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英中銀介入で市場安定 軒並み買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2022年9月29日 第2293号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「英中銀介入で市場安定 軒並み買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は軒並み上昇した。大規模減税などを打ち出した英国の政策を受けて英国が株安・債券安・通貨安のトリプル安に陥る「英国債ショック」が発生していたが、英中銀が市場沈静化のための国債無制限購入を決定したため、長期金利が低下、その他の市場の危機感も若干緩和したことが影響し、買い戻しが優勢となった。

発電燃料はロシアが欧州向けのガスを完全に停止する可能性を示唆したことで欧州価格は上昇したが、アジアは足下の調達一巡で期近は上昇しなかった。冬が目前に迫っており、この春以降市場の話題の中心の1つだった欧州ガス・パニックのシーズンが再び始まろうとしている。

【本日の見通し】

本日は、英国債ショックの影響緩和から買い戻しが入る商品が多いと考えられるが、本日もFOMCメンバーの講演が多数予定されており、恐らくタカ派な発言を繰返すと予想されるため、上値も重いと考えられる。

セントルイス連銀総裁講演クリーブランド連銀総裁パネル討論会に参加サンフランシスコ連銀総裁基調講演アトランタ連銀総裁質疑応答メキシコ中銀政策金利発表チェコ中銀政策金利発表

発表予定の経済統計で重要なところは、米週間新規失業保険申請件数、過去のデータであるが米GDP確定値。恐らくそれほど悪い内容にならないため(GDPはほぼ改定値から変わらず)、そこまで積極的に材料視はされない可能性。

米週間新規失業保険申請件数 市場予想 21.5万件(前週21.3万件)Q222米GDP確定 市場予想 前期比年率▲0.6%(改定値 ▲0.6%) 個人消費 +1.5%(+1.5%) GDP価格指数 +8.9%(+8.9%) コアPCE +4.4%(+4.4%)

【昨日のトピックス】

昨日、英中銀は債券市場で無制限に国債を購入(発行期間20年超の超長期債)を対象に10月14日まで購入を行うと発表、市場は急速に安心感を取り戻した。

臨時的な措置であり市場としては歓迎すべきものだが、新首相のトラス氏の政策はインフレを抑制しなければならない状況にありながら、財政出動を拡大するものだったため政策のちぐはぐさが市場の信頼を喪失したといえる。

しかし、今年の冬の光熱費が1世帯あたり100万円/年を超える可能性がある中、国民の生活支援は必要であり、財政出動を一律に批判はできない。そのため債券市場に政策方針の「ねじれ」が生じる状況は続くと見られ、英国債が今後も売られて市場を混乱させる可能性は低くないと予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。英国による国債買い入れでポンド高・ドル安が急速に進んだことに加えて、米石油統計が予想比で強気な内容だったことが価格を押し上げた。

金融引締め加速を材料にかなり急ピッチで売られていたため、ハリケーンの上陸もあり買い戻しが入った。ただしハリケーンがメキシコ湾を逸れたことで、原油プラットフォームには影響が出ず、需要面に影響が出るため最終的には原油価格の下落要因となる。

これまで、ドル高・原油高の組み合わせだったが今はドル高・原油安といわゆる通常の状態に戻っており、需給ファンダメンタルズ<金融要因、という構図になっている。

早晩、ドル安・原油安に転じると予想され、米経済が転換点に差し掛かった(ないしは転換した)ことを意味し、今後は米金融政策動向の影響が需給ファンダメンタルズ要件を上回るため、軟調推移が予想される。

ただし、在庫などで説明可能な水準から下振れしており、ややオーバーソールドといえなくもないため、タカ派姿勢に若干の緩和があれば一旦買い戻しが入ると予想される。

今後はOPECプラスがどれだけ減産してくるかに焦点が移ることになるが、景気が減速するなかでは減産による価格下支え効果はそれほど大きく無い。

前回コロナ・ショック時以降のOPECプラス減産による価格上昇は、

1.大規模経済対策で景気が回復基調にあったこと2.想定よりもかなり早くワクチン開発に成功し、経済活動が早期に回復したこと3.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、OPECプラスが大幅減産を成功、OPECプラスの信頼(供給者として信用できるという意味ではない)が回復したこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり、3.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPECプラス諸国が外貨獲得競争に陥り、OPECプラスが増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することが予想される。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

欧州各国はロシア産原油価格に上限を設定しようとしているが、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

価格に上限を付けたとしてもそれが機能するのは供給過剰の時のみである。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は2.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、3.に移行する可能性が出てきた。

さらに米国がSPRを放出するなどの「追い打ち」を掛けているため、4.ヘの以降も有り得る状況。結局、景気が悪化する局面では供給制限が余りに顕著でない限りは価格は下落する、ということである。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。ただし想定よりも景況感の悪化速度が速い様に感じる。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日も引き続き、FOMCメンバーの講演を受けて恐らくタカ派は発言が相次ぐと予想されることから、調整圧力が再び高まる展開を予想。ただし英国債ショックが緩和して株に上昇圧力が掛っているため、下値も堅いか。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。ノルドストリーム1・2の破壊工作に加え、ロシアが欧州向けのガスパイプラインを停止する意向を表名したことで、冬場の調達リスクが再び意識されたため。

弊社は「ロシアの嫌がらせや、欧州域内の生産トラブル、LNG輸出の影響がなかった場合」冬場のガス供給に問題がないという試算結果を得ているが、そのうちの1つが不透明になったため、やはり冬場の調達が安定するかどうかはなんともいえない状況に。

仮に欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、ガス在庫はLNGと合わせて凡そ1,300億立方メートル程度となる。

フローの供給と需要を以下の通りと見積もると

・トルコラインなどからの供給が継続 8,000万立方メートル/日・10月~3月期のノルウェーの輸出とその他の国の増産 4億3,500立方メートル/日(BP2021年データの欧州合計から英国とウクライナを控除したもの)・10月~3月期の欧州LNG輸入 2億立方メートル/日

・直近5年間の10月-3月のEU19のガス消費量平均 13億8,100万立方メートル/日

ロシアからの欧州向けの供給が完全に停止しても、在庫は欧州全体で195日分ある計算となり、10月から3月のガス供給は充分、という計算となる。

この計算は概算であるため正確ではないが、これまでの戦略が奏功して以前よりは冬場を乗り切れる可能性が高い。

もちろん気温が低下したり、域内の生産が減少したり、今回の米Freeportの事故が発生したり、といったことがあれば供給が足りなくなる可能性は高いため、引き続き供給は綱渡りであり、価格は冬期中は高止まりしよう。高騰の可能性もある。

ただし、この冬を乗り切ったとしても2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなる可能性はあり、さらに在庫積増し開始時期の始めからロシアのガス供給が絞られる可能性があることを考えると、来年の夏・冬も安泰とはいえない。

結局、脱ロシアが達成されるまでは供給は不安定ということだろう。

ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言、TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtuとなる。

これはロシアがこの冬、ガス供給を完全に止める意思があることを示唆している。ノルドストリームの破壊工作はロシア側が意図して実行した可能性は否定できない。ノルドストリームの修復にどれぐらいの期間が掛るのか、現時点では不透明である。

しかし、この冬が乗り切れてしまいそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきたといえる。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。

そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」になるのではないか。恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束すること、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想される。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。

これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情により本日更新しました。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリーム問題をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。

4.はもはやリスクではなく、顕在化し始めているともいえる。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも急上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情により本日更新しました。

米国天然ガス先物は大幅に下落。ハリケーン「イアン」がフロリダ半島に上陸、メキシコ湾への影響が限定される中で、需要の減少観測の方がより材料視されたため。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近は下落、期先は上昇。ノルドストリームの破壊工作報道を受けて欧州ガス価格は上昇したが、先日発表された経産省の統計で最大輸入国である日本のLNG発電用在庫水準が高いことが確認されたことで、調達圧力がやや弱まっていることが背景。

しかし、この冬は50ドルを上回っており、ノルドストリームの稼働は恐らく数年単位でないだろう、という見方から期先の価格は50ドルを上回ってきた。

一方、気温というよりは金融引締めの効果やエネルギー高で倒産する企業が欧州などで増加していることによる需要面のリスクが意識され始めている。

ただ、需要は気温次第であることに変わりはないため、少なくともこの冬は景気による需要減少観測の影響は軽減されるのではないか。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもガスを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇していると考える。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月25日時点の日本の発電用LNG在庫は269万トン(前年同月末300万トン、2017~2021年平均233万5,000トン)と増加、過去5年水準を上回っているため「足下の」在庫は充分。

しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

9月12日-18日のLNGトレードは682万トン(先週696万トン)と減少、スポット取引のシェアは22%(前週23%)と変わらず。

スポット需要はスペインや東南アジアで増加した。ターム契約は北欧とイタリアで減少、日中台韓の調達は増加。

本日は、ロシアが欧州向けのガスを完全に止める意思を表明し始めたことで欧州ガス価格が上昇するため、アジア価格も上昇すると見る。

米国産天然ガスについては生産に影響が出ていない一方、ハリケーンの影響で需要が減少、輸出も停滞するため下落の見通し。

いずれにしても今年の冬場の調達リスクが解消している訳ではないため、高値は維持の公算。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは期先が下落した。足下は競合燃料である欧州ガス価格上昇を受けて高止まりしたままだが、景気への懸念から需要が減少する可能性が意識されているためと考えられる。

現在の生産コストの指標である期先の価格は、長らく維持してきた300ドルを下回り、290ドルに低下した。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情により本日更新しました。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが290ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は290ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は、ロシアのガス供給停止懸念を受けたガス価格の上昇が期近の価格を押し上げるが、景気の先行きへの懸念が強まっていることから徐々に期先には下押し圧力が掛るのではないか。

しかし、基本的に冬場の調達に目処が立つまでは石炭価格は高止まりしやすい。ガス在庫の積み上がりを受けた代替燃料としての在庫積増し需要、供給面の制限(石炭輸出主要5ヵ国(豪州・ロシア・インドネシア・米国・南アフリカ)の輸出は過去5年の最低水準を回復していない)から高値は維持の公算。

なお、この冬が終了した場合(来年3月頃)、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は軒並み上昇した。英国債ショックを受けて英金利が上昇していたが、これを回避するため英中銀が無制限の国債購入方針を発表、英長期金利が低下し英ポンド高・ドル安が進行したことが価格を押し上げた。

ここまでの調整が大きかったこともあり、ファイナンシャルな面での価格上昇だったといえる。

ベンチマークである銅に関しては、人民元建て価格に心理的な「上限」があり、2000年以降、人民元建ての価格が65,537人民元を上回ったことがない(税考慮しない、LME銅価格に単純に人民元スポット価格を乗じた物)。過去この水準4回トライしているがこの水準を上抜けしたことはない。

逆に価格が下落する中では打診的な買いも入りやすいため、実需筋の安値拾いの買いが価格を支えると予想される。

中国の経済対策期待が価格を押し上げると予想していたが、ゼロコロナ政策の堅持に加えて金融政策の影響が需給バランスのタイト化期待を完全に相殺して上回っている状況。

今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られることから、この利上げラッシュが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。

米国の利上げ打ち止めが来年の春頃とみられているため、非鉄金属価格は来年春~夏頃に底入れするのではないか。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が世界に波及していること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

中国政府の経済対策と、電力不足による金属供給減少が一定の価格下支え効果をもたらすと予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国の重要統計をみるに回復基調にあるが、2.3.が強く満たされていない。

この状況を勘案すると、やはり上値は重く、公共投資の実施期待が価格をある程度下支えする程度に止まるのではないか。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、英国債ショックの影響緩和で買い戻しが続くとみるが、FOMCメンバーの講演が再び多数予定されておりタカ派発言が繰返される可能性は高いため、上値も重いと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

鉄鋼製品は建築シーズンということもあり、在庫の低さや価格が下落していたこともあって安値からの買いが入り、鉄鉱石と原料炭は現状維持。

先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲250万トンの1億3,780万トン(過去5年平均1億3,095万トン)、在庫日数は29.3日(▲0.5日、過去5年平均27.8日)。

鉄鋼製品在庫は▲15万1,000トンの1,188万2,000トン(過去5年平均1,232万4,000トン)、原料炭在庫は+16万トンの167万トン(145万2,000トン)、在庫日数は+0.6日の6.6日(過去5年平均5.8日)と増加しており、各々需給は緩和しつつある状況。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、各国中央銀行の金融引締めの流れと、中国政府による景気刺激が相殺しあう形で現状水準維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は大幅に上昇。英国債ショックを受けて英中銀が英国債を無制限で購入することを決定、長期金利が低下し、実質金利が低下したことが材料となった。

銀は金価格の上昇を受けて水準を切り上げ、PGMは株高も手伝って大幅な上昇となった。

金の基準価格は+68ドルの870ドル、リスク・プレミアムは▲37ドルの789ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば250ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、あと▲570ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,100ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。

荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2015年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,200ドル台だった。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。

なお、足下、再び金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下していたが、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻ったようだ。

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に90倍とすれば、銀価格は18.2ドル程度となる。

仮に金のリスク・プレミアムが剥落して1,200ドルまで下落すれば、銀価格は13.30ドル程度までの下落余地があることになる。

本日は、長期金利低下と原油高による実質金利低下を受けて金価格は堅調に推移すると予想されるが、FOMCメンバーの講演が今日も多数予定されており、恐らくタカ派発言が繰返されると予想されるため、上値も重い。銀、PGMも同様の展開が予想される。

◆穀物

シカゴ穀物市場は堅調。英国の国債購入報道を受けた英ポンド高・ドル安進行が地合を強気にさせた他、原油価格の上昇がトウモロコシ・大豆価格を支えた。

小麦に関してはロシアが欧州向けのガス供給を全て止める可能性を警告し始めており、小麦も同様の対応になるのでは、と見られたことが価格を押し上げている。

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシアの穀物輸出停止リスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、リスクテイク再開のドル安進行と、ロシア情勢不安が価格を支えるため堅調な推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。

◆本日のMRA's Eye


「天然ガスの高止まりは続く~薄氷を踏む欧州の冬期ガス調達」

欧州のガス在庫は積み上がり、ガス・LNG在庫を合計すると過去5年平均を上回っている。仮に欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、ガス在庫はLNGと合わせて1,300億立方メートル程度となる。

このとき、

1.トルコラインなどからの供給が継続 8,000万立方メートル/日

2.10月~3月期のノルウェーの輸出とその他の国の増産 4億3,500立方メートル/日(BP2021年データの欧州合計から英国とウクライナを控除したもの)

3.10月~3月期の欧州LNG輸入 2億立方メートル/日

4.直近5年間の10月-3月のEU19のガス消費量平均 13億8,100万立方メートル/日

とした場合、ロシアからの欧州向けの供給が完全に停止しても195日分の在庫がある計算となり、10月から3月のガス供給は充分ということになる。

しかしこれは、欧州のガス生産が想定通りであり、海外からのLNGにも支障がなく、今年の実績通りガス消費量を前年比▲15%に抑制を持続することができる程度の冬の気温に止まった場合、という前提の元での「充分」で有るため、まだ薄氷を渡る状態が続く。

ロシアから欧州へのパイプラインは、1.Nord Stream、2.Yamal(ベラルーシ・ポーランド経由ドイツ向け)、3.Progress Urengoy-Pomary-Uzhgorod(ウクライナ経由スロバキア)、4.Soyuz(ウクライナ経由スロバキア)、5.Turk Stream(黒海経由トルコ向け)6.Blue Stream(黒海経由トルコ向け)となるが、現在、1.2.3.4.の稼働が不安定ないしは停止している。

実際、ノルドストリーム1・2は何者かの攻撃によって破壊され、稼働は停止することになる。誰が攻撃したかは置いておいたとしてもこの冬の間、ノルドストリームが稼働することは困難だろう。

エネルギー価格の高騰に耐えられない英国やイタリアは政権交代が起きた。これにより「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要があるのか」といった声が上がる可能性が出てくる。これが広がることをロシア側は期待している可能性が高い。

しかし、3月にはラニーニャ現象が収束すると見られる中、ロシアにとっても「勝負所の冬が終ってしまう」ことから、対応を急がなければならない。欧米の金融引締めによる景気減速による需要減少もあり、ガス価格が下落すればロシアの交渉能力は低下を余儀なくされる。

ガスがフォーカスされているが、ロシアの税収は原油からの比率が高く、足下の原油価格下落がボディブローの様に効き始めており、財政収支は2022年6月から赤字幅を拡大している状況だ。

OPECプラスに減産を要求しているのは、今後、輸出数量が減少するなかで財政を支えるために、価格を押し上げる必要性に迫られていると考えられる。

実際、国民の反発を受けやすい予備役をウクライナ戦線に投入することを決定、「他国の支配地域」での住民投票を実施し、「当初の目的は達成した」として兵を引き上げ、停戦に持ち込もうとしているのではないか。

仮にロシアとウクライナが停戦合意できたとしてもその停戦の内容次第では、ロシアに対する制裁がそう簡単に解除されるとは考え難く、やはり数年はガス供給は不安定であり、当初の脱ロシアの目処である2027年頃までガス価格は高い水準を維持する公算。


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