英減税撤回と中国統計発表延期でまちまち
- MRA商品市場レポート
2022年10月18日 第2306号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「英減税撤回と中国統計発表延期でまちまち」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はまちまちだったが、主要な景気循環系商品は売られ、その他農産品や貴金属などのいわゆる非景気循環系商品が物色される流れとなった。
就任直後に財源のない大幅減税を打ち出して市場を大混乱に陥れた英トラス政権は減税策をほぼ撤回することを表明、市場に安心感が広がったことが背景。
結局、支持率を得ようとして行う奇策は、景気がよい時であれば何とかなるが、景気が悪化して混乱している状態ではプラスどころかマイナスに作用することを示した。このままであれば早晩、トラス首相は退陣を余儀なくされるだろう。
また、昨日は中国の重要統計の発表がほとんど先送りされることが解った。現在は党大会中であり、悪い統計だと3期目を目指す習近平国家主席にマイナスとなるため、忖度されたとの見方が市場で広がったことも、特に工業金属価格を押し下げた。
そもそも中国の統計はその数字自体が余り信用できず、統計自体にも忖度が行われている可能性は排除できない。
市場は悪い統計が発表されると考えてリスク回避的に動いたが、場合によると想定外に忖度された良い統計が発表される場合も有り得る。
この場合、3期目が確定した習近平国家主席に「花を添える」形になり、悪い統計発表を見込んで売っていた向きの買い戻しが入ることになろう。
【本日の見通し】
本日は複数の経済統計発表とFOMCメンバーの講演が予定されているが、状況を大きく変えるものではないと考えられ、現状水準でレンジワークとなるのではないか。
本日発表予定の経済統計は以下の通り。
9月中国貿易収支(19日までに発表予定) 市場予想 803億ドルの黒字(前月 793億9,000万ドルの黒字) 輸出 前年比+4.0%(+7.1%)、輸入 ±0.0%(+0.3%)
10月独ZEW期待指数 ▲66.5(▲61.9)、現状指数 ▲68.5(▲60.5)
【昨日のトピックス】
中国の経済統計の発表が軒並み延期されている。これまで理由の公表なく、発表が延期されてきたのは、貿易統計、GDP、小売売上高、固定資産投資、住宅価格などである。
現在、党大会が開催中で22日閉幕予定であるため、党大会中に「経済活動の減速を示すような統計を発表させない」とする習近平の狙いがあるように思われる。このような憶測を生むのも理由が公表されないからだ。
今回の党大会では習近平が3期目をほぼ確実にする見通しであるが、経済統計の悪化は習近平ヘの批判が高まることになるためだろう。
そもそもゼロコロナ政策が不評である上、習近平が就任した2012年以降、特に若年層失業率は悪化の一途をたどっており、直近8月の失業率は18.7%に達している。
不動産市況の悪化も続いており、住宅ローンの支払いは続くものの、住宅を取得できない可能性がある国民の数は増えている。この状況で国内の統制を取るため、「思想教育」を行って習近平に忠誠を誓わせ、長期にわたって反乱の芽を摘もうとする戦略のようだ。
また、今回の党大会で習近平国家主席は台湾ヘの武力行使を否定せず、祖国統一を必ず達成するとした。国内の不満が高まる中で国民の目を国外に向けるのはどこの国の為政者も行う常套手段である。
今回のウクライナへの軍事侵攻を考えると、中国も実際に武力行使を行えば反撃に遭い、無傷で台湾を獲得することは難しい。そのため基本的には2024年の台湾総統選で親中派を勝利させ、話し合いによる統合を模索すると予想される。
それの鍵となるのが11月末の統一地方選挙。この結果、対中強硬派の蔡英文総統率いる与党が敗北すれば話し合い路線に、もし勝利すれば武力行使路線に中国は舵を切るのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は小幅に続落した。景気の先行き懸念や株価の急落がリスク回避の売り圧力を強めてきたが、英国が一連の減税策を撤廃、米長期金利も低下してリスクテイクのドル安が進行したことが価格を下支えした。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。
現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし11月頃から米国の増産が始まると予想されるため、早晩、2.に移行すると考えられる。また11月の米中間選挙で共和党が勝利した場合、化石燃料の増産には弾みが付くだろう。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル
2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル
4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル
5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
中期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。
より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
しかし、脱ロシアを継続する一方で、脱炭素も、ということになれば供給面の制限は続くため、原油価格は高止まりすることになるだろう。
足下の脱炭素のための化石燃料採掘制限は、「今を生きる人々」の生活にマイナスに作用していると言わざるを得ない。100年後よりも今である。
Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→) グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、景況感の悪化と修正的な株価の上昇を受けたリスクテイクといった強弱材料が混在する中、50日移動平均線近辺でのもみ合い予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は期近が大きく下落し、期先は小幅に下落した。EUの価格引下げ策の発表を受けた価格の強制的な下押し観測と、欧州のガスタンクが満杯になりつつある中、足下の調達圧力が後退していることが背景。
欧州のガス在庫は、仮に欧州が需要を▲15%削減することができれば、この冬は仮にロシアからの供給が停止したとしても充分な状況。
ただし、ナイジェリアでLNGプラントの輸出がフォースマジュールを宣言するなど、ロシア以外の国からの供給も不慮の途絶のリスクがある上、さらに想定を上回る厳冬となった場合、供給は必ずしも充分ではない。
4月以降はラニーニャ現象収束が期待され、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想されるが、2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなった場合、ノルドストリーム1・2が不稼働のままの可能性が高いことを考えると、2023年のガス調達は厳しい状況が続くことが予想される。
▲15%の在庫が削減できなければ3月頃には在庫は枯渇することが予想され、2023年のガス調達環境は、恐らく2023年よりも厳しくなる。
欧州がこの冬を乗り切れそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきた。
ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高い。
プーチン大統領は、ノルドストリームのパイプライン攻撃を「(ロシア以外の国の)テロ」と断定し、「全てのインフラにテロ行為の危機がある」、と発言した。
このことは、「(それをロシア以外の国のテロ行為として)ロシアが全てのインフラを攻撃する意図がある」といっているに等しい。
今後、ロシアが自国のインフラを破壊して供給懸念を煽るより、より直接的にロシア以外の国のインフラへを攻撃し、恒久的に供給ができない状態にして、強制的にロシアの資源への依存度を高めさせる戦略が採用されるリスクは高まっていると考えるべきだろう。
欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がる。
ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。
また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。
化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止リスクが顕在化している。
Freeportの再開予定は11月上旬から中旬、ナイジェリアは未定。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。
3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。
今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。
・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。
・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。
4.はもはやリスクではなく、顕在化している。
5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西ともさらに急騰しており、過去5年レンジを遙かに上抜けした。ロシアの供給が細る中、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。
10月3-9日のLNGトレードは、745万トン(前週709万トン)と増加、スポットLNGカーゴのシェアは23%(21%)と上昇した。主に欧州向けのターム契約が増加したことによる。
スポットカーゴはスペイン向けの増加を、日中台韓向けの減少を相殺した。日本と韓国の欧州向けカーゴが減少したことが影響している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は下落。米東部の気温上昇見通しでガス需要が減少するとの観測が強まったことが背景。
これまで米全土の「Gas Heating Degree Days」は過去5年平均を上回ってきたが、見通しでは10月19日頃まで上昇した後、10月末には例年を下回ると予想されている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物はまちまち。欧州の調達一巡と価格抑制策で期近は下落、期先は調達環境が厳しい状態が続く見通しであり小幅に上昇した。
しかし、下落したとはいっても欧州のガス価格は供給制限の問題からまだ高値を維持しており、ロシア・ウクライナの軍事的な緊張も緩和していないことからLNGスポットカーゴの需要は冬場を通じて旺盛と考えられ、さらに2023年の調達が2022年よりも厳しくなる見通しであり、期先の価格はまだ高止まりが予想される。
中国の8月の天然ガス輸入(パイプライン+LNG)は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。
パイプラインベースの輸入は+9.0%の413万トンと過去5年レンジを上回り、LNGは▲29.0%の472万トンと過去5年平均を下回っている。
中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。
中国は国内生産増加とパイプラインからの供給増加、景気減速に伴う需要の減少でLNG需要が減少しているとみられる。当面、JKM価格は抑制された状態が続くことになろう。
※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。
1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える
2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう
10月9日時点の日本の発電用LNG在庫は249万トン(前年同月末207万トン、2017~2021年平均239万6,800トン)と減少、過去5年水準を上回っているが減少傾向が強まっている。
日本も欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため調達に問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。
また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。
本日は、EUの価格抑制策は発表される度に市場参加者の売りを誘っていること、欧州の調達一巡から期近は安いと考える。
ただし、弊社のシミュレーション結果も▲15%~▲20%の需要削減ができなければ冬場の欧州の天然ガス調達は不充分であり、本当に在庫がゼロ近傍になれば来年の調達圧力が高い状態は続くことから、期先は下げ難いと考える。
なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップは小幅に下落。石炭もガス調達が一巡したことから調達が一巡したと考えられ、一時の上昇圧力は緩和している。
しかし、南アフリカの港湾・鉄道ストライキの影響で石炭供給が制限された状態が続いており、海上輸送炭市場の需給はタイトな状態が続いているため高値を維持している状況。
Glencoreと東北電力の「石炭チャンピオン交渉価格」が締結された。期間は2022年10月~2023年9月で395ドル(FOB)。前回契約は2021年6月から2022年5月で109.97ドルだったため、200ドル以上の上昇に。
脱ロシア問題は来年も続き、ロシア産以外の高カロリー炭を求める動きが「シーズン入り前から」続くため、価格の絶対水準が切り上がっている状況。
ロシアの体制変更があり、より穏健で、西側諸国が付き合うに足る国にならない限り、ロシア炭が市場の需給を緩和する方向には働き難い。
8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。
価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。
8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。
ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。
現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。
期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270~300ドルであり、これが低下するには需要の減少か鉱山生産の増加が必要条件となる。
10月に入ってからの水準切下げは期近のみではなく期先が下落得しているため、景気が減速するなかでの石炭需要減速を織り込み始めたと考えられる。
しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
本日は、冬場に向けた目先の調達が一巡した可能性が高い一方、南アフリカのデモの影響で海上輸送炭市場がタイトな状態が続くと考えられ、高値を維持の公算。
なお、ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了した場合にはラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。
ただし、恐らく来年も発電燃料調達を巡り、厳しい状況は続くと予想されるため下落しても余地は限定されるとみる。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は続落した。中国の重要統計の発表が先送りされ、「党大会中に悪い統計が発表されると習近平の立場が悪化する」と忖度されたのではないか、との見方が広がり、売りを誘った。
またアルミに関してはRusalヘの制限前にLME指定倉庫に在庫を搬入する動きが続いているとみられ、価格水準は切り下がっている。
昨日は、需給ファンダメンタルズを起因とする下落ではなく、ファイナンシャルな面での相場変動だったといえる。
今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られること、循環的な景気の減速から、この利上げが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。
しかし、「今のところ」米国の利上げ打ち止めが来年の春頃とみられているため、非鉄金属価格は来年春~夏頃に底入れするのではないか。
ロシア産の金属受入禁止は、LMEブランドであるアルミやニッケルに関しては影響が大きいがその他の金属への影響は限定されるだろう。
仮に制裁が強化されてロシア産の金属が禁止となれば、LMEが「ラストリゾート」としてロシア産金属の搬入が駆け込み的に加速し、LME価格が急落する可能性がある。
また、受入が停止となれば今度はLMEヘの金属供給が減少するため、ショートの買い戻しが加速して上昇する展開が予想される。結局、ロシアに対する制裁有無で、アルミ、ニッケルなどのロシアの生産シェアが高い金属価格は乱高下を余儀なくされるだろう。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.は中国のファイナンス関連統計をみるに、中国の需要はやや持ち直している。
しかし、2.3.に付いては再びFOMCメンバーがタカ派的な発言を繰返しているため、1.の効果を相殺している状況。当面、現状水準でのもみ合いが予想される。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。
世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。
ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。
また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
早ければ来年後半から、再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。
本日は、先日の反動と株価の上昇でまずは買い戻しが入ると考えるが、中国の統計発表先送りで市場参加者の同国統計の悪化への懸念は強まっており、上昇余地も限られよう(結局、レンジワークが継続している)。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。
中国の重要統計が習近平への「忖度」と思われる発表延期で、「統計自体が悪いのでは」との見方が広がったことがリスク回避姿勢の鉄鋼製品安を誘発したことが背景。
先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲170万トンの1億3,020万トン(過去5年平均 1億3,429万トン)、在庫日数は28.6日(▲0.4日、過去5年平均30.8日)。
鉄鋼製品在庫は▲17万トンの1,193万2,000トン(過去5年平均1,217万トン)、原料炭在庫は▲26万トンの142万トン(126万4,000トン)、在庫日数は▲1.1日の5.8日(過去5年平均5.3日)。
鉄鉱石・鉄鋼製品の在庫水準は低く、原料炭の在庫はやや積み上がり気味の状態。
中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。
直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。
不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。
この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。
なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。
基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では75ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。
本日も、統計発表先送り報道を受けた鉄鋼製品価格の調整で、やや水準を切り下げる展開か。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。英国が減税策の撤廃を発表、各国長期金利に低下圧力が掛り、実質金利が低下したことが背景。
銀は金価格の上昇を受けて上昇、PGMは株価の上昇を受けて買い戻しが入った。
金の基準価格は+22ドルの825ドル、リスク・プレミアムは▲16ドルの826ドル。
仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば250ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。
ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。
現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。
大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向が重要になる。
足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率そのものであり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。
Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,650ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。
銀価格は、10月3日の上げで上回ったレジスタンスラインを再び全て割り込んだ。銀は供給過剰にあるため、投機的な動きに価格が左右されやすく、テクニカル分析が比較的有効に機能する。
景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。
やや緩和的なスタンスにシフトしたかと思われた金融政策は、再び引締め気味にシフトしていることが実需減速懸念を高めており、銀価格を下押ししている。
再び50日移動平均線を割り込んだため、当面はこの水準が上値として意識されることになろう。
本日は、目立った手がかり材料に乏しく、現状水準でのレンジワークと考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は小動き。原油価格の下落や、ドルの乱高下が価格動向を左右。固有の材料が少ない中でレンジワークとなった。
今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシアの穀物輸出停止リスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。
なお、今のところ中東・北アフリカ地区でのサバクトビバッタの大量発生は確認されていないが、ナイジェリアでは大規模な洪水が発生しており、農業国である同国の生産下振れリスクは、穀物、特に小麦価格を押し上げよう。
本日も手がかり材料に乏しく、現状水準でレンジワークを継続の見込み。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。
・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。
追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。
インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。
◆本日のMRA's Eye
「米中間選挙のリスク」
今年の世界経済の最大イベントの1つである米中間選挙まであと3週間弱となった。過去の米中間選挙の動向を見るに、高い確率で与党が議席を落とし、上院か下院のどちらか、あるいは両方を野党に譲り渡す結果となっている。
1950年以降の中間選挙で大統領の属する政党が落とした議席は、平均で上院3議席、下院25議席。高い支持率を誇ったオバマ大統領ですら第1期の中間選挙では上院で6、下院で63の議席を失っている。
就任以降、物価上昇や株価の上昇率の低下などで支持率を記録的な水準まで低下させているバイデン政権が、今回の中間選挙で議席を失う可能性は高いとみられている。
しかしここに来て不支持率が低下し、支持利率が上昇している。これは、
1.原油価格の下落によるCPIの低下2.学生ローンの返済免除や半導体投資の新法成立などのバラマキ策3.妊娠中絶を巡る最高裁判決(共和党が長い時間を掛けて達成した悲願)に対する女性・左派層の反共和党機運の高まり
などが背景だ。特に大きなうねりとなりつつあるのが3.であるが、それでもやはり生活コストの上昇に伴う生活困窮への不満の方が大きいのではないか。
バイデン大統領は大統領就任直後に、トランプ大統領がサインした入国禁止措置、キーストンXLパイプラインの稼働などの「打ち消し」をするための大統領令に署名した。
そして人種平等の促進、気候変動対策への取組み・パリ協定復帰、コロナ関連の大統領令にサインをしている。
これらは支持者のイデオロギー、主義主張に起因するためこのコラムで良い、悪いを判断しないが、少なくとも足下の支持率低下の遠因となっているのが、キーストンパイプラインの稼働容認の打ち消しだ。
その後、石油メジャーに対して増産要請を行い、戦略備蓄を放出し、サウジアラビアのムハンマド皇太子にまで頭を下げたがそれでも原油価格は充分に下がっていない。
足下の原油価格はバイデン大統領のせいだけではなく、オバマ・トランプから続く「政策の結果論」であり、1人がその責任を負うことは適当ではないと考えられるものの、支持者は現大統領のせいと考えやすい。現在の円安が必ずしも岸田現首相のみの責任ではないことと同じだ。
しかし、現大統領としてはこの状況を容認はできないため、消費者物価引下げのために金融引締めを行わざるを得ない(というよりはFRBの引締めスタンスを容認)が、この金融引締めも股明確に国民生活の重石となるため、恐らく2023年は雇用情勢の悪化で再び支持率は低下すると予想される。
米政権は、2024年の大統領選挙を雇用対策や経済対策で乗り切ろうと考えているのではないか。
しかし、これに失敗した場合、再びトランプ前大統領が復帰する可能性も出てくる。それは米国の民意であるため批判するべきものではないが、これまでの大統領と同様「前の大統領の執行した政策を、大統領令で打ち消す」可能性がある。
具体的には、温暖化対策の見直しやパリ協定再度離脱の可能性があり、さらにはロシア問題で欧州に協力せず、ロシアに肩入れする可能性も出てくる(ただし、対中政策は民主党でも共和党でも変わらない)。
こうなるとこれまでの秩序が再び大きく変わる可能性があり、極めて難しいタイミングでの米国の戦略変更になるため、「政策の不連続性のリスク」は無視できず、中間選挙以上に大きなリスクになると予想される。
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