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強めの米統計で総じて軟調 エネルギーは堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年9月28日 第2292号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「強めの米統計で総じて軟調 エネルギーは堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は発電燃料を始めとするエネルギー価格が上昇、ハリケーンの影響が意識されたオレンジジュースなどが上昇したが、その他の商品は非鉄金属等、水準を切り下げる商品が目立った。

価格下落は、少し変な話ではあるが米国の経済統計が良かったことで、金融引締めを強めるFRBの方針に大きな変化がないことを確認したことが材料になったと考えられる。

エネルギー価格の上昇は短期的な売られすぎからの買い戻しの側面が強いものの、ハリケーン「イアン」の影響や、ノルドストリーム1・2に対する破壊工作の影響で欧州向けのロシア産ガス供給懸念が強まったこと、といった供給面が材料になっている。

【本日の見通し】

本日は、エネルギーに関しては供給面が意識されるため上昇圧力がかかる展開が予想されるものの、本日も複数のFOMCメンバーの講演が予定され手織り、昨日のやや強めの米統計を受けてタカ派な発言が繰返される可能性が高く、相場全体には下押し圧量がかかる展開を予想。

アトランタ連銀総裁質疑応答セントルイス連銀総裁イベントで歓迎の挨拶FRBパウエル議長、会議で歓迎の挨拶FRBボウマン理事講演リッチモンド連銀総裁講演シカゴ連銀総裁講演

【昨日のトピックス】

昨日発表された米国の新築住宅販売は、市場予想が前月比▲2.2%の50万戸だったのに対して、+28.8%の68.5万戸(前月▲8.6%の53.2万戸)と大幅な増加となった。

一方、弊社が注目していた住宅価格は521,800ドル(前月556,700ドル)と低下しており、金融引締めによる長期金利上昇の影響が徐々に購買意欲を削ぎ始めていることが確認された。価格下落が住宅購入意欲を増した可能性はある。

また、昨日発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数は市場予想が104.6のところが108.0(前月103.6)。現況指数も149.6(145.3)、期待指数も80.3(75.8)と大幅に改善している。

これらのことは、米FRBの政策による資源価格押し下げ策が奏功し、消費が戻ってきていることを示唆している。言葉を換えると、金融引締めの効果は出ているものの、インフレを沈静化させる目的の景気減速はまだ顕在化していない、ということである。

こうなると、またぞろ利上げのペースを加速させるべきではないか、という議論が噴出してもおかしくない。

ただ、個人消費は景気の遅行指標であるため、FRBの政策効果が出てくるのはこれからである。少なくとも今回の統計でいえることは、米国は現在の金融引締めペースを緩和させる可能性はなさそうであり、リスク資産価格の下落要因となり得る、ということである。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。ロシアがOPECプラスに対して▲100万バレルの減産を要請したとの報道や、ハリケーン「イアン」が米国のメキシコ湾生産を減少させるのでは、との見方が強まったことから。

EUはロシア産原油の輸入を段階的に年末までに減らす(海上輸送が対象)方針であり、それに伴う販売減少を補うための価格上昇が必要になってきた、ということだろうか。

しかし、この数日の下落幅が非常に大きかったため、割安感からの買いが入った、と考える方が妥当だろう。

これまで、ドル高・原油高の組み合わせだったが今はドル高・原油安といわゆる通常の状態に戻っており、需給ファンダメンタルズ<金融要因、という構図になっている。

早晩、ドル安・原油安に転じると予想され、米経済が転換点に差し掛かった(ないしは転換した)ことを意味し、今後は米金融政策動向の影響が需給ファンダメンタルズ要件を上回るため、軟調推移が予想される。

ただし、在庫などで説明可能な水準から下振れしており、ややオーバーソールドといえなくもないため、タカ派姿勢に若干の緩和があれば一旦買い戻しが入ると予想される。

今後はOPECプラスがどれだけ減産してくるかに焦点が移ることになるが、景気が減速するなかでは減産による価格下支え効果はそれほど大きく無い。

前回コロナ・ショック時以降のOPECプラス減産による価格上昇は、

1.大規模経済対策で景気が回復基調にあったこと2.想定よりもかなり早くワクチン開発に成功し、経済活動が早期に回復したこと3.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、OPECプラスが大幅減産を成功、OPECプラスの信頼(供給者として信用できるという意味ではない)が回復したこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり、3.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPECプラス諸国が外貨獲得競争に陥り、OPECプラスが増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することが予想される。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は74.99ドル(前日比+2.31ドル)、Brentの実力ベースとの価格乖離は11.29ドル。

欧州各国はロシア産原油価格に上限を設定しようとしているが、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

価格に上限を付けたとしてもそれが機能するのは供給過剰の時のみである。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。各国の金融引締めの影響が強く出始めたため、価格予想レンジを切り下げた。

現在は2.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、3.に移行する可能性が出てきた。

さらに米国がSPRを放出するなどの「追い打ち」を掛けているため、4.ヘの以降も有り得る状況。結局、景気が悪化する局面では供給制限が余りに顕著でない限りは価格は下落する、ということである。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。ただし想定よりも景況感の悪化速度が速い様に感じる。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は引き続き、FOMCメンバーの講演を受けて恐らくタカ派は発言が相次ぐと予想されることから、調整圧力が再び高まる展開を予想。

本日発表予定の米石油統計は原油在庫が+1.2MBの増加が見込まれているが、朝方発表のAPI統計では+4.2MBの増加が確認されており、予想よりも在庫が増加する可能性が高く、この点も価格を下押しか。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。原因は不明であるが、ノルドストリーム1・2が何者かの工作によって破壊され、ガス漏洩が発生、供給停止が恒久化するのではとの見方が強まったことが価格を押し上げた。

これまで、冬場の在庫は足りる可能性が高まっていたが、ある程度の供給が確保できている場合について供給が足りるというだけであり、今回のトラブルはその他の供給リスクが顕在化した場合に、欧州の調達構造が盤石ではないことを印象づける形となった。

なお、2019年までのデータを元にすると9月から11月に掛けては冬場に向けた在庫積増しの時期に当たり、価格は上昇しやすいが、今年は特殊な事情で在庫積増しを急いだため、シーズン前に在庫が積み上がり、価格は下押しされている。

仮に欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、ガス在庫はLNGと合わせて凡そ1,300億立方メートル程度となる。

フローの供給と需要を以下の通りと見積もると

・トルコラインなどからの供給が継続 8,000万立方メートル/日・10月~3月期のノルウェーの輸出とその他の国の増産 4億3,500立方メートル/日(BP2021年データの欧州合計から英国とウクライナを控除したもの)・10月~3月期の欧州LNG輸入 2億立方メートル/日

・直近5年間の10月-3月のEU19のガス消費量平均 13億8,100万立方メートル/日

ロシアからの欧州向けの供給が完全に停止しても、在庫は欧州全体で195日分ある計算となり、10月から3月のガス供給は充分、という計算となる。

この計算は概算であるため正確ではないが、これまでの戦略が奏功して以前よりは冬場を乗り切れる可能性が高い。

もちろん気温が低下したり、域内の生産が減少したり、今回の米Freeportの事故が発生したり、といったことがあれば供給が足りなくなる可能性は高いため、引き続き供給は綱渡りであり、価格は冬期中は高止まりしよう。高騰の可能性もある。

ただし、この冬を乗り切ったとしても2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなる可能性はあり、さらに在庫積増し開始時期の始めからロシアのガス供給が絞られる可能性があることを考えると、来年の夏・冬も安泰とはいえない。

結局、脱ロシアが達成されるまでは供給は不安定ということだろう。

ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言、TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtuとなる。

これはロシアがこの冬、ガス供給を完全に止める意思があることを示唆している。ノルドストリームの破壊工作はロシア側が意図して実行した可能性は否定できない。ノルドストリームの修復にどれぐらいの期間が掛るのか、現時点では不透明である。

しかし、この冬が乗り切れてしまいそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきたといえる。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。

そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」になるのではないか。恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束すること、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想される。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。

これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.はもはやリスクではなく、顕在化し始めているともいえる。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも急上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。ハリケーン イアンの影響で需要が減少する、との懸念が強まったため。

しかし、仮にイアンが海上ガス田を破壊した場合、ガス供給が減少するため今度は価格上昇要因となる。また、メキシコ湾の輸出設備が既存すれば、再び欧州を含む海外への輸出が困難になるため、欧州価格にも波及することが懸念される。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。ノルドストリームの破壊工作報道を受けて、供給懸念が強まったため。

これにより、期先の価格は再び50ドルを試す動きとなっている。ノルドストリームの修復の目処がよく分からない中、構造的に価格は押し上げられる形となっている。

一方、気温というよりは金融引締めの効果やエネルギー高で倒産する企業が欧州などで増加していることによる需要面のリスクが意識され始めている。

ただ、需要は気温次第であることに変わりはないため、少なくともこの冬は景気による需要減少観測の影響は軽減されるのではないか。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもガスを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇していると考える。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月18日時点の日本の発電用LNG在庫は262万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と増加。過去5年平均を上回っているため「足下の」在庫は充分。

しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

9月12日-18日のLNGトレードは682万トン(先週696万トン)と減少、スポット取引のシェアは22%(前週23%)と変わらず。

スポット需要はスペインや東南アジアで増加した。ターム契約は北欧とイタリアで減少、日中台韓の調達は増加。

本日は、金融引締めが世界的に行われていることで景気への懸念が強まっていることが価格を下押しすると考えられることから軟調推移を予想する。しかし、冬場の調達リスクが解消している訳ではないため、高値は維持の公算。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは期先が小幅に下落した。競合燃料である欧州ガス価格が上昇したことが、価格を高値に維持している。

欧州の石炭輸入・石炭生産とも顕著に増加していなかったが、ここにきて急増している。冬場に向けた在庫積増しの動きが強まっていることを示唆すると同時に、輸入の増加がそれほどでもなかったのは、供給面の影響が大きいことも示唆している。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが300ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は300ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は、ノルドストリームの障害報道を受けてスポットカーゴ需要が増加してガス価格の上昇が見込まれるため、石炭価格も高値を維持する公算。

基本的に冬場の調達に目処が立つまでは石炭価格は高止まりしやすい。ガス在庫の積み上がりを受けた代替燃料としての在庫積増し需要、供給面の制限(石炭輸出主要5ヵ国(豪州・ロシア・インドネシア・米国・南アフリカ)の輸出は過去5年の最低水準を回復していない)から高値は維持の公算。

なお、この冬が終了した場合(来年3月頃)、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて軟調な推移となった。米ドル高の進行と、米経済統計が良好だったことを受けて逆に金融引締め加速観測が維持されたことが価格を押し下げることとなった。

ドル高の進行によって人民元が対ドルで下落、輸出増加よりも最大消費国である中国の国内需要が減少するとの見方が強まったことも価格を下押ししている。

ベンチマークである銅に関しては、人民元建て価格に「上限」があり、2000年以降、人民元建ての価格が65,537人民元を上回ったことがない(税考慮せず)。過去この水準4回トライしているがこの水準を上抜けしたことはない。

逆に価格が下落する中では打診的な買いも入りやすいため、実需筋の安値拾いの買いが価格を支えると予想される。中国の経済対策期待が価格を押し上げると予想していたが、ゼロコロナ政策の堅持に加えて金融政策の影響が需給バランスのタイト化期待を完全に相殺して上回っている状況。

今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られることから、この利上げラッシュが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が世界に波及していること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

中国政府の経済対策と、電力不足による金属供給減少が一定の価格下支え効果をもたらすと予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国の重要統計をみるに回復基調にあるが、2.3.が強く満たされていない。

この状況を勘案すると、やはり上値は重く、公共投資の実施期待が価格をある程度下支えする程度に止まるのではないか。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、この数日の下落が大きいことから一旦買い戻しが入ると考えるが、現在の市場のテーマが政策金利動向であり、FOMCメンバーのタカ派発言を受けて最終的に下落に転じるとみる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

鉄鋼製品は建築シーズンということもあり、価格が下落していたこともあって安値からの買いが入り、鉄鉱石と原料炭はさほど水準が変わらなかった。

先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲250万トンの1億3,780万トン(過去5年平均1億3,095万トン)、在庫日数は29.3日(▲0.5日、過去5年平均27.8日)。

鉄鋼製品在庫は▲15万1,000トンの1,188万2,000トン(過去5年平均1,232万4,000トン)、原料炭在庫は+16万トンの167万トン(145万2,000トン)、在庫日数は+0.6日の6.6日(過去5年平均5.8日)と増加しており、各々需給は緩和しつつある状況。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日は、各国中央銀行の金融引締めの流れと、中国政府による景気刺激が相殺しあう形で現状水準維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は小幅に上昇。実質金利の乱高下はあったが、ポジション調整の範囲内。銀価格も小動き。

PGMは株価の下落を受けてプラチナが下落したが、パラジウムは割安感から買いが入ったと見られる。

金の基準価格は+3ドルの802ドル、リスク・プレミアムは+3ドルの828ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば250ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、あと▲570ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。

荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2015年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,200ドル台だった。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。

なお、足下、再び金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下していたが、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻ったようだ。

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に90倍とすれば、銀価格は18.2ドル程度となる。

仮に金のリスク・プレミアムが剥落して1,200ドルまで下落すれば、銀価格は13.30ドル程度までの下落余地があることになる。

本日も、FOMCメンバーの講演が多数予定されており、かつ、昨日の強めの統計を受けて金利に再び上昇圧力が掛る可能性が高いことから、再び下値余地を探る展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格が戻りを試す中で水準を小幅に切り上げ、大豆もほぼ同じ展開だったが前日比マイナスとなった。

小麦に関してはプーチン大統領があらゆる手段を使ってロシアを守る、と核兵器の使用を示唆する発言をしていることが、供給懸念を早期させている状況。

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、、FOMCメンバーの講演が多数予定されており、かつ、昨日の強めの統計を受けて金利に再び上昇圧力が掛る可能性が高いことから、再び下値余地を探る展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。


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