米長期金利動向vs円買い介入継続
- MRA外国為替レポート
2022年10月24日号
◆先週の市場総括
先週は一段と円安が進みドル円相場は一時152円目前まで上昇した。米長期金利10年債利回りが先週末に4%ちょうどをつけたあと、先週はさらに上昇して週末には一時4.3%台に上昇。ドルを押し上げた。
欧州では英トラス首相が退陣し英金融市場の混乱は抑制されたが、インフレ高進で長期金利に上昇圧力がかかった。
日銀黒田総裁がなおも超金融緩和政策に固執する姿勢を示し、週末にかけては円が全面安となった。
これに対し日本の当局はNY市場の時間帯で円買い介入を実施。ドル円相場は一時146円台をつけ引けは147円台。米国株は好決算に支えられた一方、金利上昇に押されて上値も重かった。
ただ週末に利上げペース緩和を検討との報で上昇して引け。日経平均は27,000円を挟んだ攻防が続いた。
月曜日の東京市場では日経平均が下落。前週末に米国株が大幅安となったことから朝方は▲400円安で始まった。ただその後は下げ渋り引けは▲314円安の26,775円。
ドル円相場は底固く推移。148円50銭~70銭で上下したあと、やや上昇して午後は60銭~80銭で上下。欧州市場では148円90銭に。ユーロ円相場は144円40銭で始まり上昇して80銭近辺で推移。
欧州市場にかけては145円ちょうどをつけたあと、144円70銭~145円ちょうどで上下した。
ユーロドル相場は0.9720近辺で始まり0.9730~50で上下。欧州市場では0.9770をつけた。
欧米市場ではユーロが大幅高。イギリス新政権・トラス首相が大型減税案をほぼ撤回。欧州金融市場の混乱が鎮静化するとの見方からユーロが買われた。
長期金利は低下。ユーロドル相場は0.9840へ上昇して引け。ユーロ円相場はリスク選好の回復もあいまって146円60銭へ上昇してそのまま引けた。
ドル円相場は米長期金利低下に押され148円60銭に軟化する場面もあったがその後は堅調。149円10銭近辺まで上昇して引けは149円ちょうど近辺。
米国株は大幅高。米長期金利上昇一服でハイテク株が買われたほか、主要企業決算が警戒されたほど悪くなかったことから安心感が広がった。NYダウは前週末比+550ドル高の30,185ドル。ナスダックは+354ドル高の10,675ドル。
米10年債利回りは4.012%、2年債は4.449%に小幅低下。ドルインデックスは欧州通貨が全面高となったことで112近辺に下落。発表されたNY連銀製造業景気指数(10月)は前月▲1.5から▲1.0へ小幅改善予想に反して▲9.1に大きく悪化した。
火曜日の東京市場では日経平均は反発。前日の下げを取り戻した。米国株が堅調に推移し円安進行、アジア株高が支え。市場心理回復で27,000円台を回復した。引けは+380円高の27,156円。
ドル円相場は149円ちょうど近辺で始まり朝方148円70銭に下落したあと149円手前で上値重くもみ合い。ただ欧州市場に入ると149円30銭に上昇した。
そのタイミングで148円70銭に急落する動きをみせたがすぐに149円台を回復。米国市場にかけてはじり高となりNYの引けは149円20銭~30銭。
ユーロドル相場は終始方向感なく上下。東京市場は0.9840で始まりその後は0.9820~70で幾度となく上下してNY市場の引けは0.9860。
ユーロ円相場は146円60銭~70銭で始まり30銭に下落したが夕刻欧州市場朝方には147円ちょうどに反発。その後146円40銭に押し戻されたが上下しながら堅調に推移しNY引けは147円10銭~20銭。
イギリスではトラス政権が減税策を撤回し市場の混乱が一服。イギリス中銀は延期していた国債売却を11月1日に開始すると表明した。
発表されたドイツZEW景況感指数(10月)は期待指数が前月▲61.9から▲59.2に予想外の改善。欧米長期金利は上昇。
米国の鉱工業生産(9月)が良好だったこともあり米10年債利回りは一時4.06%に上昇した。引けはやや低下して4.012%と前日とほぼ変わらず。2年債は4.435%とやや低下。
米国株は続伸。長期金利は高止まりとなったが良好な企業決算を受けて上昇した。NYダウは前日比+337ドル高の30,523ドル。ナスダックは+96ドル高の10,772ドル。
米鉱工業生産(9月)は前月比+0.4%と前月▲0.2%からプラスに転じた。設備稼働率は前月80.0%から79.8%への低下予想に反し80.3%に上昇した。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。米国株が続伸したことで買い優勢となり一時+200円高。ただ利益確定売りも入り伸び悩み、引けは+101円高の27,257円。
ドル円相場は149円20銭近辺でもみ合い小動き。夕刻、欧州朝方にかけては149円50銭に上昇した。
イギリスのCPI(9月)が前年同月比+10.1%と強い数字となると欧州長期金利が上昇し、つれて米10年債利回りも4.06%に上昇しドルを押し上げた。ユーロは下落。ユーロドル相場は0.9860~70で始まり欧州市場では0.9760へ。
ユーロ円相場も147円10銭~20銭で始まり146円10銭に下落した。米国市場でも米長期金利の上昇は止まらず、米国株は予想より良好な決算銘柄が支えも金利上昇を嫌気して全般に下落。
NYダウは▲100ドル安の30,423ドル、ナスダックは▲91ドル安の10,680ドル。
米10年債利回りは4.139%、2年債は4.56%。ドル円相場は149円80銭に上昇したあと60銭~80銭で上下し、その後一段高となり90銭でもみ合い引け。
ユーロドル相場は0.98ちょうど近辺に反発したあと引けは0.9770、ユーロ円相場は146円70銭に反発したあと上昇一服し50銭近辺で引け。
発表された米住宅着工(9月)は季節調整済み年率換算で1,439千戸と前月1,575千戸から減少。公表されたベージュブック(米地区連銀経済報告)では、緩やかに景気は拡大とされつつもバラつきがみられた。
4地区で横ばい、2地区では減速。小売りは横ばい。需要鈍化懸念で見通しは慎重に。インフレ期待は全般的に緩やかとなった、と判断された。
木曜日の東京市場では日経平均が反落。前日に米国株が下落したことを受けて一時▲380円安。ただ中国でゼロコロナ政策緩和との報や訪日観光関連銘柄への買いで下げ渋り。引けは▲250円安の27,006円。
ドル円相場は149円90銭で始まり150円手前で介入警戒感から小動きもみ合い。ユーロ円相場は146円50銭で始まり30銭~40銭で上下。夕刻にはやや上昇して70銭~80銭。
発表された日本の貿易収支(9月)は2兆1千億円弱で引き続き巨額だが予想をやや下回った。欧州市場ではユーロが高下。イギリスではトラス首相が辞任を表明した。在任期間はわずか45日間だった。
ユーロドル相場は0.9830に上昇したあと0.98を挟んで高下し引けは0.9790近辺。ユーロ円相場は147円20銭に上昇したあと146円台後半を中心に上下して引けは146円90銭。
ドル円相場は欧米市場で一時149円50銭台に下落したがすぐに反発。米国市場で150円台に乗せ150円20銭近辺で上下し引けは10銭台。
米国市場では長期金利上昇で株価下落。フィラデルフィア連銀総裁が、インフレ抑制のスピードの遅さに失望している、しばらくは利上げを続ける必要がある、と述べた。
米10年債利回りは4.234%、2年債は4.624%。NYダウは▲90ドル安の30,333ドル。ナスダックは▲69ドル安の10,610ドル。
発表されたフィラデルフィア連銀製造業景気指数(10月)は▲8.7と前月▲9.9から改善したものの予想を下回った。週次の失業保険新規申請件数は214千人と前週228千人から減少。
金曜日の東京市場では日経平均が続落。米国株安で様子見姿勢根強く、円安進行も輸出関連に買いは広がらず。インバウンド関連への買いも広がらなかった。引けは▲116円安の26,890円。
ドル円相場は150円10銭台で始まりじり高。夕刻には150円50銭。ユーロ円相場は146円90銭で始まりじり高。欧米市場では急速に円安が進み、ドル円相場は151円90銭へ、ユーロ円相場は148円40銭へ。
欧州市場終盤、週末のNY市場朝方の取引が薄くなった時間に日本の通貨当局が円買い介入を実施した。ドル円相場は146円台、一部報道では144円台に急落。ユーロ円相場も144円10銭に下落。その後円高は一服し大きく上下して引けは147円60銭。ユーロ円相場は145円60銭。
ユーロドル相場は0.97ちょうど近辺に下落していたが、反発して0.9860で引けた。ドルインデックスは111.88に下落した。
米10年債利回りは一時4.33%台に上昇。2年債は4.639%に。
しかしウォールストリートジャーナル紙が、FRBは11月の会合で12月以降の利上げ縮小を検討開始、と報じたことで大幅な利上げ観測が後退した。
サンフランシスコ連銀総裁は、過度な引き締めによる自発的な景気後退を回避すべき、まだ利上げペースを緩める状況にないが計画し始める必要がある、と述べた。
米国株は長期金利上昇一服、過度な利上げ懸念の後退、さらにドル高一服で幅広く買われた。NYダウは前日比+748ドル高の31,082ドル、ナスダックは+244ドル高の10,859ドルで週末の取引を終えた。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
FRB当局者にやや景気配慮しはじめる発言もみられ始めた。ただ景気やインフレ指標がなおもタカ派を勢いづかせるか。
月曜日 PMI景況感指数(10月、製造業、予想51.0、前月52.0、サービス業、予想49.6、前月49.3)
火曜日 ケースシラー住宅価格指数(8月、前年同月比、予想+14.1%、前月+16.1%) 消費者信頼感指数(10月、予想105.7、前月108.0) リッチモンド連銀製造業指数(10月、予想▲5、前月0)
水曜日 新築住宅販売(9月、季節調整済み年率換算、予想580千戸、前月685千戸)
木曜日 GDP(7-9月期速報、前期比年率+2.8%、前期▲0.6%)、個人消費(同、予想+0.9%、前期+2.0%) 耐久財受注(9月、前月比、予想+0.6%、前月▲0.2%)
金曜日 個人所得・消費支出(9月、前月比、予想+0.4%・+0.4%、前月+0.3%・+0.4%) 個人消費支出価格指数(前年同月比、コア、予想+5.2%、前月+4.9%)
2.ECB理事会、ラガルド総裁会見
木曜日にECB理事会が開催され、ラガルド総裁が会見を行う。今回の会合で政策金利は1.25%から2.00%へ0.75%引き上げられると予想されている。
市場では織り込み済みだが、問題はこの先の利上げについて。冬場にかけて欧州経済はさらに悪化するとみられるが、物価重視のタカ派姿勢をどこまで続けられるか。総裁会見でのニュアンスが注目される。
3.日銀金融政策決定会合
木曜日・金曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催される。今会合でも政策変更は予想されていない。同時に展望レポートが公表されるが景気物価見通しに変化はみられるか。
また終了後の15:30から黒田総裁が会見を行う。先日の国会答弁でなおも現状の超金融緩和政策の正当性を主張したが、今回も同様の発言で円先安感を勢いづかせるか。
◆今週のMRA's Eye
米長期金利動向vs円買い介入継続
先週末、NY時間にドル円相場が152円に迫ったところで日本の通貨当局は円買い介入を実施した。
円安が一段と進んだところで実施されたことは、円安のスピード調整であり、引き続き絶対的に歯止めをかける意図はない、との見方もある。
10月の介入実施額は今のところ不明だが、2兆円程度であれば、引き続き単月の貿易赤字による円売りを吸収したかたちとなる。介入実施を明言するのはアナウンスメント効果を狙った場合。明言せずに実施するのであれば、需給効果を重視するということになる。
介入効果については、初回の介入が146円近辺で実施されたあともドル高円安に歯止めがかからなかったことから、効果がないとの見方もある。
今回の介入後には152円程度から147円台に下落して下げ止まっている。前回介入の水準を上回ったままで、効果がなく段階的になおドル高円安が進むとの見方もある。
しかし2回目の介入が実施され、引き続き貿易赤字額に相当する円買い介入を続ければ需給調整としては効果がある。
海外投機筋による円売りは、いずれかのタイミングで円買い戻し、利益確定する必要がある。中長期的に為替需給に与える影響は売り買い中立だ。残るのは日本人による円売り。
以前は相応の円売りがみられたが、さすがに150円に乗せて勢いは鈍っているようだ。本来的に押し目買い・吹き値売りの逆張りが個人投資家・FX取引の特徴。ここ最近は順張りでドル高円安の勢いのままに円売りを続けていたとされる。
その結果、円売りポジションは膨らんでいた。しかしようやくここにきて減少し始めているようだ。
米国ではなおFRB当局者からタカ派的な発言が目立つ。インフレ抑制が捗々しくないことから強力な利上げを継続すべきとの意見は根強い。ただ一部には、過度な引き締めが景気に急ブレーキをかけるリスクにも配慮するべきとの発言もみられた。
利上げペースはいずれ鈍化するのは必定だが、そのタイミングについて、12月には具体的に検討すべきとの発言があった。11月初のFOMCでは0.75%利上げが想定内。
ただ12月会合では利上げ幅の縮小や、あるいは縮小計画、さらにピーク水準について議論される可能性が高まった。経済指標に弱い数字がさらに増えれば、その可能性が一段と高まる。
ただ、具体的には、利上げのペースダウンであり、すぐに利下げに転じるわけではない。急速に利上げを実施してきたことで、その効果が顕在化するまでのタイムラグを考慮すべきとの意見。
足元のインフレ抑制は確かに進捗していないが、一気に引き締めた効果が顕在化するまで、一定の金利水準で様子見しようということだ。
その結果、タイムラグをもって景気が悪化、需要が減少し、雇用情勢が緩和してインフレ圧力が緩和すれば、ゆっくりと利下げに転ずるということになろう。
今の時点で想定できるのは12月に利上げ幅を050%に縮小。1月、3月、に微調整して打ち止め、というパスではないか。
11月に0.75%の利上げでFF金利は4.00%に。12月には4.50%。1月、3月で合計0.50%か0.75%で5.00%か5.25%といったところか。これよりも様子見に入るタイミングが早く、ピーク水準はこれを下回る可能性はあろう。
その場合、ドル金利先高感が失われると同時に、ドル先高感も失われ、利益確定が活発化することが想定される。短期金利差は容易に縮小しないが、景気悪化やインフレ率低下が顕在化していれば、10年債金利から低下傾向が強まろう。
短期金利差は拡大したままで、金利差からはドル買い円売りを維持するメリットは残る。
しかしドル安円高基調に転ずれば、金利差では埋め合わせできないドル安円高となる。ドル円相場のパスを想定すれば、12月会合で利上げ幅縮小を決定したところで伸び悩み。その後利上げ終了まではなお底固く高値圏もみ合い、4月以降はドル安円高基調に転ずる、という流れが整合的か。
ここに米国景気に急ブレーキがかかり景気後退に陥る証左がみえれば、ドル反落の勢いが増す可能性がある。加えて日銀総裁の交代が同時期になることから、投機的なドル買い円売りは手仕舞いを促される可能性がある。
10-12月期のドル円相場はなお高止まり、145円~150円で推移とみる。そこに円買い介入継続で需給が確実に調整されれば145円中心の値動きとなる可能性はあろう。
来年初まで需給調整的な円買い介入を継続すれば、3月以降は少なくともポジション手仕舞いによる円買い戻しが、日本の貿易赤字による円売りを吸収する可能性がある。
問題は双方のスピードだ。
手仕舞いによる円買い戻しのスピードは、貿易赤字に伴う輸入企業の円売りのスピードよりもはるかに速い。本格的に円高に振れた場合のスピードには留意を要する。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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