積極的な金融引き締め姿勢再確認でドル高続くか
- MRA外国為替レポート
2022年10月10日号
◆先週の市場総括
先週は週初こそイギリス新政権が大型減税策の一部撤回や弱い経済指標で利上げペース緩和観測が台頭し長期金利が低下。米国株は大きく反発した。
しかし週央以降は逆に強めの経済指標が続き、ECB理事会議事要旨やFRB当局者発言でタカ派スタンスが確認されると長期金利が反転上昇。株価は下落に転じた。
週末の米雇用統計が良好だったことでFRBの積極的な金融引き締めが続くとの観測で米長期金利が一段と上昇。米国株は急落した。
ドル円相場は144円台中心に推移。一時143円台に下落する場面もあった。しかし週末にかけてFRBのタカ派スタンスが確認され米長期金利が上昇するとドル高。週末は145円40銭台をつけ高値引けとなった。
ユーロは一時対ドルで1.00を回復する場面もあったが週末にかけて反落して0.97台で引け。ユーロ円相場も週央に144円をつけたが引けは141円台。日経平均は前週末の26,000円割れから27,000円を回復したが上値重く伸び悩んだ。
月曜日の東京市場では日経平均が反発。朝方は前週末の米国株安を受けて一時前週末比▲300円安。ただその後は前週の下げ幅が大きかったことで短期反発狙いの買いが入ってプラスに転じた。引けは+278円高の26,070円。
朝方発表された日銀短観では大企業製造業の業況判断DIが改善予想に対して悪化。非製造業の現状判断は小幅改善したが先行き判断は悪化した。
ドル円相場は堅調。144円50銭で始まり朝方90銭まで上昇。その後は60銭に急反落し、80銭近辺で推移した。その後夕刻から欧州市場にかけて再び上昇して145円20銭をつけた。
ユーロ円相場は141円60銭で始まり大きく上下しながら上昇。夕刻から欧州市場にかけて142円40銭に上昇した。その後米国市場朝方にかけては急反落して141円40銭に下落。
ドル円相場も144円80銭~90銭に反落。145円台では介入警戒感も根強かった。
ユーロドル相場は0.98ちょうど近辺を中心に0.9780~0.9830で方向感なく上下した。欧州市場に入ると0.9750に下落し0.9760~80近辺で上下した。
この日、イギリス新政権は市場混乱の原因となっていた大型減税案を撤回。市場は安心感を取り戻し長期金利は低下。欧州株は全般に堅調。
米国では朝方ISM製造業景気指数(9月)が発表され前月52.9から52.4への小幅悪化予想に対して50.9へ大きく悪化。2020年5月以来の低水準となった。新規受注指数が前月51.8から47.1へ悪化した。雇用指数も54.2から48.7へ。
欧州長期金利の低下、弱いISM指数を受けて米長期金利は大きく低下。10年債利回りは一時3.58%まで低下した。ドルは下落。ドル円相場は144円20銭へ、ユーロドル相場は0.9840へ。
その後長期金利は持ち直し、引けは10年債が3.643%、2年債は4.113%。
ドル円相場は持ち直して引けは144円60銭。ユーロドル相場は0.9820台。ユーロ円相場は持ち直し。大幅な利上げ、金融引き締めへの警戒感が緩和してリスク回避が一服。株価が堅調に推移したことでクロス円相場が堅調となった。ユーロ円相場は142円ちょうど近辺で引け。
米国株は長期金利低下を好感し最近の大幅下落の反動もあり大幅高。NYダウは前週末比+765ドル高の29,490ドル。ナスダックは+239ドル高の10,815ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。弱い米国経済指標を受けて金融引き締めペースが鈍化するとの見方が強まり前日の米国株が大幅高。これを受けて日本株も全面高となった。
27,000円目前に迫ったが戻り売りに上値を抑えられ前日比+776円高の26,992円で引けた。
ドル円相場は144円台後半で上下動。日米金利差がドル高円安見通しを支えつつも米長期金利上昇一服と介入警戒感が上値を抑えた。144円60銭で始まり40銭に下落したあと70銭~90銭で上下。夕刻には60銭割れ。
ユーロは堅調。ユーロ円相場は142円ちょうどで始まり午後に大きく上昇して143円ちょうど。ユーロドル相場は0.9820近辺で始まり夕刻は0.99ちょうど近辺に上昇した。
この日、オーストラリア準備銀行(RBA)は利上げを実施したが、利上げ幅は市場予想の0.50%より小幅の0.25%と前回0.50%から縮小した。政策金利は2.35%から2.60%へ。ただし今後も利上げは継続する方針が示された。
これを受けてグローバルな大幅利上げ懸念がさらに緩和した。欧州株は上昇。米国株も急騰した。
発表されたJOLT求職者数(8月)が前月11,239千人から10,053千人に大幅減少し昨年6月以来の低水準となった。
これを受けて利上げペース緩和期待が強まり米長期金利は低下。10年債利回りは3.63%へ、2年債は4.098%へ。NYダウは前日比+825ドル高の30,316ドルと大台を回復。ナスダックは+360ドル高の11,176ドル。
ドルは下落。ドル円相場は一時143円90銭に下落して引けは144円ちょうど近辺。ユーロドル相場は一時1.00ちょうどをつけ引けは0.9980。リスク選好回復でクロス円相場は堅調。
ユーロ円相場は144円ちょうどまで上昇したあと143円60銭に押し引けは143円80銭近辺。ドルインデックスは110.26まで下落した。
水曜日の東京市場では日経平均は小幅高。前日の米国株高を受け堅調に推移したが、27,000円の大台を回復したところで利益確定売りなどが上値を抑制。引けは前日比+128円高の27,120円。
ドル円相場は144円ちょうどで始まり値動き荒く高下。朝方143円50銭台に下落したあと144円台に反発して夕刻には144円50銭近辺。144円割れは底固い値動きとなった。
ユーロ円相場は143円90銭~144円ちょうどで始まり上値重く143円台後半で上下して夕刻は144円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は0.9990で始まり0.9960~70でもみ合い夕刻は144円ちょうど。
この日ニュージーランド準備銀行は0.50%の利上げを実施し政策金利を3.00%から3.50%に引き上げた。オーストラリア準備銀行が利上げ幅を予想外の0.25%にとどめ、市場には過度な金融引き締め懸念がやや後退していたが、懸念が再び強まった。
欧州株は下落。イギリスのトラス新首相はあらためて大型減税の正当性を主張し財政悪化懸念が強まり長期金利には上昇圧力がかかった。
OPECプラス会合では11月の大幅減産が合意され原油価格を押し上げ。
米国ではADP雇用報告(9月)で雇用者数前月比が+208千人と前月+132千人から大きく増加した。
ISM非製造業景気指数(9月)は56.7と前月56.9からやや悪化したものの予想を上回った。サービス業を中心に景気がなお底固いことを示した。
米長期金利は上昇。10年債は3.754%、2年債は4.144%。米国株は小反落。強い経済指標を受け金融引き締め懸念が強まったことで大きく下落して始まったが、その後落ち直して下げ幅を縮めた。
NYダウは前日比▲42ドル安の30,273ドル。ナスダックは▲27ドル安の11,148ドル。
ドルは上昇。ユーロドル相場は0.9840へ下落し引けは反発して0.9980~0.99ちょうど。ユーロ円相場は142円40銭台に下落し引けは143円ちょうど近辺。
ドル円相場144円80銭台に上昇し引けは144円60銭。ドルインデックスは111.22に上昇した。
木曜日の東京市場では日経平均が続伸。前日の米国株上昇が支えとなり、また売り方の買い戻しが進んだ。引けは+190円高の27,331円。
ドル円相場は底固くもみ合い。144円60銭で始まり40銭~70銭で上下し夕刻は50銭~60銭。ユーロ円相場は143円ちょうどで始まり30銭~50銭で上下。
ユーロドル相場は0.9880で始まり0.9910~30でもみ合い。その後欧州時間に入るとユーロは下落。米国市場にかけて終始右肩下がり。一方ドルは終始堅調となった。
欧州株は下落。発表されたユーロ圏小売売上高(8月)は前年同月比▲2.0%と予想以上の減少。一方、9月に開催されたECB理事会の議事要旨が公表され、一部のメンバーは0.50%の利上げを提案したが、大勢は0.75%の利上げを支持。政策金利の水準はなお緩和的として今後も利上げを継続することが確認された。
米国では発表された週次の失業保険新規申請件数が219千人と前週193千人から増加。チャレンジャー人員削減数(9月)も30千人と前月から増加。雇用に変調の兆しとの見方で金利上昇は抑制された。しかしその後FRB高官からタカ派発言が相次ぎ金利は上昇した。
ミネアポリス連銀総裁、クック理事はいずれも、高すぎるインフレを抑制するため利上げを継続する方針を示した。
原油価格WTI先物は前日の流れのままさらに上昇して88.45ドル。米10年債利回りは3.823%に、2年債は4.256%に上昇した。
米国株は主要3指数がそろって反落。NYダウは前日比▲346ドル安の29,926ドルと再び3万ドルの大台を割った。ナスダックは▲75ドル安の11,073ドル。VIX指数は30.52に上昇。
ドルは全面高。ユーロドル相場は欧州市場から米国市場を通じて終始ユーロ安ドル高となり引けは0.9790。
ドル円相場は一貫して右肩上がりとなり145円10銭で引け。ユーロ円相場はユーロ安ドル高の勢いが勝り142円ちょうどに下落した。
金曜日の東京市場では日経平均が反落。米長期金利上昇、米国株下落で利益確定売りが優勢となった。一方、リオープン銘柄には買いが入った。
ただ雇用統計発表前で様子見姿勢も強かった。
為替市場は動意薄。ドル円相場は145円10銭で始まり144円90銭に下落したあと145円ちょうど近辺でもみ合い小動き。その後米国市場朝方にかけて雇用統計発表前にドル円相場は144円70銭台~90銭で推移した。
ユーロ円相場は142円ちょうどで始まり90銭~20銭で上下。夕刻に一時141円70銭に下落したがすぐに持ち直し142円ちょうど近辺を回復。方向感なく上下した。
ユーロドル相場も同様に0.9790~0.98ちょうどで小動きもみ合い。午後に一時0.9770に下落したがすぐに反発して0.98ちょうど近辺。
注目の米雇用統計(9月)は総じて強めの内容。非農業部門雇用者数・前月比は前月+315千人から増加ペースは鈍化して+263千人となったが予想+250千人を上回った。
失業率は3.7%から3.5%に低下。一方平均時給の前年同月比は前月+5.2%から+5.0%に低下した。
これを受けてFRBが積極的な金融引き締めを継続するとの観測が強まり長期金利が上昇。米10年債利回りは一時3.9%台をつけて引けは3.888%。2年債は4.312%に上昇。
ドル円相場は145円40銭台に上昇して引けは145円30銭台。ユーロドル相場は0.9730近辺まで下落して引けは0.9740台。ユーロ円相場はユーロ安に押されて141円20銭近辺に下落したあと持ち直し引けは141円60銭台。
米国株は積極的な金融引き締め観測が重石となって大幅続落。NYダウは一時▲780ドル安となり引けは▲680ドル安の29,296ドル。ナスダックは▲420ドル安の10,652ドル。VIX指数は31.86に+0.84ポイント上昇。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
雇用統計が一定の強さを示し、積極的な金融引き締めが続くとの見方が強まった。今週の指標とくに消費者物価指数で、一段と金融引き締めへの警戒感が強まるか。
月曜日 中小企業楽観指数(9月)
水曜日 生産者物価指数(9月、前年同月比、予想+8.4%、前月+8.7%)
木曜日 消費者物価指数(9月、前年同月比、予想+8.1%、前月+8.3%、コア指数、予想+6.5%、前月+6.3%) 米週間新規失業保険申請件数
金曜日 小売売上高(9月、前月比、予想+0.2%、前月+0.3%) ミシガン大学消費者信頼感指数(10月、予想59.0、前月58.6) 同期待インフレ率(1年、前月4.7%、5年‐10年、前月2.70%)
2.FOMC議事要旨、FRB当局者発言
水曜日にFOMC議事要旨(9月開催分)が公表される。同会合では出席メンバーの予測が示され、政策金利見通しが大幅に上方修正された。あらためてタカ派スタンスを確認することになりそうだ。
さらに当局者発言も相次ぐ。ハト派的な意見が多少なりともみられるか、あるいはタカ派一色となるか。
10月のFOMCでの利上げ幅は0.75%との見方が大勢となっているが、長期金利上昇ののりしろがどれほどあるか、米長期金利の反応に注目。
3.ECB当局者発言
米国以外でも金融引き締めの動きが続くなか、ECBもタカ派に傾斜。利上げ継続観測が強まっている。エネルギー供給懸念から景気悪化観測が強まるなか、積極的な利上げが継続すれば一段と景気悪化の可能性が強まる。
10日、11日にはレーン専務理事が、12日にはラガルド総裁が発言する。景気悪化を厭わぬタカ派姿勢をあらためて示すか。
ほか、火曜日にはIMF世界経済見通し公表。木曜日からG20財務相中銀総裁会議が開催される。
◆今週のMRA's Eye
積極的な金融引き締め姿勢再確認でドル高続くか
相次ぐFRB幹部のタカ派発言や強めのISM非製造業景気指数や雇用統計を受けて、利上げペース緩和期待は再び後退した。
弱めのISM製造業景気指数や求職者数で米長期金利は上昇一服しやや低下していたが一転して反発。2年債利回りは4.3%台に上昇。9月のFOMCでFF金利予測の水準が引き上げられて以降、高止まりが続く。
10年債利回りは同様にFOMC直後に4%に迫ったあと、景気後退懸念で3.6%まで低下。足元では再び3.8%台に反発した。
この間のドルインデックスの動きをみると、2年債利回りよりも10年債利回りの動きに連動している。あるいは金利反発にドル上昇がやや劣後。
ドルインデックスはFOMC後に115ポイントに迫り、年初来高値を更新。2002年以来、20年振りの高値をつけた。その後、10月5日に110ポイント割れに反落。一転して持ち直したが112ポイント台への反発にとどまる。
ドルインデックスはユーロドル相場のウェートが高く連動制が高い。
ユーロドル相場は0.95台まで下落したあと1.00パリティに反発、その後反落したが足元は0.97台半ばと半値戻しにとどまる。
欧米間の景況格差や金融政策スタンスの格差を反映。ECBのタカ派姿勢を再確認したことでユーロが対ドルで底固さを増した面もあろう。
ただ足元の今後は政策金利動向よりも景気動向へ移る可能性を視野に入れる必要がある。
金利との相関でいえば、2年債よりも10年債との連動制が強まるだろう。欧米の金融当局は景気後退リスクに構わず積極的な金融引き締めを継続するスタンスを明確にしている。一方で、経済指標は景気減速が強まっていることを示し始めた。
米国の雇用情勢もなお堅調との見方はあるが、細部をみれば変調も垣間見える。
政策金利を反映する2年債が高止まり。一方、先々の景気後退やインフレ率の低下、さらに安全志向の資金流入によって、10年債利回りはひと足早くピークアウトするのが通常の流れだ。
ここまでは金利水準が全体的に上昇しながら逆イールドが強まってきた。今後は2年債と10年債利回りの逆行、さらには利上げ打ち止めが具体的になれば逆イールドのまま金利水準が低下する流れとなる。
市場の関心が金利と景気の両睨みとなるなか、10年債利回りの上昇が一服すればドル先高感が緩和、少なくとも高値波乱となろう。さらに10年債利回りが低下すればドル高は転換するとみられる。
現在の局面では、景気後退がより確実な情勢となり、その後に利上げ打ち止めが現実となる流れとなる。
高止まりするドル金利の支持がある限りドル高の反転にはやや時間がかかりそうだが、転機は近づいているとみられる。
円を中心にしてみるとどうか。円独歩安が急激に進んだのは今年の春から初夏にかけて。その後クロス円相場は高値波乱、上下動が続く。ドル高円安はもっぱらドル高が主要因となっている。
そうしたなかで円買い介入が実施されたが、短期的には、円独歩安にブレーキをかける、自国通貨安の防衛、という理由は通じにくい。
ドル円相場の水準は98年の最高値を試す展開で危機感は募るが、急激な円安局面はもっと早い段階に生じていた。
次の円買い介入がいかなる値動き、タイミングのなかで行われるのか。介入は単発で終わることは稀だが、単発でその性格は判断しにくく、2回の介入を総合的にみて、その意味、目的、スタンスが推測できる。次の介入が、その有無も含めて、極めて重要だ。
足元ではドル独歩高のなか、ドル円相場は上昇しているが、クロス円相場はやや円高に振れている。
介入実施により円安が緩和しているとみられ、介入に効果があった示唆でもある。しかし、逆に、ドル円相場とクロス円相場が逆行し、円全面安ではない状況で円買い介入は難しいかもしれない。
金利動向が相場に与える影響は無視できないが、結局のところ、投機的な売買も含めた為替需給が相場を動かす。円買い介入は確実に為替需給に影響を与えている。
8月の日本の貿易収支は過去最大の赤字、2兆8千億円に達した。9月の介入額はこれとほぼ同額。そこに介入スタンスが示されているのか。需給調整効果が目的なら10月も同額の介入は必要だ。
日本の投資家は、すでに円安が相当進んだこの水準から積極的に外貨投資を進めるより、押し目買いに徹するだろう。円高に振れるリスクも考慮される。投機筋も慎重なスタンスとなろう。
ドル金利上昇と介入警戒感の狭間で積極的なドル買い円売りポジション積み上げは以前ほど簡単ではなくなった。もっぱら他の通貨に対するドル買いにシフトしたようにもみえる。
今後は決算を迎え、さらに年末から年初に来年の戦略を考える時期となれば、手放しの円売り戦略はとりにくくなるだろう。そのタイミングで米10年債利回りが頭打ち、低下基調となれば、円売りの抑止、円高方向への調整が現実のものとなる可能性がある。
リスクバイアスはなおドル高円安サイドにやや傾いているが、中立、乱高下、ボラティリティの上昇には要注意。次第にリスクバイアスがドル安円高サイドに転ずる可能性に留意したい。
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