりしており、中国の飼育頭数が高止まりしていることも、中国の飼料供給が必ずしも充分ではないことを示唆している。

今後は冬場のラニーニャ現象がアラビア半島・北アフリカ周辺に降雨をもたらしており、サバクトビバッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性がある。

なお、今のところバッタの大量発生は確認されていない。

本日は、米中間選挙動向、ロシア情勢などの不確定要素が多いため、現状水準で様子見になると予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

2022年の中国党大会を経て、ゼロコロナ政策継続の可能性が高まったことからロックダウン発生の可能性は排除できず、中国景気がハードランディングするリスク(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。


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