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エネルギーセクター堅調・金属セクター軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年10月10日 第2299号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「エネルギーセクター堅調・金属セクター軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は発電燃料以外のエネルギー、その他農産品などが上昇し、金属セクターが下落した。

注目の米雇用統計は前月から減速も市場予想を上回り、「減速はしているいるが市場が想定しているほどではない」と解釈され、金融引締めは続くもののまだ雇用情勢は健全、という判断になったことが特に米国が消費主体の景気循環系商品価格の押し上げ要因になったと考えられる(詳しくは昨日のトピックスとエネルギーのコラムを参照)。

OPECの減産による原油価格上昇やそれに伴う期待インフレ率の上昇が市場を混乱させているが、これも結局、各国の金融引締めを加速させる方向にバイアスがかかるため、最終的には下落要因になると考える方が適切ではないか。

現在、2%の物価目標達成のために金融引締めが行われており、それはリビングコストの低下を促すため、特に為政者からすれば是とされる。米国の中間選挙はもう1ヵ月後なのだ。

しかし、長期的な視点に立つと、脱炭素と脱ロシアを達成するためにはなにがしかのインフラ投資が必要であり、金利水準は低い方が望ましい。

しかしそれを行うとインフレが助長されてしまうため、リビングコストの上昇を通じて期的には明確に景気にマイナスとなる。現在の金融・財政政策は過去の金融・財政政策の結果発生した経済状態を改善するために行われているため、過去の清算であり、これは日米欧とも同じである。

これをさらに修正する場合、市場はやはり混乱することになるだろう。

【本日の見通し】

週明け月曜日は、主要市場の米国がコロンブスデーのため休場であり、動意薄く現状水準でもみ合うと考える。一方、国慶節明けの中国勢の復帰で工業金属は堅調な推移となろう。

今週の注目は11日のIMFの経済見通し。需要動向を占う上で重要な指標であるが高い確率で下方修正が見込まれる。

また、OPECプラスが減産を決定したことを受けて、12日に発表される米DOE月報の内容には注目している(期待インフレ率などへの影響があるため)。

【昨日のトピックス】

週末発表された雇用統計は、前月比+26.3万人の雇用者増加となり、失業率は予想外に低下した。労働参加率の低下(62.4%→62.3%)が影響したとみられる。

雇用は娯楽・ホスピタリティやヘルスケアなどを中心に増加、運輸・倉庫・金融では減速している。結局、通常雇用の回復が遅れるサービス業の雇用は増加したが、調整が比較的早い金融や運輸などの分野の減速が見られた、ということだが総じて米国の雇用環境はタイトな状態が続いている、ということだろう。

結局、米国の金融引締め見通しに変化はなく、長期金利・短期金利とも上昇し、株価が下落するという結果となった。恐らく11月のFOMCでは75bpの利上げが検討されることになるだろう。

FEDウォッチでは50bp、75bpの利上げが予想されているが、81.1%の確率で75bpの利上げが想定されており、1週間前の56.5%から大きく上昇している。やはり金融引締めが世界景気を減速させる流れは継続、と見た方が良い。

一方、商品分野で注目される石油ガス掘削業で働く労働者の数は133.8千人(前月133.4千人)から小幅に増加した。しかし今年の7月にピークを打ったのち、低下傾向にある。恐らくハリケーンなどの影響もあるが、原油価格の下落もあって労働者が減少しているとみられる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続伸した。OPECプラスが▲200万バレルの減産で合意したことで需給タイト感が広がっていることが背景で、長らく維持してきた50日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けした。

また、米雇用統計が前月から伸びは減速したものの、市場予想を上回ったため「ほどほどに良い統計で金融引締めの『加速』がなく、米需要はまだ堅調」と判断されたことも価格を押し上げたようだ。

原油価格の高騰は需要の減少に寄与するとみられるものの、価格が需要を減じるに至るには消費スタイルの変化が必要であり、1~2週間では影響を受けないということだろう。

改めて試算してみると、この需要が低下しないという前提に立つと、遵守率50%のベースでこの下期(10月~3月)の原油価格は、Brentは90.3ドル、WTIは82.7ドル、遵守率100%のベースでBrentは96.8ドル、WTIは89.1ドルとなる。

弊社の予想は基本的に米エネルギー省の需給見通しを元に算出しているため、今週発表のDOE統計次第では、11月の年度見通しで水準を変更する可能性がある。

しかし、価格上昇は需要を減じるため実際にはここまでの上昇にはならないと予想される。また、景気減速局面でOPECが減産を維持し続けることができるかどうかは不透明だ。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし11月頃から米国の増産が始まると予想されるため、早晩、2.に移行すると考えられる。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。ただし想定よりも景況感の悪化速度が速い様に感じる。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、米国の金融引締め継続観測と、OPEC減産による短期的な需給のタイト化から価格は高値を維持すると考える。

現状、テクニカルな売買が主体と考えられ、当面は50日~100日移動平均線のライン(Brentで94ドルから102ドル)での推移が予想される。

ただしコロンブスデーのため米国市場が休場であり、基本、動意薄い展開を予想。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に下落した。欧州政府当局が価格に上限を付ける対策を検討していることや、在庫の積み上がりが足下の調達需要を低下させていることが背景。

欧州のガス在庫は、仮に欧州が需要を▲15%削減することができれば、この冬は仮にロシアからの供給が停止したとしても充分である。しかし、▲15%の在庫が削減できなければ3月頃には在庫は枯渇することが予想され、2023年のガス調達環境は、恐らく2023年よりも厳しくなる。

おかしな話だが、景気が悪くなって需要が減少するのならば、在庫は積増しできるという話になる。

欧州がこの冬を乗り切れそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきた。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。

そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」になるのではないか。恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束すること、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想される。

しかし、2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなった場合、ノルドストリーム1・2が不稼働のままの可能性が高いことを考えると、2023年のガス調達は厳しい状況が続くと予想される。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がる。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。

これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリーム問題をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化し始めている。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西ともさらに上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。米天然ガス統計で在庫の予想を上回る増加が確認されたため、欧州ガス価格の下落もあり水準を切り下げた。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近は大幅に下落得、欧州のガス価格が下落したことを受けたもの。足下は今年の冬場に関しての調達の懸念はかなり後退している。

しかし今年の冬場の着地次第では来年の調達がより厳しくなるため、2023年のガス調達は今年よりも状況が厳しくなる可能性はある。今のところ中国の景気が劇的に回復するシナリオを2023年は予想していないが、仮に中国の経済活動が大きく回復した場合、アジアのLNG需給もタイト化が懸念される。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもガスを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇していると考える。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月25日時点の日本の発電用LNG在庫は269万トン(前年同月末300万トン、2017~2021年平均233万5,000トン)と増加、過去5年水準を上回っているため「足下の」在庫は充分。

しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

週明け月曜日は、ロシア・欧州の対立が続き、冬場が目前に迫る中、調達が進んだとは言っても高値を維持すると考える。

単純なシミュレーションでも、▲15%の需要削減ができなければ冬場の欧州の天然ガス調達は不充分であり、かつ、本当に在庫がゼロ近傍になれば来年の調達圧力が高い状態は続くことから、期先は下げ難いと考える。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは大幅に下落。ガス価格が下落したことで目先の調達圧力が一巡したとかんがえられるため。それ以上に欧州の景気減速が強く意識された可能性があり、期先の価格も270ドルまで低下した。

短期的な需給緩和であれば期近のみ下落するが、期先も下落していることは需要自体の減速が意識され始めた可能性がある。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270ドルであり、これが低下するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

10月に入ってからの水準切下げは期近のみではなく期先が下落得しているため、景気が減速するなかでの石炭需要減速を織り込み始めたと考えられる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

週明け月曜日は、この大幅な下落で実需の買いが期待されることから、短期的な上昇は有るがガス在庫の積み上がりと景気減速に伴う需要減少観測から欧州ガス価格が調整しているため、上値も重いと考える。

なお、この冬が終了した場合(来年3月頃)、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)と金融引締め加速を受けた景気の減速による需要の減少で下落しようが、ガスの積増しが厳しい状況になると予想されるため、結局大幅な下落にはならないと考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に下落した。ロシア産の金属の取扱禁止をLMEが検討し始めたことでLMEへの供給量低下で価格が上昇していたがそれが一巡、景気動向を意識した売りとドル高を意識した売りに押された。

今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られること、循環的な景気の減速から、この利上げが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。

米国の利上げ打ち止めが来年の春頃とみられているため、非鉄金属価格は来年春~夏頃に底入れするのではないか。

なお、LMEのCOTレポートとCFTCレポートでは、CME銅銅、LME鉛・アルミ・ニッケルが売り越しに転じており、やや様相が米中対立が始まった頃の状況に戻りつつある。

このときもスズや亜鉛などはネット売り越しにならなかったが、その他の金属は売り越し幅を拡大して価格が下落している。中国政府の2023年の経済対策がどの程度の物になるのかが注目される。

ロシア産の金属受入禁止は、LMEブランドであるアルミやニッケルに関しては影響が大きいがその他の金属への影響は限定されるだろう。

仮に制裁が強化されてロシア産の金属が禁止となれば、LMEが「ラストリゾート」としてロシア産金属の搬入が駆け込み的に加速し、LME価格が急落する可能性がある。

受入を拒否すれば今度はショートの買い戻しが加速して上昇する可能性がある。結局、ロシアに対する制裁有無で、アルミ、ニッケルなどのロシアの生産シェアが高い金属価格は乱高下を余儀なくされるだろう。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、これまで強まっていた金融引締め観測が「やや」後退したことで上昇余地を探る展開になりやすくなった。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.3.が満たされているが、2.が満たされなくなった。

金融引締めは今後も継続することを考えるとやはり上値は重く、中国の公共投資の実施期待が価格をある程度下支えする程度に止まるのではないか。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

週明け月曜日はFOMCの結果を受けて、米金融引締めに変更はないことから金融面で下落すると考える。しかし国慶節明けの中国勢による買いと、ここまで大幅に下落すると安値拾いの買いも入るため、下げ渋るだろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は休場、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は休場、上海鉄筋先物は休場だった。

中国の大型連休のため市場参加者が限られ、買い手不在の中で小動きとなっている。

先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲2,700万トンの1億3,510万トン(過去5年平均1億3,225万トン)、在庫日数は29.8日(▲0.6日、過去5年平均29.8日)。

鉄鋼製品在庫は▲45万トンの1,143万2,000トン(過去5年平均1,235万8,000トン)、原料炭在庫は+20万トンの194万トン(127万2,000トン)、在庫日数は+1.1日の8.0日(過去5年平均5.3日)と増加しており、各々需給は緩和しつつある状況。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

週明け月曜日は、中国の国慶節の明けの中国勢の買いで水準を切り上げると予想。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米雇用統計はFOMCメンバーの利上げペースを鈍化させるような内容ではなかったことから、実質金利の影響は限定されたが、ドル高が進行してリスク・プレミアムが低下したことが価格を下押しした。

銀は金価格の下落を受けて大幅に下落、PGMは株価の下落で急速に水準を切下げた。

金の基準価格は+1ドルの803ドル、リスク・プレミアムは▲19ドルの892ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば250ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,100ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。

荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2015年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,200ドル台だった。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。

なお、足下、再び金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。

銀価格は、10月3日の上げで主要なレジスタンスラインを上回った。基本的には、景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

これまでリスク資産価格に対してマイナスのドライバーだった米金融政策が、やや緩和的な方向にシフトするならば、景気減速(実需減速)の懸念がやや緩和するため、金融面・実需面で上昇しやすくなる。

しかし、米国が金融引締めを止める訳ではないことから、基本的には軟調な推移となりやすく、当面は100日移動平均線のサポートと200日移動平均線のレジスタンスの間(20ドル~22ドル)での推移になりそうだ。

週明け月曜日は、一旦買い戻しが入るものの、米国市場休場で動意薄く現状水準を維持すると見る。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。OPECプラスの減産を受けてガソリンを含むエネルギー価格が上昇したことが材料となった。基本的に今年の北米は不作の見通しであることも価格を押し上げている。ただし、FOMCを受けたドル高進行が上昇を抑制した。

12日発表の米需給報告の市場予想は以下の通り。

・10月米単収見通し市場予想(前月)トウモロコシ 172.1Bu/エーカー(172.5)大豆 50.6Bu/エーカー(50.5)小麦 NA(47.5)

・10月米生産見通しトウモロコシ 139億379万Bu(139億4,400万Bu)大豆 43億8,031万Bu(43億7,800万Bu)小麦 NA(17億8,300万Bu)

・10月米輸出見通しトウモロコシ NA(22億7,500万Bu)大豆 NA(20億8,500万Bu)小麦 NA(8億2,500万Bu)

・10月米在庫見通しトウモロコシ 11億2,628万Bu(12億1,900万Bu)大豆 1億4,993Bu(1億4,900万Bu)小麦 5億6,252万Bu(6億1,000万Bu)

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシアの穀物輸出停止リスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

週明け月曜日はコロンブスデーのため、米国市場休場。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。

◆本日のMRA's Eye


「日本の人口動態のリスク(その2)」

◆日本の労働人口問題

日本はどうか。日本は1963年に高成長が期待される人口ボーナス期入りしている。この期間、当時の総理大臣だった池田勇人内閣が掲げた「所得倍増計画」が実行されていた。これにより、日本は人口ボーナス期のメリットを活かし先進国入りを果たした。

しかし1991年に人口動態はピークを迎え、不動産市場が混乱して日本経済は急減速を余儀なくされた。いわゆる不動産バブル崩壊である。その後、2003年から労働人口が非労働人口の2倍を下回る人口オーナス期入りし、長期景気低迷に陥った。なお、日本の人口オーナス期入りは前回の調査から2年早まっており、日本の構造的な成長力の減速は想定よりも早いタイミングから始まっていたことも示された。

今後も日本の人口減少は継続する見込みであり、炭素排出量実質ゼロを目指す2050年には2021年の1億2,461万人から▲16.7%の1億378万人への減少が予想されている。

日本の生産年齢人口は2050年の段階で2021年から▲1,914万人(▲26.4%)減少し、国民に占める労働者のシェアは58.4%から51.4%に低下することが見込まれる。

また、人口ボーナス指数の推移を見ると、2050年には1.06倍まで低下する見通しだ。即ち、生産年齢人口の数と子供・高齢者の人口の数がほぼ同じになり、生産年齢人口の国民はほぼ同数の非生産年齢人口を支えていく必要が出てくることになる。

これを回避するために定年時期の延長などの労働力確保対策を日本は行っているが、仮に69歳までを生産年齢人口とした場合、労働力の減少は▲1,271万人に、74歳までとした場合▲509万人の減少に止めることができる。労働力の減少を抑制するためには定年の引き上げは重要な選択肢の1つとなる。

◆人口と労働力が減少する中で

過去データを元にすると、人口の増減とエネルギー消費の間には高い相関性があることが確認できる。簡単な回帰分析を行うと、脱炭素の達成目標である2050年には、日本の一次エネルギー消費量は、2021年の年間17.7エクサジュール(※)から▲45.3%の9.7エクサジュールに減少することになる。

ちなみにこの9.7エクサジュールという水準は1968年頃の日本の一次エネルギー消費量と同じ水準だ。

日本はエネルギー資源をほぼ100%海外から輸入しているため、この熱量に相当するエネルギーを購入する必要がある。

1968年の人口は1億282万人と2050年の国連予想とほぼ同数なのだが、1968年の労働人口のシェアは69.3%と高く、人口ボーナス指数も2.26倍と2050年の予想の1.06倍の2倍を超える。過去の同じような時期と将来と比較すると、将来の方が労働者の負担は重い。

先ほどの一次エネルギー消費量を「稼ぎ手」である労働人口で割れば、労働人口1人あたりが海外から購入しなければならない熱量が求められるが、2021年は労働人口1人あたり、年間243.6テラジュールだったのに対して、2050年は182.0テラジュールに減少が見込まれる。

1人あたりのエネルギーを取得するための負担は▲25.3%の減少となる。

しかし、1人あたりのエネルギー取得の負担が2021年よりも軽くなるのは2030年頃であり、当面、エネルギーをいかに確保するかは重要な課題となる。

※エクサジュール エネルギーの単位。1エクサジュールは1ジュールの10の18乗、テラジュールは10の12乗に相当。


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