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円介入観測と米金融引締め鈍化報道を受けたドル安で堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年10月24日 第2310号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「円介入観測と米金融引締め鈍化報道を受けたドル安で堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、軟調に推移していたが引けに掛けて水準を切り上げる商品が目立った。

日本が為替市場で介入を実施したと見られ、急速に円高が進行するなかでドル安バイアスが掛ったこと、WSJ紙がFOMCメンバーはこれまでの急速な金融引締めの効果を一旦確かめたいとして、市場で予想されている75bpの利上げは行われないのでは、との見方が広がったことが背景。

これにより12月利上げの可能性は、50bpが51.8%(前日24.2%)、75bpが45.6%(75.4%)と市場参加者の見方は急速にハト派に傾いている。

確かに、ここまでの利上げで金利は4%を超え、このままだと年内に5%を超えるのは確実な情勢であるため一旦様子を見たい、とする気持ちは分からなくもない。また、新興国などへの影響も考慮したと見られる。

WSJの報道の信憑性がどの程度あるかなんともいえないところだが、少なくとも市場は年末までの利上げは125bpがメインシナリオになったようだ。

【本日の見通し】

週明け月曜日は、フォワードルッキングな指標である欧米のPMIに注目している。ただ市場予想は悪化を見込んでおり、原油や非鉄金属などの景気循環系商品価格に下押し圧力が掛る展開が予想される。

しかし、WSJ紙の報道を受けて急速に「そこまでFRBメンバーはタカ派でないのでは?」との見方が強まっているため。ファイナンシャルな面で価格は下支えされよう。

一転、これまでタカ派一辺倒だったFOMCメンバーだが、今後の発言の重要性がより高まった。ただし既にブラックアウト・ルール(FOMCの開催日の前々週の土曜日からFOMC終了までコメントをしてはいけない)が適用されているため、当面は「憶測記事」が価格を動かすことになろう。

10月独製造業PMI速報 市場予想 47.0(前月47.8) サービス業 44.9(45.0) コンポジット 45.5(45.7)

ユーロ圏製造業PMI 47.9(48.4) サービス業 48.2(48.8) コンポジット 47.6(48.1)

米製造業PMI 51.0(52.0) サービス業 49.5(49.3) コンポジット 49.3(49.5)

【昨日のトピックス】

本日、中国共産党党大会が閉幕した。注目は留任すると見られていた李克強首相は常務委員会名簿から外れていたこと。恐らく今回の人事では、当副主席に指名されると予想されるが、権限は大幅に削られることになる。

明日人事が発表される予定だが、党大会前に遊説に出かけたことを考えると報道通り、常務委員会は習派が完全に掌握したと考えられる。

これにより、より中央集権化が進み、個人崇拝が進み、習近平による独裁が進むことになる。人民解放軍も既に習派で固められているがより支配が強化されたと考えられる。

これにより、台湾を武力で強制的に統合する可能性が高まった。奇しくもロシアのウクライナ軍事侵攻によって、ロシアの軍事力は削がれたが、同時に西側諸国の軍事力も削がれている。

もちろん、西側諸国が自国を防衛するための武力は温存していると考えられるが、台湾を防衛するだけの軍備が豊富にあるかと言えばそうではない。日経新聞が報じているように、台湾と米国が武器製造で協力、と報じているが、恐らく事実だろう。

2024年の台湾総統選で親中派政権が誕生すれば、それをテコに台湾を香港のように統合していくことを考えるかもしれないが、そうでなかった場合、比較的速やかに動いた方が西側諸国の準備が整っていないため中国にとって有利、と判断するかもしれない。

日本はエネルギーの安全保障の観点で、より、豪州や米国、カナダとの連携を強めていく必要があるのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は日本の為替介入と、WSJが米FRBメンバーが金融引締め過ぎを懸念しているとの報道を受けたドル安進行が価格を押し上げた。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし11月頃から米国の増産が始まると予想されるため、早晩、2.に移行すると考えられる。また11月の米中間選挙で共和党が勝利した場合、化石燃料の増産には弾みが付くだろう。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、脱炭素も、ということになれば供給面の制限は続くため、原油価格は高止まりする可能性が高いと考える。

足下の脱炭素のための化石燃料採掘制限は、「今を生きる人々」の生活にマイナスに作用していると言わざるを得ない。100年後よりも今である。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、米欧のPMIが発表され、いずれも減速が確認される見込みであり、金曜日の上げもあって軟調推移を予想。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は再び下落した。欧州の南北対立の中で決裂した「ガス価格上限設定構想」だが、ドイツが折れる形で一時的に価格にカラー(コリドー)を設定することで合意、と伝えられたことが価格を押し下げた。

欧州のガス在庫は、仮に欧州が需要を▲15%削減することができれば、この冬は仮にロシアからの供給が停止したとしても充分な状況。

とはいえ、ナイジェリアでLNGプラントの輸出がフォースマジュールを宣言するなど、ロシア以外の国からの供給も不慮の途絶のリスクがある上、さらに想定を上回る厳冬となった場合、供給は必ずしも充分とはいえない。

4月以降はラニーニャ現象収束が期待され、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想され、足下のガス調達への懸念は後退しているといえる。

しかし2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなった場合、ノルドストリーム1・2が不稼働のままの可能性が高いことを考えると、2023年のガス調達は2022年よりも厳しい状態になると予想される。

欧州がこの冬を乗り切れそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきた。

ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。そのためロシアもこの冬が勝負と考えている可能性は高い。

プーチン大統領は、ノルドストリームのパイプライン攻撃を「(ロシア以外の国の)テロ」と断定し、「全てのインフラにテロ行為の危機がある」、と発言した。

このことは、「(それをロシア以外の国のテロ行為として)ロシアが全てのインフラを攻撃する意図がある」といっているに等しい。

今後、ロシアが自国のインフラを破壊して供給懸念を煽るより、より直接的にロシア以外の国のインフラへを攻撃し、恒久的に供給ができない状態にして、強制的にロシアの資源への依存度を高めさせる戦略が採用されるリスクは高まっていると考えるべきだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は11月上旬から中旬、ナイジェリアは未定。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。

・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西ともさらに急騰しており、スエズ以西に関しては記録的な水準までタンカーレートが上昇した。

ロシアからの供給が細る中、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。

10月3-9日のLNGトレードは、745万トン(前週709万トン)と増加、スポットLNGカーゴのシェアは23%(21%)と上昇した。主に欧州向けのターム契約が増加したことによる。

スポットカーゴはスペイン向けの増加を、日中台韓向けの減少を相殺した。日本と韓国の欧州向けカーゴが減少したことが影響している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は続落。米東部は11月上旬までは平年を上回る気温の上昇になるとの見通しが出ていることが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物はほぼ全ゾーンパラレルに下落。EUが価格上限設定で一転、合意したことで水準を切下げた。ただし価格のレンジ設定は時限措置であるため、それほど大きな下落にはならなかった。

中国の8月の天然ガス輸入(パイプライン+LNG)は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

パイプラインベースの輸入は+9.0%の413万トンと過去5年レンジを上回り、LNGは▲29.0%の472万トンと過去5年平均を下回っている。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

中国は国内生産増加とパイプラインからの供給増加、景気減速に伴う需要の減少でLNG需要が減少しているとみられる。当面、JKM価格は抑制された状態が続くことになろう。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

10月9日時点の日本の発電用LNG在庫は249万トン(前年同月末207万トン、2017~2021年平均239万6,800トン)と減少、過去5年水準を上回っているが減少傾向が強まっている。

日本も欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため調達に問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

週明け月曜日は、欧州が価格レンジ設定で合意したこと、米国の気温が平年よりも高いことから、軟調推移を予想。

今年の冬は、どれだけ欧州が需要を削減できるかどうかがポイントだが、ガスの供給元の1つである米国の気温が平年よりも高いことは、欧州のガス調達の助けとなる。

とはいえ、▲15%~▲20%の需要削減ができなければ、来年の春のガス在庫の水準はかなり低くなることが予想され、2023年のガス調達はより厳しい状態になるリスクがある。引き続き、冬場の気温次第だ。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは下落した。欧州がガス価格にレンジを設定することで合意したことで、発電燃料価格が低下したことが影響したと見られる。

この数週間、石炭価格とガス価格の間にはそこまで明確な価格の相関性は確認されていない。

しかし、脱ロシア問題は来年も続き、ロシア産以外の高カロリー炭を求める動きが続くため、価格の絶対水準が切り上がっている状況。

ロシアの体制変更があり、より穏健で、西側諸国が付き合うに足る国にならない限り、ロシア炭が市場の需給を緩和する方向には働き難い。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270~300ドルであり、これが低下するには需要の減少か鉱山生産の増加が必要条件となる。

10月に入ってからの水準切下げは期近のみではなく期先が下落得しているため、景気が減速するなかでの石炭需要減速を織り込み始めたと考えられる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

週明け月曜日は、欧州がガス価格にレンジを設定することで合意したため、ガス価格の下落が予想されることから、水準を切り下げると予想。

ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了した場合にはラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。

ただし、恐らく来年も発電燃料調達を巡り、厳しい状況は続くと予想されるため下落しても余地は限定されるとみる。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は中国の経済統計発表がない中で同国の景気への懸念が強まる中、軟調に推移していたが、日本の為替介入と、米WSJ紙がFRBの金融引締め過ぎを懸念している、と報じたことで米金利が低下したことによるドル安で、引けに掛けて水準を切り上げ、下げ幅を削った。

ロシア産の金属受入禁止は、LMEブランドであるアルミやニッケルに関しては影響が大きいがその他の金属への影響は限定されるだろう。

仮に制裁が強化されてロシア産の金属が禁止となれば、LMEが「ラストリゾート」としてロシア産金属の搬入が駆け込み的に加速し、LME価格が急落する可能性がある。

また、受入が停止となれば今度はLMEヘの金属供給が減少するため、ショートの買い戻しが加速して上昇する展開が予想される。結局、ロシアに対する制裁有無で、アルミ、ニッケルなどのロシアの生産シェアが高い金属価格は乱高下を余儀なくされるだろう。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国が統計発表を渋っていることから、余り良い状態ではない。

2.3.に付いては企業業績を受けて株価が戻っているため、2.は顕在化、3.は原油価格下落で満たされていない。結局、現在の価格が軟調地合の中でもみ合っているという状況を適切に表現しているといえる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きることを前提とすると、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ来年後半から、再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しいが、中国の経済統計発表見送りへの悪影響を背景に軟調な推移を予想。ただし、価格下落により割安感が出ているため、実需の安値拾いの買いで下値も堅いと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は小幅に上昇した。

最大消費国である中国の情勢に大きな変化はなく、週末を控えた買い戻しで鉄鋼製品価格が上昇する中、鉄鋼原料価格も水準を小幅に切り上げた。

週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比+100万トンの1億3,120万トン(過去5年平均 1億3,634万トン)、在庫日数は28.9日(+0.2日、過去5年平均31.3日)。

鉄鋼製品在庫は▲42万2,000トンの1,151万トン(過去5年平均1,174万7,000トン)、原料炭在庫は▲17万トンの125万トン(118万8,000トン)、在庫日数は▲0.7日の5.1日(過去5年平均5.0日)。

鉄鉱石、原料炭ともやや在庫はタイトな状態になっている。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では75ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

週明け月曜日は、週末発表の在庫統計で鉄鋼原料需給がタイトな状態がであることが確認されたため、水準を小幅に切り上げると予想。

◆貴金属

昨日の金価格は大幅に上昇した。WSJ紙がFRBメンバーが「金融引締めの効果を確認したい」としている、と発言したと報じたため12月の大幅利上げの可能性が後退、実質金利が低下したことが材料となった。

同時にドル安も日本の為替介入も手伝って進行したため、リスク・プレミアムも上昇した。

銀価格は金の上昇を受けて大幅に上昇、プラチナも連れ高。パラジウムは昨日の大幅上昇の反動で水準を切下げた。

金の基準価格は+19ドルの781ドル、リスク・プレミアムは+10ドルの876ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば260ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要がある。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得るのではないか。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向が重要になる。

足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率そのものであり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,650ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

銀価格は、10月3日の上げで上回ったレジスタンスラインを再び全て割り込んだ。銀は供給過剰にあるため、投機的な動きに価格が左右されやすく、テクニカル分析が比較的有効に機能する。

景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

やや緩和的なスタンスにシフトしたかと思われた金融政策は、再び引締め気味にシフトしていることが実需減速懸念を高めており、銀価格を下押ししている。

再び50日移動平均線を割り込んだため、当面はこの水準が上値として意識されることになろう。

週明け月曜日は、WSJ紙の報道を受けた長期金利の低下はあったが、今のところFOMCメンバーからハト派的な発言は出ていないため、一旦売られると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。WSJが、FOMCメンバーのややハト派的な発言を報道したためドル安が進行したことが材料となった。ただし週末を控えており、小幅な上昇に止まった。

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性がある。

また、ロシアのウクライナ侵攻は終了の気配が見えず、なりふり構わないプーチン大統領が穀物輸出停止に踏み切るリスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

なお、今のところ中東・北アフリカ地区でのサバクトビバッタの大量発生は確認されていないが、ナイジェリアでは大規模な洪水が発生しており、農業国である同国の生産下振れリスクは、穀物、特に小麦価格を押し上げよう。

週明け本日は、WSJ紙の報道はあるが、今のところFOMCメンバーはタカ派なスタンスを崩していないため、反転下落すると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。

◆本日のMRA's Eye


「OPEC減産の効果は」

原油価格は米国や欧州、新興国のインフレ抑制のための金融引締めで水準を切下げているが、それでも大幅な下落にはなっていない。

背景にはこのコラムでも何回か紹介しているが、2014年のOPECショック(ムハンマド皇太子がキレてOPECでの協調減産を見送り、価格が急落して大きく原油価格の水準が変わったイベント)以降の価格下落を契機に、採算が獲れなくなった生産者の上流部門投資が手控えられた影響が大きい。

またその後も、環境重視派の発言権の高まりにより、化石燃料生産に「かせ」がはめられたこと、さらにはロシアのウクライナ軍事侵攻に対する制裁で、西側諸国が購入する原油に制限が掛り、実質的に上乗せプレミアムが載せられていること、が背景にある。

この状態で価格下落(と恐らくロシアからの要請)を受けて、OPECプラスは10月の総会で▲200万バレルの減産実施を決定した。これは米バイデン大統領が増産を要請するなかでの減産であり、米国は反発している。

しかし、OPECプラスは「価格が下落した時に協調して価格を維持するために減産を行うカルテル」であり、過去、何回か分裂や抜け駆け増産があったが、OPECプラス諸国も長らく上流部門投資が行われてこなかったことから、実質的にサウジアラビアやUAEなどの限られた国しか生産量を調節できなくなっている。

そのため減産で歳入を減らすという痛みはこれらの「生産の調節可能な国」に比重が掛るため、恐らくOPECプラスの決断はそれほど難しくなかったと考えられる。

では今回の減産はどれぐらいの効果を持つか。1993年以降のOPEC(と2016年以降はOPECプラス)の減産による「価格維持効果」を比較すると、協調減産が決定されたのは2022年10月の減産を除くと14回あった(なお、減産を「新たに」決定した回数をカウントしている)。

そして何を持って価格防衛成功と判断するかの定義は難しいが、取りあえず本コラムでは、減産開始決定から2ヵ月後に価格が減産決定時よりも上昇していた場合を価格防衛成功、下回った場合に価格防衛失敗、と定義した。

この定義に従うと14回中10回、価格防衛に成功しており、OPECの勝率は7割を超える。この確率のみから判断すると今回も価格防衛に成功しそうだ。

しかし、減産によって需給がタイト化するため価格は上昇するが、需給バランスの前提となる「需要」が減速した場合はこの限りではない。実際、アジア危機、ドットコムバブル崩壊、リーマン・ショック時、即ち景気が減速局面入りしている時には価格防衛に失敗している。

なお、世界的に急速に悪化したコロナショックは、信用リスクの連鎖が起きず、コロナ収束後の「ペントアップ需要」という形で景気と需要が落ち込まなかったため、このときの減産は価格の押し上げ要因となった(それ以前に減産開始前に価格が大きく下落、WTIに至ってはマイナス圏にまで低下したから、というのもあるのだが)。

今回は景気過熱に伴う価格上昇を沈静化させるために金融引締めが行われており、かつ、ロシアの軍事侵攻によって欧州経済が危機的状況に陥り、中国経済も人口動態のピークアウトで、構造的に不動産バブルが弾けようとしている。

また、景気の循環的な減速も考えると、前回のアジア危機~ドットコムバブル崩壊の時とやや状況が似る。そのため、価格防衛は困難と考えられる。

ただ、今回非常に気になるのがOPECプラスの減産に対してバイデン大統領が「(サウジアラビアは)報いを受ける」と武器売却の見直しなどを示唆する発言をしている点。

相手はカッとなると何をするか分からないムハンマド皇太子であり、「それでは米国とその同盟国に対しては、原油は販売するが通常よりも高い価格、即ち調整金を高くしよう」というぐらいのことをやってきてもおかしくはない。

過去にも減産が期待されるところを逆に増産したり、減産を渋るロシアに対する当てつけで、調整金を大幅に引き下げたりなど、かなり激しい手段を選択してきているのだ。これまでのサウジアラビアと同じではないのだ。

市場価格は下落するが、調達価格が上振れするリスク、あるいは中東諸国が権威主義国家側に肩入れするリスク、は低くなくなってしまった可能性がある。


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